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自由-希代の魔術師21

「おい、自分が家に来いと言ったんだろう。それがどうして置き手紙一つでガッシュタルトくんだりまで足を伸ばさねばならんのだ」
 ガッシュタルト城下の酒場で、男は再会を喜ぶこともなく、開口一番そう言った。
「すいません、私も成り行きでこの国に住むことになってしまったものですから」
それに対して身なりの良い若者がそう言って頭を下げる。
「ガッシュタルト王の補佐官の一人になったらしいな。予想通り嫁の尻に敷かれておるのじゃな」
大体、あやつは見るからに跳ねっ返りだと、男――テオブロ改めデニス・ガーランドが笑う。
「尻に敷かれてはおりませんよ。一応王の補佐官という形は取っていますが、実質はニホンで見たものをいくつかこちらで応用できないか研究しているだけですから。やっていることは森の中とさして変わりません。ま、彼女の跳ねっ返りは否定はしませんけどね」
そこがまたかわいいんじゃないですかと、相手の男――ビクトール・スルタン・セルディオが相好を崩す。
「それを世間では『尻に敷かれる』と言うのだ」
デニスはその様子に呆れ顔でそう言った。

「良かったら森の家は自由に使ってください。大きな実験はそちらでやろうとは思ってますが、それ以外はとても帰れそうにもないので」
そして、ビクトールがそう申し出ると、
「ああ、いらんいらん。あんな不便な所に住んでいた貴様の気が知れん。第一儂は貴様のように結界は張れんしな」
それに対して、デニスは大きく手を振りながらそう答えた。そして、
「痩せても枯れても儂は元王弟だぞ」
と、そこだけはトーンを落として付け加える。デニスは身分証の自分の新しい名を指でなぞりながら、
「最初は驚いたがな、折角貴様がこのガッシュタルトの民としての身分を証してくれたんだ、このままこの国で暮らしていくさ。儂を知るものと見える機会もないとも言えん。それでもここなら堂々と『他人の空似』と笑い飛ばせるからな」
と、晴れやかな顔で言った。そして、
「自由というのは本当に気持ちの良いものだな。それに引き替え貴様は……同情を禁じ得んよ」
と、ビクトールが後々即位してほしいと言われていることを見透かすかのようにそう続けた。

 デニスはガッシュタルト郊外の中程度の町に居を構えた。なにもかも使用人任せの王弟の生活から一転、身の回りのことの一通りを自分でやるようになったという。と言うより、定職に就いていないデニスはそうでもしなければ暇なのだ。ささやかな庭で大好きなポペ(真っ赤な生食する野菜の名前)まで作っていると言う。
 そして、手慰みに文章を認めているという。それも母ミランダのことを元にした泥沼の王朝絵巻。ほかのことはともかく料理だけは面倒だと足しげく通っている食堂の看板娘との話のきっかけに、物語と称して話し始めたのだが、当の看板娘がどんどんと続きを要求するため、順を追って認めることになったのだ。
 そんな日々の生活を知らせる手紙をビクトールにまで送ってくるあたり、デニスは生来から書くことに向いているのだろう。
 ビクトールは時間を作ってデニスに会いに行った。そして、件の物語を読んだビクトール即座に本にするよう手配した。
 この本は貴族の若い女性たちの間で大ブレイクした。それでデニスは兄王からの生活援助を断り、童話から戦記まで次々と発表していった。
 
 この後、彼の許にかつての妻シンシアが彼を追ってきて、彼の自由はいくらか束縛されることになる。デニスは、
「死んだことにしてまで、来ずとも良いのに。折角の自由な暮らしが台無しじゃ」
と嘯きながらも、大それたことを起こした自分をそこまで慕ってくれることに喜びを隠せない。
 ミランダ様も本当はこうなることを望んで導いておられたのかもしれないと、そのやに下がった表情を見てビクトールはそう思ったのだった。
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