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象が踏んでも壊れない 4-希代の魔術師16

 「エリーサちゃん、こっち。エリーサちゃん、あそぼっ!!」
 そのビクトールより2インチぐらいは高いかもしれない、少なく見積もっても推定年齢20代後半の男は、他の面々には目もくれずまっすぐにエリーサに近づくと、その二の腕にしがみついた。
「待って、待って」
とエリーサが言っても、男はその手を離さない。唖然としながらもビクトールの唇が歪む。
「エリーサ、あなたが居なくてミシェルは寂しかったのよ」
その両方を見て見て、クラウディアがすかさずそう言った。エリーサはハッとして頷くと、男の腕を邪険にせず優しくふりほどいて、エリーサの前に屈んでいる頬を両手で挟み、
「ごめんね、寂しかった? ミシェル」
と言った。
「うん、エリーサちゃんいなかった」
こくんこくんとと首を縦に振った彼-ミシェル-は、その時初めてビクトールの存在に気づいたようで、何か珍しいものを見るような目で、小首を傾げてビクトールを見た。
「ミシェル、お客様よ。ごあいさつ」
「おきゃくさま? おきゃくさま おきゃくさまっ。ぼく、ミシェル」
クラウディアがそう言うと、ミシェルはまるで幼児のような屈託のない笑みを向けてビクトールに両手を差し出した。
「あ、ビクトール・スルタン・セルディオと申します」
ビクトールも慌てて右手を差し出す。
「ビクト?」
「うん、ビクだよ」
「ビク、ビク、ビク」
すると、ミシェルはビクと何度も連呼しながら、ビクトールの手をぶんぶん振り回す。この熱烈歓迎ぶりにビクトールは半ば面食いながらそれに応じていると、
「これがガッシュタルトの第一王子、ミシェル・ウォルター・クウェルクス・ガッシュタルトだ」
と、王自ら息子ミシェルの紹介をした。
「この方がミシェル王子……」
「そうだ、生まれつき知能の発達がゆっくりでな。加えていくつかの病も抱えておる。これでは到底王にはなれぬだろう」
ビクトールは王子の衝撃の境遇にしばらく二の句が継げなかったが、
「ですが、それでもフレデリック様がおられるでしょう。フレデリック様を差し置いて、私は王になどなれません」
それでもやっと彼の兄婿フレデリックの存在を思い出して、そう言った。だが、王は、
「いや、フレデリックはハナから王になる気はない」
とすげなくそう返す。
「何故」
「フレデリック様は王家の専属の治癒師でね、もちろん、陛下はフレデリック様にもお声をかけたわ、でも『ミシェルの身体も、この国もどちらも片手間では見られません。ならば私は迷わずミシェルの方を取ります』って言われてしまってわね」
するとクラウディアがそう補足の説明を加える。そう言えば、フレデリックは見えたときも野心などまるでない温厚な目をしていた。
 聞けば、同じ治癒師のフレデリックの父は、幼い頃から王宮に彼を同行させ、ミシェルやその姉エミーナ(現在は彼の妻だが)と兄弟同然に育ったのだという。
 そして、そういった周りの思いがなければ、この無垢な天使の命はもっと早々に潰えていたのだろうと、ビクトールは悟った。だからといって、自分が一つの国を執るなどということは、到底即答できることではない。
「そうですね、どちらも片手間ではできることではありませんね。分かりました、ですが少々お時間をいただけますか。あまりに大それたことで、気持ちの整理がつきませぬ故」
と言ったビクトールに
「相分かった、良い返事を期待しておるぞ」
王は、満足気にそう返した。

「では、お茶にしましょう」
 話が一段落したところで、クラウディアは城の者を呼ぶ。その手には先ほどビクトールが彼女に手渡した段ボール箱があった。
「何も、問題はございません」
事務的に毒味の終わったことを告げる彼に、
「当然よ、それあたしが買ったんだもん」
と返すエリーサ。それを聞いてびくっと肩を一瞬揺らすも、
「申し訳ございません。ですがこれは決まりであります故」
とかろうじて表情を崩さず王女にそう返す。きっと今、この毒味係の背中は冷たい汗に塗れていることだろう。
「なぁに、これ?」
すると、見慣れぬ箱にミシェルがきれいな瞳をくるくるさせてクラウディアに聞く。
「プリンよ」
と彼女が答えると、ミシェルは
「プリン? プリン、プリン!!」
と飛び跳ねて喜ぶ。そして彼女が箱から出すのを待ちかねたようにお目当てのものに飛びつくと、
「つめたいねぇ、おいしいねぇ」
と至上の笑顔でそれを頬張る。
「あら、ホント。それにどうしてこんなに冷たいの? いまは寒い季節でもないのに」
続いて口に入れたクラウディアも、そういって驚きの声を上げる。
「それはですね、この箱の内側にだけFrozonの魔法を施して、箱の中を氷温に保っているからなんです」
「ほお、そんな魔法の使い方ができるか。さすがに「希代の魔術師」と謳われるだけのことはある。これが応用できれば、食材の備蓄に大きく貢献するな」
それを聞くと、王は為政者の顔に戻って、しげしげとその茶色い箱を眺めた。
「これは平行世界の氷温の箱を真似て作ったもので、私が考えついたものではありません。
ただ、この位の大きさならそれほど魔力は必要ありませんが、大きなものでしかも継続使用するとなると、かなりの魔力が必要です。何か魔力をサポートするものを考えねば、実用化には至らないでしょう」
「うーん、どうやれば少ない魔力で大きな空間を冷やせるか……しかしこの箱思ったよりも軽いな」
「これも平行世界の段ボールというものでできた箱なのですが、軽いでしょう? 紙でできているんです。それなのに、強度もすばらしいらしく、何でも象が踏んでも壊れない頑丈さだとか」
「そう言えば、手触りは紙独特のものだな。それにしても象? 象とは南の大陸、アシュレーンにいるというあの象か?」
「たぶん」
 王はビクトールと熱を込めて『段ボール式簡易冷蔵庫』談義を続けていたのだが、傍らのミシェルを見ると、彼はとうにプリンを食べ終わり、手つかずの父親のプリンに釘付けになっている。
「とーさま、プリンいらない? ぼくほしい」
さらに父親と目の合ったミシェルはうるうるの瞳で父親におねだりするが、
「ミシェル、冷たすぎるから2個もダメ。明日お熱が出るわよ」
と、クラウディアが彼に甘い父親より先にそう答える。
「プリンほしい。でも、おねつイヤ。ぼくやめる」
熱が出ると言われて、ミシェルは父親のプリンに出しかけていた手を引っ込め、渋々そう言った。
「偉いね、ミシェル」
それを見たエリーサは、そう言ってミシェルの頭を撫でた。するとミシェルはぱあっと明るい表情に戻り、
「ミシェル、いいこね」
といいながらまた飛び跳ねる。その拍子に王が机の隅に置いた段ボール箱が落ちた。ころころ転がるそれを面白がって、ミシェルはその段ボールに飛びつく。次の瞬間、
-ぐしゃっ-
という音がして、段ボール箱は無惨にも潰れた。
「「あーっつ!!」」
 その場にいたミシェル以外の全員から驚きとも何ともつかない声が漏れたのは言うまでもない。
 




 















「俺はちゃんと、組み方を変えれば1トンくらいの重量に耐えられるってったはずだ。箱まんま踏んづけりゃ、そりゃ壊れっだろ」
                     ……by幸太郎
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