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Turning Point 6 

 前奏の後、開式の挨拶の後一曲目の賛美歌。いきなり起立するように言われる。
 曲が終わると、一旦座って司会者が祈る。それが終わるとまた立って、『使徒信条』と言われる条文の朗読。これは週報の隅に載っているので、週報を夫婦で一枚しかもらっていなかった私たちに、博美さんがすっと自分の週報を差し出しながら、その部分を指で示す。どうやら彼女はそらでそれを覚えているらしい。というよりこの条文と、賛美歌を挟んで後の『主の祈り』は、暗記してしまっている人の方が多いようだ。ただ、ここ10年ほど前に賛美歌が口語表現に(現代には使われてない用語と、不快語を見直したらしい)変わったのを機に、それらも現代の言い回しに変わっていて、年輩者は逆についうっかり前の条文を口にしてしまうと、見ている人が多かった。
 主の祈りが終わると、聖書の朗読。コヘレトの言葉とか言われても私たちはさっぱり解らない。すると、博美さんはあっと言う間にその場所を開けて私たちに差し示し、私たちの借りた聖書を自分に渡すように促すと、司会者の朗読が始まるまでにその聖書も開いてしまった。
「は、早っ」
と、思わず篤志がつぶやくと、
「私、お腹の中から教会に来てるし……」
と照れながら彼女は返した。
 聖書の朗読が終わると、起立して賛美。その歌の間に、安藤師が高壇に上がる。安藤師は短く祈りを捧げてから話を始めた。すると、博美さんは何やら熱心にメモを取り始める。しかも、よく見ると外国語で……私が目を瞠っているのに気づいたのか、博美さんは頬を染めながら、
「今勉強中なの。この方が疲れていても寝ないしね」
と囁くように言った。後で聞くと、若い安藤師はそうでもないが、前夜式で話した中野師は時々神学の根幹のような話をされたらしく、そういう学術的な話は眠いと彼女は笑っていた。それに、私たちもそうだが、先輩のご両親とお姉さんと、教会に今まで来たことのない人が結構出席している。彼女曰く、とっつきやすい話を持ってきたなと思ったらしいが、慣れない私には大学の講義を聴いているようだった。
 メッセージが終わると、司会者が今度は『聖餐式』というものをやると言う。最後の晩餐を模して行われるそれは、御子の体を模したパンと、血を模したブドウ液(日本では未成年の飲酒が禁じられているため、100%のブドウジュースだそうだ)をみんなで分かち合う。信者の神とのつながりを再認識させる行事で、毎月第一週に行われているのだが、今月は連休にかかるため、この週に変更されていたのだ。
「この聖餐は、受洗しておられればどこの教会でも問いませんが、受洗していないとあずかることができません。ですが、その方々には、牧師が祝福の祈りをしてくださいますので、皆様礼拝堂の前までお越しください」
「なんだ、俺たちはなしか」
と篤志。礼拝のことをミサということがあるが、それはこの聖餐が語源で、ラテン語で『出て行け』なのだそう。確固たる信仰をもって御子の身体と血を受け継ぎ、外の世界に出て行くための行事として、大切にされているのだ。
後日、洗礼準備会でそれを聞いた篤志は、
「おっ、何だかそれってヤクザのかための杯みたい」
と言って、横にいた私を慌てさせることになるのだが。
 そのまま座っていると、みんなと一緒に飲み食い(一口ずつなので、そう言うのもどうかと思う量でもあるが)できないから拗ねていると思われるのもなんだしと、別に祈ってもらいたくもないのだが、みんなと一緒に前に出て行った。みんながパンとブド液をもらうときに、牧師が私たちの頭に手を置いて、
「あなたに神様の祝福がありますように」
と祈る。みんなに配り終わると、信者は一斉に飲み食いする。
 それが終わって席に戻ると、今度は献金だと司会者は言った。
「献金は信仰によって成されるもので、礼拝の参加費などのそういった意味合いは一切ありませんので、ご用意のない方は、遠慮せず係りが参りましてもそのままやり過ごしていただきますように」
と、司会者は続けた。お志のようなものなのだな、と私は思った。それならば、なおさら空手でシカトなんかできないのが日本人というものだ。私は慌てて財布を開けてお金を取り出した。そして、博美さんの方を見る。教会の長椅子には、背もたれの部分に、後ろの座席のための聖書などを置くシェルフのようなものが付いているのだが、その上には封筒が置かれており、そこには『衛昇天感謝』と書かれてあった。確かに前夜式のあの日、私に感謝すると彼女は言ったが、人が死ぬことに感謝するという感覚が私にはやはり解らなかった。



 
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