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バニシング・ポイント 34

 牧師館で信輔から衛の洗礼の依頼を受けた安藤はすぐさまその旨を中野に連絡し、中野が衛の無言の洗礼式を司式することとなった。それで、急遽君枝と徹、その配偶者も呼ばれた。
 中野は再度、
「私たちは息子さんから個人的に信仰表明は聞いておりますが、洗礼式を挙行させていただいてよろしいでしょうか」
と衛の両親に問う。両親は黙ったまま深々と頭を下げた。

 衛の洗礼式が挙行された。
「寺内衛さん、あなたは神を信じますか? またそのひとり子……」
中野の温かい、それでいてよく通る声で「使徒信条」の文言に則った洗礼のための質疑の言葉が読まれる。当然衛からの返事はない。
「はい、私は神様を信じます」
博美はその代わりではないが、声を出さずに唇だけで、それに答えた。そして、答える人のないまま式は進んでいく。
「寺内衛、私は今父と子と聖霊の御名によって、あなたにバプテスマを授ける、アーメン」
 洗礼の条文を読み終えた後、中野が洗礼のための器に浸した手を衛の頭にそう言いながら三度押し当てる。中野が三度目に手を引き上げたとき、濡れているその指の隙間が高壇からの照明に照らされて光輝く。それはまるで遅ればせながらの衛の洗礼式を神が祝福している様だと博美は思った。
 そして、その式に衛の肉親が挙って参加している。衛はその生を以て主を立証している。博美は『何故今なのですか? そして何故私ではなく先に衛をお取りになるのですか?』という悲痛な叫びにも似た祈りに対しての神からの答えを見たような気がした。
「衛……天国でまた逢おうね 待ってて、私ちゃんと行くからね……衛……衛」
 式が終わった後、衛の棺に縋りつきながらそう言う博美の言葉に、礼拝堂は涙に包まれた。
 


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