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バニシング・ポイント 29

 メッセージが始まってそろそろ15分、そろそろ今日の説教の核心部分になる頃だった。博美の携帯が振動した。 職場でも教会に行っていることはみんなに話してあるし、日曜日の午前中は電話しないようにも言ってある。ごそごそと鞄の中から携帯を取り出そうとした博美に横にいた明日美が、耳元で
「お母さん、礼拝中は電源ごと切っておいた方がいいよ。宣伝メールとかもあるからさ」
と言いながら母が取り出した携帯の着信元を覗き込む。
「あ、寺内のおばあちゃん」
 しかし、着信元を示す表示はメールでも単なる電話番号でもなく、寺内の義父の名前になっていた。とは言え、普段かけてくるのは圧倒的に義母だから、明日美もすぐ祖母からの電話だと思ったのだろう。
 何か緊急な用事でもあるのだろうか。寺内家の人間なら、博美が今教会にいることをよく知っているはずだ。だからこれはそれを押してまで電話をかけてくる用事だということだ。
 博美はすばやく携帯を持って礼拝堂を出、着信履歴から寺内の実家の番号を選択する。
「もしもし」
「もしもし、博美ちゃん?」
「ええ、何ですかお義母さん」
電話がつながると、いきなり衛の母の慌てた声が聞こえてきた。しかもどことなく涙声である。
「す、すぐに帰ってきて。衛が……死んだの」
マモルガシンダノーーそう耳には確かに聞こえてはいたが、博美はその言葉の意味を理解できずにいた。ほんの数時間前まで一緒にいて、一緒に出てきた。連休だからこっちに帰ってくると言った博美に、
『なら、早めに仕事を片づけてお前の帰ってくる昼過ぎには戻ってくるよ。一緒に買い物に行こう』

と言っていたのに。
「とにかく、今すぐウチに来て。今、徹が迎えに行ってるから」
「はい」
帰って来いの言葉にとりあえず返事だけをした。博美は携帯の着信を切って、力なくその腕をだらんと伸ばしたまま礼拝堂に舞い戻る。
「博美ちゃん、どうかしたの?」
戻ってきた彼女が顔色もなく立ち尽くしているのを見て、中野牧師の妻絵里子が声をかける。
「衛が……」
その時、マモルガシンダ、そのただの文字の羅列が一気に博美の中で衛が死んだという言葉に変換された。
「いやーっ! 衛!!」
博美はそう叫びながら、わなわな床に崩れた。
「博美!!」
「博美ちゃん!!」
絵里子や博美の父が慌てて彼女に駆け寄る。
「衛君がどうしたんだ!」
「衛が、衛が死んだって……お義母さんが早く帰ってきて欲しいって……」
博美のその言葉に礼拝堂が一気にざわめく。すると、
「じゃぁ、すぐにいってあげなくちゃね」
と言った絵里子の隣に座っていた中野師が、すくっと立ち上がり、
「安藤先生、『あれ』はまだあそこに?」
と言った。
「ええ、ちゃんと置いてありますよ。まさか『あれ』を使うことになるなんて思いませんでしたが」
と安藤師が答えると、
「じゃぁ、私が行きますから、先生は礼拝を続けて下さい。さぁ、博美さん私と一緒に寺内さんのところへ行きましょう」
その言葉に顔を上げ不思議そうに中野師を見る博美に、
「私は寺内さんのご両親にご相談があるんですよ。寺内さんのところへ連れていってもらえますか」
と優しい笑顔でそう返した。

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