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同じ軛(くびき)-バニシング・ポイント12

 翌春、順子は信輔の待つ大阪の大学へと旅立っていった。

 それから2年、順子は神学部の基礎コースを終えた。信輔とは在学中に籍を入れ、卒業と同時に夫と共に任地に赴いた。年が新たにされる頃には、第一子も産まれる予定だ。
 衛は地元企業に就職したという。博美も父の知り合いの会社にアルバイトとして働きだした。
 博美は新たな世界が本当に面白いらしく、電話をする度喜々としてその様子を語るのだが、博美が心底楽しんでいるその状況は、普通なら当たり前のことで、同じことの繰り返しにうんざりとしている者も多い事柄だ。
 順子は前向きに生き始めた妹の事を喜ぶと共に、そんなささやかなことにまで喜びを感じる妹を不憫に思っていた。

 土曜の昼下がり、順子読み聞かせの会をしていたときだった。読み聞かせの会というのは、小学校低学年までの児童を対象に、信仰をベースにした良書を信徒が読み聞かせる集会だ。
「順子先生、電話!」
集会の手伝いをしてくれている高校生がそう言って順子を呼んだ。
「寺内さんって人から」
衛くん? いきなりなんだろう。
「急いでるかどうか聞いてちょうだい。で、急いでなければ集会が終わったら電話するからって伝えて」
「はーい」
 その後、応対した高校生から別に急ぎのようではないから夜にでも再度かけ直すとの伝言を受けたものの、順子はその内容が気になってしかたがなかった。
 順子は夕食を終えてすぐ、自分から電話を入れた。土曜の日は信輔は翌日のメッセージに向け、夕食後は準備したものをもう一度見直し黙想するので、まだ二人きりの今、順子には逆に手空きの時間でもあった。

「衛君、久しぶり。電話くれたんだってね」
「あ、順子姉ちゃん。俺から電話つもりだったのに。わざわざ電話くれてありがとう」
「で、何?」
「あ、曳津先生の暇な時間を教えて欲しくてさ」
「何だ、信輔先生に用事だったの?」
順子は結婚直前まで信輔を曳津先生と呼んでいたが、自分も曳津姓になってしまった今、そう呼ぶ訳にもいかず、それでも名前に先生をつけて呼んでいるのだ。
「ああ」
「信輔先生なら、月曜日を一応お休みにしているから。衛君は何時頃仕事から帰ってくるの? 電話してもらうわ」
「いいよ、こっちが聞きたくてかけたんだし、ちょっと家ではかけにくいしさ、先生が家にいるんだったら、仕事上がりに公衆電話から電話するから」
「家では電話しにくいって……」
何かトラブルにでも巻き込まれているのかしら、順子は不安になった。
「あ、そんなややこしいことじゃないから! じゃぁ、月曜ってことで。先生に伝えといて」
だが、順子が家では電話できないと言われて心配そうな声を出した途端、衛は慌てて電話を切ってしまった。
 順子は一抹の不安を抱えたまま、とりあえず月曜の夕方衛から電話があるらしいとだけ告げたのだった。
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