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バニシング・ポイント7

 翌日、午前中に順子はやってきた。
「徹君は?」
順子は当たりを見回すと、衛に彼の高校生の弟の所在を聞いた。
「今日は学校の友達とプールに行ったよ」
「そう」
順子は安堵の笑みを浮かべた。誰にも聞かれたくない話――覚悟して聞かねばならないと、衛はごくりと唾を呑み込んだ。

「衛君の気持ちが聞きたくて。衛君はヒロが好き?」
「へっ、えっ、何それ、あの……」
しかし、続いて順子はいきなり裕美への気持ちを聞いてきたので、衛は慌てた。
「本気でヒロのこと、考えてくれるんじゃないなら、これ以上ヒロの前に現れないでほしいと思って。言っとくけどあの病気は完治してるわよ」
あの病気でないのなら、また新たな病気があるのか。それなら、なぜ博美ばかりがそんな目に遭わねばならないのだろう……衛はそう思った。
「じゃぁ、昨日のは……」
「過呼吸。浅い呼吸を繰り返すことで、体の中の二酸化炭素の濃度が下がってしまう症状なの。当の本人は息ができないと感じるから、焦って余計に呼吸しなきゃって思ってしまうの。放っておいての15分もすれば落ち着いてくるけど、紙袋なんかで自分が出した二酸化炭素をもう一度吸わせて濃度を上げるほうが回復は早いの。『鼻を摘まんでキスしてくれても良い』って言ったのもふざけて言ったんじゃないのよ。そしたらヒロの心拍数も上がって、積極的に衛君の二酸化炭素取り込んでくれそうだし。そっちに気が向けば息ができないってこと自体を忘れちゃいそうじゃない?」
息ができないことを忘れたら逆に危ないんじゃねぇの? そう疑問に思った衛に、順子はつづけた。
「だって、過呼吸は何か病気があって出るんじゃなくてあの子の心が作り出しているんだもの」
そう言って、順子は深くため息をついた。
「確かに、成人できないって言われ続けて生きてきたあの子の気持は私たちには計り知れないわ。短い人生を悔いなく生きよう。そうやってヒロはずっと頑張ってきた。たぶん、あの子の中では、人生は20年で完結していたんだと思う。
だけど、奇跡は起こった。私たちもそれを信じて祈ってきたし、ヒロ自身もきっとそれを祈ってもいたと思うの。
だけど、実際にその奇跡が自分のものとなった時、心は付いていかなかったの。それで21歳の誕生日前後から、ときどき過呼吸になるようになったの。燃え尽きてしまったって言えば良いのかな。」
「そんなの、良いわけないだろっ!!」
「そうよ、良いわけない。ヒロの人生はまだまだ続くのよ、だから」
「だから?」
「私は衛君にヒロのパートナーになって欲しいの。あなたにずっとヒロが必要だと、言い続けてやってほしいの」
そういうと、順子は寺内家のリビングの床に正座して、
「ヒロは衛君のことが好きなの。お願い、あの子との結婚、考えてみてくれないかしら」
と頭を下げたのだった。
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genre : 小説・文学

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