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コンサート-バニシング・ポイント3

コンサート

(やっぱり、こいつは今年も遺書を書いてやがった)
博美の白すぎるうなじと書いているものに似つかわしくない笑顔の横顔を見ながら、衛は博美に聞こえないようにため息を落とした。

 最初に遺書を書いてるのを目撃したのは16歳のやはり夏だったか……遺書と言っても自分の葬式を両親たちの宗教に則ってやると言うこと以外には生前のつきあいに感謝することくらいだ。まだ未成年の博美には財産なんてないし、そうでなくても博美はまったく物に対して執着がない。だから、そんなもの書かなくても何の支障もないだろうに。衛はその時でもそう思った。ましてや、病気が完治した今、余計必要ないものを今更まだ書こうとしていることが解らない。
(人間一寸先は判らないって言うけどさ)
治って久しいその病から博美はいつになったら解き放たれるのだろう。

「今日は何?」
「あ、忘れてた。blowing the windのコンサートチケットが手に入ったんだけど」
衛はコンサートチケット2枚を広げて博美の前で振って見せた。
「blowing the wind!」
blowing the windと聞いて博美は目を輝かせて食いついてきた。物に執着のな博美が唯一こだわりを見せるのが病床で聞いていた音楽だった。
「名古屋だけど」
「名古屋なの?」
だが、博美はコンサートが隣県で行われると知って少し顔を歪めた。精力的にいろんな町でコンサートをしている彼らは、もっと近くの会場でもコンサートを行うことを博美は知っていたからだ。
「こっちのは会場が小さいからとれなかった」
それに対して衛はそう答えた。しかし、本当はとれなかったのではなく、とらなかったのだが。人気フォークデュオのコンサートは、会場が大きかろうが小さかろうがチケットの入手は同じくらいに困難だ。このチケットも、発売日前日から名古屋の発券所で並んでまでとったものだった。
「でも、名古屋なんて、遠いよ」
「姉貴の車借りていけばその日のうちには……ちょっと日付は跨ぐかもしんないけど、帰れるからさ。車ん中でコンサートの余韻を楽しむってのも悪かないし。」
「……うん……でも他の人を誘えば?」
熱心に誘う衛だが、博美の表情は硬い。
「お前行きたくないの?」
しびれを切らせた衛がそう聞くと、裕美は頭を振った。
「じゃぁ、行こうぜ」
「うん、そうする」
博美はにこりともせず真顔でそう答えた。
「はぁ……せっかくのプラチナチケットムダにするかと思った」
(……ったく、何で俺が名古屋で徹夜までしてこのチケットをとったと思ってんだよ! お前と行きたいからだろ。
それに没られたら、帰り道にコンサートで歌われるあの定番のヒット曲に乗せてコクるっていう俺の計画が台無しになるんだよ!)
衛はやっとの事で承諾をとりつけ、半ば脱力しながらそう思った。

 この時衛は博美の心の中にある闇の深さにまだ気づいてはいなかった。
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