スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ボクのプレシャスブルー4

「すいません、座ったら立てないもんですから、このままで良いですか」
「え、ええどうぞ」
私は実行委員のPTAの役員にそう断りを入れて、立ったまま順番を待った。少しずつ前に進んで……私たちの順番になった。他の二人の保護者が勢い込んでダッシュしてそりの紐を掴んで走る中、私はそれでも自分の中ではトップスピードで「走る」そんな私に、治人はそりの紐を掴んで私の手の中に置くと、そりに座り込んだ。
 一歩、また一歩と前に踏み出す。営業時代は足で稼いだはずなのに、その足は今、鉛のように重い。そんな右足に自身で渇をいれながら、少しずつだが確実に進んでいく。その様子に場内が息をひそめた。競技中の音楽だけが華やかに鳴り響く中、私は黙々と治人のそりを引いて「走る」。
 
 しかし、折り返し地点を過ぎて、日頃運動らしい運動をしていない私は、息が完全に上がってしまっていた。肩で息をしている私に、治人は立ちあがった。
「ダメだ、治人座ってろ!」
「お父さん、もういいよ。お父さんが壊れちゃうよ……」
治人は泣きながら、それでも渋々またそりに座った。
「大丈夫だ、男が一旦引き受けた仕事を投げ出したりできるか。それに、父さんはそのプレシャス何とかなんだろ」
「プレシャスブル……」
「じゃぁ、心配するな」
私は治人にウインクすると、また前に向かって「走り」出した。すると治人は、
「お父さんガンバレ!」
と大声で私の応援を始めた。
「そうだ、治人のパパガンバレ!」
そして、前の方からも声援が響く。見るともうとっくにゴールしていて良いはずの同走者が、ゴールの一歩手前で立ったままでいた。その治人の同級生の少年も真っ赤な顔をして一緒に私を応援してくれていたのだ。やがて、それは大きな応援の波となって私に打ち寄せてきた。会場の皆が私にエールを送り始めたのだ。
「ガンバレ、ガンバレ」
という声に導かれて、私はゴールテープを切った。そのすぐ後、他の二人がゴールに飛び込む。会場から大きな拍手が送られた。
「皆さん……」
「松野さんは文句なく一番ですよ」
父親と言うには少し若そうなロン毛の同走者がそう言い、もう一人が頷く。そんな私に、実行委員が折り紙で作られた金メダルをかけてくれた。
「ありがとうございます」
私は礼だけを言って最後尾に並ぼうとした。

しかし、そこには車椅子を押した純輝の姿があった。
「よしりん、お疲れ。かっこよかったよ。これ以上負担かけられねぇだろ。だから、持ってきた」
彼は笑ってそう言った。
スポンサーサイト

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

comment

Secret

プロフィール

こうやまたすく

Author:こうやまたすく
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

FC2カウンター

カテゴリ

Web page translation

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。