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京介の正体-赤い涙(改稿バージョン)12

 京介の正体


しばらくして、その細い坂道を一台の車がのろのろと登ってきた。
(くそっ、この時代のはなんて面倒なんだ。怖くてアクセルも踏めん)
車の主はそう“つぶやき”ながら、坂を登りきると、樹を抱いたままの昂の前で車を停めた。
 
 中から降りてきた“つぶやき”の主は初老の男だった。
「ああ、良かった。根元君……だったかな。樹を見つけてくれてありがとう。すぐに家に運んで治療しよう。あ、私は樹の祖父の笹川という者だ。医者をしている。」
 そう言いながら男は樹に被せて運ぼうというのか、後部座席から毛布をとりだして、昂たちに近づいてきた。だが、昂は唇を震わせながら、逆に樹をきつく抱きしめた。
「あかん……樹ちゃんは渡さへん」
「何を言い出すんだね、君は。樹を、こちらに渡しなさい。早くしないと手遅れになってしまうじゃないか」
男はそう言って昂から樹を引き剥がそうとして樹の腕を掴んだその時、昂は叫んだ。
「樹、樹ちゃんに触らんとってください! 京介さん!!」
男の樹にかけた手が一瞬緩んだ。
「それより、メモリーって何ですか、浸水って何ですか!!」
それを聞いた男は少し間をおいてから、ふっと笑った。
「そうか……君は、テレパスなのか。なら話は早い。いかにも、私が本物の笹川京介だ。私の頭の中を読んでもまだ信用できないのなら、君も一緒に付いて来ると良い。早くしないと本当に樹の機能が停止して、バックアップが利かなくなってしまうぞ」
男―本物の笹川京介―はそう言うと、一気に脱力してしまった昂から樹を奪って抱きかかえると、樹を後部座席に座らせて、
「さぁ、君も乗りたまえ」
と、昂のために車の助手席のドアを開いた。

「助かった、メモリ部分への浸水はない」
笹川家、実は京介の研究室であるその場所に樹を運ぶと、京介は相変わらずつぶやきながら淡々と樹の“修理”を進めていく。その部屋の隅には、遠隔操作されなくなった抜け殻の若い京介が、床にそのまま足を投げ出して座っていた。

 樹はまるで人間にしか見えないが、精巧に作られたアンドロイドだった。そして、若い京介は本物の京介がラジコンのように遠隔操作しているだけの操り人形だった。
 それを京介の心から読み取って、こうして実際に樹の“身体“を開いてそこに人間らしい器官が欠片も発見されないのをその目で確かめても、昂にはまだそれが信じられなかった。
「まぁ、驚くのも無理はない。機械の樹と傀儡の私からは、さすがの君でも何も読めやしなかっただろうからな」
(それに、今の時代、ここまでの技術はない)そう言った京介は、心の中でそう付け加えた。
「何でそんな未来の人間がここにおらなあかんのですか」
昂がぶっきらぼうにそう尋ねた。
「どうしてかって?簡単なことじゃないか。私の時代にはもう存在しないものが、ここにはまだ腐るほどあるからだよ」
(そうだ、樹を作るためにどうしても必要な素材が)
京介は樹の胸の部分をコツコツと叩きながら続けた。
「人間ってやつはね、とんでもなく精巧にできている。それを再現する、しかもこの小さなキャパシティーの中に全部入れてしまうのは至難の業だ。特に脳にあたる部分はめまぐるしく動き続けねばならないから、劣化が激しい。常に、バックアップを取りながら新しい物と交換していかなければ維持できないのだよ。だから、劣化の激しい素材が潤沢にあるこの時代のここに研究室を時間移動させた。
 最初の内は、素材を採取したら自分の時代に帰っていたんだがな、樹に感情のプログラムを施したところ、あの娘がこの家の前の、あの何てこともない花に興味を示してね。しばらく様子を見ようと思っていたところに君が現れた。」
「俺が?」
「私たちは本来はここにはいないはずの人間だからな。面倒なことにならないようにと、しばらくはあっちに帰っていたんだが、樹があの花を恋しがってね。それに……どうも君にも興味を示し始めているようだったし」
京介はそう言いながら樹の胸の“フタ”を閉じた。
「もしかしたら、君とのやり取りで、まだまだ乏しい樹の感情面を養えるかもしれないと思ったんだよ。それで改めて君に接触をはかった……さぁ、これで終わった。」
 そう言って、京介は樹を起動させるスイッチを押した。しかし、樹はピクリとも動かなかった。
京介は慌てて装置を取り付けて解析データーを取り始めたが、結果には何の異常も見当たらない。
「そんなバカな……!」
京介はそう言って頭を抱えた。
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