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赤い涙(改稿バージョン)9

「さぁ、こっちだよ」
京介は笹川家の玄関を開けて、昂を手招いた。
「あの……」
「やっぱり、何か?」
「一つだけ聞きたいんですけど……樹ちゃんは何で記憶がなくなったんですか」
「ああ、そのことか……聞けば君は後悔するかもしれないよ」
「けど、知りたいんです。」
「樹は三か月前、一度死にかけたんだ。何とか一命は取り留めたんだが、昏睡から目覚めた時はもう、全ての記憶を失っていたんだよ」
京介は沈痛な面持ちでそう説明した。
「そうやったんですか。病気した上に記憶がなくなるなんて、辛かったやろな」
「僕は却ってそれが良かったと思っているんだ。たとえあったとしても、樹の場合この窓から外を眺めている記憶しかないだろうから」
事情を聞いた後、ぼそっとそう言った昂に京介はそう返した。(記憶があってもなくても、同じ)昂はその言葉に胸が締め付けられるような気がした。

「樹、根元君が来てくれたよ」
京介は精一杯の作り笑いを浮かべてから、徐に樹の部屋のドアを開いた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
樹はベッドには横たわってはおらず、その横の椅子に座っていた。
「寝てんでええのん?」
「ええ、起きていても寝ていても、状況にさほど変化はないです」
思わず口を次いで出た言葉に、樹は相変わらず報告口調で答えた。自身の間近に迫った死をも受け入れている同い年の少女の達観した横顔を、昂は胸が詰まる思いで見つめた。
「それでも、あんましムリはせん方がええのんちゃうん?」
昂が樹にそう言うと、彼女は、
「根元さんは私が寝ていることを希望するのですか」
と聞き返してきた。
(別に、希望はしてないけど……)
「うん、できたら。その方が安心するかな」
希望はしていないが、一日でも長く生きてほしい。そのためには、少しでも身体を休めていた方がいいだろうと昂は思った。
「では、そうすることにします」
昂の答えを聞いた樹はベッドに横になって、自身に毛布をかけた後、
「これでよろしいですか」
と尋ねたので、昂は黙って頷いた。

 それから、昂は毎日樹を訪ねた。あのまま本当に寝たきりになってしまった樹のために、長時間一緒に居ることはしないのだが、毎日数分でも彼女の部屋に足を向けた。
 そして、はじめはほとんど無表情だった樹は、訪ねる度に表情が豊かになり、時々昂の話に声を立てて笑う様にまでなった。
 
 夏、少しの温度変化も体に障るのだろう、樹の部屋は一定の温度に保たれていた。しかし、その温度が少々低すぎるような気がしたのは、昂の気のせいだろうか。樹に、
「樹ちゃん、寒ない?」
と尋ねても、
「いいえ、寒さは感じません」
という答えが返ってくる。
 それに、時々妙な“声”も聞こえるのだ。どうも樹が人間らしい表情をすると聞こえてくるような気がする。大抵は遠すぎて内容までは分らないのだが、初めて声を立てて笑った時にははっきりと
(すごい、予想以上の成果だ)
と聞こえた。声の質は京介に似ているが、京介とも違うような気がする。
 やはり何かの罠が仕掛けられているのかもしれない。
 しかし、昂にはそれはもうどうでもよくなっていた。一つでもたくさん樹に良い思い出を作ってもらって、短い彼女の人生に彩りを添えてやりたい。ただそれだけになっていた。

 「根元、最近終わったらとっとと帰るけど、何かええことでもあるんか? 女か?」
学年が変わってから、授業が終わると息せききって帰ってしまう昂に、クラスメイトがそう言って茶化した。
「ま、な……」
昂は否定しなかった。
「ほー、毎日やりまくりかい。」
そんな昂の返答に、相手は卑猥な想像を始める。
「そ、そんなんちゃうわい。ただ、しゃべるだけや」
昂は慌てて否定した。
「まぁ、ええがな、隠さんでも。」
そう言っても相手は全く信用していないようだ。先程来からの想像を続け、おまけに
(おまえ、そんなやったら成績下がるぞ。お前が下がったら俺が上がるからええけどな)
とまで考えている。
そんな彼の“声”も今の昂には気にならなかった。
(コレって恋愛ボケしてんのかもな)
昂はそう考えて苦笑した。
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