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感情の坩堝-赤い涙(改稿バージョン)3

2.感情の坩堝



 学校が近付くにつれ、大量に流れ込む雑多な人々の感情。京介・樹兄妹の心を読もうと全開にしていたまま鍵をかけるの忘れてしまっていた昂は、坂を下りて街中に入って一気に流れ込んできたそれらに一瞬目眩がするほどだった。慌てて自分の心にシールドを張る。そして、のろのろと自転車を走らせると、やっと学校の正門が見えてきた。案の定、校門は少し隙間を残して大部分閉められている。

「すいません、遅れました。」
門の前で待ち受ける生徒指導の教師に、昂は頭を下げた。こういうときはヘタな言い訳などしない方が良い。却ってそんなものは相手の気持ちを逆撫でするだけだ。小言を待っていると、その教師は昂に、
「根元、珍しいな、今日は遅刻か。ん?おまえ具合悪いんか、顔色悪いぞ」
と言った。敢えて読もうとはしなかったが、裏腹の気持ちなどないだろう。確かに、今朝は必死であの兄妹の心を読もうと神経を集中させていたから、かなり疲労しているのかもしれなかった。
「大丈夫です。」
昂はそれだけを言って、自転車を押しながら駐輪場に向かおうとその教師とすれ違ったその時、
「安田!遅れてるんはわかってんのやろ、ちょっとは走らんか!!」
昂は、同じ教師が耳元で怒鳴る声に飛び上がった。
 見るとそれは、同じ中学からきた安田一成だった。一成は昂と目が合うと、
(けっ、ええ気なもんやな、理数科クラスの優等生は。遅刻したって怒られもせんのか。)
という“声”を浴びせかけて、昂を睨んだ。教師の罵声に、一瞬シールドが外れてしまったのだ。
 彼も中学時代は優等生と呼ばれる一団の中にいた。だが、この地域一番の進学校ではその優等生たちが集まって、やはりそこで優劣が競われる。子供の頃からさんざちやほやされ親からも期待されてきた彼は、同じような秀才集団の中で霞んでしまうしかない自分を持て余している。
(アホな、好きで優等生やっとんのと違うんやに)
それに対して、昂は心の中で一成に吐き捨てた。そう、好き好んで優等生面しているのではない。目立たぬようにするには、そこそこの優等生でいるしかないのだ。
(ワザと間違うんも、結構技術が要るって知っとんのか)

 昂にとって定期試験の問題はダダ漏れ状態に等しい。そこだけを集中して勉強すればいいし、答えがまるまる教師の頭に浮かんでいることも多い。その中で際立って成績が良くなり過ぎないようにチョイスして毎回解答欄を埋める。
 あまり成績が良くなり過ぎると、都会の国立大学への進学を勧められる。この田舎町のI市でさえ、いっぱいいっぱいの自分の精神状態が、あの大都会で保つとはとても思えない。
昂はそんな苛立ちを振り切るように頭を振った。その仕草に、教師は目眩を起こしたのだと勘違いした。
「お前ホンマに大丈夫か?」
と、心配して彼に駆け寄った。
「根元、お前マジで調子悪そうやぞ。教室やのうて、保健室に行った方がええんちゃうん」
(一時間くらい授業さぼっても、お前には何でもないやろ、優等生!)
一成からはそんな裏表の声が同時に聞こえた。
「ホンマに大丈夫です。教室行ったら。すぐに座るから」
昂はそう答え、逃げるように駐輪場に向かった。





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