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怖れていたこと-交響楽(シンフォニー)13

怖れていたこと


さくらは無事大学を卒業し、助産師の資格を手に入れた。

かつての古巣に舞戻った彼女は、少子化で産婦人科を扱う病院自体が減少する中、大学時代にも引けを取らないくらいに走り回っていた。

月の満ち欠けに左右される出産は、圧倒的に明け方が多い。そして予定は未定で、連鎖反応のように同じ日に重なるのだそうだ。いつぞやは、当直の他の科の看護師までかりだして対応したようだが、一晩に10人ものお産を受け持ったらしい。

望んでいた仕事に就いたさくらの眼は希望と喜びに満ち溢れていた。しかしその反面、彼女の顔には疲労の色が明らかに蓄積されていっているのが判った。

そして…彼女が助産師としてスタートして半年、暑い夏を何とかやり過ごして涼しい秋の風が吹くようになった頃だった。

4~5日前から風邪を引いていることは知っていた。
「妊婦さんには絶対に移せない。」
と言いながらも、それでもマスクで装備を固め、前日には内科で点滴をしてもらったと言っていた。

その日はたまたま非番だったのだが、朝、私が教室で使う資料にチェックを入れているのを覗きこんださくらは、
「あれ、おかしいな。焦点が合わないし、涙が出てくる…」
とぼそっと小声でつぶやいた。
「40歳超えたもんな、そろそろ老眼鏡なんじゃないのか。」
と私が茶化すと、
「老眼鏡?そうね…」
とそれを肯定した。いつもなら自分の方が5歳も年下なんだから、歳をとったと言うなと間髪いれずに咬みつくのだが。そう言えば、今日は彼女の動作がいつもより緩慢だ。
「さくら、具合悪いのか?」
「うん…ちょっと。風邪引いてるし、息苦しいかな。」
と言いながら、治人の散らかした玩具を拾おうと身体を屈めて戻そうとした時、一瞬ぐらりと身体が揺れた。
「ホント、大丈夫か?」
「大丈夫だって。」
私は慌てて否定した彼女の腕を掴んだ。まだ半袖だった彼女の二の腕はビックリするほど熱かった。
「お前、熱あるぞ。大丈夫じゃないじゃないか!」
と、私が彼女を叱ると、
「あれ、熱ある?道理で頭痛いと思った。」
彼女は覇気のない声でそう返した。

私は
「薬飲んどけば良いって。」
と渋る彼女をむりやり車に乗せて、医者に連れて行った。

検査すると…彼女の肺は真っ白だった。
重度の肺炎に罹っていたのだ。
さくらはそのまま、病院に入院させられた。



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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

comment

出産も明け方が多いんですね。
亡くなるのも明け方が多いんですよね。

マカロンさんへ

たぶん、亡くなられる方は引潮に多く、生まれるのは満ち潮に多いと聞くので、時間的には亡くなる方は未明、生まれるのは完全に夜が明けきった頃だと思います。とすると、明け方という表現は似つかわしくないのかもしれません。

ただ、長い暗闇から光という意味も込めて使いたかったんですよ。

出産が重なるということは本当によくあるらしいです。同一病院で一晩で10名は実話です。

あ!そうですね。
亡くなる方は未明のほうが適切ですね。
一晩で10名は実話ですか!すごい!
月の力はすごいですね。
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