スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

友達-再び桜花笑う季16

友達


「松野さん、私お母さんに頼まれて、今高広のビデオをDVDに焼き直しているの。」
私がDVDレコーダーの購入を機に、放置していても劣化していくビデオからそれの少ないDVDに焼き直したと言う話をさくらは坪内家でしたらしい。本当に両親には荷の重いことだったのかもしれないが、小まめにビデオに残す事のできる人なのだから、たぶんそれは彼女の元にも彼の動画が残るようにとの配慮だったんだろうと思う。

私はこれまで何度か彼女に彼の写真を見せてもらってはいたが、動画では見たことがなかった。それでどれでも良いので、一本見せてくれるように頼んだ。彼女の言う「ハスキーで温かな声」とはどんな声なのか聞いてみたくなったのだ。
「ほとんどはバイオリンの発表会だから、声は入ってないのよ。」
そう言って彼女が持参したのが、彼が亡くなる前年の秋の家族旅行のものだった。テレビ画面の中では今でも、キャメルのジャケットに淡い色のボーダーニットにデニムの青年が生き生きと動きまわっていた。
「あ、あれは…!」
私は、その「キャメルのジャケットに淡い色のボーダーニットにデニム」という彼の装いとある光景が重なったとき、思わず大きな声を上げてしまっていた。
「こ、これは…本当に高広君なんだよね。」
「ええそうよ、それがどうしたの?」
そして半ば怯えながら聞く私に、さくらは不思議そうな顔で返した。

実は、さくらに初めて高広の写真を見せてもらった時、どこかで見た顔だとは思ったのだ。だが、どこで見たのかはとんと思いだせなかった。
あの、さくらが生死の境をさまよっていた時に病室から出てきた医師らしからぬ青年…あれが、坪内高広本人だというのか。
あの時、高広は彼女の病室を名残惜しそうにじっと眺めて私に深々とお辞儀をした。逼迫した場面だと言うのになぜか落ち着いた笑顔で…
さくらはその時のことを、『私ね、高広の病室まで飛んだの。一緒に逝きたいって言ったけど、高広は抱きしめたまま弾けるように消えたの。』と述懐している。彼女が彼の病室まで飛んだように、彼もまた彼女の病室まで飛んできて彼女を抱きしめて去ったのではないか。その際に、私に挨拶をした?!通常の理解の範疇を越えてはいるのだが、私にはそうとしか考えられなかった。

では、何のために彼は私に挨拶をしたのだろう。しかも笑顔で…
もしそれが彼女を私に頼むためだったとしたら、私は彼には一生勝つことなどできない、そう思った。
スポンサーサイト

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

comment

Secret

プロフィール

こうやまたすく

Author:こうやまたすく
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

FC2カウンター

カテゴリ

Web page translation

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。