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再び桜花笑う季13

「松野さんはパソコン、解りますか。」
ある日唐突に、私は三輪さくらにそう聞かれた。
「ある程度なら、解かるけど。」
元々パソコンは嫌いではなく、勤め人時代にはプレゼンの資料やら、ノルマの達成率やらの資料はよく作った。
「自分で打ち込んだ曲を入れようと思ったんだけど、できなくて…」
彼女はそう言って真新しい携帯を私に見せた。

彼女は亡くなった恋人に出会ったときに持っていた携帯をずっと使用していたのだが、さすがに年数を経て電池交換をしてもすぐにバッテリー切れを起こすようになったらしい。このままでは、いついきなりデータがとんでしまうとも限らない。それには、彼とのやり取りが克明に記録されている、彼女にとってはそれはまさに大切な宝物と言っても過言ではないのだ。件の携帯は彼女の自宅でずっとホルダに入れられたまま保存されることとなった。

そして、彼女は新しく携帯を買ったのだが、ここで少々問題が生じた。最近の携帯はダウンロードが主流となり、携帯そのものでは曲の打ち込みができないということがわかったのだ。もちろん、外部でSDに録音してそれを携帯に入れるという手もあるにはある。しかし、それでは曲の冒頭から再生されてしまう。彼女が入れたいのは曲の中盤以降だったからだ。
「自分で打ち込むにはシーケンサーが要るよ。ダウンロードすれば何とかなるかな。」
私はそう言いながらすぐにネット検索し、頃合いのシーケンサーソフトをダウンロードした。
「ところで楽譜は、あるの?」
入力をしようと彼女にそう聞くと、彼女はいきなりその曲を口ずさみながらその曲をコード進行まで含めてさらさらと書き始めた。私は呆気にとられてそれを見ていた。
「この曲は耳にもう染みついてるから、それを思い出すだけで音は採れるの。」
彼女はさも当たり前のようにそう言った。
「だって、音階がそのまま頭に浮かんじゃうから。」
全く知らない曲でも、流しながら書くことができるらしい。
「音は流れていくから、書くスピードが付いていかなくて、何度も止めながらだけど。」
私には計り知れないが、それが絶対音感ということなのだろう。
同時に彼女が恋人と特殊な絆を感じる感覚が少し解かった気がした。他人からは奇異としか見られない事を当たり前としてとらえてくれる存在、そう言うことなのだろう。
「あ、そうそう…ここは3連譜じゃなかったんだ。高広、いきなり指摘したんだよね…」
彼女の眼は彼と出会った日を垣間見て潤んだ。
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genre : 小説・文学

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