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世界の喪失-再び桜花笑う季1

世界の喪失


私は焼けつく痛みの中で目覚めた。
(ここはどこだろう)
そう思って辺りを見回そうとするが、私は頭をピクリとも動かすことができなかった。ぼんやりとした視界の中に、何本かのプラ製の管が映り、バイタルチェックがピッ、ピッと規則的な音を奏でている。
(ここは病院なのだな)私はそう思った。

やがて、おぼろげだった意識がはっきりしてくると、私が意識を失う直前の温かな記憶と、忌まわしい記憶とが次々と蘇ってきた。
その記憶に私が体を小刻みに震わせると、私が意識を取り戻したことを私の母が気がついたようだった。
「芳治!良かった…」
と母は泣きながら私の名を呼んだ。
「おふくろ…翔子は?穂波は?…」
それに対して、そう聞いた私の声はかなり力をつかって振り絞り出したにもかかわらず、小さくかすれていた。
「ああ…翔子ちゃんと穂波ちゃん…あのね、今はここにはいないの。」
母ははっとして私を見た後、歯切れ悪くそう答えた。
実際問題、妻の翔子と娘の穂波はここにはいなかった。だがこの場に居ないだけではなく、二人はもうこの世のどこにもいはしなかった。たった一瞬の出来事が、私から愛する家族を…私の全てを奪い去っていったのだった。

その日は、霧雨が降る寒い日だった。

私たち夫婦は結婚記念日を祝うため、1歳10か月になる穂波を連れて予約してあったレストランへと出かけた。長年ホテルの厨房を任されていたオーナーシェフが、奥さんと二人で始めた小さな店。穂波は車の形をしたお皿に並べられた彼女のための料理を、
「ブーブ、ブーブ」
とにこにこ笑って、ペタペタ叩いた。それを肴に私はワインを飲んだ。
「ああ、誰にもやりたくないよ。」
そんな私のつぶやきを聞いて、翔子は笑い転げた。

楽しいひと時を過ごして、帰途についた私たち、アルコールの入ってしまった私に代わって、帰りは翔子がハンドルを握っていた。
そして、あと10分も走れば家に到着する場所だった。少し離れた所からパトカーのサイレンが聞こえたすぐ後、いきなり強い衝撃が私たちを襲った。私たちの車が交差点に入る直前、右側から違反を逃れようとする一台の車が速度を落とさずに左折し、曲がり切れずに私たちの車に激突したのだった。
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