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第二部 marine side 6

しかし、雅彦が力を緩めたのは一瞬だった。
「じゃぁ、未来が望んでもいない関係をお前は無理強いしたのか!許せない、殺してやる!!」
雅彦はそう叫ぶと、秀一郎を掴んでいる手に更に力を込めた。(これでは本当に秀一郎が殺されてしまう)健史が慌てて二人の間に割って入ろうとしたその時だった、夏海が言った。
「マーさん、それは違うわ。未来はね、秀一郎君を本気で愛してた。」
「何だと?!」
雅彦は秀一郎を放り投げて、夏海の方に向き直った。
「そうよ、未来は秀一郎君を本気で好きだったから、手離したのよ。秀一郎君と明日香のためにね。」
「未来が二人のために身を引いただと!!」
「ええ、そうよ。未来はね、秀一郎君は明日香を好きだと思っていたの。だから、あの子はかなわぬ恋を忘れるために別の人とお付き合いしてたの。あの子、あの時25歳だもの、たぶん彼とも関係があったんだと思うわ、だから。妊娠した時点ではどちらが父親だなんて誰にも判らないもの。今なら、達也もほのかもそう言われれば秀一郎君によく似てるって思うし、その気になればDNA鑑定ではっきりさせたって良い。
それにね、あの子は人一倍周りの事を考える子だわ。明日香の事だけじゃなく、そうなったときの秀一郎君の会社での立場なんかも考えたんだと思うわ。まだ学生の身分で年上の女と出来ちゃった結婚する男を企業のトップに据えるのはどうしたものか、そう言う輩が必ず出るってそう思ったの。志穂さん、あちらにも男の子がおられるんでしょ。」
「ええ、妙子さんには3人いらっしゃって、その内二人が男の子なんだけど、長男さんはお義父様を嫌って、家を出て職人みたいなことしてるんだけど、二男さんはYUUKIにいるわ。」
夏海の質問に、すかさず志穂が答えた。
「ウソだ!ウソだ、ウソだ、ウソだ!!」
それを聞くと、雅彦はウソだを連発しながら、今度は夏海に掴みかかった。
「マーさん、もうそれくらいにして、止めましょう。」
そこで、たまりかねて健史がそこに割って入った。
「健史!退け!!お前だってそうだったんじゃないのか?!お前だって、結城さえいなきゃ、お前が夏海とすんなり一緒になれてたって、そう思ってるんじゃないのか?!」
「!…違う…俺は…違うんだ。」
それを聞いた健史はわなわなと震えながらそう言った。
ちなみに、雅彦が健史を健史と呼ぶようになっていたのは、志穂と結婚し帰化して結城姓になり、話すときに龍太郎と混同するためだ。
「いや、やっぱり俺のせいだ。龍太郎に『海を頼む』って言われた時、俺が素直に聞いてればこんなことにはならなかった。誰も…誰も苦しまずに済んだんだ!」
そして健史はそう叫ぶと、頭を抱えながらその場に蹲った。それを見た志穂が健史に駆け寄り、肩を抱く。
「健史さん、それは違うわ。誰にだって聞けることと聞けないことがあるのよ。あなたは何も悪くないわ。」
「そうよ、ヤナ…あなたが悪いんじゃない。私がお見合いをした時、マーさんにちゃんと断れば良かったのよ。一番悪いのは私。」
「違う、俺があの時夏海を引きとめなければ…」
そうして、大人たちは口々に自分の非を唱え始めた。その時、明日香がすっくと机の前に立ち、それをバンっと大きな音をさせて叩いた。
「ねぇ、昔のことなんかどうでもいいでしょ?!それより今を考えようよ。本当に大事なのは何?誰が一番悪いかじゃないでしょ、どうしたらたっくんとほのちゃんが幸せに暮らせるか、それなんじゃないの??」
その場にいた全員が一斉に明日香を見た。
「私はお姉ちゃんの提案を受け入れようと思うの。と言うより、私はあの子たちを自分の本当の子供にずっとしたかったの。だから、戸籍上も私たち夫婦の子供にできるなんて、まるで夢みたいよ。」
「明日香…」
雅彦・夏海の両方から同時にため息に似た娘の名前が漏れた。
「明日香ちゃん、本当にそれでいいの?」
志穂が明日香に向かってそう尋ねた。明日香は大きく頷いた。
「お前はどうなんだ、秀一郎…未来が本当はお前が好きだったと判った今、未来が出てきた途端、乗り換えるなんてことはないだろうな。」
それを見て、雅彦は秀一郎を睨みながらそう言った。
「それはありません、誓って言います。僕に本当に必要なのは明日香です。でなければ、結婚はしていません。」
秀一郎もそれに対して、雅彦の目を見ながらそう返した。
それを聞いた雅彦は大きくため息をつくと、秀一郎に背を向けてぼそりと言った。
「なら…俺はこれ以上何も言わん。お前ら夫婦が納得できているんなら、手続きしてくれば良い。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げる秀一郎に、
「礼を言われる筋合いはない。俺は先に帰る。」
と言うと、そのまま話し合いの場を後にしたのだった。
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