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第二部 marine side 4

私は『戻る』メールには打ったけれど、本当はもう戻るつもりはなかった。そう書かなければ、明日香はきっと私を探して特別養子の手続きを踏まないのではないかと思ったからだ。

確かに、子供を手放すことは身を裂かれるように辛かったけれど、同時に私はホッともしていた。
私には明日香の夫(その時はまだ夫ではなかったけれど)を寝盗ってしまったという罪悪感があった。それから、少しは解放されたからだ。
身勝手な考え方なんだろうけれども、私は明日香の代わりに秀一郎の子供を産んだんだって思えば良いって。
そして、子供たちと過ごしたこの5年ばかりの日々は、私の宝物だ。達也、ほのか…ママは遠くからあんたたちの幸せをずっと祈り続けるから。
あーちゃんとパパと4人、いつまでも幸せに…

私は飛行機に乗っている間中、2人の写真を見ながら涙を流し続けた。

私の落ち着いた先-それはカナダだった。何故カナダかと言うと、さして理由はなかった。ただ、大学でフランス語を専攻していた私は、英語もフランス語も通じるカナダのフランス語圏に惹かれたというだけだった。

周りには日本人など一人もおらず、私には却ってそれが心地よかった。通じるかどうかギリギリの英語やフランス語と、なれない外国での暮らしは、私から思い悩むという要素を少なからず軽減させてくれた。

何より、カナダの大自然が私を癒してくれた。あっちのヤナのおじさんが最後の場所にアルプスを選んだのも何だかわかるような気がする。彼の父親所縁の土地と言うだけではなく、山懐に抱かれて穏やかに最期の時を迎えたのではないだろうか。

そして、私は自分の勤める小さな会社のボス、ジェラールと一緒に暮らすようになった。幼くして母を失った彼の子供たち(アンヌ・テオドール)に達也とほのかの面影を重ねて面倒をみるうちに、ジェラールとの距離も縮まったのだ。ただ、籍は入れてない。

-*-

あれから14年の月日が過ぎようとしていた。達也とほのかはもう高校を卒業するころ…
私は一日の仕事を終えると、パソコンを開いて日本の検索エンジンにアクセスすることが日課になっていた。誰からも日本語を聞かない環境下で生活していると、無性に日本語が恋しくなる。まるで無い物強請りだな…私はそう苦笑しながら、せめて文字なりともと、懐かしい言葉の海を彷徨うのだ。

その日はYUUKIの新製品がホームのトップに貼られていた。
私はふと、明日香に連絡がとりたくなった。魔が差したのかもしれなかった。

最初、私はあの子たちの結婚後の住所に手紙を送ったが、転居しているらしく戻ってきた。戻ってきてみると、私はますます明日香たちのことを知りたくなった。そこで私は、実家の住所を書き、「飯塚明日香様」とさもあの子が結婚していることも知らない体を装って、偽名で手紙を送った。
中身は一行だけ…
-私が判るなら、このメアドにメールを送ってください。判らなかったり、判っても関わりたくないと思うなら、そのままにしてくださっても良いです-
と書き、私のパソコンのメアドを書き添えた。そのメアドには私の名前、未来の英語である「future」も織り込まれてある。

パパかママかのどちらかはまだ生きていてくれるはず。ここんとこ向こうの家族が落ち着いてしまったのかあっちの夢はとんと見ないが、まだ、あっちのパパは生きていたはずだから。
そして、あの家に手紙が届けば、それは
明日香の手元にきっと渡るはずだ。

私は明日香からのメールが届いてほしいようなそうでないような妙な気持で、それからの幾日かを過ごした。
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