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20年目の手紙-precious dream1

20年目の手紙


「お父さまぁ、まだぁ?」
「ああ、アルプスの山並みが大きくなってきたからね、もうすぐ着くよ、ほのか。」
ずいぶん眠ったのに起きてもまだ着かないと不満を言うほのかに僕はそう答えた。
僕は家族を乗せてアルプスのふもとの村まで車を走らせている。

僕は一ヶ月ほど前、一通の手紙を会社で受け取った。

差出人は梁原健史、そしてその妻夏海。
手紙には彼の父親の故郷(とは言え、父子の名乗りをあげている訳ではないので、父親自身は彼がいることすら知らないらしいが)であるその場所で民宿を始めることができたので、是非来て欲しいとあった。僕の引越し先が分らないので会社に直接送ることを許して欲しいと…

気がつけばあれから20年あまりの月日が経とうとしていた。

海(夏海)と別れてから半年位が経った頃、突然健史が失踪した。行き先に心当たりもなく途方にくれていたところに、今度は僕の会社に海の両親が怒鳴り込んできた。娘が消えたと言って…
そう、彼らは駆け落ちしてしまったのだ。

僕が『健史なら海を渡しても構わない』なんて不用意な発言をしてしまったとき、『倉本は俺の許では幸せになんてなれない』と言っていた彼だが、彼女への想いには勝てなくなって、彼女にアプローチし、彼女もそれを受け入れた。頭ではそうは解ってはいるのだが、胸は切り裂かれるように痛んだ。

そう、あんな事を言ってしまった自分が悪いのだ。自業自得というやつだ。

そして、親友と元恋人をいっぺんに失った僕は、その6年後あの人(僕の父親)に勧められるままにお見合いをし、海によく似た女性-志穂と結婚した。あの人から勧められた相手なら、子供ができなかろうが妻たる志穂は周りに責められることはなかろう、それ位の気持ちだった。

しかし、結婚して1年半の後、志穂は妊娠しほのかを産んだ。
薬の後遺症が時間が経過して軽減したのか、はたまた体質が変化し、僕の生殖能力が人並みとはいかないまでもそれなりに機能し始めたのか、良い偶然が重なっただけなのか…何が原因なのかは分からなかったが、とにかく僕は父親になれた。

昔話に思いを馳せている間に、目指す民宿に到着した。僕の姿を見咎めると、健史は手を振ってから深々と頭を下げた。
「ようこそ、わが城へ。龍太郎、あの時は急に会社も辞めたりして、迷惑かけたな。」
健史は昔とちっとも変わらない、人懐こい笑顔で僕を迎え入れた。
「そんなの気にしないで、お招きありがとう。紹介するよ、妻の志穂。そして…娘のほのかだ。」
志穂が僕の後ろで頭を下げた。健史はほのかを見て驚いた表情を見せた。

-*-

「お荷物お持ちします。」
そのとき僕の右から声がして、トランクから降ろした僕の荷物を若い男性が持った。
「ありがとう。」
僕が顔を上げると、そこには健史そっくりの若い男性が僕の荷物を持っていた。
「紹介するよ、一番上の息子の健一。」
「健一です。〇〇大学の2回生です。今は、夏休みなんでこき使われに帰って来てます。」
そうやってはにかんで笑う顔も健史そっくりで、僕はしばらく返事できないで固まっていた。
「後で紹介するけど、この下に美姫(みき)って高校生の娘と、康史(やすふみ)っていう8歳の息子がいる。」
「そ、そう。」
それから、荷物を持って歩き出した健一君を一瞥した健史は僕に小声でこう言った。
「あいつができたのがさぁ、俺たちがばっくれた理由。」
そういうと、健史はそそくさと先に自分の城に入っていった。
それにつられるように僕たちも建物の中へと入っていった。

「わぁ、素敵…」
中に入った途端、思わず志穂が声をあげた。
木の質感を前面に押し出した内装、そして手作りの温もりの伝わる調度や飾り。僕は海とすごしていた頃の事を思い出して懐かしさでいっぱいになった。
ああそうだ、これはたぶん海の手作りだ。そしてたぶんこれは健史が自分で…そう考えてみると、こまねずみという言葉がしっくりくる海と、同じように働き者の健史に民宿という仕事はいかにもぴったりだったし、彼らが惹き合い沿うのがやはり必然だったのだろうという気がしてきた。

「龍太郎、今日は来てくれて本当にありがとう。」
そして、僕の前に現れたかつての恋人はもう既に泣いていた。
「夏海、いきなり泣きながら現れるなよ。康史が変な顔して見てるぞ。」
「そんなこと言ったって、もう2度と会えないって思ってたんだもん。」
茶化す健史に海は少女のように頬を膨らませてそう言った。
本当また会えるなんて僕も思わなかった。しかも、こんなに穏やかな表情でお互い会えるなんて想像すら出来なかった。
時に時間は残酷だけれども、時に優しい。
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