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告白

告白


海は良くしゃべるし、よく笑う女の子…

音楽室の一件から、海は教室でも僕に話しかけてくるようになった。大抵は彼女の好きなクラシック音楽の話だ。流行の音楽-特にアイドルと呼ばれるような歌手の歌は、耳の良い海は、外れているのが気になってしょうがないし、事によっては気分まで悪くなることがあると笑っていた。
海の女友達達に言わせると、そういう話題を彼女に振ってしまうと海は限りなく暴走するから気をつけたほうが良いのだそうだ。
でも、僕にはそれが暴走してるなんてちっとも思ってはいなかった。僕だって、顔や胸だけでアイドル歌手を追っかけている男子の会話についていけなかったし、海がそんな風に熱くなって語るのを聞いているのは嫌いじゃなかった。要するに似たもの同士なんだろう、そう思っていた。

やがていつの間にか、僕達は付き合っていることになっているみたいだった。みたいだなんて無責任な言い方に聞こえるかも知れないけれど、僕はそのときまだ、海の家の住所も電話番号すら知らなかったし、学校で話す以外に接点なんて全くなかったからだ。

僕は、海に好かれているのか彼女に聞くだけの自信がなかったって言うのが一番正しい答えなのかもしれない。だから、僕らはかなり長いこと、ただのクラスメートでいた。
でも、僕はそれこそ、音楽室で海が不意に僕の手に自分の手を重ねてきたときから、いや…それより前に、音楽室の窓を開けて僕にふわふわの笑顔をくれたときから海のことは大好きだった。

それで僕は、海としゃべるようになったのと同じ頃に…というか、海が彼とも気さくに話すので、自然に僕らも仲良くなった健史-梁原健史-に海に告白しようと思うと打ち明けた。健史が海と話したがる理由は、僕と同じだと思ったから。抜け駆けなんてしたくはなかった。

「お、龍太郎、やっと言う気になったんだな。」
僕がそう言うと、健史はそう返した。
「君はいいの?」
「何が。」
恐る恐る聞いた僕に、健史は首を傾げた。
「僕が告白して上手く言った時のこと。君も…倉本の事、好きなんでしょ?」
「好きといえばそうだろうな。」
僕が遠慮がちに聞くと、彼はあっさりとその事を認めた。
「でも、もう諦めてるよ。お前ら2人の間に俺の入り込む隙間なんてどこにもないからな。勝ち目のないケンカは性に合わないんでね。
それに、倉本って、俺といるよりお前と一緒にいて笑ってる時の方が可愛いと思うんだよな。だから、俺の事なんて気にせずに行けよ。お前らは一緒にいるべきだし、俺はそれを見てるのが楽しい。」
そして、挙句の果てに何か解らないことを言い出して僕を煙に巻こうとしていた。それで、僕は健史に続けてこう言った。
「ねぇ、もし振られたらだけど、慰めてくれるかな。」
僕としてはただ、やっぱり海が僕の告白を受け入れてくれる自信なんて全くなくてそう言ったんだけど、そしたら健史に咳き込むくらい思いっきり背中を叩かれた。
「龍太郎、頼むからそういう言い方は止めてくれよ。俺、男になんて興味ないからさ。」
と首筋をガシガシ掻きながらそう言われた。男に興味って…心外だと思った。僕はこれから玉砕覚悟で海に告白しようと思っているのに、それはないと思った。
でも、その後にっと笑った健史は、
「大丈夫だよ、龍太郎。俺は絶対にそんなアフターケアをする必要なんてないはずだから。自信持っていいぞ。」
と言ってくれた。本当に嬉しかった。

-*-

健史の言う通り、僕は玉砕なんかしなかった。
「私も結城君の事は良いなぁって思ってたんだよね。話しててすごく楽だし。私で良かったら付き合うよ。」
と、あっさり僕の告白を海は受け入れてくれた。それから海は、
「ねぇ、結城君は今まで誰かと付き合った事なんてあるの?」
って聞いてきた。
「ううん、何で?」
「カワイイ顔してるし、優しいし…中学時代モテたんじゃないかなと思って。」
僕はその言葉に自分の耳を疑った。僕が、カワイイ?!
「まさか、僕が…カワイイって?!」
驚いた僕に海ははにかみながら頷いた。
「モテたりなんかしなかったよ。背だって低いし、根暗だし、それに…」
病気で体型も今とは全然違っていた。僕はその一言をどうしても出せなくって、1回呑み込んだ。
「確かに男の子としては高いほうじゃないのかもしれないけど、私よりは高いからそんなの気にした事ないけど?で、それにって、まだ何かあるの?」
「それは今度…ううん、明日教えてあげる。でも、ビックリしないでね。」
海が僕の顔を覗き込んだので、僕はそんな勿体をつけて答えを引き伸ばした。明日あの写真を持って来ようと思った。僕は正直なところ自分がカワイイと言われて怖くなったんだ。僕のあの顔を見ても、そう言ってくれるのかなって…

翌日僕は、一番浮腫んでいた時の写真を海に見せた。
「僕、病気でね、中学3年の2学期くらいまではこんな感じだったよ。チビで根暗でデブ、3拍子揃ってたらさすがにモテたりしないよ、安心したかな?」
海は写真を見てすごくビックリしていた。口を開けたまましばらく呆然としていた。僕はだから、こんな100年の恋も一瞬で褪めるような写真を何で持ってきたのかと後悔した。でも、しばらくして、海からこんな言葉が返ってきた。
「安心したかな?って…私にこんな写真を見せて、もしかしたら嫌われるかもなんて思わなかった?あ…私はこんな写真なんかで嫌いになったりしないけど。それより結城君、身体の方は今は大丈夫なの?私はそっちの方が心配になっちゃった。だって、結城君今でもよく体育休んでるじゃない?」
そう言った海は涙目になっていた。その潤んだ瞳に僕はまたドキッとした。
「大丈夫だよ。もう薬も飲んでないし、浮腫んでもいないでしょ?
体育はサボり癖ついちゃったかな。病気だって学校には言ってあるから、先生は怖がってムリにやれっていわないのを良いことにね。だから、心配しないで。
ただね、僕…その…倉本には僕の事ちゃんと知って付き合って欲しかったから、それだけなんだ…」
と照れながら返した。僕がそう言ったら、
「それってすごく嬉しいかも知んない。でもね、それって反則技だよ!」
と言いながら海は僕に背を向けた。僕は何が反則なのかちっとも解らなかったけど。

-*-

そしてそのまた翌日の教室で…
「ねぇ、海。海は今日はクラブなの?なかったら僕と一緒に帰ろうよ。」
僕は女の子達とおしゃべりに花を咲かせている海のところに行って、本当はドキドキしてたんだけど、さらっとそう言って海を誘った。これが僕のクラスメートに対する僕らの交際宣言。
海と前日別れた後、一晩考えてそして何度もシュミレーションした、僕だけの彼女の呼び方…
でも当の海は、最初自分のことを呼ばれているとは思ってなかったみたいだけど…僕の目線の先に自分がいるのに気付いて、それから自分の名前を考えてやっと自分をそう呼んでいるのだと気付いたみたいだ。
「ううん、今日はクラブないよ。明日だから。…龍…太郎、一緒に帰ろ。」
と、真っ赤になりながらそう言ってまたあのふわふわの笑顔を僕にくれた。
その時、海の隣にいた海の親友の皆川悠の
「きゃぁ!あんたたちいつの間にぃ~?!」
っていう叫び声とか、聞いてないだろうって思っていた、教室の反対側の隅にいた男子の口笛が聞こえて、ニヤニヤ笑いを見てしまったけど…

もう口に出してしまった後だった。そうだ、言ったもん勝ちだと僕は開き直っていた。
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