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ハムケ5

翌日、私は婚姻届の用紙をもらいに行った。ついでに戸籍を取り寄せる手続きをする。私はもちろん、大和くんも最寄の役所に本籍がないから、どっちも郵送してもらうことにした。
「ねぇ、大和くん、お母さんに言わなくていいの?」
でも、もらってきた用紙に書き込みを入れる段になって、私はそんなことに気がついた。
「いいよ、お袋も事後報告だったし。今度の休みに行けばそんで良い。」
私の質問に大和くんはさらっとそう答えた。
「で、そういう樹里の方は?」
「一応、言っとく方が良いよねぇ…」
で、お返しみたいな大和くんの言葉に、私は歯切れ悪くそう答えた。実は私、ここ何年も両親には連絡取ってない。
でも、住んでるアパートは家を出てきたときのままだし、電話だって変えちゃいないから、向こうから連絡してくれればすぐ連絡はつく。つまり向こうも私に関わる気はないってことなのだ。あの方は自分の事で忙しく、不肖の娘が何をしようが知ったことじゃないんだろう。

それでも、苗字を山口から八木に変えてしまうんだから、まったく言わない訳にはいかないわよねぇ。そう思ったら、思わずため息が出てしまっていた。
「そうだよ、俺がちゃんともらいに行った方が良くねぇ?」
ため息をつく私を見て、慌てて大和くんがそういう。」
「それはないない!ウチは電話で充分だよ。ちゃんと連絡しとくから!」

で、次の日に行くはずだった社長への報告が、お互いの親への報告で休みを挟んで5日も延びた。戸籍を取り寄せるタイムラグがあったから、どうせすぐに入籍なんてできなかったんだけど。

土曜日、私はそれこそ何年かぶりで、自分の母親に電話した。
彼女はなんと奇跡的に1回でつかまった。
「元気だった?」
と聞く彼女に、
「うん、元気だよ。」」
と子供の頃の様に明るく笑って答えた。それから、
「んでさぁ、今度結婚することにしたから。」
ってきわめて事務的に電話の用件を話すと、彼女は私の予想に反してビックリするぐらい食いついてきた。
「結婚するって、相手はどんな方?式は?私はあちらにご挨拶に行かなくて良いの?」
と矢継ぎ早に質問してくる。
「相手は会社の同僚、八木大和って言うの。実はもう6年ぐらい一緒に棲んでて。この前社長にね、いい加減けじめつけろって言われちゃってさぁ…私が大台に乗る前にってことになったの。だから、式なんて考えてないよ。」
「一緒に棲んでるの?」
「うん、私のアパートで。彼、他に行くとこなかったから。」
私は、私たちがずっと一緒に棲んでいることを強調して、ワザと大和くんには身寄りがいないようなフリをした。
「じゃぁ、そういう報告だけだから。」
私が続けてそう言って電話を切ろうとすると、
「ねぇ、私が手伝えることはないの?」
と必死の声で聞いてきた。
「うん、今のとこはない…」
「じゃぁ、子供が出来たら言いなさい。手伝いに行くわ。」
「うん…そうする…じゃぁ」
と返すと、私は一方的に電話を切った。

電話を切った後、私は涙が溢れて止まらなかった。お母さんはずっと連絡したかったんだ。それが声で判ったから。

お父さんが女を作って家を出てから、お母さんは何人も男を替えて生きてきた。誰かに寄っかかっていないと生きていけない人だから。
でも、私は高校生の時、そんな彼女の男の1人に食われそうになった。たまたまちょうど彼女が帰ってきてくれたんで事なきを得て、彼女とその男は程なく別れたんだけど、なんとなく気まずくて、私は高校卒業を待ちかねるように生まれた町を後にして、今の会社に入った。
それ以来、彼女は私に自分からは連絡してこない。

子供が出来たら…か。
子供が出来たら、そういう今までのことはかっ飛ばして、お互い母として会話できたのかもしれない。でも、それもないんだよなって思ったら余計泣けてきて、私は「1人でかけたい!」と強引に追い出してしまった大和くんが帰ってきたとき、結婚を反対されたのかと思って心配するほど、バンバンに泣き腫らした目になってしまうくらい大泣きしていた。
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