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手-アルビノーニのアダージョ-Parallel 57

手-アルビノーニのアダージョ


 僕は放課後、音楽室で一人ピアノを弾いていた。
 元々ピアノを弾くのは好きだった。でも、浮腫みの酷かった頃は指の動きも悪く、あまり上手く弾けなかった。浮腫みが取れたからやっとスムーズに動くようになったと思いながら弾いていると、音楽室の窓がガラッと開いて、
「なんだぁ、結城君かぁ。アルビノーニのアダージョだなんて、曲が曲だから幽霊じゃないかと思ってドキドキだったわよ」
と、ひょっこり首を出したのが倉本夏海というクラスメートだった。
「でも、ピアノ上手いね。私、こんな音出ないな」
彼女はそう言って綿あめみたいにふわふわの笑顔を僕に向けた。
「君もピアノ弾くの?」
「うん、ちょっとだけね。一応受験に必要だから」
「へぇ、音大に行くの?」
受験に演奏が必要だと聞いて、僕は真っ先に音大に行くのだと思ったが、それを聞いた彼女は眼を丸くしてこう返した。
「まっさかぁ、幼教だよ。保母さん。音大なんて考えたことないよ。びっくりしちゃった」
「ヨウキョウ? ああ、幼児教育の略ね。何だそうか……アルビノーニのアダージョなんて曲名を即答するもんだから、僕はまた、プロを目指してるのかと思った」
「この曲有名じゃん」
「曲自体は有名だけど、曲名は知らない人の方が多いと思うけど」
大体クラシックなんて大抵そうだ。曲名を言っても無反応だけど、聞くと『ああ、この曲ね』と言う事になるのだ。
「そうなの? 私元々クラシックが好きだから、そういうの解からないな。この曲も大好きだし」
「へぇ、偶然だね。僕もこの曲すごく好きなんだ。だから、ピアノ用にアレンジしたんだ」
このバロックの名曲は、パイプオルガンと弦とのコラボが一般的だ。
「うわっ、自分でアレンジしたの? 結城君ってますます凄いね。じゃぁ、もっかい聞かせてくれない?」
「いいよ、じゃぁ中に入っておいでよ」
 窓越しに聞いていた彼女は、音楽室に入ってくると僕のすぐ隣で僕の手元を見ながら再び同じ曲を聞いた。そして、聞き終わるとぽつりと、
「いいなぁ」
と呟いた。
「何が?」
僕は何が良いのか分らなくて聞き返した。
「結城君の手、小柄なのに大きいなぁって思って」
そう言われて僕は鍵盤の上に再び右手を置いて、親指でドを、そして小指で一オクターブ上のミを叩いた。
「ええっ、ミまで届いちゃうの?」
それを見た彼女はいきなり僕の右手に自分の右手を思い切り開いて重ねた。そして、
「私なんてオクターブがやっとでさぁ、それも曲の終わりには攣ってくるっていうのにさ」
と、なんとも悔しそうにそう言った。僕は不意に重ねられた手にドキドキしていたんだけれど、彼女の方は僕なんて完全にノーマークという感じ。だから、僕は皮肉たっぷりに、
「そりゃ、僕は男だもの」
と返してやった。それでもまだ彼女は、
「何か納得いかない、それ」
とまだぶつぶつ言い続けたけど。変わった子だな……それが僕の倉本夏海に対する第一印象だった。 
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