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僕は君だけを愛している-Parallel54

僕は君だけを愛している


「それは!」
志穂が夏海の前に出したモノ……その傷だらけのフォトスタンドと小さな箱を見た途端、夏海は小さく声を上げ震え始めた。
 どちらも夏海にははっきりと見覚えのある物だった。
 フォトスタンドは、彼らの高校の卒業記念の品で、中には龍太郎によく似た男の子の写真が入っていた。おそらく、秀一郎だろう。
 それにしてもこれほどまでに似ていれば、いい加減気付きそうなものだと言う位似ている。志穂の言う様に、認めようとしていなかったのか、そう思った時、夏海はそのことに寒気すら感じて、無意識に首を振っていた。
 そして、もう一つの小さな箱の中身が何であるかも、夏海にはよく分っていた。
 それは、夏海の二十五歳の誕生日に龍太郎から贈られたあの指輪のケースだったからだ。
開けて確認することのない夏海に、志穂は
「これは倉本さんのですよね」
と言った。
「い、いいえ。それは龍太郎と別れる時に彼に投げつけて返しました。もう、私のじゃないです」
「結城はあの日、この二つを持って飛んだんです。指輪を右手に握りしめ、写真を子供を抱くように押し抱いて。だから、八階からの衝撃にも耐えられたと、鑑識の方もおっしゃいましたし、『やっぱり最後まで息子さんの事が気がかりだったんですね』と刑事さんもおっしゃってくださいました。でも、……これを見てください」
そう言うと、志穂はフォトスタンドの裏側を開いた。すると、秀一郎の写真の下にもう一枚写真が入れられていたのだ。夏海はその後ろ側の写真を見て、一瞬息が止まるかと思った。
 それは、夏海の――修学旅行の時、龍太郎と互いに撮りあったそれ――が納められていたからだ。

「秀一郎が本当に結城にそっくりになって、皆さんからそういう風に言われるようになっても、結城は頑なにそのことを認めようとはしませんでした。でも、あの悪魔が再び牙を剥いた時、さすがに結城もそのことを認めざるを得なかったんです」
「あの悪魔って?」
「最近になって、秀一郎が体調を崩したんです。結城には身に覚えのある症状でしたから、すぐピンときたようで、慌てて息子を病院に連れて行きました。そこで私たちは、かつて結城を苦しめた病魔の名を再び聞くことになったんです。
それから結城は塞ぎこむことが多くなりました。そして、お酒に走るようになったんです。
あの日は休日でしたので、結城は朝から飲んでおりました。そして……起こるべくして起こった『事故』でした」
 子供の写真もそうやって見ると、今の秀一郎ではない。再会したあの時のあの待ち受けの子供なのなら、明日香と同い年。今小学校五年生のはずだ。この写真はどう見ても四、五歳にしか見えない。
「結城は時間を戻すことができるのなら、あなたと一緒にいたあの頃に戻りたい、そう思ったんじゃないでしょうか」

―海、僕は最初から君だけを愛しているよ―
 夏海の耳に、不意に龍太郎のあの夢のささやきが響いた。あれは自分の願望などではなく、龍太郎からの夏海への最後のメッセージだったと言うのか……
「あなたは何も悪くはないわ。悪いのは全部この私です! 私が龍太郎から離れなかったらこんなことにはならなかったんですから!」
悪いのは私なのに、どうして志穂さんは私を責めないで、自分ばかりを責めているのだろう。夏海は切なすぎて胸が切り刻まれるようだった。
「いいえ、倉本さんは悪くないです。だってあなたは、事実を何も知らされずに、結城から一方的に別れを告げられたんでしょう?」
しかし、志穂にそう問い返されて、夏海はゆっくりと肯いた。
「結城は子供が出来ないという事で、一族の方からあなたが一方的に非難されてぼろぼろになって自分から離れて行くことを怖れたんですわ。『原因は僕の方にあるのに、彼らはそれに耳を貸すことなく、海を責めるに決まっている』結城はあなたと別れた時、それを責めた梁原さんにそう答えたそうです」
 ああ、だからヤナは同窓会の時、
『気にしなくて良い。あれは家同士の結婚で、龍太郎の意志じゃない』
と言ったのだ。やはり、彼は龍太郎が豹変した理由も知っていたのだ。
「それに、結城のお義父様があなたとの結婚に反対し、私の父がこの結婚をごり押しした本当の理由は、父たちの学生時代の友情が発端だったんです。お互いの子を結ばせよう、そんな男のロマンであなたを弾き飛ばしてしまっただけなのです。結城の死後、お義父様は泣きながらそのことを悔いてらっしゃいました。
だから私は、結城に本当の事を、頑張ればあなたとの子供も夢ではなかったと気づかせてはいけなかった。秀一郎が間違いなく結城の子供だと言う事を悟られてはいけなかった。そうすれば、結城はあと二十年もすればまた、あなたの許に帰れたはずです。
ある時から結城は何度か楽しそうにこう言っていました。
『僕が六十五歳になったら志穂さんを解放してあげる。会社はさっさと秀一郎に放り投げて、一人で暮らすよ。そしてね、茶飲み友達とね、お茶を飲みながら過ごすんだ。これが僕の夢。もう約束してあるんだ』
その茶飲み友達は倉本さん、あなたですよね」

『お互い歳をとって何の柵もなくなったら、茶飲み友達にでもなってよ』
 夏海はしばしの再会の時の、夏海が聞いた龍太郎の最後の肉声を思い出した。あの時、氷のようなその表情が一瞬にして融けたと思っただけだったが、よくよく考えてみれば龍太郎の表情は泣きそうで懇願するようでもあった。
 それはある時を境に彼女にまでポーカーフェイスを貫かざるを得なかった彼の、わずかに露呈した本来の気持ちの表れだったのだと、夏海は今になって気付いたのだった。
 
   
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