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Parallel 51

「う、海」
龍太郎はビックリして顔を上げた。僕はちゃんと自分の家に帰ったはずなのに、どうしてここに海がいるのだろう、そう思ったのだ。
 しかし、眼をあげてそこにいたのは夏海ではなく、志穂だった。龍太郎はがっかりするような、しかしホッとするような、複雑な気持ちで戸籍上の妻を見つめた。
「ごめんなさい……なんだかひどく寂しそうでしたから」
志穂はそう言うと、慌てて龍太郎から離れた。
「ううん、構わないよ。僕、そんなに情けない顔してたんだ」
「あ、いえ、いいえ、そんなことはないです」
情けないという顔ではないと思う。しかし、庇護を求める少年のようなと言えば、やはり三十路を過ぎた大人の男には失礼な言い草かも知れない。彼女はそう考えて、言葉を濁した。
 すると、龍太郎は大きくため息をついた後、
「ねぇ志穂さん、僕フリを止めて良いかな」
と唐突に切り出した。
「つまりね、少しは夫婦らしいことをしないと、あの人たちにばれちゃうかなと思って」
そう言いながら龍太郎は立ちあがり、志穂の肩を抱こうとしたが、酔って足がもつれた。それを咄嗟に志穂は支えようとしたが、女の細腕では支えきれず、二人はそのままベッドに倒れ込む形になった。
「志穂、愛してる」
龍太郎はそう言って志穂に口づけを落とし、そのまま初めて自身の妻を抱いた。志穂はやっと本当の夫婦になれたのだと、涙をこぼした。
 それを夫は後悔の涙とったのかもしれない。泣く志穂をみた龍太郎は、
「ごめんね、僕の気持ちを押しつけちゃったね。でも、僕と寝たってどうせ出来ゃしないんだから、彼にはばれないよ、きっと」
と言った。志穂にはその意味は分らなかったし、熱に浮かされたようになっていた彼女には、それを考えられるだけ、頭はその時回らなかった。
 ただ、酔いと興奮とでだんだんと意識が混濁していたのかもしれない。龍太郎は志穂の事を「海」と何度も呼んだ。おそらく自分ではない名前に、自分の事を棚上げしていることは重々解かっているのだが、志穂は「海」と呼ばれる度に胸を鋭い何かで突き刺されるような気がした。
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genre : 小説・文学

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