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対峙-Parallel 49

対峙


 梁原と約束した十日後、夏海は龍太郎の妻志穂と会うべく、龍太郎がその生涯を終えた場所でもある、彼らの自宅マンションを訪れた。
 先ず、外観から彼の居住していたと思しき場所を見上げる。ここから……夏海は鼻の奥がつんと痛くなった。
 それから、贅を尽くしたエントランスに入った夏海は、深呼吸をしてから徐にインターフォンを押した。
「はい、どちらさまでしょうか」
志穂の、高目で涼やかな声が返ってきた。
「あ、飯塚と申します。梁原さんからお伺いして、お言葉に甘えて御主人のお参りに寄せていただきました」
「……倉本さんですね。今、開けます」
少し間をおいて志穂はそう答えると、程なくキーロックの解除される音がして、玄関の二枚目の自動ドアが開かれた。
 それにしても志穂は夏海を旧姓で呼んだ。たぶん今日のための連絡にも、梁原は夏海にいつも呼び掛けるように、志穂にも自分の事を旧姓で報告していたのだろう。
 しかしもう使わなくなって久しいそれは、彼女自身にとって今やなじみの薄い物になっていて、どこか自分ではないようだ。自分は間違いなく倉本家の次女に生まれたというのに、ずいぶんと薄情な話だと、夏海は苦笑した。

 八階に上がると、部屋の前で志穂が待っていた。夏海は彼女に一礼した。
「どうぞ、お入りください。すいません、お呼びつけなんかして。まだ、ここから離れられないものですから」
志穂はそう言いながら、夏海をリビングへと案内した。
 通されたメゾネットタイプの部屋の、広いリビングの日差しの差し込む一番明るい所に龍太郎の笑顔があった。その前からゆっくりと立ち上る煙は空へと向かう。その糸が彼はもうこの世のどこにも居ないことを夏海に改めて教える。
「お参りさせて頂いてよろしいですか」
「ええ、是非」
夏海は龍太郎の遺影の前に正座し、深く頭を垂れた。
 長い龍太郎への鎮魂の後、顔をあげた夏海は、志穂がお茶の用意を始めていることに気付いた。
「どうぞお構いなく」
「よろしければ一緒に飲んで頂けませんか、ご存じでしょ? 結城が好きだったこのお茶。一人で飲むのは寂しいんです。秀一郎にはまだカフェインが心配ですし」
夏海の言葉に志穂はそう返しながら、リビングのローテーブルに、龍太郎が好きだった紅茶、プリンスオブウエールズを置いて、夏海の前に正座すると、
「倉本さん、本当にごめんなさいね」
と夏海に深々と頭を下げたのだった。夏海は呼び出された理由もつかめないまま土下座に近い状態で謝る志穂にいささか当惑していた。
「どうして? 何故奥様が私どもの様な者に頭を下げなければならないんですか?」
「いいえ、今回の事は全て私が悪いんです」
志穂は夫の遺影を一瞥すると、涙をこぼしながらそう続けた。
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