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それでも…愛してる-Parallel 49

それでも…愛してる


 それから三日ばかりの飯塚家の空気は最悪という言葉では片付けられないほどだった。二人は言葉はおろか目線すらも合わせず、夏海は仕事から帰るとただ黙々と家事をこなし、雅彦は着替えを取りに入る以外は、夫婦の寝室に寄りつきもせず、リビングで寝起きしていた。
その緊張感に、子供たちも夕食もそこそこにテレビも見ずに子供部屋に引き上げてしまうぐらいだった。
 夏海は雅彦から離婚を言い渡されるのも時間の問題だなと思っていた。そうなれば子煩悩な彼の事だし、当然親権を要求するだろう。そうなれば法的に落ち度のない彼の主張が通るのは必至だ。それに経済的な事を考えれば、夏海はどちらか一人ででも荷が重かった。
 私は、身一つでこの家を出なければならないかもしれない。他に行く所もないけれど、こんな情けない娘を、母は家に入れてくれるだろうか。

 そして四日目は土曜日だった。未来は朝一番から図書館に行くと言って、明日香を連れて出かけた。残された夫婦はリビングとダイニングという、間仕切りのない空間の両端でかなり長い間いたたまれない時を過ごしてた。

「夏海、ちょっと良いか」
「……ええ」
不意に雅彦が意を決した表情で口火を切った。
「あの男の事、正直ショックだった。俺たちの十七年間は一体何だったんだろうって」
「……」
「俺に隠れてずっと会ってたんだろうなとか、本当に子供は俺の子供なんだろうかとか……色々考えたよ」
「マーさん!」
龍太郎の訃報を聞いたときの態度で、彼との関係を取りざたされるのは致し方ないとは思っていた。だが、子供の出生まで疑われるとは夏海は思っていなかった。
「違うわ、それだけは絶対に違う! 龍太郎とは十年前に新宿でばったり出くわした、それだけよ! その時生まれたばかりの明日香を連れてたのよ、私。あの子たちは正真正銘あなたの子よ。未来の性格だって、明日香の顔だって、あなたにそっくりだってみんな……」
悔しさと悲しみの涙で夏海の言葉が詰まる。
「もう別れるしかない、そう思った。なぁ、夏海……俺、夏海が電話で『結婚できません』って言った時、『少しずつでも好きになってくれませんか』って言ったよな。あんなこと言わずに、すんなりお前を手離せば良かったのかな」
「ううん、どっちにせよ、私は龍太郎のところには行かなかっただろうし」
雅彦の言葉に夏海はそう答えながら頭を振った。もし、あの時マーさんが断ったとしても、結局康文と同じことが起こっただけだわ。
「そうか。でな、そこまで考えた時、未来が出来たと分ったときの興奮したお前の声とか、暁彦を失った時の半狂乱の涙とかそんなもんを次々思い出したんだ。教えてくれ、お前も、この十七年間、俺と嫌々連れ添ってきた訳じゃないよな」
「当たり前じゃない。嫌々だなんて悲しいこと言わないで」
夏海は悲しげに笑いながらそう言った。嫌々ではなかった。夫の事は好きなのに、いつまでも龍太郎を忘れられない自分が自分で許せなく辛かった。
「腹は正直治まったとは言えない。それでもやっぱり……俺はお前を愛してる。理屈じゃなくだ。だから、これからも俺と一緒に居ろ。これは命令だ。俺はお前を誰にもやるつもりはない、今までも、これからも。解かったか」
命令口調でそう言う雅彦に、夏海は涙を流しながら、ホッとした様子でこくりと頷いた。

 それを確認した雅彦は、夏海を抱き上げるとそのまま夫婦の寝室に入って行った。
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