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Parallel 41

「そんな、ウソ……」
夏海は龍太郎の告白に自分の耳を疑った。
 しかし、彼の病気の事は知っている。
 
 夏海が龍太郎の告白を受けた時のことだった。夏海は軽い気持ちで、
「結城君には中学時代彼女とかいたの?」
と聞いた。
「どうして?」
「かわいいし、優しいからモテたんじゃないかなと思って」
そんな夏海の言葉に、龍太郎は激しく頭を振って否定した。
「僕なんてチビだし根暗だし、全然モテたりしないよ。それに……」
「それに、何?」
「あ、今度……ううん、明日……明日教えてあげるから」
龍太郎は何故かしどろもどろになって答えを引きのばし、その翌日持ってきたのが、彼の『中学二年の時の』と言いつつ見せた、一枚の写真だった。
 それを見て夏海はひっくり返る位驚いた。そのときの、いや今でもそうだが、細身の体型からは考えられない、全身がはちきれんばかりのデブ、だったのだ。
「中学三年の二学期くらいまでは大体こんな感じだったよ。病気で体中浮腫んでいたから。ねっ、解かったでしょ。こんなチビで根暗でデブなんてモテっこないでしょ? 安心したかな」
「安心したかなって、私にこんな写真なんか見せて、嫌われるとか思わなかったの? あ、私はそんなので嫌いになったりしないわよ。
それよりさ、今は身体はどうなの? 私はそっちの方が心配よ。結城君体育よく見学してるじゃない?」
「もう大丈夫だよ。薬だって飲んでないし、体型だって元に戻ったしね。体育は……ホントはやれるんだけど、先生の方が怖がっちゃってさせてくれないんだ。ゴメン、却って心配させただけだったかな。でもね、倉本には僕の本当の事、知ってて欲しかったんだ」
 龍太郎のその言葉が、夏海の心を完全に射抜いてしまったのだ。私を本気で好きになってくれている。そう思って舞い上がってしまった気持ちを、
「それって反則技だよっ」
と、意味不明なことを叫んで隠した。
 
「ウソじゃないよ。志穂との結婚は、志穂の父親の会社を全面的にバックアップする代わりに娘を差し出すって話だったからね。いかにもあの人の考えそうなシナリオだと思わない?」
懐かしい昔話に浸っていた夏海を、龍太郎の冷たい笑顔が現実に引き戻す。あの人と言うのは、龍太郎の父親の事だ。血のつながった実の父だと言うのに、夏海は彼が父という言い方をしたのを聞いたことがなかった。
「僕だってあの人の言う事をほいほい聞くつもりなんて、最初はなかったんだ。でも、志穂に会って気が変わった。彼女はね、僕と二人っきりになった途端、こう言ってきたんだ。『このお話結城さんの方からお断り願えませんか』ってね」
 断ってくださいと言われた相手と結婚する。それはどういうことなのだろう。龍太郎は自身の父への当てつけに、嫌がる彼女に無理強いして結婚を迫ったということなのか……
夏海は続く龍太郎の話に耳を傾けた。
「よくよく話を聞くとね、志穂には恋人がいるって言うんだよ。だけど、もし自分が断ったら、父親から会社がどうなるか分らないって言われたらしくてね、それなら僕が気に入らないからと断ってくれれば大丈夫だと思ったらしいんだ。僕はそれを聞いて好都合だと思った。
だから、僕言ったんだよ。『君を買いたいんだけど。もちろん彼と一緒にね』ってね」
「買うって?」
首を傾げた夏海に、龍太郎はうすら笑いを浮かべながらこう言った。
「解からない? 僕は志穂をその恋人ごと金で買ったんだ。つまりは、偽装結婚。僕は志穂と結婚して彼女の父親の会社に便宜を図る。その代わり、彼らには関係を続けてもらって生まれてきた秀一郎を跡取りとして僕の籍に入れる、そういうことさ。
ま、あんまり何もないとばれてもいけないから、時々は彼に内緒で借りてるけどね」
そして、龍太郎はひきつったように甲高い声で笑った。
 ひとしきり笑った龍太郎は、黙って固まっている夏海を尻目に、彼女のすぐそばまで自身の顔を近づけると、
「そうだ海、今からでも僕とよりを戻さない? 志穂も悪くはないんだけどね、やっぱり一番身体の相性が合うのは君なんだよ。僕となら子供の心配は要らないから、ご主人にも見つかることはないよ、だから……どう?」
と、甘い息を吐きかけながら囁いた。夏海はその誘いに思わず店のテーブルをバンっと叩いて立ちあがった。しかし、その音に横にいた明日香がびくっと震え、泣きだしそうな様子を見せたので、彼女は慌てて娘を抱きあげると、泣かないように小声であやした。
「バカなこと言わないで。第一子供ができるとかそういう問題じゃないでしょ? 私、帰る」
彼女は明日香がまた泣き出さないように声を抑えてそう言うと、明日香をベビーカーに乗せ、その場を立ち去ろうとした。
「待って! 待ってよ、海」
すると龍太郎はそんな夏海の二の腕を後ろから掴んでそう言った。夏海は思わずそれを払いのけて龍太郎を睨む。
「じゃぁ、茶飲み友達。互い歳を取っていろんな柵がなくなったら、茶飲み友達としてまた、会ってほしいな。それでもダメかな」
そう言った龍太郎の顔は、もう再会したときのあの優しい表情に戻っていた。さっきまでのキチガイじみた告白は全て冗談だったとでも言うかの様に……
 それでも夏海は、それ以上龍太郎と話す気にはなれず、黙ったまま頷くと足早に店を出、未来の待つ保育園に向かった。 
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