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後悔-Parallel 37

後悔


 夏海は救急車で病院に搬送された。

 そこで彼らを待ち受けていたのは、死産という現実だった。産声を上げることなく生まれてきたわが子との対面。それは、雅彦が待ち望んでいた男の子であった。
 夏海はその事実を知って錯乱状態となり、鎮静剤を投与されて眠っている。雅彦がその寝顔を見ると、その閉じられた目尻の横から鼻にかけて涙の跡が見えた。夢の中でも妻は泣いているのだろうか。もし、そんな夢を見ているのなら助け出してやりたいと雅彦は思ったが、寝ても覚めても同じような気もした。なら、今は夢の中にいる方がまだましなのかも、彼はそんな風に考えながらじっと夏海の顔を見つめていた。

 やがて目を覚ました夏海は、
「マーさん、ごめんなさい」
と言うと、また涙を流した。
「目、覚めたか」
「私、マーさんにムリするなって言われてたのに……なのに……こんなことになって……」
夏海は言葉にならない後悔の念を繰り返しつぶやき続ける。
「もう、そのことは言うなよ」
雅彦は堪らなくなってそれを遮った。
「だって……だって……」
 きっと罰が当たった、夏海はそう思っていた。来もしなかった龍太郎と夫とを合わせたくない一心で、身体を労わらず電車で行ったこと。それから彼の結婚や梁原との関係に動揺し、身も心もかき乱された自分。
全ては私が悪い。私がこの手で息子を殺してしまった……
「夏海が助かってくれただけで、俺は充分だから。大丈夫、子供はまた授かる」
目覚めてもやはり泣き続ける夏海に、雅彦は優しく髪を撫でながらそう言った。
「でもあの子はあの子しかいないわ! マーさんは、死んだからってあの子をなかったことになんかできるの!」
しかし、そう言われた夏海は、思わず夫に向かってそう怒鳴っていた。
 夏海には夫の言葉が彼からの精一杯の励ましだということは充分解かってはいた。だが、半年余りもの間、自身の身で育んできた命をなかったことになど、女の自分には絶対にできない。そんな慰めなど要らない。できればお前のせいだと、完膚なきまでに責めてほしいくらいだった。
「ごめん、何もなかったことになんかするつもりはないよ。言いすぎたな、謝るよ」
そして、雅彦は側にあったティッシュを手にとって夏海の涙に塗れた顔を拭うと、
「でもさ、泣いてばかりじゃ、未来も……そして赤ん坊も悲しむ。俺は、そう思うよ」
と言いながら、また彼女のウエーブのかかった髪をゆっくりと撫で始めた。
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