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魔法-Parallel 31

魔法

 雅彦と夏海が結婚してから、四ヶ月が経った。
 彼らは祝日のその日、車で遠出をする予定でいた。
「夏海、どうかしたか?」
しかし、しばらく車を走らせた時、雅彦は夏海の様子がいつもとは違うことに気付いた。顔色が良くないし、自分から話しかけてこない。
「うん……? なんだか気分が悪くて。少し酔ったのかな。車酔いなんてする方じゃなかったんだけど。余程寝不足の時以外は酔わないのよ。それに、最近眠くって寝過ぎるくらい寝てるのに」
その問いかけに、夏海は首を傾げながらそう答えた。彼女は余計な音まで拾ってしまうような耳をしているせいか、車など乗り物なとにはめっぽう強く、余程の寝不足ででもない限り車酔いなどしたことがなかった。
「とにかくどこかで一度休憩を入れた方が良いな。休んで良くならなければ、今日は帰ろう。」
「ごめんね、そうしてくれる? 誰かと約束してるんじゃなくて良かった」
それで、雅彦は国道沿いの喫茶店に車を停めた。
 店に入って夏海がオーダーしたのはトマトジュース。
「ま、胃が悪いのならコーヒーじゃない方が良いんだろうけど。でも、何でトマトジュースなんだ? 夏海そんなに好きだったか?」
普段家ででも飲まない物を注文した夏海に、雅彦は驚いてそう尋ねた。
「メニュー見たら何だか飲みたくなったんだもの。ただの、気分よ」
夏海はそう言いながら、添えつけられたレモンを絞らずにそのまま口に放り込む。口に入れた夏海より、それを向かいで見ている雅彦の口の方が歪んでいた。
「美味しい」
そして彼女はにこりと笑った。顔色も良くなってきている。
「気分も良くなったみたいだな。じゃぁ、一休みしたら予定通りいこうか」
雅彦の言葉に、夏海は笑顔で頷いた。
 だがその時、その店に年配の男性が二人入ってきた。地元の常連のようで、店のオーナーに手を挙げて
「いつものね」
と言って、夏海たちの横をすり抜けてマスターのすぐそばに陣取る。その刹那、そのうちの一人から昔ながらの整髪料の匂いが漂ってきた。その途端……
「あ、ゴメン……」
夏海は弾かれたように立ち上がると、それだけ言って一目散にトイレに駆け込んで行き、今飲んだトマトジュースを全て嘔吐してしまった。
 戻ってきた夏海は、店に入る前よりなお顔色を悪くしている。
「ゴメン、もうここ……出て良い?」
心配そうにのぞきこむ雅彦に、夏海はそれだけ言って先に店を出た。慌てて雅彦も会計を済ませ後に続く。
「大丈夫か?」
「うん、外の風に当ったら楽になったわ。」
「今日はもう、帰った方がいいな。それとも病院で診てもらうか?」
「ううん、救急で行くほどじゃないわ。それより買いたいものがあるの。ウチの近くでショッピングモールに寄ってくれる?」
「何が要るんだ? 帰った後に、俺が買って来てやるよ」
雅彦のその言葉に、夏海はゆっくりと頭を振った。
「私の方があそこはどこで何を売ってるのかよく知ってるから……ねぇ、駐車場で待っててくれる? すぐ戻るから。」
 それで雅彦は、夏海に言われるまま自宅近くのショッピングモールの駐車場に車を停めた。夏海は一人で買い物に出かけて、小さな紙袋を抱えて戻ってきた。
「なんだ、薬買ってきたのか。それくらい俺にだってできるぞ」
そう言った雅彦に夏海は黙って含み笑いをしていた。
 帰宅後、夏海は雅彦に強制的に横にさせられた。それから雅彦はリビングのソファーに座って、所在なげにテレビのリモコンに手を伸ばした。競馬中継にバラエティーの再放送……興味のある番組は一つもなかった。
 しばらくすると、夏海は寝室から出て、トイレに立ったようだった。吐いている様子はなかったが、なかなか出て来ない。倒れていないかと心配になりかけた頃、彼女はやっとそこから出て雅彦の隣に陣取った。
「寝てなくて良いのか?」
「寝てなくたって大丈夫よ」
「ムリはするな」
「ムリしてません」
心配する雅彦を制して、夏海は満面の笑顔を彼に向けるとこう言った。
「だって、病気じゃないんだもの。心配しないで、パパ」
雅彦は、その言葉の意味を飲み込むまでの間、口を開けたまま呆然としてしまったのだった。

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