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不信の代償-Parallel 23

不信の代償

 そして、夏海が投函した翌々日、武田から電話があった。
「夏海さん、結婚おめでとう」
開口一番、武田はそう言った。それは夏海が彼の口からは一番聞きたくない言葉だった。
「あなたは結婚できれば誰でも良かったんですね」
続いて彼から吐き出された言葉が夏海の胸を切り裂く。言葉尻が丁寧なのに気付いて、夏海の胸は余計に痛んだ。二人の前に大きな大きな壁が立ちふさがっているようだった。
「違う……違う……そんなんじゃないわ、それだったらあなただって……」
「あなただって? 俺があんたに何をしたって言うんだ!」
だが、そんな夏海の言葉に、武田はいきなり激昂した。
「だって、私がこの前電話した時、あなた女の人と一緒にいたじゃない! 彼女あなたの事、呼び捨てにしてたわ」
「!」
武田の息を呑む音が聞えた気がした。
「……まさか、隣の部屋のあの声が聞えたって言うのか?」
彼は信じられないという感じで聞き返した。それにしても隣の部屋って何? 彼の住んでるのはフラットな一DKなのに……
「そうよ、私の耳……電話の相手方の少し離れた声も全部拾うのよ、知らなかった?」
「確かに、デカイ声で叫んでたけどさ、マジかよそれ……」
武田はそれを聞いて一瞬言葉を失った。そしてふてくされたような声でぼそっと、
「アレ、ねーちゃんだよ」
と言った。
「ねーちゃん?」
「実は親父が倒れてさ、あの日は親父の病院に行った後、今後の相談をするために実家にいたんだ」
ねーちゃんと実家……携帯に電話してるし、こっちに帰ってくることも聞いてなかったから私、彼が当然浜松のあのアパートにいるもんだとばかり思ってた。
 そう言えば、その前にかけた時も着信元が公衆電話だったことにひどくびくついてたわ。あれって、私の電話を病院からの電話だと思ったからなんだ。いつかかってくるか分らないからって、長電話もできなくて……夏海の中で、最近の武田の不可解な行動が全てつながっていった。
「ごめんなさい……私、誤解してた」
「俺も何も言ってなかったのは謝るけどさ、何でそもそも見合なんかしたんだよ。いつも通り逃げれば良かったろ!」
夏海の勘違いが分ったからなのか、武田はいつになく上から目線だった。
「そうよね……ごめんなさい」
そんな彼に返す夏海の言葉は、もう謝罪の言葉しかなかった。そうよ、康文はちゃんと待っててって言ってたのに……
「それでも俺さ、今回は何か嫌な予感がしたんだよ。それで、そっちに電話入れたんだ。そしたら全然つながんなくてさ、やっとつながったと思ったら、お母さんだった。そいで、言われたんだ。『夏海ちゃんはお見合いをした方と良いお付き合いをしてます。だから、もう夏海ちゃんとは連絡を取らないでくれますか』ってな。思い切って本当の事を言おうと思ってたのが、それで一気に力が抜けたんだよ。なんか電話する気が失せた」
武田は苦々しげにそう吐き捨てた。
「お母さんがそんな事を言ったの?」
よりによって、私がいないときにお母さんが電話をとっていたなんて。
「なぁ、百歩譲って見合いするのは親の手前だとしても、それから付き合ってるってどういうことだよ。あのお母さんがどうあれ、最初に会ったときに本人に直接言えば済んだことだろ」
「そ、それは……」
雅彦に直接すぐに断りを入れなかった件を突っ込まれて、夏海は口籠った。見合いの後、母が勝手に話を受けてしまったから、二度目に会った時には打って変わって飯塚さんが積極的になっていたから言い出しにくくなってしまったとか……いや、違う。いくらでも断る暇などあったはずだ。
「俺が浮気でもしてると思ってたってか」
「……」
「黙ってるってことは、図星だってことだな。俺は親父の事で頭が一杯で、そんな暇なんてなかったよ」
武田は声こそ荒げてはいなかったが、その口調は怒りに満ちていた。
「じゃぁ、康文がもっと早くお父様の事をちゃんと話してくれれば良かったじゃない。そしたらそんな誤解もなかったんじゃない?」
そう、最初から武田の父の病を知っていたら……私はあんな話はお母さんの挑発を受けようが受けなかった。
「そんなことしたら東京にいない俺に代わって、夏海さんが親父の面倒を看ると言いだすだろ」
「当たり前じゃない。あなたのお父様だもの」
あなたのためだけじゃなく、お母さんに窘められても嬉しそうに私に話しかけてきて緊張している私の気持ちを少しでも軽くしようとしてくれたお父さんに、その恩返しをしようと思っても、罰なんか当たらないはず、夏海はそう思った。
「親父の事はこれからどれくらいかかるかわからない。精神的にも経済的にも結婚なんて余裕は今持てないんだ。あの夏海さんのお母さんが、結婚もできない男の親の手伝いに夏海さんを行かせる訳ないだろ。だから、言えなかった」
それに対して武田はそう言った。
 それにしても……ああ、また母だ。何故あの人はこうも私に立ちはだかるのだろう。夏海はぐっと唇を噛みしめるしかなかった。
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