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2番目の人-Parallel 22

2番目の人


夏海はその日、練習試合の途中からこっそり参加した。それでも、チームの家族以外は見に来ることのない練習試合では、見慣れない顔の夏海は、大人はもちろん子供たちにもすぐに気付かれてしまった。
「すげーっ、コーチホントだったんだぁ」
「コーチ、なかなかやるじゃん。どこでそんなキレイな人見つけてきたのさ」
子供たちが試合そっちのけで口々に雅彦を突っつく。
「お前ら、試合に集中しろ! こっちが約束守ったんだからな、絶対勝てよ」
「はーい、コーチが良いところを見せられるように頑張りまーす」
子供たちが口をそろえてそう言うのを聞いて照れてあたふたしている雅彦を見て、夏海は吹き出した。

「お前ら、これじゃ逆だろ」
そして、試合が終わった後、約束通り勝利した彼らに、雅彦は結婚の前祝いだと言われて、アイスをを奢らされていた。
「ねぇねぇお姉さん、コーチのどこが良かったの」
夏海の肘を突きながら、そんなストレートな質問を浴びせかける子供までいた。
しかし、どこが良かった……と考えた時、夏海の心は寒くなった。どこが良くて私は今日、ここに来たのだろう。
 あの日以来、雅彦は確かに夏海の中でぐっと近づいた存在になった。でもそれは、武田に裏切られた悲しみを埋めるためでしかなかった。このまま流れに乗っていれば、そのまま結婚まで到達する電車に乗った。それだけなのかもしれない。
「うーん、優しいとこかな」
だから、夏海は無難にそう答えた。
「コーチ、彼女に優しいんだってさ!」
すると、素っ頓狂な声でその子が叫んだ。周りの子供たちからもわっと歓声が上がる。
「コラ、シゲ! 何、聞いとんだ!」
雅彦は日焼けしていても判るほど真っ赤になって、シゲと呼んだ少年の頭を小突いた。
「すいません、夏海さん……」
「夏海さんだって!」
またそこで歓声が上がる。
「お前らなぁ……」
嬉しさと恥ずかしさを綯い交ぜにした様な表情で、雅彦は夏海を見た。

『女はね、一番愛している人より、二番目に愛してる人と結婚する方が絶対に幸せになれるのよ』
誰かがそんな事を言っていた事を夏海は思い出した。二番目に愛しているのが雅彦かどうかは判らなかったが、愛するより愛される方が幸せになれるということなのかもしれないと、夏海はその時、そう思った。

「今日は、本当にありがとうございました。夜にまた、電話します」
雅彦は夏海を自宅まで送り届けると、手を握りそう言って帰って行った。
 そして、その夜雅彦は、
「来週会う時にはその……帰りに夏海さんのお父さんに御挨拶して良いですか。」
と言った。控え目な言い方ではあるが、それは紛れもなく彼女に対するプロポーズだった。夏海は戸惑いながらもそれを受けた。
 プロポーズを受けた夏海は、夜遅く武田に手紙を書いた。電話で直接別れを告げる勇気などなかった。淡々と見合い相手の男と結婚するという事実だけを書き、武田に借りていたCDを同封してポストに投函した。 

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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

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ふじやまさんへ

毎度拍手ありがとうございます。

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