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後輩の彼氏-Parallel 7

後輩の彼氏



 夏海はそれから何度か小夜子と一緒の際に武田と会うことになった。
大抵は彼女と一緒に居る時に武田が合流してくるパターンだ。夏海と女同士の買い物などをしていると、夕食くらいに彼がやってくる。
(親への言い訳なのかしらね。)と夏海は思った。それなら口だけで、『今日はナツ先輩も一緒だったわ。』と、親に言えば良い訳で、その手は散々自分が使ってきた。律儀に私を呼ぶことないじゃない。高校時代というシチュエーションだけで、龍太郎を想起させて時々苦しくなることがあるのに……
 しかし、夏海は小夜子に面と向かってその苦言を呈することはなかった。かつての自分たちを見るようで辛い半面、現在進行形の恋愛ドラマをリアルタイムで見られるおばさん的な好奇心も働いていたのだ。
 やがてその内、休日に小夜子から誘われることすらなくなっていった。それは武田との付き合いが上手くいっている証拠――喜ばしいことなのに、夏海は何故かそれに寂しさを感じていた。
 武田とは音楽の趣味が合う。大体、クラシック音楽の話をしても、大抵ウザがられる。曲名がすんなり出てくることもまずあり得ない。だから、かかってきた曲に間髪いれず反応してくれると、嬉しくなって話を紡いでしまって大いに盛り上がる。それで、いつの間にか小夜子だけを置いてきぼりにしてしまったことが何度かあったのだ。彼らの関係が親密になったこともそうだろうが、そのことも自分を誘わなくなった一因だろうと容易に想像できた。
 思えばその頃、小夜子から頻繁に武田の惚気話を聞いた気がする。たぶん、『彼は私のモノよ!』という意思表示なのだろう。(なら、最初から私をダシにしなきゃ良いじゃない。大体、後輩の彼氏になんて興味ないわよ!)小夜子からそういった惚気話を聞かされると、夏海は必ずそう思った。
 そんなある日、武田から直接電話をもらった。
「最近倉本さんに会えないから、小夜ちゃんから電話番号聞きました。CD返してなかったでしょ」
そう言えば、彼に貸したままのCDがあったな……夏海はそう言われて、そのことを思い出した位だった。

 夏海は初めて小夜子を交えないで武田に会った。
「これ、一緒に行ってくれませんか。」
その際、武田に彼の大学のオケの公演に誘われた。
「どうも、小夜ちゃんはこういうの苦手みたいで……」
本当は小夜子と一緒に行くつもりで手配したのだろう。でも、あの娘のことだから、あからさまに嫌がったりしないだろうが、退屈だという気持ちが顔いっぱいに出ていたんだろうなぁ。夏海はそう想像してくすっと笑った。
「あら、だからって私なんか誘って小夜ちん、怒らない?」
「大丈夫ですよ。倉本さんは小夜ちゃんにとってお姉さんみたいな人ですから。彼女の前の職場を辞めた理由、知ってます?」
「いいえ?」
それが私を信頼する理由とどう関係があるのだろう。夏海は首を傾げた。
「あいつが前の職場を辞めた理由って、いじめなんですよ。あいつって、ちょっと天然入ってるでしょ? お局様の逆鱗に触れる事、言っちゃったらしいんですよ。それで、ちまちまねちねちいびられて、放りだされたんです。」
そうか、そんな事があったのか……彼女の今のびくびくと他の人を覗うような様子は、それの恐怖感からなのかもしれないと思った。
「今の会社に入ってからは、倉本さんが根気よく教えて仲良くしてくれるから、凄くうれしいって。本当のお姉さんみたいだって言ってました。」
確かに入社当初は彼女に正直イラついたこともあった。だけど誰だって最初は初心者だ。自分だってきっと同じように思われていたに違いないし、習得速度にはそれぞれ個人差というものがある。習得速度が遅いものの方が出来た時完璧にこなせる事が多い。そう思って繰り返し説明したのが、彼女の心に響いたのだろうか。
 それに…龍太郎と別れてからは、彼女の自分を姉の様に慕う人懐こい笑顔にこちらが救われている。
「小夜ちんに私を誘うって言った?」
「いや、まだ…」
「じゃぁ、言わないで。無駄なやきもちなんて妬かせたくないから」
夏海は小夜子の気持ちを考えて武田にそう釘を刺した。

 その公演をきっかけにして、武田は夏海に時々電話してくるようになった。大抵は音楽の話なのだが、そこに時々小夜子の愚痴が挟まる。
「一体、小夜ちゃんってどうしたいのか解からないんですよね」
ため息交じりに彼はよくそう言った。
夏海はそれを聞いて、男でもやはりそう思うのだと思った。
 女性は意中の男性に対しては概ね寛容になって、無意識に合わせたり自分を抑えたりするものではあるが、彼女の場合それは男性に限ったことではないし、度が過ぎるように夏海も感じていた。
 食事のメニューはもちろん、そもそも出かけるときの行き先、買い物等、全て夏海に合わせようとするし、先に決めるように促しても、決めてほしそうな目で夏海を見つめる。最近になって、そんな彼女の態度に夏海も時々苛立ちを感じてしまうことがあるためだった。武田の前でも小夜子は同じか、さらに依存的な態度を取っているだろうということは、容易に想像できた。 
 しかし、そんな小夜子と武田は別れようという気はないようだった。
心配するだけ損なんだ、男と女などそんなものだと思いながら、夏海はほんの少しそれが寂しいとも思っていた。
 直接電話をくれるようになっていた武田に、何かしらの下心があって欲しいようなそうでないような……そんな微妙な揺れのようなものを、夏海は感じ始めていた。

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