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メインディッシュは…-Parallel 1

メインディッシュは……

――平成元年――
 土曜日の夕刻、夏海は龍太郎ともにデパートの食品売り場にいた。

「奥さん、これなんかどう?脂がのってて旨いよ」
鮮魚コーナーで店員が鰤を指さしながら夏海に『奥さん』と声をかける。龍太郎と二人連れだっていたから、夫婦だと思ったのだろう。夏海には何だかそれがくすぐったかった。
「僕、そんなギラギラした魚は苦手なんだけど。」
ほくそ笑んでいる夏海の代わりに、龍太郎がそう答えた。
「そんなこと言わないで、今晩元気になるよ」
店員がすかさずそう返す。
「食べなくても僕は元気だから」
それに対して、龍太郎はそう答えて軽く笑った。
「もう……そんなこと、いちいち言わなくて良いの」
夏海はその答えに照れて龍太郎の肘をついた。含み笑いの龍太郎が、夏海の顔を覗き込む。それにシカトするように夏海が歩き出すと、龍太郎がそれに続いた。

「ねぇ、ホントに何が食べたい?決まらないんならどこかで食べてく?」
そう言った夏海に龍太郎は、
「今から外食だと、メインディッシュ食べそびれてもイヤだし」
と言って笑う。夏海は時計を見た。彼が言うほど遅い時間ではない。
「メインディッシュって、コース料理なの?」
「違うよ。」
「メインディッシュがあるんでしょ?」
夏海には龍太郎の言いたいことが解らなかった。
「そう、メインディッシュ、僕の一番欲しいもの」
「何なのよ、解んない」
すると、龍太郎は夏海の背中をすっと撫でてこう言った。
「メインディッシュは海だから…食事に時間がかかったら、後の時間がなくなっちゃうからね。」
夏海は龍太郎に海と呼ばれていた。
「もう、バカ……」
夏海は龍太郎の後ろに回ると、彼の二の腕を掴んで背中に頭を付けた。
「今日は悠(はるか)んちに泊るって言ってきたから。今月はこれが初めてだし。今日は時間があるから」
「でも、僕はやっぱり海の作ったものが食べたいな」
そう言う夏海に、龍太郎は甘え声で返した。
 龍太郎の態度を見ながら、そんな風に言うんならさっさと毎日龍太郎んちに帰れるようにしてくれても良いんじゃない?夏海は心の中でそう返していた。

 倉本夏海(くらもとなつみ)と結城龍太郎(ゆうきりょうたろう)は共に二十四歳。都立高校時代の同級生だった。
 音楽の事で盛り上がったのがきっかけでよく話すようになり、二年生の時に龍太郎から告白を受ける形で二人は付き合い始めた。そして、大学入学を機に龍太郎が生家をでてマンションに一人住まいを始めてから、二人は男女の関係になった。
 やがて夏海が短大を卒業して就職。職場の中で仕事を任されるようになってくると、おいそれと早い時間には帰れなくなる。追って大学を卒業した龍太郎も彼の父の経営する会社に入社すると、ほぼ平日は会えない状態になった。
 夏海の両親はたびたび一人暮らしをしたいと言う夏海の要求を、頑として聞かなかった。龍太郎との関係を薄々感づいている彼らは、そんな事をしたらたちまち半同棲状態に滑り込んでしまうと危惧しているようだった。
 夏海自身、なし崩しに同棲に持ち込もうというつもりはなかった。しかし、時々何が何でも帰らなければならないという今の状況に虚しさを感じるのは事実だった。親の言うことを無視するのは案外簡単なことなのかもしれない。だが、そうなれば親の信頼も失う。そう思うと、それを押し切ってまで外泊することは躊躇われた。
 それでも、時々は主には高校だが、短大時代などの友達を総動員して、順番に彼女らの家に泊まることにしてもらって泊ることもある。しかし、それすら月に一回、多くても二回が限度だ。しかも、頼みの綱である件の友人たちもちらほら結婚を始めていて、“言い訳”ができる場所が減ってきた。
 しかし、そのことを苦々しく話しても、龍太郎はどこ吹く風だ。
「今のままで良いんじゃない?」
そう言って笑うだけだった。
「お互い仕事が忙しいからね、毎日一緒に居るとケンカするだけだから」
そう思って時間がもっと合わなくなりそうな保育士になることを諦めて普通の企業に就職したし、大きなケンカをしていないということが本当はどういう事だか解っているんだろうか……

(本当にこの鈍感自己中男! 自分の時間がほしいなんて甘いこと言わないでよ!)
 いつまでこのままなのだろうと、夏海は思っていた。
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