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満月(フルムーン)に焦がれて22

乃笑留は6歳になった。

「ねぇ、パパ見て!」
乃笑留は出来てきたばかりの小学校の制服を着て洋介の前でくるりと回って見せた。
「それを着るとすっかりお姉さんだな。」
洋介はすっかり目じりを落としてそう言った。
「えへへ…早くお兄ちゃんとがっこ行きたいな。」
お兄ちゃんと言うのは周人のことだ。
洋介は背筋を伸ばして
「出席を取ります。木村乃笑留さん。」
と先生の真似をしてみせた。
「はい!」
乃笑留がそれに対して元気に返事をする。
「いい返事だ。いい子だよ、乃笑留は。」
洋介はそう言うと、乃笑留を抱きしめて頭をなでた。
「はいはい、そのくらいにして。乃笑留、汚してしまわないうちに早く脱いでちょうだい。入学式にヨレヨレの制服なんか着たくないでしょ。」
小百合はそんな2人の様子を見て苦笑しながら乃笑留にそう言った。
「はーい。」
乃笑留は返事して着替え始めた。

「この姿お義母さんに見せたかったわ。」
ぽつりと小百合がそう言った。
「そうだな…」
洋介が相槌を打って唇を軽く噛み締める。洋介の母は前年に癌で亡くなっていた。あの時義母がいなければ乃笑留は無事に生まれていたかどうか、自分もこうして生きていたかも判らない。それだけに孫の晴れ姿を1つでも多く見て欲しかった…小百合はそれが残念だった。

「でも、俺は何か複雑だよ。」
ハンガーにかけられた乃笑留の制服を見ながら洋介はこう言った。
「どうして?」
「乃笑留が生まれたとき、桜木にあの子を周人の嫁にくれって言われたんだよ。何か今、確実にその方向に行ってるような気がしてさ。」
「あなたたち生まれたばかりの赤ちゃん見ながらそんな話してたの?」
男の人ってどうしてこうとんでもなく先の話を、まるでリアルタイムのように会話できるのだろう。小百合はそう思うとおかしかった。
「あの時、俺断ったんだよ。『お前のDNAを色濃く受け継いだら乃笑留が苦労するから』ってな。」
「断ったの?」
「実は、赤ん坊のときからかっさらわれてたまるかって思ったからだけど。」
それって、まだ赤ちゃんの周人くんに洋介さんヤキモチ焼いてたってことじゃない?これじゃ、大きくなって周人くんが乃笑留を本当にお嫁さんになんて言ったら、この人一体どんな顔をするのかしらと小百合は思った。

「ちょっとレンタルショップに行ってくるよ。」
その後、洋介はそう言って外に出たままなかなか帰って来なかった。
どうしたのだろう…そう思いながらリビングの乃笑留の玩具をおもちゃ箱の中に入れたとき、電話が鳴った。
「はい、木村です。」
「もしもし、木村洋介さんのお宅ですか。」
耳慣れない男性の声だった。
「こちら○○中央病院なんですが。洋介さんが事故に遭われました。至急来てください。」
あまりに突然なことで、小百合はしばらく電話の意味が理解できなかった。それでも、ようやく怖ろしいことが身に起こったのだと解かったとき、小百合は世界が曲がって沈み込んでいくような感じがして、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「木村さん、木村さん…」
「はい…わかりました。すぐ、参ります。」
そう答えるのがやっとだった。
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