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終章-遠い旋律29

終章


今日は、高広の命日で、私は高広の両親と久美子ちゃんと4人でお墓参りを済ませた後、あの桜の木の下に来た。

「あれから6年か、早いな…」
「そんなに経ったとは思えないけど。」
お母さんの相槌に私も黙って頷いた。

桜の木の下には30代の男性が立っていた。
「紹介させてもらっていいですか。」
私は3人にそう言ってから、その男性に手招きをした。彼は杖に寄りかかりながら私たちのところに近づいてきた。
「松野芳治さんです。」
私は彼-芳治さんを支えるように隣に陣取った。彼はゆっくりと会釈しながら高広の両親と久美子ちゃんに言った。
「はじめまして…松野です。高広君のことはさくらさんからいつもうかがってます。」
「はじめまして、坪内です。何か…」
不思議そうに尋ねる高広のお父さんに、芳治さんは照れながらこう言った。
「実は、私たちのことを許していただこうと思いまして…」
「さくらちゃん、ってことは…あなた…」
「ごめんなさい、松野さんについていきます。」
驚いた高広のお母さんに、私ははにかみながら言った。
「謝ることなんかないさ、おめでとう。」
「そうよ、何も謝ることなんてないわ。素敵なことじゃない。高広もあなたが泣き暮らすより、その方が喜ぶわ。」
そしてお父さんは芳治さんに握手を求めながら言った。
「許すもなにも、私たちにはそんな権利はありませんよ。どうか、高広の分までさくらさんを幸せにしてあげてください。私たちからもお願いします。」
「ありがとうございます。」
芳治さんは握手に応じながら何度も頭を下げた。


松野芳治さん…私が高広の病気を知ったすぐ後に退院、その時私が号泣してしまったあの患者さん…

彼には奥さんと当時1歳になる娘さんがいた。

ある雨の日、3人でドライブしていた彼らの車に、違反を逃れようとしていた車が激突、奥さんと娘さんは死亡、芳治さん自身も瀕死の重傷を負い、2度の大手術の後生還した。

生還したものの、たった一人生き残ってしまったことを深く悲しんでいた彼。そんな中で退院の日に見たのが私の号泣する姿だった。彼は自分のために泣く私のことが解からず、他のナースに事情を聞いたと言う。

高広の亡くなった後、整形外科の外来に異動した私は、それから度々リハビリに来る芳治さんと顔を合わせるようになった。

同じように愛する人を失った私たちは、ゆっくりと時間をかけて互いの傷を癒しあい、やがてそこに愛が生まれた。

「私はずるいんです。高広君のお株を奪って、ここでプロポーズさせてもらいました。おかげでOKももらえましたし。」
芳治さんはそう言って笑った。
「そうですか…たぶん高広は喜んでると思いますよ。」
「そうだといいんですが…」
「じゃなきゃお兄ちゃん、別れさせるように仕向けてると思いますよ。」
「じゃぁ、私は高広君のお眼鏡にかなったってことなのかな。」
久美子ちゃんにそう言われて、芳治さんは照れて頭をかいた。
久美子ちゃんはたぶんふざけてそう言ったんだろうけど、私もプロポーズを受けた時に同じことを思っていた。

桜が満開の中
「これからの人生を私と一緒に過ごしてくれませんか。」
芳治さんにそう言われた時、桜の木と高広が祝福しくれているような…そんな気がしたのだ。
「そんな感じはしないけど…やっぱり6年経ったのね。」
お母さんが感慨深げにそう言った。



夜…私は久しぶりにノエに電話を入れた。後ろで子供の泣く声がする。
「ゴメン、リュウちゃん起こしちゃった?」
「いいのいいの、久しぶり!最近連絡なかったけど、何か用?」
「実はね、今度…」
 
                                          -The End-
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theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

「杖をついた男性が近づいてきた」というところで、初老の男性が思い浮かんでしまい、「ん?どこのお爺ちゃんが出てきたの?」って、そのイメージが消えないままエンディングとなってしまいました。

やっぱりね…

ご愛読ありがとうございました。

やっぱ…そうですか…

名前も爺臭いですしね、もっと若っぽい名前にしとくべきではありました。

とにかく、本編から早く抜けたかったんです。
芳治さんはさくらより5歳年上の34歳です。ちゃんと2人の道筋もあるんですが…それをきちんと書くとまた長くて…だって、傷を癒すのに6年かかってる訳ですから、いろいろ紆余曲折が…

命を失いかねない大事故から生還した彼が全くの健康体に戻る設定はありえませんでした。
車椅子にするかどうか迷いましたが、さくらの実の両親の事を考えると車椅子にはできませんでした。(ご都合ですが)だから、杖に頼れば何とか歩けるという設定になったんです。

NoTitle

こちらも遅ればせながら、読了しました~。
たすくさんの作品は、(悪い意味じゃなく)淡々とテンポよく進んでいきますよねー。

不思議だったんですが、ストーリーの冒頭から、思い出を懐古してるような雰囲気を感じて、もしかしたら誰か死ぬ…? とビクビクしながら(笑)読んでいたんです。
ほんとに高弘が死んじゃったときは、さくらを心配しました。
やせ我慢してた高弘、切なかったですねー。

自分にとって「大事」のひと言では表しきれない人が、ある日突然いなくなったら…って、想像もつきませんが、さくら、頑張って~とずっと応援してました。
最後にさくらが幸せになって、ほんとにほっとしましたよ!

NoTitle

RUMYさんへ

コメント嬉しいです!遅いなんてとんでもないです。

あはは、さすが、読まれてましたね。
「遠い旋律」というタイトルからして別れるか死ぬかってばれるよなぁって思いつつつけました。

男の美学とか言いつつ、高広にやせ我慢させすぎましたね。
テンポが良いというか、死にキャラ書くと体調崩すので、早めにまとめないとヤバイと言うか…(の割には毎回誰かが死んでいるような気がするが)

あ、そういうSな奴だということを念頭に置いてよろしければこれからもお付き合いください。
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