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ある憶測-遠い旋律11

ある憶測


「ちょっと何それ!信じらんない!!」
高広からの別れの言葉を告げると、ノエはそう怒鳴った。
「何か引っかかるもんもあるけどさ…んでも、高広くん見損なったわよ。さくらがここまできれいになったってんのに、他の女のとこにいくか?フツー。」
「たぶん、新しい彼女は、あいつのウソだと思うけど…」
ウソだと思いたい。そんな気持ちも含まれてるのかもしれない。私にはどうしても他に好きな娘がいるとは思えなかった。
「じゃぁ、一体何?どうしたらそんな選択肢が出てくるわけよ!」
「それを聞きたいのは私よ!!」
でも、ノエが怒りに任せてそんなことを言うから、私は思わず彼女に怒鳴ってしまった。
「あ…ゴメン。ノエが悪い訳じゃないのに…」
「謝らなくていいよ。あたしの方が言い過ぎた。」

ノエには言えなかったけど、気にかかっていたことはあった。それは、高広の家であいつが私の顔を覗き込んだ後見せたあの表情と、あいつも痩せてしまっていること。もしかして、何か病気じゃないかって…

でも、病気だったとしても、それがたちまち別れなきゃならない原因にはならない。私は病院に勤めているんだし、相談してくれたら一緒にタッグを組んでも治していけるはず。
ただ…それができないとしたら…もう、治しようのないところまできているのだとしたら…全て辻褄が合うことになる。

私は、自分の憶測が正しいと認めたくはなかった。でも、何度考えを巡らせても考えはそこに行き着いた。認めるのが怖くて、私は高広の別れを受け入れた。
正直言えば、一度だけたまらなくなって電話を入れてしまったけど、高広は何度鳴らしても出てはくれなかった。(人には番号を外せと言ったのに、私からだって判ってる)
私にはそれが、高広からの暗黙の答えだというような気がして、余計辛くなったから、2度とかけることはなかった。そして、高広が言うように、別に彼女が出来たんだ、そうムリに思い込むことにした。

そして、さくらの季節がやってきた。今年は冬が長くて中々だったけど、やっと開いた。
私は病院前の桜の木がぽつりぽつりと花を開かせた時から、他の人がきれいだとつぶやく声を聞きながら、ずっと俯いたまま通勤した。見上げると眩しくて、きれいで、涙が出そうだったから。
私の名前がさくらだから、一緒にここで花見がしたいと言ってたな、あいつ…今、どうしてんだろ。

「三輪ちゃん、お疲れ~。」
「じゃぁ、上がりま~す。」
そんなある日のことだった。
夜勤を終えた私は、帰ろうとして職員通用口に向かっていた。
職員通用口は救急の搬送口のすぐ隣にある。
私は駆け込んできた1台の救急車のサイレンに反応して、何気なく救急搬送口を覗き込んで降りてきた急患を見た。

そして、次の瞬間-私は凍りついた。
-血の気を失くして苦痛に歪んだ顔で運ばれて、病院のストレッチャーに乗せられた搬送者は、他でもない…高広だったからだ。-

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