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Turning Point 10

 デボーション、それは日本語では黙想と訳されているだろうか。個人や家庭などの小規模単位で行われるプチ礼拝とでも言えば解りやすいかもしれない。
 私も博美さんも仕事を持っているので、自由になるのはやはり日曜日。結局、拓也が音楽集会に参加する間に(明日美さんもキーボードでバンドに参加しているので)親たちは今時のゴスペルフォークを賛美代わりにして、デボーションガイドを元に進める。
 まず、最初にこの交わりに感謝の祈りを捧げて、それからどちらかが聖書を音読する。音読する方がそれぞれが黙読するのより、理解力が高まるのだと博美さんは言う。
 聖書を一緒に勉強するようになって、私は博美さんの人となりとか生きざまのようなものを、よりまざまざと感じることとなった。
 
 最初の感謝の祈りにしても、私はそう言うセオリーなのだという気持ちしかなかったのだが、彼女には『今日、こうして教会に来れたこと』自体が奇跡で感謝なことなのだと言う。
「だって、私は本当は20歳で死んでいたはずなのよ。後は神様が与えてくださったおまけの人生。でも、おまけの人生の方が長いなんてなんか変だけどね」
 そして、私の最大の謎だった、先輩との離婚。
 彼女は、自分が死ななくていいと医者から言われても、そのことを長い間受け止めきれなかったようだ。私なら、『ラッキー!』で終わりだけど、元々死と対峙して生きてきた彼女にはある意味究極の目標を失った状態だったのかもしれない。
 そんな彼女が見つけた新たな目標が先輩との結婚。でも、ここで治ったはずの病気が壁として立ちふさがる。結婚生活はしてもいいけど、子供は産んじゃいけないだなんて……
 もちろん、避妊すらしちゃいけないみたいな教派もあるみたいだけど、この教団はそんなことを規制してはいない。
 でも、私たちより一世代二世代前の年輩の信者さんは総じて子沢山だ。牧師はその筆頭で、年輩じゃないが、私に博美さんを頼むと言った彼女の実のお姉さんの順子さんも4人の子持ちだ。
 それでも私たちの世代になると、子供の数は二人か三人の人も多い。それでも、一人っ子ではない。
 博美さんの病気も、治った、奇跡だということが先行し、但しの部分は伝わらない。明日美さんが生まれていることを考ると、もしかしたら彼女は先輩にさえその事実を妊娠するまで隠していたんじゃないだろうか。先輩がもし知っていれば、先輩のことだ、子供を持たないという選択肢を選ぶに決まってる。
 知らないのだから当然だが、年寄り連中は彼女に子供のことを聞いてくる。まるでそれが既婚信者の務めとでも言うように諭される。そして、やっとのことで明日美さんを産んだ後も、『一人っ子じゃかわいそう』と言われる。開き直ることのできない博美さんの性格ではそれは拷問にも等しかったに違いない。
 やがて、博美さんは20歳の時と同じようにたびたび過呼吸を起こすようになっていた。
 そんなときに間が悪く現れたのが、私だったのだ。
 
 


  
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Turning Point 9 

 本当に導きというものはあるのかもしれない。健斗が子供礼拝に出たいと言い出した理由は、終わった後、心おきなく友達と遊びたいためだったのだろうけれど、車でしか行けないこの教会に来るためには私か篤志のどちらかが健斗を連れて来なければならない。篤志は朝早く出てくるのはイヤだというので、私が健斗を連れて行くことになった。健斗を置いてそのまま時間をつぶしても良いのだが、博美さんの
「菅沼さんも一緒にどうぞ、外に出るのも面倒じゃない?」
という言葉で、何となく一緒に子供礼拝に出るようになってしまった。ここでは、信者が子供のための伝道教材を用いてメッセージを取り次ぐ。博美さんもその一人だ。明日美ちゃんは高校生で、子供礼拝の参加メンバーではないが、博美さんは明日美ちゃんがいた頃から引き続き教師を続けているのだ。
「子供への伝道は大切にしなきゃ。神様が決められた時間は人には判らないもの」
と、博美さんはしみじみと言った。命の期限が人には見えないことを身に染みて感じている彼女だからこその発言だと思っていると、博美さんはぺろりと舌を出して、
「うふふ、でもそれは表向き。本当はね、子供がしっかりと信仰を持ってくれれば、教会から離れることはないでしょ。今のご時世、菅沼さんみたいに家族で新たに来てくれる人たちなんてなかなかないのよ。増えなきゃ減らさない努力をしなきゃ」
と言った。しかし、彼女は根っからそんな打算的に考えている訳ではなく、きっと関わった人が一人と漏れるとなく、永遠の生命を得てほしいだけみたいだ。
 それに、安藤師は取り立てて難しい学術的な教義を話している訳ではない。それでも勉強からはるかに遠ざかっていた私にはそこそこハードルが高かった。子供礼拝の聖書の言葉は、私の心の中にどんどんと染み込んでいった。
 それで私は、自分でも聖書を読もうとしたが、大人の礼拝でもいっぱいいっぱいなのに、一人で聖書を読んでもぜんぜん解らない。
「ねぇ、子供礼拝の時に持っている手引書? あれって、どこで買えるんですか?」
「へっ、何で?」
「一人で聖書を読んでみたいと思うんですけど、どこから読んだらいいか分からないし、読んでも意味分からなくて」
私のその発言を聞いた博美さんは
「聖書読みたいの? うれしい!!」
と言って飛び跳ねんばかりに喜んだ。そして、
「教案を使わなくても、聖書を読むためのデボーションガイドっていうのがあるの。持ってるから見せるよ」
と言いながら、礼拝用の鞄から一冊のA5の冊子を取り出した。左のページには、日付とその日の聖書の架所が書かれてあり、そのところに合わせた短い信仰の話が載っていて、右のページに、その聖書の架所を読んでの自分の所感を書くようになっている。しかし、これだけでは自分だけで読むのとたいして変わらないと思ったら、いきなり読まないように、別紙でその聖書の架所の解説(注釈というらしいが)がついていた。それでも、使い込めるようになるにはそうとう時間がかかりそうだ。それまで忍耐は持たないだろう。そう思っていると、
「ねぇ、一緒に聖書研究しない?」
と博美さんが言った。
「いえ、その……」
「一人でするより二人でした方が絶対に解るよ、ねっ」
「え、ええ……」
「ホントに? うわっ、楽しみ!!」
博美さんの勢いに呆気にとられて思わず頷いてしまった私。それを見て彼女は、喜々として今にも踊り出しそうだ。昔の遺恨とかがないのかとかいうレベルじゃない。どうしてそこまで私と関わりたいのだろう、そう思って首を傾げるほど彼女は私と友達になりたがっていた。  

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genre : 小説・文学

Turning Point 8

 翌週、私たちは息子たち二人も連れて教会に行った。拓也のクラブで使うシューズを道中、靴の量販店で買うためだ。どんどん大きくなる彼の靴は、本人が一緒に行って買わないと心配で、本当は前日買うはずだったのだ。しかし、拓也は友達と約束していてとっとと遊びに行ってしまった。
「足痛いんでしょ? なら早く買わないと、足の形まで悪くなっちゃうでしょ」
と、渋る拓也を有無を言わせずに連れていこうとすると、
「拓兄いくの? いいな、僕も行きたい」
と、健斗は自分から一緒に行きたがった。でも、その理由は分かっている。
「健斗、明日行ってももう飯は出ないぞ」
「えーつ、ご飯ないの? 父さんたちだけずるいな」
やっぱり。篤志は食いしん坊の健斗にわざと愛餐会の話をしたのだ。
 まぁいいか、小学生の健斗一人だけ置いて行くのは不安だし、一緒に行けば……それくらいの気持ちだった。そして、母子室にいれば同年代の子どもが他にいるだろうし、まぁ、馴染めなくても携帯ゲームでも持たせておけば何とかなるだろうと。
 ところが、(つい一月ほど前に新しいバージョンが出たばかりだったこともあって)健斗と同じゲームを持ってきている信者の子弟がいて、大盛り上がりで通信対戦やらキャラクター交換をして、短時間の間にすっかり仲良くなってしまった。そして、
「ねぇねぇ、僕来週から子ども礼拝にも出たい」
と言い出す始末だ。大人の礼拝なら10時半でいいが、子ども礼拝からになると、9時半までに来ないといけない。なんだか休みが一日なくなった気分だけれど、子どもだからその内飽きるだろうし。
 それで、私は健斗と一緒に子供向けの聖書の話を聞くことになった。
 一方、いやいや行ったはずの拓也は、青年の人にバンドをやらないかと誘われてまんざらでもない様子。ちゃっかりとその人にギターを教えてもらう約束まで取り付けていた。
 その上、拓也はあの明日美さんにほのかな想いまで抱くようになって(さすが親子というべきなのか)、率先して行きたがるようになった。
「全てが導きの中にあるのよ」
後日その話を聞いた博美さんは(さすがに拓也が娘さんに恋心を抱いてますとは言えなかったけれど)そう言った。「そう言えば冴ちゃんが始めて来た週の聖書の架所は「コヘレトの手紙」だったよね。【全ては時にかなって美しい】神様はその時にご計画を示してくださってたんだよね」
と言って、ちょっぴりその目を潤ませた。 

 
  

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Turning Point 7

 献金をして、そのお祈りが終わった後、司会者は、
「今日も新しく教会に見えられた方がおられます。えーっとお名前は……寺内さん紹介してもらえる?」
すると、博美さんは、
「私がですか?」
と一旦言ってから立ち上がり、私たちにも立つように促すと、
「故寺内の会社の方で菅沼さんご夫妻です。私も名字しか知らないので」
と言って、私たちに申し訳なさそうに頭を下げると、
「すいません、自己紹介お願いします」
と言った。と言っても、どう言えばいいの? と思っていると、篤志が
「菅沼篤志です。寺内さんとは職場の同僚です。こっちは家内の冴子です。以前は家内も勤めていたので、寺内さんのお通夜に二人で寄せてもらって、今日ここに来ました。教会のことは何も分かりませんがよろしくお願いします」
と、率先して挨拶した。当たり障りないことを言ってるだけのようだが、後から考えると続けて来ることを前提で話しているようにも思える。私は彼が話し終えるのを見計らって一緒に頭を下げた。会場が拍手に包まれる。
 私たちの挨拶が終わると司会者は諸事の報告を始めた。それによると、今日は愛餐会と言う食事会があるらしい。
初めての私たちは帰れる時間さえ判らなかったので、たまには二人で食事も良いかと、息子たちのお昼を用意してでてきていた。それを知ると博美さんは、
「是非残って行って。聖餐式の時には礼拝時間が押すから、みんなが一品ずつ持ち寄って食べるんです。そんな豪華な料理ではないけど」
と、残って食事してほしいと言った。私が、
「私たちが残ったら足りなくならないですか」
と言っても、
「みんな2~3人分持ってきてるし、余ってもまた他の人のを持って帰るだけだから」
と、まだ引き留める。どうせ帰りがけに寄ると言っても、帰りまでの道中にあるラーメン屋かドライブインだ。それよりも何日か前からCMが流れていたから、篤志お気に入りのハンバーガーショップで期間限定のプレミアムバーガーを食べる確率が高い。でもどっちかと言えば、私はハンバーガーは苦手だ。子どもたちも今より小さかった頃、キッズセットのおまけにつられて時々食べたがったが、子どもたちの横で私はコーヒーだけを飲んでいることが多かったし、教会の人たちが丹精込めたおかずというのにもそそられる物がある。
 そして、残った私たちの前に現れたのは、ホテルの朝食バイキングかと思うようなラインナップだった。確かに一品一品はごくふつうの家庭料理だ。しかし、ちゃんと分担分けされて作られたそれは、とても豪華な食事になっている。それが食材を持ち込んだ人は無料で、持ってこなかった人も300円で食べられるのだ。しかも、私たちは初めて教会に来たということで、今回は無料で良いと言われた。
 別に、誰からも変な目で見られることもなく、私たちは料理を堪能して、長い休日の半日を過ごした。

「立ったり座ったり、結構忙しかったけど、面白かったね」
「また来ような」
とんでもなく満腹になった帰りの車内で、別に食べ物につられたわけではないが、私たちはどちらからともなくそう言っていた。




 

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Turning Point 6 

 前奏の後、開式の挨拶の後一曲目の賛美歌。いきなり起立するように言われる。
 曲が終わると、一旦座って司会者が祈る。それが終わるとまた立って、『使徒信条』と言われる条文の朗読。これは週報の隅に載っているので、週報を夫婦で一枚しかもらっていなかった私たちに、博美さんがすっと自分の週報を差し出しながら、その部分を指で示す。どうやら彼女はそらでそれを覚えているらしい。というよりこの条文と、賛美歌を挟んで後の『主の祈り』は、暗記してしまっている人の方が多いようだ。ただ、ここ10年ほど前に賛美歌が口語表現に(現代には使われてない用語と、不快語を見直したらしい)変わったのを機に、それらも現代の言い回しに変わっていて、年輩者は逆についうっかり前の条文を口にしてしまうと、見ている人が多かった。
 主の祈りが終わると、聖書の朗読。コヘレトの言葉とか言われても私たちはさっぱり解らない。すると、博美さんはあっと言う間にその場所を開けて私たちに差し示し、私たちの借りた聖書を自分に渡すように促すと、司会者の朗読が始まるまでにその聖書も開いてしまった。
「は、早っ」
と、思わず篤志がつぶやくと、
「私、お腹の中から教会に来てるし……」
と照れながら彼女は返した。
 聖書の朗読が終わると、起立して賛美。その歌の間に、安藤師が高壇に上がる。安藤師は短く祈りを捧げてから話を始めた。すると、博美さんは何やら熱心にメモを取り始める。しかも、よく見ると外国語で……私が目を瞠っているのに気づいたのか、博美さんは頬を染めながら、
「今勉強中なの。この方が疲れていても寝ないしね」
と囁くように言った。後で聞くと、若い安藤師はそうでもないが、前夜式で話した中野師は時々神学の根幹のような話をされたらしく、そういう学術的な話は眠いと彼女は笑っていた。それに、私たちもそうだが、先輩のご両親とお姉さんと、教会に今まで来たことのない人が結構出席している。彼女曰く、とっつきやすい話を持ってきたなと思ったらしいが、慣れない私には大学の講義を聴いているようだった。
 メッセージが終わると、司会者が今度は『聖餐式』というものをやると言う。最後の晩餐を模して行われるそれは、御子の体を模したパンと、血を模したブドウ液(日本では未成年の飲酒が禁じられているため、100%のブドウジュースだそうだ)をみんなで分かち合う。信者の神とのつながりを再認識させる行事で、毎月第一週に行われているのだが、今月は連休にかかるため、この週に変更されていたのだ。
「この聖餐は、受洗しておられればどこの教会でも問いませんが、受洗していないとあずかることができません。ですが、その方々には、牧師が祝福の祈りをしてくださいますので、皆様礼拝堂の前までお越しください」
「なんだ、俺たちはなしか」
と篤志。礼拝のことをミサということがあるが、それはこの聖餐が語源で、ラテン語で『出て行け』なのだそう。確固たる信仰をもって御子の身体と血を受け継ぎ、外の世界に出て行くための行事として、大切にされているのだ。
後日、洗礼準備会でそれを聞いた篤志は、
「おっ、何だかそれってヤクザのかための杯みたい」
と言って、横にいた私を慌てさせることになるのだが。
 そのまま座っていると、みんなと一緒に飲み食い(一口ずつなので、そう言うのもどうかと思う量でもあるが)できないから拗ねていると思われるのもなんだしと、別に祈ってもらいたくもないのだが、みんなと一緒に前に出て行った。みんながパンとブド液をもらうときに、牧師が私たちの頭に手を置いて、
「あなたに神様の祝福がありますように」
と祈る。みんなに配り終わると、信者は一斉に飲み食いする。
 それが終わって席に戻ると、今度は献金だと司会者は言った。
「献金は信仰によって成されるもので、礼拝の参加費などのそういった意味合いは一切ありませんので、ご用意のない方は、遠慮せず係りが参りましてもそのままやり過ごしていただきますように」
と、司会者は続けた。お志のようなものなのだな、と私は思った。それならば、なおさら空手でシカトなんかできないのが日本人というものだ。私は慌てて財布を開けてお金を取り出した。そして、博美さんの方を見る。教会の長椅子には、背もたれの部分に、後ろの座席のための聖書などを置くシェルフのようなものが付いているのだが、その上には封筒が置かれており、そこには『衛昇天感謝』と書かれてあった。確かに前夜式のあの日、私に感謝すると彼女は言ったが、人が死ぬことに感謝するという感覚が私にはやはり解らなかった。



 

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Turning Point 5

 翌週には用事があり行けなかった私たちは、その次の週、早速教会の礼拝に出席した。
「ようこそ。よくいらっしゃいました」
玄関先で受付の女性がそう挨拶した後、
「この教会は初めてですか?」
と聞いてきた。結婚式と前夜式には来たけれど、教会らしい教会は今日が初めてだ。
「はい」
と私が頷くと、
「では、お手数ですがこちらの用紙に礼拝が終わるまでで良いですので、ご記入願えますか?」
と、週報と書いてある礼拝の式次第、聖書・賛美歌とともに、一枚の用紙をバインダーに挟んだ状態で私に差し出した。アンケートのようだった。来会のきっかけ、信仰歴(何故こんな質問事項があるのか、このときは解らなかったが、この教会が始めてでも、転勤や旅行などで別の教会に通っているということの方が、実は多いのだということを後で聞いた)聖書を読んだことがあるか、メッセージがどうだったかと、事細かに記入するようになっている。
「冴子、頼むな」
すると、篤志は事務屋のクセに、さっさと私に放り投げってきた。
「私だってわかんないわよ」
と、むくれて私が返すと、それを聞いていた受付の女性が、
「そんなに堅苦しく考えないでとりあえず、ご連絡先だけでけっこうです。これは集会のご案内を差し上げるためのものですから」
と付け加えた。見ると、用紙の末尾にも同じことが書いてあった。
 それを持って私たちは礼拝堂の一番後ろの座席に座った。
 しばらくすると、がやがやと幾人もの子どもたちが礼拝堂に入ってきた。母子室で行われていた子ども礼拝が終わったのだ。出席しているのはほとんどが信者の子弟で、終了後親の所に一旦来るのだ。
 それから程なくして博美さんが礼拝堂に姿を現した。
「菅沼さん、来てくれたの!」
彼女はそう言って破顔する。そのままハグされそうな勢いだ。そして、
「ねぇねぇ、そんなところにいないで一緒に座りましょう」
といって、前から2番目の席を勧める。確かに長椅子は三人掛けだったけれど。
「お母さん、、新しく来てくれた人を困らせちゃだめじゃない。お父さんの会社の人なんでしょ」
「だって、全然知らない人が座るよりいいでしょ」
そこに来た長身の女の子が博美さんをたしなめる。ああ、この子が先輩の娘さんの明日美さんか。
それに対して博美さんは小さな子どものようにむすっと頬を膨らませていた。親が頼りないと、子どもがしっかりすると言うが、まるで親子が逆転しているような感じだ。
「お嬢さんと一緒に座らなくていいんですか?」
と私が聞くと、
「あの子はお義父さんたちと座るから、いいの」
と返してきたので、全く知らない人が横に来るよりは良いかと、彼女の言う席に移動する。そして、しばらくして礼拝が始まった。


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Turning Point 4

「僕も一緒にいいですか? あ、冴子の夫で、菅沼篤志と言います」
「ええ、もちろん構わないですよ」
 私が礼拝堂の隣の部屋(後でそれが母子室という幼児を遊ばせながらメッセージを聞くことができる部屋だと知った)に行くのを見て、篤志がやってきた。
 そこで、私は生まれて初めて神に祈った。神社なども神様と言うから、初詣などを含めばそうではないのかもしれないが、平易な具体的な言葉で声に出して祈るのは初めてだ。当然、ふさわしい言葉など浮かんでくるはずもなく、安藤師の言葉をなぞって口にするだけなのだが。
 そしてそれが終わって教会を後にしようとした時、博美さんが、
「菅沼さん、また来てくださいね」
と言った。私は社交辞令と言うには似つかわしくない清々しいその表情を見て、思わず
「あなたは嫌じゃないんですか?」
と彼女に聞き返していた。
「へっ?」
「私は先輩を横取りしようと思っていた女ですよ」
「だからです。同じように衛を好きでいてくれた人なら、すごく話合うと思うから」
それに対して彼女はそう言った。

 あの人、なんかずれている。駐車場に着いて篤志にそう言おうとした時のことだった。教会の中から慌てて走ってきた女性がいた。
「菅沼さん、先ほどは主人が失礼なことを申しまして。私、博美の姉の曳津順子です」
女性はそう言って私に頭を下げた。主人ということは、あの曳津牧師というのは、彼女の兄(または義兄)になる訳か。なら、彼女の側に立って物を言うのも何となく理解できる。
「もし良かったら、また来てやってくださいね」
そして、この人もまた私を誘った。何故?
「え、ええ、まぁ」
私は、その時牧師の妻という肩書きがぱっと頭に浮かんで、そうまでして信者を増やしたいのかと、おざなりに返事をした。すると、順子さんは
「お願いしますね」
と、ほっとした笑顔を向ける。そして私の怪訝そうな顔に気づいたのか、
「ヒロ、同年代の友達がほとんどいないんです」
と、付け加えた。だからって、それをわざわざ夫を奪おうとしていた女に言うの? 私はそう思ったが、順子さんが続けて言った、
「あの子、ヒロはね、ある病気で成人はできないだろうって言われていたんです」
という言葉で思わず息を飲み込んだ。
「ヒロが18の時に治療法が確立されて、あの子奇跡的に助かったんですけど、そんな訳でヒロには同年代の友達が本当に少ないから」
「順子さん」
その時、玄関の方から曳津師が順子さんを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、じゃぁ主人が呼んでいるので行きます。じゃぁ、お願いしますね」
順子さんはそう言うと、来たときと同じくまた慌ただしく教会の中に入っていった。

「何なんだろうな、あれ。たぶん、ありぁ奥さんと彼女が兄弟だな。顔はそんなに似てないけど、ぶっ飛び具合がそっくりだ」
 車で走り出した後、篤志がぼそっとそう言った。私はそれに頷いてから、
「ねぇ、私またここに来て良い?」
と聞いた。
「何でまた?」
「何だか、あの人面白そう」
私がそう言うと、篤志は目を丸くして、
「確かにぶっ飛んでるけどさ。あの元奥さんはともかく、他の信者に何か言われないか? いきなり仲間を殴った訳だし」
と言ったが、
「ま、俺もまたあの安藤さんとは話してみたいとは思ったし、もっかい位は来るか。そこで何か言われる様ならもう行かなきゃ良いことだし」
と言い、ここから私たち夫婦の教会生活が始まったのだった。






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