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Turnimg Point 3 

「北村さん……」
「菅沼、止せっ!」
いきなり博美さんを殴った私を見て、慌てて堀木さんが私を羽交い締めにする。
「かっこ良かった先輩をあんなに太らせて、病気にしちゃうなんて。あんたは人殺しよ」
私が羽交い締めにされたままそう叫ぶと、前の方から親族らしい男性がつかつかとやって来て、博美さんをかばうように間に立って、
「それは、そのままあんたに返すわ。あんたがおらんかったら、衛君と博美ちゃんは別れんで済んだんや。そしたら、衛君は一人寂しく大食いする必要はなかった。そしたら、今みたいな結果はなかったはずや。僕は赦しを説く立場やけど、あんただけは許せそうにない」
と早口の関西弁でそうまくし立てた。
「曳津先生、それは違うわ」
先生? ああ、牧師か。悲劇のヒロインはこうやってみんなを味方に付けるのか。
「何がちゃうの!」
だけど、ムキになってそう返す曳津牧師に博美さんは私の想像しなかった言葉を吐いた。
「確かに、私も北村さんのことは許せなかったの。特に、15年ぶりに衛に会った時は、私の15年間を返してほしいと思った。でもね、許せませんって祈っても平安は与えられなかったの。そして神様に『このことを感謝しなさい』って示されたの」
は? 何それ!?
「北村さん、あなたがいなかったら私たちは離婚してなかった。それは事実だと思う。だけど、離婚は私が持っていたコンプレックスから私を解放してくれた。もし、あのまま衛と夫婦を続けていたら、私きっと壊れてたと思うから」
「博美ちゃん……」
「それにね、衛は私と離れることで神様と向き合うことができたと思うの。神様は衛がちゃんと信じた上で引き上げてくださった。昨日の洗礼式で、私ははっきり衛の永遠への道が見えたよ。北村さん、私はあなたがいたから御国に望みがつなげた。それは感謝すべきことだとは思いませんか、曳津先生」
「それは……」
正直言って彼女の言葉は私には全く理解できなかった。
「『絶えず祈りなさい、喜びなさい、すべての事に感謝しなさい』まさにみことばの実践ですね」
そこに今度は若い男性が笑顔で割って入った。
「安藤先生」
この人も牧師なのか。
「曳津先生、先生は私に寺内さんの洗礼準備会を頼むときに言ってくださったじゃないですか。『このことに深い神の配慮を感じる』と。人間的には悲惨だとしか思えないこのですが、神はそれすらも恵みと変えられる。私は今、神のそんな深い摂理に感動で震えが止まらない」
そして、この安藤という牧師は私が全く理解できない事柄に関して目をきらきらさせて感動している。安藤牧師はその笑顔を私に向けると、
「北村さんとおっしゃいまいしたっけ」
と名前を聞いたので、
「今は結婚して菅沼です」
と、訂正した。別にムキになって訂正することもないのだが、何となく旧姓で呼ばれると今でも犯人扱いされているような気がしたから。
「菅沼さん、あなたは本当は自分が不用意にいった一言で寺内さん夫妻が離婚してしまったことを後悔しているんじゃないんですか」
「あ、いえ、ええ……」
 分かっていたけど、目を背けていたそのことを指摘されて、不意に涙が私の頬を伝った。
 どんなことをしてでも手に入れたいと思った。でも、彼は別れた後も自分を見てはくれなかった。彼の目に映っていたのは、いつも一人だけ……何故だ、どうして彼女にそんなにこだわるのかとずっと思ってきた。
 だから、私はこの人に斬られたかったのだ。『衛を殺したのはあなただ』と取り乱して叫ぶ彼女を見たかった。そしたら、私自身の思いに決着を着けられる……はずだったのに。
 それを、この人は恨まれても仕方ない自分に感謝するですって? 
「じゃぁ、悔い改めましょう。悔い改める者の罪を神は許してくださいます。あちらで一緒に祈りませんか」
私は安藤牧師の誘いにこくりと頷いた。そこに私の求める答えがあるような気がしたからだ。







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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

まず、これが中断だろーがっ!

えー、出勤時間が差し迫る中、何やってんだかと自分でも思いつつ……

このたび、エッセイだけのブログ開設しました。このこだわりたすく、途中で原稿が切れるのがホントに嫌なんです。

通常ブログ画面を開けていただき、それらしきリンク先に飛んでみてください。今のところ、ポータルで書いていたエッセイの転載が多いと思いますが、そのうち本編で話さなかったネタばれ三昧になることと思います。同じ所では言えなかったものも、別ウインドウなら……ふふふ(だれかこいつの暴走を止めてくれ!!)

てな訳で、気が向いたら覗いてみてくださいませ。
(できればがんばって外部拍手引っ張ってみます。期待しないでください)

theme : 更新報告・お知らせ
genre : 小説・文学

Turning Point 2

 翌日、仕事を終えて篤志が私を迎えに来た。
「ほら健斗、ゲームばっかりしてないで、ちゃんと宿題しときなさいよ」
その言葉に、健斗が面倒臭そうに
「はいはい」
と返事をする。上の息子拓也はまだクラブから帰ってきていない。突然出かけることになっても手は掛からなくなったなと思いながら、車に乗り込む。すると篤志は、
「なぁ冴子、驚くなよ」
と言った。でも、
「何が?」
と聞き返しても、
「ちょっとな。でも、行けばわかるから」
と歯切れが悪い。美加と言い、気を遣いすぎだと思う。今更死んだ相手に対して焼けぼっくいに火をつけてどうしようと言うのだろう。篤志、私はもうとっくに君しか見てないのに……
 だけど、お通夜(前夜式というらしいが)の会場に入って、私は美加や篤志の歯切れの悪い言葉の本当の意味を知った。
 まず、教会の入り口近くの長椅子に、先輩のかつての配偶者、博美さんが座っていた。やっぱり元の鞘に納まっていたのか。でも、これは充分私には想定内の範囲だった。この教会でお通夜をすると聞いた時からそうなんだろうと思っていた。
 それで、私が彼女に声をかけようかと逡巡している間に、堀木さんが男性を一人伴って入ってきた。おそらく、彼も篤志や堀木さん同様、私が辞めてから入社した会社の同僚なのだろう。堀木さんは博美さんに気づいて、お悔やみの挨拶を述べた。
 博美さんは堀木さんの挨拶に応えながら、もう一人の――綿貫さんと紹介された人――を見てから先輩の遺影を見て、再び綿貫さんに視線を戻した。その時彼女は、こっちが思わずドキリとするほど寂しそうな顔をしていた。
 その理由は、改めて先輩の遺影を見て気づいた。それは確かに先輩なのだけれど、先輩じゃない。先輩だとは認めたくないと言った方がいいのだろうか。祭壇に飾られていたのは、私が最後に会った彼より明らかに20kg……おそらくはもっとだろう、体重が増加しているであろう先輩の笑顔だったからだ。
 確かに私がまだ勤めている頃からその兆候はあった。だけど、私がいたころはまだふっくらとした中年太りくらいだったのだ。
 そして、今堀木さんと共に訪れた人も相当な巨漢だ。写真と比べるのは難しいが、体重的には先輩より多いかもしれない。彼女は綿貫さんの行く末を心配してあんな顔をしたのだろうか。あるいは先輩よりもさらに肥満した彼が生きていて、先輩が死んだことが納得できないとでも思っているのか。
 私は無性に腹立たしくなった。そんな顔をするのなら、あんな白々しいお芝居を真に受けてさっさと離婚などしなければ良かったのよ。自分がどんなに愛されていたかも知らないで、悲劇のヒロインになりきっていた彼女。自業自得だ、私はそう思った。
 博美さんはそのまま後ろにいるつもりだったみたいだが、親戚らしい女性(後で、先輩のお姉さんだと知ったが)に促されて渋々前の席に移動した。私たちは博美さんが座っていたのとは反対の長椅子に陣取った。
 牧師のメッセージで、先輩が半年ほど前から教会に通っていたこと。そのきっかけは病気であったこと。もうすぐ博美さんとよりを戻すはずだったことを聞く。みんなが涙を流す中、私にはどんどん怒りが積もっていった。
『博美を壊したくない』が先輩の離婚の理由だった。『だから、お前の気持ちには応えられない。俺は今でもあいつが好きだから。ただ、俺が引きたくても引けなかった引き金を引いてくれたことは感謝する』あのとき、先輩はそうとまで言ったのよ。
 それなのにあなたは、先輩を壊した。許せない……
 前夜式の終わりを告げるアナウンスを聞いた私は、衝動的に博美さんの前に出ていくと、
「人殺し! 先輩はあんたに殺されたのよ!!」
と叫んで彼女を平手打ちにしていた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 1

「バニシング・ポイント」この暗く対象年齢高めの小説によもやないと思っていた続編の声がちらほらあり、「毒食らわば皿まで」とポータルですごーくちびちびと書き進めてました。前作よりさらに宗教色は強くなると思われます。しかも、冴子目線なので、更新はさらに亀になりそう。





 それはいつも変わりない連休の朝だった。私たち家族は遅めの朝食兼昼食を摂っていた。電話が鳴った。
「ママ、でんわだよ」
電話をとった次男の健斗が私に電話を持ってやって来た。
「誰から?」
「美加ちゃん」
それはかつての会社の同僚、高田美加だった。未だに独身を貫いている彼女は、自分には子供はいないんだからおばさんだなんて呼ばせないと、私の子供たちにも『美加ちゃん』と呼ぶように強要するような奴だ。
「もしもし? 休みの日なのに何か用?」
私がそう言って電話に出ると、美加は電話口で大きく息を吐いてから、
「ねえ冴子、落ち着いて聞くのよ」
と言った。でも、そう言う美加自身がそうとう慌てている感じだ。
「何よ、いきなり」
「今朝、寺内さんが亡くなったの」
私は事態が全く飲み込めないで、しばらく口をぱくぱくと開けたり閉じたりした後、ようやく
「寺内さんって、あの寺内衛さん?」
と聞いた。
「そうよ、営業の寺内さん。事務所で倒れてて亡くなっているのをが発見されたらしいわ」
「ウソ!」
「ウソじゃないわ。とにかくお通夜とか告別式とかまた連絡入れるから。篤志さんにもそう伝えて。じゃぁ、そういう事だから。他にも回さないといけないから切るね」
美加はそう言って電話を切った。

「高田がなんだって?」
電話を切って蒼い顔をしている私に夫篤志がそう聞いた。
「先輩が死んだって」
寺内さんは会社以前に大学時代のサークルの先輩でもあった。社内結婚した夫の篤志に、名前を冠せず先輩と言う時にはたいてい彼のことだった。
「先輩が死んだ? 嘘だろ? 金曜日に、『休み明けに一気に形にしたいのがあるから』って張り切っていたんだぜ」
「今朝、事務所で死んでいたって。後のことは、追って連絡するからって」
「マジかよ、それ」
私は美加の言ったことを事務的に篤志に伝えた。あまりに突然のことに篤志も驚きを隠せない。
 葬儀のことは、夕方になってやっと美加から連絡があった。
「えーっと、お通夜が明日の夜7時半からで、告別式が次の日の朝11時ね。場所は……〇〇教会? 冴子、〇〇教会って知ってっか?」
私は黙って頷いた。そこは17年前、先輩が結婚式を挙げた場所だった。
「ああ、冴子が場所知ってるって。俺が定時にでれば間に合うから、途中で冴子拾ってお通夜の方に出させてもらうわ。えっ、分かった。ほい、高田が電話代わってくれって」
そして、連絡事項を言い終えた美加は篤志に私に代われと言ったらしい。篤志は私の手の上にそう言ってポンと子機を乗せた。
「冴子、大丈夫?」
「何が」
「ムリしなくて良いからね。なんなら、地図ファックスしようか? 教会の方から会社に送ってもらってるから。それで篤志さん一人で行ってもらえばいいじゃん」
長い間先輩を思い続けたことをよく知るこの友人は、別れた奥さんの方が信者である教会で告別式をすることを気にかけてくれているのだ。
「良い、大丈夫」
そうだ、だからと言って私は先輩の今の妻でも愛人でもない。菅沼篤志という男の妻だ。先輩がかつての奥さんとよりを戻そうが何をいう権利もない。
 だけど……どうしてあの人なのだろう。どうして、私ではいけないのだろう。
 何度も自問自答したその問題をまた心の中で蒸し返して唇を噛みしめた私に篤志は、
「辛いだろうけど、ちゃんとお別れはしてこないとな。あとで後悔するから」
と、私の頭に手を乗せてそう言った。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

tag : *

回想――祈り――

 あれから16年、またお父ちゃんを思い出すことが起きてしもた。お父ちゃんはあっちの方で、そこに行ったられへんもどかしさを噛みしめてんのやろうか……


 私は、父が嫌いだった。いや、正確に言えば父の職業が嫌いだった。父は葬祭会社、俗に言う葬儀屋に勤務していた。私は友人たちにそれを知られるのが嫌で、「お父さんの仕事は?」と聞かれると「会社員」だと答えていた。まぁ、父がその会社を経営しているのでない以上、それは間違った返答ではないのだが。たいていの場合話はそこで終わってしまうのだが、しつこく業種を聞かれた場合、私は
「接客業」と答えていた。お客様を送り出す仕事だ。それに間違いはないと思う。そのお客様がご遺体と言うだけだ。
 そうじゃなくても、思春期の女の子と父親には会話なんてなかった。
 それも、私が専門学校を卒業して、社会に出てからは少しは話す様にはなっていたと思う。
 平成7年1月17日に兵庫県を震源として起こった阪神大震災。大阪の我が家は食器がいくつか割れただけで、怖い思いをしたけれど、特にそれ以外は何もなかった。私たちは夜が明けてから、刻々と伝わってくる悲惨極まりない映像をそれこそ映画みたいに眺めるだけだった。申し訳ないなぁと思いつつも、傍観者になるしかなかった。
 しかし、震災から一週間、帰宅した父は葬祭ボランティアとして被災地に行くと言った。生きている方へのボランティアは多いけれど、なくなった方のためのそれは少ない。大体、ご遺体に触れない方も多くいる。
「これはあん時のお礼や、そう思て行ってくる」
その時父は最後にそう言った。父は戦時中、有馬に疎開していたのだという。まだ幼かったので細かいことは覚えていないらしいが、祖母は繰り返しそのときのことを子供たちに話して聞かせていた。多くの人の善意がなければ、母子5人生きてはいけなかった。だから、困っている人があれば自分から手を差し伸べなさい。『情けは人の為ならず』あなたたちは既にそれを受けているのだからと。
 被災地にいる父からは当然だが何の連絡もない。母はそれを『便りのないのは良い知らせって言うやんか』と笑い飛ばしていた。
 そして、父はそれから20日後突然帰ってきた。
「風邪引きや。身元確認の方もそろそろ一段落してきたし、避難所の中は狭い、一人引いたらみんな移ってまうからな」
父はガラガラの声で私にそう言いながら、風呂のスイッチに手をかける。
「お父ちゃん、風邪引いてんやったら風呂入ったらあかんやんか」
「わし、ずっと入ってへんのやぞ」
「風呂入らんかっても、人間死なんわ」
「アホな、死ぬわ。帰ってきて風呂入るのが一番楽しみやったのに」
被災地の入浴事情は分からなかったが、全くゼロではなかったにせよ、それは20日間の中で数えるほどしかなかったろう。風呂好きの父にはそれが一番辛かったのかもしれない。
 しばらくして、父の調子っぱずれの歌が風呂の中から聞こえた。
 案の定、翌日父は38度5分の熱。
「オトン、薬だけやったらあかんぞ、医者行けよ」
弟の睦(むつき)が学校に行く用意をしながらそう言うのに、
「分かっとる、分かっとる」
と返事はしているが、医者嫌いの父が素直にそれに従うとは思えなかった。
 そうだ、父のそんな性分が解っていたのだから、父に黙って従ってきた母が言えなくても、私たち子供たちがムリにでも病院に引きずって行けば良かった。何より私たちは、父が被災地でどんなに心身共に疲れていたのかを理解していなかった。母も私たち子供も父一人を残したまま仕事や学校に出かけて行き……

「姉ちゃん、すぐ市民病院に来い!」
 夕方、睦が切羽詰まった声で仕事場に電話をしてきた。睦が学校から帰ってきた時、父は台所に倒れており、既に昏睡状態。慌てて救急車で病院に運んだという。若い頃肝臓を病んだことのある父は、極度の疲労と相まって、ただの風邪が重症化したのだ。
 父は次の日、手当の甲斐もなく、55歳の生涯を閉じた。あまりに突然のことで、何だか悪い夢でも見ているようだった。
 会社の要請で葬儀ボランティアに出かけた父は、支店次長に格上げされ、社葬として送り出された。
「大変な場所やからて若い俺らが後込みしてる中、向井さんが率先して手挙げたんです。『わしは戦争を経験してる。こんなん空襲に比べたらマシや』そう言うて」
30代らしき父の同僚が真っ赤な目をして、そう教えてくれた。でも終戦時、父はまだ3~4歳。戦時中のことはあまり覚えていないと言っていたのに。
「向井さん、あの○○のことも引っかかってたんちゃうかなぁ」
そう思っていると、別な人がぽつりとそう言った。
「ああ、アレは俺もな」
それに対して、先ほどの人も頷く。
 ○○とは大阪にもたくさん店舗のある大手外食チェーンの名前だ。本社が神戸にあり、そこの会長のお孫さんが震災で命を落としたという。わずか6歳での死に、家族ができるだけのことをしたいというお気持ちはよく解るけれど、会長は震災からわずか二日後に自力で船をチャーターして大阪にお孫さんを連れ、大阪の父の会社の会館で葬儀を行ったという。
『金があるもんはそれができる。けど、金も力もないもんはあの場所におるしかない』
ご遺族が帰った後、父はその人にそう洩らしたそうだ。父は、一人でも多くの方が少しでも心安らかに旅立ってほしいと願っていたのだろうと思う。
 お通夜の夜、祖母は、
「今夜で憲三の顔は見納めやからな、よう見とかんと顔忘れてまうがな」
と、愛おしそうに父の顔をじっと見つめていた。
「お父ちゃんは親不孝やな、お祖母ちゃん」
そんな祖母に私がそう言うと、祖母は首を振った。
「そんなことあらへん。あの子は覚えてなかったと思うけどな、大阪の大空襲の時に、もうホンマに死んでてもおかしない状況やったんや。命拾たと言うてもええ。嫁も孫も見してもろたしな。私は50年分親孝行してもうたと思とるよ」
「私はお父ちゃんが嫌いや」
息子に誇らしげな表情を向ける祖母から父に目を向けて私はそう言った。
「何でなん」
祖母が首を傾げる。
「さんざんかっこええこと言うて、さっさとおらへんようになって。まだ、私や睦の子供も見てへんのに」
「そやな、憲三は親不孝やのうて子不幸やな」
祖母がそう言って笑った。

 そして、17回忌のすぐ後に起こった未曾有の大災害。一介の主婦の私にはできることなんて本当にないけれど、助かった方が少しでも笑顔でいられるように、そして亡くなった方がどうか安らかでありますようにと、私はコンビニの募金箱に釣り銭を入れて祈りを捧げた。










 


 

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theme : 誰かへ伝える言葉
genre : 小説・文学

ホントに……それだけなんです

ネットで超アクセス数を稼いでいる人気の作家様でも、リアルでそのことをバラしていない方も多いみたいですが。

この脳天気たすく、小説を書いていることはけっこうみんなに言いまくってますし、リアル読者様も高校時代の同級生以外にちょこちょこいたりします。

その中の一人、ハンネまでつけられて度々登場する雫ちゃんは会社の同僚。「旋律」製本時に読みたいと言ってくれて、それ以来全部の作品を校了後コピーして届けるのがもはやルールに。

彼女に「道の先には……」の制作秘話(と言っても、「Sな主人公が弟子を引き連れて冒険する異世界ファンタジー」というのが『プロットつくったー』で出できたと言っただけなのですが)をすると、
「たったそれだけ?」
という返事が返ってきました。それだけの一文でよくもまぁ、30話あまりのバカ話を書ける。彼女には「HANABI」でも同じことを言われましたっけ。

でも、ホントそれだけです。書いている方なら理解していただけると思うのですが、これでも(機械とは言え)私本人から出てきていないプロットでオリジナルを主張するのはおこがましいかと思うほど。

大体、私本人は性格設定と環境設定をするだけで、後はそうやって二次元実体化したキャラクターが勝手に動いて勝手にしゃべっている。そういう手法ですから。

今回も引いた伏線を文章にできないまま終わってしまっているたすく内部の不完全燃焼がどれだけあることか。あのおバカキャラたちは、どんどんと横合いにストーリーを流していき、おばさんにその説明をさせてくれんのです。

おかげですぐにじゃないですけど、別タイトルでオラトリオストーリーとしてあの性格の悪い魔法使いと向こう見ずな家出娘の大男の続編を書きたくなってしまっています。

私、ファンタジーは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど性格的にムリ!! (古っ!)って言ってたのになぁ。

ま、そんときにはまたよろしくです。


theme : つぶやき
genre : 小説・文学

今できることを……

本日、「道の先には……」完結とさせていただきました。

このたびの3月11日の未曽有の大災害の中、このようなお気楽な異世界ファンタジーを書き続けることは、被災された方に失礼だと、お叱りを受けるかもしれないと思い、一時は執筆しても公開は自粛しようと思ったりもしました。

ですが、本当はこの作品は昨年11月末までに完成しておかねばならぬものでした。(仲間内のイベントのため)
それより前の10月中に、友人に見せると約束していたものでした。

それが、9月に父が亡くなり、自分の中の勢いがなくなってついつい不得手な異世界ファンタジーより「エロ空」や「バニポイ」など自分が書きやすいものを優先して後回しにしてきました。

で、年末個人的にそのことを激しく後悔させる出来事が起き、私自身「明日の自分は自分にも分らないのだから、できることは今しておかねば」という気持ちで今回リアルタイムで公開に踏み切りました。

このおばさんから妄想を取ったら何にも残らないからです。今できることはこれしかなかった。ごめんなさい。

もしよろしければ、このバカっぽい話で一時だけ大変なことをわすれてください。笑ってください。そんな気持ちで今日エンドマークをつけました。

なお、このお話を大好きな大好きな友人、祈君(仮名)に捧げます。



theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

道の先には……ハッピーエンド? by幸太郎

【さーあて、殿下をお戻ししたらグランディールまで責任を持ってお送りさせていただきますからね、エリーサ様。ところで鮎川様、ニホンではあの自動車なるモノは壊れている訳ですから、頂いても差し支えありませんよね】
 自分の都合の悪いことから目を背けさせたいのか、女顔の魔法使いは元非力な大男にそう言った。今は、ちびっ子に戻ってるからあれだが、はじめの状態なら絶対にポジション逆だろ。
【ああ、今更あのポンコツが道端に現れでもしたら、それこそミステリーだからな。一応、助けてもらった礼代わりにでも持ってけ】
俺は、それに対して頷きながらそう言った。壊れたはずのポンコツがいきなりゾンビみたく現れても、俺、説明なんてできっこねぇし。
【ありがとうございます】
【なんなら、あのポンコツの後ろに缶空……そんなもんこの世界にないか。ああ、リルムの町のあのゲテモノプリンの入れもんがあった……あれでも、つり下げて走るか?】
それならいっそのことハネムーン仕様にでもすりゃぁいいんだと思ってそう言うと、あいつは首を傾げながらむっとした表情で、
【は? それは魔除けでございますか? そのようなものなどなくとも、十分私がエリーサ様をお守りできますが】
と言った。
【魔除け? んな訳ないだろ。ま、こいつは俺のもんだから手を出すなって意味ってっちゃそうだろうな】
【じゃぁ、何のために】
【こっちじゃさ、結婚式が終わった後、式場から出る新郎新婦がどてっ腹にさ、『Just Married』とか書いた車で走んだけど、後ろのバンパーにあーいうのをつり下げんだ】
とはいえ、俺もそれは外国映画でしか見たことないけどな。
【そうなのですか、それは素敵です! まるで私たちを祝福する鐘を鳴らしながら走るようではありませんか!!】
けど、それを聞いたロリコン魔法使いはにわかに色めき立つ。ま、本来もそーいう意味合いだっけか。にしてもお前、どーでもいいけど、この世界には存在しない車が鳴り物入りで走れば、とんでもなく目立ちすぎるぞ。それでいいのか、おい。確かに本物の魔物は寄ってこないだろうが、人も逃げるぞ、たぶん。
【ヤダ、あたしセルディオ様と一緒には帰らない】
ほら、まず嫁が逃げた。
【どうしてですか! エリーサ様ははっきり私と結婚するって言ってくださったじゃないですか】
【あれは、ビクに言ったんだもん、セルディオ様にじゃないわ】
【ビクって……彼の名前は美久、私の名はビクトーリオ。私の方が本当のビクじゃないですか】
【でも、どうして? あたしがお父様からきいたセルディオ様のお名前はスルタン・セルディオだけだったわ】
【そ、それは……】
【どうせ、その顔でビクトーリオって名乗ったら『女みたい』って言われるのがいやだっただけだろ。お前どんだけ、顔と名前にトラウマもってんだ】
【悪いですか? ですが、あなたのように体格にも名前にも恵まれた方に私の気持ちが解るものですか】
すると、コンプレックスの塊魔法使いは、そう言って逆ギレした。あ、女顔・女っぽい名前に加えてチビもその要素だった訳ね。そう言やぁ、宮本もそれ、気にしてたな。
【お前、そんなこと気にすんなよ。お前にはそれにあまりある位の魔力があるんだから。お前日本に居ながら、リルムの町とかで、俺たち助けたりしてくれてたんだろ】
【いいえ。私はもう一度殿下とあなた方を戻さないといけませんから。体力を回復するべく極力静養に努めておりましたよ】
【じゃぁ、あれはマシュー、いやエリーサか?】
【ううん、あたしじゃない。あたしはマシューの体になってるだけで精一杯で、余分な魔法なんて使えなかったもん。別人になるのって、すごく大変なのよ】
【んじゃ、一体誰が】
【あれは正真正銘、美久が一人でやったんですよ。使ったことのない魔法をぼんぼん連発するからすぐ体力切れ起こしてましたけれど。鮎川様、美久に魔法を使いたいのなら、もっと体を鍛えなさいと言っておいてくださいね。いかに魔力があっても、それに見合う体力がなければ、最悪命を落としますよって】
は? あれは宮本がやったって? だるまさんがころんだも、ガソリンも?? もし魔女発言の後、あいつが電池切れしてなかったらと思うと、俺は血の気が全部引いちまう気がした。 
もしあの、ゲーオタにそんな芸当ができると分かってみろ、嬉しがって何が起こるか分からん。
(言わない、絶対に言うもんか!!)
俺はそう堅く心に誓った。

 そして数日後、無事日本に戻った俺は、宮本が(こっちでは)初対面の英梨紗にいきなり口説いたと知った。あっちの世界じゃともかく、この日本じゃ犯罪だぞ、おい。

 俺には若干1名(あっちとこっちで2名か)悲劇のヒロインが生まれたような気がすんだが……
 ま、それでもとりあえずハッピーエンドっつうことで。

ー小さなお姫様は小さな魔法使いといつまでも幸せに暮らしましたとさー

                ん?? 





theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……二人の共通点 by幸太郎

【殿下の容態も日に日に良くなり、後数日もすればこちらにお連れしても大丈夫かと存じます】
【解った。セルディオ、そなたの今度のコータルの救護、まことにご苦労であった】
【いえ、それが私の任でありますれば、この命に代えましてでも】
俺は、そう言って王様に頭を下げる事件の立役者の顔を見た。結局こいつは王子だけじゃなく、俺たちの命も救ってくれた訳か。

 王様への報告が終了した後、俺は一番気になっていることを聞いた。
【で、宮本はどうなってんの。あいつ、切られたけど】
【あ、急所は外れていたはずですし、帰したところが治癒専門の場所ですから、治癒師が迅速に対応してくだされば、何の問題もないでしょう】
それに対して、クリソツ魔法使いはそう笑顔で答えた。まぁどうでもいいが、さっきからこいつ、宮本に結構冷たいのな。ホントならお前が切られてたかも知んないのによ。するとこいつは、
【美久には悪いことをしたと思っていますよ。ただ、私ならばむざむざとあのようには切られたりしないと思いますが】
俺の頭の中の声が聞こえたかのように、そう付け加えた。その表情は依然笑顔のまま。顔はそっくりなのに、あの天然ボケとは違って性格悪っ! お前口だけじゃなくってホントに悪いと思ってんのかよ。
 そうやって改めてこいつの顔をよくよく見てみると、同じ顔なんだけど持っている雰囲気は全然違う。片や入社したてで怒鳴られまくっているぺーぺーのサラリーマンと、片や希代の魔術師と呼ばれた男。ま、同じ雰囲気を持ってる方が不思議か。こいつら、顔以外に共通点なんかないかもな。あ、けど……
【あのさ、ちょっと気になったんだけど、そもそもお前が11の時日本にすっ飛ばされた理由って何?】
【な、何でもよろしいではないですか】
俺がそう聞くと、それまで余裕こいていた魔術師は明らかに不機嫌になった。
【もしかして、気に入った女に同性呼ばわりされて、ブチ切れた? お前女顔だし、ファーストネームのビクトールをビクトリアに間違われてとか】
これって、モロ宮本がマシューと最初に会ったときのシチュエーションだけどな。そしたら、あいつは真っ赤な顔をして、
【そ、そんなことある訳ないじゃないですか!!】
とあからさまに取り乱して怒った。おいおい、図星ってか。ま、宮本にはこいつみたいな魔力はないだろうから、飛びようがなかっただけだけどさ、まるで一緒じゃん。『○○子!』って女名で呼んだとたんに怪力になる、ものすごく昔に流行った刑事ドラマみてぇ。
 バカウケしまくる俺を、女顔の魔術師はものすごい形相で睨んだ。なまじ、女顔なだけに、怖ぇーっ(爆)


【それにしても、本当にニホンの治癒術はすごいです。あの規則正しく薬湯が体に送られてくる管! 誰もいないときに起き出して何度細部まで調べる誘惑に駆られことか!!】
 しばらく不機嫌全開だった奴が、次に言って来たのがそれだった。それからしばらく奴の日本の医療器具褒めちぎりトークが続いた。ん? これもどっかで見覚えがあるような……
【なんか、リルムの町のビクを見てるみたい】
とそのときぼそっと、マシュー改めエリーサがそう言った。そうか、どっかで見たことがあると思ったら、リルムの町の胡散臭い商人の品物を見せてもらったときの宮本の顔だ!! ゲームと医療器具の違いこそあれ、それはまさしくオタクの証明。

 やっぱり、こいつは正真正銘、宮本のドッペルゲンガーだと俺は思った。
 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……ビク編4

 私はまず、彼らの乗っている自動車のレプリカを作りました。内部などは全く分からないので適当ですが、結果壊してしまうので、何ら問題はないと思いました。そこに彼らが持っていた火の属性をもつ魔道具(美久はそれをチャ○カマンと呼んでいましたが)を少量もらい受け、その上で、彼らを自動車ごとグランディールへと送りました。
場所の特定まではする余裕はなかったのですが、結果街道筋近くにたどり着いたようです。ただ、時間を止めた反動なのか、私たちが襲われてから約一月も経ってはいましたが。
 一方、私はそのままトレントの森に戻って殿下をニホンにお連れし、レプリカを障壁にぶち当てた後、魔道具に炎系の魔法をぶち当て、大破させました。
 そして私は、殿下とともにその大破した張りぼての中に倒れ込み、時を戻したのです。私自身も無傷ではありませんでしたし、高度な魔法を連発した衰弱も相まって、ほっとした途端私も一旦は意識を手放してしまいました。


―*-*-*-*-*-


【しっかしまぁ、よくそんなんで……お前が王子は無事だって言うからには、ちゃんと王子は俺として病院で治療受けてんだろ? 日本の警察はいったい何やってんだって感じだな】
【ええ、しかし幾分衝突と言うには不可解な傷が多々あるにしても、私たちはあなた方の身分証明書を持参していますし、生存している間は治癒師の領分ですから、警備隊はそこまで関われないようですし】
【まぁな。医者が必死こいて助けようとしてる時に、警察が茶々入れても医者が怒鳴ってそれで終わりだろうけどよ。それでもなんぼなんでも、王子が目覚めたら全部ちょんばれだろうが】
私の説明に、幸太郎氏は半ば呆れながらそう返しました。
【ええ、ですから殿下にはこちらにお連れする目途が経つまで眠りの魔法をかけてあります】
【は、至れり尽くせりなことで。ドッペルゲンガーなのに、宮本とはえらい違いだな】
幸太郎氏は、手を肩の所くらいまで挙げてつぶやくようにそう言いました。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……ビク編3

 この世界には私たちの住むこのオラトリオの大地とは別に、いくつかの大地があるのです。その世界-仮に並行世界-と申し上げておきますが、その並行世界には私たちとそっくりな人々が違った生活を営んでいます。
 実は私は11歳の頃、偶然ニホンに飛ばされたことをきっかけに、そのニホンのことを研究し、ニホンが魔法を介さずに病や怪我を治してしまう治癒技術を持っていることや、私の映し身の美久に私が殿下に仕えるようになった同じ時期に殿下にそっくりな男、鮎川幸太郎氏と職場で出会ったことを知っていました。
 最初、私はこんな強引な方法を採らず、ただ出かけていって、幸太郎氏に殿下との交替をお願いするつもりでいました。
 しかし、界渡りの呪文を唱えて私がニホンに現れたとき、彼らは道に飛び出してきた少女を避けて彼らの乗っている自動車という大きな鉄の塊を急旋回させてまさに道の端にぶつかろうとしていたのです。
 私が殿下に仕える時期に美久が幸太郎氏と出会ったように、この並行世界では、環境の違いで出来事は違ってはいますが、こちらが危険になればあちらでも似たような事が起こるようでした。私は、とっさに時間を止める魔法をかけました。
 私はどうしたものかと思いました。このまま時を進めても彼らは無機質な道具にぶつかっていくだけで、彼らもまた治癒が必要になるのは目に見えています。

道の先には……ビク編2

【まずは、殿下の安否についてですが、殿下は確かに生きておられます】
セルディオさんの王子の生存宣言に、王様以下城のみんなから安堵のため息が漏れる。
【生きてはおられますが、今とても動かせる状態ではなく、とある場所でご静養いただいております】
【それはトレントの森か。しかし、そなたたちの捜索に当たった者たちが、トレントの森のそなたの屋敷にも行ったが、誰もおらなんだと聞いておるが】
【はい、ご静養いただいているのはトレントの森ではございません。それどころか、このグランディールでもガッシュタルトでもありません。
それは、この鮎川様の世界である、“ニホン”と言う所でございます】
謁見の間にざわめきが起こる。


―*-*-*-*--*-


 殿下が何者かに命を狙われているということは、私もよく理解をしておりました。何しろ、普段トレントの森に引きこもって研究三昧の私にその任の白羽の矢が立ったのはまさに、そやつの攻撃から魔法面で殿下をお守りするという意味合いでしたから。
 恙無くガッシュタルトでの婚儀を終えた私たちは、姫様と別行動を取りました。敢えて敵方に連絡させる隙を作り、私たちは姫様の下を離れました。
 そして、私たちは二人だけでトレントの森を突っ切る道を選択したのです。よしんば敵に襲われたとしても、一個小隊程もある姫様の花嫁道中よりは身動きもとれるし、被害も少なくて済む。なにより姫様に被害が及ぶことがない。
 それに、トレントの森は私の庭とも言うべき場所です。敵方は私と同じように動き回ることはできないでしょう。あまり凶暴な魔物も棲息してはおりませんので、私たちは姫様よりかなり先に城にたどり着き、姫様をお出迎えできると算段していたくらいです。
 しかし、敵方は私たちのそんな行動を予想してたかのように、森に最適の刺客――魔物使いを送り込んできたのでした。
 何とかその魔物使いを返り討ちにしたものの、数多くの魔物たちによって私たちは満身創痍、特に殿下は一刻も早く治癒しないことには、お命も危ない状態。しかし、ここは辺境の森で、私より他に治癒できる者はなく、如何に私の魔力が高いといっても、一人で治癒術を繰り出すのには限界がありました。
 私はとんでもない間違いを起こしてしまったのかと、頭を抱えました。
 しかし、窮すれば通ずと言うのでしょうか、一旦は肩を落とした私は、とある場所のことを思い出していました。
(あの場所ならば、そして彼らならば……上手くいくかもしれない)
 そして私は、その禁断の呪文の扉を開いたのです。








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道の先には……ビク編1

 僕たちが現実に戻ってきてたった一つ気にかかっていたのは、僕たちが居なくなった後のフローリア姫とエリーサちゃんのこと。そのことをおそるおそる先輩に聞くと、先輩は、
「お前知らねぇんだったな。あの後、なかなかケッサクだったぞ」
と言って、僕がこっちの世界に戻ってからのことを話し始めた。


―*-*-*-*-*-


【ねぇ、ビク。目を覚まして。あたし、ビクのお嫁さんになるから、約束するから】
エリーサちゃんが大泣きで僕の身体を揺すぶるのを、みんながもらい泣きしていたときのことだった。僕がいきなりぱちっと目を開いて、
【本当に? 本当に今度は逃げないで私の妻になってくださいますか?】
と言うと、すっと立ち上がって優雅にお辞儀したのだそうだ。
【○×△□※! マミー、あ、包帯してないからマミーじゃないわ、グール!!】
エリーサちゃんはそれを見て、恐怖にひきつった顔をしてありったけの言葉で僕をアンデッド宣言。
【ひどいな、私はまだ腐ってはいませんよ】
【もうすぐ、腐るわ】
死体だもの、とエリーサちゃんは小さな声でそれに付け加えた。
【それは困ったな。私はまだ、あと100年は腐らないつもりなんですが】
それに対して僕は、いたずらっぽい笑みを浮かべてそう返す。
【マシュー、腐らねぇぞ。第一死んでない、こいつ宮本じゃねぇんだから】
【さすがは鮎川さんですね。では、ちょっと失礼します】
何かを気づいた先輩に僕はそう言うと、王様の前にひれ伏し、
【王よ、ビクトール・スルタン・セルディオ、ただいま戻りました】
と言った。
【うむ、よくぞ戻った。で、コータルは無事なのか】
【ビク、ビクトールって?】
エリーサちゃんが僕と言うか、僕もどきのセルディオさんのファストネームに妙な反応する。あれっ、セルディオさんの口振りではエリーサちゃんはセルディオさんのプロポーズを振り切って逃げ出したみたいなのに、どうして彼のファーストネームを知らないんだろう。
【エリーサ様、王にご報告申し上げたら、いくらでもご質問にお答えしますからね、少々お待ちください】
セルディオさんはエリーサちゃんに向かって、人差し指を口に当てながらそう言うと、王様にこれまでの顛末を話し始めた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……28

 意識を回復した先輩は、まるで怪我なんかしてなかったかのようにバカみたいに元気になった。一方、僕の方は意識を失った後原因不明の高熱が出て、点滴生活に逆戻り。
「急変するのはよくあることだが」
と言いながらも、どこか腑に落ちないという表情で担当の医師は僕を看た。
 結局、退院は先輩の方が先で、僕はその3日後。その週いっぱい自宅療養して(一人暮らしの僕はというより、居なかった分ほこりのたまった部屋の掃除とか、たまった洗濯をするとか、事後処理に明け暮れていたのだけど)、週明けにお久しぶりの出社をした。正直入社して半年そこらで事故で長欠した僕の席がまだあるのか不安だった。
 深呼吸して、営業部のドアを開く。
「おはようございまーす」
「お、宮本、やっと元気になったみたいだな」
声をかけてくれたのは、兵藤さん。
「はい、おかげさまで。本当に長い間ご迷惑おかけしました」
そう言いながら、僕がデスクにつこうとすると……
「宮本、そこもうお前の席じゃないぞ」
と、兵藤さんが言った。や、やっぱりもう僕の席はどこにもないの! 不安が的中して頭が真っ白になってしまった僕に兵藤さんは笑いながら、
「お前、掲示板ちゃんと見たか? 辞令が降りてんだよ、配置換え。わかったらさっさと見て、新しい部署に出社しろ。早く行かないと、大目玉くらうぞ」
と言った。は、配置換え? はぁ、辞めなくて済んだのは良かったけど、それでも窓際行きかぁ。僕はのろのろと掲示板を見に行って、そこにかかれてある辞令に……

マジでひっくり返った。そこには、

          宮本美久
 上記の者平成○○年○月○○日付けで秘書課勤務とする。
                            以上

と書かれてあったからだ。秘書課ぁ? この僕が?? 何かの間違いでしょ!

 だけど、いつまでも呆けてはいられないし、僕はとりあえず今度は秘書課のドアを叩いた。
「どうぞ」
と言われて中にはいると、そこにはなんと先輩がいた。
「先輩!」
「遅いぞ宮本。社長より遅れてきたら洒落になんねぇんだからな」
先輩はそう言って僕にデコピンを食らわせた。
「なんか悪い冗談なんですかね、秘書課なんて」
「ああ、そう思いたいよ。お前はなんかまだ良いぞ。俺なんか頃合い見て取締役会に出席のおまけ付きだぞ」
取締役会? 完全に予想外のワード連発に頭がついていかない。
 先輩はため息を落として、
「俺さ、お前が倒れた後薫にその……プロポーズしたんだわ。んで、退院した日に薫の親に挨拶に行ってさぁ、そしたらこうなった」
と言った。まぁ、夢の中でまで奥さんにするくらいだから、本気で惚れてることを自覚してちゃんと向き合ったんだろうけど、それがどうして取締役会やら僕まで秘書課勤務になるんだろう。
「へっ?」
「薫、この会社の会長の孫。正真正銘のお姫様」
「げっ。でも、それじゃなんで僕まで秘書課なんですか」
「あれ、気づいてねぇのか? 薫とあの子、英梨紗はこっちの世界でも、姉と妹なんだよ。お前、あの子口説いただろ。薫と俺が結婚するって言ったら、あの子もおまえと結婚するんだって駄々こねてさ、ほんじゃま様子見ってことで社長のそばに置くって事になったわけ」
「はぁ」
その言葉に今度は僕からため息が出た。
「ま、英語も呪文も使いこなす『語学マスター』なんだから、案外おまえって、向いてんじゃねぇの、この仕事」
 向いてる向いてないは解んないけど、エリサちゃんと再会したとき、運命を感じた僕の予感は当たっていたのだろうな。それが良い運命なのかどうかは別として……

 谷山先輩とエリサちゃんは本当は姉妹ではなく、会長の長女の娘の谷山先輩と、最初の奥さんが亡くなった後、30歳年下の奥さんと再婚した会長の娘のエリサちゃんは実は姪と叔母の関係であることが分かるのは、また後日の話。

 道の先には……Happy endが転がっていた。なーんてねっ!!

                                 ーThe Endー
  











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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……27

「フローリア」
「はい?」
先輩がお姫様を呼ぶ声に、谷山先輩は疑問形で語尾を若干上げて応える。
【フローリアってんだぞ】
先輩は今度は英語でそう聞く。
「だから何だってのよ」
谷山先輩はそれに対して若干ウザ気にそう返す。
「お前薫だろ、何返事してんだよっ!」
「鮎川こそ何言ってんのよ、フローリアは私の英名! 薫は日本名!!」
「は? 英名とか日本名とかセレブなこと言ってんじゃなぇよ、薫のくせに。お前、ばーちゃんがイギリス人なだけだろ」
「イギリス人だからよ。私ね、教会で幼児洗礼受けてるの。フローリアはその洗礼名なの! だけど鮎川がなんでその名前を知ってんの?」
「俺の夢の中に出てきたお前にそっくりな女がその名前だったんだよ」
谷山先輩の思わぬ発言に、先輩は舌打ちをしながらそう答えた。えっ、じゃぁ……
「もしかして、先輩も僕と同じ夢を見てたんですか?」
「僕と同じ夢って……お前、王都グランディーナとか言うとこに行ったか?」
やっぱり、先輩もグランディーナにいたの?
「はい、車ごとおっこちちゃいましたよね」
「スライム食ったか? しかも俺の分まで」
「はい。でも、ちゃんとスライムプリンって言ってくださいよ。なんかそれじゃ僕がスライムのおどり食いをしたみたいじゃないですか」
「似たようなもんだ。じゃぁ、マシュー・カールは?」
「はいっ!エリーサちゃんですよね」
やっぱり、僕たちは同じ異世界にいたんだ!
「俺と同じ夢見てたってのか?」
首を傾げながら先輩がそう言う。
「そうです。二人で同じ夢をみてたんですよ!」
「信じらんねぇ。まぁ、そこまで一緒なんなら、同じ夢だったのかもな」
そして、先輩は半信半疑ながらそのことを認めた。
「そうですよ。僕が目を覚ましても先輩ずっと目を覚まさないし、もしかしたら同じ夢の中にいるのかもって、戦闘不能を治す呪文唱えたんですけど、それでも起きてこないし、途方に暮れてたんです。そしたら、谷山先輩が『王子ならお姫様のキスで目覚めるんじゃないか』って。いやぁ、ホントにお姫様のキスが効くとは思いませんでした」
でも、先輩の生還劇を喜々として話す僕に先輩は、
「余計なことしやがって」
と言った。
「は?」
「お前が余計なことしなきゃ、今頃はその夢の世界で、お姫様と甘い新婚生活の真っ最中だったんだ。何が悲しくてこの凶暴女のキスで戻らなきゃなんねぇんだ」
「何ですって!! 宮本君、あんたまだ魔法使える? お姫様として命じるわ、こいつを瞬殺して」
先輩の凶暴女の発言に谷山先輩は思わず暗殺(あ、大っぴらに殺すのは暗殺とは言わないのか)命令を僕に下した。
「しゅ、瞬殺って、物騒な。でも、谷山先輩すごく心配してたんですよ。それなのに、そんな言い方するなんて。海より深く反省してください」
と、言いながら僕は手を前に繰り出す。
「お、おい何の呪文をかけるつもりだ。宮本? まさか、あの『一億年』とか言わないでくれよ。ホント、ゴメンあやまるからさ」
その動作に、先輩は完全に怯えきっている。あれは夢の中のことで、僕が現実世界で魔法が使えるはずもないのに。でも、事故からの谷山先輩の気持ちを考えると、ちょっとお灸をすえないとねと僕も思ったし、かっこうだけしてみる。
 だけど、手を振り上げた途端、僕にまたあの上級魔法を使った後のような激しいめまいがして、僕は
「なーんちゃってね」
と言いながら意識を失ったのだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……26

 僕の傷は順調に回復していった。先輩も傷は大分良くなっていて、もう命の心配はないという。だけど、先輩は僕が目覚めても一向に目覚める気配がなかった。
 とんでもない大事故だったにも関わらず、僕にも先輩にも脳に損傷はないという。なのに目覚めることがない先輩……僕はある一つの思いにどんどんと心が苛まれるようになっていった。
 僕たちがいたあの世界はもしかしたら僕の夢の世界なのではないだろうか。そして、本来なら先に先輩がテオブロに切られてこちらの世界に戻り、それから僕が戻る。あるいは、僕が本当はもうこっちの世界には戻ることができなかったのかも。
 だけど、僕は先輩を押し退けてテオブロに切られた。そのために先輩をあっちの世界に閉じこめてしまったんじゃないのかと。
 長い間眠ったままの先輩の肌は抜けるように白くなり、少し痩せてしまっている。でも、まだちゃんと生きていることを主張するかのように髭が少しずつ伸びる。その髭をまるで壊れものを扱うように優しく丁寧に剃る谷山先輩を見ていると、僕は胸が詰まりそうだった。先輩、こんな戦闘不能の状態から早く抜け出してきてくださいよ。マシュー曰く、先輩は勇者様なんでしょ?
 先輩の髭を剃り終わった後、谷山先輩がぽつりと、
「宮本君、どうしたら鮎川は目を覚ますんだろうね」
と言った。
 僕はRPGの戦闘不能なら、死者蘇生の呪文を唱えればそれで良いのになと思った。実はあの魔道書を最初に見た時、ゲーマーの僕はそこを真っ先にチェックしていて、その詠唱文言もちゃんと覚えていた。だけど、現実世界でそれが効くとは思えないし、死者蘇生の魔法は、ランク的に最上級に属するはずだから、よしんば僕にまだ魔力が残っていたとしても、全然MP不足だろう。でも、あっちの世界では超初心者の僕が結構ぽんぽんと上級魔法唱えていた。後で、ぶっ倒れるおまけ付きだけど。それでも、唱えてみるだけの価値はある? 
 もし効いたらガザの実のないこの世界では、僕の方が今度は寝たきりになってしまうかもしれない。ちょっとそんな考えが頭を過ぎって、僕はかすかに震えながら谷山先輩に、
「谷山先輩、僕ね、眠っている間すっごくチートな魔法使いだったんですよ。案外死者蘇生の魔法を唱えたら、復活したりして」
とわざとおどけてそう言った。
「ぷぷっ、なにそれ。チープなコミックスじゃあるまいし」
案の定先輩はそう言って笑った。
「でも、やってみる価値はありますよね。何もやらないよりは良い」
僕はそう言って、やっとくっついたばかりのテオブロに切られた傷を庇いながら立ち上がり、背筋をピンとのばすと、
<黄泉の世界を統べるものよ、我の声に応えてこの者の魂を現し世に呼び戻せ、Rise dead>
と高らかに詠唱した。
 先輩の頬が上気したような気がした。でもそれだけで、先輩はやっぱり目を覚まさない。当然と言えば当然だけど、魔法なんてありはしないのだから。
「ヤダ、それもしかしてラテン語? イヤに本格的じゃない」
谷山先輩が目を丸くした後、バカ笑いする。ひとしきり笑った後、小声でありがとうと言って、
「じゃぁ、お姫様がキスでもしたら、目覚めるのかしら。眠り姫ならぬ、眠り王子は」
と、言った。彼女は全くの冗談のつもりだったんだろうけど、僕が
「それ、アリかもしれませんよ。僕の夢の中では谷山先輩はお姫様で、先輩は王子様だったんです」
と、マジ顔で返すもんだから、ちょっぴり引き気味だったけど、
「じゃぁ、やってみよっか。やらないよりはマシかもね」
と、笑うと、照れながら先輩に顔を近づける。そして、二人の口びるが重なったとき……

 窓も扉も全く開いていない病室に一陣の風が吹いた。驚いて、窓を確認した僕の耳に、
【う……ん、フローリア愛してる】
と言う先輩の声が聞こえる。ギョッとして先輩の方をみると、先輩はがしっと谷山先輩を腕の中に閉じこめて、キスをしている。谷山先輩が突然の事態にあたふたしていた。
 唇が離れたあと、谷山先輩に、
「あ、鮎川っ! いきなり舌を入れてくるなんて、どういう了見? ホントはいつから意識があったの? このエロ親父!!」
と言われてグーで殴られたことは言うまでもない。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

道の先には……25

 僕は眠らされても、さっきまでの世界に行くことはなかった。どうでも良いような取り留めのない、ホントに夢らしい夢を何個か続けて見てまた目覚めた。その時、
「お兄ちゃん、大丈夫?」
と僕の顔をのぞき込んだのは……なんとエリーサちゃんだった。彼女を見て、あ、僕はまた異世界に戻ってきてしまったんだと思って嬉しくなってしまっていた。現実逃避といわれても仕方ないかな。
「お兄ちゃん、本当にごめんね」
枕元で、エリーサちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「エリーサちゃんがどうして謝らなきゃならないの」
そうだ、エリーサちゃんが謝る必要なんてない。本当は大男に変身できる位の魔女だった訳だから、もしかして魔法を駆使して僕を強引に呼び戻しでもしたとか? でも、彼女から帰ってきた答えは僕の予想とは全く違っていた。
「英梨紗が道路に飛び出したから」
「道路に飛び出した? エリーサちゃんが?」
グランディーナのどこの道路に飛び出したからって、どうして僕に叱られなきゃならないと思うんだろう。あ、隣国まで家出したことで、平手打ちにしちゃったんだっけ、僕。あれが、トラウマにでもなってる? 
 ううん、なんか違う。さっきから彼女はエリーサじゃなく、エリサって言ってるし、僕をビクじゃなくお兄ちゃんと呼んでいる。それに、よくよく考えれば(よくよく考えてみなくても)彼女がしゃべってるのは紛れもない日本語。僕や先輩や谷山先輩のそっくりさんがいたように、エリーサちゃんのそっくりさんもいたって訳か。もっとも、僕の側から言えばエリサちゃんのそっくりさんがエリーサちゃんというのが、正しいのだろうけれど。
 あの日僕たちは、アウトドアでの調理器具を展示するために、幕張に行く予定だった。先輩がセリカちゃんに乗らなかったのは、何のことはない、見知った道だったからで、そもそも迷子にもなってなんかいない。
 で、真相は、会社近くの道路に飛び出してしまったエリサちゃんを避けようとして先輩がハンドルを切り損ね、ガードレールに激突した、そういうこと。
 しかも間の悪いことに、僕たちはあの時、ロイヤリティーのチ○ッカマンを大量に乗せていた。事故後そのチ○ッカマンに引火し車は大破。僕たちは瀕死の重傷だったという。
「エリサちゃんはどこも怪我してないの?」
「うん」
「なら、良かった。謝ることなんて何もないよ。僕は君が無事でいてくれればそれで充分だよ」
僕はそう言って、エリサちゃんの柔らかくて細い髪を撫でた。エリサちゃんの頬がぽおっと薔薇色に染まる。
「でも、どうして、お兄ちゃんは英梨紗の名前を知ってるの? 最初変なとこ伸びてたけどさ」
そして、不思議そうにエリサちゃんはそう聞いた。
「うん? 何でかな、エリサちゃんの夢を見てた。君が僕をここに連れて帰ってくれたんだよ」
「ひぇ??」
当然だけど、エリサちゃんは意味が全く解らないだろう。でも、僕はこの展開に運命すら感じているんだけどね。夢の中で言えなかった『I love you』をきっと言えると確信したから。
「僕のことは、夢の中みたいにビクって呼んでくれる?」
そう言った僕の言葉に、エリサちゃんは薔薇色を通り越して、茹で蛸になりながら、ブンブンと首を縦に振った。
 僕の耳に、相変わらず眠ったままの先輩が夢の中で言った、『お前、しまいに押し倒されっぞ』の言葉が聞こえた気がした。
 先輩、僕このままじゃ押し倒される前に、押し倒しそうですけど。それって、犯罪……ですよね。




道の先には……24

 僕は、闇の中でセルディオさんに会った。闇の中なのに、セルディオさんだけが、ぽかっと浮かび上がっていた。
 そして、確かによく似てはいたけれど、魔道士が着るようなローブを纏った彼は、僕より数段落ち着いて見えた。
「美久、巻き込んだ上に痛い思いまでさせてしまって、どうもすいませんでした」
僕は彼が日本語で語りかけてきたので、驚いた。ああ、でも、ここは天国なんだろうから(いや、真っ暗だし、もしかしたら地獄? 悪いことはしてないつもりなんだけど)そんなのもアリなのかなと思う。僕は、
「セルディオさん、あなた方の仇はとりましたよ」
と言った。そしたら、セルディオさんは、くっくっくと笑うと、
「仇ですか、じゃぁ、そう言うことにしておきましょうか。では、私はこの辺で」
と言ってボワーンと消えた。なんかどこまでも魔法使いっぽい人……
 そして、僕はその途端、闇の中からいきなり光の中に放り出された。あまりの眩しさに、一旦目を開けたもののまた閉じなきゃならないほど。そして、次の瞬間お腹に強烈な痛みが襲ってきた。テオブロに切られたところだ。生きている、僕まだ生きているんだ!!
 僕が再度目を開けると、そこは謁見の間ではなく、白い壁に囲まれた、小さな部屋だった。僕はベッドに寝かされていて、隣のベッドには先輩が。その手をフローリア姫が
心配気に握っている。テオブロはもう捕まったはずなのに、どうして先輩までベッドに寝かされているんだろう。
「せん……ぱい……せん」
僕が先輩を呼ぶと、フローリア姫は弾かれたように、僕の方を見て、
「宮本君、気が付いたの!!」
と日本語で言った。あ、じゃぁ、この人はフローリア姫じゃなくって、谷山先輩? そう思って、先輩の方をもう一度見ると、先輩には、あっちではお目にかかれそうもない管やら機械に囲まれている。ああ、ここは日本だ。僕たち、戻れたんだ。そう思ったら痛みは尚更現実化してきて、たまらずに、
「ううっ」
と僕は呻き声を漏らした。その声を聞いて、
「痛いの?」
と尋ねる谷山先輩への返事の代わりに、僕は切られた所を庇うように身をすくめた。その様子を見て彼女があわててナースコールを押す。
 程なく、病室に看護師がやってきて、僕の着ていた布団をひっぺがすと、
「大変だわ!」
と叫んでだだだっとまた慌ただしく病室を飛び出していった。それからしばらくして、その看護師は他の看護師やら医師やらを引き連れてどやどやと戻って来た。
「大変だ、しかし、何で今更縫合部分が外れたのか。とにかく、緊急手術の用意!!」
僕を看た医師が、首を傾げながらそう言う。縫合部分? 僕はこっちの世界でも怪我をしてたのか。痛みでぼんやりとしてきた頭でそう思った僕は、こっちの世界に戻ってきたばかりだというのに、またすぐ麻酔で眠らされてしまった。  

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genre : 小説・文学

道の先には……23

 僕の爆弾発言に謁見の間の空気が一瞬固まる。
【えい、ええい、何を言うかと思えば! 王子になりすますことがかなわぬと知れば、今度はわしを犯人扱いにするなど、言語道断。わしを王弟テオブロと知っての狼藉か!!】
テオブロ一人が沸騰した薬缶みたいになってがなり散らすけど、騎士はぴくりとも動かない。そっか……テオブロは王様の弟な訳ね。じゃぁ、王子がコータル様一人なら、それで次の王様は自分のモノって訳だ。充分な動機あり過ぎで、僕と彼の言うことのどちらが真実か量りかねているのだろうし、騎士は基本的に王様に従うもの。テオブロは王様じゃないもんね。
【な、何をしておる。この大悪人を早く捕らえぬか!】
【テオブロよ……お前よもやコータルを手に掛けたとは言うまいな】 
その時、王様が沈痛な面もちでテオブロにそう言った。
【王よ、王はこの血を分けた弟の言うことより、素性も分からぬ輩の言うことを信じるおつもりですか!】
【わしとて信じとうはないが、かねがねあまり良くない噂も聞いておるのだぞ】
【……】
王子様の暗殺計画は今回に始まったことじゃないらしい。テオブロは、王様にそう言われて、拳を握りしめ、唇をかんで黙っていたけど、
【なぜじゃ、なぜわしの言うことを聞かん。もういい、ならばわしがこの大罪人を成敗してやる!!】
と、逆上し、先輩にいきなり切りかかった。ダメだ、王子様だけじゃなくって、先輩まで殺される! 僕は、やっぱり自分のスキルなんて一切無視して、テオブロと先輩の間に割り込んで……

 僕はテオブロに、あっさりばっさり切られた。スローモーションで視界が横に流れていく。その時に床に飛び散った血が見えて、意外と血ってよく飛ぶもんだなと思う。
 切られたところは痛いと言うより熱かった。それに、心臓がふたつになったみたいに、切れたところから動悸を打つ。それくらい血が流れているんだろうか。一旦、床に転がってしまうと、頭を上げることすらできなかった。
 その後、なおも先輩を切ろうとするテオブロは、王様が騎士に取り押さえるよう命じて、あっと言う間に取り押さえられた。テオブロが、
【なぜわしがこのような仕打ちをされねばならん。罪人はこやつらじゃ! 離せ、離さぬか!!】
と、大声で叫びながら暴れるのを数人ががりで抑えて謁見の間の外に連れ出されていくのが見えた。

「宮本、しっかりしろ!」
 騒動が収まったあと、先輩が慌てて僕を抱き起こす。すると、僕の目に、超どアップのエリーサちゃんの泣き顔が飛び込んできた。
【エリーサちゃん、せっかくの、ドレス、汚れちゃうよ】
僕はそう言って、彼女の頬の涙を掬った。
【ビク! ドレスなんてどうでも良いよ。ねぇ、あたし お父様の言う通り、ビクのお嫁さんになる。だからお願い、死なないで!】
? なんでお父様の言う通りにするとどうしてエリーサちゃんが僕と結婚しなきゃなんないのか、その辺が全く分からない。でも、切られてすぐはとっても熱かった身体は、ずいぶんと血が抜けてしまったのだろうか、今度は急激な寒さがやってきて、ふるえで口が上手く動かくなってきはじめた。
【なに? お嫁さん】
というのがやっとで、それもものすごく小さい声しか出なかった。
【ヨシャッシャ、ヨシャッシャ……】
すると、エリーサちゃんは懸命に美久と発音しようとした。それを聞いて先輩が、
【一度に言おうとすると発音できないんなら、区切ればいい。ヨシ、ヒサ。さぁ、言ってごらん】
と助け船を出す。
【ヨッシー、ヒッサ……ヨッシー、ヒッサ】
エリーサちゃんは一文字ずつ区切って僕の名を呼ぶ。でも、ヨッシーなんていったら長い舌で卵を飲み込まなきゃならなくなりそうなんだけどなんて、つっこみを脳内ではいれつつ、それでもかわいいから許すと僕は思っていた。
【な…に】
【好きだから、大好きだから! しなないで、お願いずっとあたしのそばにいて!!】
 実は僕も君が好きだよ。君がいかついおっさんのときから、たぶん。自分が同じ男に惹かれる意味が解らなくて戸惑ってしまったりもしたけれど、きっと僕はマシューの中にちゃんと君を見つけていたんだと思うよ。
 だけど、僕はその想いを彼女に伝えることはできなかった。『Ilove you』と言った言葉は、荒い自分の息にかき消されて、そして……僕の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
 

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