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とけちゃった……

青木賞のメンバーがエッセイで発案した「夏休みの宿題」お題:アイスです。


とけちゃった……




 父が寄る年並みで小さな段差に足が上がらなくなって転んで、足の骨を折った。入院中に家をバリアフリーに改造することになり、この際だから要らない物を整理しようと言うことになって、そのために私と姉、それから姉の旦那様達ちゃんが実家に集結した。

「これ、二実ちゃんのだよねぇ。初穂さんはこんなかわいいノートはたぶん使わないだろうから」
そう言って達ちゃんが出してきたノートの束に私はぎょっとした。ちなみに初穂さんというのは、お姉ちゃんの名前。達ちゃんは結婚してもうすぐ30年も経つというのに、未だにお姉ちゃんのことをそう呼ぶ。

 そして、そのノートの束は間違いなく私のものだ。書いている内容も分かっている。社会人になりたての頃、ちょっとだけつきあって別れた大地に対しての愚痴の記録だ。
「げっ、中味読んだ?」
「いや、たぶん二実ちゃんのだと思ったから、開けてない」
良かった……読まれてたら、恥ずかしさで死んじゃうよ、私。

「暑っ、ねぇお茶にしない?」
そしたらジャストタイミングでお姉ちゃんがお茶と高級そうなカップアイスを持ってその部屋に入ってきた。
「頂き物らしいけど、お父さんたちこんなの食べないでしょ。食べといてって、お母さんからの伝言。」
私が不思議そうにアイスを見つめてると、お姉ちゃんはそう付け加えた。お姉ちゃんもどっちかというとアイスは苦手だからだ。その実、アイスは私と達ちゃんの分、2つしか置かれていない。私はその内の一つを取り、どっかと床に腰を下ろして、さっき受け取った「恥ずかしい記録の」の一つを開いた。
 
1ページ目を開くと、本文の上に――なべて事なし――なんていきなりタイトルが冠してある。私、学生時代文章を書いていたりしたから、日記と言うより毎日エッセイを書いているって形式。

 そして、いつしか私は自分の25年も前の文章を読みふけっていた。23歳の等身大の私は、泣いて笑って大地に恋していた。
 だけど、『かわいい』とほくそ笑みながら読んでいた私の手が止まった。そこに大輔という名前を見つけたからだ。

 私は大地が好きだった。ものすごく好きだったから自分からコクって……大地はそれを断らなかったからつきあい始めて、でも盛り上がってたのは自分だけでその内振られた。私はあの頃のことをそういう風に記憶してた。

 だけど、実際の私は大地は好きなんだけど、何も言ってくれない彼にしびれを切らせて逆に私にコクってきた大輔とつきあうと、大地に告げていた。
その時に、大地が
「しあわせになれよ、でも残念だな、俺お前のこと好きだったのに」
って言われてめちゃくちゃ焦ってるし、おまけにその後二股の上、最終的に大地を選んでいた。

 私ばかりが追っかけていると思っていたのに、出てくるのは大地が私にヤキモチを焼く台詞ばかり。

 結局、大地と別れてから大輔とより戻してるし、なんて女なんだ、私……
自分のイヤなところ記憶すり替えてるよ。

「ねぇ、この残りのアイス明雄さんに持って帰る?」
お姉ちゃんにそう言われて我に返った。見ると私のアイスはもうどろどろに溶けてしまっていた。それをスプーンでぐるぐるとさらにかき回す。
「ううん、ウチだと持って帰るまでに溶けちゃうよ」
お姉ちゃんの言葉に私はそう答えた。
車で30分もかかるから、溶けちゃうのも事実なんだけど、ホントは、こんな私を大事にしてくれる夫には、なんか貰い物のアイスじゃ申し訳ない様な気がしてきたからだった。

 今日は彼の大好きなチョコミントのアイスを買って帰ろう。そう思った。

                       -END-







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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

バニシング・ポイント7

 翌日、午前中に順子はやってきた。
「徹君は?」
順子は当たりを見回すと、衛に彼の高校生の弟の所在を聞いた。
「今日は学校の友達とプールに行ったよ」
「そう」
順子は安堵の笑みを浮かべた。誰にも聞かれたくない話――覚悟して聞かねばならないと、衛はごくりと唾を呑み込んだ。

「衛君の気持ちが聞きたくて。衛君はヒロが好き?」
「へっ、えっ、何それ、あの……」
しかし、続いて順子はいきなり裕美への気持ちを聞いてきたので、衛は慌てた。
「本気でヒロのこと、考えてくれるんじゃないなら、これ以上ヒロの前に現れないでほしいと思って。言っとくけどあの病気は完治してるわよ」
あの病気でないのなら、また新たな病気があるのか。それなら、なぜ博美ばかりがそんな目に遭わねばならないのだろう……衛はそう思った。
「じゃぁ、昨日のは……」
「過呼吸。浅い呼吸を繰り返すことで、体の中の二酸化炭素の濃度が下がってしまう症状なの。当の本人は息ができないと感じるから、焦って余計に呼吸しなきゃって思ってしまうの。放っておいての15分もすれば落ち着いてくるけど、紙袋なんかで自分が出した二酸化炭素をもう一度吸わせて濃度を上げるほうが回復は早いの。『鼻を摘まんでキスしてくれても良い』って言ったのもふざけて言ったんじゃないのよ。そしたらヒロの心拍数も上がって、積極的に衛君の二酸化炭素取り込んでくれそうだし。そっちに気が向けば息ができないってこと自体を忘れちゃいそうじゃない?」
息ができないことを忘れたら逆に危ないんじゃねぇの? そう疑問に思った衛に、順子はつづけた。
「だって、過呼吸は何か病気があって出るんじゃなくてあの子の心が作り出しているんだもの」
そう言って、順子は深くため息をついた。
「確かに、成人できないって言われ続けて生きてきたあの子の気持は私たちには計り知れないわ。短い人生を悔いなく生きよう。そうやってヒロはずっと頑張ってきた。たぶん、あの子の中では、人生は20年で完結していたんだと思う。
だけど、奇跡は起こった。私たちもそれを信じて祈ってきたし、ヒロ自身もきっとそれを祈ってもいたと思うの。
だけど、実際にその奇跡が自分のものとなった時、心は付いていかなかったの。それで21歳の誕生日前後から、ときどき過呼吸になるようになったの。燃え尽きてしまったって言えば良いのかな。」
「そんなの、良いわけないだろっ!!」
「そうよ、良いわけない。ヒロの人生はまだまだ続くのよ、だから」
「だから?」
「私は衛君にヒロのパートナーになって欲しいの。あなたにずっとヒロが必要だと、言い続けてやってほしいの」
そういうと、順子は寺内家のリビングの床に正座して、
「ヒロは衛君のことが好きなの。お願い、あの子との結婚、考えてみてくれないかしら」
と頭を下げたのだった。

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genre : 小説・文学

覚悟―バニシング・ポイント 6

覚悟

  博美の家の前に着いたとき、博美はまだ眠っていた。衛は一足先に降りて、名村家のインターフォンを押した。
「衛です。遅くなりました。」
「今、開けます」
博美の母親のその応対の声を確認して、衛は眠ったままの博美の方のドアを開け、彼女を抱き上げた。だがその振動で裕美が目覚めた。
「あ、えっ? やだ、衛下ろして」
「落とすから暴れんなよ。玄関で下ろしてやっから」
そう言って、衛は博美をもう一度がっちり抱え直した。博美も諦めたのか、衛の首に手を回す。
 やがて、名村家の玄関に博美の家族(両親と順子)が挙って出てきた。
「失礼します」
と前置きして、衛はすっと家の中に入り、玄関先の板の間に博美を下ろした。
「心配かけてすいません」
「君のせいじゃないから、気にしなくて良いよ寺内君」
神妙に頭を下げた衛に、博美の父がフォローする。
「そうそう、ヒロも大好きなblowing the windだからって、興奮しすぎ。どうせ寝てなかったんでしょ。で、私のアドバイスは役に立った? にしても、紙袋があって残念だったね」
そして、続く順子の発言に、衛は首だけで軽く頷いた。対処法を知っていたのだから、博美がこうなったのも初めてではないのだろうし、深刻な事態には発展しないと理解しているのだろうが、からかわれるのは気持ちの良いものではない。
(でも、博美楽しみにしててくれたんだ。ホントこいつ顔に出ないよな、そういうの)

「じゃぁ、俺帰ります」
「本当にありがとう。ほら、博美ちゃんもお礼言いなさい」
「ありがと」
 衛が暇乞いをすると、裕美の母は彼女に衛への礼を促す。裕美は先ほどの「お姫様だっこ」を怒っているのか、衛の眼を見ないまま礼の言葉を述べた。
「今日はちゃんと寝ろよ」
それに対して衛はそう言うと、名村家を後にした。

 しかし、衛が車に乗ろうとすると、家の中から順子が走り出てきた。
「ねぇ、衛君明日暇? ヒロのことで話があるの」
「そろそろ課題をやろうかと思ってるから、予定は入れてないけど」
ヒロのことで話といわれた途端衛は冷たい水をいきなりかけられた気分になったが、何とか平静を装って言葉を紡ぎだす。
「ヒロには聞かせたくないから、衛君ちに行っても良い?」
さらに、順子はそう切り出した。(やっぱり今日のことは俺の車の運転に差し障るから、あの時はああ言っただけで、ホントは……)
 衛は唇をぐっとかみ締めると、力強く順子に頷いた。

バニシング・ポイント5

 衛はとりあえず博美のシートベルトを外した後、少し走って公衆電話を見つけると路肩にハザードを焚いて停めた。
「ちょっと待ってろよ、博美んちに電話してから病院にすぐ行くからな」
衛は博美にそう声をかけると電話ボックスに縋り付き博美の家――名村家の電話番号を押す。県外に居るので市外局番から押さねばならないのがもどかしい。
「はい、名村です」
5回のコールの後、博美の姉順子が出た。
「俺、俺。順子姉ちゃん?」
「衛君? 何よそんなに慌てて。ヒロとケンカでもした?」
順子はくすくすと笑ってそう言った。いつもならそれに対して言い返すのだが、今はそれをする気持ちの余裕すらない。
「博美、博美がおかしいんだ。また、あの病気? 息ができないって言い出して……俺、どうしたらいい? このまま病院?」
「ヒロ息ができないって言ってるのよね。衛君、今車に紙袋ある?」
おろおろと状況を説明する衛に順子は彼が思ってもいないことを聞いた。
「紙袋?」
「そう、どうしてもなければ……鼻をつまんでキスしてくれても良いんだけど。それだと落ち着いた後でヒロに衛君が殴られてもいけないか」
「順子姉ちゃん、俺真面目に聞いてんだよ!? 紙袋ならあるから!!」
さらに続くおかしげな順子の物言いに、衛は思わず言葉を荒げた。
「大真面目よ、私は。紙袋があるんならそれでヒロの鼻と口とを完全に覆って。しばらくしたら落ち着くはずだから。たぶん、寝ちゃうと思うし、そのまま連れて帰ってきて」
それに対して、順子は医師が看護師に手当の方法を説明するかのようにそう返した。
「そんなので大丈夫なの……か?」
「そう、大丈夫よ。それにあの病気じゃないから、心配しなくて良いわ。それより衛君が焦って事故起こさないようにゆっくり帰ってきて、解った?」
「……解った」
 衛は若干納得のいかないまま受話器を置くと、博美の許に戻り、最後のハンバーガーが入った袋を逆さまにしてそれを取り出し、苦しげに肩を上下する彼女の口元に持って行った。
(食べ物の臭いをかがせて、それでどうにかなるってのかな)
そう思いつつそのままそれを続ける。博美の荒い呼吸に合わせて紙袋が膨らんだり縮んだりが繰り返され、やがて彼女の呼吸がだんだんと和らいでいった。
(すげぇ、ホントに治まった……)
順子がこの状況を聞いてふざけたことを言ったりするとは思えなかったが、こんな突拍子もないことがこんなに効くとは衛も思ってはいなかった。
「博美、大丈夫か?」
衛はそう言いながら博美の顔と首に浮き上がっていた脂汗をダッシュボードに置いてあるティッシュで拭いた。
「うん……もうだいじょぶ」
「そっか、シート少し倒すから。寝られるんなら寝ろ」
「ありがと」
博美は衛に礼を言うと、順子が言ったようにすっと眠りに落ちていった。衛は大きく息を吐くと、ハザードを消し、車をふたたび発進させた。

 カーオーディオからは、衛が博美にコクるときにかけようと思っていた曲、「La luce La ciamo’」が流れ始めていた。

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genre : 小説・文学

バニシング・ポイント4

 実際問題、この辺の人は名古屋には買い物で出かけるということも多い。毎回終了時間を大幅に伸ばしてしまうそデュオのコンサートでなければ、電車で充分大丈夫な距離だ。それだけでも、博美が世間並みの20歳の女性然ととしていないことがよく判る。

 それでもコンサートの当日、彼女の姉にもらったというワンピースを着、うっすらと化粧をして現れた博美は衛が息を呑むほど美しかった。
「ほ、ほら乗れよ」
衛は体を精一杯伸ばして、助手席のドアロックを外した。博美は一瞬固まった後、車に乗り込んだ。二人きりで出かけるのに、こいつはやっぱり当然後部座席に乗るもんだと思ってたみたいだ。(だから、背伸びして親父の5ドアを借りずに姉貴の2ドアにしたんだ)衛はその選択をこの後、悔やむことになるのを彼はまだ知らない。

 車は軽快に走り、二人は他愛のない話で盛り上がった。そして、開場よりずいぶん前にたどり着いた二人は、車を駐車場に預けてコンサート会場に向かった。それでも、すでにかなりのファンが集まっていた。どうせさっさと入場し、開演までにコンサートグッズを手に入れるためだろう。二人は列に並んで開場を待った。やがて人の波に攫われるように開場に入る。コンサートグッズを横目で見ながらホールに入り席に着いた。そのとき、博美の様子はごく普通だった。

 だが、大好きなはずのアーティストのコンサートが終わった後、彼女はどこか青い顔をしていて、口数が少ない。結局、帰りもグッズなど見ることなく二人はその会場を後にした。
「なんか食って帰るか?」
会場を出たところでそう聞いた衛に、
「ううん、食欲ない。ゴメン、衛はお腹すいたよね。」
博美は気遣うような眼で頭を振った。会場の人混みにやられたのかもしれないと思った。なので、衛は
「いいよ、俺はハンバーガーでも食いながら走りゃそれで良いから」
と言うと、都会ではごろごろと乱立しているチェーン店のハンバーガーショップでいくつかバーガーを買い込んだ。そして、全く何もお腹に入れないのもどうかと思って、博美にはアイスコーヒーを注文し、直接彼女に持たせる。
「ありがと」
ストレート派の博美はそれに何も入れずに一口すすり、やっと笑った。

 それから駐車場に戻り、むんむんとする車に乗り込む。そして、博美が乗り込んでコーヒーをドリンクホルダーに突き刺したのを確認して、衛は袋からハンバーガー一個とドリンクを取り出すと、残りの袋を博美に預けて、自身もドリンクをホルダーに突き刺し、車を発進させた。
「運転しながらじゃ危ないよ」
博美は発進してからバーガーの包みを開けようとする衛の手からそれをひったくり、食べやすいように折って衛に手渡した。
「お、サンキュ」
衛は前を見ながらそう言うと、バーガーにかぶりついた。
車内にはさっきまで聞いていた、そのデュオの一番のヒット曲であるラブバラードが静かに流れていた。こういうシチュエーションに余計な言葉は要らないのかも知れない、衛はそう思った。

 しかし、最後ののバーガーをもらおうと
「博美、剥いてくれよ」
と声をかけて衛は食べている間裕美が声をかけてこなかった本当の理由を知り、あわてて車を脇に停めた。
「博美、どうした!!」
「い、息ができない……」
博美はそう言って脂汗を流して喘いだ。


 

 





ピカルとコルロ

夏だね、とういうことで珍しく童話テイストなものを……ただ、つっこみどころは満載です。



ピカルとコルロ


ピカルとコルロは双子の天使。お空の雲を作るのが神様から言われた彼らの仕事です。

「どうだい、すごくいい出来だろ? この雲は」
ピカルはたったいま作ったばかりの自分の雲の自慢を始めました。
「そんなでもないじゃない。それより、この僕の作った雲の方が素敵だよ」
しかし、コルロはそれをちらっと見ただけで、自分の作った雲に目をやり目を細めながらこう返しました。。
「僕の作った雲の方が形が良い!」
「いや、僕の方が白くてきれいだ!」
「「なんだと!!」」
そして今日もまた、いつものケンカが始まってしまうのでした。

こんなですから、ピカルとコルロの仕事はちっとも進まないのでした。



神様はこのことに非常に心を痛めておられました。
「どうしたら二人を仲良くできるだろうね」
神様は二人をお側に呼び寄せました。

「「神様何かご用でしょうか」」
神様のお側に着いた二人は同時にそう言いました。
「ピカル、コルロお前たちはいつでもケンカばかりしているが、どうしてそんなに仲が悪いのかな。」
神様がそう尋ねると、二人はまた全く同じタイミングでお互いを指さすと、
「「それは、この『ピカル』『コルロ』が悪いんです!」」
と自分たちの名前の部分だけをのぞいて同じ言葉を吐いたのでした。こんなに似ているのに、どうしてお互いを認めることだけができないのだろう、それを見た神様は深くため息をつかれたのでした。
「そうか、お前たちの言うこと解った。しかし、ケンカはいけない。だから私はお前たちに罰を与えることにする。次にお前たちがケンカをすればどうなるか……それは、お前たちの目で確かめなさい」
そして、神様はそう言い渡し、二人を下がらせました。



自分の持ち場に戻った後、ピカルはこう言いました。
「コルロのせいで神様に叱られたじゃないか!」
しかし、その言葉が終わるかどうかと言うとき、言葉が突然ものすごい光を発して下界の町へと飛んでいったのです。
「違うよ、それはピカルが悪いんだろ! 僕はそのとばっちりを受けただけだ」
その光に少しビックリしながらも、コルロはそう言って反論しました。するとコルロの言葉は大きな爆音となってドドンと辺り一面に響き渡ります。

二人はその光の落ちた部分をそっと覗いてみました。すると、そこにはその町で一番大きなクスノキの木があったのですが、真っ二つにおれて真っ黒になってしまっていました。その木はいろんな鳥たちが集い歌を歌うので、二人も大好きな木でした。
「あのクスノキが真っ黒になったのは、お前が悪い」
「いいや、お前が悪い」
そして、二人がそう言ってののしり合うたび、言葉は何度も光り、大きな爆音を何度も響かせました。道に大きな穴が開き、小さな子供が怖がって泣き叫ぶ声が聞こえます。
二人は、お互いを見つめたまま固まって何も言えなくなってしまいました。

「ピカル、コルロ」
その時、神様が二人に呼びかけられました。だけど、二人は先ほどから何か話すと光って爆音を立てるので、声を出すことが怖くて返事ができないでいました。
「心配しなくていい、普通に話すことには何も起こらないから」
「「ホントですか!」」
二人はまた同時にそう言いました。その言葉は光ることも大きな音もしませんでした。
「そうだ、普通に話すときには何も起こらない。しかし、お前たちが互いのことを悪く言うとき、それはいかずちとなり地上に降り注ぐ。その場にある木はなぎ倒され、生き物はその命を失うことになる。ふたりは地上のものたちが好きか?」
「「はい」」
「ならば地上のものたちが傷つかぬよう、お互いの言葉を慎むように」
「「はい」」

それから二人がケンカをすることはほとんどなくなりました。

でも、時々はまだ意見が合わなくてケンカになってしまうことがあり、ピカルの言葉は稲光となり、コルロの言葉は轟音となって降り注ぐのです。

そして、ケンカが終わった後、二人は自分たちのことが情けなくなり、いつもわんわんと泣いてしまうことになるのでした。

雷の後大雨が降るのは小さな双子の天使が流すごめんなさいの涙なのです。

                                  
                           -おしまい-






コンサート-バニシング・ポイント3

コンサート

(やっぱり、こいつは今年も遺書を書いてやがった)
博美の白すぎるうなじと書いているものに似つかわしくない笑顔の横顔を見ながら、衛は博美に聞こえないようにため息を落とした。

 最初に遺書を書いてるのを目撃したのは16歳のやはり夏だったか……遺書と言っても自分の葬式を両親たちの宗教に則ってやると言うこと以外には生前のつきあいに感謝することくらいだ。まだ未成年の博美には財産なんてないし、そうでなくても博美はまったく物に対して執着がない。だから、そんなもの書かなくても何の支障もないだろうに。衛はその時でもそう思った。ましてや、病気が完治した今、余計必要ないものを今更まだ書こうとしていることが解らない。
(人間一寸先は判らないって言うけどさ)
治って久しいその病から博美はいつになったら解き放たれるのだろう。

「今日は何?」
「あ、忘れてた。blowing the windのコンサートチケットが手に入ったんだけど」
衛はコンサートチケット2枚を広げて博美の前で振って見せた。
「blowing the wind!」
blowing the windと聞いて博美は目を輝かせて食いついてきた。物に執着のな博美が唯一こだわりを見せるのが病床で聞いていた音楽だった。
「名古屋だけど」
「名古屋なの?」
だが、博美はコンサートが隣県で行われると知って少し顔を歪めた。精力的にいろんな町でコンサートをしている彼らは、もっと近くの会場でもコンサートを行うことを博美は知っていたからだ。
「こっちのは会場が小さいからとれなかった」
それに対して衛はそう答えた。しかし、本当はとれなかったのではなく、とらなかったのだが。人気フォークデュオのコンサートは、会場が大きかろうが小さかろうがチケットの入手は同じくらいに困難だ。このチケットも、発売日前日から名古屋の発券所で並んでまでとったものだった。
「でも、名古屋なんて、遠いよ」
「姉貴の車借りていけばその日のうちには……ちょっと日付は跨ぐかもしんないけど、帰れるからさ。車ん中でコンサートの余韻を楽しむってのも悪かないし。」
「……うん……でも他の人を誘えば?」
熱心に誘う衛だが、博美の表情は硬い。
「お前行きたくないの?」
しびれを切らせた衛がそう聞くと、裕美は頭を振った。
「じゃぁ、行こうぜ」
「うん、そうする」
博美はにこりともせず真顔でそう答えた。
「はぁ……せっかくのプラチナチケットムダにするかと思った」
(……ったく、何で俺が名古屋で徹夜までしてこのチケットをとったと思ってんだよ! お前と行きたいからだろ。
それに没られたら、帰り道にコンサートで歌われるあの定番のヒット曲に乗せてコクるっていう俺の計画が台無しになるんだよ!)
衛はやっとの事で承諾をとりつけ、半ば脱力しながらそう思った。

 この時衛は博美の心の中にある闇の深さにまだ気づいてはいなかった。

バニシング・ポイント2

 私が毎年二回遺書をしたためる訳は、私の両親がごく普通の仏教徒ではなかったから。だからといってアヤシイ宗教ではないし、亡くなった時点でちゃんと家族が手配してくれるだろうから、そんな心配はいらないはずではあるのだけれど、
『一応本人も希望しているっていう方がやりやすい』ということで、遺言書が書ける15歳の誕生日間近の7月1日から私は誕生日と新年(数え年で歳を重ねるという意味で) に年二回遺書を書いてきたのだ。

 私は難病指定の病気に罹っていて小さい頃から入退院を繰り返し、たぶん成人はできないだろうと言われていた。

 ところが、ひょんなことから私の病気の治療法が見つかり、18歳の春、私はまさに九死に一生を得たのだ。
「定期検診にはもちろん来てもらわないとダメだけど、もう入院なんてことはないだろうと思うよ」
私を小さいときから診てくれている鹿島先生は、目を細めながらちょっと残念そうにそう言った。
「お祈りは聞かれるのよ。私、鳥肌立っちゃったわ」
「俺はまだ興奮してるよ。奇跡が起こる瞬間を目の当たりにすることができたんだからな」
帰りの車の中でそう興奮しながら話すパパとママ。

 だけど、手放しで喜ぶ周りの反応を見ながら私の心は冷めていた。
確かに命を永らえられることは嬉しくない訳じゃない。でも……

私は永らえた命で何をしたいのか、何をすべきなのかが全く分からなかった。贅沢だ! と私の入院仲間は挙ってそう言うだろう。なら、私の生を自分に回せと。

 でもね、今まで私は自分の人生設計を20年の枠でしか設定してこなかった。私は今まで死ぬ準備しかしてこなかった。そんな私にいきなり生きろと言われても、『はい、そうですか』と踵を返して歩き出すことなんて、私にはできなかった。
 それでも、20歳までは想定範囲内だったから、何とか生きてこられた。

 だけどそれもあと数日。私は7月10日に21歳の誕生日を迎える。
  
 何の夢も希望もない私の明日が始まろうとしていた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

バニシング・ポイント1




               ――私は先のある未来に絶望した――


                「バニシング・ポイント
                       Vanishing Point」






意味を成さなくなった年中行事


 ――7月1日――

 私は今年もやっぱり「ソレ」を書いていた。15歳になったときからお正月と、誕生日のある7月1日の年二回、「ソレ」を書くことは私の義務だった。
「裕美、やっぱり今年もそれ書いてんの?ま、悪いこっちゃないけどさ」
そう言って、断りもなしに人んちに上がり込んできたのは、幼なじみの衛。
「何となくね、年中行事……って奴かな」
「でもさ、今思ったんだけど、ワープロでそんなもん書いても意味なくね?」
続いて衛はそう言って笑った。ワープロで書いた「ソレ」は法的に意味を成さないものなのかどうかは私は法律に詳しくはないので、判らないけど、私にとって「ソレ」を書くこと自体がもう意味を成さなくなっているような気がする。

私は、ツールバーのファイルをクリックし、『名前をつけて保存』を選択し、遺書21歳夏と書き込んでファイルを保存した。










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祈り……送る季節に

一卵性双生児-元々一つだった命が二つに分かれるというのはどんな感覚なのだろうか。相手の危機がわかったり、同時に熱を出したりと、一卵性双生児ならではのエピソードもよく聞かれます。

そんな一卵性双生児の話が書きたかったんです。なのに……どこで間違ったんでしょうか。
ま、恵実と愛実も一卵性双生児ですけどね。

もうすぐ、盂蘭盆会です。夏はホラーの季節でもあります。特番で先祖のたたりとかやったりしてますけど、私あれには常々疑問を感じているのです。

そりゃ、現世に恨みを感じたままで亡くなった方もおられるでしょうけど、それまで家族の盾となって働き生きてきた方々が、祀り方が悪いからって文句つけたり、恨んだりするでしょうか。生きてる方をやっかむのでしょうか。

切ないほどに、遺してきた家族の幸せを祈っている……私はそう考えるのです。

だからと言って、「こんなことにあの子はいないわ!」と1歳1ヶ月で亡くなった息子さんの仏壇を鉈でたたき割ったKさんは行き過ぎだと思いますが、Kさんは現在87歳。その後二人の息子さんに恵まれて、多くの孫に囲まれて幸せです。

だから、あの愛実の最後の一言になりました。





theme : ひとりごと
genre : 小説・文学

そして……-Love Grace16

そして……

 あたしと隆一は結婚し、1年半後息子隆誠(りゅうせい)を産んだ。
『恵実ってさぁ、ホント痛みに弱いよね。一晩中騒ぎ続けるんだもん。何なら歌でも歌えばよかったのに。恵実合唱部だったでしょ』
初めての育児に疲れきったあたしにそう言ったのは、鏡の中の“あの子”……
 結婚してしばらくすると、愛実は何食わぬ顔をしてまた私の前に現れるようになった。
しばらくぶりに現れた時、腰を抜かすほど驚いたあたしに、
『あたしと恵実は元々一つだって言ったでしょ? そんなに驚くことないじゃない。それに、座敷童が家に憑くと家は栄えんのよ。竹林堂はこれで安泰っと。手始めは跡取りね。あと8ヶ月たったら、男の子生まれっから』
と、まだ妊娠の兆候も感じてなかったあたしに隆誠の妊娠を知らせた。確かに、愛実が戻ってきてくれたことは嬉しくなかった訳じゃないけど、どっちが生まれるのか最初から言わないでほしかったと思う。おかげで、お腹を眺めてどっちかなっていう楽しみ、なかったじゃん。

 そして、鏡に話しかける嫁なんてばれたら即刻離婚ものだと思いつつも、愛実との会話はあたしの日常になってしまっている。
「バカ言わないでよ。そんな余裕があるわけないでしょ!? そんなこと言うんだったら、愛実が代わってくれれば良かったじゃん。痛みが生きてる証拠だって言ったくせに」
『ヤダヨ、痛いもんは痛いもん。それより恵実こそ、そのオイシイとこ採りの性格を何とかしたらどうなのよ』

 ただ、愛実の性格がどんどんと悪くなっていってると思うのは……気のせいなんだろうか。
「ああ、入れ替わって今度はホントに乗っ取られても困るしね」
あたしがそう言うと、
『解ればよろしい』
と返ってきた。お前、ホントにその気かいっ!!

 その時、眠っていた隆誠が起きてぐずった。
『恵実リューちゃん泣いてるよ』
「分ってるって」
『ねぇ、抱かせて抱かせて!』
あたしは隆誠を抱いたまま、その部屋にある大きな姿見の前に立った。それは愛実との入れ替わりの後、急遽買って嫁入り道具の中に入れてもらったもの。”鏡の中のあたし”は、溶けそうな笑顔で息子を抱きしめている。

「愛実もさぁ、どっかに生まれ変わるとかそういうのないの?」
そういったあたしに、
『恵実、あたしを追い出したいの?』
と問い返す愛実。
「別にそういうわけじゃないけど……」
『じゃぁ、恵実が幸せでいて。そしたら、同じように鏡の中にあたしの幸せがあるから』
「愛実……」
『バカ、泣くんじゃないわよ。同情なんかしないでね。あたしにはあたしの、あんたにはあんたの幸せがあっていいはずよ』
「あんたの幸せ?」
『そう、あたしがずっと笑ってられるように、ずっと幸せでいて』
「うん……ずっと幸せでいるね」
『だから、泣くなって!』
鏡の中に照れながら泣き笑いしている「愛実」がいた。

あたし、うんと幸せになるから。あんたがずっとずっと幸せでいられるように……

                                  -The End-

声優一問一答バトン。

声優・一問一答バトン

Q1 お名前と声優ファン歴をどうぞ。
A1 神山 備です。ファン歴……うーん、30年とか言ったら引く?
Q2 石田彰さんといえば?
A2 我愛羅。「ママレードボーイ」の蛍。
Q3 諏訪部順一さんといえば?
A3 アンダーテイカー。
Q4 柿原徹也さんといえば?
A4 うん? にわかに思い出さん。
Q5 福山潤さんといえば?
A5 グレル・サトクリフ。「DS赤い糸」のヒロ。
Q6 中村悠一さんといえば?
A6 「絶対可憐チルドレン」のミナモト。「ふしぎ遊戯」のトモ。
Q7 関俊彦さんといえば?
A7 「幻想魔伝最遊記」の三蔵。「カードキャプターさくら」の桃矢
Q8 大川透さんといえば?
A8 喪黒福蔵。
Q9 鈴村健一さんといえば?
A9 「テイルズオブレジェンディア」のセネル・クーリッジ。
Q10 杉田智和さんといえば?
A10 坂田銀時。でも、声優イベントで司会してる印象の方が強いかも。
Q11 遊佐浩二さんといえば?
A11 市丸ギン。
Q12 中井和哉さんといえば?
A12 「のだめカンタービレ」のハリセン。「テイルズオブレジェンディア」のモーゼス。
Q13 神谷浩史さんといえば?
A13 なんだっけ?? 顔知ってるのに、作品名思い出さん。
Q14 置鮎龍太郎さんといえば?
A14 「地獄先生ぬーべー」のぬーべー。「ママレードボーイ」の松浦優(漢字合ってたかな)
Q15 森川智之さんといえば?
A15 「犬夜叉」の殺生丸。「テイルズオブファンタジア」の二代目ダオス。
Q16 小野大輔さんといえば?
A16 セバスチャン。
Q17 自分の回答に、作品などの偏りはありますか?
A17 ワザとみんなが書かない答えを書こうとしたので、かなり偏ってたと思う。
Q18 次に回す方を、5人どうぞ。
A18 こんなおたっきーは他にはいないだろうから、ラスト。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

Love Grace15

 それから3日間、夜になると39度を超える熱が続き、4日目にやっと熱が37度台にさがったので、点滴から解放された。
「明日熱が出なければ、退院してもいいよ」
と言われたけど、大量の抗生物質を投与してるから抵抗力がないので、2週間は他の感染症をもらわないように外出しないようにとも言われた。
 それで結婚退職のための引き継ぎもあらかた終わっていた事もあって、あたしはそのまま仕事を辞めることになった。
 それで二週間後、私物をもらって挨拶をするだけ……お母さんのほうも夏休みということでコメンテーターの仕事も、連載も休んで、まるで降って湧いたようにお母さんとの水入らずの時間ができたのだった。

 久しぶりに見た書いてないお母さん。でもそれは何だかおかあさんじゃないみたいで、あたたしはつい、
「お母さん、あたしに気にしないでどんどん書いていいからね」
って言っていた。そしたら、お母さん、
「メグちゃん、ゴメンネ」
ってあたしに謝った。
「ゴメンって何がさ」
「マナちゃんのこと。お母さんね、メグちゃんが大きくなってお母さんの手を離れていくのがさびしかったの。それでね、マナちゃんならずっと小さなままでいてくれると思ったから、メグちゃんの写真を鏡に映して話しかけてた……それがメグちゃんの気持ちの負担になって、本当にマナちゃんを作り出すだなんて思わなかったし」
愛実を作り出す? お母さんは自分がしたことで、私が愛実という別の人格を作り出したと思ったらしい。ま、心理学的にはむしろその方があり得る話で、お母さんが、あの時
『それで出てきちゃった訳ね』
と言ったのも、それなら納得がいく。
「お母さん、愛実はホントにいるよ、ほら」
あたしは玄関の下駄箱についている全身を映せる鏡に自分の姿を映した。でも、その姿は愛実ではなくただの鏡に映ったあたしだった。
愛実はもう消えてしまったんだろうか。最後にお母さんに抱かれてしあわせなまま……

鏡の中でくしゃっと涙でゆがんだあたしの顔は、ゆがんだままで、笑ってはくれなかった。


theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

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