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都合により……

え~っと……私事ですが、(私事しか書いてないってぇの)このたび、都合により7月15日を目途に、「パラレル」・「指輪の記憶」の二作品をウエブ上から一旦退かせて頂くことになりました。

理由は……その、外部投稿です。再度校正をかけたモノに関しては投稿がOKな所に出す予定です。実は「桜花」完結時からぽそぽそ校正を始めていて、既にクライマックス部分に入っております。

尚、「指輪の記憶」とバラで出す訳ではなく、「パラレル」の視線転換という観点から一緒に外し、この際何とかしてドッキングさせようと目論んでいるからです。
ただ、「my precious」に関しては、全体の30%くらいで全然別話になるので、別のモノと考えて今回下げません。

ここが一番時間がかかると思うので、かなり時間に余裕をみておるつもりだったんですが、既にあと50日足らず(〆切りは末日なのですが、田舎ですので確実に着くようにと)ギリになって焦らないことだけを祈るのみです。

さて、この一旦退いた作品が紙になって私の許に戻ってくるのか、またコピペを繰り返すことになるのかは、まさに神(紙)のみぞ知る? 

しょうもないことはこれくらいにしてっと……



「旋律」シリーズが完結した今、今度こそ新キャラ考えなきゃねぇ。あの、BLもどき真剣に練ろうかなぁ。
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theme : お知らせ
genre : 小説・文学

そのままで君はヒーローだから

 時期モノ? 珍しくちゃんと季節に合わせて書いている「遠い旋律」シリーズ、たぶん最終章(自分でも自信はないんだけど)「ボクのプレシャスブルー」をお送りしました。相変わらず、人文の皮を被ったファンタジーです。

 この作品は最初、「交響楽」と時系列がほとんど同じなので、その中で織り込むつもりでした。ですが、伏見にも『泰然自若』と言わしめた芳治の中のコンプレックス、特に子供たちに対してのそれを書くのは、純輝とのバトルとはちょっとベクトルが違うのではないか、そう思って番外編という形で分けさせていただきました。

 でも、今から考えるとこっちの方が本編っぽいかも。私は、芳治が新しい世界を受け入れて愛する様をかきたかったんですもん。


 余談ですが、私の両親は……障害者です。父は芳治と同じくチタンを足に入れております。理由は、事故ではなくスポーツマンの彼が自身の軟骨を全て使い果たしてしまい、激痛に苛まれるようになったからですが。
 布の敷いてあるバージンロードを歩かせるのが怖かったこと、そしてそんな父の事を「超合金だ、カッコいい」と言った五歳児(息子ではなく孫、つまり私には甥)の話は実話です。

 また母はある日突然身体が全く動かなくなりました。原因は骨粗鬆症により、崩れた首の骨が頸椎を押しつぶしてしまったため。二度の手術に耐え、寝たきりだけは回避しましたが、車椅子生活を余儀なくされてしまいました。前々日に大掃除をしていた元気者の母の突然の事態はまさに青天の霹靂で、私たち家族にとっては交通事故とさして変わらなかったと思います。
 ただ、我が家の場合はもう私たち姉妹(私と姉)はその時成人しておりましたが。

 しかし……ついに芳治(私も)純輝があやつの生まれ変わりだと認めてしまった感があります。でも、だからこそ『今度こそ幸せになれよ』って楓を引き渡せたのかも……と、おっさん化した作者は思うのでした。

では、ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。

 

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

ボクのプレシャスブルー11

「純輝、こんなじゃじゃ馬だが、楓を頼むよ。で、今度はどんなことがあっても全うしてくれよ。『その健やかなる時も、また病める時も』だ。俺の場合、(さくらには)健やかなる時なんて味あわせてやれなかったが」
「何言ってんの。私は最初からこの芳治さんしか知らないの。だから、今が当たり前なのよ。昔の営業でバリバリ走り回っていた芳治さんに戻るって言われたら、その方が変。」
すると、さくらがいきなりそんなことを言いだした。
「何か、お父さんがまっすぐ歩いているのなんて想像できないし」
その上、さくらに続いて楓までそんな風に言うので、私は少々複雑な気分になった。
「そうだな、よしりんはやっぱ杖突いてないとダメだって気がするよな」
しまいには純輝までそれに同調する始末だ。

だが、これが、この姿が既に私なのかもしれない。私は私の中で何か霞がかかったものが晴れた様な気がした。

 あの事故がなければ……私は翔子と穂波と(あるいは穂波の弟妹と)平穏な暮らしをしていたかもしれない。たぶん、私は普通に幸せであったろう。
 だが私は事故に遭った。一旦世界の全てを失ったように思った私には今、さくらがいて楓がいて治人がいる。そして、純輝をはじめとする笹本家の面々も。彼らには事故がなければ会う事ができなかった。翔子と穂波を失ったあの事故に遭ったことを良かったとは思えないが、悪かったとも思えない。
 
そんな思いを巡らせていた私に、純輝は一言、
「やっぱり、あなたにさくらを任せて良かった。あなただったから、さくらはずっと笑っていられたし、帰ってきたオレに、楓まで。やっぱり、あなたはオレにとってもヒーロー、プレシャスブルーですよ。それに応えるためにも、オレはこれから全身全霊楓を守りますから。見守っていてください、お義父さん」
女たちに聞こえないように私の耳元で囁いた。

そう、今度は君がヒーローになる番だ、純輝。はらはらさせないで、カッコよく楓やもし授かるならその子供たちを守り抜いてくれよ。私はそう思いながら黙って頷いた。

                -Fin-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

オレのプレシャスブルー-ボクのプレシャスブルー10

 その日、私と純輝は揃って「プレシャスファイブ」を見ていた。

「ゴメンな、楓がジューンブライドじゃなきゃヤダって聞かねぇんだよ。欧米じゃないんだから、六月の結婚式なんて雨ばっかりなのにな。女ってどうしてそこに拘んだろうな」
純輝は画面を見つめたまま私の方を見ないでそう言った。彼は最近、私の足の調子が思わしくないことを心配しているようだ。
「大丈夫、たかだかチャペルの中を歩くぐらいで、心配することはないさ」
「だけどさ、バージンロードって布が引いてあんだろ? もし躓いて転んだりしたら……杖は使えないしさ。そもそもクリスチャンでもないのに、女の憧れとかで教会式に拘るなってんだ」
 ああそうか、彼は私が転ぶことを怖れているのか。彼はあの時さくらに平手打ちされて怒鳴られたのがトラウマになっているのかもしれなかった。
「その代わり、楓がしっかり支えてくれるさ。ところで、それは女の子の憧れとか言うんじゃなくて十年前の運動会が原因らしいぞ、楓のジューンブライド願望」
「へっ?」
「あの時俺が治人を引っ張って走っただろ。あれを未だに根に持ってるんだよ。『あたしの時はお母さんだったのに、治人だけずるい』だそうだ。だから、運動会と同じ頃に一緒に歩いてほしいんだと」
「ホントに?! オレにはそんなこと一言も言ってなかった」
「お前に言えば、あれはお前が仕組んだことだから、気を遣うとでも思ったんじゃないか」
私がそう言うと、純輝は頭を掻いてこう言った。
「にしてもさ、よしりん愛されてるねぇ……」
「ああ、そうかもな。俺自身はちっとも男親らしいことしてやれなかったと思ってるのにな」
「そんなこと思ってたの? 泣いても抱いて歩けなくても、一緒にキャッチボールできなくても、そんなこと些細な事じゃん。そんなもん、オレだってしてもらったことねぇよ。ウチの場合は、下に手がかかるし、会社に手がかかるからだけど。な、みんなそんなもんだよ」
私の言葉に純輝はそう言って、何とも晴れやかに笑った。あれから、もう一人生まれたから、純輝は6人兄弟。その上父親は嫁の父親から引き継いだ会社を切り盛りしている。生まれたばかりの事は本人の記憶にはないだろうから、触れ合った記憶は薄いかもしれない。だが、君の父親は嫁の祈りが通じて義兄そっくりに生まれてきた君を、それはそれは大切にしてきたんだぞ。それだけは、解かってやってくれよ。

「たっだいまぁ~」
その時、買い物を終えた楓とさくらが家に戻ってきた。
「何よ、男二人揃ってまたそんなもん見てるの? 相変わらず父子仲良いことで。結婚したらちゃんと家に帰って来てよ」
楓はそう言って新居に必要な物を仕分けして、用意してある箱にしまいながら笑う。まるで私と純輝の方が親子で、自分が嫁にでもくるように。
「バカ、お前がいるから毎日来るんだろうが。そりゃ、いきなり二人ともいなくなったら、よしりんが寂しがるだろうから、時々は来るだろうけど」
「時々って、どれくらい?」
「だから時々!」
まったく……父親にやきもちを焼く娘なんぞ聞いたことがない。その当の父親は、大事な娘を掻っ攫っていくその男にもっと嫉妬しているのをこの娘は解かっているんだろうか。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ボクのプレシャスブルー9

「治さ、お父さんに肩車してもらってる奴のことを食い入るようにみてたんだ」
すると、純輝は急に昔話を始めた。

-*-

「治、羨ましいか」
そう言った純輝を治人ははっとして見た後、俯いて頭を振った。
「よしりんはな、不死身のヒーローなんだぞ」
純輝はそんな治人の頭を撫でながら言った。
「よしりんが事故に遭った時、手術に13時間かかったんだってさ。もういつ死んでもおかしくない状態だったってさくらちゃんが言ってた。」
「そうなの?」
「そんなところから、よしりんは帰って来たんだ。さくらちゃんの旦那で、楓や治のお父さんになるためにさ」

-*-

「オレはただそう言っただけだよ。よしりんのことをプレシャスブルーだって言ったのは、正真正銘治だ。あの、運動会でいっしょに昼飯食った悠馬って奴いたろう」
「ああ、伏見悠馬君」
「あいつな、去年まで草尾って名前だったんだよ」
名字が変わった? そう言えば、そうだったような気がする。と言う事は伏見とは義理仲という訳なのか。私は伏見が妙に若っぽい感じがしたのも、父親になりたてだったからなのかと思った。男はその身で子供を育むことができない分、生まれてから“父親”になる者も多い。子供が親にしてくれるのだ。
「いつだっけかオレが迎えに行ったら、治があいつを殴ったって先生に怒られてんだよ。けどさ、治は絶対に謝ろうとしないんだ。『ボクは悪くないもん! 本当のことを言っただけだもん』って泣いてさ。」
治人が他所様に手を上げていたとは初耳だ。しかも、知らないこととはいえ、私は謝罪もしなかった。
「で、よくよく聞いてみたらさ、治がよしりんの自慢をしてたらしいのな。それ、そん時親父のいなかった悠馬にはキツかったんだろうな、『なんだよ、お前んとこのパパなんてショーガイシャじゃん。おじいちゃんみたいに杖つかないと歩けないクセに!』って言われて殴ったらしい」
子供と言うのは、まっすぐな分、相手の傷口にストレートに入りこむことを言ってしまうものだ。
「でさぁ、そん時治が言ったんだ。『お父さんの足にはね、チタンっていう金属が入ってるんだ。超合金なんだよ、不死身なんだ。お父さんはね、ボクの、僕だけのプレシャスブルーなんだ!お父さんはおじいちゃんなんかじゃないもん。だから絶対に謝らない!!』ってね」
 そう言えば、迎えに行った際、悠馬の母とはち合わせたこともあった。彼女は、言葉少なに保育士に礼だけを言うと、さっさと悠馬を連れて立ち去った。悠馬も母と言葉を交わしている様子はなかった。あの頃、母子は生活することにいっぱいいっぱいだったのかもしれない。そんな中、得々と私の自慢を始めた治人に悠馬は言いようもない苛立ちを覚えたのだろう。
 そして、自分がそんな風に悠馬を傷つけているとは思っていない治人は、私の名誉を守ろうとして、悠馬にかみついたという訳か。しかし、補強のためのチタンが超合金とは良く言ったものだ。
「だからさ、あの昼飯の時、名字の変わったあいつがすごくいい顔してるんでちょっとホッとした。正直、あいつと一緒に走るって分ったとき、ちょっとドキドキしたんだよな。」
プログラムには走る順番が記されていたが、名字だけだった。あの時競技が始まってから悠馬が同走者だと知って、純輝は内心焦ったのかもしれない。

 あれから時々悠馬が遊びに来るようになった。そして、妹を連れて迎えに来た彼の母の表情は、別人とも思えるほど変わっていた。
「悠馬のパパはさしずめプレシャスグリーンってとこかな、よしりん」
相変わらずその時も家に来ていた純輝は、ぽつりと私にそう言った。
 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ヒーローの条件-ボクのプレシャスブルー8

 帰宅後、楓に「時空戦隊プレシャスファイブ」を探してもらい視聴した。ウチに残っているのは中盤過ぎから以降の回だ。純輝も最初は何気なく見ていてはまったに違いない。
 なるほど、プレシャルブルーと言うキャラクターは分った。しかし、ストーリー面で少し引っかかる部分があり、そう言えばパソコンではこうした動画を視聴できたということを思い出し、パソコンを開いて動画サイトにアクセスする。
 そして、私は食い入るように何話も見て、最終回では涙まで流していた。純輝が同じ戦隊モノの中で特にこの作品に思い入れを感じる理由が解かったからだ。おそらく私がプレシャスブルーだと治人に言ったのも彼だろう。
 
 時空戦隊プレシャスファイブは、歴史を改ざんする悪者と戦う時空警察の物語。
 かのプレシャスブルーは不治の病に冒されている。そのことがリーダーのプレシャスレッドにばれて、彼はブルーにメンバーから外れるように言うのだが、ブルーはその時、
「人間誰だって明日は無事かどうかは判らないじゃないか。頼む、俺に最後まで任務を全うさせてくれ」
と、頑として譲らなかった。その気迫に負けたレッドはそのことを他の誰にも告げず、全員で敵を壊滅させる。
 そして、奇跡が起こる。今まで不治の病だったその病気の原因が解かり、手術と投薬で助かることが解かったのだ。今まで敵が捻じ曲げていた歴史が修正されたことによって、治療法が見つかったというオチ。ブルーはみんなに見守らながら手術室に消えていき、生還するという話だった。

「よしりんも最近プレシャスファイブにはまってるってきいたけど。やっぱしあれって、大人がみるもんだろ」
運動会からしばらくしたころ、純輝がニヤニヤ笑いながらそう言ってきた。
「治人に俺がプレシャスブルーだって言ったのは君だろ」
そんな純輝に私は唐突にそう尋ねた。
「いきなり何だよ」
「しかし、俺から言わせればあれは高広君のような気がするけどな」
だからこそ、思い入れたんだろう? 私はそう心の中で言いながら前に立つ純輝を見つめた。
「ううん、あれは……やっぱよしりんだよ」
それに対して純輝は苦々しくそう返した。
「ヒーローは生還できてこそヒーローじゃん。」
そして、彼はぽつりとそう付け加えた。
 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ボクのプレシャスブルー7

「それでさ、そのプレシャスブルーってのは一体何なんだ?」
 二人が離れたのを見計らって、私は純輝にそう尋ねた。すると、純輝はもちろんのこと、楓や伏見までもが吹き出したのだ。どうやらその存在を知らないのは私とさくらだけらしい。
「よしりん、まさか何にも知らないで、『俺はプレシャスブルーだ』とか言ってた訳?」
「治人が言うのに頷いてただけだ、俺は」
腹を抱えて笑う純輝を睨みながら私はそう言った。
「時空戦隊プレシャスファイブ。確か今やっているSINOBI戦隊忍レンジャーの二つ前のやつですよね」
戦隊? ああ、あの色とりどりの全身タイツで飛び跳ねる子供番組か。
「伏見さんはよくご存じなんですね」
「ええ、悠馬と一緒に毎週欠かさず……ってか、俺の方が率先して見てますよ。あれってね、大人が見てもって言うか、大人が見てこそ面白いんです。子供に十年、二十年前のパロなんて解かりませんからね。大人が見るのを想定してそういうのを組み込んであるんですよ。言わばスタッフのアソビです。俺、そういうの見つけるとワクワクするんですよ」
「わぉ、悠馬君のお父さん、同志! あれはやっぱ大人が見るもんですよね」
とそれに純輝が食いつく。
「大人ってなぁ、君はまだ中学生だろうが」
「だけど、小学生のガキんちょじゃもうねぇから」
私の言葉に、純輝は剥れる。だが、私から言わせれば、こいつはまだまだひよっこのガキだ。そのまま純輝は喜々として伏見と戦隊モノの魅力について大いに話に花を咲かせ始めている。そんな話を聞いていると、私もそのプレシャスブルーと言う奴を見てみたくなった。伏見が、
「そう言えば松野さんってどことなくプレシャスブルーに似てますよ。顔もそうだし、泰然自若とした雰囲気とか……」
などと言うものだから余計に。するとそれを察したのか、
「あ、家にプレシャスファイブのDVDあるよ。純兄が録画してくれた」
と楓が言う。
「どうせ、自分が見たいから録画したんだろ、純輝。自分の家で見ろ、家で」
「あの面子がオレに見たいモノ見せてくれると思う?」
私の言葉に純輝は首をすくめてそう答えた。
「ま、それはそうだがな」
純輝は五人兄弟の二番目。確かに、あの家で好きなDVDを見るのは至難の技だろうな。
「あれっ、純輝君って治人君のお兄ちゃんじゃないんですか?」
 その時、会話を聞いていた伏見が不思議そうに尋ねた。
「あ、オレはここんちの子供じゃないですよ。オレはさくらちゃんの前の旦那です」
それに対して純輝は笑いながらそう答える。
「お前まだ、それを言うか?!」
「言うくらいタダじゃんかよ」
私たちにはいつもの会話だが、尋ねた当の伏見にはますます謎が深まってしまったのだろう。口を開けたままの顔に、戸惑いと聞いてしまった後悔が見える。
「あのね、この子は私が主人と結婚する前に付き合ってた人の妹の息子なんです」
それで慌ててさくらが事情を説明するが、さくらも自分は解かっているために幾分説明不足だ。
「オレはそのおっ死んだ彼女の恋人の生まれ変わり……なんて言ったら、伏見さん信じます?」
「……」
純輝は伏見の顔を覗き込んで尋ねたが、伏見はどう返答して良いのか解からずにこたえあぐねている。
「冗談ですよ。オレ、その伯父さんにすごく似てるらしいんです。だから時々ネタにするだけですよ」
純輝はその様子を見て、笑顔でそう付け加えた。

本当はネタだなどとは思ってないクセに……私は純輝の横顔を見ながらそう思った。

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genre : 小説・文学

昼食-ボクのプレシャスブルー6

 運動会は午前の部を終え、私たちは昼食を取る場所を探した。
「ああ松野さん、良かったら一緒にどうですか」
声をかけてくれたのは、先ほどのロン毛の同走者だ。引っ張っていた少年と二人でコンビニらしきお弁当を持って陣取っている。
「治人、一緒に食べよ」
治人がその少年の言葉に、私の顔を覗き込む。
「ご一緒させていただけますか」
その言葉に、息子と少年との顔がぱっと華いだ。
「どうぞ。私は悠馬の父親の伏見と言います」
若そうだが、やはり父親だったか。私自身が二度目で、息子の父親としては歳を取り過ぎているのも事実だが。兄とまでは言わずとも、小学生の子を持つほどの年齢にはとても見えない。
 早速純輝が隣にシートを敷き、持ってきた弁当を取り出す。
「どうぞ、たくさんありますから、ぜひつまんでください」
「うわっ、すげぇ」
「えへへ、お父さんが作ったんだよ。」
取り出した弁当に色めいた悠馬に、治人は自慢げにそう言った。
「へぇ、松野さんが作られたんですか」
それを見て伏見が目を瞠った。
「私はこんな身体ですからね、嫁を働かせて主夫をやってるんです」
そう言った私に、
「芳治さんだってちゃんと仕事してるじゃない、『髪結いの亭主』みたいな他人聞きの悪いこと言わないでよ。それに今は仕事だってしてないし」
と、さくらは口をとがらせた。
「お母さんはね、今大学生なんだよ。赤ちゃんが生まれるお仕事をするために、学校に行ってるんだ」
そんなさくらに治人は胸を張って補足する。
「赤ちゃんが生まれるお仕事?! ボクんちもね、ちょっと前にね、妹が生まれたんだよ! 千春って言うんだ。めちゃくちゃかわいいんだよ」
悠馬も負けじと生まれたばかりの妹の自慢を始める。
「それはおめでとうございます」
「あ、いえ、ありがとうございます。」
私のお祝いの言葉に、伏見は頭を掻きながら答えて、
「明後日帰ってくるんだよね、パパ」
と言う悠馬の言葉に優しく頷いた。

 治人と悠馬はさっさと食べ終わると、
「遊んで来て良い?」
と二人で走って行った。その時、
「治人のパパって、カッコいいな」
「そうだろ? だからボクのお父さんはプレシャスブルーだって言ったじゃん」
という会話が風に乗って私の耳に届いた。




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genre : 小説・文学

ボクのプレシャスブルー5

 私の後にはもう二組しか残っていなかった競技はあっという間に終わり、私は純輝の持ってきてくれた車椅子に乗り込むと退場門から観客席に移動した。その際にも、拍手が沸き起こる。私は気恥ずかしくて赤くなりながらトラックを後にした。

「純輝、やってくれたな。仮病か」
だから、観客席に着くや否や、私は純輝に文句を吐いた。
「人聞きの悪いこと言わねぇでくれよ。すっきりしたから、飛んできたのにさ」
それに対して、純輝はしれっとそう答えた。
「家からここまで何Kmあると思ってんだ」
「オレ、家で唸ってるって一言でも言ったか? ここのトイレで唸ってたんだよ」
「まぁ、良い。そう言う事にしといてやる。純輝、ホントにありが……」
「良い訳ないでしょ! 純輝、何て事してくれるの!!」
 だが私が渋々という感じで彼にお礼を言おうとしていたその時、反対側でビデオ撮影をしていたさくらが私たちの許にすっ飛んで来て、いきなり平手で純輝の頬を打ったのだ。
「痛ってぇ!」
「さくら!」
「純輝、芳治さんが競技中に転んだらどうしてくれるつもりだったの? 転んで補強してある部分がズレでもしたら、手術しなきゃなんないんだからね。あの時の手術から十八年も経ってるのよ、その部分にはもう肉がしっかり巻いてて、ちょっとやそっとじゃ元に戻せないんだから。最悪、二度と歩けなくなるかもしれないのよ!」
「ウ、ウソ……さくらちゃん、ゴメン。オレ、そんな大変なことになるなんてちっとも思ってなくて……」
ぶるぶると唇を震わせて怒るさくらに、純輝は塩をかけられた青菜のように一気に萎れた。
「転ばなかったんだから、良いじゃないか」
慌てて私がフォローに入るが、さくらの怒りは治まらない。
「良くないよ。もし転んだらって思いながら、ビデオ撮り続けた私の気持ちにもなってよ」
「さくらちゃん、ホントゴメン!」
涙目で怒り続けるさくらに、純輝は手を合わせて謝る。
「謝るのは私にじゃないでしょ!」
さくらにぴしゃりとそう言われて、純輝は首をすくめながら、
「よしりん、ゴメン」
と小さくつぶやいた。
「良いよ、こっちこそありがとう。久しぶりに走れて気分爽快だった」
私は笑顔でそう返した。走ると言う動詞が当てはまるかどうかも確かではないくらいの走りだが、久々に全力を出し切って「走る」ことが出来たのは本当に爽快だった。

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ボクのプレシャスブルー4

「すいません、座ったら立てないもんですから、このままで良いですか」
「え、ええどうぞ」
私は実行委員のPTAの役員にそう断りを入れて、立ったまま順番を待った。少しずつ前に進んで……私たちの順番になった。他の二人の保護者が勢い込んでダッシュしてそりの紐を掴んで走る中、私はそれでも自分の中ではトップスピードで「走る」そんな私に、治人はそりの紐を掴んで私の手の中に置くと、そりに座り込んだ。
 一歩、また一歩と前に踏み出す。営業時代は足で稼いだはずなのに、その足は今、鉛のように重い。そんな右足に自身で渇をいれながら、少しずつだが確実に進んでいく。その様子に場内が息をひそめた。競技中の音楽だけが華やかに鳴り響く中、私は黙々と治人のそりを引いて「走る」。
 
 しかし、折り返し地点を過ぎて、日頃運動らしい運動をしていない私は、息が完全に上がってしまっていた。肩で息をしている私に、治人は立ちあがった。
「ダメだ、治人座ってろ!」
「お父さん、もういいよ。お父さんが壊れちゃうよ……」
治人は泣きながら、それでも渋々またそりに座った。
「大丈夫だ、男が一旦引き受けた仕事を投げ出したりできるか。それに、父さんはそのプレシャス何とかなんだろ」
「プレシャスブル……」
「じゃぁ、心配するな」
私は治人にウインクすると、また前に向かって「走り」出した。すると治人は、
「お父さんガンバレ!」
と大声で私の応援を始めた。
「そうだ、治人のパパガンバレ!」
そして、前の方からも声援が響く。見るともうとっくにゴールしていて良いはずの同走者が、ゴールの一歩手前で立ったままでいた。その治人の同級生の少年も真っ赤な顔をして一緒に私を応援してくれていたのだ。やがて、それは大きな応援の波となって私に打ち寄せてきた。会場の皆が私にエールを送り始めたのだ。
「ガンバレ、ガンバレ」
という声に導かれて、私はゴールテープを切った。そのすぐ後、他の二人がゴールに飛び込む。会場から大きな拍手が送られた。
「皆さん……」
「松野さんは文句なく一番ですよ」
父親と言うには少し若そうなロン毛の同走者がそう言い、もう一人が頷く。そんな私に、実行委員が折り紙で作られた金メダルをかけてくれた。
「ありがとうございます」
私は礼だけを言って最後尾に並ぼうとした。

しかし、そこには車椅子を押した純輝の姿があった。
「よしりん、お疲れ。かっこよかったよ。これ以上負担かけられねぇだろ。だから、持ってきた」
彼は笑ってそう言った。

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genre : 小説・文学

ボクのプレシャスブルー-ボクのプレシャスブルー3

僕のプレシャスブルー 


そして運動会当日、空は抜けるような青空で絶好の運動会日和と言ったところだ。誰もが運動会が中止になったなんて誤解を挿む余地のないくらいの好天。
 だが、それなのに開会式が終わっても純輝は姿を現さなかった。刻々と保護者参加の競技の時間が近づく。治人は不安そうに何度も何度も辺りを見回していた。
 そして、あと三つばかりでもうその競技になると言う時、私の服のポケットが振動した。私はポケットから携帯を取り出す。
「今、どこだ。もう始まるぞ。」
私は電話の相手―探している当の純輝に憮然とそう言った。
「……ゴメン、オレパス。今朝から腹調子悪くてさ、トイレからマジ出らんねぇんだ。よしりん、やっぱ出てくんねぇ?」
「俺がか?」
純輝はため息交じりの荒い息でそう返す。今頃言ってくるなと怒鳴ってやりたかったが、掠れた痛みを堪えた声で言われて、私はかろうじてそれだけは抑えた。急な体調不良は誰にだってあることだ。
「最初は出るつもりだったんだろ。」
「ムリだ。治人に嫌がられる」
私がそう返すと、純輝は、
「えっ、治は嫌がってねぇよ。とにかくよしりんが……あ……ダメだ。そいじゃ切るから。」
と言うと一方的に電話を切ってしまった。
 治人が嫌がっていない? どういうことなんだ。確かにあの時、私の参加を拒絶した治人を純輝は表に連れ出したが、そこで何を話したのだろう。
 さくらはと見ると、ビデオを抱えてベストショットで治人と純輝をとらえようと移動をしていて、車椅子に乗っている私には彼女をつかまえて、代わりに出てもらうだけに時間はもうない。
 
 程なく親子競技の召集がかかり、私は車椅子を邪魔にならないところに停めて、杖をつきゆっくりと待機する場所に向かった。同じように児童席からそこにきた治人の顔が既に歪んで涙目になっている。
「純兄は?」
「急に腹が痛くなったんだと。治人、ビリにしかなれないけど、父さんでも良いか」
私の言葉にさらに治人の顔が涙で歪む。ああ、本当に嫌なんだなと思った時、息子の口から思いがけない一言が私の耳に響いた。
「お父さん、ムリしないで。歩けなくなっちゃうよ。ボク、コレ出ない。」
治人の眼から涙が一つ二つとこぼれる。
ああ、純輝が『治は嫌がってねぇ』と言ったのは、こういう意味だったのか。
 実のところ私の身体は、十八年経った今でも雨が降り続くと痛みで動きが悪くなる。梅雨直前のこの時期に、私にムリをさせたりしたら歩けなくなってしまうんじゃないか。治人はそんなことを心配していたのだ。
「大丈夫さ。走ったくらいじゃどうもならないさ」
「ホントに?」
「ああ」
私が頷くと、治人は何かを思い出したようにパッと明るい顔になった。
「そうだよね、お父さんはプレシャスブルーなんだから、大丈夫だよね」
「ああ、そうだよ」
私は治人の口から出てきた言葉の意味は解からなかったが、頷きながら相槌を打った。治人の顔に満面の笑みが広がった。

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ボクのプレシャスブルー2

「おい治、それはねぇんじゃね?」
「だって……」
純輝が慌ててフォローに入るが、治人はまだ何か言いたげだ。そうだよな、子供たちにとって私は自慢できる父親ではない。

 私は、十八年前の交通事故で九死に一生を得た。その時私は、首から下は折れていない所はないんじゃないかと言うくらい骨折していた。特にひどかったのは右足。粉砕骨折で、自身の骨だけでは再生することができず、チタンを入れてある。そのために、私の右足はほとんど曲げることができない。
 実のところこれまでの運動会の際には、長時間立っていることも応援席に直に座ることもできない私は、車椅子を持ち込んで対処している。
 一見、ディレクターズチェアやパイプ椅子など、簡易的な椅子でも良さそうなものだが、そういう不安定なものでは座ったが最後、誰かの介助なしには立つことができないのだ。ということは、座ったが最後全く動けなくなるということだ。
 その際、大人は気遣って目線を外してくれるが、子供たちは容赦なく奇異なものを見る目で見つめる。そんな不甲斐ない父を子供たちは恥ずかしいと感じても仕方がない。
「純輝…すまん、やっぱり君が一緒に走ってやってくれ。俺じゃ、確実にビリだからな」
「よしりん……」
「治人、純兄と一緒に一等賞取れよ」
私が治人の頭を撫でながらそう言うと、治人は悲しそうな顔で、黙ってこくりと頷いた。

「ちょっ治、ちょっとこっち来い」
すると純輝がそう言って治人を表に連れだした。一人になった私は夕食の準備を始めた。
 さくらは大学生の今、看護師の頃のように夜出かけることはまずないが、授業に実習にと帰ってくる時間は遅い。必然的に家にいる私が家事をすることになった。そんな「主夫」の生活も、子供たちにはどう映っているのだろう。そう考えながら剥いた玉ねぎは、いつもより目にしみた。

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genre : 小説・文学

運動会のご案内-ボクのプレシャスブルー1

ボクのプレシャスブルー

運動会のご案内


 私たちが結婚をして十年の今年、下の子供の治人が小学校に入学した。
「お父さん,ただいまぁ」
「お帰り治人。あ、そこに宮野のおばちゃんからもらった饅頭があるから、手を洗って食べなさい」
「はーい。宮野のおばちゃん、今度はどこに行ってきたの?」
「どこだっけ、ああ長野だ。『牛に引かれて善光寺参り』って言ってたから。」
 この宮野さんと言うのは、私が主宰しているパソコン教室の生徒で、老人会の顔役だ。その老人会のイベントで、ああ今月はここ、来月はあそこと国内を飛び歩いているのだ。そして、その度にご丁寧に毎回手土産を提げてやってくる。しかし、『牛に引かれて善光寺参り』と言いながら上機嫌だったぞ、あのばあさんは。

「あ、お父さん忘れてた。はい、これ」
饅頭を食べ終わると治人はランドセルから一枚の紙を取りだした。それを見て私の顔が歪む。
それは、運動会のパンフレットだった。

 ウチの子供たちの小学校では何年か前から運動会は春に行われるようになった。それまでの三学期制から二学期制に移行したからというのが表向きの理由だが、本音は昨今中学受験が増えたので、そうした六年生の児童のための配慮のようだ。
 私は徐にそのパンフレットを開いて中身を確認する。……ああ、やっぱりあった。私は午前の部中ほどにある、一年生が保護者と参加する競技を見てため息をついた。

 その時、つかつかと入ってきた人影に、私はそのパンフレットを奪われた。
「すっかり春の行事にされちゃったよな、オレらの頃は秋だったのに」
そう言いながら、私に許可もなしに土産の饅頭にも手を出しているのは、純輝だ。こいつは私の妻さくらの死んだ元婚約者の甥という微妙な立場をものともせず、その上自身が四歳でさくらが私と結婚しているというのに、未だにさくらを密かに狙っている、ある意味強者だ。
「純輝」
「よしりん、コレなかなか旨いな。いつものばあちゃんの土産?」
その証拠に、私はこいつより三十歳も年上だというのに、何気にタメ口だ。
「俺は君にまだやると言ってないぞ」
「あ、いただきます……ごちそうさま」
純輝は片手で手刀を切って、そう言うと私に向かってニッと笑った。実はこういうふざけた野郎だったのか、高広は。周りから純輝が高広とそっくりだと聞かされるたび、私は複雑な思いに捉われる。

「あ、コレね。子供が乗っているそりを親が引っ張って走る競技か。いいよ治人、オレが出る」
そして、治人は純輝に親子競技のパートナーを打診していた。
「純輝! 君は治人の父親じゃないだろ!!」
「じゃないけど、さくらちゃんの息子はオレにとっても息子みたいなもんだし、どう考えたってよしりんムリじゃん。普段走り回ってるさくらちゃんを走らせるなんてことできないし、ならオレが出るしかねぇじゃんよ」
「ムリなんかじゃない! 競技には俺が出る!!」
そうだ、治人の乗ったソリは片手で引っ張るものだ。杖をつけば動ける。私は純輝の『どう考えたってムリ』という言葉に大人げなくむきになってそう言い張った。
「ダメ、お父さんはダメ! ボクは純兄が良いの!」
すると治人が目にいっぱい涙をためながら、私の参加を拒絶したのだ。
……そうか、治人。やっぱりこんな父親は嫌だよな……私は、息子の言葉にがっくりと肩を落とした。



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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

神の目線にできなくて

一人称作家たすくでございます。

今回のバージョンで、書きたくて書けなかったことがあります。

それは、京介母の事情と本心。昂が京介の心を読むという形で紡がれたために、京介目線でしか書けなかったからです。

京介母、ジュリア・M・笹川は、親の代からの生粋の科学者ですが、研究重視のために京介・樹を人工母体にゆだねたわけではありません。

そりゃ、今より数段科学が進んだという設定で書いてますけど、人工母体なんてナーバスな装置は一般的に使用されてはおりません、高名な科学者だからって簡単に利用はできないのです。医療機器ですから。

つまり、ジュリアはそれを利用しなければ子供に恵まれない体だったのですよ。そんなこと、息子に言えないでしょ?!

しかも、それを後ろめたく思う彼女は、研究に没頭しているフリをしておりました。特に心臓に欠陥をもって生まれてきた樹の事は、自分のせいだという加害者意識が強く、余計に接することができなくていました。それは、息子の京介からは、ただの育児放棄・愛情欠如にしか見えないんですよね。あやつただでさえ感情に乏しいですから。

ラストシーンでも吹いていた春風の中で、ジュリアは昂に「ジュジュを心から愛してくれてありがとう」と囁いていたりしたんですよねぇ。神の目線で書ければそういうのも表現できるんでしょうが、目線を一定しないと落ち着いて書けないたすくは、また書き残してしまって、ここでご報告です。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

ROM専宣言

随分迷ったんですが、「小説家になろう」にROM専のつもりで登録しました。今までも「なろう」はゲストとして読んでおりましたが、ログインしないと感想が書けないみたいなので。

そういう場合、大体はその方のブログの方に書かせて頂いていたのですが、いきなりサイトに押し掛けるのもねぇ……
だんだん疲れてきたってことで。

ホントはちらっと「なろう」の方が読者層は向きなのかも……なんて思わないこともないのですが、同じものを4カ所に置くのはさすがに憚られ(それぞれに仲の良い方はおりますからどこを削るということもできず)マイページだけ作って、いきなりここにリンクしてあります。

theme : お知らせ
genre : 小説・文学

忍ぶれど……

「赤い涙」こちらでは新たに書き下ろした状態で載せさせていただきましたが、如何だったでしょうか。

もうホント、初めに設定ありきでした。一応ギリでもSFの香りがしないといけないと必死でした。後から読んでも、その必死さだけは伝わってくる、そんな書き直し前よりはずっと「たすく節」が出てたと思います。

実はね、今回一番書きたかったのは傀儡(くぐつ)って漢字だったりして(笑)これ、インタネットのニュースで拾ってコピペまでして使いました。(今も使用した12話からコピペ)ユニコードで弾かれないかとひやひやしながらでしたが、JISコードだったみたいで、無事ひらがなにならず漢字表記できました。

書き直しで一番変わったのが、京介。前のバージョンでは機械より機械(奇怪)な鬼畜でした。私の頭の中は最初から今の京介で、そうなったのは枚数制限に因るものでしたが、結果オーライだとも思っています。

本編には全く関係ないのですが、笹川樹-ジュジュ・樹・C(セシリア)・笹川-の名前は30年前、高校時代に一本だけ書いたSFの主人公の名をそのまま使いました。そっちの話はジュジュ本人がテレパスで、特殊能力を持つものは抹殺される未来社会から平安時代に逃れて、そこで時間事故で取り残されたタイムパトロール修習生小野寺保とめぐり合うというストーリー。今以上にご都合満載の作品でした。

でも、今頭で読み返してみて、(当然もう原稿なんて残ってませんから)たすく節はしっかり出てるんですよねぇ。ま、同じ頭で考えとんやから、違う方がおかしいか。進歩してないなぁとは思いますがね。

ただ、ものや思ふと人の問ふまで……皆さんが思うほど、作者何も考えてはおりませぬ。

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

色とりどりの墓標-赤い涙(改稿バージョン)17

色とりどりの墓標


あれから半年して春、かつて笹川家があった場所に樹の好きだった花が咲いた。この色とりどりの花たちだけが昂に樹が確かにいたことを教える。凛と空を向いて咲くそれらは、まるで無記名の墓標のようだ。昂は静かに手を合わせ、首を垂れる。

「何しとんねん、お前」
「何って、それは……」
振りかえるとそこには一成がいた。一成は思いつめた様子で坂を昇る昂を、図書館に行こうとしていたところで発見して、後を追ってきたのだ。
「その……きれいやなと思て」
「お前、きれいなもん見たら仏さんみたいに頭下げるんか」
しどろもどろで返した昂に一成はそう言って笑った。同時に(お前ホンマはとっくに記憶戻っとんのやろ)と“聞こえて”、昂はドキッとした。

 そう、昏睡状態から目覚めた直後は全ての記憶を手離した昂だったが、それはほどなく彼の許に戻ってきた。だが、彼はその後も記憶喪失のフリを続けた。
 記憶が戻ったと判ると周りは昂に事の顛末を執拗に尋ねてくるだろう。未来人に機械の少女……たとえそれが真実であっても、そんな荒唐無稽な話を誰が信じるだろう。
 それに、自分が拒否し続けたために息子が立ち直れないほどの傷を付けたと思っている母の気持ちを解放してやるには、昂は全て―持っている能力も―リセットする必要があったのだ。

「やっぱり、それって女なんか?」
昂が黙っていると、一成は続けてそう言った。(根元、お前絶対、何か隠してるやろ。一体誰を庇てんねんや)
それに昂は静かに頷いた。何故だか、一成には話せる範囲で話したい。そういう気持ちになっていた。
「そや。笹川樹ちゃん、半年前までここに住んどった。」
一成は驚いて辺りを見回した。今は野には少し似つかわしくない花が咲いているだけの山の道端だ。
「ほな、あの事件の時、ホンマはその子と一緒におったんか?」
「あれは事件やない、全部俺が悪いんさ。俺な、その2~3日前から風邪引いてたんさぁ。せやから移さんように家に行かんようにしてたんさ。そしたら、樹ちゃん心配してさ、雨の中俺の家まで行こうとしたんさ。」
「けど、何でそれがお前が悪いって話になるねん。カレシが風邪ひいとったら見舞いにぐらい普通行くやろ。」
その一成の言葉に昂は頭を振った。
「樹ちゃんの方がもっと重い病気で、もういつまでもつかわからん状態やったんさ……」
一成の息を呑む音が聞こえる。
「せやから、風邪移したなかっただけやのに……やっと見つけた時には樹ちゃんはもう……俺が樹ちゃんを殺したんやと思たら、いても立ってもいてられへんかった。ほんで樹ちゃんのお兄さんが止めるのも聞かんと雨の中飛び出したんさ。できることなら一緒に死にたかった、全部忘れてしまいたかったんさ……そしたら、気付いた時からしばらくはホンマに記憶がなかった」
震えながら絞り出すように告白する昂に一成は一瞬言葉を失ったが、気を取り直して、
「アホな、一緒に死んでどないすんねん! 死んでもその子が喜ぶかいっ!! 生きててほしいから、心配して見舞いに行こうと思たんやろな! それに、お前がその子忘れたら、その子が生きてくとこが一つ減るやろ」
と怒鳴った。一成は昂が少し捻じ曲げた告白を聞いて、心から樹の事を悲しんでくれていた。

 
「それで記憶喪失か。まぁ、ええわ。お前ホンマにアホやな」
「アホで悪いか」
一成の言葉に昂はぼそっとうそぶいた。
「そんなに自分を壊してまうまでみんなに気遣わんでええやん。悲しかったら泣いたらええんさ。ホンマ、優等生は泣き方もしらんのな」
「ゆ、優等生って言うな」
「ぶっ倒れて戻って来てすぐの公開模試で、一桁取れるお前のどこが優等生ちゃうねん。」
「勉強だけできてもしゃぁない」
「お前が言うといやみに聞こえるわ。けど、次は助けたいんやろ」
一成はあの後、急に猛勉強を始めた昂を、樹のような病気の者を救うのに医者を目指しているのだと解釈したのだ。
(ちょっと違うけど、似たようなもんかな)
昂は軽く笑んで頷いた。昂の胸に口には出さない一成のエールが“聞こえる”。
 昂は自分の能力を初めて好きになれるような気がした。

「ありがとう……安田、お前意外とええ奴やな」
そう言った昂の眼からこぼれる大粒の涙。それに気付いた一成は、軽く驚いた後照れながら昂にデコピンを食らわせて言った。
「なんや、今頃気ついたんか? せやけど、意外とは余計や、俺は最初からええ奴やねんで」
「それ、自分で言うたら値打ちないやん」
「自分が言わな誰が言うねん」
昂がお返しのデコピンをしようとすると、一成はそう言いながら察してするりと逃げた。
(そうか、“聞こえ”やんでも、人は相手の気持ちを大事にすることで相手に近づくことができるんや。何でそんな簡単なことに、今まで気付かんかったんやろ)
「お前、逃げんなや」
そんな一成を笑いながら追いかける昂の心に春の風が吹いていた。

 翌年、アメリカのM大学に合格した昂は、後年ロボット工学の第一人者と呼ばれるようになった。
 
 そして、いつか本当の“樹”に会える日まで……昂は、今日も研究を続ける。

                           -Fin-


 


赤い涙(改稿バージョン)16

 結局、昂は一週間生死の境を彷徨い続けた。そんな息子の側を母は片時も離れようとはしなかった。どんなにその疲労が色濃くなっても、周囲が休めと引き離そうとすれば暴れるので、しまいには鎮静剤を投与して息子の横の簡易ベッドに寝かせなければならなかったほどだ。
 
 一方警察は、昂を呼び出したササガワとイツキ言う男を探したが、行方はようとしてしれない。事務員が電話で『樹の事で話がある』という言葉に昂が慌てて反応したと言う証言から、警察ではこの二人の行方を追っていた。
ただ、樹というのが名前とは思わずイツキという名字で、二人とも男性であると誤解していたのだが。あのあと、“協力者”を失って失意のまま元の時代に帰った京介を探すことは、今の警察には不可能だった。
―まるで、煙のように消えたとしか言い様がない―
「一体、ササガワとイツキって奴はどこのどいつや! 見つけたらタダでは置かん!!」
父は警察の報告を聞いて、病院の壁に自分の拳を打ちつけた。
 
 そして、母親はその目が開いている間中、
「昂、お母さんは昂の事大好きやよ。世界中の全員が敵になっても、お母さんだけはあんたの味方やからね」
と囁き続けた。彼女は、息子がササガワたちにその能力の事で自分の存在意義さえ疑うほどに傷つけられたために、あの雨の中を彷徨い歩いていたのだと、そう解釈していた。

 何にせよ……母のその言葉は昂の潰えそうな命をギリギリの所で引き留めた。

 事件から10日後、昂はやっと昏睡状態から目覚めた。
「昂、良かった。ホンマによかった……」
そう言って手を握り涙する母親に、昂はきょとんとした様子で返した。
「すんません……あなたは誰ですか。……それで、僕は……」
しかし、その昂の一言で、母の感涙は悲鳴に変わった。
 昂はその一切の記憶を失ってしまっていたのだった。


 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

祈り-赤い涙(改稿バージョン)15

 祈り


 学校から昂が何者かに呼び出されて姿を消したとの連絡を受けた昂の両親は、血眼になって息子を探した。
 だが、ようやく母親が彼を通学路近くの小高い丘の上で発見したのはもう夜も更けた頃で、長時間京介の深層心理まで読み続けた事の疲労と、雨に当たり続けたのがたたって、元々軽い風邪を引いていた昂は既に虫の息だった。
 慌てて現在地を夫に知らせた彼女は、これ以上雨が息子の体力を奪ってしまわないようにすっぽりと身体を包んで抱きしめた。

 その息子の口からは荒い息とともに、
「ゴメンな……ゴメンな……」
としきりに誰かへの謝罪の言葉が発せられる。
(違う)
「ちゃう、ホンマに謝るんはお母さんの方や、あんたが謝らんでええ」
彼女はそう叫んで、尚更きつく息子を抱きしめた。この時、昂は樹に謝罪していたのだが、樹の存在を知らない彼女は、それが息子が自分が生まれてきたことに対しての彼女への謝罪だと受け取ったのだ。
そう……昂に読心能力があると知った時、化け物呼ばわりして遠ざけたのはこの自分だ。
(罰が当たったんやきっと……)
裁かれなければならないのは自分の方なのに……彼女はそう思って涙にくれた。

「おそらく今夜が峠でしょう。合わせたい方がいらっしゃったら、すぐ連絡してください。」
そして、辿りついた病院でそう言われた時、彼女はついに半狂乱になった。
「お願いです。昂を、息子を助けてください! 今あの子が死んでしもたら……ねぇ、助かると言うてください!! お願いやから……」
「どうしたんや、ちょっと落ち付けや!!」
彼女がそう叫んで医師にしがみつこうとしたのを、慌てて夫が止めに入る。
「お気持ちはお察しします。そやから、我々もできるだけの事はしてるんです。けど、後は昂君の生命力にかけるしかない状態なんです。解かって、頂けますか。」
そんな医師の事実上の「最後通告」に彼女は顔を覆って号泣することしかできなかった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)14

 それは、クロードたちの時代の医療技術を持ってしても、解消することはできなかった。手術の度に弱っていくジュジュ。
 そして、ジュジュは軽い風邪がもとで呆気なく他界してしまう。彼女が17歳の春のことだった。

 以来、クロードは時間移動の禁を犯してまでも、妹“ジュジュ”を取り戻すことに躍起になる。元々『優秀な遺伝子を遺す』事が目的であった彼らの両親は、子供たちの面倒はほとんどサポートロボットに任せて自身らの研究に没頭していた。クロードにとって、ジュジュは唯一の家族と呼べるものだったのだ。
 感情を持ったアンドロイドを作る。
心理学習プログラムの作成はクロードにとってさして難しい物ではなかった。しかし、いざそれを起動させてみた時、思ったほど樹の感情は育たなかった。幼い時から自身もサポートロボットと言う機械に育てられた分感情には乏しかったし、何より樹を機械だと知っているクロードには樹を人間として見ることはできず、つい機械として作業命令をすることになってしまうからだ。
 それに気付かないままクロードは己が人生の大半を過ごした頃、昂に出会った。
 何も知らない昂は生い先短い樹が少しでも笑って過ごせるようにと彼女の“心”にアプローチを続けた。
 結果それが、樹の飛躍的な感情形成につながったのだ。

 そう言われてみれば……昂はまじまじと京介を見た。髪は既に銀に染まってしまっているのだと思っていたが、よくよく見れば元々が銀色に近い色なのだ。寄る年並みだからではない。
 それに、度のきつい眼鏡で“武装”しているが、それを外せばたぶん、色白の日本人離れした顔が現れる。

「樹の感情形成に関わる気がないのなら、私にはもう君と一緒に居る意味はない。帰りたまえ」
京介は絞り出すように昂にそう言った。心の中では、(ジュジュのことも読んでいるのなら、何故手伝ってくはれないのだ)そう思いながら。
「帰ります。けど京介さんはホンマに樹ちゃんには心がないて思うんですか。俺、ちっちゃい時からばぁちゃんによう言われてました。『昂、物にもちゃんと“心”はあるんやに。せやから大事にせんとな、物も悲しむんやに』って。」
「ふん、バカバカしい。如何にも昔の人間の考えそうなことだ」
京介は口ではそう言っていたが、心の中は(期待はしない方が良い。期待するから余計に悲しむことになるのだから)と言っていた。

 胸の詰まる思いで去り際、今一度樹を見た昂は、はっとした表情になってこう言った。
「京介さん、これでも樹ちゃんには心がないって思うんですか。樹ちゃん……泣いてます」
その言葉に京介は慌てて樹の顔を見た。樹の両眼からは一筋ずつ、赤い液体が流れている。
「こ、これは……これは皮膚に損傷があった時、血が出ているように見せかけるための赤い薬液だ。眼のあたりに何らかの損傷があるというだけの事だ。断じて涙なんかじゃない!」
京介は震えながらそう叫んだ。
「泣いてます、絶対。せやったら命令を忘れて俺を探しに行ったことは、どう説明するんですか。京介さんは樹ちゃんに『雨の中外に出るな』って言うてたんでしょ? せやからから俺は……俺は京介さんにどんだけ言われても、もう新しい樹ちゃんとは一緒におられへんのです。そしたら、俺はこれで……」
「根元君!!」
 昂はそう言うと、さらに激しさを増し、嵐となっている雨の中に飛び出して行った。そして昂は激しい雨の中ひたすら彷徨い歩いた。もし、どこかに樹の心が落ちているなら拾って助け出したいそう思いながら……


 
 

 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)13

「まぁいい、新しく組み直せば良いだけの事だ。」
「新しく組み直す……?」
再び顔を上げて言った京介の一言に昂は自分の耳を疑った。
「そうだ、劣化した部品をその都度交換してきたんだ。そっくり全部挿げ換えたって変わりない。
今回と同じように感情のプログラミングを施して、バックアップデータを入力して……文字通り再生させるんだよ。上手くすれば君との記憶もあるだろう。ははは、それにしてもとんだ怪我の功名ってやつだな、完璧なアンドロイドを生み出す私の夢にまた一歩近づける。君は…今まで通り樹と付き合ってやってくれるだろう?」
驚いて聞き返した昂に、京介はうすら笑いさえ浮かべてそう言った。
「いいえ、お断りします」
だが、昂はそんな京介をまっすぐに見据えてはっきりと断りの言葉を述べた。
「どうしてだ」
京介はよもや断られるとは思ってなかったようである。訝るように聞き返した。
「新しく作られたんはもう、俺の知ってる樹ちゃんちゃうからです」
「は?」
「俺の好きやった樹ちゃんは、さっき死にました。俺はその目で確認したんです」
「バカバカしい! 死んだだって?! 君も見ただろう、樹は入れられたデータの範囲内で処理していくだけの機械だ。人間のふりをしているだけで心などない。それが証拠に君が最初に家に入った日、樹に『寝ていてくれた方が安心する』と言ったろう。樹はそれを聞いて寝たきりになったんだ。命令を忠実に遂行しただけの事、君が命令しなければそうはならなかった」
 その時、それまで霞がかかっていた京介の深層心理にすこし綻びができた。
(そうだ、どこまでいったって樹はジュジュにはならん。それを私が一番よく知っている)
「ジュジュ……さん?」
「―!―」
心を読まれていることを改めて思い出した京介がものすごい形相で昂を睨んだ。代わりに綻んだ所から彼の閉ざされた内側の心があふれ出す。
(ジュジュ、私のたった一人の妹……あれを再生できるなら、私はどんなことでもする)
昂に京介から妹ジュジュに対する切ないまでの想いが流れ込んできた。
 京介……クロード・京介・F・笹川は、日本人の父とフランス人の母との間に生まれた。しかし、二人の間には愛はなく、優秀な遺伝子をかけ合わせるという、如何にも研究者らしい理由で、結合せず人口母体で生まれてきた。
 素晴らしい知能を持って生まれた京介に気を良くして両親は、3年後同じようにして樹……ジュジュ・樹・C・笹川を設ける。
 だが、生まれてきたジュジュには心臓に欠陥があった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

京介の正体-赤い涙(改稿バージョン)12

 京介の正体


しばらくして、その細い坂道を一台の車がのろのろと登ってきた。
(くそっ、この時代のはなんて面倒なんだ。怖くてアクセルも踏めん)
車の主はそう“つぶやき”ながら、坂を登りきると、樹を抱いたままの昂の前で車を停めた。
 
 中から降りてきた“つぶやき”の主は初老の男だった。
「ああ、良かった。根元君……だったかな。樹を見つけてくれてありがとう。すぐに家に運んで治療しよう。あ、私は樹の祖父の笹川という者だ。医者をしている。」
 そう言いながら男は樹に被せて運ぼうというのか、後部座席から毛布をとりだして、昂たちに近づいてきた。だが、昂は唇を震わせながら、逆に樹をきつく抱きしめた。
「あかん……樹ちゃんは渡さへん」
「何を言い出すんだね、君は。樹を、こちらに渡しなさい。早くしないと手遅れになってしまうじゃないか」
男はそう言って昂から樹を引き剥がそうとして樹の腕を掴んだその時、昂は叫んだ。
「樹、樹ちゃんに触らんとってください! 京介さん!!」
男の樹にかけた手が一瞬緩んだ。
「それより、メモリーって何ですか、浸水って何ですか!!」
それを聞いた男は少し間をおいてから、ふっと笑った。
「そうか……君は、テレパスなのか。なら話は早い。いかにも、私が本物の笹川京介だ。私の頭の中を読んでもまだ信用できないのなら、君も一緒に付いて来ると良い。早くしないと本当に樹の機能が停止して、バックアップが利かなくなってしまうぞ」
男―本物の笹川京介―はそう言うと、一気に脱力してしまった昂から樹を奪って抱きかかえると、樹を後部座席に座らせて、
「さぁ、君も乗りたまえ」
と、昂のために車の助手席のドアを開いた。

「助かった、メモリ部分への浸水はない」
笹川家、実は京介の研究室であるその場所に樹を運ぶと、京介は相変わらずつぶやきながら淡々と樹の“修理”を進めていく。その部屋の隅には、遠隔操作されなくなった抜け殻の若い京介が、床にそのまま足を投げ出して座っていた。

 樹はまるで人間にしか見えないが、精巧に作られたアンドロイドだった。そして、若い京介は本物の京介がラジコンのように遠隔操作しているだけの操り人形だった。
 それを京介の心から読み取って、こうして実際に樹の“身体“を開いてそこに人間らしい器官が欠片も発見されないのをその目で確かめても、昂にはまだそれが信じられなかった。
「まぁ、驚くのも無理はない。機械の樹と傀儡の私からは、さすがの君でも何も読めやしなかっただろうからな」
(それに、今の時代、ここまでの技術はない)そう言った京介は、心の中でそう付け加えた。
「何でそんな未来の人間がここにおらなあかんのですか」
昂がぶっきらぼうにそう尋ねた。
「どうしてかって?簡単なことじゃないか。私の時代にはもう存在しないものが、ここにはまだ腐るほどあるからだよ」
(そうだ、樹を作るためにどうしても必要な素材が)
京介は樹の胸の部分をコツコツと叩きながら続けた。
「人間ってやつはね、とんでもなく精巧にできている。それを再現する、しかもこの小さなキャパシティーの中に全部入れてしまうのは至難の業だ。特に脳にあたる部分はめまぐるしく動き続けねばならないから、劣化が激しい。常に、バックアップを取りながら新しい物と交換していかなければ維持できないのだよ。だから、劣化の激しい素材が潤沢にあるこの時代のここに研究室を時間移動させた。
 最初の内は、素材を採取したら自分の時代に帰っていたんだがな、樹に感情のプログラムを施したところ、あの娘がこの家の前の、あの何てこともない花に興味を示してね。しばらく様子を見ようと思っていたところに君が現れた。」
「俺が?」
「私たちは本来はここにはいないはずの人間だからな。面倒なことにならないようにと、しばらくはあっちに帰っていたんだが、樹があの花を恋しがってね。それに……どうも君にも興味を示し始めているようだったし」
京介はそう言いながら樹の胸の“フタ”を閉じた。
「もしかしたら、君とのやり取りで、まだまだ乏しい樹の感情面を養えるかもしれないと思ったんだよ。それで改めて君に接触をはかった……さぁ、これで終わった。」
 そう言って、京介は樹を起動させるスイッチを押した。しかし、樹はピクリとも動かなかった。
京介は慌てて装置を取り付けて解析データーを取り始めたが、結果には何の異常も見当たらない。
「そんなバカな……!」
京介はそう言って頭を抱えた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)11

「ちゃんと君が風邪を引いて、治るまで来ないとは言ってあったんだが……」
京介はそう言うと、唇をかみ締めて項垂れた。
「ああ、樹……本当にどこに行ってしまったんだろう。君には何か言ってなかったかい?ぼくにはもう、あの娘の行きそうなところに心当たりがなくて……」
しかし、そう言われても、一緒に住んでいる兄の京介ですら分からない樹の行き先が、昂に分かるはずもなかった。
 思えば樹とはこの家の内と外のほんの限られた範囲内でしか会ったことがなかった。
(そう言うたら、俺らデートとかもしたこともないんや)
そんな思いに囚われて、昂は無性に悲しくなった。

『昂さんの家はここから見えますか』
その時昂は、最後にここを訪れた時、樹が自分の家を見てみたいといっていたことを思い出した。
「ここからって、窓から?」
「はい」
「この窓は家の方向いてへんから見えへん」
「じゃぁ、庭からは?」
高台にある笹川家の庭からは坂の下の町が一望できたが、昂の家はその範囲から少し南側に位置していた。
「うーん、ギリ見えへんかったと思う」
昂がそう答えると、樹はさびしそうな顔をした。
「あ、ここよりもうちょっと上の……この家のちょっと行ったとこに左に登る坂あるやん? あの上やったら見えるんとちゃうかな。起きられるようになったら、一緒に見に行こう。せや、そうしょう」
昂はそんな樹の顔を見るのが辛くて、あわててそんな風に言ったのだった。
「そうや! 坂の上!!」
昂はそう叫ぶと笹川家を飛び出し、樹に話した笹川家左手にある急な坂道を登り始めた。

 きっと樹は三日も来ない昂を心配して家を探そうと思ったに違いない。自身も病の床にいて、寂しさや不安に耐えているのだ。昂もどんなにか寂しいだろう、辛いだろうと居ても立ってもいられなくなったのではないだろうか。たとえ、そこで昂の家が見えたとしても、どれがそれか分からないというのに……

 昂は息を切らせながら坂を駆け上がった。しかし、ふと後ろを振り返ると、あんなに取り乱していたはずの京介が自分についてきていなかった。
(何でや!)
昂は腹立たしかったが、今はそんなことを言っている場合ではないと思った。一刻も早く樹を見つけないと取り返しのつかないことになってしまう。

 そして昂が思った通り、急な坂道を登り切っていきなり視界が開けた所に樹はいた。
彼女は大きな木の根元にぺたりと座り込み、まっすぐに前を見ていた。
「樹ちゃん!」
昂は樹の名を呼び駆け寄った。しかし、彼女からの返事はなく、近寄って肩を抱いた昂の腕の中に、すんなりとその身を預けた。
「樹……ちゃん?」
昂は彼女の肩を揺すぶってから、はっとして彼女の口元に手をかざした。
「い、息……してへん……」
樹がその目を見開いたまま既に事切れていると知った昂は、樹の肩を抱いたまま同じようにその場にへたりこんでしまった。
(ゴメン……こんなことになるんやったら、風邪移っても俺行った方がよかったんか? こんな寂しい思いさして、こんなことになるんやったら……こんなに待っててくれるって分かってたら、俺……)
「なぁ、樹ちゃん……何か言うてぇなぁ。俺、樹ちゃんに少しでも長いこと生きててほしかっただけなんや。なぁ、何でもええからしゃべって! お願いや、こんなに突然に逝かんといてくれ!」
昂は樹の亡骸を抱きしめて号泣した。

 雨はその降りを増してきている。昂は樹にそれ以上雨がかからないように包み込むように抱きしめたまま、ずっとそうしていた。

冷たい雨-赤い涙(改稿バージョン)10

 冷たい雨


木枯らしが町に吹くようになった頃、昂は風邪を引いた。症状は軽かったが、樹にもし移しでもしたら、彼女の命を縮めてしまうことになりかねない。そう思った昂は、完全に治るまで彼女に会うのは遠慮することにし、その旨を京介に伝えた。
「ああ、樹にそう伝えておくよ」
京介は、玄関先でそう返した。

 だが、それから三日後の事だった。
そろそろ三時間目が始まろうという時、昂は校内放送で呼び出された。
「理数科の根元昂君、今すぐ事務室まで来てください」

-*-

「根元です、何でしょうか」
「笹川さんって人知ってる? 君を呼び出してほしいって。樹の事で話があるって言うたら解か……きゃぁ!」
(京介さんが樹ちゃんの事で電話してくる……それってまさか!)昂は樹の事と言われた瞬間、事務員から受話器をひったくっていた。
「もしもし、昂です。樹ちゃんがどうしたんですか」
「根元君、樹が……どこにも居ないんだ。もし、あの体で雨に当たるようなことがあったら……助けてくれ。何か君に心当たりはないだろうか」
京介はおろおろと樹の失踪を告げた。昂は咄嗟に窓の外を見る。既に小雨が降り始めていた。
「待っててください。今行きますから!」
昂は受話器を放り投げるように事務員に戻すと、外に駆け出した。
「根元君、今の電話誰? どこから? どこ行くの!」
昂は事務員の矢継ぎ早の質問にも答えないまま駐輪場に走り、自転車に跨ると、一目散に笹川家に向かって漕ぎ始めた。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)9

「さぁ、こっちだよ」
京介は笹川家の玄関を開けて、昂を手招いた。
「あの……」
「やっぱり、何か?」
「一つだけ聞きたいんですけど……樹ちゃんは何で記憶がなくなったんですか」
「ああ、そのことか……聞けば君は後悔するかもしれないよ」
「けど、知りたいんです。」
「樹は三か月前、一度死にかけたんだ。何とか一命は取り留めたんだが、昏睡から目覚めた時はもう、全ての記憶を失っていたんだよ」
京介は沈痛な面持ちでそう説明した。
「そうやったんですか。病気した上に記憶がなくなるなんて、辛かったやろな」
「僕は却ってそれが良かったと思っているんだ。たとえあったとしても、樹の場合この窓から外を眺めている記憶しかないだろうから」
事情を聞いた後、ぼそっとそう言った昂に京介はそう返した。(記憶があってもなくても、同じ)昂はその言葉に胸が締め付けられるような気がした。

「樹、根元君が来てくれたよ」
京介は精一杯の作り笑いを浮かべてから、徐に樹の部屋のドアを開いた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
樹はベッドには横たわってはおらず、その横の椅子に座っていた。
「寝てんでええのん?」
「ええ、起きていても寝ていても、状況にさほど変化はないです」
思わず口を次いで出た言葉に、樹は相変わらず報告口調で答えた。自身の間近に迫った死をも受け入れている同い年の少女の達観した横顔を、昂は胸が詰まる思いで見つめた。
「それでも、あんましムリはせん方がええのんちゃうん?」
昂が樹にそう言うと、彼女は、
「根元さんは私が寝ていることを希望するのですか」
と聞き返してきた。
(別に、希望はしてないけど……)
「うん、できたら。その方が安心するかな」
希望はしていないが、一日でも長く生きてほしい。そのためには、少しでも身体を休めていた方がいいだろうと昂は思った。
「では、そうすることにします」
昂の答えを聞いた樹はベッドに横になって、自身に毛布をかけた後、
「これでよろしいですか」
と尋ねたので、昂は黙って頷いた。

 それから、昂は毎日樹を訪ねた。あのまま本当に寝たきりになってしまった樹のために、長時間一緒に居ることはしないのだが、毎日数分でも彼女の部屋に足を向けた。
 そして、はじめはほとんど無表情だった樹は、訪ねる度に表情が豊かになり、時々昂の話に声を立てて笑う様にまでなった。
 
 夏、少しの温度変化も体に障るのだろう、樹の部屋は一定の温度に保たれていた。しかし、その温度が少々低すぎるような気がしたのは、昂の気のせいだろうか。樹に、
「樹ちゃん、寒ない?」
と尋ねても、
「いいえ、寒さは感じません」
という答えが返ってくる。
 それに、時々妙な“声”も聞こえるのだ。どうも樹が人間らしい表情をすると聞こえてくるような気がする。大抵は遠すぎて内容までは分らないのだが、初めて声を立てて笑った時にははっきりと
(すごい、予想以上の成果だ)
と聞こえた。声の質は京介に似ているが、京介とも違うような気がする。
 やはり何かの罠が仕掛けられているのかもしれない。
 しかし、昂にはそれはもうどうでもよくなっていた。一つでもたくさん樹に良い思い出を作ってもらって、短い彼女の人生に彩りを添えてやりたい。ただそれだけになっていた。

 「根元、最近終わったらとっとと帰るけど、何かええことでもあるんか? 女か?」
学年が変わってから、授業が終わると息せききって帰ってしまう昂に、クラスメイトがそう言って茶化した。
「ま、な……」
昂は否定しなかった。
「ほー、毎日やりまくりかい。」
そんな昂の返答に、相手は卑猥な想像を始める。
「そ、そんなんちゃうわい。ただ、しゃべるだけや」
昂は慌てて否定した。
「まぁ、ええがな、隠さんでも。」
そう言っても相手は全く信用していないようだ。先程来からの想像を続け、おまけに
(おまえ、そんなやったら成績下がるぞ。お前が下がったら俺が上がるからええけどな)
とまで考えている。
そんな彼の“声”も今の昂には気にならなかった。
(コレって恋愛ボケしてんのかもな)
昂はそう考えて苦笑した。

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