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小説のプロット作ったー

友人が、ツイッター診断で面白い診断を作ってくれたので、遊びまくった。

題して、「小説のプロット作ったー」http://shindanmaker.com/13746

自分の名前を入れると、その人への今日お勧めプロットが出てくるというもの。

ちなみに、私「こうやまたすく」は、
『Sっけのあるサラリーマンが弟子と共に冒険の旅に出る冒険もの』と出た。

Sっけのある敏腕サラリーマン、社長令嬢の婿の呼び声高い鮎川(声:置鮎龍太郎)とミルキーフェイスのドジ新人社員宮本(声:宮田幸季)はある日出張先で異世界に紛れ込んでしまう。

次々と起こるアクシデントに、お互いしか頼る者がない状況の二人の距離は縮まっていくが……

なぁ~んて書くとBLにいきなり滑り込んでしまいそうですが、私の事ですから、寸止めででも止めます。
……って話を、彼女の日記に書きこんだら、ぜひ書いてって言われた。

うー…書けるだろうか。

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theme : つぶやき
genre : 小説・文学

夢の中へ……赤い涙(改稿バージョン)8

夢の中へ……


笹川家が昴のまえから忽然と姿を消してから二週間が過ぎた。昴自身もようやくあれは夢を見ていたのだと思えるようになっていた。
(そうや、夢やったから樹ちゃんの“声”も京介さんの“声”も聞こえへんかったんや)
昴はそう自分を無理やり納得させた。
とは言え、家のあった場所に来るとどうしてもそこに目が行ってしまう。まったく形を成さないただのシミでも、特定のイメージを与えられればもはやその形にしか見えなくなってしまうのと同じように。
忘れよう。それが出来ないのなら学校までの最短コースではあるが、ここを通るのを止めようかと、逡巡しながら結局は毎日ここを通ってしまう。
(せやよな、やっぱりな……??あ、あるやん!!)

だがその日、忘れようとしていたあの洋館がまた忽然と姿を現していたのだった。しかも、昴が来たのを中から見ていたのかもしれない、彼が笹川家の前に自転車を停めると、程なくして京介が中から現れた。
「やあ、根本君と言ったかな」
そう言った京介は、これまでの態度とは打って変わって、気味の悪いくらいの笑顔で昴を迎えた。
「京介さん……」
「嬉しいな、樹だけでなく、僕の名前も覚えていてくれたんだね」
片手を挙げての歓迎に、昴は少し首をすくめながら黙って頷いた。
「実は、今日はお願いがあるんだ。妹に…樹に会ってやってくれないかな。君に、会いたがっている。」
そして、今まで遠ざけようとしていたはずの京介からいきなり『会ってほしい』と言われて昴はますます驚いた。
「樹ちゃん、何かあったんですか?」
「樹はあの日から体調を崩していてね、外に出ることができないんだ」
「樹ちゃんが、病気……」
昂の眼に樹の白すぎる肌が浮かぶ。
「元々、あまり身体はあまり丈夫じゃない。それでもだましだましここまできた。でもそれももう……いや、何でもないよ……」
京介は昂の顔色が変わったのを見てとって語尾を濁したが、昂にはそれがどういうことなのか判った。
「だから、樹の言うことはできるだけ叶えてやりたいんだ」
「解かりました…でも……」
 昂は京介の頼みに頷いて一旦笹川家の中に入ろうとしたが、立ち止った。おかしい、これは罠かもしれない。
 確かにこの二週間、笹川家は存在していなかった。行き帰り何度も確認したのだ、間違いはない。それなのに『樹が病気』のひと言で簡単に家に入り込んでも良いものだろうか。
「でも…何だい?」
「いいえ、何でもないです。行きましょう」
首を傾げる京介に、昂は頭を振ってそう答えた。もし昂がそれを口に出したとしても京介は断固否定するだろう。
 それに、それが事実だったとしても、それはそれで良いのではないかと思ったのだ。

 樹の体調が悪くなったと同時に家が消え、そして今現れた。まるで樹の思念がこの家自体を作り出しているかのようだ。その樹が今、自分に会いたがっている……
 彼女の作りだした幻なら、たとえそこに罠が仕掛けられているとしても、飛び込みたいと昂は思った。

 そして昂は京介に導かれるまま、夢の中へと歩を進めたのだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

消えた?-赤い涙(改稿バージョン)7

消えた? 


それから、昂は毎日樹と顔を合わせるようになった。樹の出てくる時間は本当に正確で、毎日同じ時間に水を撒く。昂はそれに合わせて家を出るようになった。
(俺、何やってんのやろな)
通りすがりに挨拶するだけなのに、昂は毎朝、ドキドキしながらきっかりその時間に笹川家の前を通れるように行動している自分に、自分で呆れていた。
 相変わらず樹の心は全く読めない。しかし、全く読めないという事実が却って昂の恋心をかきたてていたのだ。
 昂にも今までに気に入った女の子が全くいなかったわけではなかった。だが、気に入ると、自分に対する思いがどうなのか知りたいと思うのは人情というものだ。そして、その娘の心の中を覗いてしまったが最後、昂の気持ちは急速に褪めていく。誰もが完璧な人間などいない。そんなこと解かりきっているはずなのに、自分への気持ちではなくてもその娘の中にある裏腹を見てしまうともう駄目なのだ。

そして、ある土曜日、本来ならば公立高校は休みのこの日に、昂は同じ時間笹川家の前を自転車で訪れた。
 果たして樹は、曇り空で今にも泣き出しそうだというのに、いつも通り庭の草花に水をやっていた。
「おはよう」
「おはようございます」
樹は昂の言葉に相変わらず無表情に挨拶を返した。
「雨、降りそうやね」
(他に何か言うことないんかい、俺!)
さんざんきっかけの言葉を道中考えていたにもかかわらず、昂の口から出たのはそんなありきたりの天候の挨拶だった。
「はい」
樹の方も、怪しい空模様を肯定したにも拘らず、草木に水をやる手を止めない。
「な、君いくつなん?」
「17歳だと聞いてます」
続く昂の質問に、樹は他人事のようにそう答えた。
(記憶ないんやから、それもしゃーないのか)
「へぇ、同い年やん。ほんなら学校はどこなん」
「学校? 学校って何ですか」
通っている学校を聞かれた樹は小首を傾げてそう答えた。
記憶がないとしても、いやなくなったのなら余計に周りは躍起になって彼女のそれまでの歩んできた道を彼女に説明するはずである。それどころか、樹の言い草はまるで学校の存在自体を知らないといった風だった。
「あ、ゴメン。記憶がないんやったら、どこの学校に行ってたかも忘れとるわな」
「謝らなくてもいいです。事実ですから」
ただ、そう言った時、樹が初めて照れて笑ったように昂には思えた。

「樹、雨が降ってきそうだ。こんな日は水を撒かなくていいから、早く中に入りなさい」
その時、京介がそう言いながら庭に出てきた。
「はい」
樹はその声に頷くと、自身の兄の許に歩いて行った。そして、京介はそんな樹の肩を抱き、家の中に入ろうとしたのだが、目線の先に昂を捉えた。彼はあからさまに不快だという表情をしてこう言った。
「また君か。今日は何の用だね」
「あ、あの…今日は通りかかっただけで……」
昂はしどろもどろになってそう返した。
「通りかかっただけ、か。まあ良い」
それに対して、京介は鼻で笑ってそう言った。
 その時、昂の頬に雨粒が当たった。彼は暗さをます空を見上げた。
「やっぱり降ってきたか。早く中に入らなければ」
京介はそう言うと、そそくさと樹の肩を抱いたまま家の中に入って行った。
(そんな言うほどの雨ちゃうやん。やっぱ俺、京介さんによっぽど嫌われてるんやな)
その態度に、京介が雨を理由にして自分を樹から遠ざけようとしているのだと昂は解釈したのだ。
 そして、その場に一人残された昂は、しばらく所在なく立っていたが、別にどこに行くあてもなかったので、そのまま元来た道を引き返して行った。

 週が明けた月曜日……昂はいつもの時間に笹川家の前にやって来て驚いた。
笹川家の前と言う言い方は正確ではないかもしれない。何故なら、土曜日まであったその家は今、忽然と姿を消してしまっていたからだった。
(俺、夢見てたんやろか……)
 昂は、家のあったと思しき場所に、呆然と自転車を停めて立ち尽くした。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ガラス越しの家族-赤い涙(改稿バージョン)6

ガラス越しの家族


 一時間目終了後、担任に了承を取り付けた昂は、自宅に向かった。

 途中、行きと同じく笹川家の前を通り過ぎる。ひっそりとはしていたが、そこにそれはちゃんと存在していた。
(やっぱり俺の勘違いやったんかなぁ。そやな、今まであそこにあんなかわいい娘が住んでるなんて知らんかったから、家自体カウントしてなかっただけなんや)昂は、樹の顔を思い出して、少しにやけながらまた自転車を走らせて帰途についた。
 
 家に着いて制服から私服に着替えていると、机の上に置かれた携帯が鳴った。着信元を見る…母からだった。
「あ、何なん?」
「今どこ?もう、帰ってるの?先生から電話もうたんやけど。大丈夫なん?」
「うん、家で今着替えた。吐き気がしてただけやし、薬飲んだから心配しやんでええよ」
昂は飲んでもいない胃薬を飲んだと母に告げると、母の声が安堵に変わる。
「そう、お母さん今から家帰らんでええ?」
「うん、そんな大したことないから。ほんなら俺、もう寝るから。帰って来ても起こさんとってな。たぶん寝不足やから、寝たら治ると思うし」
「わかった。ほなお休み」
「お休み」
そう言って、昂は電話を切った。ごくごく普通の母子の会話。電話ではこうして普通に接することができるのに、直接目を合わせては話せない。怖がっている母の心に昂は歩み寄れない。いや、歩み寄っていると気づかれたら最後、母はそこから逃げ出すだろう。それが解かっているから、歩み寄る努力ができない。

 それにしても、何だか今日は本当に疲れた。思った以上に力を使い過ぎているのだろう。ベッドに横になった昂はそのまま眠りに落ちて行った。

 それから数十分後、昂の部屋に彼の母が入ってきた。彼女が熟睡している息子の頭を、涙を流しながら優しく撫で続けていたことを、彼は知らない。

 昂は夢の中で広大な草原にいた。彼の頬を優しい春の風が撫でていく。その風に煽られて露が一滴、また一滴と彼の顔に当たる…そんな夢だった。



theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)5

 教室を出た後、ため息を一つ落とすと昂は保健室に向かった。
「すいません、気分悪いんでちょっと寝かしてください」
保健室の扉を開けた昂は、椅子に座っている養護教諭、加藤尚子にそう告げた。
「理数科の子やね」
「二年の、根元です」
「で、君も徹夜組なん」
尚子は軽くため息をつきながら、昂にそう聞いた。
「いえ…」
「まぁ、とにかく熱だけ測って」
そういうと、尚子は抽斗から体温計を取り出した。昂は黙ってそれを受け取ると、着ていたブレザーを脱いで、二つあるベッドの手前のベッドに座った。奥のベッドには既に先約がいて、カーテンが閉められていたからだ。どうせ単位に引っかからない程度で、受験に関係ないか科目に仮眠を決め込んでいる輩がいるのだろう。
昂が閉められたカーテンをぼんやりと見ていると、
「私から言わせたら、あんたたちちょっと勉強のしすぎなんやに。もっと遊びない」
尚子はそう言って笑った。

 その時、カーテンの奥から不意に“声”が飛んできた。
(そんなこと言うんやったら、尚子先生が俺と遊んでくれるんか?)
奥のベッドの主は、どうもこの加藤尚子が目当てだったようだ。彼は心の中で尚子を裸にし、傅かせ弄び始めた。本来、妄想するのは個人の勝手なのだろうが、聞こえてしまう昂はたまったものではない。たとえ想像の世界でも、他人の“濡れ場”になんか関わりたくはない。昂はそうしたところで聞こえなくなるはずもないのに、無意識に耳をふさいで蹲っていた。
「どうしたん?震えてるけど、寒いのん?」
昂の様子を見て、心配した尚子が昂の顔を覗き込んだ。その時、体温計が計測終了を告げる電子音を鳴らした。
「熱はないみたいやけど。後で出てくるかもしれんわね」
昂から体温計を受け取った尚子は、熱のないのを確認してそう言った。

「俺、やっぱり帰って寝ます」
一旦は横になったものの、昂は再び立ちあがって、ブレザーを着こんだ。尚子が昂を心配する様子を聞いて、件の先約からはカーテン越しに、昂を罵倒する声と、昂に見せつける形で尚子を凌辱する“声”が鳴り響いていた。このまま、欲情の垂れ流しに付き合うのはまっぴらごめんだ。
「じゃぁ、しんどいんやったら、お家の人に迎えに来てもらう?」
続いてそう言った尚子に、昂は頭を振った。
「ウチ両方とも仕事やし、自転車やから…」
確かにそれはそうなのだが、こういう理由では迎えに来てもらいたくないのだ。

 昂の母は、昂がテレパスだということを知っている。そんな彼を母は怖がっている。小学生の頃、彼のシールドはまだ未熟で他人の感情に振り回されて体調を崩すことがよくあった。
『この子は人の心の中まで見ている』
『私の心も見ている、怖い』
迎えに来た時必ず浴びせかけられる、そんな怯えた彼女の“声”をもう聞きたくはない。
「一時間目が終わったら担任に連絡するから、それから帰りね」
そんな昂に尚子はそう返した。
(まだしばらくは、この空気の中におらんなあかんのか…)
昂はベッドの縁に座ってため息をついた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)4

  教室に着いた昂は、後の扉を開け、
「遅れてすいませんでした。」
と自分の席に急いだ。クラスメートもちらりと彼を見ただけで、誰も声をかける者はない。しかし、“声”が昂の心に充満する。
(疲れた顔しとる。こいつ遅まで勉強しとったんやろな。でないとあんな成績取られへんもんな。)
(こっちも負けてられへん)
みなポーカーフェイスのまま、心の中では闘志をむき出しにしているのだ。遅れてきたおかげで一斉に自分に向けられた意識は、今朝ほどからの少々能力を使いすぎて弱ってしまっている彼のシールドを簡単に破壊してしまった。
「ぐっ…」
昂はその大きな負の感情の塊に、吐き気を催した。
「根元、大丈夫か?」
「大したことないです。」
教師の言葉に、昂は机で自分の体を支え、そう答えた。
「大したことないって、真っ青やないか」
「いいえ、大丈夫です」
そう、こうやって注目を一身に集めていることがそもそもの原因なのだから。通常通り授業を始めてくれて、自分への注目がなくなれば、自然に治る。
「大丈夫って顔やないに。保健係、根元を保健室に」
その声に、保健係の竹下が挙手して立ち上がった。
(めんどいなぁ、根元も朝っぱらからそんな具合悪いんやったら、出て来んと家で寝とったらええやろな。)
竹下からはそんな、そんな“声”が聞こえた。昂はそんな竹下に軽く手で座るように促すと。
「保健室くらい、一人で行けますから」
と言うと、さっと一人教室を出た。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

感情の坩堝-赤い涙(改稿バージョン)3

2.感情の坩堝



 学校が近付くにつれ、大量に流れ込む雑多な人々の感情。京介・樹兄妹の心を読もうと全開にしていたまま鍵をかけるの忘れてしまっていた昂は、坂を下りて街中に入って一気に流れ込んできたそれらに一瞬目眩がするほどだった。慌てて自分の心にシールドを張る。そして、のろのろと自転車を走らせると、やっと学校の正門が見えてきた。案の定、校門は少し隙間を残して大部分閉められている。

「すいません、遅れました。」
門の前で待ち受ける生徒指導の教師に、昂は頭を下げた。こういうときはヘタな言い訳などしない方が良い。却ってそんなものは相手の気持ちを逆撫でするだけだ。小言を待っていると、その教師は昂に、
「根元、珍しいな、今日は遅刻か。ん?おまえ具合悪いんか、顔色悪いぞ」
と言った。敢えて読もうとはしなかったが、裏腹の気持ちなどないだろう。確かに、今朝は必死であの兄妹の心を読もうと神経を集中させていたから、かなり疲労しているのかもしれなかった。
「大丈夫です。」
昂はそれだけを言って、自転車を押しながら駐輪場に向かおうとその教師とすれ違ったその時、
「安田!遅れてるんはわかってんのやろ、ちょっとは走らんか!!」
昂は、同じ教師が耳元で怒鳴る声に飛び上がった。
 見るとそれは、同じ中学からきた安田一成だった。一成は昂と目が合うと、
(けっ、ええ気なもんやな、理数科クラスの優等生は。遅刻したって怒られもせんのか。)
という“声”を浴びせかけて、昂を睨んだ。教師の罵声に、一瞬シールドが外れてしまったのだ。
 彼も中学時代は優等生と呼ばれる一団の中にいた。だが、この地域一番の進学校ではその優等生たちが集まって、やはりそこで優劣が競われる。子供の頃からさんざちやほやされ親からも期待されてきた彼は、同じような秀才集団の中で霞んでしまうしかない自分を持て余している。
(アホな、好きで優等生やっとんのと違うんやに)
それに対して、昂は心の中で一成に吐き捨てた。そう、好き好んで優等生面しているのではない。目立たぬようにするには、そこそこの優等生でいるしかないのだ。
(ワザと間違うんも、結構技術が要るって知っとんのか)

 昂にとって定期試験の問題はダダ漏れ状態に等しい。そこだけを集中して勉強すればいいし、答えがまるまる教師の頭に浮かんでいることも多い。その中で際立って成績が良くなり過ぎないようにチョイスして毎回解答欄を埋める。
 あまり成績が良くなり過ぎると、都会の国立大学への進学を勧められる。この田舎町のI市でさえ、いっぱいいっぱいの自分の精神状態が、あの大都会で保つとはとても思えない。
昂はそんな苛立ちを振り切るように頭を振った。その仕草に、教師は目眩を起こしたのだと勘違いした。
「お前ホンマに大丈夫か?」
と、心配して彼に駆け寄った。
「根元、お前マジで調子悪そうやぞ。教室やのうて、保健室に行った方がええんちゃうん」
(一時間くらい授業さぼっても、お前には何でもないやろ、優等生!)
一成からはそんな裏表の声が同時に聞こえた。
「ホンマに大丈夫です。教室行ったら。すぐに座るから」
昂はそう答え、逃げるように駐輪場に向かった。





赤い涙(改稿バージョン)2

「樹、樹?どこに居るんだ」
その時、洋館の中から少女を呼ぶ声がした。
「ここです」
その声に反応して一人の20歳くらいの青年が出てきた。
「駄目じゃないか、断りもなく庭に出ちゃ」
青年はそう言いながら、どうも樹と言う名前らしい少女の頭を優しく撫でた。
「お兄ちゃん、今は水やりの時間だと思われますが」
そんな兄を見上げて樹はそう答えた。お兄ちゃんと呼ぶ割には、その受け答えは何か会社での報告を思わせる。
「あ、そう言えばそんな時間か。それでも、外に出るときにはそう言って出て欲しいな。心配するから」
そんな樹に、彼女の兄はまるで幼い子に諭すようにそう言った。記憶がなくなった経緯はわからないが、自宅前に出るのも心配するのは少々過保護なのではないか、(そんなことしたったら、樹ちゃん窮屈やないか)昂は少し憤慨しながら、今度は兄の心を覗いてみようと試みた。しかし、樹同様兄の方も全くと言って読む事が出来なかったのだ。
(もしかしたら、俺の能力の方が消えてしもたんかも…)
昂は、日頃からこの能力について苦々しく思っているにもかかわらず、焦っている自分がいるのを感じた。

 そして、尚も意識を集中させると、彼らとは別の方向から“声”が飛び込んできた。
(あかん、遅刻しそうや!!お母さん、朝ごはんなんか要らんのに…)
そしてその“声”のする方を見ると、近くの女子高の制服をきた生徒が、自転車を漕ぎながら血相を変えて坂を上っているのが遠くに見えた。
(あの子の“声”はあの距離で聞こえてくる。やっぱり俺がおかしなった訳やない)
 昂はホッとして再び兄妹の方を見て…ギョッとした。いつの間にか樹の兄が自分に気づいて自分の事を睨んでいたからだった。普段は殺気の方が先に自分のところにやってくるので、それからその方向を確認する感じだから、顔を見るまで睨まれていることに気付かないのは初めての経験だった。
「君は誰だね、ここで何をしている」
続いて彼にそう言われた。それで昂はペコっと首だけで会釈すると、
「あ…俺、I高2年の根元昂です」
「それで、そんな高校生が一体ここで何をしてるというのだ」
相手は明らかに迷惑そうにそう質問してきた。
「あの…妹さんが俺に挨拶してくれたから、いつ引っ越してきたんかなぁと思て、妹さんに聞いてたんです。ここに家なんかなかったと思うから」
「失敬な!僕たちは生まれた時からここに住んでいる!!何を証拠にそんな言いがかりを付けるんだね」
そんな昂の言葉に相手は明らかに狼狽えた様子でそう叫んだが、甲高い叫び声とは裏腹に、感情の方は些かも伝わってはこなかった。
やはり、同じ能力者…しかも自分よりは数段上のレベルなのかもしれない。

(せやけど、失敬なとかちょっとおっさんくさいしゃべり方やな)
昂がそんなことを思って、少し頬を緩ませた時、
「それより君、制服姿のようだが、学校には行かなくていいのか」
樹の兄は相変わらず不機嫌そうにそう言ったので、昂ははめている腕時計を見た。
「あ…」
もうすぐ授業が始まる時間になっていた。
(そう言うたら、さっきの女の子遅刻するって言うてたもんなぁ。あの子の学校の方が、ウチより近いし。やばっ、今から行っても完全に遅刻やん)
「早く行かないと、遅刻するんじゃないのかい。早く行きたまえ」
樹の兄は苦々しげに昂を追いたてた。
「あ、ああ…どうも…」
昂は再度軽く会釈すると、去り際、
「なぁ、君…何樹ちゃんって言うの?」
と尋ねた。
「私の名前ですか。私の名前は笹川樹です。お兄ちゃんの名前は笹川京介です」
と、抑揚なく兄の名前まですらすらと昂に告げた。
「樹、見ず知らずのこんな奴に…僕の名前まで教えなくていいんだ!!」
すると樹の兄-笹川京介は、樹に向かって苛立った様子で声を荒げた。
「お兄ちゃん、聞かれた質問には答えるのが正しいのではないのですか」
それに対して、樹は兄をそうたしなめた。相変わらず感情のこもらない言い方ではあったが、それでも昂には樹が自分の味方についてくれているような気がして、なんだか小気味良かった。

そして、昂は樹に手を挙げてまた自転車を漕ぎ始めた。
(そうか、笹川樹ちゃんかぁ。かわいかったなぁ…)
昂の目には、その場を去った後も樹の顔がずっと焼きついていた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

1.見知らぬ洋館-赤い涙(改稿バージョン)1

1.見知らぬ洋館


 学校への近道の急な坂を自転車で上っていた昂は、その坂の中ほどに今まで見たこともない家が忽然と建っているのを見つけた。いくら昨今建築技術が向上したと言っても、一朝一夕でそんなものが建つとは思えないし、その建物は昨日今日出来上がったような新しいものではなく、建ってからおよそ百年は経つのではないかというような古めかしい洋館だった。

(まぁ、どうでもええか。俺が住んでる訳やないし)
昂はそう思いながらそこを自転車で通り過ぎようとした。
 その時、庭に続く扉が開けられ、そこから自分と同じくらいの年恰好の少女が現れた。彼女は昂を見ると、ご丁寧に45度の角度でお辞儀をして、
「おはようございます。今日はよい天気ですね」
と言った。昂は自転車を停めて空を見上げた。確かに空は泣いてはいないが、そんなに上天気と言うほどでもない。それから昂は徐に挨拶の主の少女を見た。
「お、おはようございます…」
(か、かわいいやん…)
白く陶器のような肌に、長いまつげ、黒目がちな瞳、まるでアンティークドールが実体化したかのようなその容姿に、彼はつっかえながら挨拶を返した。しかし、少女はそれに対して見向きもせず、黙々庭にと水を撒き続けている。
(は?!自分から声かけたんそっちやろ。声かけたまんまでスルーかよ)
「なぁおたく、最近引っ越して来たん?この辺家なかったと思うんやけど」
(そう、昨日まではなかったはずや…)昂はそう思いながら少女に尋ねた。
「私はずっとここに住んでいますが。ただ、3か月以上前の事は分らないのです。お兄ちゃんに引っ越ししたとは聞いておりませんので、それまでも住んでいたとは思われますが」
昂の質問に少女はこの辺の方言ではない極めて標準的なアクセントで、事務的にそう答えた。(記憶喪失やったらしゃーないなぁ)昂はそう思ったものの、何だか釈然としない。ならばと、彼は奥の手を使うことにしたのだが…

「う、うそやろ?!」
思わず、彼の口からそんな言葉が出た。彼女を瞠る彼の瞳孔は開いていたかもしれない。
なぜならその少女の感情が、テレパスの彼に片鱗すらも感じられなかったからだ。

 記憶を失う三か月以前のものはともかく、たったいま現在の感情すら見えないのはどうしたことか。動機は彼女自身が忘れてしまっている三か月以前の記憶を引き出すことが出来るかも…などという、ちょっとした“助平心”からだったのだが。それだけに最初から、深層心理まで覗きこむようにぐっと意識を集中していた、なのにである。普段は他人の感情に振り回されることになるので、意識して読まないようにしているくらいなのだ。それでも、多感な時期の少年少女たちからは、そんな彼の努力すらもふいにしてしまう程、感情を爆発させてくることが多いというのに。
少女はどう見ても中学生以下ではない。あるいは自分と同じ高校生か…
(そんならこの娘、俺とおんなじ能力持ってるんか?)
相変わらず少女が水を撒き続ける中、昂はその場にフリーズして立ち尽くした。
 

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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ある意味なりきり世界の宿命?

し、ショックだぁ~!!

最近FC2小説で仲良くしていただいている作家さんが…男だった。繊細な女心や女性にしかできないことをつらつらと書かれていたから、私は女だと信じて疑わなかったのに。

何でわかったかと言うと、彼のエッセイに他の作家さんが「姐さん」とコメを寄せていて、
「えーっつ!女だと思われてたのぉ」
と半ばびっくりしたコメ返しがあったから。すぐさま、!!!いっぱい書いて送っちゃいましたよ。

で、そのコメ返しはちゃんと男だった。(どういう表現じゃそれ)怒ってるのかなっぽい文章に、3回くらい読みなおした。違う、怒ってるんじゃない。わざと普段の文体を諫めて男っぽくしているんだと気づいて安心した。

で、一番自分が出ているとおっしゃっておられた彼の詩を読んでみた。実は現代詩畑にいた私は、心をそのまま紡ぐ散文詩はあまり読まない。

先にここに来ていれば良かったと思った。そこにはちゃんと少年の彼がいた。それでもわざと男の子のフリをする女の子もいるから、気付かなかったと思うけど、あんなにショックは受けなかったはずだ。

私らしいと言えば、男だとわかったとたん、脳内ボイスを男にチェンジしたこと。それをカミングアウトしたら、
「どんな声なんだぁ~!」
って…言ったらその声検索してくれます?
今まではホントに可憐な声だったんですよぉ。それがすっこんと一応さわやかだけど野太い声に変わったのよ。ある意味それもショックだった。

なりきり世界の宿命、と言えばそれまでか。

theme : 事実は小説より奇なり
genre : 小説・文学

どこまで出しゃばるんじゃ、てめぇは!!

今回も…また今回もあやつの乱入…

たった一人残され、愛する者の所に向かおうとしていた芳治が、少しずつ新しい世界・家族を作り上げる姿を書きたかっただけなのに、それで後の娘婿になる純輝に焦点を当てて書きたかっただけなのに…

高広、今回もしっかり登場してきましたねぇ。前回は人良さげに、無言で会釈だったのに、今回はさくら奪還に燃えたりなんかして。

高広そっくりの男の子が最初に生まれたとしたら…そうじゃなくてもみんなは生まれ変わりとして接してしまうだろう。それはダメだ!その子はたとえ生まれる前に亡くなった命でもたった一つの命…そんな想いも込めて、初めて生まれた子は女の子の初羽にし、純輝へのメッセージも込めての幻の第六子でした。

でも…高広にしてみれば、嫌いで別れたわけじゃない。無理やり引き裂かれたようなもの。今度こそ!みたいな気持ちはあっても不思議はないですが。

…って、純輝=高広のように書いている作者ですが、実際のとこ、芳治と同じくなりきりなのかモノホンなのか作者本人が分っておりません。読者様の想像にお任せするということで…

最後に、一言。
「高広っ!てめぇ、いーかげんにしろよ!出しゃばりすぎだぞ。」

失礼しました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

笹本家の子供たち

交響楽、これにて校了でございます。

最初からお読みいただいている方にはお分かりかと思いますが、一部、設定がハムケとかぶっています。一応、笹本久美子を佐竹真理子と名前まで変えた関係上、夫佐竹智道も笹本智也と名前を変えました。

しかし、子供たちの名前はかなり意味まで考えて真剣に付けた名前だったので、このまま使いましたが。

長女初羽…初めてやって来てくれた天使。彼女のパワーで、高広を亡くして暗くなっていた坪内家がパッと明るくなりました。性格は久美子似のしっかりもの。

長男純輝…今回のキーマンでもある彼は、意味はピュアな心を持つように。性格はもろ高広。本当に生まれ変わりなのか?と作者が戦慄を覚えるほど、ネームを書けば書くほど高広化。

二男大洋…広く大きな心を持つように。兄弟の中で真ん中に位置する彼は、どこまでもマイペース。智也似。実は一番の大物だと作者は思っています。

三男翔真…真に羽ばたくように。初羽がちいママ化してしまってから生まれた翔真は男兄弟では一番下のやんちゃ坊主。純輝や大洋には偉そうなことを言って食ってかかる癖に、初羽には服従する。

二女華野…翔真からちょっと間を置いて生まれた女の子はその愛くるしさから言っても、笹本家のアイドル。名は体を表す、まさに華のような女の子。

三女彩加…あの一件の後、それでも残った半分で見事生まれてきた彩加。なくした色を取り戻すという意味で命名。アイドルのはーちゃん(華野)が唯一勝てない笹本家のお姫様。

はい、今回も文章に影響しないとこまで、これでもかの細部設定です。

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

雨降って…-交響楽(シンフォニー)16

純輝はそれから、しばらく私の前には現れなかった。心配して電話すると、さくらの風邪が移ったのか、熱をだしているという。私は完全に高広化していた純輝を思い出し、彼のように病んでいるかと肝を冷やしたのだが、ただの風邪だったようで、そのうちまたうちに顔を出す様になった。

しかし、再び顔を出す様になったものの、そのスタンスは明らかに違っていた。無意識に私たち夫婦を避けている−私はそんな風に感じた。
それでも彼は「良いお兄ちゃん」として、楓や治人の面倒を相変わらず看続けた。

さくらの方も順調に回復し、今回の事で少し懲りたのか、何でも引き受けるということは減ったし、そのうちに助産院ではなく、母乳教室として独り立ちし、病院でのシフトは随分と減らすことになったので、以前のような忙しさは今はなくなっている。

そして、純輝が成人式を迎えた。大人の祭典を終えた彼は、その日スーツ姿のまま私の許に現れた。
「オレもやっと大人の仲間入りです。あの時は、世の中は理不尽だと思ったけど、今はやっと笹本純輝としての人生が楽しいと思えるようになりましたよ。だから、これからも頼みます、ねっ、お義父さん。」
にこやかに笑いながらそう言う純輝に、私は寒気を覚えた。特に、最後に取って付けたようなお義父さんと言うのは何だ!
「純輝、俺はお前の父親じゃない。」
私は憮然としてそう返した。
「オレに笹本純輝の人生を生きろって言ったのは、他でもないあなたですよ。オレだって、時間をかけてやっとさくらちゃんから抜け出して年相応の相手を好きになれたんです。それに今度は相思相愛なんですよ。祝福してくれたっていいじゃないですか。」
純輝は余裕の笑みを浮かべてそう言った。確かに楓が純輝に今はお兄ちゃん以上の感情を抱いていることはなんとなくわかってはいたが、よもや純輝の口からこうもはっきりと宣言されるとは、思ってもみなかった。
「年相応?楓はまだ中学生だ!ま、まさか…もう手を出してるとか言うんじゃないだろうな。」
彼は当然高校生で初羽を儲けた笹本夫妻の血も受け継いでいるのだから…激しく不安だ。
「さくらにだってできなかったオレが、大切な楓にそんなことする訳ないじゃないですか。今まで20年待ったんですからね、あと3年位、どうってことないですよ。」
「さ、三年って!それでもまだ高校生だろう!!」
「女性が結婚可能なのは16歳からだから、オレはその時もう23だ。大学も出てる。ねっ、問題ないでしょ?」
「16で結婚だと!だ、駄目だ若すぎる!!」
完全に目が泳ぎ、しどろもどろになって声を荒げる私を見て、純輝は腹を抱えて笑いだした。
「あはは、よしりん余裕なさすぎ!たまんねぇ~。」
「何がおかしい!」
私は純輝を睨んだ。余裕の純輝と青息吐息の私。初めて会ったあの時とまるで逆の構図だ。
「ごめんごめん、そんなに焦ってもらいに来たりしないから。楓の事は大事にするって言ってるだろ。」
どうやら私は、彼にからかわれていたようだ。

これからライバル対決第二ラウンド突入というところか…しかし、このラウンド、私は激しく分が悪い。敗北必至だ。
楓のパートナーとして、純輝以上に私が気に入る男なぞ、この世界にいるはずはないのだが、それでも激しくムカついて苛立つのは何故だろう。
そして純輝に向かって叫びたくなる。
「お前に大事な娘をやってたまるか!!」
と…

                              -The End-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

対決-交響楽(シンフォニー)15

対決


私は、一瞬身体の中の血の気が全部引いたような気がした。

しかし、よく見るとその青年は高広ではなく純輝で、キャメルのブレザーもよくよく見れば彼の高校の制服だった。私の息をのんだ音に気付いた純輝は私を思い切り睨むと、
「松野さん、何でこんなになるまで気づかないんですか。さくらをこんな目に合わせるために、オレはあなたにお願いした訳じゃない。」
と言ってさくらの熱に浮かされた頬を撫でた。私は純輝の『松野さん』と、いつにない丁寧な言葉遣いに、思わず総毛立った。
「オレだって最初はただの風邪だと思ってたんだ…それに、さくらが一生懸命になったら何も見えない性格だってことくらい、あなただって解かってるんでしょう!だから、止めたんだ。なのに…もう、あなたにさくらは任せられません。返してください。」

皆にそっくりだと言われ続けて完全に自分が生まれ変わりだと思い込んでしまったのか、それとも本当に純輝は高広の生まれ変わりなのか…彼の口調は完全に坪内高広のそれになっていた。
だが、それがどちらだったにしても、私には言うべきことは一つしかない、そう思った。
「さくらから手を離せ!こいつは俺のものだ。」
私は彼に向ってそう言った。
「元々はオレのものだ。」
彼はそれに対して、逆にさくらの手をきつく握り直した。
「だとしても、今は俺の妻だ。君にはやらん。たとえ君が、あの坪内高広君の生まれ変わりだったとしてもな。俺の方が年上だからとか思うなよ。俺は君みたいにさっさとくたばったりしない、元々死にぞこないだからな。」
「オレだって死にたくなんかなかったさ。それで、やっとこうやってさくらのとこに帰って来たんだぞ…なんでソレ、邪魔すんだよ…オレにさくら、返してくれよ…」
私が薄く笑いながらそう言うと、彼は懇願するような口調でそう返した。
「駄目だ。」
「何で!」
「駄目なものは駄目なんだ。いい加減に目を覚ませ、純輝。」
「違う、オレは坪内高広だ!」
「君は坪内高広なんかじゃない、笹本純輝だ!!縦しんば本当に君が坪内高広の生まれ変わりだったとしても、君は笹本純輝として生まれたんだ。もう別の人間なんだよ。いい加減坪内高広の人生なんか引きずらないで、本来の笹本純輝の人生を生きろ!!」
「折角こんなに…こんなにさくらの近くに生まれてきたのに…何で…何で…」

その時、私たちの口論の声にさくらが目を覚ました。
「芳治さん、今何時?そろそろ帰らないと、子供たちが…あ、純輝来てくれたんだ、ありがとう。」
だが、薬の効いているさくらはそれだけ言ってまたスーッと眠りに入ってしまった。純輝はその寝顔を悲痛な面持ちでじっと見つめた後、
「チクショウ!!」
と、叫んで病室を飛び出して行った。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)14

「全く…低肺状態になったらどうするんですか。松野さんは昔からオーバーワークだったけど…休めるときは積極的に休まないと持ちませんよ。」
彼女を診た内科の高木医師は、点滴の指示をしながらため息まじりでそう言った。

やがて、病室に連れて行かれたさくらは、点滴が効いたのだろうか。昏々と眠っている。
私はそれを見届けてから、電話をかけるために病室を出た。元々夜中に母親不在なのはよくあることなのだが、今回は理由が病気だけに子供たちも心配して浮足立っているだろうし、今日はできれば面会時間を過ぎても許される限り彼女の側についていたい。そのために私の母に応援を頼んだ。

そのあと自宅に電話した。朝、急遽入院ということになり、とりあえず寝間着だけを購入し、病棟の看護師に彼女を任せた後、一旦帰って必要なものをそろえる際に、さくらの入院を置手紙で知らせただけだったからだ。
私自身はさぞ心配しているだろうと思っていたのだが、いつも元気な母が病気なのだというのは実感が持てないらしい。仕事の時のような感覚で留守番をしている様子が伝わってきて、内心ホッとした。特に治人は不安がるのではないかと危惧していたのだ。私は、多くを語らず、
「今日はお父さんも何時になるか分んないから、お祖母ちゃんのいうことよく聞くんだぞ。」
と言って電話を切った。

そして私は缶コーヒーを一本だけ買うと病室に向かった。だが、入口のところで私の足はピタッと止まった。

それは、さくらが寝ているベッドの縁でキャメルのブレザーを着た青年が、
「さくら、目ぇ覚ませよ…オレだ、オレだよ…笑ってくれよ。」
と、さくらの手をしっかりと握りしめてそう呟いていたからだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

怖れていたこと-交響楽(シンフォニー)13

怖れていたこと


さくらは無事大学を卒業し、助産師の資格を手に入れた。

かつての古巣に舞戻った彼女は、少子化で産婦人科を扱う病院自体が減少する中、大学時代にも引けを取らないくらいに走り回っていた。

月の満ち欠けに左右される出産は、圧倒的に明け方が多い。そして予定は未定で、連鎖反応のように同じ日に重なるのだそうだ。いつぞやは、当直の他の科の看護師までかりだして対応したようだが、一晩に10人ものお産を受け持ったらしい。

望んでいた仕事に就いたさくらの眼は希望と喜びに満ち溢れていた。しかしその反面、彼女の顔には疲労の色が明らかに蓄積されていっているのが判った。

そして…彼女が助産師としてスタートして半年、暑い夏を何とかやり過ごして涼しい秋の風が吹くようになった頃だった。

4~5日前から風邪を引いていることは知っていた。
「妊婦さんには絶対に移せない。」
と言いながらも、それでもマスクで装備を固め、前日には内科で点滴をしてもらったと言っていた。

その日はたまたま非番だったのだが、朝、私が教室で使う資料にチェックを入れているのを覗きこんださくらは、
「あれ、おかしいな。焦点が合わないし、涙が出てくる…」
とぼそっと小声でつぶやいた。
「40歳超えたもんな、そろそろ老眼鏡なんじゃないのか。」
と私が茶化すと、
「老眼鏡?そうね…」
とそれを肯定した。いつもなら自分の方が5歳も年下なんだから、歳をとったと言うなと間髪いれずに咬みつくのだが。そう言えば、今日は彼女の動作がいつもより緩慢だ。
「さくら、具合悪いのか?」
「うん…ちょっと。風邪引いてるし、息苦しいかな。」
と言いながら、治人の散らかした玩具を拾おうと身体を屈めて戻そうとした時、一瞬ぐらりと身体が揺れた。
「ホント、大丈夫か?」
「大丈夫だって。」
私は慌てて否定した彼女の腕を掴んだ。まだ半袖だった彼女の二の腕はビックリするほど熱かった。
「お前、熱あるぞ。大丈夫じゃないじゃないか!」
と、私が彼女を叱ると、
「あれ、熱ある?道理で頭痛いと思った。」
彼女は覇気のない声でそう返した。

私は
「薬飲んどけば良いって。」
と渋る彼女をむりやり車に乗せて、医者に連れて行った。

検査すると…彼女の肺は真っ白だった。
重度の肺炎に罹っていたのだ。
さくらはそのまま、病院に入院させられた。



theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

落ちたっ!(なのに満面の笑みだったりする)

去年の暮れから正月返上で書いてました、「SF短編賞」。今日結果が出まして、予想通り一次落ちでした。畑違いのたすくがちょこっと書いて最終選考に残るようなそんなお軽い物ではないでしょうから、ある意味納得してます。それよりも「さぁ、ウエブに載せられるぞ!!」のわくわくの方が大きい。

タイトルは「赤い涙」。今の「交響楽」が終了したらすぐに一話ずつUPします。たぶん、7章11話になる予定。

で、その「交響楽」がなかなか進まないんですよ。理由はずばり、純輝が拗ねてる(笑)それでも3歳のガキんちょを連れて買い物に行くがごとく、ぼちぼちとでも着実にラストシーンには向かってますがね。

あ、それに先行して、そういう落ちた公募作ばっかり集めた「話NAVI」http://wanavi.squares.net/novel/と言う所にUPしますんで、いち早く読みたいという奇特な方は、そちらにどうぞ。

theme : 更新報告・お知らせ
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)12

確かにさくらは初羽が生まれる時、女の子だったことに落胆している久美子にこれで良かった
と言っていたと聞いてはいる。

だが、それは純輝が生まれる前の話だ。かつての恋人そっくりの存在に、心が浮き立たない訳がない。

私自身もそうだったから解かるのだ。
楓は本当に同じころの穂波にそっくりだった。それからの成長にも、穂波の成長を重ねる。
穂波は穂波で、この子は楓だ…頭では理解していることに心がついていかない。
だが、それを知ればさくらは気持ちの良い物ではないだろうなと思うので、一切口には出してはいないが。

生まれ変わり…縦しんばそんなものがあったとしても、もうそれは坪内高広あるいは松野穂波の人生ではなく、笹本純輝や松野楓のそれなのだ。

だからと言って、ライバルの私が言うことなど、純輝はその耳を貸さないに違いない。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)11

次にさくらと共に久美子の見舞いに病室を訪れた私たちは、久美子の罵声に迎えられた。
「良かったですって!良い訳ないでしょ!!」
ものすごい剣幕でまくしたてるその声を聞いて、私たちは入り口部分で立ち止まった。久美子は同室になった年配の女性を真っ赤な目をして睨んでいた。
「あの子は生まれたかったの、そうに決まってる。だから、あんな所でだって必死に生きようとしてたんです。できることならあのまま育ってほしかった。そしたら、私…この身に引き換えてでも産んだのに…」

それは子宮外妊娠した子どもが6人目だと知ったその同室者が言った一言、
「でも、良かったんじゃないの?あなたには5人もお子さんがいらっしゃるんだし。育てるの大変でしょ。」
が原因だった。
「あなたは良くても、お母さんがいなくなったら残された子供たちはどうするの?その気があるのなら、子どもはまた授かるかもしれないのに。」
久美子の言葉に同室の女性はそう返した。
「でも、生まれてくる子はあの子じゃないです…」
「そりゃそうだけど…」
怒りの表情が崩れないままの久美子に、彼女は取り付く島がないと言った表情で口を閉ざした。

「久美ちゃん、ちょっとは体調戻った?」
それで私は場の空気を少しでも軽くしようと、わざと声の高さを上げて、手を挙げながら病室に入って行った。
「よしりん…うん…おかげ様で…」
久美子はばつが悪そうに私にそう答えた。
「久美ちゃんが早く家に戻ってくれないと、純輝がウチに来なくて寂しいよ。」
「あれ、純輝行ってないんだ。」
久美子は私の言葉に驚いたようにそう返した。
「いつもはごめんなさいね、あいつお姉ちゃんのことになるとね…」
そして久美子はため息をつきながら私に頭を下げた。
「いや、俺がこんなだから…ホント助かってるよ。」
それに対して、私は杖に目を落としてそう返した。
「いいのよ、迷惑だって言ってやって。あの子もね…早く気付けばいいのよ。あの子はお兄ちゃんじゃないんだから。お母さんにも言ってるのよ。でも、ますますあの子お兄ちゃんに似てきたから、つい口に出ちゃうみたい『高広にそっくり』って。それを聞いて育ったから、どっか自分がお兄ちゃんの生まれ変わりだなんて思いこんでる気がする。」
「そうだね。私も時々ドキッとするよ…迷惑なんかじゃないけど、一度『純輝は純輝の人生がある』って言わなきゃいけないかなって思ってる。」
さくらは久美子の言葉にそう返したが、たぶんさくらはそれを純輝に告げることはできないだろう…そう思った。

さくらは純輝が本当に高広の生まれ変わりであれば良いと思っているのだろうか。そして縦しんばそんなことがあったとしたら、彼女の心は完全に純輝の許に行くのだろうか。
2人の会話を聞きながら、私はふと、そんな支離滅裂なジェラシーを抱いていたのだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

さくらまつり

2010_0406_160335-P1000298.jpg

今日、さくらに会いに行ってきました。ここは松阪市にある「子どもの城」という場所の桜です。色々撮影して、ひときわ大きな樹と青空とのバランスでまずはこの一枚をチョイス。

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で、この桜の下であの着信音+「遠い旋律」のイメージソング集をMP3で聞きました。見上げると一面の桜の花…まるで桜に包まれる感覚でした。

道行く一人の方が、
「桜の咲く中を歩くとウキウキしてくるわね。」
と挨拶してくださいました。

ですが、今日の私は完璧なさくらモード。
穏やかな日差しの中で、音楽を聴きながら桜をじっと見つめて泣く、変なオバサンに浸っておりました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

その子はその子-交響楽(シンフォニー)10

その子はその子


そして、さくらがあと少しで大学を卒業しようと言う頃、久美子の6番目の子どもの妊娠がわかった。
ゆくゆくは数名でスクラムを組んで助産院を開院しようという風に相談はしているが、とりあえずさくらは自分も取り上げてもらった古巣の病院に助産師として舞い戻ることが決まっていて、久美子は、
「何としてでもお姉ちゃんのシフトの時に生まれてくるのよ。」
などと報告の時もお腹に向かって話しかけていたと、さくらが言っていた。

6人目だということもあり、誰もがすんなりと生まれてくるものだと思っていた。

ところが、その報告を私がさくらから聞いた数日後、昼少し前に我が家の電話がけたたましく鳴った。
「もしもし…。」
「あ…さくらちゃんいない?」
震えるような声で電話をかけてきたのは、純輝。
「今日は学校だ。どうかしたか。」
「よしりんでもいいよ…助けて…母さんが変なんだ。学校から帰ったら、お腹押さえて脂汗流して…助けて、お願い。」
純輝の口調は普段のようにちょっと背伸びしたようなものではなかった。それだけ、彼自身の気持ちに余裕がないのだろう。にしても、久美子がお腹を押さえて…流産というワードがすぐに頭を過って、私は一瞬にして口の中がカラカラになった。
「純輝、救急車呼んだか?」
「あ…まだ…」
私の質問に、純輝はかすれた声でそう返した。突然の出来事に完全に舞い上がっていて、とにかくさくらに連絡することしか考えていなかったようだ。
「なら、最初に救急車を呼ぶんだ。ちゃんとお母さんの状況は説明できるか?その間に俺がお祖母ちゃんに連絡してすぐに行ってもらうようにするから。行く病院が決まったら、ここにもう一度連絡してくれよ。すぐ行くからな。」
それだけを告げると電話を切り、私は久美子の母と、智也に連絡を入れた。

久美子は子宮外妊娠していた。実は流産の一割は子宮外妊娠が原因だとも言われている。大抵は子宮以外では着床しても胎児は育つことができないので、比較的早い時期に流れてしまうのだが、稀にそんな場所でも育ってしまうことがある。そうなると狭いキャパシティーには収まりきれず、本来子どもを育む器官ではない所を破裂させて緊急の事態を引き起こす。

最初の電話から20分後、純輝から病院名を告げる電話を受けた私は、すぐにその病院に向かった。
「お母さん、久美子ちゃんの容体は?」
私は私の姿を見咎めて深々と頭を下げた久美子の母に尋ねた。
「卵管が破裂したそうなので、いま緊急手術を…」
「そうですか。」
「このたびは本当にありがとうございました。」
「とんでもない、私は何もしてないです。偉かったのは純輝だ。」
私はそう言って純輝の頭を撫でた。いつもならその手を払いのけて睨む所なのだが、純輝はおとなしく私に頭を撫でられて俯いていた。母親の深刻な容体を間近で見たということと、結果ライバルの私に助けられたいう、ダブルのショックが彼を襲っていたのだろう。

いつもとは違う、年相応の中学生の少年がそこに居た。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)9

ただでさえ最高学府への入学は大変だ。しかも、看護師・助産師・保健師など看護にまつわる資格は理数系だ。高校を卒業してから干支を一回りする年月を過ごしたさくらがいきなりそれに合格するとは周りの者も、本人すらも思っていなかった。

だからさくらは、いきなり今までの職を辞することはしなかった。仕事を持ちながらの大学受験。その上子どもたちはまだ小さい。横で見ているだけの私が疲れてしまうほどに、さくらは何にも手を抜かず頑張り続けた。

そして、驚くかなさくらは、一度も失敗せず新しい世界への切符を受け取ったのである。

さくらは職を辞し、新しい世界に飛び込んだ。だが、無事入学したからと言って彼女の忙しさが軽減されたわけではなかった。
彼女には看護師の経験はあったが、それは整形外科で産婦人科ではない。毎日が新しい事の発見らしく、それを喜々として話しながら相変わらずめまぐるしく動き回る。そんな彼女に周囲はひやひやしながらも概ねエールを送っていたが、明らかに異を唱えるものが一人いた。純輝である。

「よしりん、いい加減止めろよ。このままじゃさくらちゃん潰れちまうだろ。」
彼女が泊りがけの実習に言ったと聞くと、彼はそう言って私を責めた。ちなみに、この“よしりん”というのは笹本家の面々が私を呼ぶ呼び方だ。命名は一番上の初羽。

独身でいたさくらのことを“おばさん”と呼べなかった初羽や純輝は、さくらの事を当時から“さくらちゃん”と呼び慣わしていた。それで、夫の方だけをおじさん呼ばわりするのは子どもながらに失礼だと思ったのだろうか、私の名前芳治から、某人気アニメの脇役のニックネームを引っ張り出してそう呼ぶようになった。今では一番末の娘の彩加(さいか)まで回らぬ舌でそう言うのだから。私はつくづくと初羽があの時、“芳治ちゃん”と呼ばなかったことに密かに感謝している。

「言って止められるもんなら、もうとっくに止めてる。それができないことくらい、君が一番よく知ってるだろ。」
私はその時、なぜかそう答えてしまった。純輝のしゃべり方が、いかにも子どもののそれではなく、一瞬高広と会話しているように錯覚してしまったようだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

さくらの進む道-交響楽(シンフォニー)8

さくらの進む道


「あのね…私助産師になろうと思うのよ。」
「じょさんし?」
最初、私はさくらが言う助産師という言葉を理解できなかった。
「小さな命が生まれるお手伝いがしたいの。」
そう言われてやっと助産師という単語に行きついたくらいだ。
「でもね、それには私、大学に入らないといけないの。あ、助産師養成学校って言うのもあるんだけどね、それはウチから遠いのよ。以前には近くにもあったんだけど、そう言う資格職業って4年制大学でなくっちゃいけないってことみたいで、それでなくなっちゃったの。」
それだけ言ってからさくらは申し訳なさそうにこう言った。
「芳治さんにいろいろ負担かけちゃうことになっちゃうけど…良いかな。」
「ダメだって言ったってさくらはやりたいんだろ。」
私の言葉に彼女はこくりと頷いた。
「俺はほとんどこの家の中でしか動けないしな。心配しなくていいよ、今だって充分俺、主夫だろ。」
さくらのその言葉に対して私は、そう言ってニヤッと笑った。
「それを言わないでよ。申し訳ないと思ってるんだから。」
するとさくらはなお肩をすぼめた。
「ごめんごめん、そんなこと思わなくて良いよ。俺は自分ができることしかやらないし、やれることがあると実感できるのが、嬉しいんだよ。主夫、大いに結構じゃないか。」

そうだ。昔私は、走り回り時間に追われることを当然のことのように思っていた。そしてあの事故で私は仕事と家族を失い、自分は存在意義さえ持たないと思った。

だが、私は今も生きている。何も問題を持たなかったかつての日よりも生き生きと生きているかもしれない。

私には今、できないことは多い。だが、できることもそれこそたくさんある。それに気付かせてくれたのは、他でもないさくらだ。そのさくらの新しい夢をサポートするのに、夫として何の不満があろう。
そしてそれは、かつての日、彼女のそれからの幸せを願って敢えて触れずに手離してくれた彼女のかつての恋人にも報いることになると思う。
「誰にでもできることじゃない。だったら、やるしかないじゃないか。そう、高広君も言ってたんだろ。」
そう言った私に、さくらは目を潤ませながら、黙って肯いた。

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genre : 小説・文学

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