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交響楽(シンフォニー)7

生まれ変わり…普通ならそんな発想はしないと思う。しかし、自分が亡くなる直前、同時に昏睡状態に陥ったさくらの許にやって来たくらいに(信じられないことだが、私はその時彼と顔を合わせている)彼女を想っていた彼なら、そんなこともあるかも知れないと思ってしまう。

やがて私たちに娘楓(かえで)が生まれてからは、小学生になっていた純輝は何かと理由を付けてかなりの距離を自転車で走って我が家を訪れ、産休のさくらと話し、娘の面倒を見た。
その頃、大洋・翔真と弟2人がいた純輝は、右足が曲がらないし、杖がなければ満足に歩けない私に『どうだ』とでも言いたげにニヤッと笑うと、さっと泣いている楓を抱きかかえさくらの許に連れて行った。

その様子を見て私は、そうは言っても楓は俺の娘だ。俺がいなきゃ生まれちゃいないんだぞと、30歳も年下の小学生になりたての彼にムキになって闘争心を燃やしていたりした。そんな私たちの様子を横で見ていたさくらは、
「純輝は弟しかいないから、妹が欲しいのよ。それだけだわ。」
と言って笑った。

やがて、久美子に第5子の女の子、華野(はなの)が生まれた。確かに純輝は「笹本家のアイドルはーちゃん」をかわいがってはいたが、我が家の日参を止めたわけではなかった。むしろ、動けない私ではちょろちょろ動く楓の世話は役不足だと言わんばかりに、産休期間が終わって仕事を再開したさくらのいなくなった我が家に顔を出した。

おかげですっかり、楓はお兄ちゃん子になっていった。

華野が生まれてすぐ後、さくらが妊娠していることが分った。
悔しいかな大家族で手慣れた純輝のサポートは、本当にありがたい物ではあったのだ。
「助かるよ。」
と口では言いつつ、私は心の中では唇を噛みしめていた。

やがて二人目の子、治人(はると)が産まれその産休が終わる頃、さくらはある決心を固めて長年勤めた病院を辞めるつもりだと私に告げた。
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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

30歳年下のライバル-交響楽(シンフォニー)6

30歳年下のライバル


純輝は、年子で第3子大洋(たいよう)が生まれて、久美子やその母がそちらに手を取られてしまったということもあって、さくらが面倒みる比率が高かったということもあると思うが、私が彼に初めて会った4歳半の頃にはすっかりさくらっ子とでも言うような感じだった。

何より…幼いその時でさえ、高広の当時の写真と並べてみると一瞬見紛うくらい、純輝の容姿は高広に似ていた。
そんな彼の事を祖父母が『生まれ変わり』のように接するのも道理だし、さくらにとっても一番思い入れのある子どもとなるのは当然だろう。

純輝にとって私は、『大切なものを奪っていった憎い男』だった。初対面の日、私は純輝に子どもとも思えない目で睨まれた。
「はじめまして、純輝君。」
そしてそう言ってあいさつした私を彼はシカトした。
「ゴメン、松野さん。この子お姉ちゃん命だから…コラ、純輝!挨拶くらいしなさい。」
「ヤダ…」
母親に挨拶を促された少年は、小声でそれを拒否した。そして、唾を呑み私を睨み上げると、
「知らねぇよ。」
と吐き捨てた。
「純輝!」
「オレ、こんな奴知らねぇ!!」
純輝はもう一度そう言うと、ぷいっと横を向いてそのまま駆け出して行った。
「あれ?あの子オレなんて言わなかったのにな…それにしてもあの言い方、お兄ちゃんにそっくり。」
「そうそう、ムリに肩肘張ってるとこなんてね。」
首を傾げながら言う久美子に、笑いながらさくらが相槌を打った。(生まれ変わりなんてものが本当にあるのだろうか。)私は彼女らの会話を聞きながらそんなことを考えていた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)5

「なぁ、どう思う。全く馬鹿にしてると思わないか。」
「そんなことないよ。お義母さんは智也の事、ホントに愛してるんだって。」
それを、憤懣やるかたないという様子で久美子に告げると、彼女は大笑いしながらそう返した。
「誰だって、自分の血を分けた子はかわいいのよ。智也だってそうでしょ?だから、今怒ってる。」
「そりゃ、そうだけど…」
それはそうなんだけど、あんなにころっと180度態度を変えられると、あれは何だったのだと毒づきたくもなるだろ?そう思いながら智也が久美子を見ると、久美子は初羽を優しくとんとんとリズムを付けながら眠りに導きながらこう言った。
「それが、初羽…赤ちゃんのパワーなんだってば。それに、それって智也がここまで頑張ってきた証拠だよ。今、智也パパの顔してるもん。」
「お前、上から目線で言うな。」
そう言うお前の方が、すっかり母親じゃないか…智也はそう思いながらそう言葉を返した。
確かに…両親があの時、自分の将来を心から案じてくれていたのだということは解かっている。だけど、それだからこそ自分が愛する女性も大切にしてほしい。そう思うのは、わがままなのだろうか。

後日、智也の両親は正式に以前の非礼を謝罪し、智也と久美子は晴れて夫婦となった。それと同時に、智也はそれまでのバイト先を辞め、久美子の父の経営する会社にアルバイトとして入った。
「お義兄さんがいたら、俺なんかが手伝わなくて良かったんだろうけど。」
慣れない仕事で些細なミスをして、落ち込んでそう言う智也に、
「高広?あいつは建築デザイナーになるとか言って、はなから家業を継ぐ気なんてなかったよ。ウチの手伝いをしたことは一回もなかった。」
と、久美子の父が笑顔でそう返した。
「そうなんですか…」
「だから、私は今回内心、久美子でかしたと思ってるんだがね。ウチみたいな小さな会社には来てもらえない逸材が自分から飛び込んできてくれたってね。誰だって初めから上手くいく奴はいないよ。」
彼はそう言うと智也の肩をポンポンと叩いた。

そして、初羽誕生から2年後、久美子に第二子、私の最強のライバル?純輝(じゅんき)が誕生した。

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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)4

子どもは初羽(ういは)と名づけられ、坪内家の空気を一気に明るくした。
そして、その存在は、智也の両親の心すら動かした。

「親父、久美子んちに時々行ってるってホントか。」
「ええ、本当に初羽ちゃんってかわいいわねぇ。いくら見ても飽きないわ。」
憮然とした表情で言う智也に、父親ではなく母親が答えた。智也はそれを聞いて激怒した。彼は、
「マジかよ、久美子にあんなこと言ったくせに、今更どの面提げて顔出せるんだよ。信じらんねぇ!俺の娘に触んな。」
と、両親に向かって、文句を吐きだした。そう言われた当の母親は、申し訳なさそうな顔で伏せ目がちに、
「ホントに悪かったと思ってるわよ。」
と返した。
「謝りゃ済むって問題じゃないだろっ!」
「だけどね、男の子のあんたたちと違って、初羽ちゃんって泣き方までかわいいんだもの。久美子さんも『どんどん見に来てください』って言ってくれてるし。」
そしてそう言うと、母親はトロトロのババ馬鹿の顔になった。その顔を見て、智也は小さくため息をついた。まさに、『案ずるより産むが易し』とはこの事かと思ったのだ。

「でな、久美子さんの体もそろそろ落ち着くころだし、結婚式をやるのはどうかなと思って…坪内さんにそう、話してみてくれないか。」
「は?!」
続いて父親の口から出てきた言葉に、智也はあからさまに不快だという態度で聞き返した。
「自分たちが放棄させたんだぞ、久美子の事!虫が良いにも程があるとは思わないのかよ。俺さ、この際だから大学卒業して、仕事決めてそれから久美子迎えに行くから。」
「智也…」
孫を見てころっと『宗旨替え』してしまった両親に、智也はつっけんどんにそう答えると、自室に入って言った。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

天使の誕生-交響楽(シンフォニー)3

天使の誕生


真面目で通っていた久美子が智也の子どもを妊娠しているという事実は、学校側に口止めしていたにも関わらず、あっという間に広がった。確かに非難の的にはなったが、それにも屈せず毅然としていた久美子と、彼女を労わり続ける智也の姿に、エールを送る者も現れた。

おかげで久美子は残り少なかった高校生活を無事に終え、卒業してすぐ、第一子となる子を産んだ。

しかし、生まれてきたのは女の子だった。智也は初めてわが子と対面してその愛くるしさに感動するとともに、少なからず落胆したと言う。久美子は『もう一度お兄ちゃんを産みたい。』と言っていた。彼女は男の子ではなかったことにショックを受けているのではないか。そう思いながら智也は久美子の病室を訪ねた。

「ねぇねぇ、智也見た?!かわいいでしょ。ちっちゃいでしょ。」
「あ、ああ…」
病室に入ってくるのを見るなり興奮気味でそう言った久美子に、智也は歯切れ悪く返事した。
「何よ、感動薄いなぁ。普通は男親の方が、『娘は絶対に嫁にはやらん!』なんて生まれてすぐから言うって聞くのに。」
「ははは、そりゃドラマの中でだろ。」
そう言うと、智也はベッドサイドの椅子に座って久美子に目線を合わせて、
「久美子…ゴメンな。」
と言った。しかし、いきなり謝られた久美子の方は何を謝罪されたのか解からずきょとんとしていた。
「何?」
「その…男の子じゃ…なかった。お兄さんをもう一度産みたいって言ってたのにな、お前。」
「ああ、その事?」
「ゴメンな。」
もう一度謝った智也に久美子は笑顔でこう返した。
「謝らなくても良いよ。私、生まれる前から先生に女の子だって聞いて知ってたから。ホントはね、聞いたときはちょっとショックだったんだ。だからお姉ちゃんに泣きついちゃった。」
「えっ、さくらさんには話したの?」
智也は、久美子が既に生まれてくる子の性別を聞いていたということにも、そのことでさくらに泣きついていたことにも驚いた。
「うん、そしたら言われた。『良かった、その子は高広じゃないもの。高広は高広だし、その子はその子だよ。』って。すごくはっとした。私たちはそれでよくても、その子にとっては、お兄ちゃんを押しつけるってことなんだって。」
「…」
「そんな顔しないでよ。あの子見たでしょ?かわいくてちっちゃくて、天使。それ以外には言えないわ。私はあの子のママになれて幸せ。」
(ホント、久美子って強いよ…)智也は既に母の顔になっている久美子の顔をじっと見つめた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)2

大学に行かず、就職して子供を育てると言い切った智也に彼の両親は激怒した。
「あなたは智也の一生を台無しにする気なの!!」
彼の母はそう言って久美子に詰め寄った。それを聞いた坪内家の両親は項垂れるしかなかった。高広がもし同じ立場に立たされたら…特に息子の恋人-つまり、現在の私の妻さくらだが-は息子よりは年上だったから、もしそうなればもっと辛辣な言葉で彼女を罵倒したかもしれない。久美子の母はその時、そう考えていたそうだ。

「…良いです…私、一人でだって育てますから…」
「子どもが子どもを育てるなんて無理ですよ。」
真っ赤に泣きはらした目で、久美子はそれでもぎっと子どもの父親を産んだ女性を睨み据えて言った。それを智也の母は鼻で笑った。そして彼女は堕胎を勧めた。

だが、それまで黙っていた久美子の父がそれに咬み付いた。
「あなたそれでも母親ですか!それじゃ、何ですか?あなたは親に言われたからって智也君を捨てられるんですか?!それにお腹の子どもは久美子だけの子どもじゃない、智也君の子どもでもあるんだ。あなたの血も受け継いでるんですよ。それをよくも殺せだなんて言えるもんです。」
「べ、別に殺せだなんて…」
堕胎を殺人だと言われて、智也の母が少し怯んだ。
「同じじゃないですか。智也君だって、お兄さんの潤也君だってあなたが十ヶ月間育んできて生まれた命でしょう。」
「だけどそれは…ちゃんと生活基盤をした上でのことですわ。あの子たちはまだ高校生ですよ。意味が違います。」
しかし、なお折れずにそう言った智也の母の言葉を聞くと久美子の父は立ちあがり、坪内家のリビングから玄関につながる扉を開いて、彼らを外へと手招きし、
「そうですか、解かりました。じゃぁ、もうお引き取りください。娘とその子は私たちが全て面倒看ますから。あなた方の手を煩わせるようなことは一切しません。と言うか、関わっていただきたくない。それでよろしいですか。」
と強い口調で言った。
「それを聞いて安心しましたわ。」
それを聞いた智也の母は、少しばつの悪そうな表情をしながらも、ホッとした様子で立ちあがった。
「ちょ、ちょっとお袋!俺は久美子と一緒に居たいんだ。勝手に決めてしまうなよ!!」
母親のその言葉を聞いた智也が母の二の腕をつかんで咬み付く。
「それじゃぁ坪内さん、よろしくお願いします。」
妻に続いて智也の父も立ちあがり、そう言って玄関を目指した。
「お、親父まで!ちょっと待ってくれよ!!」
そんな両親の態度に激昂する智也に、久美子の父は優しく肩に手を置いて、
「智也君、私も君の将来をつぶすような真似はしたくないんだ。やらなきゃならないことをちゃんとやって、それでも久美子と一緒にやっていきたいと思うのなら、その時に迎えに来てくれ。」
と言ったのだった。
「お義父さん…解かりました。今日は俺、帰ります。」
そう言うと唇を噛みしめ、智也もまた両親に続いて玄関に向かった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

いたちごっこだぁ~(泣いているような、嘲笑っているような)

青木賞に参加して…力のある作家さんをたくさん見つけられて、私は毎日その方々の過去作を読み回る日々。それは予想していたことなんですが、予想してなかった素晴らしいおまけが…

その中のお一人が参加作品を気に入って頂いて、元作の「遠い旋律」までお読みくださった。そして、アホなたすくの誤植をたくさん見つけてくださったんです。

いらちなたすく、キーボードを打つのはブラインドタッチで、自分で言うのもなんですが、アラフィフの年齢としては相当早い方。(10分間に645文字くらいはいきます)
その上、頭の中は脳内劇場中ですから、特に台詞なんかは流れでだだっと行っちゃうと誤植に気付かない。時々、
「あれっ、おかしい…おかしいぞ!…でも、わかんない。」
とうなりつつ妙な文字が一文字挟まったままの台詞を上げることもある。後で誤植って気付くんだけど。(ため息)

おかしいとかえたはずなのに、同じく変換キーを押したら同じ間違いを繰り返してたり…理由は数限りなくある。

そんなたすくのアホ文に、クオリティーを上げてくださいと間違いを指摘してくださった彼女の気持ちが嬉しくて、『削除してくださいね』とお書きくださったそのありがたいご指摘を消せないたすくです。

大丈夫です、感想欄は普通読了後(書き屋は意外とネタバレだって楽しめるのが多いので、読む前にいく奴多いんだけどね)見るもんだし、涙を誘う作品の後にどっちらけのあとがきがつくたすくらしいっちゃそうでしょ?(ダメ?!)

だって…最近自キャラと本人とのギャップに悩むくらい、自キャラかっこいいんだもん。(てめぇで言うか!)

ただ、「遠い旋律」に関しては、3か所展開の中、6回もの改稿をした作品なんですよ。つまりそのマイナーチェンジの度に誤植新たに生んでるんですよねぇ。
直しても直しても…まるでいたちごっこ。

それと、誤植に気付いて直していたりもしたんですが、うっかりと3か所全部に手を入れてないことが往々にしてある。

とりあえず、FC2小説だけはご指摘があった部分全部手を入れたので、こっちに反映させなきゃなと思ってます。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

久美子の妊娠-交響楽(シンフォニー)1

交響楽表紙

久美子の妊娠

私の許にさくらが来てから、私の周りは本当ににぎやかになった。それはあの坪内高広の妹、(笹本)久美子の家族との交流だった。

久美子には6人の子どもがいる。私と結婚した頃は、丁度4番目の翔真(しょうま)が生まれる前で、その頃には一番上の娘初羽(ういは)が第二の母としてまだまだ小さい弟たちを面倒みれるようになっていたから、それほどでもなかったのかもしれないが、それまで一人気楽に暮らしてきた私にとっては、かなり騒がしく忙しいと感じられた。

さくら自身も看護師という職業柄、人の面倒を見るのは嫌いではない。ましてやかつての恋人高広の血を受け継ぐ者となれば、その思いも一入だろう。当然のようにさくらは笹本家の子育てに係わり、さくらの夫となった私も同じように彼らの中組み入れられた格好となった。

久美子が6人もの子供を儲けた訳…それも兄高広からだった。

久美子は高広が亡くなった直後、当時付き合っていた笹本智也に子どもが欲しいと泣いたそうだ。実際には、
『私、お兄ちゃんをもう一度産みたい。』
だったそうだが、智也は戸惑いながらも結局は久美子を抱き、彼女は希望通り身籠った。

しかし、この時智也18歳、久美子17歳。共にまだ高校生。双方の親、特に笹本家側がそれを許す訳はなかった。

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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

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桜の季節に…

テンプレートを桜に替えました。

桜は人を詩人にするのかもしれません。「桜花」を書き終わった後、有線でまた高広っぽい曲を見つけました。それが、「桜花」のラストシーンにドンピシャなので、ダウンロードしました。

それが、sun set swishの「さくらびと」。アニメ「BLEACH」の現在のエンディングテーマでもあります。それと、平井堅さんの「僕は君に恋をする」と柴田淳さんの「君が思えば…」とEXILEの「HOLY NIGHT」とをブックマークして、桜くずもちと温かいほうじ茶で只今一人高広祭り開催中。

ここで一つだけネタばらし…
実は、芳治の声…小西克幸さんなんです。「さくらびと」をかけながら、小西さんの声でラストシーンの台詞を頭で再構成して、私はすごーくだらしない顔をしておるのでした。

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

心残り?

今回の作品で書ききれなかったどうでもいいような重箱の隅…

それは、綿貫家の子どもたちの名前。長男晃平だけは「青空」シリーズに出てきましたけど、長女の妊娠のとこで物語終わっちゃったので、名前出てきませんでした。でも、「青空」の時点で長女の名前私、決めてたんですねぇ…ホントこういうどうでもいいことにこだわる奴です。

長女の名前はあかり。で、今回出てきた次女カンナはもちろんハンドルネームで、10月生まれだからってことだけ。本名はかなえ。本当はあかりも灯、かなえも鼎という漢字でネーミングされてるんですけど、常用漢字ではないため平仮名です。

ちなみにあかりは家族はもとより、彼女に関わる人みんなに明るさや幸せを届けられる人になるように。かなえは三番目ということもあって三鼎と言う言葉もあるように、兄弟が仲良くしてくれるようにという意味をこめてあります。

かなえは亮平50歳の子どもですから、成人するのは見届けられても、結婚・出産となるとどうかなぁ…って不安。そのためにも兄弟が仲良くしていてほしい、亮平にはそんな気持ちがあったりするのです。

ついでに板倉家のネーミングの裏話をすると、瞳の方が先に決まったんです。かなこの娘だからまなこ…瞳という一字の字を充てたので、必然的にお兄ちゃんも一字にしようということになり、陸(雨上がりの宮迫さんの息子さんがたぶんそうだったと思う。)と命名しました。

theme : ヒトリゴト
genre : 小説・文学

禍福は糾える縄のごとし

埋火…終了いたしました。小ネタと言いつつ、結構書いてしまいました。

今回は「老い」がテーマ。老いというものを初めて肌で感じた時の寂しさを書いてみたかったんです。

それと、修司の爆弾エピソード…私、「青空」で、修司は浮気してないって言ってましたよね。あれ、あの時点ではってことなんですよ。清算したものの、一緒の職場に居るとまた気持ちが戻ることもある?とにかく修司はリセットするために転職をはかります。で、行きついた先が自営だったって訳。
この二人、ホント似た者同士です。

とは言え、私も見えてきたのは「ハムケ」を書いている時。あのハートフルな展開の中で、実はこんなドロドロのエピソードを考えていたんです。S女と呼んでやってください。

というわけで、当然、「ハムケ」ともコラボしてたのですが、それを言っちゃうとネタばれしそうだなと思ったので、「青空×Futureコラボ」としか書きませんでした。
あの、小久保のことですから、真奈美以外に付き合ってない訳ないじゃないですか!ジュリヤマに杏樹が生まれなかったら、小久保はチナと結婚していたはずで、放りっぱにされなかった加奈子はダイエットをしてなかったかも…

いろんな人の人生が絡み合ってその人の人生もある。キャラまたしかりってとこでしょうか。

theme : ψものがたり書きψ
genre : 小説・文学

埋火8

しかし、どんなことがあっても自分で守り抜くとあの時思った子どもたちを、私は4年後の今手離そうとしていた。それどころか、私は日本すらも離れようとしている。
ただ…これこそがこの子たちを一番幸せにできることなのだ。そう思っていた。

もう日本に戻ってくることはないだろう。そう思った時、私は最後に加奈子さんの声が無性に聞きたくなった。お店の片づけが終わったであろう頃を見計らって電話を入れる。数回のコールの後、陸君が出た。
「加奈子さんいる?」
「ああ、未来さん?いるよ。ちょっと待ってね。お袋、電話!未来さんから…何?ちょっと待ってて?早くしなよ…相手千葉だぜ。」
私は陸君のなんてことはない「お袋」発言にぴくんと肩を震わせた。
陸君ももう23歳、この春からは名古屋市内の会社に勤める社会人だ。私と出会った頃の、あの中学生と見紛うくらいにかわいい陸君じゃもうないのだ。頭ではそう解かってはいるのだが、何だか心はついていかなかった。私は彼らに初めて会った日、加奈子さんが陸君の「俺」呼ばわりを嫌がっていた気持ちが少し解かった気がした。
私も、初めて達也に「お袋」と呼ばれる時には、やっぱりそんな複雑な思いになるのだろうか。
…でも、私にはそんな日さえもう来ないのだ。そんなことを思っていると、加奈子さんが電話口に出てきた。
「未来ちゃん、何か用?」
「陸君、お袋なんて言い方するんですね。」
「そうよ、その内あれよあれよと言う間にお祖母ちゃんって呼ばれるのよ、きっと…この間ね、陸、彼女ウチにつれてきたのよ。良い娘なんだけどね、やっぱ複雑。未来ちゃんも覚悟しなさいよ、まだまだだと思ってるでしょ達也君だってすぐなんだから。」
複雑だと言いながら何だか楽しそうな加奈子さんの口ぶりに、私は一瞬自分の決めた計画を止めようかと思った。手離したら最後、絶対に何度も後悔するだろうなと。
だけど、今ここで思い留まったら…私は何故進まなかったのだろうとやはり後悔するだろう。

どっちにせよ、失ったものの方は一生、私の中で埋火のようにくすぶり続けるのだ。加奈子さんが選べなかった亮平さんとの未来や、ママの龍太郎さんとのことのように…

                           -Fin-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

埋火7

「あんなものない方がせいせいするはずなのにね…いざ遅れたりとんだりしたら何かさみしいのよ。それに、大幅なダイエットをすると更年期も早く来るらしいのよね。ま、あのままデブでいたりなんかしたら、死ねばまだいいけど、動けなくなって修司に面倒かけるのも嫌なんだけどね。なんかさぁ…いつまでも、女でいたいじゃない?」
そう言って笑った加奈子さんの目尻に、私は深い皺を見つけてドキッとした。

「亮平とのことは私自身もこれで良かったんだって思ってるのよ。もし修司が千夏さんを選んで私が岐阜に走っていたとしても、私じゃぁ、あの後亮平の子供なんて産んで上げられなかっただろうし、縦しんばどっちかでも連れて行くようなことになったら、彼、私の子供に気を遣って自分の子は持たないと言いかねない。若い…あ、エルちゃんって亮平より一回り下なのよ。若い、独身だったエルちゃんだからこそ亮平は自分の血を分けた子どもを持てたんだもの。
でもね…それでも寂しいの…本当だったら、そこは私の居場所なんだぞって、言いたくなる自分がいる…」
そして、加奈子さんは立ち上がると、
「若い未来ちゃんに聞かせる話じゃなかったわね。でも私、だから未来ちゃんに後悔してもらいたくなかったの。女にとって自分の子供は特別だから…苦労はすると思うけど、双子ちゃん手離しちゃだめよ。じゃぁ、お休み…」
と言って、軽く手を振ると、明日香の部屋へと入って行った。加奈子さんが来ると言うので、明日香は友達の家(実は秀一郎のマンション)に泊まりに行っていた。

私はしばらく開かれたままの【カンナ】ちゃんの顔を見ながら、加奈子さんはその顔に亮平さんとエルさんの笑顔を透かして見ていたのだなと思った。
ありがとう…加奈子さん、あなたが守ってくれたこの命手離したりしません。

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埋火6

「でも、亮平のところには行きたくたって行けなくなってた。私が修司のことを知ったのは、つい最近のことだし、そうでなくても、亮平は私と別れたすぐ後エルちゃん…奥さんのハンドルネームなんだけどね…本名の香織さんって呼ぶよりやっぱりそっちの方がしっくりくるわ…と結婚して、程なく息子さんが生まれた。普通、ネット落ちしてたらそんなこと知らなくていいはずなのにね…」
加奈子さんは画面の【カンナ】ちゃんを優しくあやす様に見ながら話を続けた。
「修司の友達が岐阜にいてね、なんとその息子さん同士が友達になっちゃったらしくて…偶然修司が電話したとこにエルちゃんが居合わせたらしいの。偶然を装って3年後エルちゃんが亮平を連れてお店に来た時には、思わずフリーズしちゃったわよ。」
「うわっ、きつっ。」
何なの?3年も経ってるのに、かつての彼女のとこに乗り込んできたわけ?!
「でも、なんとなくエルちゃんの気持ちは解かったのよ。私たちが付き合っていた時から、エルちゃんは亮平のことを好きだって気付いていたから…修司の友達なら、きっと私たちがずっと仲良く過ごしているように言うだろうしね。ホンの遊びのつもりだったんだろうと、怒ってたんだと思う。遊びじゃなかったけど、選べないなら『結局同じことだ』とあの時亮平にも言われたし。」
そうだ、どうせ選べないのならひと時の気の迷いだと思った方が良い。そう思って、私も秀一郎を突き放した。あれから、急速に明日香に歩み寄っていった彼に、私は寂しさも感じているけど後悔はない。何より私にはこの子たちが残った。
「ちょっとホッとしました。修司さんが、『加奈子が荒れてる』って言ってたから、内心心配してたんです。」
「修司、そんなこと未来ちゃんに言ったの?ま、でも荒れてたのはホントだからしょうがないかな。」
「ホント…なんですか?!」
「ええ、女の瀬戸際だからね、私。」
加奈子さんはそう言って笑った。

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埋火5

「相手は戸森千夏って言ってね、私が結婚で辞めた後入ってきた娘なの。
その娘は私たちの結婚を後押ししてくれた小久保さんっていう人と付き合っていたんだけど、小久保さんには離婚歴があって…結局別れた奥さんの所へ舞い戻ったの。上司だった修司は落ち込む彼女の相談に乗ってる間に、深間にはまった。当時の私は陸と瞳の子育てが最優先で、その上どんどんと太っていって…お世辞にも修司に『きれい』なんて言ってもらえるような女じゃなかった。」
「だからって、それが不倫して良いって事じゃないでしょ?」
「それはそうだけどね。一時は本当に彼女を選ぼうかとも思ったらしいわ。だけど、結局仕事を辞めてまで修司は私を選んだ。何故だと思う?」
いきなりそういう風にふられて、私は口を結んで頭を振った。
「私がダイエットしたから。彼、私がそのことに気づいて痩せるほど悩んでると思ってたみたい。私がダイエットを始めた頃、修司ってものすごく無関心だった。服のサイズが変わろうが、お腹が凹もうが何も言ってはくれなかった。でも、ホントは無関心じゃなかったの。痩せた原因を私の口から聞くのが怖かっただけ。私も、ちらっと浮気してるんじゃないかとは勘ぐっていたこともあったけど、でも私は気付いてなかった。その内、私は亮平との恋に堕ちて、私の方が修司のことを見なくなった。彼、そんな私のところに戻ってきたのよ。どうしてあの時、正直に彼女のことを言ってくれなかったんだろう。そしたら私…亮平のところに行けたのに…皮肉でしょ?」
それは皮肉というのだろうか…私には持つべき答えがなかった。

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埋火4

「彼優しくてね、私の小さな変化にもいちいち反応してくれるの。だから、休みの日にまで仕事だって言って出て行く修司と気持ちが逆転してしまうのも早かった。私は痩せたい以上に前を走っていく彼と一緒に歩いていく感覚が楽しくてダイエットに励んだわ。私たちは競うように痩せて、一足先に彼がゴールを迎えた。」
今や、加奈子さんと二人寄り添って商売している修司さんが仕事に没頭して家庭を蔑ろにしていたなんて、私にはにわかには信じられなかったけど、ことお好み焼きに関する真剣さは知ってるから、前の職場でも一生懸命だったのは解かる気がする。
「ゴールを記念して、彼がオフ会を企画したの。多分、彼も怖かったんだと思う。ネットなんて落ちてしまえばそれまでだから。そこでリアルとして出会った私たちは、深い関係になった。彼、子どもたちを連れて岐阜に来いとまで言ってくれたのよ。でも、行けなかったの。」
「どうして…」
「私が修司と別れることはできても、子どもたちからパパを取り上げることができなかったの。特に瞳は…あの子、子どもの頃手を振るだけで泣きだすくらい、家族と離れることを怖がる子だったの。別のパパができたから良いじゃない、そんなことは言えないでしょ。
ちょうどその時だったの、修司が今のお店を始めようと言いだしたの。全然私のことなんか見てなかったと思った修司が、ちゃんと私のことを見ていてくれていた事も嬉しかったし、もう何もかも全部忘れて新しい土地で、新しい気持ちで始めようと思った。」
そこまで語り終えた加奈子さんはそこで小さくため息をついた。
「でもね、そう考えたのは私だけじゃなかったの。修司が脱サラを決めた理由…長年務めた会社の業績が以前ほど上がらなくなったのももちろんだけど、彼にもリセットしなきゃならない女がいたのよ。」

ええーつ!…ってことは、修司さんも不倫してたってこと?!私は危うく大きな声を出して、子どもたちを起こしてしまいそうになるのをやっとのことで抑えた。

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genre : 小説・文学

埋火3

「ふふふ、びっくりした?」
「何だ冗談なんですか。」
ぎょっとしてしまった私の顔を見て茶目っ気っぽく笑った加奈子さんに、私はホッとしてそう言った。
「いいえ、本気。彼ら夫婦は私のダイエットの時の同志なの。ブログを通じて岐阜と茨城の距離を乗り越えて結ばれたのよ。」
きっとそういう結びつきにご夫婦対で憧れてるのかな。私は勝手にそう取って、
「そう言うのって素敵ですね。」
と言った。でも加奈子さんはそれに対して不敵な笑みを浮かべると、
「彼ね、彼女と結婚する前は私と付き合っていたのよ。」
と言った。
「は?昔からこの…エイプリルさんですか?とお知り合いだったんですか。」
だから、私がそう尋ねると彼女は頭を振って、
「いいえ、私はその頃横浜だったし、私も彼とはダイエットブログで知り合ったの。」
と言った。確か、加奈子さんって陸君と瞳ちゃんの産後太りがダイエットのきっかけだったわよね。じゃぁ、それって…
「ええ、その時には陸も瞳もいたわ。私、寂しかったの。」
彼女はそう言って、ひと夏の恋の話を私に始めた。

「私ね、前に話したことあったかしら、MAX103kgあったのよ。」
はじめて会った日、修司さんは加奈子さんのことを『とんでもないデブだったんだぜ。』と言ったが、三桁を超える数字で聞くとその凄まじさが余計伝わってくる。逆に、現に太っている人たちは何kgなのかを知らないから、加奈子さんがその時どんな感じなのかわからなくて、いきなりお相撲さんを想像して私は首を振った。そりゃ、いくらなんでも行き過ぎだ。
「修司は仕事人間だったし、丁度仲の良い女友達たちも同じように、結婚・出産ラッシュでね…今から考えると、私はたぶん食べることにしか楽しみを見出せなかったんだと思うの。でも、そのわずかな楽しみが、私の中の感覚を狂わせていったの。1回だけ見ると少しだけのオーバーなんだけど、まさに『塵も積もれば山』なんだと思う。だから、簡単には痩せる方法が見出せなかった。」
そう、人間は誰だって自分を基準にしてしかモノを見ることができない。世の多くの女性たちが『普通に食べているだけなのに…』と嘆きながらダイエットをと呟くのは、そうしたところなのだろう。普通が普通ではないのだと気づければ、多くの人が痩せられるのかもしれない。
「だけどね、私はたまたま料理のレシピを見るのに入り込んだブログでそれに気付かせてもらえたのよ。人ってね、なんと1日190kCalオーバーし続けるだけで、年に10kgも太れるのよ。190kCalって言えば、今川焼が一つ食べられるかどうかってとこなのよ。たったそれだけ。」
今川焼一個増やすだけで年間10kg増か…『その一口がデブの素』とはよく言ったものだわ。
「で、ダイエットブログを始めて知り合ったのがその…エイプリルさん、綿貫亮平という男なの。」
加奈子さんの口からいきなり出てきた相手の本名に、私はごくりと唾を飲み込んだ。

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genre : 小説・文学

埋火2

直前、その日は実家に泊まらず幕張あたりでホテルを探すというのを聞いた私は、
「是非、ウチに泊まってください。その日は帰しませんからね。」
と言って笑った。私が家出したあの時、もし加奈子さんが見ず知らずの私を家に入れてくれなかったら、私もこの子たちもこんな風にいなかったと思うから。それに、修司さんが言うことが本当なのなら、なにか悩みごとがあるに違いない。半分程の年齢の私に聞かせられるようなもんでもないかもしれないが、少しでも力になれるのなら…そう思ったから。
「じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかしら。」
そう言って加奈子さんは相変わらず明るい笑顔を携えてやってきた。

変だと言われて心配していたけど、訪ねてきた加奈子さんはいたって普通だった。今や大きくなったと言っても、彼女自身陸君と瞳ちゃんを育てているのだもの、初心者マークバリバリのママの私なんかに比べれば数段何にしても手際が良くて、お客様のはずの彼女におしゃべりしながらずいぶん手伝ってもらってしまった。

だけど、夜になって…子どもたちをお風呂に入れて一段落すると、加奈子さんが老眼鏡をかけながら食い入るように携帯でネットを開いて見ているのを目撃してしまった。
「携帯だと見難くないですか。ノーパソ出しましょうか。」
「ごめんなさい、気遣わなくていいわよ。ちょっと思いだしたことがあって見ていただけだから…」
そう言う割には、画面を見る横顔は、何だか思いつめているようにも見えた。私は黙って明日香の部屋(それまでは私の部屋でもあったんだけど、今、私たち母子はリビングを占領する形になっている。)からノーパソを持ってきて配線した。

「ありがとう。」
とお礼を言って加奈子さんが開いたページはブログで、トップにはウチの子たちとさして変わらない赤ちゃんの画像が張り付けてあり、
-おかげさまで、第三子【カンナ】が無事生まれました-
と大きな文字で書かれてあった。
「かわいい、お友達のお子さんなんですか。」
と尋ねる私に、加奈子さんは首を振った。よく見るとうっすら涙ぐんでいる。そして、彼女の口から出た言葉に私は返す言葉を失った。
「お友達じゃないわ。私が世界で一番好きな人の子どもなの。」
加奈子さんはそう言ったのだ。

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埋火1

※この作品は、拙作「切り取られた青空」と「Future」二つの作品の後日談になります。その人間関係などは割愛しますので、よろしければ先にそちらをお読みいただければ幸いです。


-秋-
双子を産んだ私のもとに、修司さんから電話があった。修司さんというのは、私が名古屋の方に家出をしたときにお世話になったお好み焼き屋さんのご主人。
「未来ちゃん、ちょっとは子育てに慣れた?」
「ありがとうございます。相変わらずバタバタですよ。泣くときは一緒だし、お風呂も父に入れてもらって、母と私で服を着せて…家族みんな巻き込んじゃってます。」
性別の違う双子だから、一卵性双生児では絶対にないはずだけど、それだからこそ余計競い合うのかもしれない。一人が泣きだすと必ずもう一人も泣きだす。
「そうか、大変だね。」
「ええ、ホントに。だから加奈子さんには本当に感謝してます。あの時、加奈子さんが連絡してくれなかったら…私ひとりではどんなに頑張っても二人は育てられなかったと思います。父も母もすごくかわいがってくれますし。」
この子たちの父親は私の妹の彼。その名は口が裂けても言えない名だった。だから、それを知られることを怖れて妊娠が分っても帰らないと言いきった私に、修司さんの奥さん、加奈子さんは私の両親に連絡し、父親の事を一切聞かないでやってほしいと、懸命に取りなしてくれたのだ。
「そりゃ、父親にとって、娘の子どもは無条件にかわいいもんさ。案外さ、どこの馬の骨とも解かんない男に娘掻っ攫われるより、お父さんにはよかったりしてな。」
「そうみたいですね。父を見てると本当にそう思います。」
パパ、ホントに孫の育児休暇を申請しかねない勢いだもの。私はクスッと笑って修司さんにそう返した。

「ところでさ、加奈子が双子ちゃんを見たがってるんだ。行かせても良いかな。」
「もちろんです!遠いですけど、是非来てください。」
私も加奈子さんには子どもたちを見せたいと思っていたけど、お店があるので来てくださいとは言えなかったのだ。
「あいつの実家は横浜市内だからね。実家に帰ることを思えばそんなに遠い距離だとは思わないよ。ただね…」
「ただ…何ですか?」
「最近、あいつ変なんだよ。急に訳もなくどなり散らしてみたり、放っとくとずーっとぼーっとしてたり。ま、陸の受験があるから、ぴりぴりしてるのもあるとは思うんだけどさ、そろそろ更年期とかもあるしな。で、ちょっと息抜いてやれれば良いかなって思ってさ。」
「こちらは大歓迎です。お待ちしてます。でも、更年期だなんてまだ加奈子さん若いのに、修司さんひどいですよ。」
「あいつももう47だぜ。きたっておかしかないよ。じゃぁ、段取り付けてまた連絡させてもらうわ。」
修司さんはそう言って電話を切った。私は電話を切った後も、あのパワフルで明るい加奈子さんと“更年期”というワードはしっくりこないなと思っていた。

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