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おまけのおまけ

おまけのおまけ


その朝、スーパーの金券ショップの店主は、ウキウキしながら金庫を開いた。昨日手に入れた室町後期の銀判を見るためだ。よくぞあんな状態の良いものが残っていたものだ。そう考えると、店主の顔がまた緩む。
だが、その店主の顔は緩んだまま固まった。
「な、ないっ!!」
昨日確かに金庫にしまったはずの銀判が、影も形もなくなってしまっていたのだ。金庫は確かにしまっていたし、銀判を包んであった布は、包まれたそのままの形で残されていて…
おまけに念のために確認した金庫金は、その銀判を買った8万円分増えていたのだ。
「夢…だったのか?」
夢だったとしたら、この布はどう説明するのだ。店主はこの『狸に化かされた』としか言えない状況に、わなわなと震えながら、
「お、俺の銀判を返せーっ!!」
と最大音量で叫んでいた。

                     ‐お後が宜しいようで…‐
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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

両極は止めた方がいいわな

「なりきれないっ!」
今回、「HANABI」を書きながら何度そう叫んだことか…

この作品、最初はノベリストで、「再び桜花笑う季」と並行して書いてたでしょ。書きだしたからには毎日少しでも進めないと気が済まないたすく、根暗なくそまじめ男芳治になりきった頭では、すぐに圭治になりきれなかったんです。

それがために、脱線事故の部分とか、穂波のバイバイの後の件とか…かなり端折ってしまったような気が…
「桜花」の方はこれはこれで番外編化して、さくら側の気持ちも含めて新たに「遠い旋律2」として三人称で書くべきなのかもなと思います。

これから先、「桜花」は「ハムケ」後半部分の話とリンクします。助産師という特殊な職業の取材がカギなんですが、いかんせん子育てをほぼ終了しかかっているアラフィフたすくには、取材するルートがない。プロでもないたすくが産婦人科とか助産院に乗り込んでいくのもねぇ…ググリで乗り切るのは荷が重そうだから。

その辺のとこクリアできたら、続編ありかもです。期待しないでくださいませ。

theme : ヒトリゴト
genre : 小説・文学

あとがき

HANABI、終了しました。

ポータルサイトでは、作品紹介にてネタばらしをした上で書いてたんですが、ここでは一切前置きなしで書き始めました。私らしくない?現代ファンタジーにビックリされた方もおられたかも。

前の職場にいた頃のことです。
「ねぇ、コウちゃんならどう書く?」
といきなり同僚のジャガーちゃん(横田さんじゃありません。何とジャガーで通勤してたんです、その子)が持ってきたのが、中学三年生の息子さんの夏休みの宿題
「家に戦国武将がいきなりタイムスリップしてきた。君ならどうする?」
なんつー、ぶっ飛んだネタだったんです。もう、ネタという以外にないでしょ?このぶっ飛び具合。

彼女が私にこう振ってきたのは、その年のお正月の社内報でのウチの事業所の紹介文を私が書いたから。その時に
「昔小説書いてた事もあったんだわぁ。」
と、ぽろっと漏らしてしまったのがきっかけ。

「私ならねぇ…まず、こうリアクションするでしょ?そしたら相手方がこうきて…」
と私、延々と妄想を広げて昼休み中しゃべり続けちゃったんです。それでも終わらず、
「じゃぁ、コレ書いてみるわ。」
と書いたのがこれの元の原稿だったんです。その時点で原稿用紙65枚。今回加筆改稿して80枚換算のそこそこの長さの物になってしまいました。

コンセプトは、「逆ドラえもん」未来の修正に過去の人間が出かける。で、修正をかけるのはメグの方。ね、“逆”ででょ?

小説は22年ぶりだったので、嬉しくなって私はアニマックスの原作募集に応募もしましたが、当然一次にも引っかからず。
でも、この一之助ってキャラ好きなんですよねぇ。なので、今回リメイクしてお披露目いたしました。まだ、甘いとこはありますが、私が楽しみまくって書いたのが解かって頂ければそれでいいかなと。

テーマソングは、侍っぽいかなというので、「NARUTO」からAKEBOSHIの「WIND」と「GO!!!」
と「ハルモニア」それと、姫ちゃんネタばらしシーンでは、「冬ソナ」のRyu「忘れないで(韓国語Ver)」歌詞もぴったりなんですが、子守唄調の曲が余計にムードを盛り上げてくれました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

おまけ-HANABI18

おまけ
一之助的最終章(一之助サイドのエンディング


「姫様、そちらは危のうござる、姫様!姫様!!」
拙者はようやくのこと、とてつもない大きさの牛車に吸い込まれていく姫様を抱きかかえると、圭治に姫様を投げて渡した。本来なら、お仕えする殿のご息女をそんな風に投げたとあっては、詰め腹切るくらいでは済みそうもない。しかし、事火急の事態じゃ。殿も許してくれるじゃろうて。
そして…拙者は敢無く牛車に轢かれてしまった。

「一之助ぇ…痛いか…」
拙者が次に目を覚ますと、目に涙をいっぱいに溜められた愛海姫さまの顔が飛び込んできた。
「姫様、御無事でしたか…ならば、拙者の傷など造作もないこと。うっ…」
拙者は姫様に心配をおかけするまいと起き上がろうとして、激しい痛みについ声が出た。あのような牛車に轢かれたのに、これしきの傷で済んだのはまだ幸いか…そう考えておると、そこに伊倉殿が入ってこられた。
「かなりの深手を負われておられます。無理はなさらず、どうかそのままお休みになっていてくださいませ。」
「伊倉殿、かさねがさね忝い。で、圭治はどうしておる。」
拙者がそう言うと、伊倉殿は驚いた様子で、
「まだ、お二人の他に連れの方がおられたのですか?私が一之助様を見つけた時は、他にはどなたも…それにしても、どうして
私の名を御存じなのですか?」
と首を傾げた。そう言われてみれば、辺りは静かで、鳥のさえずりが聞こえている。先程来は、あの牛も付けない牛車の音しかせなんだのに。
「伊倉殿、付かぬことをお伺いするが、此年は何年か。」
「はい、天正八年にございますが、それが何か…」
そうか戻ってきたのか…そう思った時、拙者にあの遠い時代に向かう前の記憶がよみがえってきた。
拙者たちは追手に見つかり、この森に逃げ込んだのだ。何とか木の洞に姫様を隠したものの、その後拙者自身は追手に切られた。
「伊倉殿、下の名前はその…何と申されるか。」
「野依、伊倉野依と申します。」

夕刻、野依殿の祖父、伊倉定朝殿が帰って来た。
「目を覚まされて本当に良かった。しっかり傷が癒えるまでゆるりと養生下され。」
定朝殿も見ず知らずの拙者たちにそう言って下さった。
「しかし、それでは追手がもし参れば御迷惑をおかけ申す。」
「なんの、迷惑なものですか。外部様には昔大層にお世話になり申した。それのささやかながらの御恩返しだと思うて下され。
それと、姫様のおかわいい姿を見られなくなるのはこの老いぼれ、寂しいんですじゃ。ですから、できるだけ長くお留まり下され。」

伊倉殿にそっくりな野依殿…恩返し…
『では何故、拙者はこの時代に紛れ込んできたと言うのか!その方らの戯言に付き合うためか?!』
拙者、圭治にひどいことを言ってしまったようじゃな。拙者は伊倉殿に恩返しをするためにあの時代に行かねばならなかったのに。知らぬこととは言え…

ま、あの二人が拙者がきっかけで結びあわされれば、恩返しの一つもできるやもしれぬがな。

                              おまけ‐了‐

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI17

「でも、私の…何を助けようって言うの?」
もう一人の姫が自分だと聞いたメグはそう言って首をかしげた。
「解んない。でも、一之助の持ってる時間じゃきっとそれは足りなかったんだ。だから、俺のとこに来たんだ。俺にそれを引き継いでもらうためにな。」
「引き継ぐ?」
俺にも、どうしたらメグが助かるかなんて分からなかったけど、俺は俺が出来る事をしようと思っていた。
「なぁ、俺たち付き合わねぇか。」
「本山さんに頼まれたから付き合うの?なら…ヤダな。」
俺がコクると、メグはそう言って瞬殺した。
「そっか…ヤならしょうがねぇか。」
何でもないふりして、俺は返したけど、実際はかなり凹んでいた。結構一大決心して言ったから、俺。ホントの事を言うと、俺はメグの事を小学生のころから好きだった。で、この際だからって思ったんだが、他人の尻馬に乗るなんてやっぱダメか…そう思ったその時…
「義務なんかで付き合って欲しくないわ。だって私…マジで圭治のこと…好きだもん。義務で一緒にいてくれるなんて思ったら、辛すぎるよ。」
そういきなりメグにコクられて、かぁっと体が熱くなった。
「メグ…義務なんかじゃねぇよ。俺がそうしたいんだ。俺もその…メグのこと前から…な。」
俺はそう言って、メグを自分に引き寄せて抱きしめた。なんて言うと余裕こいてるように聞こえるかもしれないが、もう心臓は口から出そうだったし、足はガタガタしてた。
「ホントに?…じゃぁ、付き合う…」
メグはそう言って泣きながら俺の胸に頭を付けた。

一之助、後は引き受けたぞ。

ところが、俺たちが付き合い始めてしばらくして、メグの親父さんがアメリカに転勤することになった。親父さんはメグにどうせなら留学するつもりで一緒に来いと言った。メグは散々迷った末、その父親の提案を聞き入れてアメリカに旅立った。
それでも、俺たちは手紙とスカイプで付き合いを続け、8年後戻ってきたメグとその2年後に結婚した。
たぶん、一之助とのことがなければ、メグとは違う高校に行っていた俺は、メグがアメリカに旅立ったことも知らず、別々の人生を歩んでいただろう。あいつの事を助けるつもりで、結局俺たちが助けられていたんだと今になって思う。



‐2025年、夏…‐

庭でもうすぐ4歳になる娘の泣き声がした。
「どうした?アミ。」
「一之助がひっぱるぅ。」
「そりゃ、アミが危ないことするからだろ?」
「アミちゃん危なくないもん!」
すると、アミは頬を膨らませて、そう言った。けどお前、この前も一人でいなくなったばかりだろ。
「一之助、このおてんば姫のお守は大変だな。いつもありがとうな。」
俺がそう一之助に言うと、一之助は満足げに、
「ワン!」
と一声吠えた。

                        -完-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI16

やがて、しばらくして来たメグの顔は、ひきつってうっすら涙まで流していた。
「何でもないって、何でもなくないじゃん!圭治トラックと接触したっていうじゃない。」
「お前、それ誰に聞いたよ!」
「竹林堂のおじさん…轢かれそうになった女の子を助けた高校生がいるってお客さんと話していたから。でもよく聞いたらそれ圭治だって言うし…」
くそっ、あのオヤジ、暇だからって道行く人みんなに吹いてるんじゃないだろうな。
「ぶつかってなんかねぇよ、第一ぶつかってたら、こんなとこにいられる訳ゃねぇだろ。」
「だって、電話すぐ切っちゃって、マナーモードで…病院に行ったんでしょ。」
確かにそれは間違いではない。間違いじゃないけど、違うんだ。
「とにかく上がれよ、一之助の事もあるから…俺の部屋でちゃんと説明すっから。」
「あ、そうだ本山さん!いないってことは、お姫様見つかったの?」
「ああ、もう!それもこれも全部話すから、上がれってんだ!!」
お姫ちゃんがか見つかったと思って気色ばむメグの瞳が辛くて、俺は思わず声を荒げた。その様子にメグははっと息を飲んだ後、
「何よ、いきなり怒りだすなんて…」
とぶつぶつ小さな声で文句を言いながら、俺の部屋に入った。

俺の部屋に入った後、俺はメグを勉強机の椅子に座らせ、俺はベッドに座った。そして、徐に、
「覚悟して聞いてくれ、今朝トラックに当たったのは俺じゃなくて一之助だ。」
と言った。
「ウソ!それで今本山さんは…病院にいるの?」
「いや、それだったら俺だって、お前をすぐに病院に呼ぶさ。消えたんだ。」
「消えたって…」
メグは口に手を当てて震えている。俺は立って、そんなメグの肩に手を置いた。メグは顔を上げて俺をじっと見た。
「どっかーんと上がった打ち上げ花火みたいにさ。おまけに一之助がぶつかった跡がどこにもないしさ。周りにいたみんなも俺一人が助けたってことになってさ、俺はトラックのとこまで行ってないってのに、念のためにって検査されるしさ。」
俺はためいきをついて、それからクローゼットを勢い開いた。
「ここにさ、一之助の荷物ぶっこんでたんだぜ。なのにさ、帰って見てみりゃもぬけの空だよ。まるで昨日からのことは夢みたいに前のままだ…」
俺は拳を握りしめ、必死で涙を堪えていた。
「あ、プリクラ!」
メグはその話を茫然と聞いていたけど、そう言うと、突然跳ねるように自分のバッグを漁って自分の手帳を取り出した。そして、必死に一之助と3人で撮ったプリクラが貼ってあるページを探す。
「な、何で…何でなのよぉ…」
メグはやっと見つけたそのプリクラを見て、ぼろぼろと涙を流してそう言った。
‐そこには後ろでしたり顔をして写っていた一之助の姿はなく、ピッタリと頬を寄せ合って照れまくる俺とメグとのツーショットが‐
「そうか…こんなとこまで消えなくて良いのにな…あいつ、ホントにバカ野郎だな…」
俺もそこでついに堪え切れなくなって、泣いてしまった。
「ねぇ圭治、じゃぁ、本山さんは何でココに来なきゃならなかったの!こんなの悲しすぎるよ。」
メグはプリクラを握りしめたまま震えていた。そんなメグの頭を撫でながら俺は言った。
「…それだけどな、一之助はたぶん、お前に会いたかったんだと思う。」
「私に?!」
メグは驚いて顔を上げた。
「たぶんだけどな…一之助はもう元の世界でも死んでんだよ。お姫ちゃんを守りきれないことが未練で未練で、お姫ちゃんと同じ名前のお前とその子を助けに来たんだと思う。助けた女の子の名前、亜実ちゃんって言うらしいんだ。亜細亜の亜に木の実の実で亜実。」
「だけど、私の名前は、あみじゃないわ!」
「漢字だ。今、パソで変換して気付いた。お前の名前って、あみとも読むんだよ。だから、同じ名前の亜実ちゃんと同じ漢字のメグを両方助けようとしたんだ。」


theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

姫様を頼む-HANABI15

姫様を頼む


だけど、何で俺のとこなんだろう。それならあの女の子、あみちゃんにもっと近い所に現れればあいつ、あんなに苦労しなくて良かったはずだ。リビングのパソコンの前に陣取った俺は、そんなことをつらつら考えていた。不意に携帯のバイブに気付く。そうだ、救急車に乗せられる時、仕方なしにマナーモードにしてたんだっけ。見るとそこには伊倉愛海の文字があった。でも、俺は電話には出なかった。バイブが止まった後、履歴を見る。メグは何度もかけてくれてた。けど…今ホントにどう言ったらいいのか解らなかった。

俺はぼんやりと、そばにあったパソコンを開いた。
俺はため息をつきながら‐いちのすけさんはあみちゃんととおいところへいってしまいましたとさ‐と呟きながらキーボードを叩いた。
「いちのすけ(変換)一之助は…あみちゃん(変換)愛海ちゃんと…愛海ちゃん?!そうだ、これだ!!」
俺はあみちゃんと打ち込んだ後変換キーを押した時、その八番目の変換候補に目を瞠った。そこにはメグの名前めぐみと同じ漢字が躍っていた。試しにめぐみと入れたら愛という字一字でしか出てこなかった。たぶん、いや…間違いなくあみ姫様のあみは愛海だ!だから、一之助はメグの幼馴染の俺の処にやって来たんだ。
俺は慌てて、マナーモードを外すとメグに電話を入れた。
「もしもし?」
「圭治、今何時だと思ってんの?本山さんが先に出て行ったって言ったっきり電話もかかってこないし、おまけにすぐにマナーモードになってるんだもん。心配したんだから!!」
電話がつながって、俺がそう言うか言わないかに、メグからの罵声が飛ぶ。
「ゴ、ゴメン。今からいいかな。」
「良いに決まってんじゃん。そのために待ってたんだから。何処で待ち合わせる?」
まだ何も知らないメグの返事は底抜けに明るい。
「お前んちに行くから…なぁ母さん、俺今からメグんち行って来る。」
俺が電話しながら自転車の鍵を引き出しから取り出そうとすると、
「圭治、今日はダメよ。何があるか判らないから、安静にしてなさいって言われたでしょ。」
と母さんからダメ出しが入った。
「大丈夫だよ、どこも打ってない。」
ああっ、もどかしい。どこもホントに打ってないだってば!!
「ダメよ!こう言うのは後から出て来ることが多いんだから。」
それでも母さんは折れてくれない。逆にそれを聞いていたメグが、
「どこも打ってないって、圭治、何かあったの?」
と聞いてきた。
「いや、何でもねぇよ。」
メグにだけは正直に全部話そうと思っていた。でも、それは電話じゃいけない。
「ねぇ、どうしても今日じゃなきゃダメなの?そしたら、メグちゃんここに来てもらえばいいじゃない。」
すると、母さんがそう言った。でも、そうすると母さんに話したことの辻褄が合わなくなる。俺は、露骨に嫌な顔をしてたのかもしれない。
「何なの、その顔は。ま、デートをすっぽかしたのに来させるのは気が引けるんだろうけどね、しょうがないじゃない。」
母さんに首をすくめてそう言われてしまった。
「そんなんじゃねぇよ!」
「ま、何でも良いわよ。後で言い訳できないような事してくれなきゃ何したってね。」
「だから、そんなんじゃねぇってば!!」
ああ、何か完全に誤解されてるよ…
でも、まぁそれでも良いかもしれない。俺は内心、一之助の『姫様を頼む』と言われたことを、実行してもいいかなと思い始めていた。メグがそれを受け入れてくれればだけどな。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI14

「う、ウソ…消えた?!」
茫然とその女の子を抱いたままへたり込んでいた俺の処に、
「あみちゃん、あみちゃん!!」
と血相変えてその子の母親が走って来た。俺はその母親に子供を渡した。驚いて声も出なかったその子が母親の手の中で安心したのか、急に大きな声で泣きだした。
「な、ないぞ…」
その時、真っ青な顔で降りて来たトラックの運ちゃんの震えるような声を聞いた。
「何処にも当たった跡がない。確かに何かぶつかったはずなんだが…」
運ちゃんは首をかしげながら、一之助がぶつかった辺りをまじまじと見ていた。トラックには一之助が当たった形跡はどこにもなかった。そして、少し向こうの方に空気の抜けたボールが転がっているのを見つけた。運ちゃんはそれに当たったと思ったみたいだった。確かにそれもぶつかったから、あんな風に凹んでしまったんだろうが…
「ありがとよ、お陰で助かったよ。君がいなきゃ俺は今頃犯罪者だ。」
そしてホッとした調子で俺に言った。
「俺は…何もしてないです。あれは一之助があの子を投げてよこしたから…」
「一之助?もう一人いたか?俺はあんちゃんしか見てねぇぜ。」
俺のその言葉に、運ちゃんは首をかしげた。運ちゃんは一之助の事を見ていなかった。それだけじゃない、助けた女の子の母親も、店から事故を目撃した竹林堂って和菓子屋のオヤジも誰も一之助を見ていないって言うのだ。いつの間にか俺一人が身を挺して女の子を助けたことになっている。
そして、一之助の存在を力説しようにも、一之助が追突したと思われる形跡も、そもそも一之助そのものが煙の様にかき消えてしまったのだから。

もしかしたら、一之助はあっちの時代で既に死んでいたのかもしれない、俺はそう思った。落ちのびる最中追手に見つかって、姫様もろとも殺された。それが無念で無念で、この時代の同じ年恰好の同じ名前の女の子の危機を救いに来た、そんな所なんじゃないだろうか。でも、そんなの悲しすぎるじゃないか…
「ふはは…ははは…」
いつしか俺は、何か何処にも感情の持って行き場をなくして笑いながら涙を流していた。
「もしかしたら、ホントはどっか打ってないか?」
それを見た運ちゃんの顔が、また青くなった。

「大丈夫です。どこも怪我なんかしてません。」
俺は何度もそう言ったけど、泣いてしまったこともあって、念のためと俺は女の子と一緒に救急車に乗せられて病院で検査を受けた。けど、スライディングキャッチの時の擦り傷以外、何もあるはずはなかった。
一応、その傷にばんそうこうを貼ってもらってそれでおしまい。
その間、何度も女の子の母親にお礼を言われるのがウザかった。

そうこうしている間に、母さんが事故だと聞いて血相を変えてやってきた。心配されるのは嫌だけど、連れてこられた病院は歩いて帰れる距離じゃなかったし、直接帰れるバスもなかったから、とにかく助かったなと思った。
「そう言えば昨日の本山君、どうしたの。」 
帰りの車の中で母さんに一之助の事を聞かれた。
「ああ…一之助…あいつ帰ったよ。家族の人が迎えに来てさ、一旦故郷に帰るって。」
「あら、そうなの?あの子結構おもしろかったのに。まぁでも本気ならこんな場末じゃなくって、今頃東京にでもいるだろうからそれで良かったんじゃない。」
母さんは俺の口から出まかせの台詞にそう笑って答えた。
そうさ、あいつは本物の姫様のとこへ逝った。上手く逃げ切れれば、家族として暮らせただろう姫様の処へ。俺がくしゃっと顔をゆがめると、
「圭治、あんたやっぱりどこか痛いんじゃない?」
と母さんまで心配した。
「どこも痛くない。」
俺は、それに憮然としてそう答えた。本当は一か所だけ‐心がズキズキとと疼くのを感じていたけど…

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

どっかーん!!-HANABI13

朝、俺はいつもより早く起きると、新聞を隅々まで(特に三面記事を)読んで、テレビのニュース(ケーブルテレビのももちろん)見たが、お姫様らしき女の子が保護されたという情報はどこにもなかった。
「お姫ちゃんはやっぱこっちに来てないんじゃない?三つ四つのガキ…いや、お子ちゃまがさ、新聞にもテレビにも載らないなんてことあり得ねぇよ。」
俺は、父さんと母さんを仕事に送り出した後、早速息巻いて姫様を探すとギャーギャー言う一之助に言った。俺の発言に一之助は黙ってものすごい顔で睨んだ
「睨むなよ、もうちっとしたらメグから連絡も入ってくっから、そしたら出かけようぜ。」
それをなだめるつもりで俺は言ったんだが、その言葉に一之助がキレた。
「では何故、拙者はこの時代に紛れ込んできたと言うのか!その方らの戯言に付き合うためか?!」
俺も、いい加減どうして良いのか解んなくて、一之助の言い分を素直に聞けなくなっていた。
「戯言?!何だよその言い方!お前がタイムスリップしたのは俺のせいじゃねぇだろうが! こっちだって宿題しなきゃなんねぇのも横に置いといてお前と一緒に行動してんだぞ!!」
「では、もう頼まぬ。拙者一人で探す故、色々と世話になったな。」
そう言うと一之助はつかつかと外に歩き出して行った。
「おい、待てよ。」
俺が追いかけようとすると、携帯がなった。メグからだ。
『あ、圭治、待ち合わせ何処にする?』
「今、一之助が勝手に出ちまってよ。ちょっと一之助、待てってんだよ!!ゴメン、後で連絡するから。」
俺は一方的にそれだけをメグに言った後、携帯を切って一之助を追いかけた。

「待てったら!!」
一之助は俺の声に返事もせずにどんどん歩いて行く。
「言い過ぎた、あやまるから。けどよ、無闇に探したって見つかるってもんでもないだろ。」
続けてそう言った俺の言葉に、振り向いた一之助は泣いていた。
「しかし、探さねば絶対に見つからん!姫様は今頃見知ら世界で泣いてるやも知れぬのだぞ。拙者一人がぬくぬくと他人の世話になっている間も!!」
あの時代の男が人目を憚らず泣くってことは相当な事だって俺にも解った。でも、解ったってどうすることもできない事だってある。俺はぐっと唇を噛みしめて俯いた。
ああ、どうしたら良いんだよ、まったく…
でも、‐俺が一之助から目を離した‐その時だった…
「姫様!姫様!!」
突然一之助がそう叫んで走り出した。見つかった?!一之助が走って行く方向を見ると、三~四歳の女の子がボールを追いかけて今まさに、大通りに出てしまう所だった。しかも、向こうの方に大型トラックがいる!!
「危ない!!」
一之助は間一髪で女の子にたどり着き、抱き上げると、
「圭治、姫様を頼む!」
と、後から追ってきた俺めがけてその女の子を投げてよこした。俺は慌てて何とかその子を受け止めた。
そして…

ダメだ!トラックに轢かれちまう!!俺がそう思った瞬間、一之助の姿は光が弾けるように消えてしまったのだ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI12

食事の間中一之助はずっと聞き役に回って笑っていた。案外言ってることが解んなかっただけなのかもしんないけど、下手なことを言われるより俺には精神的に良かった。そしたら、
「この人お笑い芸人なんでしょ?どうしてこんなに無口なの?」
って雅美が余計なこと言いやがる。けど、
「お笑いってのはな、人間観察が大切なんだぞ。普段からの観察が芸につながるんだ、自分が話してばかりじゃ観察できんだろ。」
って、父さんがフォローしてくれたのにはマジビックリした。
「腕のある芸人の方が、オフでは根暗なんだよ。」
って、俺がそれに畳みかける。
「じゃぁ、お兄ちゃんには無理だね。」
と雅美は言った。どーいう意味だよっ!俺、芸人になる気なんてハナからねぇし。…


食事が終って、昼も入ったからいらないと言い張る一之助を無理やり一緒に風呂に入れた。そいで一之助が、
「一日に2度も湯あみするなどと、殿でもやらん贅沢なことを、拙者にはできん!」
って言った時には、家族全員ウケた。一之助は大マジなんだけど、ネタにしか見えなかった。言った時には苦し紛れだったけど、このまま帰れなくても、お前仕事できるぞ。
「助かったよ、黙って食ってくれたお陰でばれなかった。」
俺の部屋に戻った後、俺はそう言って一之助を労った。
「当たり前じゃ、昼は甘味じゃからまだしも、拙者食事中に口を聞くような下品なことは出来ぬ。」
あ、黙ってたってそう言うことだったの。ま、何にしても結果オーライ。
「しかし、それも楽しいもんじゃな。姫様もここに居れば、さぞ喜ばれたろうて…」
でも、お姫ちゃんがいたら、お前そもそもここに居ないだろーが。でも、俺もお姫ちゃんも入れて飯食ってみたいとホントに思った。
「ああ、だから、絶対見つけような。じゃぁ、消すぞ。」
そう言うと俺は電気を消して、自分のベッドに横になった。一之助には下の床に布団が敷いてあった。一之助はそこに膝を抱えて坐ったままでいる。
「明日も、探さなきゃならないんだろ。寝ろよ。」
「圭治は気にするな。戦で陣を張っている時は大抵この姿勢じゃ。慣れておる。」
「ここは合戦場じゃないじゃん。」
一之助にそう言われて、俺はくすっと笑ってそう答えた。棗球にぼんやりと見える一之助の瞳はこの部屋を映していない。そうか…今の一之助にとっては、この平和な現代だって城じゃなきゃ戦場なのかもしれないと思った。お姫様を見つけないことには、終わらない戦…
けど俺、今日はいろんなことがありすぎてへとへとだから。気にしない訳じゃねぇけど、寝るわ…おやすみ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

膝を抱える夜-HNANBI11

膝を抱える夜


メグと別れた後、家までの間に俺は改めて一之助にくぎを刺した。
「とにかく俺が全部説明すっから、頼むからあんたは黙っててくれよな。でないと、一人表に放りだすことになるからさ。」
それに対して一之助は黙っていた。放りだすなら放りだせば良い、そんな顔をしていた。
「なぁ、怒んなよ。無闇に探したって良いことないって。」
「それは、拙者も解っておる。ここに来てから見るもの聞くもの知らぬものばかりじゃ。迂闊に動かん方が良いこと位は心得ておる。」
だから、その口調が既に怒ってるだろーが。

家に着いた俺は、まず一之助を母さんに紹介した。
「えっとさ、こいつバイト仲間で本山一之助ってんだけど、大家さんと大喧嘩してさぁ、アパートおん出されたんだ。2~3日で良いから泊めてやって?いいかな。」
「本山君?聞いたことないわね。」
母さんは、今まで聞き覚えのない名前に首をかしげながら一之助に挨拶をした。
「拙者、本山一之助でござる。圭治、此方は北の方であられるか、お世話になり申す。」
おいっ、言ってる傍から侍言葉使うなよ、バカ!でも、一之助の立場なら俺の母親にシカトこくわけにもいかないか。黙って頭下げててくれるだけでいいのによぉ。めんどくせぇ。
「あら、面白い子ね。でも、私北の方じゃないわよ。出身は山口。」
だけど、まさか一之助がマジ侍だと思っていない母さんは、それをギャグだと取ったらしい。ちょっと苦しいけど、それ頂きだ。
「母さん、ボケかましてんじゃねぇよ、北の方って昔の言葉で奥さんって言う意味だろ。こいつお笑い芸人目指してんだよ。侍ネタ(うー、どっかで見たような気もするけど気にしない、気にしない)で売ろうと思ってんだってよ。」
俺は、一之助を芸人志望だと言うことにした。
「解ってるわよ、それくらい。ま、あんたの部屋でって言うなら、2~3日なら良いわよ。夢に向かって頑張ってるなんて良いことじゃない。」
母さんからあっさりOKをもらって、俺はとりあえずホッとした。その時、2階の部屋からウルサイ奴のこえがした。
「ねぇ~お母さーん、私のジャージ知んない?」
俺の背中からどっと汗が噴き出した。
「あら、ちゃんと引きだしに入れてあるはずよ。」
「一着足んないの。」
「鞄に入れっぱなしになってるんじゃないの。探してみなさい。」
俺はそんなやり取りをひやひやしながら聞きながら、風呂場の横の洗濯機にそっと近づき、やおらその中に今話題に上っている雅美のジャージを放り込んだ。
「これの事ではないのか?言わんでも良いのか?」
と呑気に言う一之助に口に手を当てて黙る様に合図して睨んだ。一之助はちょっとびっくりした後、首を縦に振って黙った。
明日たぶん、母さんが雅美に洗濯機に入っていたと言うだろう。あいつが俺に何か文句言って来るかもしんないけど、シカトして乗り切る…しかないだろ。ばれたら、
「何それ、乙女のジャージを男に着せるなんてマジあり得ない!」
とかギャーギャーと騒ぎまくられるのがオチなんだから。そんなもんは絶対聞きたくねぇ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI10

それでも気を取り直して、俺たちはあみ姫ちゃん(3~4歳って聞くと、なんか姫様って感じがしなくって)の特徴を聞いた。
「じゃぁ、身分を隠すためにあの頃の普通の子供みたいに、おかっぱ頭で丈の短い着物を着てるのね。」
「そうじゃ。赤い格子柄の着物を召されておる。」
メグの質問に一之助は頷いてそう答えた。
「今時そんな着物着てる子なんていないし、そんな小さい子がそんな恰好してたら目立つわよ。もう保護されてるかも。」
保護、警察か!それ考えてなかった。そうだよな、そんな変わった恰好のチビがひとりで歩いてたら保護されないはずはない。
「交番に行ってみるか。」
「うん、行こう!」
それで、俺たちは近くの交番に向かった。交番には若い警官が暇そうに座っていた。
「あのぉ、丈の短い赤い着物をきた3~4歳の女の子の迷子の届出ってないですか。」
別に悪いことしてる訳じゃないんだけど、俺は恐る恐るそう聞いた。
「迷子?君の妹かな。本署に問い合わせてみるから、その子の住所と名前は?」
俺がそう聞くと、警官は筆記用具を持ってそう尋ねた。ヤバっ、住所!!もちろん戦国時代にも住所くらいあるんだろうけど、その住所が今の何処なのかもかも解んないし、戦国時代そのままの地名なんて交番で使える訳ないじゃん。
「あ、いたいた…あみちゃんこっちよ!」
その時、メグがそう言って走り出した。慌てて、俺と一之助が後に続く。だけど、少し離れた角を曲がって、メグの足がピタッと止まった。
「姫様、姫様はどこじゃ!」
「ゴメン、ウソ。」
姫様を探してきょろきょろする一之助にメグは頭を下げた。
「謀ったのか?!何故じゃ、あの御仁に探すのを手伝ってもらうのではないのか!!」
でも、それがウソだと言われて一之助は激怒した。
「ゴメン、あの場合、ああ言うしかなかったの。普通迷子だったら警察に探してもらうのが一番いいんだけど、それには何処に住んでいるのかわからないとダメなのよ。あの頃の住所と今の住所は全然変わってるし、戦国時代から来たって正直に話しても解ってもらえないのよ。」
「その方たちは信じてくれたではないか!」
「普通は信じてもらえない。警察では却って怪しまれるよ。マズったよ、なんで住所にもっと早く気付かなかったかな。」
「地味に聞き込みするしかないわね。」
一之助は、イライラと足を踏みならしていた。俺たちはそれに何の言葉もかけてやることが出来ずに、しばらく誰も口を開かなかった。

しばらくして、のろのろと動きだした俺たちは、地味に聞き込みをしてはみたけど、やっぱりそれらしい女の子はいなくて、やがて長い夏の日もとっぷり暮れてしまって、田舎の住宅街には人っ子一人出ていない状態になった。
「今日はここまでかな。」
「そうね、誰も出ていないんじゃ、聞きようもないわ。」
俺の言葉に、物言いたげな一之助の顔を見ながらメグが念押しする。
「一之助、帰るぞ。」
「帰るとは、何処へじゃ。」
「決まってんじゃん、俺んちだよ。今日は何とか理由こじつけてウチで寝られるようにしてやっからさ。」
「かたじけない。」
一之助は口では礼を言っていたが、その本心はまだまだ姫様を探したいというのがありありとわかった。だからと言って、むやみに不眠不休で探したって見つかるってもんじゃない。そんな目立つ格好で歩いていたら、地元のケーブルテレビで迷子放送をしてくれるかもしれないし。そんな事をいちいちと一之助に解かる様に説明するには俺は疲れ過ぎていた。
俺はメグと赤外線でメアドを交換すると、メグに手を振ってすたすたと自宅に向かって歩き始めた。
「伊倉殿、今日はいろいろと世話になった。礼を申す。では、御免。」
一之助はそう言って俺の後に続いた。

姫様探し-HANABI9

姫様探し


家の近くに戻った俺たちはようやく姫様さがしを始めた。
「お姫様ってどんな方なの?」
そう言えば俺、肝心の姫様の事、何にも聞いてなかったっけ。
「我が殿、外部忠隆様がご息女あみ姫様は、ほんにかわいらしいお方じゃ。」
一之助はやっぱり自分の殿様の事を言う時はなぜか胸を張る。でもなんで、綺麗じゃなくて可愛いなんだ?
「ねぇ、お姫様っていくつ?」
メグも同じことを思ったのかもしれない、一之助にそう尋ねた。
「御年5歳になられる。」
「5歳?!」「え~っ、5歳なの??」
俺たちは同時にそう叫んだ。男一人が姫様を連れだしたって言うから、てっきり中学生か悪くしても小学生くらいの年恰好だと思っていたんだけど、5歳だとはねぇ…
「圭治、がっかりしたんじゃない?若いお姉さんじゃなくて。」
メグがすかさず茶化す。
「充分若いお姉さんじゃん、思った以上に。」
「思った以上にねっ。」
うるさいぞ、お前…そう言おうとしたら、メグは何かを思いついたような顔をして、
「けどそれって、数え年よね。」
と言った。
「それがどうしたってんだよ。」
大体数え年って何だよ。
「あら、知らないの?今はあまり言わなくなったけど、誕生日で年を取る満年齢のほかに、正月ごとに歳を数える数え年っていうのがあるっていうの。本山さんの時代ならまず数え年でしょ。」
「だから、歳を越すと言うのではないのか。大体、拙者たちより下々の者は正確な誕生の日時すら知らぬ者も多いのではないかな。本人が覚えている道理もないものだからな、親御が覚えておらねば、分からぬな。」
ホント、こいつってば無駄に変なことよく知ってるよなと思っていると、一之助がそう補足した。それにしても、誕生日を知らないってマジかよ。
「だから、何。」
「それだと、お姫様はわたし達が考えてるよりまだ1歳から1歳半年齢が小さくなっちゃうのよ。つまりお姫様は3歳半から4歳ってことになるのよ。」
へっ、3~4歳?!それって、子供ってより赤ん坊じゃん!それに、一之助の年齢も一歳若いとすると…
「ええ~っ、俺たちってタメなのか?!」
思わず俺はそう叫んでいた。
「何じゃタメとは。」
「あ、同い年、同い年ってことだよ。」
「驚くことはないではないか、先ほど拙者十八と申しただろうが。一つくらい若返った位で大袈裟じゃの。」
俺の驚く声に、一之助がそう言って笑った。十八と十七とどれだけ違うんだって話かも知んないけど、元々三十路くらいだと思ってたおっさんが、実は同い年だったって言うのは、衝撃以外の何もんだってぇの。
「ウソ、マジで同い年?!」
メグが小声でそう耳打ちしたので、俺は肯いた。メグの顔が引きつっている。そうだよな、俺と同い年って言うことは、メグとも同い年
になるんだから。

HANABI8

狭いプリクラのブースに3人で入る。
「さてっと、ここにお金を入れてっと…」
そう言いながらメグがお金を入れようとした時、
「金か、それならば拙者が払おう。」
一之助はいきなりそう言いだした。
「良いわよ、私が誘ったんだから、ここは私が払うよ。」
メグは笑顔でそう返した。だけど、それに対して一之助は真顔で、
「いいや、拙者に払わせてくれ。この本山一之助、女子に金を払わせたとあっては男の名折れじゃ。」
「男の名折れって、大袈裟~!」
そうやって、メグと二人どっちがプリクラの料金払うか揉めだした。全く…喫茶店での中年のおばさんじゃあるまいし。時間かかってしょうがないじゃん。俺は息を吸い込むと、
「ちょっと待ったぁ!ここは俺が払う。メグは俺が誘った。俺は男だ。何か文句あるか!」
と言った。
「ござらん。」
「な、ない。」
と二人がほぼ同時に答えた。
「よし、決定!!」
俺は料金を投入口にぶっこんでため息を漏らした。

「一之助、光るけど爆発しねぇからな。」
「先ほどのと同じような箱じゃな。拙者も同じ様なものにいちいち驚いたりせんわ。」
それで、撮る段になって俺が一之助にそう言うと、一之助はそんな風に余裕こいていた。だけど、いざフラッシュがたかれた時、
「か、雷!!」
と予想通り素っ頓狂な声を上げた。俺とメグは大爆笑。
「だから、光るって言ったろ。」
それに対して一之助は、なんか意味のわからない文句をぶつぶつつぶやいていた。
『コノ写真でヨロシイデスカ。』
機械がモニターを映し出す。
「やっぱ、逃げてるよ。」
一之助は何とも言えない怯えた表情になっていた。それを見た一之助は怒るかと思ったら、
「そっくりの絵が!こんな短い間に誰が書いたんじゃ。」
とビックリして目を瞠っている。この写真で決定すんのはちょっとかわいそうかも。そう思って、俺はリセットボタンを押した。
「圭治、何故消した。」
慌てる一之助に、
「コレ、3回までなら撮り直しが出来るんだよ。」
「撮り直しとな?」
「だから、もっかい光るぞ。」
そう言った途端、フラッシュがまた光った。今度は一之助完全に俺の方を向いている状態。
「あ、こりゃダメだ。」
俺は再びリセットボタンに手をかける。
「圭治、ちょっと待て。拙者後ろに回ろう。」
一之助はそう言うと、すばやく俺たちの背後に回り込み、フラッシュがたかれる刹那、やにわに俺とメグの首を掴んで、俺たちの頬と頬をくっつけさせた。
「きゃぁ、何すんのよ!」
「一之助、何しやんだよ!」
俺たちが同時に叫んだ。
「記念なのだろう?では男女は寄り添うが良かろう。」
「だからってどうして私が圭治と…。」
それは俺の台詞だ!とは言え、もうリセットは出来ない。
頬をピッタリくっつけて驚いて真っ赤になってる俺たちと、その後ろでしたり顔で笑う一之助のプリクラが、40秒後取り出し口から現れた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI7

クーラーが聞いたスーパーを出ると、一気に暑さが押し寄せて来た。
「あっちー!とは言うもんの、どこから探したらいいんだ?」
「とりあえず、圭治の家に戻ってみる?」
「うーん、それしかないかな。」
それで、俺たちはバス停に向かって歩き出した。行きにも通った道なので、一之助が先頭を切って歩いていた。その一之助の足が止まった。
「見事な花じゃ、まるで花嫁の様じゃ。」
よく見ると、道の奥の家の庭に白い花をいっぱいに咲かせている木があった。
「ああ、槿の木ね。槿っていう由来も白無垢着ている花嫁さんって意味だもんね。」
するとメグがそう言った。こいつなんでそんな事知ってるんだろう。そう思いながら俺は先を行こうとしたんだが、一之助の足が動かない。名残惜しそうにずっとその木を見ている。
「どうした?行くぞ。」
「お、おう…」
俺が急かすと、一之助はやっと歩き出した。
「ねぇ、あの木になんか思い出でもあるの?」
「いや、初めて見た。だが、ちと思い出したことがあってな…拙者、秋には祝言を上げる予定じゃった。嫁になるはずじゃった女の事をな…」
そう言った一之助の目は遠かった。
「へぇ、結婚すんのか、おめでと。」
俺は考えもなしにお祝いの言葉を吐いた。そしたら、メグに思いっきり腕をつねられた。
「痛ってぇなぁ。」
「バカね、お姫様を逃がさなきゃならない状況なのよ、考えなさいよ!」
あ、それってお姫様を逃がすのが精一杯だったってことだよな。じゃぁ、奥さんになるはずだった人ってもう…
「ゴメン。」
「気を遣わんでくれ。時は戦乱の世、何が起こっても致し方ござらん。」
俺が謝ったら、一之助は無表情でそう言っただけだった。

ズーンと重い気持ちになって、俺たちがまた歩き始めた時、今度はいきなりメグが言った。
「そうだ!プリクラ撮ろう!」
「プリクラ?何で。」
「こんなことなんかもう、2度とないじゃん。だから、記念撮影よ!」
ま、戦国時代の奴とのスリーショットなんて、絶対あり得ねぇけど。今、一之助の格好ってもろ現代人だぜ?!後で誰かに見せたって、信じてもらえないもん撮ってどうすんだ。そう思ってメグを見た。こころなしかメグの目が少し潤んでる。そうか、メグなりに盛り上げようってんだろうな。
「ま、2度とないってか、2度とゴメンだな。」
「そうと決まれば早速戻ろう、スーパー!」
「な、何じゃ戻るのか?忘れ物でもしたのか?」
メグは全く理解していない一之助の背中を押して、今来た道を戻り始めた。

夏の花-HANABI7

夏の花


ねぇ、何か食べない?あたし、お腹空いちゃった。」
買い物を終えた後、メグがそう言った。そういやぁ、もう1時過ぎてる。それで、俺たちはそのスーパーのフードコートに向かった。
「じゃぁ、ソバでも食べる?」
俺は、一之助のカルチャーショックを少しでも避けるつもりでそう言ったが、メグはそれに露骨に嫌な顔をした。
「私、蕎麦屋さんはイヤよ。それならラーメンの方が良いわ。」
「このくそ暑いのに、ラーメンなんか食いたくねぇよ。俺は、ざるそばとかが良いなぁ。」
そりゃ、同じ麺類だけどさ、なんでこのくそ暑いときにそんなもん食わなきゃなんねぇんだよ。それならまだ、ハンバーガーの方がマシだぞ。
「圭治、やっぱり覚えてないんだ、私の事。」
そしたらメグはちょっと悲しそうな顔をしながらそう言った。
「何を?」
「私、蕎麦アレルギー。私を殺す気?」
そっか、そう言やそうだっけ。学校の給食には出ないからそれまでは知らなかったけど、修学旅行の時の蕎麦饅頭事件…試食に置いてあったのを、パッケージ見ずに他の奴がメグに渡した。口に入れる寸前に、買おうとした奴がパッケージ持って「蕎麦饅頭」って文字を声出して読んだから良かったけど。もし食ってたら…良くて入院、もしかしたら死んでたっていう、あの一件…
「…ゴメン、忘れてた。」
「いいよ、フードコートなんだし、みんなバラバラな物食べれば。」
「そう言やそうだな。」
俺はメグの言い分にそう言って頷いたけど、なんか後味が悪かった。それに、結局一之助がたくさんある見たこともない食べ物に興奮し、決められずにメグに右へ倣へしたために、みんなでドーナツを食ったし。
「やはり、甘味は良いな。」
ちょっと気まずくなって少し静かになった俺たちに代わって、一之助が一人はしゃいでドーナツを頬張っていた。

「ねぇ、圭治は何で本山さんと知り合ったの?」
そして、あらかたドーナツを食い終わった後、メグは俺が一番聞かれたくないことを聞いた。
「拙者気がついたらだな、圭治の家の庭に倒れておった。あれよあれよと言う間に服を剥がれ、髪を剃られてな、もう散々じゃ。」
で、俺がどう言おうかと迷ってる間に、一之助がそう言った。
「あ、あれはそうしないと外に出れないからで…!」
俺が慌てて思わずそう口を差し挟むと、メグはくすくす笑い出した。
「何それ、それじゃ圭治、服だけじゃなくて、本山さんの髪まで剃っちゃったの?まさかちょんまげでも結ってたとか言うんじゃないでしょうね。」
「そうじゃ、髷は武士の命とも言うべきものなんじゃぞ。それを簡単に剃りおって。」
メグがそう言うと、一之助はうんうんと肯きながら、俺を横目で見つつそう返す。それを見て、メグはちょっと引いた。そして、俺に近づくと耳元で
「本山さんって、侍口調だけど、マジなり切りなわけ?」
と聞いた。俺はちょっと迷ったけど、
「なりきりじゃねぇよ。こいつマジ侍。」
と答えた。たぶん、メグには隠し通せない。そう思ったからだ。そしたらメグは更に引いた。
「何よ、圭治まで。私をおちょくってんの?」
「おちょくってなんかねぇさ。一之助、アレ、メグにも見せてやってくんない?」
「あれとは何じゃ。」
「ほら、さっきのその…銀判だよ。」
俺がそう言うと、一之助はかばんの中からさっきの銀判を取りだした。メグの目が見開いて固まった。
「これを換金したのがさっきの大金の正体だよ。正真正銘の室町銀判だと。」
「う、ウソ…」
最後まで食べていたメグの残り少ないドーナツがポロリと床に転がった。

俺は、一之助が現れた状況とか、朝からの話を一気にメグに話した。
「でさ、そのお姫様って奴を見つけられたら、こいつ速攻で元の世界に戻れんじゃないかと思うんだ。」
「圭治、見かけによらず、なかなか良いとこあるじゃん。」
話を聞いたメグはそう言った。
「見かけに寄らずは余計だぞ。」
それに対して俺はそう返した。ま、でも本当のところ自分とこで切腹されちゃたまんねぇってのが本当の理由なんだけどな。
「じゃぁ、こんなとこでぐだぐだしてる場合じゃないじゃん。早く探しに行かなきゃ。」
すると、メグはいきなり立ち上がってそう言った。
「探しに行かなきゃって、お前も行く気か?!」
「伊倉殿も一緒に探してくださるのか。」
メグが姫様さがしに参加すると言うと、一之助の顔が一気に綻んだ。服のコーディネートの時と言い、やっぱりこいつ、メグに気があるよな…俺は一之助を睨んだが、あいつはスルーしやがった。
「圭治だってそのつもりで私を誘ったんでしょ?」
「は?!俺がお前を誘った?!」
で、続いてメグから出て来た言葉に俺は目眩がした。いつ俺が誘った!お前が勝手に付いてきただけじゃん。
「ま、良いではないか。仲良く探せばそれだけ早く見つかるやもしれぬ。」
それに対して、一之助はまたにやにや笑いながら、腕組みしてそう言った。大体、お前が姫様を見失わなきゃ良かったんだろーが!俺は、なんか納得できないままスーパーを後にした。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HELP-HANABI6

HELP


「お、メグおまえこんなとこで何やってんだ?」
「何やってるって買い物に決まってるでしょーが。」
「夏休みあと3日しかねぇぞ。」
「それは、圭治も一緒じゃん。しかも、スキンヘッドのおにーさんと一万円札振り回してるなんてどうよ。」
「うっさいなぁ。」
俺たちがそんなやり取りをしていると、一之助がいきなり会話に割り込んできた。
「その女子は圭治の知り合いか。拙者にも紹介してもらえるかな。」
そう言った一之助はちょっと口の端に笑いを湛えている。なんか良い感じはしなかったが、俺は二人に互いを紹介した。
「一之助、こいつは伊倉愛海、通称メグ。俺のガキの頃からの友達。メグ、こいつは本山一之助、えーっと…ちょっと訳ありで人探してるのを手伝ってる。」
だけど、いざ紹介するとなると、一之助をまさか戦国時代の武士とも言えず、俺は口ごもって、当たり障りのないことだけを言った。
「拙者、本山一之助と申す。」
「本山さんね…伊倉愛海です、よろしく。」
するとメグはぺこりと頭を下げてから一之助を上から下までざっと見た。で、
「圭治、何かホント訳ありそうね。」
と言った。
「だってそれ、雅美ちゃんのジャージでしょ?」
「ああ、俺のはデカ過ぎるからな。」
俺はそれに肯いた。ま、メグも同じ中学だったから、それは一発で判るよな。しかもご丁寧に、二の腕に高橋って刺繍入りとくれば…
「あんたこの人の服、ダメにでもしちゃったの?」
「ま、そんなとこ。じゃぁな。」
俺は手を振ると一之助を促して階段の方に歩いて行った。俺は早いとここの状況から抜け出したかった。長いことしゃべればそれだけぼろの出る確率が高くなる。
「ねぇ、私がコーディネートしてあげよっか。」
なのに、メグはいきなりそんな事を言いだした。
「良いよ、別に。俺だけで充分。」
俺は目いっぱい迷惑そうにそう答えたのに、
「コー?解らんが、伊倉殿も一緒に見立ててくれるか。拙者この時代の服はとんと判らぬ故、一人でも多い方が心強い。」
なんて、一之助が言うもんだから、俺は思わずものすごい顔で一之助を睨んだ。
「何よ、その顔。本山さんが良いって言ってくれるんだからあんたが怒ることないじゃん。」
その顔を見たメグはそう俺に返した。
「別に俺は怒っちゃねぇよ。じゃぁ、来いよ。」
俺はそう言うと、不機嫌な顔のまま階段を昇りはじめた。一之助も素直にそれに続く。
「ねぇ圭治、なんでエスカレーター使わないの?すぐそこなのに。」
すると、メグは階段の下でそう声を上げた。
「うっさいよお前、2階位階段で昇れよ。デブるぞ!」
「解ったわよ!昇ればいいんでしょ!!」
俺の言葉にメグは階段を駆け上がり、俺たちを追い越して2階フロアで口を尖らせて俺たちを待った。
「おっ、ちょっとは痩せたんじゃねぇ。」
そして、上がりきってそう言った俺に、あっかんべーをしている。ガキか、お前は…

一之助が最初、試着室にも入らずに着替えようとしたのは、ちょっと度肝を抜かれたけど(なんせあいつサイズの下着なんてなかったから、ジャージの下はスッパだったし、マジ慌てた)、後は上機嫌でメグの持ってくる服を飽きずに試着して、(その間にこっそりパンツ買って穿かせたし)見た目だけは現代人っぽく変身した。
「一之助、相手が女だと態度変わんのな。」
俺がそう言うと、一之助は、
「妬いておるのか。」
と返してきたので、
「そんなんじゃねぇよ。」
と睨んだ。それでも一之助はまだにやにや笑っている。感じ悪っ!メグに任して俺、フケようか…そう思った。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI5

住宅街を抜けて表通りへ。それまで興味津津って様子で歩いていた一之助がギョッとして立ち止った。
「何じゃあれは?牛もおらんのに牛車が動いておる…しかも、怖ろしい速さじゃ。」
そしてぼそっとそう言った。見ると4ナンバーのワゴン車が、速度制限を守って走っていた。俺から言わせると、どちらかと言えばちんたら走っている様に思うくらいの速度だった。でも、馬より早い?ま、どう考えても牛よりは早いだろうな。
「一之助、これからあれよりデカイのに乗るつもりだけど、覚悟は良い?」
「あれより大きなもの?!しかも乗るとな??」
一応この辺にも店はないこともないけど、服を買うにはここからバスで20分位行った隣町のスーパーに行った方が良い。俺はちらっと一之助を見た。
「一之助…怖いか?」
こいつ微妙に震えてやんの。俺がにやにや笑いながらそう聞くと、
「あ、いや…拙者何も怖くはござらん。全然怖くはござらんからな!圭治、早速その大きな牛車とやらに乗ろうではないか。拙者、た、楽しみじゃ。」
一之助はそううそぶいた。素直じゃねぇの!いや…ある意味素直か。俺たちはしばらくバス停でバスを待っていた。

やがて、やって来たバスに、一之助は思った通りのリアクションをした。必死に平静さを保っている様に見せかけているが、その様子はどう見ても『ムンクの叫び』。俺は、
「これに乗るぞ。」
と一言だけ言って、2人分のバス代を払ってバスに乗り込んだ。はぁ…往復バスに乗って、一之助の服買ったら、折角の夏休みのバイト代が…
一之助も続いてバスに乗り込むと、さっきの経験を踏まえて?一旦床にどっかりと胡坐をかいた。
「おいおい、ここはそのまま座んじゃねぇ!」
俺は慌てて、一之助の手を引っ張って、後部座席の長い部分に俺と一緒に座らせた。
「おお、これは先ほどの様には沈まんな。」
一之助は、乗り合いバスのチープなクッションにホッとした表情でそう言った。
「しかし、この牛車…」
うん?まだ何か言いたいことでもある?そう思いながら俺は一之助の次の言葉を待った。
「まるで、座敷牢の様じゃの。」
ざ、座敷牢?!俺たち護送されてるってか?俺が一之助を護送してるってか?
「じゃぁ、俺って悪代官か?もう姫様さがし手伝うの止めよっかなぁ。」
「いやいや、拙者はただ、この牛車の造りを言ったまでで…」
で、俺がそう言うと、一之助は姫様さがしを止められては困ると、慌ててそう言いなおした。ホントっ、かわいい奴。俺はそんな簡単に姫様さがしを止めたりしねぇよ。止めてまた、切腹騒ぎなんて起こされたくはないからな。

一之助はそれこそ3歳のガキみたいに窓の外の風景を眺めている。
やがて、目的のスーパーに着いた。一之助は地上3階建てのその建物に目を瞠った。
「この城みたいな所が、市だと申すか。」
城?ま、一之助の時代の高層建築と言えば、城ぐらいしかないのか…俺はそんな事を考えながら頷いた。
「とにかく行こうぜ。」
そしてスーパーの中に入ると、まっすぐ階段を目指した。エスカレーターもエレベータもあるにはあるが、紳士用品売り場は2階だし、動く部屋だの動く階段だのとまた一之助に騒がれかねない。
階段スペースのすぐ横には金券ショップがあった。新幹線のチケットや、色々な商品券の隣には、古銭の商品ディスプレーがあった。
「そうだ、買い物をするにはこの時代の金子でなければならんのだろう。姫様をお守りするためにと殿が下されたものだが、圭治に金の難儀をさせるのも心苦しい。全部でなければ両替も差し支えなかろう。」
そう言うと、一之助は俺が出がけに貸したバッグの中から財布の様なものを取り出し、なんとピカピカの小判を取り出し、店のカウンターに差し出した。
「済まぬがこれを両替してもらえんだろうか。」
その小判に俺もビックリしたが、もっとビックリしたのは、その店のオヤジさんだった。
「そ、それは銀判!!君、これを何処で?!」
銀判?小判じゃねぇの??銀で出来てるから、銀判?
「殿が下された大切なものじゃ。」
オヤジさんの言葉に、一之助は胸を張ってそう言った。一之助は殿様の話をするときはホントいつも偉そうにするよなぁ。でも、そんな胡散臭い説明なのに、オヤジさんは妙に興奮していた。
「す、すごい!今までにも古い銀判はいくつか見てきたが、こんなに状態の良いものは初めて見た。これは室町時代後期のものだよな。それで未使用なものが存在してたなんて!!」
オヤジさんは急遽手袋を填めると銀判を持ってプルプル震えながら見入っている。でも、俺はそれで、一之助が本当に戦国時代から来たんだと改めて実感して鳥肌が立った
「そ、そうだ…いくらで買おう?5万円?それじゃ安すぎるか…子供相手に足元を見ていると思って、譲ってはくれんかな。よーし、8万円出そう。それで、良いか。」
「元より譲るつもりじゃ、それで構わぬ。」
オヤジさんの言葉に一之助が即答して商談成立。オヤジさんはレジから一万円札を8枚出して一之助に渡した。俺は内心、こんなに簡単に金が手に入って良いのかって思わなくはなかったけど、とりあえずバイト代を減らさずに済んだのは正直ありがたかった。
一之助はオヤジさんに一礼すると俺の方に寄って来て、
「これが圭治たちの時代の金子か…よく見ると紙ではないか。紙などが銀の代わりになるのか、本当に。」
と心配そうに試す眇めつ眺めている。
「紙ってったって、そんじょそこらの紙じゃねぇから。洗濯機に入れたって破れねぇし…」
「何と、この紙の金子を洗うなどといううつけ者がおるのか?!」
俺はついうっかりと洗濯機と言ってしまったんだが、一之助は洗濯という理解可能なワードに食いついて、そう答えた。ま、着物にはポケットないからな。それに、いちいち手洗いだし。
「これだけあればこのような服は買えるのか?」
続いてそう言った一之助に、
「充分お釣りがくるぐらいだよ。」
と答えた。この金額ならブランド物のジャージにだって、お釣りがくるだろうよ。あ、何なら安いスーツでも買うか?背はちんまいけど、スタイルは悪くねぇから、結構様になりそうだ。

俺たちがそんな話をしていると、後ろで女の声がした。
「そこの不良少年たち、大金持って何にやにやしてんの?アブナイなぁ。」
振り向くとそこには…俺の幼馴染のメグ、伊倉愛海(いくらめぐみ)がいた。こいつ夏休みもあと3日だってのに、何でこんなとこに居るんだよ。

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genre : 小説・文学

こうなりゃ、やってやろうじゃん!-HANABI4

こうなりゃ、やってやろうじゃん!


「ま、とにかくこーいうアブナイもんは納めろや。姫様が絶対にこの時代に居ないって保証はないんだし…」
俺が苦し紛れにそう言うと、一之助はまた色めいた。まったく…単純な奴。
「姫様はやはりこの時代におるのか!」
「解んない。解んないけどよぉ、本山さんがここに居るってなんか理由とかありそうじゃない?そう言うのSFのお決まり事だし…そうそう、物事にはさ、何でもちゃんと理由がある…様な気がする。」
こんなんで丸めこめる訳ゃねぇよなぁと思いつつ、俺は畳みかけるようにそう言った。
「そうじゃな、何事にも理由がある…拙者がこの訳の解らぬ世界に来たのにも意味があると言うか。」
すると、一之助は考え込みながらそう返した。
「そうそう、そう言うこと。それに、俺もその姫様探しに付き合うよ。ま、乗り掛かった船って奴で。」
こうなりゃ、やってやろうじゃん!宿題は気にならないっちゃウソになるけど、こんなアブナイ奴を放っておけるほど、俺は非情にはなれなかった。
「かたじけない。拙者、高橋殿より他に今は頼るものはない故、よろしくお願い仕る。」
俺が姫様探しを手伝うと言うと、一之助はそう言って深々と頭を下げた。
「礼なんていいよ、それより高橋殿ってのは止めてくんない?圭治で良いよ。年上のあんたに、丁寧に言われるとなんか気色わりぃ。」
それに対して俺はそう言ったけど、よくよく考えてみると俺一之助の歳聞いてないんだっけ。それで俺はそれこそ軽い気持ちで、
「そもそも、あんた幾つ?」
と聞いたんだが、帰って来た一之助の答えに俺はひっくり返った。
「拙者か、拙者はこの春十八になったが?」
「じゅっ、じゅうはちぃ~!!」
「何をビックリしておる。」
一之助は俺が目を白黒させてるのを首を傾げて見ている。
「んな、バカな…俺よか一個上だけ?!」
「では、圭治殿は十七か。やはりな。でかいなりをしておるから拙者よりは年若いとは言え、そんなには離れておらんとは思っておったが。」
一之助はうんうんと頷きながらそう言った。
うわぁ、18かよぉ…ちょんまげ結ってるときにはマジ30以上に見えたぜ。ああ、でもかろうじて年上だ。俺は、一之助が俺に『一体幾つに見えたんだ』とツッコミを入れてくるんじゃないかとビビったが、そんなことはなかった。
「では、拙者の事も一之助と呼んでくれ。その方がお互い親しみも湧くだろう。」
一之助はそう言っただけだった。
「お、おう…じゃぁ、あんたも殿はなしだぞ。俺のが年下なんだからさ。」
俺はそれにつっかえながらそう返した。
「相解った。」
「そうと決まれば、出かけるぞ!」
「早速姫様を探していただけるか。」
「もちろん探すけどさ、ついでに服も買おうぜ。」
その服雅美のだし、も一つ言うとそのジャージ、学校の体操服なんだよな。早く返しとかねぇとあいつに殺される。
俺は一之助の荷物の一式を自分の部屋のクローゼットに放り込み、玄関で一之助にあう靴を探した。一之助が履いていたのは草鞋だったし、それももうかなりボロだったからだ。
俺は下駄箱の隅に小学生の頃のビーチサンダルを見つけた。これなら、草鞋に似てる。で、履かせると、ピッタリだった。

「さぁ、行くか。」
表に出た俺は、そう言って後ろにいた一之助をみた。臙脂のジャージを着た小柄なスキンヘッドの眼付の鋭い男。アンバランス極まりないその姿は、どっか滑稽だった。それに、よく見ると髷のあったとこは日に焼けてなくてまだら…俺はそれに気づいて吹き出してしまった。
「圭治ど…否、圭治、何か面白いものでもあるのか。」
「い、いや…何でもない…」
だけど、それを一之助に知られたら、あいつは俺の部屋に戻って槍を持ってきて突かれそうだ。俺は必死で笑いを堪えた。

HANABI3

風呂から上がった一之助に、俺は中学生の妹、雅美のジャージを着せた。176cmの俺のジャージは、160cmあるんだろうかっていう一之助にはがばがばだったからだ。臙脂色のジャージを着た一之助は、初めて見たときより随分若返った。初めて見た時は30歳位だと思ったけど、25歳…もう少し若いか。
俺が、リビングでソファーに座ると、一之助も真似してソファーに一旦は座ったが、沈み込むクッションに弾けるように飛び退き、結局フローリングに直接胡坐をかいて座った。
「俺がこれから話すことを、途中で茶々入れないで聞いてくれないかな。たぶん理解はできないだろうけど、(何せ俺もついていけてるとは正直言えない状態だし)事実として受け止めてくれ。」
「承知した。」
こうなったらどうにでもなれと言わんばかりに、一之助は無愛想に答えた。
「本山さんさぁ、あんたは今、自分の時代から430年未来の時代に居るんだわ。」
「430年未来とな?」
やっぱ解んないよなぁ、と思いつつ無視して俺は先を続けた。
「これを見てほしいんだけど。」
俺はパソコンのディスプレーを指さした。
「これで見ると、天正八年は西暦で言うと1580年になるんだ。そして、今居るのが2010年…あんたが間違いなく天正八年から来たって言うんなら、430年先の時代に居るってことになるって訳。」
「拙者は時を越えたと言うのか?!信じられぬ。大体、西暦と言うのは何じゃ。」
は?西暦の説明までしなきゃなんねぇの?!まるで日本史の勉強会だよ、これじゃぁ。俺はそう思いながらなけなしの歴史知識をフル稼働させた。
「西暦はまだ一般的じゃないのか。ヨーロッパ…いや、南蛮…あれも江戸時代からの言い方だっけ、ああ、ややこしっ!とにかく異国の暦で、確かイエス・キリストの生まれたのが元になってるとか聞いたけど。」
「イエス・キリスト…ああ、キリシタンの事か。では、高橋殿はキリシタンなのか。昨今キリシタンは雨後の筍の様に増えておる故。430年後ならさぞかしたくさんおるだろう。」
へぇ、そっか…あの頃キリスト教が日本に伝わったんだから。きっと、珍しいもん好きが飛びついたんだろうな。
「別に俺はクリスチャンなんかじゃねぇよ。じゃねぇけど、長い年月を計算するには便利だから、元号も使うけど西暦も使うんだよ。第一元号って年数一定じゃないじゃん。それに、明治以前の元号なんてそもそも知らなねぇぞ。」
ああ、めんどくせぇ。カタカナの言葉はまず間違いなく使えないし、西暦まで使えないって、どうよ…
「とにかく大事なのは、あんたが今、430年先の時代に居るってことさ。」
「何故だ!」
「解んねぇよそんなこと!でも、ここは2010年、それだけは間違いねぇ。」
「そうか…430年先の時代か…姫様は、どこにおられるのじゃろう。」
ここが430年先の時代だとようやく理解して、一之助は上を向いたままじっとしている。
「その姫様ってのさぁ、元の時代に居るんじゃない?」
「いい加減なことを言うな!」
俺は別に慰めるつもりでもなく、そう言ったら、一之助は間髪いれずに怒鳴った。
「いい加減じゃねぇよ。一緒にタイムスリップしたなら、バラバラのとこに行くなんて考えにくいからさ。」
「タイム…?それは何じゃ?」
しまった!こいつカタカナは一切通じなかったんだよな。解っているんだけど、普通に今まで使ってるから、つい出ちまう。
「時間の壁を越える事を言うんだよ。ずれるように時空に飲み込まれるんだとしたら、一緒のとこに行くだろ、フツー。」
「それはまことか?」
「ああ、たぶん…」
「それで…拙者は元の時代に戻れるのか?」
「解んねぇよ、そんなの。あんたがどうしてここに来たのかも解んないのに。」
「では、姫様はどうなるのじゃ。敵に囲まれても助けて差し上げることもできん。」
姫様ともはぐれた、それに元の時代に戻れないかもしれないと言うと、一之助はそう言ってわなわな震えた。そして、
「殿、この不肖本山一之助、殿の信頼を裏切り姫様をお守りすること叶いませなんだ。この失態は、詰め腹切ってお詫びを…」
と言って、自分の荷物から脇差を取りだした。おいおい、詰め腹切ってってそれ…切腹じゃねぇかよ!!
「それでは、高橋殿色々と世話になり申した。それでは、御免!」
「ちょっと、ちょっと待ったぁ!!!」
俺は、慌てて切腹しようとしている一之助から強引に脇差を奪い取った。
「何をする!生き恥さらしては、殿に申し訳が立たぬではないか!」
「ここは俺んちだぞ!こんなとこで死なれちゃ困るんだ!!」
「それでは拙者の…」
「だから、ここで死ぬなってぇの!!」
俺、もう限界だぁ~…

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

HANABI2

「そうじゃ、こうしてはおられん。姫様を探さねば。高橋殿、それではこれにて失礼仕る。」
俺が心の中でそう念じていると一之助はそう言い、横にあった大ぶりの槍(!)を手に取り、庭から玄関の方へ回って歩き出した。
しかし、一旦玄関の方まで行った一之助は、すぐさま庭の俺の方に戻って来た。
「本当にここはどこなんじゃ?拙者はどこに行けば姫様に会えるのじゃ。」
そして、おろおろと俺にそう聞いた。
「んなもん知らねーよ。おっ、そうだ本山さん、今年は何年?」
それは俺の方が聞きたいよ。こんな変な奴早く片付けて、宿題に戻んなきゃ。でも、なりきってても案外そういう時代設定とか甘かったりして…俺は侍にマジなりきりしてる一之助をちょっとからかってみるつもりでそう言った。
「今年か…天正八年だが?」
すると一之助は歴史の教科書で出て来た年号を即答した。ああ、そう来る?でも、天正八年って一体西暦で何年だ?ネットで調べてみっか。
「ちょっと、暑いし中入んない?」
だから、俺は一之助にそう言った。
「おお、ここは焙烙(ほうろく)で煎られているのような暑さじゃしな。しかし、家の中はもっと暑いのではないか?」
「焙烙って何?」
「焙烙は焙烙じゃ。豆など煎るであろう。」
「あ、フライパンのことね。」
「そのフラなんとか言うものはどういうものなんじゃ。」
「いいじゃん!とにかく、調べてやっから、中入ろうや。」
もう、いちいちうるせぇよ!俺は一之助を追いたてる様に家の中に放り込み、窓を閉めてクーラーのスイッチを入れ、ウチで唯一ネットにつながっているリビングのパソコンを立ち上げた。
「おお、この家の中は暑くないのぉ。しかし、ちと寒すぎるのではないか?」
一之助は部屋に入って陣笠を外し、クーラーの冷気がいちばん当たる所にいて、そんなことをぶつぶつ言っていたが、やがてパソコンのディスプレーを見てわなわなと震えだした。
「た、高橋殿!箱、箱が光っておる。ば、爆発するぞ!」
「爆発?!普通に起動したぐらいで、爆発なんかしねぇよ。」
俺は震えている一之助を尻目に余裕の笑みでそう言ってやった。
「真実か?」
「ウソなんて言わねぇって。」
俺はそう言いながらキーボードを叩いて、天正八年を検索した。そうか、1580年…と言うと、今から430年前か…

それにしても、ちょっとこいつ臭くねぇか。締め切ってクーラーなんぞかけたからよけいなのかもしんないけど。
「なぁ、本山さんよ、前に風呂入ったのっていつだ?」
「風呂か?城を出たのが十六夜の月だったから、久しく入っておらんの。」
十六夜の月ってのが一体何日なのか分かんないけど、かなり長いこと入ってないのだけは充分俺にも分かった。だめだこりゃ、まず、風呂に突っ込まなきゃ俺、長時間こいつと一緒にいる自信がない。俺は一之助を風呂場に引っ張っていき、シャワーを浴びせかけ、シャンプーを頭にぶっかけた。
「うわぁ、何をするいきなり。」
それに俺は答えず、シャンプーを振りかけた頭をごしごし擦る。ダメだ。ちょんまげって、油で固めてんだったな。泡立たねぇ~。それに崩してしまったちょんまげは既に修復不可能…それで、俺はこれが一之助自身の地毛だということを再確認する。もしかしたら、こいつホントにホントなのかもな。
「ええい、ままよ!」
俺は父さんの一発深剃り四枚刃の剃刀を手に取ると、
「あとで、俺で解る状況は全部説明してやっから、とにかく今は俺の言う通りにしてくれっ!!」
そう言いながら一之助の髪を一気にそり落とした。
「動くなよ、動くと頭切れっぞ!!」
「姫様を見失った拙者に、出家しろと言うのか!」
見ると一之助は半泣きになっていた。ちょっとかわいいとこ、あんじゃん。
「そんなんじゃねぇよ。俺の頭見ろよ。今時そんな頭してる奴なんていねぇんだよ。人探しするんだろ?それなら目立つとやりにくいんじゃないのか。」
俺がそう言うと、一之助は黙って俺を睨んだ。俺がやったんだが、スキンヘッドの奴に睨まれると、半端なくコワイ。
俺だって、泣きそうだよ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

ある日空から降ってきたのは??-HANABI1

ある日空から降ってきものは??


「あちぃ~、集中できねぇ~!!後3日だよぉ…やっべ~!!」
俺はそう叫びながら必死に答えを埋めていた。書いているのは高校の夏休みの宿題、数学のワーク。答えが配られてるのに、一から解くなんて面倒なことはもうしてらんない。とにかく埋めることに集中して、丸写しだけど、丸写しに見えないように答えを書く。ま、ワークの口調を教科書の口調に直す程度だけどな。

俺はふと外を見た。その時、上から何やら大きな黒い塊が降って来た。

‐ドサッ‐
それは鈍い音を立てて、庭に落ちたようだった。隕石??でも、かなり大きかったぞ!俺は2階の自分の部屋からそんなに広くもない庭を覗き込んでビックリした。庭の中で全身黒ずくめの男が倒れていたのだ。さっきの物体が通りすがりの人を直撃したか?!だけど、それだと俺んちの中で倒れはしないはずだから、もしかしてこいつが空から降って来た?!何か解んないまま庭に下りてそいつを間近で見た。上からだとどんな服だったか分かんなかったが、そいつはこのくそ暑いのに鎧装束に陣笠っていう、なんかすっごく時代錯誤な恰好をしていた。テレビのロケ?田舎町だからって町興しに時代祭りでも企画した?どっちも話題にゃ登っちゃなかったけど…
そんな事を思いながら、俺はそいつを揺すぶり起こした。
「大丈夫か?おっさん。おいってば!」
うへっ、こいつすごい汗じゃん。そりゃ、こんな恰好じゃ熱中症にもなるよなぁ。そう思って俺はとりあえず被ってる陣笠の紐に手をかけた時だった。
「おのれ、何奴!」
そいつはいきなり目を覚ますと機敏に立ち上がり、そう言うといきなり俺の腕を掴んでひねり上げた。
「痛ってぇ!何しやんだよ!!」
「いきなり寝首を欠くとは卑怯なり!」
「は?!寝首を欠くって…ぶっ倒れてたのを助けようとしたんだぜこっちは!」
「拙者を助けた…?そうじゃ、ここはどこじゃ。姫様はどこにおられる!」
俺が怒鳴ると、そいつは俺から手を離してそこいらをきょろきょろ見回した。それにしても、この格好の上に姫様かよぉ…。
「本当に姫様はどこなんじゃ。城は…森は…」
辺りを見回した後、そう言うと男はへなへなと涙目で座りこんでしまった。
「な、おっさん、これってテレビのロケ?ドッキリか何か?一般人向けのもあるから、それ?なら早く、ネタばらしにしようぜ。」
俺はそんな状態の男にそう声をかけた。それが俺がこの状況で一番納得できる回答だったからだ。
「さっきから聞いておると、その方の言い様、とんと解らぬ。」
「何が?」
「第一、テレビノロケとは何じゃ?おお、それがここの在の名なのか。随分と妙な名前だのぅ。」
ツッコむトコ、そこかよ!俺は何かイヤな予感がした。
「テレビはテレビ、ロケはロケじゃん。おっさん、ぶっ倒れた時に、どっか打ってない?」
「どこも打ってはおらんわ!しかしその方、先程来から拙者のことをおっさん呼ばわりしておるが、それは失礼なのではないか?拙者よりは年若いようだが、拙者、頑是ない子供でもないその方の様な年齢の者にそういう呼ばれ方をするのは心外じゃぞ。」
で、恐る恐る俺がそう聞くと、そいつは案の定予想通りの…いや予想以上かも知んない…のリアクションで答えた。やっぱこいつどっか打ってんじゃん!侍にマジなりきりしてる。ただ、そう言われてみると、意外に若い気もするし、おっさんはちと言い過ぎたかもしんない。
「でもよ、名前知んないんだから、他にしゃーねーじゃん。」
「おお、自己紹介がまだであったな。拙者の姓は本山、名は一之助。諏臣の国、外部忠隆様が家臣でござる。」
俺が名前を聞くと、妙に自慢げに男‐本山一之助は答えた。諏臣の国なんて知らねぇし、それにしてもまどろっこしい言い方しやがるよなぁ。
「よーするに、本山一之助さんってことね。」
「そうじゃ。だが、拙者が名乗ったのだ、その方も名乗るのが礼儀であろう。」
俺が一之助の名前を確認すると、一之助は頷くと憮然としてそう返した。
「俺?俺の名前は高橋圭治。でも、どうでもいいけどその時代がかったしゃべり方何とかならねぇの。しゃべりにくいったら…」
「変なのは高橋殿の方ではないか。何やら怪しいことばかり聞く。」
俺の言葉に、一之助は一点の曇りもない目でそう言い切った。でも、怪しいのはお前!断じて俺じゃねぇ!!俺は自分ちの2階の自分の部屋で宿題してただけだよ。
だ、誰かぁ…た、助けてくれ!!

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

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引き、健在?!

「遠い旋律」でも執筆後「大当たり!」と叫ぶくらいぴったりのテーマソングが見つかった(柴田淳:君が思えば…)んですが、今回「再び桜花笑う季」でも途中でぴったりの曲を見つけました。

デジタルウォークマンのランダムプレイを使いこなしていなかったたすく、あるとき何気なくいままで押したことのないボタンを押したら、それがランダムプレイだとわかりました。その夕方のお勧めでかかった曲。ということは、自分が入れた曲なんですよね。でも、その数既に698曲。娘のお気に入りをなんとなぁ~く入れちゃったというのもあり、全部は把握してなかったりするんです。

曲は、「三枝夕夏INdb:ジューンブライド~あなたしか見えない~」名探偵コナンの2008年のエンディングテーマです。一番は芳治の気持ちを、2番はさくらの気持ちを表しているようで、それぞれの想いが一つとなって結ばれていく感じがして、テーマソングに採用です。

ちゃっかりワンシーンでてきましたし…あいつの引きまだ健在のようです。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

傷は癒えるんです

「再び桜花笑う季(とき)」校了いたしました。
「遠い旋律」をお読みの方は、どうなるのかも全部解かった上でのベタな物語でしたが、いかがでしたでしょうか。大体、「遠い旋律」が「水戸〇門」というくらいベタな作品でしたけど。

今回FC2小説での自主企画「青木賞」に参加したこの作品のコンセプトは「せかいのはじまり」一から始めるためには今までの世界が全て崩壊したところから始まる。という訳で、白羽の矢が立ったのが、松野芳治だったという訳です。

実は、さくらの方も同じようにノエから松野さんプッシュ発言を受けてます。それで、さくらはノエとケンカしちゃったりして…「遠い旋律」のラスト数行で、さくらがノエに電話するシーン、『久しぶり…』って言ってますよね。あれ、そのことでケンカしてしばらく電話してなかったんですよねぇ。ノエは結婚して、息子の隆誠くんが生まれて…あいう性格ですから、芳治が自分の代わりにさくらを支えてほしいと思っていたようです。つくづくお節介な奴。

この後、芳治は翔子の実家を訪ねて、再婚するための許しを請います。高広の7回忌に坪内家に挨拶するくらいの生真面目男ですから、当然翔子の実家にも行っております。その時のエピソードも入れるかどうかもずいぶん迷いましたが、今回は、プロポーズシーンでエンドマークを付けさせてもらいました。ホントにいつもそうなんですけど、実際私が見えている映像の半分も書いてるかしら…だから、書きかえる度にトルコアイスのように伸びるんですよね。

今回、去年と同じ時期にこの作品を書き上げた事、何か不思議な気すらします。
あの時、私がこの部分を書かなかった(書けなかった)のは、私自身に高広の喪失感を癒す時間が欲しかったのかもしれません。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

山笑う-再び桜花笑う季22

山笑う


私は、さくらに自分の気持ちを告げようと決めた。
そして私は、車でさくらの勤める病院に向かった。

病院の駐車場に車を置くと、私はまっすぐその前にある公園の池の端にある桜の木の前に向かった。この木は、この病院で生まれた三輪さくらがさくらという名前を付ける由来になった木で、坪内高広が自分の余命を知った時、彼女を託した木でもある。
見上げると、この町で一番最初に花を付けるその木には、まだ固いながら、小さな蕾がいくつもついていた。私は木に向かって言った。
「高広君、もし君があのとき彼女を頼むと言うつもりで頭を下げてくれたのなら、私に力を貸してくれないか。」
もちろん答えは聞こえてくるはずもない。しかし、ふわりと春を思わせる風が私の頬をなでた。
私は携帯を取り出して、さくらに電話した。
「さくらちゃん、今大丈夫?桜が咲いたらお花見に行こうと思うんだけど、いつが休みなのかな…」

-*-

そして、今日…私は満開の桜の中、彼女に自分の想いを告げた。
「君が高広君を忘れられないのは解かっているから。と言うよりも、高広君をずっと心の中に持っている君が好きだから…君が嫌じゃなかったら、これからの人生を私と一緒にすごしてくれないだろうか。」
「ねぇ、私なんかで良いの?私、翔子さんみたいに素晴らしい奥さんになんかなれないよ。」
すると彼女は、不安そうにそう答えた。
「出会った頃にいろいろ話したアレ、かなり美化しすぎてたかもな。翔子もホントはかなり天然だったよ。それに、穂波も君が好きみたいだ。」
「へっ?!」
私はこの間見た夢の話を彼女にした。彼女の眼に涙があふれた。そして…
「私も松野さんとずっと一緒にいたい。一緒に居させてください。」
と言ってくれた。

それから、彼女は満開の桜を見上げてぽつりと、
「高広が笑っている。」
と言った。一斉に花が咲きそろう様子を『山笑う』と表現した歌人もいる。そう言われれば、このピンクの花の波は、彼の穏やかな笑顔に似ている。

-サクラサク-
今、私の前でもう一つの桜の花が笑っていた。

                                    -The End-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

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