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誰が一番悪い?-第二部 marine side 5

誰が一番悪い?


メールは20日後の朝早く届いていた。

件名:迷惑じゃないからメールしたよっ!
本文:お姉ちゃん?!そうだよね!!今どこ?メールなんかじゃなくて連絡先教えて、どこでも電話するから!!

しかし、私が明日香のメールを見たのは、仕事から帰宅してから。時差を考えると、今すぐにメールを送っても真夜中だ。見てはいないだろうと思いつつ、電話番号を記載したメールを返信する。

件名:Re迷惑じゃないから、メールしたよっ!
本文:返事が遅くなってゴメン。今帰ったところだから。でね、今どこにいるかと言うと…カナダです。国際電話になるけど良いかな。
今の電話番号は…

メールを送信して何分もたたない内に電話が鳴った。
「Hellow.」
と英語で応対した私の耳に
「お姉ちゃん、エアメールだったから、いやな予感はしたけど、カナダって何?!」
と懐かしい声が懐かしい言い方で飛び込んできた。向こうは真夜中だろうに…もしかしたら、今日は一日連絡を待っていてくれたのかもしれない。そう言えばあの子、名古屋に家出して帰って来た時も、
『お姉ちゃん、名古屋って一体何?!』って言ってたっけ。全然変わんないじゃん…私は20年も昔の事を思い出して、思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんのよ!だから、どうしてカナダなのかって聞いてるのよ!!」
私の笑い声を聞いて、明日香はそう言って更に怒りをぶつけてきた。
「どうしてって、今カナダに住んでるからじゃん。」
わたしはわざとおどけてそう言った。
「…心配したんだから…ホントに心配したんだから…」
「ゴメン…」
涙声でそう続けた明日香の言葉に、私も声が詰まる。
「で、達也とほのかはあんたたちの子供にちゃんとしてくれた?」
「うん…お姉ちゃんありがとね。喜んでそうさせてもらったよ。」
「良かった。」
私はホッと胸をなでおろした。
「でもね、お姉ちゃんがどんな気持ちで二人を手放したのか知ってほしくて、両方のパパやママには本当のこと言ったよ。」
「何で!そんなこと言わなくっても良かったのに!!」
「黙ってなんていられないよ。秀君がね…あの時、みんなの前で土下座したんだ。『お義父さん、ぼくをどうとでも好きにしてください。達也とほのかは僕との子供です。』ってね…」

明日香はその時のことを話し始めた。

-*-

「あああっ!お前ら親子は俺たちをどこまで苦しめたら気が済むんだ!!」
雅彦は未来の子供の父親だと告白した秀一郎の胸倉を掴んで、言葉にならない怒りも交えながら、激しく揺す振った。
「パパ、もう止めて!秀君が死んじゃう!!」
「明日香、お前は黙れっ!!」
雅彦は止めに入った明日香を乱暴に撥ね退けた。彼女は、今までにこんなに激昂した父を見たことがなく、おろおろしながら秀一郎の後ろで両手を握りしめることしかできなかった。
「明日香…良いんだ。殺されたって仕方ない。僕はそれだけのことをしたんだよ。でも…僕はあの時は本気でお姉ちゃん、いいえ未来さんを愛してました。だから、どんなことをしても手に入れたかったんです。それだけは、解ってください」
秀一郎は明日香に向かってかすかに微笑みかけると、振り回されながら雅彦にそう返した。
「解れだと…解れだと!!本気で未来に惚れていたなら、子供たちが出来たと分かった時、何で今みたいにしなかった。その上、明日香まで!今更寝言も大概にしろ!!」
「僕はちゃんと子供の父親になると彼女に言いました。だけど…彼女はそれを受け入れてはくれなかったんです。はっきり『迷惑だ』と言われました。」
「…未来が…未来がそう言ったのか?…」
だが、秀一郎のその言葉に、雅彦の肩が落ち、秀一郎に込めた力が一瞬ふっと緩んだ。
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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

第二部 marine side 4

私は『戻る』メールには打ったけれど、本当はもう戻るつもりはなかった。そう書かなければ、明日香はきっと私を探して特別養子の手続きを踏まないのではないかと思ったからだ。

確かに、子供を手放すことは身を裂かれるように辛かったけれど、同時に私はホッともしていた。
私には明日香の夫(その時はまだ夫ではなかったけれど)を寝盗ってしまったという罪悪感があった。それから、少しは解放されたからだ。
身勝手な考え方なんだろうけれども、私は明日香の代わりに秀一郎の子供を産んだんだって思えば良いって。
そして、子供たちと過ごしたこの5年ばかりの日々は、私の宝物だ。達也、ほのか…ママは遠くからあんたたちの幸せをずっと祈り続けるから。
あーちゃんとパパと4人、いつまでも幸せに…

私は飛行機に乗っている間中、2人の写真を見ながら涙を流し続けた。

私の落ち着いた先-それはカナダだった。何故カナダかと言うと、さして理由はなかった。ただ、大学でフランス語を専攻していた私は、英語もフランス語も通じるカナダのフランス語圏に惹かれたというだけだった。

周りには日本人など一人もおらず、私には却ってそれが心地よかった。通じるかどうかギリギリの英語やフランス語と、なれない外国での暮らしは、私から思い悩むという要素を少なからず軽減させてくれた。

何より、カナダの大自然が私を癒してくれた。あっちのヤナのおじさんが最後の場所にアルプスを選んだのも何だかわかるような気がする。彼の父親所縁の土地と言うだけではなく、山懐に抱かれて穏やかに最期の時を迎えたのではないだろうか。

そして、私は自分の勤める小さな会社のボス、ジェラールと一緒に暮らすようになった。幼くして母を失った彼の子供たち(アンヌ・テオドール)に達也とほのかの面影を重ねて面倒をみるうちに、ジェラールとの距離も縮まったのだ。ただ、籍は入れてない。

-*-

あれから14年の月日が過ぎようとしていた。達也とほのかはもう高校を卒業するころ…
私は一日の仕事を終えると、パソコンを開いて日本の検索エンジンにアクセスすることが日課になっていた。誰からも日本語を聞かない環境下で生活していると、無性に日本語が恋しくなる。まるで無い物強請りだな…私はそう苦笑しながら、せめて文字なりともと、懐かしい言葉の海を彷徨うのだ。

その日はYUUKIの新製品がホームのトップに貼られていた。
私はふと、明日香に連絡がとりたくなった。魔が差したのかもしれなかった。

最初、私はあの子たちの結婚後の住所に手紙を送ったが、転居しているらしく戻ってきた。戻ってきてみると、私はますます明日香たちのことを知りたくなった。そこで私は、実家の住所を書き、「飯塚明日香様」とさもあの子が結婚していることも知らない体を装って、偽名で手紙を送った。
中身は一行だけ…
-私が判るなら、このメアドにメールを送ってください。判らなかったり、判っても関わりたくないと思うなら、そのままにしてくださっても良いです-
と書き、私のパソコンのメアドを書き添えた。そのメアドには私の名前、未来の英語である「future」も織り込まれてある。

パパかママかのどちらかはまだ生きていてくれるはず。ここんとこ向こうの家族が落ち着いてしまったのかあっちの夢はとんと見ないが、まだ、あっちのパパは生きていたはずだから。
そして、あの家に手紙が届けば、それは
明日香の手元にきっと渡るはずだ。

私は明日香からのメールが届いてほしいようなそうでないような妙な気持で、それからの幾日かを過ごした。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

再び西へ-第二部 marine side 3

再び西へ


一週間後、私は飛行場で明日香にメールを打っていた。

件名:明日香へ

本文:
この間の件、私なりに考えて一つの結論に達しました。

やっぱり認知なんて認められません。

だから…私は二人の親権を放棄します。達也とほのかを秀一郎とあなたの子供として養子縁組をしてください。
いまなら、普通の養子縁組ではなく、特別養子縁組をすることが出来るはずです。一般養子縁組では、戸籍上縁組の記録が残りますが、特別養子縁組ではそれが残りません。
私の机の上に、私の2人の親権放棄と特別養子縁組にかかる書類を置いておきました。急いで裁判所に行って手続きをしてください。迷わないでください。特別養子縁組は戸籍にその痕跡を残さない分、6歳未満にしか適用されないからです。

そして、あの子たちを名実ともにあなたたち夫婦の子供にしちゃってください。子供たちもあーちゃんが母親の方が絶対に幸せになれると思うし、達也は本来なら結城の跡取りなんだから。母親としてはそういう意識も働いているんだよ。
だから、私の事は気にしないで逆に私たち親子の事を考えてくれるなら、この事に同意してほしい。

とは言っても、私がいるとあなたたちも踏ん切りがつかないだろうし、子供たちも戸惑うだろうから、私は家を出ます。そういう訳なので、探さないでください。心配しないで、私は死んだりなんかしないから。そして、いつか必ずここに帰ってきます。だから、ちゃんと私の言う通りしてないとその時めちゃくちゃ怒るからね。解った?

大好きな明日香へ

                                 未来より

送信ボタンを押した私は、そのまま機上の人となった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

第二部 marine side 2

明日香に下された診断は卵巣のう腫。しかもすでに破裂した状態だった。すぐに手術が行われて、明日香は卵巣の一つを失った。

それにしても、結婚間もない明日香がどうしてこんな病に冒されなければならないのだろう。

性格は明日香の方が私よりママに似ている。あの子はあっちのママと同じように、辛くても我慢をし続けたんだ、きっと…

「ねぇ、未来。明日香が未来に折り入って話があるって言うんだけど。二人きりで話したいんだって。」
病院から帰って来たママが私にそう言った。
「うん、解った。じゃぁ、明日はママが保育所に迎えに行ってくれる?」
「解ったわ。」

一体明日香は、私に何の話があるのだろう。そう思いながら私は、翌日明日香の病室を訪れた。
「明日香、ごめんね。昨日は来れなくて。少しは楽になった?」
「うん、もう大丈夫だよ。それに、気にしないで、お姉ちゃんにはたっくんやほのちゃんがいるんだもの。こっちこそわざわざ来てもらってゴメンね。」
明日香は私の謝罪の言葉に笑顔でそう返した。
「でね、今日わざわざ来てもらったのって、お姉ちゃんに折り入ってお願いがあるのよ。」
「お願い?」
「ねぇ、お姉ちゃん…たっくんとほのちゃんは、秀君の子供だよね。あの子たちを秀君の子供として認知したいの。」
「…!…あの…それは…違う…」
私はその台詞に一瞬言葉を失いしどろもどろに訳のわからないことを口走った。
「違わないよ、たっくんのしぐさは秀君そっくりだよ。」
「あ、あれは…あんたたちの方が私よりあの子たちの面倒を見てくれてるから、達也は秀一郎の真似をしてるだけのことだわ。」
私は、ドキドキとどっと流れる汗を感じながら、辛ろうじてそう答えた。
「ううん、それだけじゃなくて二人の目元も似てるわ。」
「違うったら、ちがうって!!」
私はそこが病室だということも忘れて、大声で否定していた。
「ゴメンね…私、たぶん罰が当たったんだわ。私、お姉ちゃんが秀君が好きなのも、秀君がお姉ちゃんを好きなのも知ってた。お姉ちゃんに子供が出来たとわかって、子供たちのパパの名前も明かさないでお姉ちゃんが産むって言った時に、私はその子たちが秀君の子供だって判ったよ。
だけど…私も好きだったの。秀君を誰にも渡したくなかったの。だから、何も知らないフリをし続けたわ。」
「だからって認知?明日香、あんたにはもう一つ卵巣が残ってんだよ。それで秀一郎との子供産めば済むことじゃない。あれは、事故みたいなものだし、そんなので認知だなんてダメだよ。」
私は明日香から繰り出された認知と言う言葉に当惑し、つい子供たちを秀一郎との子供だと認める発言をしてしまっていた。
「だけど、私にも子供が産まれたら、2人はどうなるの?秀君と距離を置かなきゃならなくなるじゃない。あの子たちは秀君の子供なんでしょ。秀君をちゃんとパパと呼ばせてあげなきゃいけなくない?
今回の事で私、踏ん切りがついたの。一つの卵巣の私と、あの病気にかかった秀君となら、たぶん望んでも授からないだろうってみんな思うだろうから。今なら受け入れられるわ、きっと。」
どうして明日香はこんなに自分が苦しむことになることを自ら提案したりするのだろう。
こんなに近くにいるのに、父親と呼ばせてやれないことを私も不憫には思っていたけど、それは仕方がないと思っていた。
赤の他人が妻の座に納まっているのなら声高に認知を主張してちゃっかり愛人の座に納まることもできる。でも、明日香は私の妹だ。姉の私にそんなことが出来るわけがないじゃないの。ましてや、そのことによって明日香から子供を産み育てる選択肢まで取り上げるなんてことは、考えるのもイヤだ。
「とにかく、お断りだわ!そんなことをしたって、誰も幸せにはならないじゃない!!」
私は悲鳴のようにそう言い放つと、病室を後にした。

認知なんてダメ、認知なんて絶対に!!
でも、明日香は自分たちの子供は持たないんじゃないかと思った。
みんなが幸せになるには…どうすればいいんだろう。

そうやって思いを巡らせていたとき、私の頭に一つの単語が思い浮かんだ。
…そうだ、あの方法なら…今なら、間に合うかも知れない。
私は、子供たちを寝かしつけた後、パソコンを開いて検索をかけた。

そして、思っていた項目を探し当てた。

-見つけた!明日香も子供たちもが幸せになる方法を!!-
そして、その画面を私は、ずっと涙を流しながら見つめ続けた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

メビウスの輪-第二部 marine side 1

メビウスの輪


あっちのママが死んだ…

告別式での龍太郎さんの演奏に泣きながら目覚めると、現実でも「アルビノーニのアダージョ」が流れていた。こっちでもママが聞いているのだ。
…そう言えば、今日は龍太郎さんの月命日の日だ。お互い遺された方の2人は、パラレルワールドの双方の岸辺で呼び合っているのかもしれない。

それにしても、ヤナのおじさんが好きな相手が龍太郎さんだなんて…びっくりを通り越して鳥肌立っちゃった。
そう言えば秀一郎が前に、『気がつけばいつも見られている様な気がする』って言ってたっけ。あれって、思いすごしじゃなくって、本当にそうなのかもしれない。あれは、彼が昔を懐かしんでるのではなく、龍太郎の面影が残る秀一郎の事を愛おしんで見ているが、正解なのかも。だから、秀一郎は無意識にでもその空気を感じ取って『怖い』と思ったのだ。
ヤナのおじさんが志穂さんと結婚したのは、ママと龍太郎さんの二人が別れた時、『君なら海を渡しても構わない』と龍太郎さんに言われても、本当は龍太郎さんの方が好きな彼はそれを聞き入れることが出来なかった。そのために後々龍太郎さんは死ぬことになってしまった。そう思っているからだと思う。
ママが私の言葉に反応して、自殺未遂を起こした時、おじさんはひどく取り乱していた。まるで呻くかのような声で、『俺のせいだ』って言うのも聞こえたし。ただ、あの時は、あの場にいるみんなが自分のせいだと思っていたのかも知れないけれど…

そう、誰のせいでもないのだ。当の龍太郎さん本人でさえ、ママを愛するが故の行動だったのだから。そして、少しずつみんなが悪いのかもしれない。

だけど、微妙に形を変えながら同じ道を歩んでいる私たち。あっちのママが死んだ今、誰かが亡くなったりしなきゃ良いけど…そう思いながらリビングに出て行くと、ママが眉間を押さえて苦しそうにしている。
「ママ、どうしたの?大丈夫?!」
まさか、こっちのママまで…?!
「あら…未来おはよう。一体何、慌ててるの?」
私の言葉にママは顔を上げて驚いた様子でそう言った。
「ねぇ、どこか辛いの?」
「えっ、いいえ?新聞読んでて疲れただけよ。元々ど近眼だからと思って裸眼で読んでるけど、もうそろそろ老眼鏡買わないとダメだわ。何か寂しいわね。」
「ホントにそれだけ?ホントに大丈夫なの?」
「ウソじゃないわよ、おかしな子ね。どうしたの、今日は。それより、早くしないと二人のお弁当間に合わなくなっちゃうわよ。私は未来みたいにキャラ弁なんて作れないからね。」
必死になって聞く私に、ママは首を傾げながら笑って答えた。そう言いながら、ベースのおかずはちゃんと用意してくれている。後は私が達也やほのかの好きなキャラクターに似せて盛り付けるだけだ。
「ママもやりだすと凝る方だと思うけどな。」
と私が言うと、
「そうよ、分かってるからやらないの。子供おっぽりだして仕事してる罪滅ぼしよ。それくらいあんたがやらなきゃね。」
なんて答えがママから返ってきた。
「はいはい、分かりましたよ。」
私はそう返事して台所に立った。

…その時、電話が鳴った。ママが出た。
「はい、もしもし飯塚です。なんだ、秀一郎君?えっ…分かったわ、すぐ行くから。〇〇病院ね。」
私は〇〇病院と言う言葉に凍りついた。それは、あっちのママが入院していた病院名。一体、誰が?!
電話を終えたママは、唇をプルプル震わせながら、こう告げた。
「明日香が…明日香が急に苦しみだして、その上不正出血まであるらしくて…秀一郎君が救急車で病院に運んだからって連絡が…私、いまからすぐ病院に行ってくるから。マーさん、マーさん!!」
そして、パパにもそのことを知らせるために、ママはバタバタとママたちの部屋に駆け込んで行った。


お題小説第二弾

え~、第二部chiffon sideが一段落したので、少し前にFC2小説に載せた「お題小説」を引っ張ってきました。一応、クリスマスバージョンのテンプレの内に載せておかないとと思いまして…


東京LOVER(クリスマス 勘違い 涙)


「イエス・キリストが生まれたのは、本当は12月25日なんかじゃないんだ。後世にヨーロッパの祭りと融合したもので…」
12月24日午後11時10分、私の待つ新幹線のホームに降り立ってあいつは、得意顔でいきなりそんな蘊蓄話を私に述べる。
だけど、挨拶もそこそこにするのがどうしてそんな話な訳?

世間の人々が信仰もないのにかの人の生誕を祝うのがバカバカしいと言いたいのかもしれないけれど、それが2カ月ぶりに帰ってきて恋人に最初にする話なのかしら。

「聞いてる?」
私があいつの話にノーリアクションなままでいたら、あいつはそう言って私の顔を覗き込んだ。
「聞いてるよ。」
「何、怒ってんのさ、今年はちゃんと帰ってきたじゃん、イブに。」
ああそうね、ちゃんとイブに帰ってきたわ。でもイブはあと何分あるの?あんたがそんなご高説を述べてる間に45分を切っちゃったじゃない。
「怒ってなんかないわ。」
「嘘、やっぱ怒ってる。」
怒ってはないわ。呆れてるだけよ。

「それでさ、俺もう、クリスマスに来るのやめるわ。ってか、お前ともう待ち合わせはしない。」
それからあいつは唐突にそう言った。
「何で?」
「何でって…その…」
聞き返した私にあいつは口ごもった。
「何で?!何で、何で、何で!」
何であんな訳のわからない蘊蓄話の後に別れ話なんかする訳?しかも、あったばかりよ!私の眼から涙があふれて止まらなくなった。
「あちゃぁ、勘違いするかな。」
「何が勘違いだっで言うの!」
勘違いだと言われて思わず怒鳴った私に、あいつは照れながらこう言った。
「あのさ、待ち合わせしないってったのは、もう待ち合わせする必要がないようにしたいんだよ。」
「へっ?」
待ち合わせしないで良いって何?
「あーもう、ちょっと広いとこ引っ越しすっから、俺んとこ来いってぇの。」
「へっ?」
「つまりだな…その…俺の嫁にならないかってこと!」
ってことは…これってプロポーズなの?!分かりにくっ!大体理屈屋だとは思ってたけど、ここまでだとは思わなかったわ。
「イヤよ。」
「イヤって…」
「そう、イヤ。こんなプロポーズなんてあり得ない。もう一度やり直してくれなくちゃ、行かないわ。」


「一体、どう言やぁ良いんだよ。」
「もっと、ムードがなきゃ行かない!行事に流されてもムードが欲しいのが女なのよ。」
私は腕組みして、あいつにダメ出しをしてやった。
そして、あいつは時計が午前〇時を迎えるまでに、ブツブツ文句を言いつつ、都合4回もやり直しのプロポーズをすることとなったのだった。

メリークリスマス!!



theme : ショートショート
genre : 小説・文学

第二部-chiffon side 5

「それで、もう一人の龍太郎は…事故って交通事故?」
ご自分のお話を終えて、お義母様は私にそう聞かれた。
「い…いえ、お酒に酔われてここから…転落死されたんです。」
「志穂さんともここに住んでたの?確かにここはお義父様のものだけど…原因は秀一郎が生まれたせい?あちらにも志穂さんとの間に秀一郎がいて、あなたと結婚してるんでしょ?」
驚いて声を上げたお義母様に、私はちょっと戸惑いながら肯いた。確かに、あっちの私は秀一郎さんの子供を産んではいるけど、結婚したのは明日香だから。でも、あっちの世界は私しか見えてないんだから、解りっこないんだけどね。
「でも、秀一郎さんは当時11歳にもなってましたし…ただ、あちらの秀一郎さんはお義父様と当時同じ病に罹られていて、自分の枷を息子にも負わせてしまったことへの後悔からの衝動自殺だと思われていたんです。」
「思われていたと言うと…やはり真相は別にあったのね。」
「ええ、こんなことを今更聞かされたら、お義母様もショックを受けられるかもしれませんが…」
私は、自分の失態にもつながるこの事を言うのは本当は辛かった。
「いいえ、今更何を聞いていも大丈夫よ、私は。」
だけど、お義母様の目はどんなものであったとしても、真実はすべて知りたいと語っていた。
「お義母様…いえ、あちらの私の母は、お義母様と付き合っていた頃、それとは知らずに流産していたんです。それを何かのきっかけでお義父様は知ってしまわれたんです。
それならば、自分たちは別れる必要なんてなかった。
実は…お祖父様と上河原の祖父との間には昔からの約束というのがあったらしくて、母もまた、本当に好きな相手から引き離されて結城に嫁いでいたんです。ただ、母は結婚後お義父様を愛するようになっていたんですが、お義父様は最後の最後までお義母様を想われていました。」
それを聞いたお義母様は軽くため息をついてこう言った。
「自分が煮え切らなかったばっかりに、みんなを不幸にしてしまったと思ったのね。いかにも龍太郎らしい考え方だわ。それにしても、秀一郎の前に私に子供が出来ていたって本当?」
その言葉に私は肯いた。
「お義母様…月のものがとんだ後、辛くて会社を早退されたことがありませんでしたか。」
「え、ええ…まさかそれ?あの時は私も妊娠を期待していたから、すごくよく覚えてるわ。」
そうなのか、やっぱりあっちのママも期待してたんだ。だから…
「あちらの私はさぞ辛かったでしょね。それが龍太郎を死に追いやったとしたら、尚更…」
「助かりましたけど…真相が解った直後、あちらの母はお義父様の跡を追いました。」
そう、あれは私が聞いた乃笑留さんの言葉に反応した、向こうの私があっちのママに正直に尋ねたことから起こった事件だった。
「そうでしょうね、私もその立場なら、きっとそうしていたと思うわ。」
やはり、2つの世界はパラレルワールドなのだ。改めて私はそう思った。

「ありがとう、よく包み隠さず話してくれたわね。おかげですっきりとした気持ちで健史の処に行けるわ。ホントに、『お前たちには障害なんてやっぱなかったろ』って言われちゃうわね。」
私の話を聞き終わった後、お義母様は本当に晴れ晴れとした表情で私にそう言った。

そして、お義母様はその年を跨ぐことが出来ずに、梁原さんの待つ遠い世界へと旅立って行かれた。
お義父様は、通夜の席でまるで子供のように泣きじゃくっておられた。
でも、葬儀の直前になって、お義母様に最初に贈ったというチープなステディリングをお義母様の左手薬指に填めると、葬儀会社の人に告別式会場にピアノを持ち込んでもらうように要請し、会葬御礼の際、一言参列者に断りを入れると、お義母様との馴れ初めの曲、ご自身のアレンジによる『アルビノーニのアダージョ』を演奏されて、お義母様への野辺の贐とされたのだった。

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贐(はなむけ)-第二部 chiffonside 4

贐(はなむけ


その後、治療は少しは行われた。でも、それもいくらかの延命にしかならないとお義母様は思われたのだろう、自宅に戻ることを強く希望された。

とは言え、社長になってしまったお義父様が長い間仕事を放り出す訳にもいかず、その仕事を秀一郎さんが代わりにやれるはずもなく、子供たちを飯塚の両親に預けて、私がお義母様のそばにいることになった。

もしかしたら親子だったかもしれない私たち。その私たちが嫁姑として同じ一つ屋根の下にいる。何だか不思議な気がした。

そして、着替えを持って私はお義母様の部屋に入った。その時、私の目にあのフォトスタンドが映った。伏せられてはいなかった。

「未来さん、わがまま言って本当にごめんね。だって、最後くらい人間らしく過ごしたいじゃない?」
お義母様はそう言って私に軽く頭を下げた。
「そんな、最後だなんて…早くお元気になってくださらなくっちゃ。』
「ふふふ、そんなウソはいいのよ。私は自分のことくらい解っているし、それを悲しんでもいないわ。寧ろ、長く生き過ぎたくらいよ。」
「お義母様…」
お義母様はいつものように優しく微笑まれてそう言ってから、
「未来さん、あなた健史の事はどこまで知ってるの?」
と唐突にそう聞かれた。
「いえ、こちらの梁原さんを知ってる訳ではないんです。」
「こちらの?」
私の言葉にお義母様は案の定首を傾げた。とても理解してもらえるとは思えないけど、私は私の見ている世界をお義母様に正直に話そうと思っていた。
「私にはもう一人の私…私は夢でお義母様がお義父様と結婚しなかった世界とつながっているんです。
私が、お義母様と初めてお会いした時、お義母様の顔にビックリしてたのを覚えておられます?その夢の中では、お義母様は父と結婚していて、私の母なんです。お義父様の方は母と結婚して秀一郎さんが生まれて…私はやっぱり秀一郎さんとの子供を産んでいるんです。ただ…お義父様は秀一郎さんが11歳の時に事故で亡くなられてます。」
そこで、私は一旦口ごもった。やっぱりこんな話信じてもらえそうにもない。すると、お義母様は驚いてはおられたけど、
「続けて。」
と言われた。
「その世界では、梁原さんの方が今も御存命なんです。お義父様が亡くなられて7回忌を終えてから、母は梁原さんと再婚しました。私、秀一郎さんと出会った直後からその夢を見るようになって、秀一郎さんが何故梁原さんに似ているのか、なのにどなたの話にも出てこないのか不思議だったんです。山で遭難されたんですね、梁原さん。で、あの…お義母様、秀一郎さんは…」
「ええ、健史との子よ。」
おずおずと切り出した私に、お義母様は肯きながらそう答えた。

「そうよ、秀一郎の父親は健史よ。」
そう言ったお義母様はやはり微笑まれていた。
「私と龍太郎が解れた30年前のあの時、健史は傷心の私の許に現れたわ。龍太郎に遠慮してたけど、ずっと私の事が好きだったって。私は龍太郎の心の穴を埋めるために、健史と付き合い始めたわ。だけどね…」
「だけど?」
「私は気付いてしまったの。健史の本心、あの人は私じゃなくって、龍太郎が好きだってことにね。」
「まさか!」
同じ男性のお義父様を好きだったなんて…私は、一瞬自分の耳を疑った。
「いいえ、本当よ。一番初めは龍太郎にものすごい対抗意識を燃やしてるだけなのかなって思ってたけど。健史って、あまりにも龍太郎に似せようとするようなところがあったから…それって、後から考えると自分が龍太郎になりきって私に接することで、彼に近づこうとしてたんだと思うわ。
だけど、そのまっすぐな気持ちが却って私を捉えたの。同じ男を好きな同志として心を通わせるうちに、私はいつしか龍太郎よりも健史に惹かれていたわ。
そんな時…秀一郎の妊娠が判ったの。健史もすごく喜んでくれて、すぐに私の両親のところにもらいに行くと言ってくれたわ。でもね…その翌日、健史は私と龍太郎に置き手紙だけを残して忽然と姿を消したのよ。」
「何故?」
私は思わず聞き返してしまった。そうだ、何か私の中に引っ掛かっていたのはこの事…何でもうすぐ一緒になろうと思っている恋人がいながら山に登ったか。山男ならありがちなのかもしれないけど。あっちの梁原さんは山男じゃない。ということはこっちもそうじゃないと考える方が妥当だ。

「もう一人の私を知っているなら、あなたは龍太郎の事も知ってるんじゃない?」
続いてお義母様は私にこう尋ねた。
「何が…ですか?」
知ってはいたけど、私の口からは言えなかったから、私は聞き返すしかなかった。
「彼が通常では子供は望めないと診断されたこと。」
続くお義母様の言葉に、私は黙って肯いた。
「健史はね、龍太郎が私をどんなにか愛しているか解っていたの。だから、そんな私たちが別れないで済むようにするには、自分が龍太郎の代わりに子供を儲けて、彼に返せば良いんだと考えたのよ。そして、私の妊娠を確認した彼は、一人で真冬の雪山に消えたの。」
「お…お義母様は、お義父様のお身体の事を知ってらしたんですか?」
私がそう言うとお義母様は頭を振った。
「いいえ、私がその真相を知ったのは、龍太郎と結婚するほんの少し前。それまでは私、健史は自分では逆立ちしたって一緒になれないのに、女の私が簡単に彼と別れたことを恨んでいるのだと思っていたわ。龍太郎も人が変わったみたいに私を好きだとあからさまに口にするようになったし、解らないことだらけだった。
でも、結婚式を間近に控えた日、私の身体が安定するのを見計らって龍太郎が真実を話してくれたのよ。『僕には普通では子供は持てない。それで、僕の身内に君がひどいことを言ったりされたりするのが怖くて一度別れた。そして、そのことを健史にだけは正直に言って、彼に君を幸せにしてくれって言ったんだ。だけど、こんなことになるなんて思わなかったよ。』ってね。
ただ、龍太郎は健史が自分の事を好きだなんてこれっぽっちも思ってなくて、私の事を本気で好きだったんだなって思ってたみたいだけどね。」
自分の身を挺してまで、お義父様の想いを結ばせようとした梁原さん…彼はそれほどまでに、お義父様を愛していたのか。私はその壮絶な生きざまに、胸が痛くなるのを感じた。

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genre : 小説・文学

似た者同士-第二部 chifon side 3

似た者同士


翌々日、子供たちを送り出した後病院に行った私は、病室の前で立ち尽くすお祖母様を見た。
「お祖母様、入られないんですか。」
良く見るとお祖母様は泣いていた。
「涙が止まらないとあの子に気づかれると思うんだけど、なかなか止まらなくて…」
「じゃぁ、少しお話しませんか。」
私がそう言って誘うと、お祖母様はびっくりした顔をされたが、こくりと頷いた。

私とお祖母様は、病院内のコーヒーラウンジに出かけた。
「ねぇ未来さん、こんなことをあなたに聞くのは何なんだけど…私、反対した方が良かったのかしら。」
「何がですか?」
「あの子の…娘の結婚。」
お祖母様は苦悩の表情を浮かべながらそう言った。
「私、結城君があの子をもらいに来た時、一切反対しないでお嫁に行かせたの。でもね、私があの時あの結婚に異を唱えていたら、あの子は結城の家で苦労なんかせずに、こんなことにもならなかったんじゃないかと思ってしまうのよね。」
事情を知るはずもない孫の嫁の私に、細かいことを言うこともできず、歯切れの悪い言い方でお祖母様は私にそう言った。
たぶん、お祖母様は秀一郎さんが本当はお義父様の子供ではなく、遭難して亡くなった梁原さんとの子供だということを、状況からなのかはたまた女性独特のカンでなのか-それを悟っているに違いない。そして、そんな中で結城の嫁として生きなければならなかったことが娘のどれだけ心身の負担となって、この病となってしまったのかもしれない。そう思ってしまっているのかもしれなかった。
「でも、だったら秀一郎さんは生まれてませんし、そうなれば私も結城に嫁ぐこともありませんでしたわ。」
私も何も知らないフリでそう答えた。でも私は、お義母様がお義父様と結ばれなかった世界も知っている。それを見比べたとしても、どちらが本当に幸せなのかは、私には計れない。
「そ、そうね…あなたには失礼な話だったかしらね、ごめんなさい。」
「いいえ、とんでもない。」
「こんなだから、あの子にも嫌われるのよね。」
そして、お祖母さまはため息を吐きながらそう言った。
「いいえ、お義母様はお祖母さまを嫌ってなんかおられませんよ。」
「えっ?」
それに対して私がそう言うと、お祖母様は心底びっくりしたという表情をした。
「お義母様はお祖母様に甘えたいと思ってられますよ、きっと。」
お義母様とお祖母様はご自分ではそうは思ってないみたいだけどよく似ているのだ。だから、お互い反発してしまう。だけど、本当は一番お互いを欲しているのだ。
「そうなのかしら。」
首を傾げていうおばあさまに私は、
「絶対にそうですよ。私がお義母様なら一度でいいから、1日中甘えていたいと思いますよ。一度、思いっきり抱きしめて差し上げたらどうですか。」
そして、そう出来るチャンスはあと少ししか残されていないのだから。今の内に歩み寄らないと、お祖母様はご自分が死んでも後悔されることになるのではないかと私は思った。私の気持ちが通じたのだろうか、お祖母様は、私の言葉に頷いてこう言った。
「そ、そうね。じゃぁ、思い切って嫌がられてもそうしてしまおうかしら。」
「はい、そうなさってください。でも、お義母様はたぶん嫌がられないと、私は思いますよ。」
私は笑顔でそう答えた。

そうして、お祖母様は一足先にコーヒーラウンジを出た。私は、しばらくの間、病室には戻らず院内の売店で買うでもなく物を見続けた。

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第二部chffon side 2

「お義母様だいじょうぶですか!」
「え…ええ…大丈夫よ…こうしてればすぐ良くなるわ。」
思わず安否を尋ねてしまった私に、お義母様はこう答えたけど、どう見たって大丈夫という感じではなかった。
「お義父様に連絡!それとも救急車!」
そう叫んだ私に、お義母様は弱々しく手を振りながら答えた。
「良いわよ…大げさにしないで…」
「じゃぁ、秀一郎さんに…」
「ねぇ、本当に大丈夫だから、ねっ。もう痛みも治まったわ。」
そう言ってムリに立ち上がったお義母様はまだ肩で息をしていた。
「お義母様!」
「お部屋で少し横になるわ。そしたら、もう本当に大丈夫。心配しないで。」
そして、よろよろと寝室に向かって歩き始めたお義母様を支えて、私はお義母様たちの寝室のベッドに彼女を寝かせた。
「ウチの母に今から連絡して、龍也と穂波を迎えに行ってもらってここに残ります。」
「そんなことをしたら、志穂さんにもあの子たちにも心配かけちゃうわ。大丈夫よ、少し寝るから。あなたは龍也くんと穂波ちゃんを迎えに行って。」
お義母様はそういうと、目を瞑った。
「じゃぁ、私帰ります。本当にそれで宜しいんですか。」
「お願い、そうして。それから、お肉も適当なものに入れて持って帰ってね。」
「はい、解りました。」
私は、それで渋々寝室を出た。

そして、お義母様のそばを離れた私は、すぐにお義父様に電話を入れた。秘書課に電話を入れて、お義父様に取り次ぎを頼む。しばらくして、お義父様が電話に出た。
「海、こんな時間に電話なんて何の用?」
私は、秘書の人に『結城です、社長をお願いします』と言っただけだった。普段、お義母様もそんな言い方で電話されているのだろうか、その人はお義母様と言って取り次いだようだった。
「いえ、未来です。」
「えっ、未来さん?どうしたの一体。」
「あの…告げ口するみたいで心苦しいんですけど、今お義母様が真っ蒼なお顔でお腹を押さえてらしたもんですから。救急車を呼ぼうとしたんですが、そのまま寝てれば良いっておっしゃって聞かないんです。何だか、本当にお具合悪そうだし…一応お義父様のお耳に入れておいた方が良いと思いまして。」
「解った、私が何とかして病院に連れていくようにするよ。昔から彼女は少々辛くても我慢してしまう性質なんだ。ありがとう、知らせてくれて良かったよ。」
「じゃぁ、お願いします。」
私はそう言って電話を切った。気は重かったけど、検査をして何もなければそれで『良かったね』で終わる…そう思っていたのだ。

でも、何日かして、今度はお義父様から電話がかかってきた。
「未来さん、この前はありがとう。」
「いいえ、とんでもない。わざわざお礼なんて良いですよ。それより、お義母様はどうでした?」
わざわざ電話をもらったことに一抹の不安を感じながら、わたしはそう訪ねた。
「そのことなんだけど…今日、入院させたよ。」
「えっ?入院ですか?」
私はお義母様が入院したと聞いてびっくりした。
「ああ…彼女は嫌がったけどね。もっとよく検査しようって言ってね。」
「お義母様そんなにお悪いんですか?」
私がそう言うと、お義父様は少しの間の後、徐に辛そうに切り出した。
「秀一郎にはさっき電話で話したんだけど、あの子から君に伝えさせるのはかわいそうだと思ってね。…海は…彼女はもう長くないよ。」
私は一瞬、息が止まった。
「がんが見つかったんだ。それももう、転移している…長くて後3ヶ月だそうだ…」
続けてお義父様はそう言った。でも何だか、お義父様のその台詞はテレビドラマを見ているみたいで、私にはちっとも現実感がなかった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

何かこそばゆい感じ

あの…

某所ではお知らせしておりましたが、ちょっと前から「ノベリスト」というポータルサイトに登録しました。

理由は、今までのサイトのお友達がそちらに移動してしまったので、その方々の作品を見るのもその方々に作品を見てもらうのもそこに登録するのが早いかなと思った、ただそれだけの理由でした。

それと「FC2小説」も書きやすい良いサイトなのですが、いかんせん私のような長編を書くものにとっては、新着表示がされてから完結するまでに確実に埋もれるのです。同じような傾向の(という事は私が読みたい)小説をかかれる方々は大抵埋もれてます。それを堀っくりかえして読まなきゃならない…もう、慣れましたが。

「ノベリスト」は個々の作品のアクセスカウンターがある、それも魅力でした。お一人でもお二人でもおいでくださっているのが判るのは、素人作家にとっては一番の起爆剤になりますから。

登録後、まずパニクったのは、原稿の登録。「ノベリスト」というサイトは原稿をテキスト形式にして送らねばならないのです。アラフィフで、このテンプレも使いこなせずにいる私にはキャパをはるかに超えた作業。早速先に「ノベリスト」入りしたブロ友にお伺いを立てて、メモ帳に一旦全部コピーペースト(これは何とか知ってました)して、改ページタグを貼りまくって投稿。一気3日で10作品を飛ばすという暴挙に出ました。

それからしばらくはぽちぽちと訪れる方がおられる状態。それでも実際に見てくださってる方がおられると感じられるだけで、充分所期の目的は果たしたと感じていました。

しかし、一週間ほど前に目次機能というのが追加されまして…作品紹介ページに目次が付けられるようになったんです。これもお友達にさっそくお伺いを立てまして、半日かかって11作品全部に目次タグを貼り付けました。(サブタイトルにタグを貼るだけで良かったので、時間はあまりかからなかった)

そしたらどうでしょう…あれよあれよと言う間に、アクセス数が伸び始めたんです。うっそぉ~ってホーム画面を見て思わず出てしまうほど。だって、日、月と「切り取られた青空」のデイリーアクセストップだったんです。素晴らしい方々を抑えてです。信じられません。

だからって言うわけではありませんが、一応遅ればせながら「ノベリスト」リンクも貼っておきます。とは言え、ここと同じものしか置いてませんので、代わり映えは致しませんが…

ちなみに作者IDは206です。



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genre : 小説・文学

お義母様-第二部chiffon side1

お義母様


-結婚6年目-
子供を産んでからは、ほとんどもう一人の私の夢は見なくなっていた。双子の子育ては半端じゃなく忙しいし、妊娠中という特殊な状態が私たちを更に密につなげていたのだろうし。それでも時々は見るから、私はあっちの子供たちの成長にその都度驚かされる。

ウチは、両方のパパママに果ては妙子さん…この方は秀一郎さんのお祖父様の内縁の奥様。皆さんが妙子さんと呼ぶのでお祖母様とも呼べず、結局わたしまでがそう呼ぶことになってしまった。その妙子さんまでが入れ替わり立ち替わり関わってくれる。そんな子供たちもようやく幼稚園に入園し、送り迎えの僅かな時だけど、羽を伸ばせるようにもなった。

明日香は看護師となり、この春から青年海外協力隊でなんとアフリカに旅立ってしまった。軍事紛争とかどうなのよ…などという家族の心配をよそに、
『アフリカの夕日、マジ最高!』という一言を添えた夕陽の写真が送られてきた。それが明日香なりの『心配しないで』の意思表示。確かにそれは、写真でも息を飲むほど綺麗ではあったんだけどね。

「へぇ、明日香ちゃんも元気でやってるのね。」
私はその日、子供たちの写真のついでに、お義母様にその写真を見せた。
「どうせなら、元気な顔の写真でも送ってくれば良いと思いません?」
「充分楽しんでる様子が伝わってくるじゃない。それで許してあげれば?」
「ま、そうなんですけどね…」
そう、明日香は専業主婦の私からは眩しいほど生き生きと輝いて見えた。双子って大変な分、楽になるのも一気だって聞く。私も今から何か頑張れることを探したほうが良いのかもしれない。

「ねぇ、頂き物があるんだけど、持って帰らない?」
お義母様はそう言うと、キッチンからお肉のパックを持ってきた。
「そういうのお義父様お好きなんじゃないですか。」
「好きなんだけどね、もういい歳でしょ。少し控えさせないとね。それに、ほのかが家を出てからは、今までほどは食べなくなったわ。」
明日香がアフリカに行ったすぐ後、秀一郎さんの妹、ほのかちゃんが結婚した。相手の鳴澤さんのアメリカへの赴任が決まって、急遽挙式-そして渡米という、慌ただしい旅立ちだった。
でも、ほのかちゃんからは毎日と言っていい程、スカイプで電話がかかってくる。
「結婚してるって言う自覚があるのかしらね、あの子。」
今度はお義母様が頭を抱える。
「大丈夫ですよ。ほのかちゃん、お義母様に似てしっかりしてるもの。」
「そうかしら?」
「そうですよ。」
自分の身内は心配になるものなのかもしれない。

お義母様は、お肉のパックを入れる袋を探しに再びキッチンに向かった。
-がたん-
その時、キッチンで何かがぶつかる物音がした。
「お義母様、何かあった…!」
様子を見に行った私は、キッチンでお腹を押さえて脂汗を流しながら蹲っているお義母様を発見した。




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Future…未計算の値-marine side 27

Future…未計算の値


あんなことがあっても、私の子供たちは私のお腹の中で踏ん張っていてくれた。あっちの子供たちも大過なく生まれてくるのだから、それは『絶対に生まれなければならない』ということなのだろう、私はそう思った。
そして、まったく何事もなかったかのようにそれからの日々は進んでいき…私は男の子と女の子の双子を産んだ。

女の子の名前はほのか。それはあっちの秀一郎さんの妹さんの名前をいただいた。あの時、ママが流産せずに生まれて来たのが女の子なら、きっとその名をつけていたろうと思ったから。
そして、男の子の名前は達也…

実は、あっちの私が産んだのも男の子と女の子の双子だった。あっちの方は夫婦で相談して、男の子の方を龍太郎さんの一字を取って龍也くんと名づけたのだ。女の子の方はほのかちゃんは実際にいるので、志穂さんの一字をとって穂波ちゃんと名づけた。
私も本当は龍也と付けたかったのだが、龍太郎さんを連想させるその字を充てることはできなかった。なので、「たつや」という音に合わせて達也と名づけたのだ。

同じようで同じではない私たち、それは未計算のデータ部分を解析することで、個々の検査結果に雲泥の差が出てしまう…まるでコンピューター用語の「Future」そのものだ。

私は子供が生まれて半年で働き始めた。いつまでも親に頼ってばかりはいられない。とは言え、日常の子供たちの世話など、家族の協力なしにはとてもやれるもんではないんだけど、だからこそ経済的な負担はできるだけかけたくなかった。

保育所への送り迎えは、フルタイムで働き始めた私の代わりに、大学生の明日香が受け持ってくれた。と言うより、私が父親で明日香が母親みたいに、あの子は子供たちの面倒を見てくれた。
そして、秀一郎はそんな明日香を訪ねてくる。
「子育てデートなのよ。」明日香はそう、笑って言った。
秀一郎も、
「僕(私が彼を突き放したときから、彼は私の前でも僕と言うようになっていた)は兄弟がいないからね、赤ちゃんって新鮮なんだよ。」
と言う。口ではそう言ってはいるけど、自分の子供だという気持ちで見ているのが、私にはありありと分かった。
「じゃぁ、さっさと結婚して2人で子供作りゃいいじゃん。」
わざと呑気そうに言った私に、秀一郎は何とも言えない当惑した表情を見せていた。

そして…子供たちが3歳になった春、秀一郎と明日香は結婚した。

                 第一部Fin

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genre : 小説・文学

marine side 26

ママ!ママ!!」
私はママに駆け寄って、ママを揺すぶった。だけど、ママはぐったりとしたままで目を開けてくれない。
「未来ちゃん、やっぱり何かあったの?!お願い返事をして!!」
志穂さんの必死の声が、受話器を離していても聞こえた。
「ママ、起きないんです…横に風邪薬のビンがあるんですけど、それが空になってて…志穂さん、私どうしたら良いの?」
私は今、市販薬を飲めない状態なので、それが今朝どれだけ残っていたのか記憶にない。そのことが余計に私を不安にさせた。
「未来ちゃん、しっかりしなさい!良い?一旦私は電話を切るから、とにかくすぐに救急車に電話して。それからお父様に電話するのよ、解った?!」
おろおろと私が状況を告げると、志穂さんはそう私を叱ってから受話器を置いた。
「救急車…パパ…」
私は混乱した頭のまま、とりあえず119番に連絡し、それからパパの携帯の番号を検索した。慌てているので、飯塚雅彦という項目が見つけられない。何とか検索してパパにつながって事情を説明する。
「とにかく、病院に着いたらすぐまた連絡をくれ。明日香からは俺が連絡を入れるから。それまで、未来…お前一人で大丈夫か。」
「うん、何とか…」
「ママの事、頼んだぞ。」
「…うん…」
パパにはそう返事したけど、私は自己嫌悪で吐きそうだった。ママに何かあったら、それは私のせいだ。私がママにあんなこと聞かなきゃ、ママは…

それから救急車が到着して、ママは近くの救急病院に搬送された。発見が早かったためママは何とか一命を取り留めた。

やがて、一様に真っ蒼な顔をして、次々と志穂さん、パパ、ヤナのおじさん、明日香が到着した。
「未来、未来のせいじゃないからな。」
パパは、精一杯の空元気な笑顔で私にそう言った。
「でも、私があんなこと言わなきゃ…」
「違うわ、追いかけるのならもうとうにそうしてたはずよ。」
志穂さんがそれに対してそう返した。

そうこうしている内に、ママの意識が戻った。
「ねぇ、ここどこ?あれ、お休みでもないのに何で、みんなが集まってるの?何か約束してたかしら…」
ママはぼんやりとした調子でそう言った。
「ママ!」
「夏海!俺たちがどんなに心配したのか解ってるのか!!」
パパは私を見つけた時と同じように、心配が解けたくしゃくしゃの顔のまま怒鳴った。だけど、ママはそれを見てすごく不思議そうな顔をした。
「マーさん、心配って何?」
その返事に、その場にいたみんながびっくりした。
「お前が風邪薬を飲んで、救急車で運ばれたからだろうが!!」
「救急車?じゃぁ、ここ病院なの?ああ…家じゃないわね。
私、朝から頭が痛くて…昼になっても治らなくてどんどんひどくなるから、風邪だと未来に移すとたいへんでしょ?だから、早めに薬飲んで横になっとく方がいいと思って…」
「だからって、一ビン丸ごと飲むのかお前は!」
話がかみ合わない。パパは首をかしげながら、そう返した。
「そんなの飲む訳ないわよ。前の分からあまり時間経ってないかなとは思ったけど。私って、ホントに危ない状態だったの?」
ママは納得できないという調子で反論した。
「ねぇママ、ママが寝る前に、私とどんな話をしてた?」
だから、私は恐る恐るそんな質問をぶつけてみた。案の定、私以外の人の顔は強張ったけど…
「今日の晩御飯のおかずのことと、明後日の母親教室の話じゃない。それに、もうすぐ毎週行かなきゃならなくなる、病院通いって結構大変だよねって。」
「それだけ?」
ママは私が念押しするので、不思議そうに肯いた。

驚いたことに、ママ乃記憶は『もしかしたら龍太郎さんとに子供がいたかもしれない』という会話の部分だけ、すっこりとなくなってしまっていた。お医者様いわく、
『自分のキャパシティーを超える事実に耐えられるよう、聞いたこと自体を封印してしまう“部分記憶喪失”なのではないか。』ということだった。

だとしたら、下手に刺激するのは得策じゃない。ママはその日1日の入院で、次の日家に帰って来た。

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genre : 小説・文学

10年目の真実-marine side 25

10年目の真実(marine side)


ママが龍太郎さんの子供を?!
私も、夢の中の世界はパラレルワールドなんじゃないかと思い始めていた。でなきゃ、こうもいろんなことが一致するはずはないもの。
私も妊娠中、しかも双子…それがきっかけで、こっちとあっちがつながったのかも知れないって。でも、そうするとこの子たちは秀一郎との…なんだろうな。

散々迷った挙句、私はママにそのことを尋ねていた。
「ねぇママ、ママは龍太郎さんと付き合っていたときに生理がすごくきついこととかあった?」
私の質問にママは首を傾げながら肯いた。やっぱり見に覚えがあるんだ!
「普段は軽い方なんだけど、一回だけ吐き気はするし目眩はするしで、早退したことあったけど。一回だけだったんで良く覚えてるわよ。でも、何故?」
「うん?ううん…なんでもない。」
聞いてはみたものの、理由を聞き返されるとすんなりと口からはでなかった。
「何でもない訳ないでしょ?今更、そんなこときくんだもの。」
「うん…あのね、母親教室の仲間にさ、生理がきついだけだと思ってたら流産だったって後で医者に言われて、今回すごくナーバスになってるのがいるんだ。」
その言葉に案の定ママの顔が歪んだ。
「知らないうちに?」
「うん、後で看護師さんに聞いたら、『そういうこともたまにありますよ』って言われた。
ママはそれを聞いて小刻みに震え始めた。やっぱり聞くべきではなかったのかもしれない。
「ゴメン、なんだか頭が痛いの。部屋で休んできて良い?」
ママはそう言って寝室に入ると、音楽をかけた。物悲しいバイオリンの調べ…「アルビノーニのアダージョ」だ。私はママと違ってクラシックには全く興味はないけど、この曲はママが折に触れて聞いているので知っている。

どれだけの時間がたったろうか。そろそろ夕食の用意を始めても良いころになってもママは部屋から出てこない。よっぽど頭が痛いんだろうか。
その時、電話が鳴った。
「はい、もしもし飯塚です。」
「あ、未来ちゃん?志穂です。夏海さんは?」
「ちょっと待ってください、ママぁ電話!」
私は扉の前に行って呼びかけたけど、ママからの返事はなかった。ぐっすり眠っちゃってるみたいだ。
「寝ちゃってるみたいです。すいません、起きたら電話するように言いましょうか。」
「ありがとう、じゃぁそうして。」
「はい、解りました。」
私がそう言って、電話を切ろうとした時、志穂さんが言った。
「ねぇ、何か音楽かけてる?」
そう言えば、さっきから、リピートモードになってるみたいで、ずっとアルビノーニのアダージョがかかり続けている。あまりにも長い間かかりすぎていて、かかっている認識すら私には無くなっていたけど、そう言えば今日は耳の良いママにしては音量が大きすぎるような気がする。
「ええ、ママがアルビノーニのアダージョを聞いてますけど。私、ちょっと変なこと言っちゃったんですよね。だから、落ち込ませちゃったかな。ママ、凹むといつもあれ聞いてますから。」
「アルビノーニのアダージョ?!ねぇ、未来ちゃんあなた、夏海さんに何言ったの?!それより夏海さんを見て来て!早く!早く!!」
志穂さんはアルビノーニのアダージョと聞いた途端ににわかに焦ってそう言った。私は、志穂さんが何故そんな風に声を荒げて焦っているのかまったく解らなかった。

首を傾げたまま、ママたちの寝室を覗いた私が見たものは…静かにベッドに横たわっているママと、空になった風邪薬のビンだった。

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genre : 小説・文学

chiffon side 13

本人が気づいていない内に流産していることがある。その一言で私が囚われてしまった1つの憶測…

向こうのママ(つまりはこっちのお義母様)ももしかしたら知らないうちに流産しているのではないだろうか。
そして、その事実を私のように何らかの形で、龍太郎さん(つまりはお義父様)だけが後年知ってしまったとしたら…しかも、お互い別の相手と結婚して、その人と子供まで成した後で。

私たち子供には口が裂けても言わないんだけど、志穂さん(こっちではママ)は龍太郎さんとの結婚って最初は偽装だったみたい。親たちの手前でだけ結婚して、志穂さんは別の男性と付き合っていた。だから、龍太郎さんは、秀一郎さんを自分の子供だと思ってなかったみたい。徐々に自分にそっくりになっていく秀一郎さんに戸惑いながらも、ムリにそれを否定していたという。
でも…秀一郎さんが自分と同じ病に冒されたことで、本当に自分の子供だと認めざるを得なくなって、ママと別れたことを後悔しての衝動死だったと彼女らは見ている様だ。
だけど、龍太郎さんは秀一郎さんが自分の血を分けた本当の子供だと、とっくに気付いていたのではないだろうか。それでも、それはあっちのママではなく、志穂さんだったから生まれて来たのだ。そう思っていたのだとしたら…

そう思って、新しい出会い・家族を大切にして生きてきた龍太郎さんはある時知ってしまったんだ。本当はあっちのママにもちゃんと子供が出来ていたってことを。
体調を崩したあっちのママをその時に病院にすぐ連れて行って、流産だとはっきり診断されていれば、自分に原因があるかもしれないと検査もしなかっただろうし、龍太郎さんの性格なら、生まれてこれなかった命でもそのことの『責任』といいう形であっちのママとの結婚を進めることができたんじゃないだろうか。実際、こっちでは、梁原さんとの子供の秀一郎さんを自分の子として迎え入れている訳だし。
でなければ、龍太郎さんはあっちの秀一郎さんを本当に可愛がっていたみたいだから、秀一郎さんが11歳にもなって命を絶つのはおかしすぎる。

あっちのママにも子供ができていた。そう考えれば全ての辻褄が合うのだ。

だけど、この事実をお義母様に確認するのは気が引けた。妊娠中の今、何気ない様子でそういう話題を出すことは可能だけど…それに龍太郎さんが死んでいるのはあっちの世界での話だし。

折角のプロの栄養指導なのに、その日の乃笑留さんの話は、何も私の頭には残ってはいなかった。

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genre : 小説・文学

聖画

「これでどう?」
「いいよ、ありがとう。」
私は念願のマイホームのリビングにお気に入りの絵を掛けるように夫に頼んだ。
その絵は鉛筆書きのイエス様。
思いの外ごついイエス様が満面の笑みを浮かべて手を広げている。横には小さな羊。残りの99匹を置いてでも1匹の羊を探す聖書のお話しの絵。

その絵の作者は木原直人、彼の両親が先生をやっている教会学校に私も通っていた-幼馴染みとでも言えばいいのだろうか。
だけど、彼は話はそっちのけで先生であるお父さんの横で、ニコニコしながらいつも絵を描いていた。
イデオ・サヴァンと言うらしいが、日常生活は出来るくらいの軽度の知的障害だと聞いた。本人の中の時間がゆっくりな分、何か飛び抜けて素晴らしいものを持っていることが多いらしい。直ちゃんの絵は本当に見るものの心を温かくする力を持っていた。

あるとき、直ちゃんはイエス様を書いていた。
「直ちゃん、このイエス様ごっつくない?」
私がそう言うと、直ちゃんは、
「そうかな、イエスさまはどんなひとでもだきしめてあったかくするんだよ。だからごっつくなくっちゃ。」
と言って笑った。そのときの笑顔は絵の中のイエス様と同じだった。
「描きあがったらそれ、私にくれる?」
私はどうしてもその絵が欲しくなった。
「いいよ、かいたらあげるね。」
直ちゃんは即答するとまた絵に集中した。
そしてもらったのがこの絵なのだ。落書き帳に描かれた鉛筆書きのこの絵を私はお小遣いで買った額に入れて自分の部屋に飾った。
私にとっては、どんな巨匠のイエス像より、直ちゃんのちょっとマッチョなイエス様の方が本当の姿だと思えた。
私は不思議そうに絵を見た弟に、
「この絵を描いた子は将来絶対に有名になるわよ。だから、先にファンになっとくの。」
なんて言って笑った。

でも、そんな日は来なかった。誰よりも神様に愛されていた直ちゃんはそれから2年後、突然トラックに撥ねられて天国に帰っていってしまったのだ。神様はこんな荒れた世の中に、愛する直ちゃんを長く置いておけなかったのかも知れない。

直ちゃんのイエス様は辛い時悲しい時、いつでも私を励ましてくれた。
嬉しい時には一緒に喜んでくれているようだった。

-私の小さいものの一人にしたのは、私にしたのである-
『靴屋のマルチン』…彼はイエス様だったのかも。でも、私は彼に悪いこともしなかった代わりに、良いこともしなかったな。

「本当にこの絵、いいよなぁ。見てると心が温かくなる。」
かけ終わった絵を見てしみじみ夫がそう言った。

今度の休みには夫を誘って、直ちゃんの好きだった花を持ってお墓参りに行こうと思う。


                         -完-

                        

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theme : ショートショート
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Future-chiffon side 12

10年目の真実(chiffon side)


あの後、お義母様は戸田さんたちの名前を私が知っていたことを何も聞いてはこなかった。たぶん、あの後話題になってただろうに。

結婚して半年が過ぎたころ、妊娠していることが分かった。しかも、双子。
「双子を妊娠してるからって、3人分食べなくていいのよ。それより、早産になることが多いからくれぐれも無理しないようにね。」
私が双子を妊娠していることを知って、清華のお兄ちゃんのお嫁さん、乃笑留さんが妊娠中の食生活のアドバイスをしてくれた。乃笑留さんは病院の管理栄養士をしている。
「ホントに今の若いお母さんって、何考えてるか分からない人、多いんだもん。あ、結城さんがそうだとは言わないのよ。」
乃笑留さんだってまだまだ若いのに、ため息をつきながらそう言った。
「ちゃんと『朝ご飯食べたよ』って報告受けて、よく聞くとスナック菓子だったりね。そんなのがザラだから…」
いくら何でもお菓子を主食にはしないけど、私。でも、お世辞にも良い食生活だとは言えないかも。」
「ま、悪阻で食嗜好が変わるのは事実だけど、自分の欲求に任せてケーキばかり食べてたりとかね。ホント、指導のし甲斐があるってものなのよ。」
「そうなんですか。」
「妊娠ってことの意味を知らないのかな。命を何だと思ってるんだって説教したくなるのをこらえるのに必死にならなきゃならないの。」
小柄でお人形さんみたいな彼女の、オバサンチックな発言に、私は笑いを堪えるのに必死だった…あの一言を聞くまでは。
「知らないうちに妊娠して、流産までしているケースまであるんだから。ウチみたいなのが特殊なんだとしてもよ、そこまで呑気になれるもんなのかしらね。」
乃笑留さんのママはある病気を抱えていて、それこそ自分の命を引き替えにしてでもと彼女を産んだのだと、前に清華に聞いたことがある。
それにしても、流産してることに気づかない人もいるの?!私はある1つの憶測が頭を過って固まってしまった。
「流産が分からない人がいるんですか?」
そう彼女に尋ねた声は震えていたかもしれない。
「ただ遅れた生理がかなり重いなとしか思わなかったとすればね…どうしたの?結城さん。」
急に考え込んでしまった私を、乃笑留さんは怪訝そうに見つめた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

お義母様のご学友-chiffon side 11

お義母様のご学友


私は大学を卒業して、どこかに就職することもなくそのまま、すんなりと秀一郎さんと結婚した。もう一人の私の壮絶な生き様をつぶさに見ている私には、何だかそれが後ろめたい気もした。私だけがこんなに幸せで良いんだろうか。

そう、梁原さんや畔上さん、さらに清華や乃笑留さんまでいることを知ってからは、私はあの夢は夢ではなくパラレルワールドなのだと思うようになっていた。

-*-
「こんにちは。」
「あら、未来さんいらっしゃい。」
ある日、結城の実家を訪ねると、そこには戸田(旧姓皆川)悠さんと、中山(旧姓速水)容子さんがいた。2人ともお義母様の高校時代の同級生で、あちらの私は、ママの親友として何度も顔を合わせていた。
「はじめまして、未来です。」
私はお二人に挨拶した。
「へぇ、これが秀ちゃんのお嫁さんか。結城が言うように、確かに夏海に似てるよ。」
と、戸田さんが言った。
「そう?」
「うん、似てるよね。大体男の子なんて、無意識に母親を求めるもんよ。ま、なんせ旦那様があれだから…余計なんじゃない。」
「そう、そうなのかしら…」
あけすけない調子で言う中山さんの言葉にお義母様の瞳が揺れる。

「で、今日は何?」
「あ、この間のクラシックショコラなんですけど…何か上手くいかないんですよ。それが聞きたくて。ちゃんと連絡してからお伺いすれば良かったですね。」
「良いわよ、木曜日はいつも家にいるって言ってるんだし。」
私が謝ると、お義母様は手を振りながらそう返してくれた。
「あのクラシックショコラ?結城の大好物じゃん。」
すると、中山さんがそう言った。そう言えば、あっちのママと志穂さんがそう言いながら、そのケーキで紅茶(プリンスオブウェールズという銘柄の)を飲んでいたのを思い出した。
「へぇ、そうなんですか。秀一郎さんも好きなんですけど、お義母様みたいに上手く出来なくて。」
「やっぱ、親子だね。夏海。」
しみじみとそういう戸田さんの言葉にお義母様の肩が揺れた。よくよく考えてみれば、梁原さんも皆さんとは同窓生、お二人とも顔は知っているはずだ。そんな梁原さんにそっくりになっていく秀一郎さんの事…本当は分かっているはずだろうに。たぶん、血のつながりより深いつながりを暗にお義母様に言おうとされているのだろうな。素敵な方々だと私は思った。
プリントアウトされたレシピを私に手渡したお義母様は、いつも通りの穏やかな笑顔だった。
「あ、強力粉なんですか?今まで薄力粉使ってました。だから、生地に弾力がなかったんですね。」
私は自分の間違いを確認すると、
「お邪魔しました。じゃぁ、戸田さんも中山さんもごゆっくり。」
と言って、実家を後にした。私がそう挨拶をした時、戸田さんはびっくりした顔をした。私はそれが最初何故だか分らなかったんだけど、エレベーターのボタンに手をかけた時、やっと自分のしたことに気付いた。
(あ、私…まだお二人の名前聞いてなかった!)

きっと変だと思ったに違いない。だけど今更戻って訂正するのももっと変。あまりにもすごすぎて、私が見ているもう一つの世界の話、できるわけないもの。
私は逃げるように自宅に戻った。

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marine side 24

だけど、踵を返して歩き出した私の腕を克也は再び掴んだ。
「おまえ、冗談は止せよ。」
「冗談なんかじゃないわ!」
私はそう言った彼を睨みながらそう返した。
「じゃぁ、名前は、歳は、何やってる!」
「な、名前は…板倉陸。歳は27歳よ。お好み焼き屋をやってるわ。」
私はとっさに陸君の名前を出してしまっていた。それも、年齢を10歳上増しして。
結婚なんか口から出まかせだと思っていた克也も、私が相手の男の事をすらすらと、しかも私が出まかせでは思いつきそうにもない『お好み焼き屋』のフレーズに、驚きを隠せない様子だった。
「そんな若い男が何でそんな商売なんかしてる。」
「あら、親と一緒にやってるのよ。あのへんじゃ、お好み焼き屋なんて数が少ないから、結構お客さんも多いの。私ね、お義父さんやお義母さんとも仲良いのよ。」
「バカな!お前いなくなってから、何日経ったって言うんだ。ウソも大概にしろよ!」
克也は、私がニコニコと相手の両親の話まで始めたので、掴んでいない方の拳をブルブル震わせてそう言った。
「だって、本当に好きになっちゃったんだもん。恋愛に時間なんて関係ないでしょ、主任。だから、今更主任に恋人面されても困るんですよ。」
「…」
私は呆然としてしまった克也の腕を完全に振り解いて、彼の眼を見て薄い笑みさえ浮かべながら、
「じゃぁ、これで。主任、翠さんとお幸せに。」
と頭を下げると、彼を残したまま歩いて行った。

私は振り返ることもなく、ずんずんと歩いて行った。内心、克也が追いかけてきたらどうしようと不安だった。でも、克也は私のあんなウソを信じてしまったのか、追いかけては来なかった。あるいはウソだとわかったとしても、何が何でも別れたいという私をもう引きとめるのが面倒だと思ったのか。どっちにせよ、彼が追ってこない方が私には都合が良かった。
子供の事を知られて、すんなりと逃げてくれればまだいいけれど、責任を取ると言われたりするのも困るし、逆に責任逃れのために、秀一郎の名前を迂闊に他の人の前で出されてもしたら…私はそれが怖かったのだ。

家に帰った私は、ご飯も食べずにベッドにもぐりこむと、何もかも忘れるかのように昏々と眠った。

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genre : 小説・文学

克也-marine side 23

克也


秀一郎が龍太郎さんの亡霊に操られてるというのなら、私はママの生霊に操られているのかも。

ママはもう現実を生きてはいない。ちゃんと仕事もしているし、ご飯も作るし、パパや私たちとも会話はしてるけど、私はそう思う。

その実、志穂さんやヤナのおじさんと龍太郎さんの思い出話をしているママが一番生き生きとしているのだ。
秀一郎には気にするなと言ったけど、たぶん志穂さんもヤナのおじさんもきっと同じように現実を生きていないんだと思う。まるで、地球ゾンビ化計画…その毒気に晒されて、私たちもおかしくなっただけなのよ。そう、それが一番平和な考え方だと思わない?

小一時間、その雑居ビルで過ごして、ぶらぶらとその辺を見るでもなく見て…夕方、私はじぶんちの最寄り駅に着いた。

「未来!!」
駅の階段を下り切って、バスターミナルの方に向かっていた私の耳に、聞きなれた声が響いた。克也だ。私は聞こえなかったフリをして、そのままずんずん歩いて行く。ドタドタと慌ただしく階段を下りて来た彼が、駆け寄って私の腕を掴む。
「お前、いつ帰ってきた!俺、何度も連絡入れただろう、なんでシカトしてんだよ!!」
「昨日、帰って来ました。でも、主任がどうしてここに?」
私は抑揚なく事務的にそう返事した。
「今日はこの辺で仕事があった。で、直帰してお前の家に寄るつもりだった。」
家へ?私はさぁーっと血の気が引くのを感じた。今ここで克也がいきなり家に現れたら、そこにパパが帰ってきたらと思うと、想像するのも怖かった。
「な、何でウチになんか来なきゃならないんですか!」
「もう一度話し合おうと思って、俺ちょっと言い過ぎたよ。だけど、携帯もメールもいくら入れてもなしのつぶてだろ、お前。だから、思い切って来てみたんだ。」
「もう、話し合うことなんかないはずです。仕事も辞めましたし、つながりなんてないじゃないですか。」
お願い、今更もうかかわってこないで…私はそう思いながら彼に言った。
「辞表は俺のとこで止めてある。病気ってことにしてあるから。戻って来いよ、病欠も長引くと上が煩いからな。」
すると克也はそう言った。
そして…元通り広波克也の「愛人」を続けろということですか…でもね克也、私はもう戻れないんだよ。いろんな意味で。
「広波主任、辞表は遠慮なく上に提出してください。私ね、昨日まで名古屋にいたんです。で、今回はちょっと戻っただけなんで、またすぐ名古屋に帰ります。」
「なごや?!何だそれ。」
案の定首を傾げた克也に、私は続けてこう言った。
「あっちで知り合った人と…結婚するんです。」
「結婚?」
驚いた彼の私を掴む力が緩んだ。私は彼の腕を振り解くと、軽く会釈をして踵を返した。

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genre : 小説・文学

お題小説と言うものを書いてみました。

FC2小説に「お題小説」という、まったく脈略のない3つのキーワードで3P以内でのショートショートを書くというものがあるのですが、そこにインスピレーションの働くお題が載っていたので挑戦してみました。


お題:「雪 ゴミ置き場 あの人」

「ふぅ、終った…意外と時間かかっちゃった。間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたわ。」
私は、ゴミ置き場に最後のゴミ袋を置いてひとりごちた。

それにしても最近の自治体指定のゴミ袋って、どうしてこんなに小さいんだろう。おかげですごい数の袋になっちゃったし…“分別する”のにもすごく時間かかっちゃったじゃない。

「冷たっ?!」
幾つにもなったゴミ袋を眺めて下を向いていると、私の首筋に冷たいものが落ちてきた。見上げると、例年より少し早く初雪がふわふわと風に乗って舞っている。

やがて、時期の早いそれは、ゴミ袋の名前の上に乗るとすぐに解けて水性マジックの文字を消す。私の全てを詰め込んだそれから、私の名前を…私の存在を消し去っていく。

-さよなら…愛しい人。世界で一番愛してた。-
私は小さな声でそう告げると、自分の部屋に戻っていった。

そして…私は自分の部屋の窓から私の全て-思い出の品と共に幾つにも“分別した”あの人自身-を乗せて走っていくごみ収拾車をぼんやりと眺めた。
「ホントに…全部終ったわ。」

一人きりの今夜は、ぐっと冷える夜になりそうだ…

                                         -完-


※ホラーは嫌いなはず…なんですがね。

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怪我の功名かも(加筆改稿報告)

「my precious」ですが、章の数が初回UPの話数より少なかったので、章立てで移動して書き替えました。

章立てになってるので、より小説っぽいかもしれません。まさに怪我の功名かもしれません。

分岐までのところはエピソード的にはまったく同じなのですが、振り返ってる龍太郎の気持ちがまったく違うため、微妙にニュアンスが違ってるはずなんですよ。そこんとこを表現してみたくなって、ポータルに移動するときに1から書いてしまいました。

よろしければ、その細かい違いを比べてみてください。クライマックスも喘息でずいぶんはしょりましたので、かなり加筆してあります。

加筆改稿に際して、カテゴリーを「my precious」に変更しました。

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