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marine side 22

翌日、私と秀一郎はとある駅近くのファミレスで会った。何で私がその店を指定したかというと、小さな店では会話を店の人に聞かれそうで落ち着かないから。
先についた私は、さっと辺りを見て喫煙席を指定する。別に私も彼もたばこは吸わないけど、禁煙席には小さな子供連れの若いママたちが遅いランチを楽しんでいた。

やがて、待ち合わせた2時きっかりに秀一郎が来た。
「待った?」
「ううん。」
上気した秀一郎の言葉に、私は面倒臭そうにそう返した。
「それで、昨日の話なんだけど…ホントなの?」
彼は子供という単語も出せないまま、私のお腹の方を見てそう言った。私は黙って肯いた。
「…俺でしょう?俺、喜んで責任取るから。」
続いて、彼は笑顔でそう言った。
「違うよ、父親は秀一郎じゃないから。子供なんてそんな簡単に出来るもんじゃないわ。」
「どうして、断言なんてできないだろ?縦しんば、俺の子供じゃなくても未来の子供なら俺の子供だよ。俺、その子の父親になりたいんだ。」
突っぱねる私の手を取って、秀一郎はそう言ってくれた。私は嬉しくて目眩がしそうだった。涙が滲む。だけど…だからこそ、私は尚更秀一郎に向かって冷たく言い放った。
「止めてよ、酔った勢いで1回寝たぐらいでいい気になんかならないで。あんたには明日香がいるじゃない。」
「明日香は妹みたいなもんだよ!そんな関係なんかじゃない!」
「あんたはそうでも、明日香はそうは思ってないんじゃない?私は姉妹で揉めるなんて願い下げだわ、迷惑よ。」
「…迷…惑?」
私に言われて、秀一郎のかわいい顔が少し歪んだ。
「そうよ、迷惑なの。あんたみたいなお子ちゃまなんて、克也と別れてすぐであんなに酔っぱらってでなきゃ、相手になんかしなかったわよ。」
そう、あんなに酔っぱらっていなければ、自分に正直になって彼の腕の中にいることなんてできなかった。
「迷惑だったのか?俺の独りよがりだったのか?…」
私の言い草に明らかに彼がショックを受けているのが分かった。だけど、後には退けないの、私は。
秀一郎、あんたは責任なんか感じなくて良いの。こんな5つも年上の女なんか選ばなくても、あんたには明日香がいるじゃない。
確かにね、子供はあんたの子供の可能性の方が高いよ。高いけど、それは100%じゃない。克也の可能性だってないわけじゃないの。そんな女を結城の嫁になんて考えちゃいけない。
あんたは、堂々と自分の子供だと言える子を、明日香に産んでもらえばいいのよ。
私は自分自身にも言い聞かせるように言った。
「目をさましなさい、あんたは龍太郎さんの亡霊に操られているだけよ。私はもう、話すことないし、帰るわね。」
そして、足早に店を出ると、隠れるように手近な雑居ビルに入り込んで独り泣いたのだった。
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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 21

そう、父親として確率の高いのは克也より秀一郎の方…明日香とはまだだったらしくて、初めての彼にはコントロールなんて利くはずもなく、酔いも手伝ってあっという間に私の中で果ててしまった。そのことにまったく不安を感じなかったと言えばウソになる。
ただ、私は龍太郎さんとママが別れた原因って『病気のためにふつうには子供はできない』と医師に診断されたこと。そして、その同じ病気に秀一郎もかかってしまったってことに、一縷の望みを抱いていたのだ。そのなけなしの望みだって、治療は日進月歩で進化しているし、結局志穂さんは秀一郎を産んだ訳だし。ただの気休めでしかなかったのだけど。

-そりゃ、イタイな。それでもやっぱり産むんだ。-
そんなことを思っていた私に、けがをした人のデコメを入れたメールが届く。
-うん、秀一郎の子供なら、どうしたって産みたいよ。それにウチ、弟が死んで生まれてきてるんだ。だから、生まれようとしてがんばってる命は殺せないってパパが言ってくれてさ、父親の名前も聞かないし、全面的にバックアップするって言ってくれたんだ。-
-そっか、じゃぁ、がんばれってしか言えないけど、ガンバレミクすけ!!-
清華の最後のメールにはマッチョな力こぶが躍っていた。
-ありがとう、清華-
私たちは、そこでメールを終えた。

それからしばらくして、また着信音がなった。今度はワンフレーズ聞いただけで私は固まった。それは、秀一郎の着信音だったから。それでも私は、一度深呼吸をしてから、徐に着信ボタンを押した。
「何?」
平静を装いそう聞いた。
「帰って来たって明日香から聞いて…」
「うん、今日帰ってきた。いっぱい…電話くれたんだね。」
私がさっき久しぶりに着信履歴を見たとき、そこにはものすごい数の結城秀一郎という名前が羅列されていた。たぶん、明日香から私が携帯を持たずに出たことは聞いているだろうに…
そして、息の音がして(たぶん深呼吸したんだと思う)
「明日香に聞いたんだけど、あれ…」
と遠慮がちに私に尋ねた。
「それはないよ。」
秀一郎の言葉を最後まで聞くこともなく、私はぴしゃりと跳ね返した。それは絶対に子供の事に決まっているから。
「ってか、電話なんかでそんな話しないで。」
今この部屋にいないまでも、すぐ隣のリビングに明日香はいる。そんな中ではどんな話もできない。明日香はママのように自分が出ていない電話の受け答えまでする耳は持ってはいないとはわかってはいても。
「じゃぁ、会いたい。」
「明日なら…時間取れる?明日にはママも仕事に行くだろうし、抜け出して秀一郎んとこいくけど。」
「午前中は授業があるけど、昼からなら。でも、今日帰って聞いて明日また東京まで出てくるのって、身体に障るといけないし、俺がそっちに行くから。」
秀一郎のマンションに行くと言った私に、秀一郎はそう返した。
「じゃぁ、2時に〇〇駅の××で待ってる。」
身体の事をいたわってくれるのは正直うれしかったけど、こんな話を外でするのはちょっと辛いな、そう思いながら私は少し家から離れたターミナル駅のファミレスを指定していた。
「分かった。」
秀一郎はそう言うと、電話を切った。

ああもう!明日香がすぐ近くにいる空間で、こんな話するなんて本当に心臓に良くない。
疲れちゃった…

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

祝?一周年記念

「パラレル」一気に、FC2小説からコピペ反映させました。
「指輪の記憶」は同じようにコピペでいいんだけど、問題は「マイプレ」。今、トランスしちゃうと「Future」がぶっちぎれちゃうからなぁ。前のスペースに2話ずつ突っ込むか…

いい加減新しい話も書きたいです。とは言え、今頭にあるのは某CSに応募して落っこちたのを、1人称から3人称に書き替えて出すつもりなんですけどね。あのストーリー好きなんですよ。だから、倉に入れときたくない。

それともう1つ、書こうと思っているものもあったりしますが、それが日の目を見るのはかなり後になりそうです。

早いもので、たすくがベテルを立ち上げて明日で1年を迎えます。この1年、ホントよく書きました。いい加減、「遠い旋律」が終った時点でもうネタ切れるとか思ってましたけど、「満月に焦がれて」をスタートさせることができて、「満月」から「パラレル」へ「パラレル」から「マイプレ」・「ハムケ」・「Future」へと…

まだ、もう少しネタが切れるまで間があるみたいです。もしよろしければこれからもたすくワールドに足をお運びいただければ幸いです。

                                               神山 備

父親(後)-marine side 20

父親(後)


うとうとしていると、携帯で起こされた。この着信音は…良かった、清華だ。私は家に置きっぱなしだった携帯電話に手を伸ばした。

「もしもし。」
「あ、やっとつかまったよ。おかえり。ミクすけごめんね、チクっちゃって。」
清華は開口一番、私に謝った。
「良いよ、おかげで踏ん切りもついたしね。」
「シカトしようかとも思ったんだけどね、あのおばさん、わざわざ電話くれてんだし、なんか良さ気だったし。」
「うん、板倉さんには随分お世話になったんだ。今回の事がなきゃ、私ずっと名古屋で暮らしてたと思う。」
「そっか。それで…おばさんの話、あれホントなの?」
加奈子さん、清華に子供の事話しちゃったみたいだ。
「ホントだよ。」
私が肯定すると、清華はしばらくの間無言だった。
「ホントなのか…独りで育てるのは大変だからね。ウチのノンちゃんとこ、ノンちゃんはもう6歳になってたけど、それでもサユママはすごく苦労してたもん。」
ノンちゃんと言うのは清華のお兄ちゃん、周人さんの奥さんの乃笑留さんという人の事。ノンちゃんのお父さんはノンちゃんが小学校に上がる直前、交通事故で世を去った。
それで、ノンちゃんのママはたった一人でノンちゃんを立派に育て上げ、ノンちゃんは今、管理栄養士をしている。
「で、どうするの?あっちには知らせるんでしょ。」
あっちって言うのはたぶん、克也の事だろう。
「ねぇ、メールに切り替えていい?」
「あ、うん…いいよ。じゃ、一旦切るわ。」
清華が着信を切ったので、私は徐にメール画面を出して入力した。
-ゴメン、隣のリビングに明日香がいるから、聞かせたくなかったんだ。それで、産むには産むけど、克也に知らせる気はないよ-
そう入れて送ると、間髪いれずに清華から返信があった。
-んなこと言ったって、あっちは父親でしょうが。いくら親が決めた婚約者でも、状況はこっちが有利じゃない。押しちゃえ押しちゃえ!-
有利か…私が克也だけを思っているのなら、そうなんだろうな。
-有利とかそういう問題じゃないのよ。というか、克也じゃないかも知んないの-
そう送ったら、ムンクの叫びのようなデコメが施されたメールが送信されてきた。
-!!!まさか、あの子と?!聞いてないよぉ!!-
清華には本当は秀一郎が好きだということは話してあったけど、さすがに今回の事は話してはいなかったのだ。
-そのまさか。だから、私は秀一郎から離れるために名古屋に行ったのに-
私は続いてそう送信した後、ため息をついた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

chiffon side 10

私は慌てて帰って来た秀一郎さんの運転する車で病院に向かった。
その時、私はふと、秀一郎さんがヤナのおじさんを知っているのか聞いてみたくなった。
「秀一郎さん、梁原健史さんって知ってる?」
「えっ、未来さんも梁原さんを知ってるの?」
やっぱりヤナのおじさんも実在していたの?!私は聞いておきながら、秀一郎さんの口から梁原さんという名前がすんなり出たことに驚いた。じゃぁ、何で何も話題に出ないのだろう。あちらの世界では、ヤナのおじさんと、お義父様は仕事も一緒で、3人が揃うと必ずお義父様の話になるのに…そう言えばあの写真、かなり古かったけど。
「え、ええ…まぁ…私って、お義父様とお義母様の後輩でしょう?私の同級生にお義父様たちの同級生の娘さんがいたのよ。
その子のお家に伺った時、『あんたって結城んとこの息子の嫁になるんだってね。そう言えばヤナってどうしてるかなぁ、全然連絡とれないんだけど…』って言ってらしたの。だから、梁原健史さんっていうお名前を聞いて、お義母様に聞こうかなって思ってたら、今日熱出しちゃって…眠ったら忘れてたから。」
私がお二人の後輩なのは事実だけど、後は口から出まかせ。でも、私がそう言うと、秀一郎さんは顔を曇らせた。
「彼…もう亡くなってるよ。24年前に山で遭難してる。」
えっ、ヤナのおじさん亡くなってるの?しかも24年前って言ったら、秀一郎さんが生まれた頃じゃない。
「じゃぁ、顔は知らないの?」
「知らないよ。でも、死んだのは24年前だけど、遺体が見つかったのはそれから20年も経った4年前でね、その時身元引き受けを父様がしたから、僕も同行したんだ。その時、『この方がいなかったらお前は生まれてないんだよ。お前の命の恩人だから、大切に扱って欲しい。』って言われて、お骨膝に乗せて運んだし、よく覚えてるよ。」
「そっかぁ、もう亡くなってるのね。じゃぁ、そう伝えとくわね。」

たぶん、秀一郎さんは、お義母様とヤナのおじさんとの子供。でも、山で遭難した後、お義母様は秀一郎さんの妊娠の事実を知ったのだ。そして、お義父様はそんなお義母様と結婚し、秀一郎さんを自分の実の子として育てた。
だから、私が指輪の事で『血は争えない』と言った時、すごく悲しい遠い目をされていたのね。

だけど後日、私はお義母様に、
「未来さんの同級生ってどなた?秀一郎から聞いてびっくりしちゃったわ。と言われて慌てた。ヤナのおじさんとあっちのママが同級生の話をしていたのを急いで必死に思い出す。確か…畔上ルリさんって人が、やっぱり同級生同士で結婚したって聞いたわ!
「あ、駒田…駒田ユリアです。」
「駒田?もしかしたら…お母様の名前なんて分からないわね。どんな方かしら。」
「その時、お父様もいらしたんで、お父様が『ルリ』って呼んでたような気がしますけど…たぶん。」
実際は彼らが同級生同士で結婚したこと、そして娘の名前を某有名なアニメのヒロインからとったんだって話で盛り上がっていたんだけなんだけど、おかげで見事につながった。はぁ、冷や汗かいた。
「ルリ?コマちゃんとルリも結婚したんだ。そう、ありがとう。」
お義母様が同級生の消息を知ってにっこり微笑まれたのを見て、私は胸が痛んだ。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

伏せられたフォトスタンド(後)-chiffon side 9

伏せられたフォトスタンド(後)


「未来さん、未来さん…」
目覚めた私はすごく汗をかいていた。
「大丈夫?ひどくうなされていたようだけど。」
お義母様が心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「あ、大丈夫です。変な夢見ただけですから。」
ホント、ビックリした。あっちの秀一郎さんと私がいきなり、その…あんなことしちゃうんだもん。考えるだけで顔が真っ赤になっていく。あ、でも私も来年は結婚するんだよねぇ。でも、先に夢で経験するのは何だかなぁ…いろんなことが頭を過っていく。
そんな黙ったままで赤くなってしまっている私を見たお義母様は、
「寝てまた熱が上がったんじゃない?」
と、私のおでこに手を当てた。
「熱は…下がったみたいね。」
「ええ、もう大丈夫です。」
お義母様、これは熱のせいではないですから。
「でも、もう少ししたら秀一郎が帰って来るから、そしたらあの子と車で病院に行けば良いわ。そのまま家まで送らせるし。」
「あれ?秀一郎さん、定時に帰って来られるんですか?」
私はそれを聞いてびっくりした。秀一郎さんはお義父様が『こき使う』と言われたように、まだまだ新入社員の今、早くに帰れることなんて滅多にない。
「あなたが眠った後、あなたの携帯に休憩時間に電話してきたのよ、あの子。出ないと心配するかと思って出たら、様子を話したら逆に心配しちゃって。『僕が未来さんを病院に連れて行くから。必ず定時に終わって帰るから、母様が連れてったりしないでよ。』ですって。」
「うわっ、そうなんですか?すいません。」
「謝ることなんかないわよ。仕事より親より彼女が大事。それで良いのよ。龍太郎はすぐに仕事を優先させるから、病気がまた出ないかといつも冷や冷やするんだから。」
お義父様は、若い頃大病をなさったと聞いている。

私はその時、部屋のシンプルだけどモノの良いドレッサーの上に置かれたそれには似つかわしくない些かチープなフォトスタンドを見つけた。中に入っている写真は、秀一郎さん?…微妙に顔が違う。人懐こい笑顔はそのままなんだけど、何だか大人びていて、しかも写真がかなり古い。少し変色していた。

「ただいま!」
その時、玄関で元気な声がした。秀一郎さんの妹、ほのかさんが学校から帰って来たのだ。
「じゃぁ、秀一郎が帰って来るまで待ってて頂戴。」
お義母様は、私がその写真を不思議そうに眺めているのに気付くと、フォトスタンドを伏せてほのかさんを出迎えに部屋の外へと出て行った。

-あれは、きっとヤナのおじさんだ-
実際に会ったことはないけれど、私はそう思った。彼はママの向こうでの旦那様。

でも、何でヤナのおじさんの写真がお義父様とお義母様の寝室に飾られているんだろう。
私は、もう一度写真を確認したい衝動に駆られたけど、お義母様が戻って来られるかもしれないと思って、そのままベッドの中にいた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 19

私は、ママのようにお酒に強くない。それに普段飲みつけないワインだったから、酔う加減もよくわからなかった。

「克也に二股かけられてたの…しかも、相手は親の決めた婚約者でさ、勝ち目ないのよ。」
酔った勢いでポロっと出てしまった。秀一郎は私のその台詞に黙って目を瞑った。
「でもね、内心良かったかなって思ってる。私、克也に飽きてきてたしね。」
そう言った私の目から涙がこぼれる。内心ホッとしているのは事実だった。秀一郎への想いの隠れ蓑に、言われるまま克也と付き合っただけだから、だけど、嫌いではなかったし、まだ飽きてもいなかった。
「お姉ちゃん、強がらなくていいよ。」
「強がってなんかいないわ。」
私はそう言うと、秀一郎から背を向けた。
「じゃぁ、何で泣いてる訳?自分の泣いてることも否定して、それでもまだ自分の気持ちを押し殺し続ける訳?そんなの身体に良くないよ。思いっきり泣けば?俺の胸で良ければ貸してあげるからさ…ほら。」
すると、秀一郎は私の前に回り込んで、私の頭を彼の胸に押しつけさせた。私の心臓はものすごい音を立てて打ち始めた。
「良いって言ってるでしょ!私、帰る!!」
それを悟られないように、私は慌てて帰ろうとした。帰ろうとしたんだけど、私の身体にワインは思いの外回っていて、すっと立ち上がることができなくてよろけた。
秀一郎は私の正面にいた。だから、私は逃げようとしたのに、逆に思いっきり彼の胸に飛び込む格好になってしまったのだ。
そんな私を秀一郎は強く抱きしめた。
「好きだよ…おねえちゃん。ううん、未来。」
私は驚いて顔を上げた。すぐ近くに秀一郎の顔があった。
「秀…一…郎…」
「俺は未来の事がずっと前から好きだった。もう、あんな奴忘れてしまえよ。俺が、いるよ。」
そう言って、秀一郎は私に口づけた。魂まですべて持っていかれるような激しいものだった。

秀一郎も酔っているだけ-私はそう思いながらも身動きすらもできなかった。私は酔っていなくても秀一郎の事が好きなのだから。

そしてそのまま…私たちはつながり、私は秀一郎の最初の女となってしまった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

オーラ、出てる?

嬉しがりたすく、リアルのそこここで小説書いていることをカミングアウトしてます。

その証拠に、店の中にリアル読者様もいる。

それでも趣味の物書き業、あんまし大声では言ってないんですよ。

ところが、ダイエットをきっかけに(最近リバ気味ですが、2年間で25kgあまり減らしました。)お声をかけてくださるお客様がいて、停滞中の私にがそれでもダイブロだけは続けているという話をしたら、
「何か他にも書いてる?」
と妙なフリをしてくるので、ぺろっと
「小説ブログも持ってます。」
と、言ってしまいました。そしたら、
「是非見せて欲しい!」
と言われてしまいまして…あちら様はたぶん50代後半の男性。げっ…っと思ってると、
「僕も書いてるから、僕のも持ってくるね。」
と、有無を得ない調子で押し切られた。

後日、全国的に本屋さんに並んでいるような雑誌(投稿雑誌?)のコピーを頂いた。うわっ、もしかしてプロ??ちゃんとした文学雑誌なんて知らないけど、すごく本格的な方…みたいだ。こんな方に原稿渡して良いのかなと逡巡しつつ、それでも「青空」シリーズ読んでいただきました。

彼はお店のほかの子にもコピーを渡したと聞いたし、その時私のことを聞いたんでしょうか。でなきゃ、オーラを出してるってこと??

ま、声優萌えとかオタッキーな発言はしょっちゅうしてますけど、どうなんだろ。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

marine side 18

「あ、そうだ、良いのがあるんだ。お姉ちゃんも飲む?」
その後、秀一郎はサイドボードからワインを取り出すと、ガラスのローテーブルの上に置いた。
「あ~、いいの?そんなの隠し持ってて。」
「良いんだよ、俺もう未成年じゃないんだから。別に隠してないから。」
そう私が茶化すと、秀一郎は口を尖らせてそう返した。そう言えば、彼は最近20歳の誕生日を迎えたばかりだったことを思い出した。
「でも、飲んでも大丈夫なの?」
「大丈夫って…病気の事を言ってるんなら、もう8年も前に完治してるよ。」
私が身体の事を心配しているのだと分かると、彼はウザそうにそう言いながら、自分と私の分のグラスを取り出した。
「そんなにいつまでも心配しないでほしいよ。父様だって結局再発はしなかったんだし、俺は父様より症状はずっと軽かったんだ。」
「ゴメン。」
彼は病気の事を心配されるのを一番嫌うのだということくらい、解っていたはずなのに…
YUUKIの一部の人間は、秀一郎が跡を継ぐことを是としない。そういう輩にとっては、秀一郎の病気は一番オイシイ部分。持って行きようによっては、欠格要件にすることもできるかもしれない。だから、今でも龍太郎さんの謎の死が病の再発を苦にしてだという噂が後を絶たず、秀一郎もいずれ再発すると声高にいうものもいたりするのだ。
…それよりも、秀一郎は自分が父親と同じ病を得たことで、遠巻きにでも自分が父を死に追いやったかもしれないとでも思っているのだろうか。
「いいよ、謝らなくて。それより、お姉ちゃん、俺に何か相談したいことあるんだろ。話、聞くよ。」
「あ…相談なんて別にないよ。」
続いて秀一郎の口をついて出てきた言葉に、今度は私が身を強張らせた。
「うそつき、話聞いてくださって顔してるよ。」
「してないわよ。」
一転、笑顔になって言う秀一郎から顔を背けて、ぶっきらぼうに私は返した。
「ま、いいや。とにかく飲もうよ。」
そう言うと彼は、私にワインの入ったグラスを手渡した。私はそれをあおった。
「へぇ、良い飲みっぷりだね。」
私は正直なところ、忘れたかったのだ。そして…彼に勧められるままに何杯もお代わりしていた。

でも、私は飲むべきじゃなかったんだ…

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 17

「お姉ちゃん、いきなりどうしたの。」
秀一郎はドアを開けて私の顔を見ると、そう言った。秀一郎は、明日香に倣って私をお姉ちゃんと呼ぶ。
「引っ越しどう?ちょっとは…すごいな、随分片付いてるじゃない。」
私はついこの間引っ越したばかりなのに、随分と片付いている室内に目をやってそう言った。
「ああ…ヤナさんがね片付け魔なんだよ。あの人が来るたびに何も言わないでも部屋が片付いていくんだ。」
「何よ、他人事みたいに。それに、ヤナさんって呼んでいいの?お母様の旦那さんでしょ?」
「そうなんだよね。全然現実感ないんだけど。でも、呼び方のことは、今までどおりの方が良いってヤナさんが言ってさ。」
私の言葉に、秀一郎はため息交じりでそう答えた。
「ふつう、死んだ元の夫と暮らした家にそのまま住みたいなんて言う男がいる?」
ま、経済的にそうならざるを得ない人もいるけど、結城家の場合経済的な要因はない訳だし。でも、子供にとってそれは気持ちのいいものではないと思う。ましてやあんな亡くなり方をした前夫の思い出がいっぱい染み付いた家には間違っても入ろうとはしないだろう。妻をあの場所から引き離そう…普通の夫ならそう考えるはず。
「母様とヤナさんって、父様の思い出話に終始してるんだ。何だか2人でいたって3人で過ごしているみたいな…そんなで結婚なんて違和感だったんだけど、ま、ヤナさんは良い人だし、母様が良いならそれでいいんじゃないかと思ってたんだ。要するに結婚なんて2人の問題なんだし。でも…俺。怖いんだ。」
秀一郎は、私の前でだけ自分のことを意識的に俺と言う。
「怖いって何がよ。」
「ヤナさんの目、あの人の俺を見るときの目だよ。」
そう言った時、秀一郎は明らかに少し怯えていた。
「家にいたときさ、気がつくといつでも目が合うんだ。もしかしたら、俺がリビングにいる間はずっと俺のことを見てるんじゃないかと思うくらいにね。」
「バカね、考えすぎよ。確かに、秀一郎ってあの頃の龍太郎さんにそっくりだってママも言ってるわ。だから、ヤナさんも懐かしくなってつい見ちゃうのかもしれないわ。だけど、たぶんそれだけのことよ。」
「うん…」
軽い調子で言った私の言葉に、秀一郎は歯切れ悪く返した。
「それにさ、YUUKIでも一緒だったわけでしょ。きっといろいろな思い出がヤナさんの中にあるのよ。そんなに心配しない。」
私はそう言って、秀一郎の肩を叩いた

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

リア友ラッシュ

相変わらず速度、あがりません。

確かにスイッチに悩みながら書いてるんですけど、それ以上に今私の首を締めているもの…

それは「リア友ラッシュ」

リア友ちゃんたち、軒並みパソ音痴ばかりが揃ってるもんですから、製本しないとダメ。しかも、その内のお二人が「気に入ったから、くれる?」って嬉しいことを言ってくださったりしたので、在庫がないところに新たな読者依頼が…

もう、喜々として製本してる私の横で旦那がつめたーく優しい(諦めが正解)目をしておる状態です。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

父親(前)-marine side 16

父親(前


そんなこんなで、私は板倉さんちに挨拶した後、バタバタと少ない荷物をパパの車に詰め込むと千葉の自分の家に帰って行った。

「お姉ちゃん、心配したんだから!名古屋っていったい何?!」
家に帰った私は、玄関もそこそこに明日香にそう言って泣かれた。
「秀君もね、ものすごく心配してたんだよっ!」
そして何の防御もしないうちに繰り出された秀一郎の名前に、私は身を強張らせる。
「ゴメン…秀一郎にはあんたから謝っといて。」
「何で?お姉ちゃんが帰って来たって言ったら秀君飛んでくるよ。自分で謝れば?」
私の返事に、明日香はそう呑気に答えた。
「秀一郎はあんたの恋人でしょ?!あんたが言ってよ!私、疲れたの。少し寝かせて。」
私はそう言って自分の部屋-とは言え半分は明日香のでもある部屋の自分のベッドに横になった。

まったく、泣きたいのはこっちの方…

秀一郎と明日香が初めて会ったときから惹かれあっていることは誰の眼からも明らかだった。
だから、私は自分が年上だと言うことを抜きにしても自分の気持ちを押し殺して2人の幸せを願うことができた。
-できたと思っていた。

だけど、克也と彼の婚約者の翠さんとの関係を知って文句を言った私に、克也は冷たく言い放った。
「んなことを言やぁさ、お前だって同じじゃん。お前だって、俺よかあのガキの方が良いくせに。何が好みなのかねぇ、あんな鼻たれが。」
「やめてよ、秀一郎のこと悪く言わないで。」
「ふんっ、まぁいいか。けどよ、あいつ妹のカレシじゃなかったっけ?そんなお前が俺に文句なんか垂れてどういうつもりだよ。」
私はそれに言い返せなかった。私が克也と付き合っていたのは、あの子たちから私の本心を隠すための隠れ蓑だったのだから。

だからといって、私はこのまま克也と馴れ合って、広波克也の「愛人」を続けるつもりはなくなっていた。

克也と別れた私の足はいつしか、最近ヤナのおじさんと志穂さんが再婚したことで一人暮らしを始めた秀一郎のマンションへと向かっていた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

ドルチェ-marine side 15

ドルチェ


「おはよ、未来ちゃん。今日は早いね…そちらの方は?」
「ドルチェ」扉を開けると、菊池さんはいつものあいさつをくれた。
「おはようございます。あ、母です。」
「はじめまして、私、飯塚未来の母です。今回は娘が大変お世話になりました。」
「とんでもない、こちらこそ恥ずかしながら急に嫁に逃げらて困ってたんです。おかげで助かりましたよ。」
ママの挨拶に菊池さんが照れて頭を掻きながら返した。
「それで、勝手な事を言うようですが、娘を連れて帰ります。」
「そっか…迎えに来られたんですね。いえいえ、こちらはもう。やっぱり家族は一緒にいるのが一番ですよ。」
菊池さんに頭を下げたママに、彼は首を振ってそう返した。それから言いにくそうに、
「じゃぁ、昨日のことってやっぱり…」
と聞いてきたので、私はこくりと肯いた。
「菊池さん分かってたんですか?」
私がそう聞くと、菊池さんは、
「俺だって、伊達に未来ちゃんの2倍歳とってる訳じゃないよ。」
と言った。
「そうかいね、私は無駄に歳とってると思うがね。」
すると奥の方から、きれいな女性が笑いながら出てきた。
「澄子、そりゃないだろ。」
菊池さんはその女性-澄子さんに剥れながら返した。
「ほいでなきゃ、嫁に逃げられたりせんがね。」
「お前が言うか?!」
「たぁけ、私でなきゃ誰が言うがか。」
澄子さんがばりばりの方言で捲し立てるのを、綺麗な外見とのギャップで思わず私は口を開けてみていた。そのあと彼女は私の方を向くと、
「あ、未来さんと会うのは初めでしたな。私がその逃げた嫁の菊池澄子ですわ。」
と自己紹介した。この方が奥さんなのか…方言が慣れないからびっくりしたけど、明るくてはきはきとしていて、菊池さんとはお似合いな感じがする。
「はじめまして、飯塚未来です。」
「未来の母親の夏海と申します。この度は娘が大変お世話になりまして…」
ママも澄子さんの迫力に気圧されていたのか、突然魔法が解けたかのように何度もお辞儀しながら挨拶をした。
「いやぁ、こっちとそ、どえりゃぁ世話になってまって。」
澄子さんもそう言ってはにかみながら頭を下げた。
「ホントだぞ、未来ちゃんがいてくれなかったら、俺一人じゃにっちもさっちもいかんかったぞ。」
それに対して、菊池さんが憮然とそういった。
「解っとるがね、感謝しとるで。
ま、私がここに戻ることになったで、未来さんは後のことは心配せんでな。それよりも元気な子供産んでもらわにゃな。子供産むんは、女にしかできん仕事だで。」
そう言って、澄子さんは私の手を握った。ふんわりとした手は温かかった。
「澄子さん、すいません。私が現れて本当ならもっと早くに帰れるはずだったのが、帰れなくなってたんじゃないんですか?」
わたしがそういうと、澄子さんは手を振って、
「いやいや、そんなことはないでよ。こんお方も、意地っ張りやさけ、いきなりは謝れんかったんだわ。私にとってもええ骨休めやったで、気にせんで。」
そして、謝る私にウインクしてそう答えた。それを見た菊池さんは、何か言いたげだったけど、澄子さんの顔を見て止めたみたいだった。今の澄子さんは、菊池さんが一言言おうもんなら、その何倍かになって返ってきそうだったから。
「ありがとうございます。」
お礼の言葉を言ったら、涙がまた出た。そんな私を見た澄子さんは、
「泣いたらいかんて。泣いたらお腹の子が泣き虫になってまう。女の子ならえぇけんど、男じゃそりゃいかんだろ、な。」
そう言いながら私の頭を優しくなでてくれた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 14

「話は板倉さんから聞いた。とにかく、何にしても帰って来い。」
パパは憮然とした様子で私にそう言った。
「心配している様だから言っとくが…父親のことは聞かんでおいてやる。というよりな、なまじ名前なんか聞いてしまうと俺はそいつを殺しかねないからな。それにな…たとえ間違いで授かった命だったとしても、子供には罪はない。生きたくても生きられない命だってあるんだ。俺たちには生きようとしている命をなかったことになんてできない。
未来、子供はもう家族のものだ。みんなで最高に幸せにしてやればそれで良いことじゃないか。」
その昔、趣味はママだと豪語して家族を何より大切にしてきたパパだから、その言葉が私の耳に重く響いた。

そして、-生きたくても生きられない命-それはたぶん、暁ちゃんのことを思っているのだ。
暁ちゃん、私はあんたに何もしてあげなかったのに、お姉ちゃんのこと助けてくれるんだね。…ありがと。
「ねぇ、私ホントにウチに帰ってもいいの?」
「当たり前だ、他にどこに帰るところがある。」
そうだね、他に帰れるとこなんてどこにもないし、このまま意地を張って残る気力も、パパの今の言葉で無くなっちゃった。
パパ、甘えさせてもらうね。
でも…今のこの状態であの子の顔を見るのは正直辛いな。

「私、帰るね。じゃぁ、『ドルチェ』に行って来るわ。」
「『ドルチェ』って?」
ああそうか、私のバイト先のことは知らないもんね。
「私が今、バイトさせてもらってる喫茶店。すぐに代わりの子を探してもらわないと。マスターの菊池さんに話してくる。」
どうせ、早めに行って昨日のことを話さなくちゃとは思っていた。それでも、使ってくださいと言うつもりだったけど…辞めるといわなきゃならないのか…さびしいな。
「じゃぁ、私も一緒に行くわ。」
すると、ママもついてくると言った。
「ママもその方にお礼がしたいし、親が迎えに来てるって言えばあなたも切り出しやすいでしょ。」
「俺はその間に部屋を片付けておく。」
「…うん、分かった。2人ともありがと。」
私は頷いてそう返事したものの寂しかった。バイトだし、事情が事情だから、菊池さんはすぐに了解して両親と帰るように言ってくれるだろうから。
でも…短い間だったけど、私はここの暮らしが大好きだった。

私はママと一緒に「ドルチェ」に向かった。春は名のみの風が私の頬に当たる。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 13

完全にそこから動けなくなってしまっている私に、加奈子さんが言った。
「未来ちゃん、正直に言って。身に覚え…あるんでしょ?」
私は唇を噛みしめながら俯くように肯いた。身に覚え…ははっきりとあった。そもそもそれが、わたしの家出の原因なのだから。

私は素直に加奈子さんに促されるままに医師の診察を受け、自分の身に起こった『新しい命の誕生』の事実を確認した。
「家に帰れなんて言わないですよね。私には、帰る家なんてもうないんです。」
病院を出る時、私は加奈子さんにそう言った。
「未来ちゃん…」
加奈子さんは悲しい表情で私を見た。
「帰れなんて言わないでください。」
「そんなことを言っても、今までとは状況が違うわ。本当はご両親、ご健在なんでしょ?」
もう一度帰らないといった私に、加奈子さんは首を振りながらそう返した。
「イヤです、今帰ったら…子供産めない…」
「産むのなら、子供のパパにも連絡しなきゃ。」
「彼には知らせません。私一人で育てます。」
「どうして!」
「だって、彼には…」
克也には親の決めた婚約者がいた。『翠は親が決めただけで、俺は何とも思ってない。』って彼は言っていたのに…
そんな彼女とも関係がちゃんとある事を知ったのは、家を出る少し前のこと。二股-だった。
そんな奴が、私に子供ができたからといって、責任をとるなんて思えない。それに…
「それに…まじめなパパは私が子供を産むことを許してはくれない…加奈子さんだって、修司さんだってそうでしょ?瞳ちゃんが父親のいない子供を産むなんて…」
「それは…」
私にそう言われて、加奈子さんは一旦口ごもった。
「そりゃ、私も母親だもの。娘がみすみす苦労するようなことはさせたくないわ。男親の修司はもっと激怒するでしょうね。相手の男だって殺しかねない。」
「そうでしょ?だから…」
「でも、彼だってもしかしたらってことだってあるでしょ?」
当惑した様子でそう言った加奈子さんに、私は頭を振りながら返した。
「私がもう彼を信じられないんです。」
そんな私の言葉に、加奈子さんはハッとして続く言葉を飲み込んだ。

「でもどうして、私が妊娠してると思ったんですか。」
私は加奈子さんがどうしていきなり産婦人科に連れて来たのかが不思議だった。
「私、子供を二人産んでいるのよ。妊娠中って独特なものがあるのよ。未来ちゃんが初めてお店に来た時、いきなり泣いちゃったでしょ。私、あの時あなたが自ら命を断とうとしているのかと思ったの。だけど、一晩泊めた後、あなたは日進で暮らしたいって言って、積極的にアパートや仕事を探し始めたでしょ。それからも、感情の起伏の大きいことも続いたし…お昼前に菊池さんから未来ちゃんが吐いたと聞いたときに確信したわ。」
「子供ができると泣き虫になるんですか?」
「涙もろくなる人が多いわ。」

加奈子さんは私をアパートまで送って、帰って行った。

加奈子さんにはああは言ったものの、私はこれから先、どうしたら良いのか判らなかった。まず、菊池さんには妊娠のことを報告しなければならないだろう。そしたら、「ドルチェ」を辞めなければならなくなるんだろうか。あそこを辞めても、身重の女を好き好んで使ってくれるようなところはどこにもないだろう。

でも産みたい。克也には未練なんてないけど、芽生えた命は無碍にはしたくない。それに、もしかしたら…
そんなことを考えながら私は、眠れぬ夜を過ごした。そして、明け方近くになって、うつらうつらとし始めた時、アパートのドアが激しく叩かれた。

私がドアを開けると、茹でダコのようになったパパと蒼い顔をしたママが立っていた。加奈子さんは私がはじめ自殺するものと思っていたので、私が板倉家のお風呂をいただいていたときに、こっそりと清華の連絡先のメモを控えたらしい。それで今回清華に連絡を入れて、清華からウチの番号を教えてもらったのだ。
加奈子さんから連絡を受けたパパとママは、すぐに夜通し走ってここに駆けつけたのだ。
「未来!」
パパは挨拶代りに私を平手で打った。
「マーさん、止めて!!」
ママが慌てて止めに入る。それを片手で制したパパは…私をぎゅっと抱きしめた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

marine side 12

お昼過ぎ、ぼーっとしている私のところへ、午前の部を終えた加奈子さんが来てくれた。
「未来ちゃん、調子悪いんだってね。」
「あ、今は何ともないです。」
「そう?」
加奈子さんは私の返事に、疑わしそうに返事をしてから、
「でも、夕方には私と一緒にお医者さんに行こうね。」
と強い調子で私に言った。
「えっ、でもいたくらは?」
「ランチタイム以外は大体修司だけで大丈夫だし、今日はマナに手伝うように言ってあるわ。定期試験が終わったばっかだから…」
「でも、マナちゃんは受験…」
「1日くらいは、息抜きでちょうどいいのよ。それに、マナは愛想人間だから、結構お客様のウケも良いしね。それより私は、未来ちゃんの身体が心配。」
「あ、ありがとうございます…」
ただ店にふらりと現れただけの私にここまで優しくしてくれる加奈子さん。そんな加奈子さんを文句も言わずに送り出してくれた修司さんや瞳ちゃんの優しさに、私はまた涙が出た。
「そうなのよ、そういうとこが余計そうだと思うから…」
でも、その後加奈子さんはぼそっとそう、私に解らないことをつぶやいた。

「そうそう、それとコレ。」
それから加奈子さんはおにぎりを取り出して、
「どうせ朝から何も食べてないんじゃないかと思って。」
と笑った。何でもお見通し何だなぁ…私はそう思いながら肯いて、そのおにぎりを半分に割った。中身は梅干しだった。たぶん、私の胃の調子を考えてそうしてくれたんだろうけど、実は私は梅干しが苦手。でも、そんなこと言っちゃ失礼だから、私は黙って口に入れた。
「美味しい…」
でも、予想に反してそれはすごく美味しく感じた。酸っぱさが却って心地よく感じた。
「良かったやっと笑ったわね。」
そういうと、加奈子さんはマグボトルから味噌汁を取り出し、紙コップに入れて私の前に置いた。

そして、夕方私は加奈子さんに連れられて、近くの病院に向かった。
しかし、連れられたクリニックを前にして私は固まったまま立ち尽くした。
そこは…

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

何で、今まで気付かなかったんだろ

金曜日、大阪に持参する「チープな書籍」の下準備でぽちぽちと原稿をトランスしてたんですが、ふと
「製本用のステープラーってネットで検索できないのかな。」
って思ったんです。

で、善は急げとばかりに製本用ステープラーでネット検索。見事に何個もヒットしました。
100枚までOKという本格仕様のものもありましたが、いかんせんお値段も高い。減価償却は出来なさそうですし、消耗品である針が一般的でないかもしれない。そして、一番のネックは失敗したときに素人の女性の手では抜けない。

以上のことを鑑みて、値段と作りの折り合いのつく3Mタイプの商品をネットのステーショナリーショップでお買い上げ。翌日の土曜日には到着しました。

これから先のことは判んないですけど、私の作品のページ数を考えると、3Mタイプは約30枚ですから、120ページ。最近、ブログの字が大きいので、ポータルの大きさに合わせて、85%にすることにしました。それなら一番長い「パラレル」でも100枚程度で収まりそうです。なら、コレで充分。

さぁ、リア友に会う金曜日に向けて「my precious」のポータルトランス分の貼り付け作業に精を出すとしますか。

theme : 雑記
genre : 小説・文学

泣き虫になった訳-marine side 11

泣き虫になった訳


夢の中の私が風邪を引いていて熱を出したのは、私の調子が悪かったからなのかな。
そう思うくらい、私はその日気分が悪かった。とくにその日は悪かったけど、実のところその前からずっと調子は良くない。
だからと言って、お医者さんに行く気にはなれなかった。お医者さんに行くには健康保険証を提示しなければならない。私の健康保険証はまだ有効なのだろうか…そんなことも分からない状態で、迂闊にかかれないというのが本当のところだ。

だからって、市販薬を飲む気にもなれなかった。空腹時には気分が悪いんだけど、それでも何かをたべてしまうと結構何とかなっていたからだ。
でも、その日はさすがに朝から何も食べる気になれず、そのままバイト先の喫茶店「ドルチェ」に向かった。

それにしても…あの夢、どんどんとリアルさを増していく。ママのママ倉本のお祖母ちゃんまで出てくるなんて思わなかったし。
私はますます、あれが夢だなんて思えなくなっていた。なら…なんなんだろう。もしかしたら「もう一人の私」がいるのかもしれないなんて…馬鹿げた発想だとは思うんだけど。

そんなことを考えながら歩いて、私はドルチェのドアに手をかけた。
「おはようございます。」
「おはよ、未来ちゃん。」
私が挨拶すると、マスターの菊池さんは、アイスコーヒーの仕込みをしながら私に挨拶を返してくれた。
「未来ちゃん、大丈夫?」
そのあと、菊池さんにいきなりそう聞かれた。
「何か?」
「顔色悪いよ、今日。」
「…そうですか?別に、普通ですよ。」
私はしらばっくれてそう答えた。少々気分が悪いからって休んではいられない。時給だから休めばそのままバイト料に影響するし、板倉さんたちにも申し訳ない。働かないと。
それに、この私の気分の悪さはここのコーヒーには反応していないみたいだいし…そう思いながらPOPを書く。日替わりランチならぬ日替わりモーニングの文字。
名古屋エリアではほかの地方ではおまけ程度しかないモーニングが、そうではないのだ。2品3品は当たり前、喫茶店でがっつりとした朝食を済ませることができることが多い。
菊池さんは料理の腕も一級品。だから、毎日通常のトーストにプラスして、ちょっとした朝のメニューが付く。それが日替わりモーニングの中身。だけど、
「喫茶店じゃなくて、レストランでも充分やってけるんじゃないんですか?」
って私が言った時、
「それじゃぁ、俺のこのおいしいコーヒーが脇役になる。俺はホントはコーヒーで勝負したいんだよ。コーヒー飲まない奴には、飯は作んない。」
と笑う。
そう、ここドルチェはそんなマスター菊池さんの大好きが詰まったお店。そういう空間はいるだけで心地いい。だから、なおさらいい加減な事をして辞めたくない。そのためにはできる限り迷惑をかけちゃいけない。
「未来ちゃん、一度も休んだことないでしょ。」
「別に休むことないじゃないですか。ここにいるとホントに落ち着くんです。」
「そんなこと言っても、何も出ないよ。まかないにプリンでも付けるくらいかな。」
「やった!プリン付けてくれるんですね。」
「しまった!ま、良いよ。ああ、タケさんいらっしゃい。」
菊池さんはそう言うと、折から入ってきたお客さんに挨拶した。

だけど、お昼前になって、今度はランチのためのご飯を炊飯器が湯気をあげて炊き始めた時、私はものすごい吐き気に襲われて、朝何も食べていないのに吐いてしまった。真っ蒼な顔をした私に菊池さんは、
「未来ちゃん、ホントに今日は帰んな。」
と、言った。
「そんな、今からランチの時間なのに…」
「だからだ。そんな時間に倒れられても、フォローもできないし、お客様にも迷惑がかかる。それに、今ならまだ午前中の診察に間に合う。帰り道に医者に寄って、今日はゆっくり休むんだ。」
時間は11時をすこし過ぎたところ。今なら、近くのお医者さんで滑り込みで診てもらえるに違いない。

少しの押し問答の末、私はとりあえずドルチェを出た。そして、医者には寄らずそのままアパートに戻った。
アパートについた私は、膝を抱えて自分の部屋のラグに座り込んだ。
私…何か病気なんだろうか…涙がまた出てきた。私は本当に泣き虫になったみたいだ。

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