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同窓会-Parallel 35

同窓会


「ねぇねぇ、夏海聞いた?今度同窓会があるってよ。矢部来るかな」
結婚五年目のある日、高校時代の友人速水容子が興奮気味でそんな電話をかけてきた。そう言えば、彼らと龍太郎と四人で遊園地に行ったことがあったっけ……
「うん、聞いた」
夏海は気乗りしない様子でそう答えた。
「ねぇ、夏海も行くでしょ?悠もノンチも行くって」
「うーん、どうしようかな」
少し口ごもった夏海に容子が笑って言った。
「あ、あんたもしかして結城が来たらとか、そんなこと考えてんじゃないでしょうね。ないない、あいつってば、あんたが目光らせてなきゃ、学校行事にはホントに非協力的だったじゃない。あの根暗が同窓会になんか来ないって」
「そんなんじゃないわよ。言わなかった? 二人目」
「ああ……それも大丈夫よ。たった何時間の事だし、その頃ならもうお腹も目立ってるだろうから、誰もあんたに酒なんて勧めたりしないわよ」
「じゃぁ、行こう……かな」
夏海は容子のパワーに押されて渋々出席することに同意した。しかし、夏海は容子の言う様に、妊娠中で大好きな酒が飲めないから行くのを渋っているのでななかった。
『ないない』と容子が言ってはいたが、万が一龍太郎が会場にやって来たりしたら……何となく龍太郎には妊婦姿を見られたくはないというのが、本音だった。

「同窓会? じゃぁ、会場まで送ろうか? 電車だとキツイだろ」
夏海が同窓会に出席すると言うと、雅彦はそう言った。
「日曜日だもの。電車で大丈夫よ。三人で出ましょうよ。マーさんと未来は実家で待ってて。終わったら、すぐ行くから。保育園に行き出してからあまり実家に泊まれなくなったし、一日ぐらい休ませてもいいでしょ。月曜日の空いた時間に、未来とゆっくり帰れば問題ないわ」
 この場合、実家と言うのは雅彦のそれだ。
 雅彦の母とは見合いの席から意気投合し、東京で泊まるのはほぼ雅彦の実家だ。さすがに未来を産んだ時は一旦倉本家に戻ったが、体調が戻ると夏海はすぐに自宅に戻った。雅彦が積極的に子育てに参加してくれるのもあり、それでもまったく不自由はなかった。
 それに、今回の用事は夏海の高校の同窓会、デリカシーのない母は、雅彦の前でも平気で龍太郎の消息を聞くだろう。雅彦にも同窓会の事は母には言わないでくれと釘を刺したいくらいだ。
 そして、同窓会の当日を迎えた。雅彦は一旦、同窓会の会場まで夏海を送って行き、そこから未来を連れて飯塚の実家に向かった。

 会場に懐かしい顔が揃う。しかし、
「倉本ぉ、やだ、ついにオメデタ?」
普段付き合いのない、かつてのクラスメートにそんな声をかけられた時、夏海は何か嫌な予感がした。ついにという言葉が妙にひっかかった。
「お宅の旦那は元気なの?」
と聞いた者もいる。その旦那と言うのは雅彦ではなく、龍太郎の事だ。夏海はそれには答えず、まっすぐに受付に向かって、そこに置かれている今後の連絡のための用紙に『飯塚夏海』と現在の彼女の氏名を記載した。受付係の男女がそれを見て戸惑った表情を見せるが、何も聞いてはこなかった。しかし、
「あれ? 倉本、あんたなんで結城じゃないのよ」
それを横から覗き込んだ高校時代はやんちゃな部類だった駒田ルリが、そんな奇声を発した。ざわっ、会場が少しざわめく。事情を知っている友人たちの心配そうな目線が一斉に夏海に集まった。
「あんなのとっくに別れてるわよ。5年前に旦那と結婚して、この子二人目なんだから」
夏海はそんな視線を感じながら、さらっとルリにそう返した。
「へぇ、あんたたちは別れないと思ったんだけどな。あんたたちって、高校時代から夫婦みたいだったじゃん。あたしが宗助と結婚してんのにさ、何かそれって皮肉」
ルリはそう言って笑っている。彼女の夫駒田宗助も同じ同窓生で、この日は一緒に会場入りしていた。
 そう、この子たちのグループにはよくそう言ってからかわれた。そんなことを思い出し、軽く笑んだ夏海だったが、続いてルリが、
「へぇ、じゃぁどんな奴なんだろ。結城が最近結婚したらしいって話だったからさ、あたしてっきり倉本だと思ってたんだけど」
と言いだしたので、その顔は一気に強張った。ウソ……龍太郎が結婚した?
「それとも、一回はくっついたの?」
「バカね……あいつとは一回も結婚なんかしてないわよ」
覗きこむように聞くルリに夏海は辛うじてそんな返事を叩き出しはしたが、龍太郎が結婚したという言葉が夏海の頭の中をぐるぐると駆け巡る。あいつは、一生誰とも結婚するつもりはないと言ったのに……ウソつき、やっぱり気が変わったんじゃない。
「倉本、気にするな」
「ヤナ……」
すると、龍太郎の親友、梁原健史がそんな彼女の顔色に気付いて彼女に小声で耳打ちしてきた。
「あれは家同士の結婚で、龍太郎の意志じゃない」
「何よそれ。龍太郎が結婚しようがしまいが……私には何の関係もないわ。龍太郎がいつ結婚したのか知らないけど、私は5年も前に結婚してるのよ」
夏海は梁原の言葉に正直ホッとしていたのだが、それを悟られまいとわざとつっけんどんにそう答えた。
「あ、そう……そうだよな」
夏海の言葉に梁原は歯切れ悪くそう返した。どうも彼は今、龍太郎の会社に勤めているらしく、龍太郎の結婚に関しても何か知っているようだったが、今更それを聞いて何になると夏海は思った。聞いたところで、事態は何も変わりはしないのだ。
「ヤナ、お前もしかして倉本に惚れてたんじゃねぇのか? なら残念だったよな。別れたばっかだったら、お前がモノにできたんじゃね?」
そんな様子の梁原を見て、男子の一人が茶々を入れる。
「そんなんじゃない。俺はだな、ただ事実を言っただけだ」
「へぇ、事実ねぇ。それとも本命は結城だったりして……」
男子はそう続けて言うと、馬鹿笑いをしている。
「勘弁してくれ。そりゃないぜ」
その様子に、梁原は何とも言えないといった表情で頭を振っていた。
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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

自己紹介バトン

ふじやましのぶさんから勝手にもらってきました。

私の場合、名指しで回せるほど閲覧者がいないと思いますので、お気が向いたらということで…

自己紹介バトン
・7日以内に書く
・嘘偽りなく お遊びですからジョークや黙秘もOK
(個人的にまたは職業柄、プライベートや個人情報はNGのばあいがあるので)
・アンカー禁止(これ守れるやろか…)
・回した人はちゃんとその人がやったかどうか見に行く
・書いてない人、バトンがかぶった人はバツゲームをお願いします。

★回す人
どなたかたすくに一言添えてお持ち帰りください(笑)

★あなたのペンネームとその由来
こうやま たすく(神山 備)
聖書(創世記)から。「主の山に備えあり(ヘブライ語でアドナイ・エレ)」を漢字で表した。

★呼ばれ方
たすく(ちゃんorさん)

★年齢
今なけなしの46歳(もうすぐ47歳)

★好きなもの
アニメと言うか声優

★今現在恋人は?
本当は夫が…と言わなければならないのでしょうが、それは絶対に言いたくないかも。結城龍太郎くんとか言うとそれも問題?!(パラレルのキャラ名です、念のため)

★好きなタイプ
低温の美声。ちなみに声優さんでは小西克幸さん、置鮎龍太郎さん。
音楽の趣味が合う人も点数は高いです。
あとはたすくのボケにすかさずツッコミを入れられる人

★嫌いなタイプ
うーん、一定しないかも。そのときの雰囲気で嫌いになってしまうことあり。基本的にはあまり嫌いになることはないかも。

★好きな映画
ほとんどアニメ。今のベストは「名探偵コナン、戦慄の楽譜(フルスコア)」→コナン君が実は絶対音感を持っていた(でも音痴)っていうのが、共感できて…
「ゴースト~ニューヨークの幻」

★好きな音楽
J-POPで今はまってるのは、ドリカムと柴田淳さん。でもベースは意外にもラテン音楽だったりする。ラテン大好きのパパの横でラテン音楽を聞いて育った。
高校の時、2時間ドラマで聞いて一耳ぼれしたのが、イサーク・アルベニスの「アストゥーリアス」(ギターバージョン:元はピアノ曲)
讃美歌で一番好きなのが、「清かに星はきらめき(第二讃美歌219番)」

★送り主を宝石にしたら?
コーン!(爆笑…スキビネタです)ちゃんとした宝石名忘れちゃった。光にかざすと色が変わる石です。

★回す人を宝石にしたら?
どなたが受け取ってくれるでしょうか…

★好きな食べ物
焼き合鴨。マンゴー。でも一番すきなのはおからクッキーかもしれない。

★罰ゲーム
考え付かない…その内思いついたら追加します

以上でした~長々お読みいただいた方、ご苦労様でした。

同じではなかった未来-Parallel 34

同じではなかった未来


 それから2カ月、夏海のもとに一通の訃報が届いた。それは武田の父を知らせるものだった。
 武田は別れの電話の後、結婚祝いと称して一枚のCDを送ってきた。それは前々から夏海が手に入れたいと言っていたもので、別れの前から探して手配していてくれたのかもしれなかった。夏海と別れてからそれが手に入って、見るだけで腹立たしいと送りつけてきたのかもしれなかったが、欲しかったものだし、結婚祝いと言うことなので無碍に捨ててしまうこともできず、一応受け取ってお祝いのリストに載せてしまったのである。
 なので、雅彦は何も知らずに結婚報告の葉書を武田にも送り、今の住所を彼に教えることとなったという訳だ。
 あれから一年…武田の事はもう遠い思い出だった。夏海は彼の父親の訃報に接しても心が揺らがない自分に、時の流れを感じた。

 そして翌年夏海は長女を出産した。雅彦は娘に未来(みく)と名づけた。
 雅彦を頼りにし、雅彦だけを見ている妊娠中の生活は、夏海の心を大きく変えた。まさにこの娘が二人の今を、そして未来をも創り出している。雅彦もそう感じて名づけたのだろうか。
 全ては日々の果て……夏海は子育ての忙しさも相まって、「彼」のことは思い出さなくなっていた。
 そんなある日曜日の昼下がり、飯塚家の電話が鳴った。
「はい、飯塚です」
と夏海が電話をとると、相手は一呼吸置いた後、
「もしもし、俺。判りますか」
と低い声が聞こえ、そのあと少し甲高い笑い声が受話器いっぱいに響き渡った。夏海は一瞬にして身体が固まった。
「康……武田君……今更何の用……」
夏海は送話部分に手を添えて声を押し殺した。
「俺の声、覚えていてくれたんですね。それにしても、今更何の用はひどいな。今日はお願いがあって電話したのに」
お願い? その一言に夏海の緊張はさらに高まった。
「俺ね、今度結婚することになったんですよ」
だが、続いて武田の口から出てきた結婚の言葉で、夏海は一気に金縛りにも似た症状から解放された。
「へぇ、そうなの? それはおめでとう」
彼女の口から素直に彼の結婚を祝う言葉が紡ぎだされた。
「ありがとう。今の営業所の先輩の紹介なんですけど、やっと俺でも良いって言ってくれる奇特なのがいましてね。これはもう、逃しちゃいけないかなって、頑張っちゃいましたよ」
武田はいつもより声の高さを上げて報告を続けた、夏海はそれをほほえましく聞いていたのだが、続く、
「夏海さんに似た、俺より2歳年下の千佳って奴なんです。夏海さん、結婚式浜松なんですけど、出席してもらえますか? 出席してもらえるようなら、招待リストに載せますけど」
という言葉で一転して、彼女は突然冷水を浴びせられたような気分になった。元カレの結婚式。それも、公には何の接点もなかった彼の晴れの門出に、自分がどの面を提げて行く事が出来るだろう。これは、彼の厭味……あるいは復讐と言えるかもしれない。夏海はそう思った。
 夏海が返答に困っていると、生後半年になった未来が午睡から目覚めたらしく泣き始めた
「マーさん、ちょっと未来見てくれない? 今電話中なの」
彼女は一旦送話部分を完全に手で覆い、隣の部屋の雅彦に娘を頼んだ。
「へぇ、夏海さんもうお母さんですか。さすがに仕事が早い。俺と別れてからまだ二年も経ってないと思うのに」
それに対して、武田はとげとげしくそう返した。
でも、あなたはあの時引き留めてもくれなかったじゃないの。それが今更何? 夏海はその言葉に心の中でそう反論していた。
「二年も……経ったわ。そんなわけで、私浜松には行けないから。お祝い、贈っておくわね」
夏海はそう言うと返事も聞かずに電話を切った。
「夏海、電話誰からだった?」
電話を切って顔を上げると、そこには未来を抱いた雅彦がいた。
「ん? 友達からよ。結婚するんだって。招待してもいいかって電話だった」
夏海は元カレからだとは言えず、友達からだと濁して答えた。
「結婚式? 行ってきていいよ。一日ぐらいなら、未来の面倒は俺が見られるから」
「良いわよ。結婚式があるのは浜松だもの。未来を連れてもいけないし、断ったから」
浜松と聞いてちらっと雅彦の眉が動いたような気がした。雅彦は、それが誰だか感づいたのかもしれないと思った。しかし雅彦は、
「浜松まで一緒に行こうか? どうせ結婚式なんて休みの日なんだろ? そうすりゃ、結婚式の間だけ未来を俺が見てればいいんだし。たまには旅行気分で行くのも……」
などというとんでもない提案をもちかけた。
「とにかく良いの! 結婚式なんて。今の私は未来の事で精一杯です。第一体型も変わっちゃったから、一から服も揃えないといけないし、そんなお金も時間ももったいないでしょ。もう断っちゃったから、蒸し返さない!」
半ばヒステリックにそう言うと、夏海は雅彦から未来を受け取り、彼に背を向けてあやし始めた。
 かすかに滲んだ涙を隠すために……

 三ヵ月後、武田から結婚を報告する葉書が届いた。それを見た雅彦は、
「へぇ、この娘かわいいね。旦那の方もイケメンって感じだし、美男美女カップルって奴だな」
と言った。夏海に嫌な汗がどっと流れた。
そうか、マーさんは私が女性側の友人だと思っているんだ。だから浜松まで旅行気分で行こうと言ってくれたのか……東京に居て、浜松に嫁ぐのだと思っているのだろう。
「そう? この男、結構イヤな奴だわよ」
しかし、思わずそう口に出してしまった自分がいた。すると雅彦は、
「あれ、両方とも知り合いなのか」
と言ったので、夏海はしまったと思いながらとりあえず頷いた。
「彼、仕事で浜松勤務になって……遠距離ですれ違いもあったけど、二年かかってやっとだって」
 それは雅彦がいなければたぶん夏海と武田とが辿ったであろう道筋。本当なら彼の隣にこうして写っているのは私のはず。
 十年経たずにこんなに離れた別の場所に居る。四年前、大学祭で見た彼と同じではなかった未来を、夏海はその写真で改めて噛みしめたのだった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

Parallel 33

翌日夏海は病院で妊娠を確認した。
 雅彦からも帰宅してすぐに着信があった。どうも仕事の合間にこっそりと何度も自宅に電話を入れていたようだ。
「どうだった?」
待ちきれない様子で尋ねる雅彦に、
「ええ、やっぱり。ねぇねぇ私ね、心臓の音も聞いたのよ」
と、夏海は半ば興奮気味でそう報告した。
 前日の妊娠判定薬でも胸に迫るものはあったが、病院の検査は格段に違う。彼女は新しく芽生えた命を、エコーとスピーカーによって目からも耳からも確認したのだから。感動も一入だと言えた。
「エコー写真もらってきたの。家でそれを見てゆっくりパパになった気分を噛みしめて頂戴。それまではおあずけよ。今、まだ仕事中なんでしょ。」
「ああ、そうするよ。でも、やっぱり。そうか……そうか……」
電話口の雅彦も、昨日の憮然とした様子から一転、素直に喜びが受話器からこぼれる。
「なぁ、親には俺から電話して良い?」
「あ、オイシイとこだけ持って行くの? イヤだ。それぞれの親にそれぞれが電話するってことでどう?」
雅彦のにやけた顔が電話からでも判った夏海は、そう笑いながら返した。
「しょうがないな、ああ、了解」
「解かったらさっさと仕事しなさい、係長さん。課長に叱られても知らないわよ」
「解かった」
そう言って、頭を掻きながら雅彦は電話を切った。
 電話を切った後、雅彦はしみじみとその喜びを噛みしめ、夏海に結婚と同時に仕事を辞めてもらう選択をしたことを本当に良かったと思った。それは、彼女の心を縛り付ける目に見えぬ影から引き離す一心でのことだったが、身重となった彼女を仕事に送り出すなどということは、心配で自分には出来そうもない。
 それに彼女の迷いも吹っ切れているのがその声で判る。
 雅彦は夏海が自分と結婚しても尚、かつての想い人への想いを絶ち切れないでいることに気づいていた。だからこそ執拗にその身体を求め、自分という存在を彼女の中に刷り込もうとした。それがやっと報われたのだ。
「飯塚係長、今の奥さんからですか?」
「えっ、何で?」
気を取り直して仕事に戻ろうとした雅彦は、若い女子社員にそう聞かれた。
「係長のとこラブラブらしいですもんね。それに、顔かなり緩んでますよ。何か、良い事ありました?」
女子社員は覗きこむように彼にそう聞いた。
「子供が生まれるんだ……」
雅彦は女子社員から顔を背けながらぼそっとそう返した。
「へぇ、おめでとうございます! 係長パパになるんですね」
「あ、ありがとう。」
雅彦はそんなちょっとオーバーアクションな女子社員のリアクションにさらに顔を緩ませた後、気合いを入れ直すために自分で自分の顔を数回たたいて、持ち場に戻った。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Parallel 32

「それ、本当なのか?」
おっかなびっくりでやっとそう聞く雅彦に、夏海は笑みを崩さないで肯いた。
「お医者様に行かないとはっきりしたことは判らないんだけどね。」
彼女はそう言いながら、先ほど帰りがけに購入した薬局の紙袋に入っていた中身――一本の棒状の物を取り出して彼に見せた。そこにははっきりと命の誕生の判定がなされていたのだった。
「ねっ、だから心配しないで。」
「本当に、そうなのか……」
しかし、そんな種明かしをしてもまだ、雅彦の顔は硬く、反応は鈍かった。夏海にはそれが雅彦は子どもの誕生を喜んではいないような気がして、むっとした。(あの時の龍太郎と同じだわ。じゃぁ、何で私と結婚なんかした訳?)
「何なの、嬉しくないの?」
「いや……そうじゃない……そうじゃないんだ」
夏海の語調が怒っていることに気付いた雅彦は、慌ててそう返した。
「じゃぁ、何?」
「あのな、その……嬉しすぎるんだ。嬉しすぎてどうリアクションしていいのか判らない」
さらに彼女に問い詰められた雅彦は、赤面しながらぼそっとそう答え、それを聞いた夏海は思わず吹き出してしまった。
「何よそれ……素直に喜べばいいじゃん!」
「それはそうなんだが……夏海と結婚できた上に、こんなにとんとん拍子に父親になれるなんてな、何だか実感が湧かないって言うか……こんなに幸せでホントに良いのかって言うか……」
雅彦はそう言って恥ずかしそうに頭を掻いた。
 そう言えば……雅彦さんって、お見合いで初めて会った時もそうだった。夏海は雅彦と初めて出会った時の事を思い出していた。あの時、リアクション薄く不機嫌な彼に、放っておいても断られるだろうと地をだした事。おそらく、ひどく緊張したり驚いたりするのに気持ちがついていかないのだろう。だったら、そのことをしっかり噛みしめられた後なら、あからさまに態度に出して喜ぶのかもしれない。二度目に会った時のあの、饒舌な雅彦のように。
 実は内心、夏海もこのことにはかなり驚いていたのだ。
あれほど結婚自体に揺れを感じていたはずなのに、妊娠を素直に受け止め喜んでいる自分に。そして、子どもの父親として雅彦を今までと違う目で見始めている自分に。
 まるでそれは魔法のようだった。
 元気に生まれてきてしっかりとパパとママとをつなぎとめてね。夏海はそっと自分のお腹を撫でて、芽生えたばかりの命にそう囁いた。

魔法-Parallel 31

魔法

 雅彦と夏海が結婚してから、四ヶ月が経った。
 彼らは祝日のその日、車で遠出をする予定でいた。
「夏海、どうかしたか?」
しかし、しばらく車を走らせた時、雅彦は夏海の様子がいつもとは違うことに気付いた。顔色が良くないし、自分から話しかけてこない。
「うん……? なんだか気分が悪くて。少し酔ったのかな。車酔いなんてする方じゃなかったんだけど。余程寝不足の時以外は酔わないのよ。それに、最近眠くって寝過ぎるくらい寝てるのに」
その問いかけに、夏海は首を傾げながらそう答えた。彼女は余計な音まで拾ってしまうような耳をしているせいか、車など乗り物なとにはめっぽう強く、余程の寝不足ででもない限り車酔いなどしたことがなかった。
「とにかくどこかで一度休憩を入れた方が良いな。休んで良くならなければ、今日は帰ろう。」
「ごめんね、そうしてくれる? 誰かと約束してるんじゃなくて良かった」
それで、雅彦は国道沿いの喫茶店に車を停めた。
 店に入って夏海がオーダーしたのはトマトジュース。
「ま、胃が悪いのならコーヒーじゃない方が良いんだろうけど。でも、何でトマトジュースなんだ? 夏海そんなに好きだったか?」
普段家ででも飲まない物を注文した夏海に、雅彦は驚いてそう尋ねた。
「メニュー見たら何だか飲みたくなったんだもの。ただの、気分よ」
夏海はそう言いながら、添えつけられたレモンを絞らずにそのまま口に放り込む。口に入れた夏海より、それを向かいで見ている雅彦の口の方が歪んでいた。
「美味しい」
そして彼女はにこりと笑った。顔色も良くなってきている。
「気分も良くなったみたいだな。じゃぁ、一休みしたら予定通りいこうか」
雅彦の言葉に、夏海は笑顔で頷いた。
 だがその時、その店に年配の男性が二人入ってきた。地元の常連のようで、店のオーナーに手を挙げて
「いつものね」
と言って、夏海たちの横をすり抜けてマスターのすぐそばに陣取る。その刹那、そのうちの一人から昔ながらの整髪料の匂いが漂ってきた。その途端……
「あ、ゴメン……」
夏海は弾かれたように立ち上がると、それだけ言って一目散にトイレに駆け込んで行き、今飲んだトマトジュースを全て嘔吐してしまった。
 戻ってきた夏海は、店に入る前よりなお顔色を悪くしている。
「ゴメン、もうここ……出て良い?」
心配そうにのぞきこむ雅彦に、夏海はそれだけ言って先に店を出た。慌てて雅彦も会計を済ませ後に続く。
「大丈夫か?」
「うん、外の風に当ったら楽になったわ。」
「今日はもう、帰った方がいいな。それとも病院で診てもらうか?」
「ううん、救急で行くほどじゃないわ。それより買いたいものがあるの。ウチの近くでショッピングモールに寄ってくれる?」
「何が要るんだ? 帰った後に、俺が買って来てやるよ」
雅彦のその言葉に、夏海はゆっくりと頭を振った。
「私の方があそこはどこで何を売ってるのかよく知ってるから……ねぇ、駐車場で待っててくれる? すぐ戻るから。」
 それで雅彦は、夏海に言われるまま自宅近くのショッピングモールの駐車場に車を停めた。夏海は一人で買い物に出かけて、小さな紙袋を抱えて戻ってきた。
「なんだ、薬買ってきたのか。それくらい俺にだってできるぞ」
そう言った雅彦に夏海は黙って含み笑いをしていた。
 帰宅後、夏海は雅彦に強制的に横にさせられた。それから雅彦はリビングのソファーに座って、所在なげにテレビのリモコンに手を伸ばした。競馬中継にバラエティーの再放送……興味のある番組は一つもなかった。
 しばらくすると、夏海は寝室から出て、トイレに立ったようだった。吐いている様子はなかったが、なかなか出て来ない。倒れていないかと心配になりかけた頃、彼女はやっとそこから出て雅彦の隣に陣取った。
「寝てなくて良いのか?」
「寝てなくたって大丈夫よ」
「ムリはするな」
「ムリしてません」
心配する雅彦を制して、夏海は満面の笑顔を彼に向けるとこう言った。
「だって、病気じゃないんだもの。心配しないで、パパ」
雅彦は、その言葉の意味を飲み込むまでの間、口を開けたまま呆然としてしまったのだった。

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genre : 小説・文学

理想の夫-Parallel 30

理想の夫


「何か実感湧かないのよね。本当に雅彦さんが私の夫だって言う……」
「ナツ、独身の私から言わせたら、それゼータクってもんだわ」
夏海のその発言に、クダを巻きながらクルミが返す。
この日は、夏海の短大時代の同級生が彼らの新居に押しかけていた。
「そうそう、嫁の酒盛りのつまみが足りなくなったって、即座に買いに走ってくれる旦那なんていないよ。私なんて、置いてこれたのは上だけなんだから」
大人ばかりの空間に飽きてしまって、今は眠りの中にいる息子を一瞥しながら、都子(みやこ)が言った。
 雅彦は大いに盛り上がって長引く女たちの宴に少々気後れがしたのか、つまみを補充すると言って出て行った。その間にぽろっとこぼれた、夏海のそれが本音だった。
 雅彦は優しい。自分を専業主婦にしたのは彼なのに、料理以外の家事をすぐに手伝おうとする。何故、料理だけは手伝わないかと言うと、本人が苦手だと思っているからだけのようだ。雅彦がもし料理に目覚めるようなことになれば、自分の仕事はなくなってしまうんじゃないかと、夏海は思った。
 買い物に一緒に出かけると、荷物は絶対に彼女には持たせない。できる限り片手で荷物を全て抱え、空いたもう一方の手で夏海の手を握り、ご機嫌でショッピングモールを闊歩する。
 この新居も、子どもが生まれた時に環境の良い、危なくない所とは言っていたが、今までのように頻繁に野球部時代の仲間に誘われないための選択だということは明白だった。
そこまで自分に入れあげる雅彦の気持ちに、夏海自身がついて行けない。

「ま、ナツは尽くす女だったからね。前の彼……龍太郎さんって言ったっけ? 文句も言わずに八年。挙句の果てに浮気されてエンドだって言うんでしょ。尽くされることに慣れてないだけよ」
そして雅彦がいない安心感と、そろそろ本格的に酒が回り始めているのとが相まって、ここが雅彦との新居だというのに、巳緒(みお)はそうやって、龍太郎との昔話を蒸し返す。夏海は武田との付き合いを彼女らに相談していなかったことに安堵した。知られていたら、きっとそれも肴にされる。その内に雅彦が帰ってくるかと思うと気が気ではない。
「にしても、ナツ? あんた全然飲んでないじゃん。酒豪のあんたがどうしたの。もしかして、もう飲めない状態ってこと?」
二人の子持ちの都子が、ビールにほとんど手を付けていない夏海に気付いて、そうつっこんだ。
「まだ、結婚して日は浅いし、それはないわよ。それに、新婚旅行の最終日にきちゃったし……」
それに対して夏海はそう答えたが、それを聞いた都子が吹き出した。
「ナツからよもやそんな真面目な返事を聞くとは思わなかったわ! それに、新婚旅行中にきたってホッとしてるなんて、それまでにエッチしてますってのをばらしてるのと一緒じゃん。」
「あ……」
やられたと、夏海は顔を赤くした。
「伊達に、二人も子ども生んでないってか。ナツもさぁ、今更純情ぶっても遅いって」
それを見てクルミが膝を打って笑ったので、夏海は彼女を横目で睨んだ。
「何が不満なのかねぇ……話聞いてる限りでは、理想の旦那じゃん」
その様子を見ながら、巳緒が首を振りつつそう呟いた。
 そう、結婚後はもちろん一線を超えてしまった後、雅彦さんは会うたびに求めてきた。私も、それを事情が許す限り拒まずに応じている。
 でも、身体は刺激に反応するけれど、実は心の奥底で何か冷たいものは残ったまま。
雅彦さんが言ってくれたように、“少しずつでも好きになる事”、本当にできるんだろうか。私はそれがいつも不安……
 夏海はその本音を言うことができず、心の中でひとりごちた。

ネタバレ覚悟?

サブタイトルを作品の通し番号の上に冠する事にしました。ぱっと見ただけで、どこまで読んだか読者様がよく判るかなと思いまして。数字だけじゃ混乱する話数でしょう?

これには少し葛藤がありました。目次を見るだけでネタバレしないかなって不安…折角のトラップが事前に予想できたらなんか悲しいから。(特にあのケータイがメインの奴ね)でも、S女たすくちゃんがハッピーなまま進む訳ゃないじゃん!それは読者様もうすうす(大いに?)気付いてらっしゃるだろうし。

それと、サブタイトルが見えてるほうがそそるってと時もあるかも…とかいろいろ考えたりする訳です。

でも、一度にやることじゃなかったわぁ。疲れた…

Parallel 29

 結婚式がはねた後、夏海たちはそのまま結婚式を挙げたホテルに宿泊した。

「今日はなんて長い一日だったんだ」
雅彦は少しふらつく足を夏海に支えられながら、どっかとベッドに腰を下ろした。それにしてもあいつら、俺の楽しみをのっけからうばいやがって……ま、結婚式なんて大体そんなもんなんだろうけど。

 二次会で、雅彦の野球仲間などが二人を解放してくれて、部屋にたどり着いたのが午前二時。飛行機の搭乗時間を考えると、午前六時半にはここを出なければならない。そんな時間じゃ、仮眠が限度だ。
 雅彦がそんなことを考えている間に、夏海が先にシャワーを浴びてバスルームから出てきた。
「夏海、疲れた?」
「ええ、少し……」
「先に寝てて良いよ。そんなに寝る時間もないだろうけど、俺もシャワーだけはしとくから」
「ありがとう。でも、大丈夫? 今日はそのままでも良いんじゃない? かなり飲まされたんでしょ?」
風呂に入ると言った雅彦を夏海は心配そうに見た。
「大丈夫、野球で鍛えてあるから。体力には自信があるよ」
雅彦はそう言って、バスルームに入って行った。

 そして、熱いシャワーを浴びながら、雅彦はフライングしておいて良かったなと思った。でなければどんなに時間がなくても抑え切れなかっただろう。
 新婚旅行から帰った後、片付けることから始めないでもいいように新居を整えに行った際、既にコトは済ませてあった。
その時、
「もう、こんなクソ丁寧なしゃべり方、止めるから。実はさ、このしゃべり方、しゃべるたびに緊張するんだよ」
と言って、丁寧な口調を止める宣言をした。しかし、こんな宣言をしなきゃならないこと自体、まだ彼女に緊張している証拠なのだろうが……そう考えて雅彦は苦笑した。
 とにかく、明日からは毎朝隣に彼女がいてくれる。そう思うと、顔が緩んでいくのを抑えられない。
 バスルームから出ると、夏海は余程疲れていたのか、既に軽い寝息を立てていた。雅彦はその隣にそっと滑り込んだ。そして、その白いうなじを眺めながら、
「たぶん一睡もできないな。まぁ、飛行機の時間が長いから、そこででも寝るか。にしても、まるで拷問だな、こりゃ……」
と小声で言い、彼女のうなじに口づけた。夏海はくすぐったいのか、かるく払うような仕草をしたものの、目覚めない。
「今日はご苦労様。これからもよろしく」
雅彦は眠ったままの夏海にそう声をかけた。 

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

結婚-Parallel 28

結婚



 そして、雅彦と夏海はこの日、結婚式を迎えた。

 それにしても結婚するということは何と煩雑なことなのだろうと夏海は思った。
「嬉しい事だから良いじゃん」
と、龍太郎とのアリバイ工作に多大な協力をしてくれた親友皆川悠(みながわはるか)などは言うが、結婚式の事、新居の事、いろいろな手続き上の事など、次々と用事をこなさなければならない。
「嬉しくたって人間ストレスは溜まるし、疲れるの! 悠はまだ経験してないから分んないのよ」
夏海は悠のその言い草に、そう返した。だが、嬉しいのだろうか……そう返事した時、夏海はそんな風に思ってしまった。本当に愛する人との結婚なら、もしかしたらどんなに疲れていてもそんなことは思わないのではないのかと。
 それでも、雅彦の少年野球の指導最終日、夏海もグラウンドに招待され、子どもたちからお祝いの歌をもらった時には、胸にぐっとくるものがあった。雅彦はその横で子どものように泣いていた。

 そして当日……金屏風にお人形のように雅彦と二人並べられた時、夏海は実はあの日から自分はお人形のままなのかもしれないと思った。
 見合いのあの日――今日だけは母のお人形でいよう――そう思って臨んだ。その時、どこかに心を落っことしてきたのかもしれないと……

 

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

たすくの頭の中をお見せしたい!

え~っと、いきなりですが、独身編がここで終了と言う訳で、ちょっとブレイクタイムです。

と言う事は…これ、まだまだ続くんですよ、しつこくね(ため息)。前半部分だけで今までで一番長い「切り取られた青空-いと-」超えちゃってますから。

ネット小説って一気に出される方はあまりいらっしゃらないでしょうから、1話ずつ細切れに更新されて行く訳で…もう校了されておられるものはともかく、連載中のものに関しては更新を待たなければいけない。これもイライラしながら楽しい。

そして、それは作者も同じかなと。いや、フラストレーション的にはもっとかもしれません。

私にはもうラストシーンがはっきりと映像として見えている訳で、そのための伏線も1話から着々と準備しているので、早くネタをばらしたいんですよ。ウズウズしてる。

前半の自分の中での最大の山場、あの年下男の暴露話を書き上げた時には、胃につっかえたものが消えたような…かなりの爽快感を味わいました。これがあるから物書きは止められないんですよね~

もうホント、一気にたすくの頭の中全部お見せしたい衝動に駆られる毎日を今送ってます。ただ、今回は焦らずじっくり行こうとは思ってますので、最終細切れながら何話まで数を重ねるか…それが楽しみのような、怖いような。

良かったら、この後もお付き合いくださいませ。
                                                神山 備

不安-Parallel 27

不安

「ねぇ、本当にここで良いんですか?」
雅彦が新居に選んだのは、東京都内ではなく、千葉県にあるマンションだった。彼らはこの日、新居に運び入れる家具を決めるため、フロアの細かいサイズを測りに来ていた。
「ここじゃ、試合の時何時に起きないといけないんですか?」
夏海はそう言って心配そうに雅彦を見た。
「あれ? 自分、言いませんでしたか? 結婚を機にチームの指導を降りるの」
「辞めちゃうんですか……何だか寂しいな」
雅彦が辞めると聞いて、夏海がそう返すと雅彦は笑いながらこう言った。
「監督がね『お前今野球どころじゃないだろ。大体な、女連れで指導されても困るんだよ』
って。なんて言うか、実はお払い箱なんです。そのくせ、『秋季大会が終わるまでは頼むぞ』なんて勝手なこと言うんですから」
 監督は雅彦の大学時代の野球部の先輩で、雅彦を弟のように可愛がっていた。たぶん、それは雅彦を幸せに導こうという方便なのだろうし、雅彦自身もそれに気づいているのだろう。
「でも、夏海さんが残念がってくれるのは何だか嬉しいですね」
あれから夏海は何度か練習に試合にと足を向けるようになっていて、すこしずつ野球のルールも解かり始めていた。それに、ちょっぴり生意気な小学生たちとどこか同次元な雅彦を見るのも楽しかった。
「これからはあなただけを見ていられます」
雅彦はそう言って夏海を抱き締めると、彼の唇を彼女のそれに押しあてた。夏海と雅彦とのそれが初めての口づけだった。
 これから夫婦になろうとしているのだ。彼は夏海の父親になろうというのではないのだから。
当然と言えば当然のはずなのに、夏海は突然の口づけに非常に狼狽えていた。そしてそう遠くない将来には身体も結ばれる。そうしたことも頭では解かっているのに、なんとなく実感として湧かない。

『少しずつ好きになってもらえますか』
愛してくれる人に応える愛もある。そう思って受けたこの結婚だったけれど……一抹の不安を感じながら、夏海は次第に深くなっていく口づけに応じた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

嘘;から出た真実-Parallel 26

嘘から出た真実

 それから双方の話し合いがあり、具体的な結婚式の日取りも決まって、夏海は会社に辞表を提出した。同僚のおめでとうの嵐の中、小夜子だけが妙に醒めた目をしていた。
「それでどんな人なのよ、教えなさいよ」
社内で母と呼ばれている古参の女性社員、深見がそう言って夏海を突いた。
「えっ、普通の会社員ですよ」
夏海は赤くなりながらそう答えた。
「歳は?」
夏海がぺらぺらと話さないと判ると、深見は細切れに質問してきた。
「三十一です。あ、でももうすぐ三十二になります」
そう答えた所で小夜子の眉が少し揺れた。
「で、君は何さんになるのかな。旧姓倉本夏海さん」
「い、飯塚です」
その時、小夜子の目が大きく見開かれた。
 皆が夏海から離れた後、小夜子は自分から彼女に近づいてきた。
「びっくりしました。私はてっきりやっちゃんと結婚するんだと思ってました」
と彼女は夏海に言った。やっちゃんとは小夜子が武田を呼ぶ呼び方だ。
「どうして? 私最近、連絡もとってなかったわよ。」
そう返した夏海の返事は震えていたかもしれない。
「でも、私と別れたあとは……付き合っていたんでしょ? ナツ先輩。そうですよね。元々私がやっちゃんとナツ先輩を引き合わせたんだし、私が困らせた所でやっちゃんの心は私にはないって気付いてたから。でも、ナツ先輩の本命はやっぱりクマさんだったんですね。おめでとうございます」
 小夜子はいつから2人の関係に気付いていたのだろう。
『女って怖いんだから』夏海は大学祭の誘いの時の自分の言ったことを心の中で再生して、身震いした。
 夏海が返答に困っていると、小夜子は笑みを浮かべて、
「そんな顔しないでくださいよ。私、やっちゃんと別れて落ち込んでるときに高校時代の友達に今の彼を紹介されて……ついこの前彼ね、私の両親に挨拶に来たんです。まだ、具体的なことは決まってないんですけど……」
と言ったのだった。
 心配などしなくて良かったのかもしれない。ただ、縦しんば小夜子に自分たちの関係を早々と打ち明けていたとしても、今の結果に何の変わりもなかったのかもしれないが……
 それにしても、小夜子のためについた嘘が雅彦になって現れたのではないかと思うほど、あの頃取り繕った嘘に雅彦のキャラは符合していて、夏海は小夜子と離れた後、思わず苦笑いしてしまったほどだった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

勘違い-Parallel 25

勘違い


 呆然と自室の床に座り込んでしまっている夏海の隣で子機が鳴り響く。しかし、夏海は取る気になれなかった。そう、この電話はたぶん……
しばらくして、階下から母の声がした。
「夏海ちゃん、電話部屋に持って行ってるんでしょう? 出てくれればいいのに。飯塚さんからお電話よ」
母のそんな呑気な取次が恨めしかった。母は何時、私をかっ飛ばして武田に別れを促したのだろう。
 あの人が余計なことを言わなければ……私にも『あっちに女を作られてそれで終わり』なんて不信を植えつけるようなことを吹き込まなければ……私は康文を……待てた?

 ……止めよう。そんな母の思惑に縦しんばからめとられたのだとしても、結局飯塚さんを選べばごく普通の幸せが待っていると思って最終的に決断を下したのは、この私自身ではないか。
私の中に小夜ちんから奪い取った、元は小夜ちんの……という気持ちがどこかになければ、いくら強引な押しに弱いとは言っても、私は自分のその口で飯塚さんに断りの言葉を吐けたはずだ。

「はい……夏海です。」
「今、よろしいですか。」
「……」
しかし、雅彦の張りのあるひときわ大きい明るい声を聞いた途端、夏海は涙が流れて止まらなくなってしまい、彼に返事をすることができなかった。
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
雅彦は電話口の夏海が泣いていることに気づいて慌てているようだった。
「……ごめんなさい……私……このお話やっぱり受けられない……お断りします」
夏海はしゃくりあげながらやっとそれだけを告げた。こんな気持ちではとても飯塚さんとは結婚なんてできない。
「何故ですか!」
「私……好きな人がいるんです。その人を忘れようと思って飯塚さんとのお話進めていただいたんですけど、やっぱり忘れられそうにないです。そんなの、悪いでしょ」
それを聞いた雅彦の方は、やっぱり……と思っていた。でなければ、こんなに素敵な人が一人でいて見合いなどするはずはないと。
 その時雅彦が想像していた夏海の状況は、釣書にも社員旅行の写真を添付してあったし、初めて会った日も仕事の話だったから、相手は職場の上司で既に家庭を持っているといった的外れなものではあったのだが。

「夏海さん、今は駄目でも少しずつ自分の事、好きになってくれませんか」
しばらくの沈黙の後、雅彦はそう口にした。
「えっ?」
「自分の事、断ってもその方のところには行けないんでしょ?」
「……はい……」
そう、私がこの手でその道を絶った。でもなぜそれを飯塚さんが知ってるの?
「じゃぁ、自分に甘えて傷治してください。あなたは甘えられるより、甘える方が向いてると自分は、思います。でも、自分にはそんな頼り甲斐はないかな。」
「飯塚さん……」
「もう、ウチの家族にはあなたを手に入れたと言っちゃいましたよ。今更断るなんて言わないでください。それに、自分はあなたを受け止めきれないような男になんて、あなたを渡したくはないですからね。結婚しましょう、良いですね。」
この人はどこまで知っているのだろうか。それでも私と一緒に居ようと言ってくれる……
「ええ、こんな私で良ければ」
 雅彦は実のところ何も知らなかったし、全然見当違いの憶測をしていたのだが。夏海もまた、雅彦は自分の過去を知った上で、それでも自分を乞ってくれているのだと勘違いしていた。
 男と女の結びつきなど、案外そんな勘違いのなせるわざなのかもしれない。
 
 翌週、雅彦は倉本家を訪れ、夏海の両親に正式に結婚の承諾を求めた。
すると、あれだけ反対した母は、夏海の父と雅彦が男同士酒を酌み交わして盛り上がる中、夏海を台所に呼んで、
「武田君の事はもういいの?」
と聞く。
「もういいのよ。康文とは終わったから。」
言いたいことはいっぱいあった。しかし、雅彦がすぐ隣の部屋にいるところで声を荒げたりはできなかったし、縦しんばそうしたところで夏海は却って自分が惨めになってしまうだけのような気がした。
「そう……お母さんはあなたが幸せになってくれればそれで良いのよ」
そう言う母の顔は、どこか夏海への謝罪を感じさせた。
謝ってもらったところで何も変わらないわ。夏海は心の中で、母にそう呟いた。

 雅彦は結婚と同時に夏海に家庭に入ってほしいと言った。
実のところ、雅彦は夏海の意中の相手は彼女の上司(あるいは同僚)だと思っていたから、それから引き離したいと考えただけだった。
「今の仕事好きなんだけどな」
と渋る夏海に、
「雅彦君、何にしても最初が肝心だぞ。尻に敷かれないためには、言いたいことは言うべきだ」
少し酔いが回り始めた夏海の父が、そんな妙な援護射撃を上機嫌で雅彦に送った。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

Parallel 24

「親父さ、今週になってやっと症状も落ち着いてきて、危ないとこ抜けたんだよ。だから……もうちょっと待っててくれたら良かったのに……」
武田は苦々しげにそう言った後、
「俺、引き留めたりしないから。それが俺の男としての最後のプライドだと思ってる。
俺さ、つくづく夏海さんに信用されてなかっただけなんだろ。まぁな、小夜ちゃんの性格がとか言って、すぐにすっぱり切らなかった俺が何も言えないんだけどさ。でも、これがサティの人だったら夏海さん、最初から見合いなんてにべもなく断ってただろ、きっと」
と言った。それを聞いて、そうかもしれないと夏海は思った。龍太郎とまだ付き合っていたあの頃なら、彼が少々浮気をしようが、あてつけに見合いをしようなどと言う発想は出なかったはずだ。
「俺たちって縁がなかった、それだけさ」
呟くようにそう言って、武田は大きくため息をついた。そしておもむろに武田は、
「最後に一つだけ教えてやるよ。俺にとって夏海さんは最初の女だったんだよ」
と言った。
「最初の…女?」
夏海は驚いて聞き返した。
「うそ、あなた小夜ちんと!」
「付き合ってたよ。でも、あいつとは結局キス止まり。お飯事でしかなかった。
それでさ、大人の女性と付き合うにはそんなんじゃ駄目だと思って、こっそりHビデオ見たり、遊んでる奴の受け売りで、女に慣れたフリしてただけさ。でないとサティの人は超えられないって妙に肩肘張っちゃってさ。今から考えると、それがガキだなって分るのに。
本当に夏海さんの中の“彼”にずっと怯え続けてた。こんなことなら、正直に何も知らないって言えば良かった。そしたらお互い不安に駆られることもなかっただろうからさ」
 そんな武田の爆弾発言を聞きながら、私は一体康文の何を見てきたのだろうと夏海は思った。私は彼が龍太郎に対して並々ならぬライバル心を抱いていることにも気づいていなかった。悪いのは結局私なのか……
「とにかくお幸せに。夏海さんなら、どんな方でも上手くやっていけますよ」
何も言えなくなってしまった夏海に、武田はそう言うと電話を切った。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

不信の代償-Parallel 23

不信の代償

 そして、夏海が投函した翌々日、武田から電話があった。
「夏海さん、結婚おめでとう」
開口一番、武田はそう言った。それは夏海が彼の口からは一番聞きたくない言葉だった。
「あなたは結婚できれば誰でも良かったんですね」
続いて彼から吐き出された言葉が夏海の胸を切り裂く。言葉尻が丁寧なのに気付いて、夏海の胸は余計に痛んだ。二人の前に大きな大きな壁が立ちふさがっているようだった。
「違う……違う……そんなんじゃないわ、それだったらあなただって……」
「あなただって? 俺があんたに何をしたって言うんだ!」
だが、そんな夏海の言葉に、武田はいきなり激昂した。
「だって、私がこの前電話した時、あなた女の人と一緒にいたじゃない! 彼女あなたの事、呼び捨てにしてたわ」
「!」
武田の息を呑む音が聞えた気がした。
「……まさか、隣の部屋のあの声が聞えたって言うのか?」
彼は信じられないという感じで聞き返した。それにしても隣の部屋って何? 彼の住んでるのはフラットな一DKなのに……
「そうよ、私の耳……電話の相手方の少し離れた声も全部拾うのよ、知らなかった?」
「確かに、デカイ声で叫んでたけどさ、マジかよそれ……」
武田はそれを聞いて一瞬言葉を失った。そしてふてくされたような声でぼそっと、
「アレ、ねーちゃんだよ」
と言った。
「ねーちゃん?」
「実は親父が倒れてさ、あの日は親父の病院に行った後、今後の相談をするために実家にいたんだ」
ねーちゃんと実家……携帯に電話してるし、こっちに帰ってくることも聞いてなかったから私、彼が当然浜松のあのアパートにいるもんだとばかり思ってた。
 そう言えば、その前にかけた時も着信元が公衆電話だったことにひどくびくついてたわ。あれって、私の電話を病院からの電話だと思ったからなんだ。いつかかってくるか分らないからって、長電話もできなくて……夏海の中で、最近の武田の不可解な行動が全てつながっていった。
「ごめんなさい……私、誤解してた」
「俺も何も言ってなかったのは謝るけどさ、何でそもそも見合なんかしたんだよ。いつも通り逃げれば良かったろ!」
夏海の勘違いが分ったからなのか、武田はいつになく上から目線だった。
「そうよね……ごめんなさい」
そんな彼に返す夏海の言葉は、もう謝罪の言葉しかなかった。そうよ、康文はちゃんと待っててって言ってたのに……
「それでも俺さ、今回は何か嫌な予感がしたんだよ。それで、そっちに電話入れたんだ。そしたら全然つながんなくてさ、やっとつながったと思ったら、お母さんだった。そいで、言われたんだ。『夏海ちゃんはお見合いをした方と良いお付き合いをしてます。だから、もう夏海ちゃんとは連絡を取らないでくれますか』ってな。思い切って本当の事を言おうと思ってたのが、それで一気に力が抜けたんだよ。なんか電話する気が失せた」
武田は苦々しげにそう吐き捨てた。
「お母さんがそんな事を言ったの?」
よりによって、私がいないときにお母さんが電話をとっていたなんて。
「なぁ、百歩譲って見合いするのは親の手前だとしても、それから付き合ってるってどういうことだよ。あのお母さんがどうあれ、最初に会ったときに本人に直接言えば済んだことだろ」
「そ、それは……」
雅彦に直接すぐに断りを入れなかった件を突っ込まれて、夏海は口籠った。見合いの後、母が勝手に話を受けてしまったから、二度目に会った時には打って変わって飯塚さんが積極的になっていたから言い出しにくくなってしまったとか……いや、違う。いくらでも断る暇などあったはずだ。
「俺が浮気でもしてると思ってたってか」
「……」
「黙ってるってことは、図星だってことだな。俺は親父の事で頭が一杯で、そんな暇なんてなかったよ」
武田は声こそ荒げてはいなかったが、その口調は怒りに満ちていた。
「じゃぁ、康文がもっと早くお父様の事をちゃんと話してくれれば良かったじゃない。そしたらそんな誤解もなかったんじゃない?」
そう、最初から武田の父の病を知っていたら……私はあんな話はお母さんの挑発を受けようが受けなかった。
「そんなことしたら東京にいない俺に代わって、夏海さんが親父の面倒を看ると言いだすだろ」
「当たり前じゃない。あなたのお父様だもの」
あなたのためだけじゃなく、お母さんに窘められても嬉しそうに私に話しかけてきて緊張している私の気持ちを少しでも軽くしようとしてくれたお父さんに、その恩返しをしようと思っても、罰なんか当たらないはず、夏海はそう思った。
「親父の事はこれからどれくらいかかるかわからない。精神的にも経済的にも結婚なんて余裕は今持てないんだ。あの夏海さんのお母さんが、結婚もできない男の親の手伝いに夏海さんを行かせる訳ないだろ。だから、言えなかった」
それに対して武田はそう言った。
 それにしても……ああ、また母だ。何故あの人はこうも私に立ちはだかるのだろう。夏海はぐっと唇を噛みしめるしかなかった。

2番目の人-Parallel 22

2番目の人


夏海はその日、練習試合の途中からこっそり参加した。それでも、チームの家族以外は見に来ることのない練習試合では、見慣れない顔の夏海は、大人はもちろん子供たちにもすぐに気付かれてしまった。
「すげーっ、コーチホントだったんだぁ」
「コーチ、なかなかやるじゃん。どこでそんなキレイな人見つけてきたのさ」
子供たちが試合そっちのけで口々に雅彦を突っつく。
「お前ら、試合に集中しろ! こっちが約束守ったんだからな、絶対勝てよ」
「はーい、コーチが良いところを見せられるように頑張りまーす」
子供たちが口をそろえてそう言うのを聞いて照れてあたふたしている雅彦を見て、夏海は吹き出した。

「お前ら、これじゃ逆だろ」
そして、試合が終わった後、約束通り勝利した彼らに、雅彦は結婚の前祝いだと言われて、アイスをを奢らされていた。
「ねぇねぇお姉さん、コーチのどこが良かったの」
夏海の肘を突きながら、そんなストレートな質問を浴びせかける子供までいた。
しかし、どこが良かった……と考えた時、夏海の心は寒くなった。どこが良くて私は今日、ここに来たのだろう。
 あの日以来、雅彦は確かに夏海の中でぐっと近づいた存在になった。でもそれは、武田に裏切られた悲しみを埋めるためでしかなかった。このまま流れに乗っていれば、そのまま結婚まで到達する電車に乗った。それだけなのかもしれない。
「うーん、優しいとこかな」
だから、夏海は無難にそう答えた。
「コーチ、彼女に優しいんだってさ!」
すると、素っ頓狂な声でその子が叫んだ。周りの子供たちからもわっと歓声が上がる。
「コラ、シゲ! 何、聞いとんだ!」
雅彦は日焼けしていても判るほど真っ赤になって、シゲと呼んだ少年の頭を小突いた。
「すいません、夏海さん……」
「夏海さんだって!」
またそこで歓声が上がる。
「お前らなぁ……」
嬉しさと恥ずかしさを綯い交ぜにした様な表情で、雅彦は夏海を見た。

『女はね、一番愛している人より、二番目に愛してる人と結婚する方が絶対に幸せになれるのよ』
誰かがそんな事を言っていた事を夏海は思い出した。二番目に愛しているのが雅彦かどうかは判らなかったが、愛するより愛される方が幸せになれるということなのかもしれないと、夏海はその時、そう思った。

「今日は、本当にありがとうございました。夜にまた、電話します」
雅彦は夏海を自宅まで送り届けると、手を握りそう言って帰って行った。
 そして、その夜雅彦は、
「来週会う時にはその……帰りに夏海さんのお父さんに御挨拶して良いですか。」
と言った。控え目な言い方ではあるが、それは紛れもなく彼女に対するプロポーズだった。夏海は戸惑いながらもそれを受けた。
 プロポーズを受けた夏海は、夜遅く武田に手紙を書いた。電話で直接別れを告げる勇気などなかった。淡々と見合い相手の男と結婚するという事実だけを書き、武田に借りていたCDを同封してポストに投函した。 

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

第735回「ネットカフェ、利用しますか?」

こんにちは!トラックバックテーマ担当の水谷です!
今日のテーマは「ネットカフェ、利用しますか?」です。
第735回「ネットカフェ、利用しますか?」



中途半端な時間余りに利用してますね。
この3月までは、週3回はお世話になってました。
娘の塾の送り迎えの間にのガソリンと時間の節約に、近くのネットカフェでその日は2本立てってことが多かったですね。

1時間半しかいられなかったんですけど、その1時間半で1本書き上げる。なんかそういうトレーニングをしてたような…あの狭い空間が心地よくて、異世界にもぐりこむのにはちょうどよかったりするんですよ。
後は、教会の礼拝出席後の仕事までの合間に。教会と職場は歩いてもいける距離なので、自宅よりはるかに近いし、ネットカフェのご飯の方が、下手なファミレスより安いんですもん。

携帯更新を覚えるまでは、旅行などでは必ず探して更新してましたし…おばさんの割には結構利用してるかなと思います。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

大人の恋の難しさ

今、悩んでいること…R指定について。

大人の恋愛を書きたくて始めたこのベテル。となると問題になってくるのは性の描写。

直接的表現をするつもりはないのですが、その手のニュアンスは絶対に必要。こういう作品の場合、R18指定すべきなのかどうかで今ものすごく悩んでいます。

R18指定して気兼ねなく書きたいという気持ちと、そういう指定をしてる分、初めてのお客様に期待をもって入室されて、内容を見て拍子抜けされることとのせめぎあいで悩んでいるんです。

こんなこと皆さんにふってもご迷惑かもしれませんが、私の文章ってボーダー越えてます?!

とりあえず、ご案内にその手の表現がありますとの一文を載せさせていただきました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

空耳?-Parallel 21

空耳?



 康文の声が聞きたい――逃げるように家に戻った夏海は、子機を部屋に持ち込むと、早速武田に電話を入れた。
「もしもし」
「……」
呼び出し音が途切れた途端、耳に流れ込んでくる武田の低く透き通ったこえを聞いた夏海は涙がこぼれて、言葉を発することが出来なかった。
「夏海さん……だよね」
それに対して、武田は少し訝るような言い方で彼女に尋ねた。
「ごめんなさい……久しぶりに声を聞いたから……」
「こっちこそ、なかなか電話できなくてゴメン……何か、用?」
「あ、あの……」
見合い相手とその後も会っていて、結婚を仄めかされたなどとは言えない、逡巡していると、受話器の向こうから女性の声が響いた。
『康文! 何してんのよ、早くこっちに来なさいよ』
その途端、武田はそわそわし始め、
「ちょっとまだ忙しいんだ。もう少ししたら、こっちからかけるよ」
と言った。
「忙しいならいいわよ。それから、明日から私も忙しいの。色々あって……帰りも遅くなるの。こっちから電話できなくなるから。それだけ……」
「そう、じゃぁお休み。切るね。」
 電話を切った後、夏海は子機をぎゅっと抱き締めて泣いた。そして、聞えすぎる自身の耳を呪った。……あの女、『康文』と呼び捨てだった。やっぱり、年上……なんだろうか。
 普通電話では電話している本人以外の声は聞こえないものらしい。しかし、夏海の耳は受話器越しの少し離れた者の声まで拾ってしまい、電話口の人間の取り次ぎを経ず、当然聞えるはずのないその者にまで返事をしてしまうことがある。武田はそのことを知っていたろうか。大学時代から一人暮らしだったし、小夜子と二人でいた所に電話をした記憶もない。それに、たとえそうでなくても、彼はその傍にいた女性の言葉に明らかに動揺していた。
『あっちで別の女を作られて、それで終わりだわ』母の言葉が刃となって夏海の心に突き刺さる。母の言っていた事がまさに現実化している? そう思った時、夏海は震えが止まらなくなっていた。
 そのとき、不意に着信音が鳴り響いた。夏海は驚いて抱きしめていた子機を放りだしそうになった。ああ言ってはいても、自分の態度に何かを感じ取ってかけ直してきてくれたのかしら……そう思いながら着信ボタンを押した。
「もしもし、倉本さんのお宅でしょうか」
しかし、かけてきたのは武田ではなく雅彦だった。夏海にがっかりする気持ちとホッとする気持ちが交錯する。
「あ、夏海です」
「夏海さん、今日はすいませんでした。映画館から後、急に元気がなくなったみたいでしたし。実は、泣いてる顔も素敵だと、見入ってしまってました」
雅彦は夏海が泣いているのを見られたことを怒っているのだと思って、謝りの電話を入れたのだ。
「いえ……そんなの、何とも思ってないですよ……」
「ああ、それだったら良かった」
そして、そんな小さなことに心底ホッとした様子の雅彦の口ぶりに、夏海はまた涙があふれてくるのを抑える事ができなかった。
「夏海さん? ホント、何かあったんですか? 自分で良かったら話聞かせてください」
雅彦はそんな夏海の涙に気付いてそう言った。しかし、たった今恋人に裏切られたことを見合い相手の彼に言える訳がないではないか。
「いいえ、何でもないですよ。それより私、いつ行ったらいいですか」
「はい?」
「練習試合の応援」
「えっ? えーっっ! 来て下さるんですか?」
雅彦の叫び声と同時に、ゴトンという鈍い音が夏海の耳に響いた。夏海が練習試合を見に行くと言われて、今度は雅彦が本当に受話器を落としてしまったのだ。
「す、すいません。自分、あんまりびっくりしてしまいまして、電話落としてしまいました」
「謝らなくてもいいですよ。で、いつ行けば良いんですか」
「はいっ! えっと……スケジュールは……」
雅彦は完全に舞い上がった声でぶつぶつ言いながら、日程表が書かれた手帳をバサバサと繰り始めた。
 これが彼に対する自分からの意思表示になると言うことは夏海にもよく解かっていた。
武田のことの反動だというのは間違ないが、その時夏海は、普通に幸せになるののどこが悪いの? という開き直りの様なものも、同時に感じていたのだった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

緊急報告

小説ランキングに登録しておりましたが、このテンプレを使いこなせず、更新記録が送信できないままになっているので、とりあえずランキングを外しました。

パソコンのことをもっと勉強すれば良いのでしょうが、それよりも今あるものを前に出したいという気持ちが大きいので、また秘密基地に戻ります。

短い間でしたが、応援をくださいました方にはまことに申し訳ありません。急いでバナーも外します。

アドナイ・エレではランキングは続けます。また書く事を止めるつもりはないので、ベテル自体、FC2小説の方も何も変わりません。

取り急ぎご報告まで

                                              神山 備

theme : 管理人からのお知らせ
genre : その他

Parallel 20

その内、雅彦からは直接的なものではないのだが、結婚を匂わせるニュアンスの台詞がちらほらと混ざる様になってきていた。見合い自体が結婚を前提に行われるものなのだから、当然付き合いを続けることイコール結婚に向かうというのは当然の流れだ。
 それにしても、自分はどうして雅彦にはっきりと別れを切り出すことができないのだろう。電話を受ける度、会う度に夏海はそのことに身悶えしながら、結局口に出せないままここまできていた。
 そして、何度目かのデートは映画館。チョイスしたのは最後に恋人が亡くなってしまうと言う悲恋物語。夏海は主人公の女性にすっかり感情移入してしまい、かなり号泣に近い状態で涙を流していた。ふと横を見ると、雅彦はそんな夏海の顔をじっと見ていた。
(この人、映画も見ないで私を見ていた訳?)夏海は恥ずかしくなって彼を睨むと、ぷいっと顔を反対に向けた。
 映画が終わった後、雅彦は喫茶店で、
「良い映画でしたね」
と言った。夏海は自分が泣いていたことを見られた恥ずかしさでいっぱいになり、
「飯塚さんは映画なんかちっとも見てなかったじゃないですか」
と非難した。
「ち、ちゃんと見てましたよ。あの時はたまたま眼が合っただけです」
すると、彼は慌ててつっかえながらそう返した。
 その後、雅彦は咳払いを一つして、
「今度……」
と、話を切り出した。
「今度?」
「今度、ウチのチームの練習試合を見に来てやってくれませんか。自分は普通にしてるつもりなんですがね、どうも『最近コーチはにやけている。何かあるんじゃないか』と言われてですね、とうとうあなたの事をあいつらに白状させられてしまいました。で、どうしてもあなたを連れて来いと言うんですよ」
夏海は年端もいかない小学生にせっつかれて、見合い相手の事をしどろもどろになりながら白状させられている雅彦の姿を想像して、笑いをこらえるのに精一杯だった。
「あいつらに、自分の嫁さんだって紹介していいですか。あ、それはやりすぎですね」
だが、雅彦から続いて出て来た言葉に、夏海は一瞬にして血の気が引き、顔が強張った。
「暫く……暫く考えさせて下さい。」
彼女はやっとのことでそれだけを口から紡ぎ出した。後はその日、彼が何を話したのか、自分がそれにどう受け答えしていたのか、彼女は少しも覚えていない。 
 康文の声が聞きたい……彼女の頭の中にあったのは、ただそれだけだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Parallel 19

「いやぁ、まさかあなたにOKを頂けるなんて思ってませんでした」
待ち合わせの土曜日、雅彦は挨拶もそこそこに夏海にそう言った。
「あ、あの……それは……」
ウチの母親が私に断りもなく勝手に受けたのであって……夏海はそう言おうとしたのだが、雅彦のあからさまの喜びの表情を見てしまうと、それを飲み込んでしまった。断るなら、傷は浅い方が良いはずなのに――そう思いながら。
 そして、初めて会った時とは打って変わって雅彦は饒舌になっていた。
「夏海さんはどのチームがお好きですか。自分は〇〇のファンなんです」
「すいません、私野球自体知りません」
雅彦にそう聞かれた時、夏海は素っ気なくそう答えた。野球の事は本当に知らなかった。ボールをバットで打ち、一・二・三塁と順に走って元に戻ってくる位の知識しかない。それにしても彼は、自分のことを『自分』と呼ぶのか。如何にも体育会系……脳味噌も筋肉でできているのではないかと彼女は思った。
 そのあと、今度は夏海が雅彦の野球に対しての熱い思いを一方的に聞かされることとなった。内容は半分も解ったろうか。彼女は意味も解からず適当に相槌を打つだけだった。
 そして、ひとしきり話し終えたのを見計らって、夏海はようやく彼女の彼に対する最大の疑問を問いかける事が出来た。
「飯塚さん、失礼ですがどうしてあんな写真の私に会ってみようと思われたんですか」
「えっ、あんな写真って?」
雅彦は写真の事を問われて首を傾げていた。この人、私の写真も見ずに会いに来たんだろうか。それほど気持ちのない出会いで、よくも受けてその上こんなしらじらしい態度が出来るものだわ。彼女は首を傾げる雅彦を睨んだ。しかし、写真の事を思い起こそうとしていた様子の彼はそれに気付かなかったようだ。
「私、一人では写ってなかったでしょ?」
「ああ、そのことですか。あれ、社員旅行の写真ですよね。ものすごく良い笑顔で写ってらしたから、良い職場にお勤めなんだなと思いました」
なるほどそういうとり方もある訳か……そう思った直後、雅彦の口をついて出て来た言葉に夏海は目眩がして倒れそうになった。
「で、一目ぼれです。」
雅彦は頭を掻きながらそう言ったのである。野球三昧の日焼けした肌では赤面しているかよく判らない状態だったが、彼の照れ具合を見ていると、しっかり赤面しているに違いない。
 雅彦が夏海を初めて目の当たりにして口を半開きにしたまま固まった本当の理由は、写真を見て一目で恋に堕ちた女性が実体化した喜びと戸惑いだったのだ。さらに当日、夏海はプロによって一段と磨きをかけられた状態で現れた訳で、彼の恋心はますます加速した。気さくな話しぶり、彼の母に対する対応(これは雅彦では話の間が持たないために、ついつい雅彦の母に話しかけることになったためではあるのだが)を見るにつけそのボルテージは上がっていき、頂点に達した。
 もうこの女性を逃してはいけない。仲を取り持って下さった方から、夏海(正確にいえば夏海の母なのであるが)の方もお付き合いをしたいと言ってくれたと聞いた時、意を決してこれからは積極的に行こうと思い、何度も自宅でシュミレーションをしてこの日を迎えたのだ。そんなことを夏海が知るはずもない。
 どうしよう、このままじゃ飯塚さんに押し切られてしまうわ。初対面とは全く別人になってしまったように積極的にアピールする雅彦に、夏海はそう思いながら何故だかその日、言わねばならない断りのための台詞を何度も呑み込んでしまったのだった。

最悪の事態-Parallel 18

最悪の事態


 見合いに電車もあるまいと、夏海たちはタクシーでホテルに乗り付けた。
そんな慣れないことをしたために、彼女らは軽い渋滞に巻き込まれて、待ち合わせの時間に少し遅れた。
「すいません、遅くなりまして……」
夏海の母がぺこぺこと頭を下げる中、夏海自身は軽く一礼しただけだった。
 相手の男――飯塚雅彦は三十一歳。百八十センチあまりの大柄で、如何にも体育会系の感じのする男だった。学校を卒業した後も男達と草野球に興じ、リトルリーグの監督をしている先輩から請われてそのチームのコーチを買って出ているらしい。
 一応、ここに来るまでに一度写真だけはみた。しかし、平面では詳細はつかめない。実際に会うと、その大柄さ加減を実感した。縦にも横にもデカイ人だな……それが夏海の第一印象だった。
 雅彦は全くと言って夏海の好みではなかった。龍太郎にしても武田にしても、どちらかと言えば男としては線の細い、所謂草食系だ。つまり、そういう優男にしか食指が動かないということなのだろう。
 雅彦は夏海が現れた時、しばらく口を半開きにして固まっていた。遅れて来たのに悪びれず一礼だけだなんて、随分無愛想な女だと思ったに違いない。だが、どうせ断るのだから、どう思われようが知った事じゃないと夏海は思った。
「ああ、ああ……そんなの全然構わないですよ」
それから母が頭を下げる言葉を耳に入れると、彼は突然魔法が解けたかのように、何度も頷きながら母にそう答えた、図体のでかい男が身を屈める様子に、夏海はなおげんなりした。
 だから、緊張感などまるでなかった。夏海は緊張しまくっている雅彦を尻目に、同席した雅彦の母親と意気投合し、女同士のトークに花を咲かせた。
 後から思えば……それが夏海のこの日一番の失敗だった。雅彦はそれで彼女の事を『親も大切にしてくれる』との好印象を持つことになったのだから。
 二人きりにされた後、何を話したのかも覚えていない。と言うか、緊張のあまり雅彦は会話らしい会話をしてこなかったからだ。夏海が会社の四方山話をするのをうんうんと来た時と同じく頷いて聞くだけだった。夏海はそれが、雅彦も自分と同じく気のない見合いに無理やり連れ出されて、話をするのも面倒なのだろうと思っていた。

「あ、はい時枝さん? 今日はどうもありがとうございました。えっ、ホントに? 気に入って下さった? それは……こちらはもちろん。では、よろしくお願いします」
だから……帰った後、雅彦が自分を気に入って是非ともお付き合いをしたいと、仲を取り持ってくれた母の友人に連絡してきたと聞かされた時、夏海は目眩がした。そして、母は彼女に断りもなく、二つ返事でそれを受けてしまったのである。
「勝手に受けないでよ、私最初から断るって言ったでしょ!」
「じゃぁ、夏海ちゃんが自分で飯塚さんに直接断りを入れなさい」
それを聞いて激怒した夏海に、母はそう言った。『私は気に入った』と言わんばかりに。
 これは私の結婚なのだ、お母さんのではない。こうなったら自分で断るだけだわ!
だがその後、次の土曜日に会ってほしいと喜々とした調子で電話してきた雅彦に、いきなりそれを告げる事は出来なかった。
 一旦は自分の意志ではないとしても受けてしまったものなのだ。それを電話なんかで断るのは失礼だ。もう一度会って、そこでちゃんと断ればいい。夏海はそう考えてデートの申し込みを承諾した。

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genre : 小説・文学

白紙と訂正の差?

すいません、特番のCMまたぎのようなことをしているたすくです。実は、ラストまで全部もうシュミレーションできてます。なのにこの間持たせ的な態度はなんなのさ…

実はポータルへ「彼方へ…」と「満月」をトランスしてました。番外編の「時の足音」だけがまだですが、本編にはエンドマークをつけました。(乃笑留ちゃんだけにつけたのはFineですけどね。)
あれからもう一ヵ所ほしかわさんとの共通点めいたものを見つけて、「彼方へ…」を彼女に見てもらいたかったんです。ついでに、「満月」の-18歳の誕生日-以降をトランスしました。

ベテルからベテルにトランスした時はあまり変わらなかったのに、ポータルにトランスするとなんかすごくまた話が伸びました。白紙の方か一からって気持ちになるんでしょうか。

「彼方へ…」は既に差し戻しトランスも終了してますし、短い作品なので、ちょっとお暇な時にどうぞ。(の割には重いかも知れないけど)カテゴリーショートストーリーにあります。

ただいま、「満月に焦がれて」の方もトランス作業終了しました。弘毅がどうしても上滑りしている感じだったので、そこを中心にいじってみました。桜木家炸裂してます。

theme : 更新報告・お知らせ
genre : 小説・文学

髪-Parallel 17



 お見合いに際して、母は夏海にフェミニンなワンピースを買い与えた。そうでもしないとこの娘はデニムにトレーナー姿で見合いに行くとでも思っているのか――さすがに私でも、そこまでのことはしないわよと、彼女は明らかに自分より数段はしゃいでいる母の後ろ姿にそうつぶやいた。
 母の見立ては夏海の普段の服装からは相当甘すぎたが、見合い当日だけは母の人形になると決めた。それで仲をとってくれた人に顔が立つのなら。そして、会ってすぐ断れば良い。そう思った夏海は珍しく母の選んだ服に袖を通した。いつもなら、彼女の見立てた服など絶対に着ないのだが。
 そして当日、夏海は朝一から美容室に行った。横髪を少し結って後ろでこの日のワンピースに合わせたかわいい感じのヘアアクセで留めると、残りの腰少し上まで伸びた髪は少しロール状に流れ落ちる。
「夏海ちゃん、ホント得よねぇ。天然の縦ロール。まるでお姫様みたいよ」
行きつけの美容師がそう言いながらセットをしてくれた。

 それにしても、私が髪を伸ばし始めたのはどうして……ああ、それは龍太郎が私が少し伸ばした時に、
「海は長い髪の方が似合うよ。伸ばせば?」
と言ったからだわ。美容師の賛辞を聞きながら、夏海はそんな事を思い出した。
 セミロングだった夏海はそれから伸ばし始め、今の長さになってからは、前髪とけ先だけを手入れするようにしてそれを保っている。この長さが気に入っている訳でもないのに、別れて久しい今も相変わらず切れずにいた。あの発言も、ロングヘアが似合うと言うより、ただそれが龍太郎の好みだったと言うだけだろうに。
 
 そして、その美容師からメイクも念入りに施されると、夏海は母と共に見合いの会場、あるホテルのラウンジに向かった。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

名は文を著す?

私はFC2小説に登録しています。ここで書き上げたものを本のようにするためにというのが最初の目的だったのですが、今のノベルテンプレをお借りするようになってからはここで充分いい製本ができるようになっています。

今は製本のためと言うより、トランスすることによって文章を推敲するのにウエイトが置かれているような気がします。

他の方の作品もたくさん読めますし。ランキングでもいいですけど、専門サイトもなかなかいいです。

そしてもう、おとといになるのかな?そんな風にFC2小説の中を彷徨っていると、ほしかわたすくさんという方に出会いました。名づけの経緯は分かりませんが、同じたすくという名前(しかも女性)に惹かれてその方の「シのないピアノ」という作品を読みました。

…ビックリしました。「遠い旋律」とコンセプトが同じなんです。確かにベタっちゃベタな作品でしたけど、音楽がきっかけであること。細かいとこはもちろん違いますが、流れているものは確かに似ている。思わず感想を残して、それからここで書きます宣言をさせていただきました。

名前が同じだと目の付けどころって似るんでしょうか。ほしかわさんも私のページに足を運んでいただいてかなりビックリされてました。

theme : 事実は小説より奇なり
genre : 小説・文学

疑念-Parallel 16

疑念

「もしもし、何かあった?」
武田は何故か切羽詰まった声で電話に出た。
「あ、私……」
「なんだ、夏海さん? 公衆電話なんで、誰だか判らなくて焦ったよ。で、何? 俺も電話しなきゃと思ってたんだけど」
彼は電話の主が夏海だと判ると、武田はホッとしたような様子でそう言った。
「ううん、ちょっと声が聞きたくなっただけ」
いきなり、見合いの話は切り出せなかった。
「そう……じゃぁ悪いんだけど、しばらく電話できそうになくて……そのことを今、電話しようと思ってた。今も長くは電話できないから」
「ゴメン、忙しかったんだ。気にしないで、声が聞きたかっただけなの。カードも一枚しか持ってないし、すぐに切れちゃうわ」
夏海は二枚目のカードを握りしめてそう答えた。
「じゃぁ、また」
「あ……」
しかし、切れると思った途端、彼女の口から声が出てしまった。
「やっぱり、何かあるんじゃない?」
「うん……私、見合いするかもしれない」
そして、彼に問われてやっと見合いの話を舌に乗せる事ができた。
「お母さんか、懲りないね。じゃぁ、しばらくしたらこっちから電話するから。それまで待ってて」
彼は明るくため息をつきながらそう返事して電話を切った。夏海が受話器を置くと、一枚目のカードが少し度数を残して夏海の手に戻った。
 電話を切った後、夏海は電話ボックスの中で身震いしていた。
『そのうちあっちに別の女を作ってそれで終わり』
先程来の母の言葉が彼女の脳裏を駆け巡る。もうすぐ就職して一年経つんだもの。いろいろやらなきゃならない仕事があるんだわ……そう考える心の隙間から、小夜子の顔が浮かんでくる。康文、あの子と別れる時もこんな風に少しずつ引き離していったのかしらと。
いや、私がお母さんに見合いをせっつかれていることは前から彼には言ってあるし、待っててくれと言ってくれた。大丈夫、待っていればいいのよ……
 夏海は勢い込んでかけてきた公衆電話までの道を、帰りはのろのろと戻った。
 そして翌朝、
「お母さん、お母さんの顔が立つって言うんだったら、会うだけならいいわよ。あくまで顔を立てるだけだから断るけど、それで良かったら先方に電話してくれていいわ」
夏海はそう言って、足早に会社に向かった。 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

つくづくキャラに引きずられるのね~私って…

デジタルウォークマンを買ってから、曲のソートが簡単にできるので、歴代のBGMを新着順に並べてプレイリストを作成しました。

ちなみに
「切り取られた青空」は
「Ti Amo」:EXILE・「もしも雪なら」:ドリカム・「レイトン教授トリロジーCD」:ゲーム音楽
「切り取られた青空-いと-」は
上記の曲+「ノクターン」:平原綾香・『赤い糸」:コブクロ・「永遠」:木山雄策
「遠い旋律」は
「エリーゼのために」:ベートーベン・「ア・イ・シ・テ・ルのサイン~私たちの未来予想図」:ドリカム・「HOLY NIGHT」:EXILE・「君が思えば…」:柴田淳・「桜」:コブクロ
「パラレル」は
「ジムノペディ第3番」:エリック・サティ・「空を読む」・「好きだけじゃダメなんだ」・「やさしいキスをして」:以上ドリカム・「bolero」:東方神起・「HIROMI」・「紅蓮の月」:以上柴田淳

と、書き出してみるだけで呆ける量のBGM(というかイメージソング)なんです。

でも、ここで1つ疑問…「満月に焦がれて」のBGMがないということに気付いたんです。さだまさしさんの「関白宣言」のワンフレーズ(1日でいいから俺より先に死ぬなってアレです)は入れましたけど、プレイリスト化してませんし。
聞きながら書いてはいましたから、何を聞いてたんだろうと思うと…「切り取られた青空」や、「遠い旋律」の時のをそのまま聞いていたんでしょうね。
あ、「時の足音」(コブクロ)!弘毅がめでたく?準主役に抜擢された時に、番外編ではそれ聴いてて題名にも冠したんだった。

思えば、私のキャラって私から出たものたちですから、音楽好きなんです。そんなキャラたちが好んで聴く音楽っていう意味合いもあったりするのでしょうし。内2作は、実際音楽を媒介としてくっつくという設定だしね。
となると、堅物の木村家(洋介・小百合夫妻)は乃笑留を除けばおおよそ音楽聞きそうにないもんな。
そう妙に納得したのでした。
キャラに号泣したり、キャラと同じ音楽を聴いたり…私って、キャラに市中引き回し?されてるかも。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

母の思惑-Parallel 15

母の思惑


 一方、夏海の母は、彼女が武田と付き合っていると解かっていても、いや解かっているからこそなのか、事あるごとに見合いを勧めた。母にとっては四歳も年下の社会人になり立ての男など対象外だと言わんばかりに、知り合いのお節介なおばさんたちにどんどんと娘を売り込んでいる様である。
 夏海は何度か盛装をしての写真(つまりは釣書に添えるためのもの)を取る様に強要されたが、彼女はそれを断固として断った。
「じゃぁ、スナップ写真でも良いわ。このごろは自然な感じなのが流行りだって言うから」
それでも母はまだ諦められないらしい。夏海は、ほとほとうんざりしながら一枚のスナップ写真をピックして渡した。
 それは社員旅行の際の写真で、にこやかに笑う彼女の横には、男性社員が二人一緒にフレームに納まっていた。
「私が写真嫌いなの知ってるでしょ。今、笑ってるのなんてこれしかないわよ」
夏海は母からクレームがつかぬうちにそう先制攻撃を加えた。こんな風に同僚と言えど男と写っている様な写真を見て、それでも良いと言うような男などいないだろう。いっそのことツーショットならなお良かったのに……
 母親は明らかに物言いたげだったが、無言でそれを受け取った。
 夏海はあんな写真で見合いに応じる男などいないと思っていた。実際、その写真を渡してからしばらくは、話を持ってくる人などいなかったから、彼女は安心しきっていた。
 しかし、そんな写真などものともせず、会おうと言う物好きが現れたと言うのである。夏海はにべもなく断った。しかし、それに対して
「会うだけでいいから、会ってみてちょうだいよ」
と、話を持ってきた母の昔からの友人は、写真を持ち帰らず、そう懇願して置いて帰った。
 「一体この方のどこがいけないの」
その友人が去った後、母は夏海に言った。
「この人がどうだって訳じゃないわ。解かってるんでしょ。会えるわけがないじゃない」
「この際だから言うわ。夏海ちゃん、武田君は駄目よ」
「何がダメなのよ! 大体、お母さんは龍太郎のときだって反対したわ。どうして私の気持ちを考えてくれないの!」
「あなたが幸せになれそうもない子ばかり選ぶからよ。武田君って、もとは中谷さんと付き合ってた人でしょう? そんな節操のない子が四歳も年上のあなたと結婚するつもりがあると思う?」
母はやはり知っていたのだ。まだ付き合う以前に不用意に夏海が口にしたのか、状況から類推したのかは判らないが、その辛辣な口調に彼女は目眩がするほどだった。
「あの子と付き合ったのが私と会うより先だったんだもの。しょうがないじゃない。それに、いきなり別れたりしてそれが私が原因だと分ったら、私とあの子との関係が崩れるもの。あれは康文の配慮よ」
夏海は少し剝れながらそう答えた。
「だったら尚更そんな優柔不断な男は止めなさい。彼、今東京にはいないんでしょう? そのうちあっちに女を作って、それで終わりだわ」
すると母はすぐさまそう返した。何てデリカシーのない言い方なのだろう……夏海は涙がこぼれおちるのを必死でこらえた。
 この人はそうやっていつも自分の一番不安に思っていることを的確に付いて突いてくるのだ。『お母さんはね、夏海ちゃんが幸せになる、それだけを望んでいるのよ』口ではいつもそう言うが、本当にそう思っているのか疑いたくなる。
もっとどうして娘の目線に立って考える事が出来ないのか。そうね、私はお姉ちゃんみたいに素直じゃない。きっと疎まれているのだ。
 夏海には二歳年上の姉がいる。両親に従順な姉は、短大を卒業して二年でさっさと親の喜びそうな彼女より三歳年上のサラリーマンと結婚した。
確かにおっとりと優しい姉は夏海の自慢でもあったが、夏海はまた、姉の様にはなれないとも思っていた。
「お母さんには、私の気持ちなんて解かってもらわなくて良い!」
夏海はそう言うと、家を飛び出した。
 そして向かったのは自宅近くの電話ボックス。夏海は空で覚えてしまっている武田の電話番号を押した。 
 一刻も早くこの場所から連れ出して! 夏海は心の中で何度も叫んでいた。

theme : 自作連載小説
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