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あり得ないミスで…

今、すごーく落ち込んでます。

FC2小説の方の原稿をリアルの女の子に見せたら、「高広、名前間違って変換してるよ。」との指摘が…しかも、1箇所ではなく、かなりな量…

何故そんな事態になったかと言うと、並行して「満月に焦がれて」を書いていたので、弘毅と入力し続けていたら、高広が高弘になってしまっても、その誤植に気がつかなくなってしまっていたということなんです。
「切り取られた青空」の時に、似た名前だとミスしそうなので、かなり気を遣ったりしてたのに…「満月に焦がれて」を全部終えてから編集すればこんな事態にはならなかったかと思います。

今まで、それこそミスは数えれば切りがないし、書いたものの納得が行かず書き換えることもしばしばなんですけれど。それとはまた違うでしょ。

とりあえず見つけた部分は全部訂正したのですが、プロではないとは言え、こんなあり得ないミスをしてしまった自分が許せない。こんなバカの作品を読んでいただくなんて申し訳ないと、非常に反省しています。

心からお詫びして…
                                              神山 備




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theme : つぶやき
genre : 小説・文学

感覚の再現(たすくの頭の中4)

私はおととい、職場でひそかにショックを受けていました。
「真面目な神山さんがそんなこと言うとは思わなかったな。」
と下ネタに乗っかった時、同僚に言われたのです。
「やだぁ、私ってそんな真面目じゃないわよ。」
結婚して子供がいる40代の女性が清純だったら却って怖いだろ、フツー…

そう言いながら、私はそれを否定しきれない自分がいることにも気付いていて、苛立っていました。弘毅を遊び人キャラに設定しながらそうできなかったことに、自分の中で納得が出来てない部分があるのです。

私が書くキャラクターが真面目で一途なのが多い。それは書くという作業が感覚の再現によるものだから…

もちろん、全部自分が経験したことだけ書いている訳ではなく(男には逆立ちしたってなれませんから)、設定したキャラになりきって話し、行動し、相手キャラのリアクションを待つのですが、所詮たすくのない頭の範囲内でしかそれは行われない訳で(時々キャラの暴走はあったりするけど)…たすくの性格が色濃く反映されてるんじゃないかと思いはじめていた矢先だったからでした。

なんかすごーく悪い男が書きたい!今そう思ってます。できないかも…できない確率の方が高いようには思いますが、それでも脱皮したいなと思うたすくなのでした。

theme : ヒトリゴト
genre : 小説・文学

気圧されていたのでしょうか

加筆改稿の時、高弘ショックがなかったことで思ったのは、主役級なのに洋介ショックがなかったこと。

洋介の死は、最初から決まっていました。乃笑留の誕生は、洋介の死を小百合に乗り越えさせるためのものの要素の1つでした。

なのに、私には洋介ショックというほどのものはありませんでした。私が泣いたのは、小百合が約束を何かしておけば良かったと後悔するあのシーンだけでした。

高弘の時に気圧されて、なるたけ引っ張らずに書き上げたからかも知れません。その後も、小百合に洋介の昔語りを極力私はさせなかった気がします。

洋介が小百合にプロポーズしたのは知り合ってたった3週間、『3週間、たとえそれが一日でも好きになるのに時間なんて関係ないでしょ。』と、圭子が小百合に言ったように、彼らは3週間を永遠の愛に結び付けました。そして、
「10年考えても結果は同じ…」
と言った洋介の小百合と過ごした日々は、たった10年でした。

…どうでもいいことでした。



theme : つぶやき
genre : 小説・文学

出しちゃいました!

ついに、送信ボタンを押してしまいました。(痩身ボタンが押したい?私です)

FC2小説コンテスト…「遠い旋律」とりあえず加筆改稿して、今放り込みました。なんと44ページにもなりました。

高広ショックはなかったです。本当にビックリするくらいすんなり入力できました。ちょっと最初構えたんだけど、なんだか拍子抜けしましたよ。

後は、審査員の方、読者の皆さんに委ねます。

それと、ご指摘いただいて、カテゴリー検索すると、作品が本のように読めるように設定しました。

実は…そういう設定は本当に苦手です。ただ、やり方さえわかると単純作業は意外と好きなので、平均30話あまりの作品-約120話を振り分けたことになります。あとがきをどうしようか…作品にくっつけるべきですね。また、やっときます。

theme : お知らせ
genre : 小説・文学

時の足音-満月に焦がれて、番外編-

「弘毅、久しぶり…」
弘毅は約3ヵ月ぶりくらいで圭子からの電話を受けた。
「今から、会えない?大事な話があるの。」
「今からって…」
弘毅は時計を見た。時刻はもう夜の11時を回っている。こんな時間に、しかもあいつは自分からメアドまで変えて俺との連絡を絶っていたのに…一体何の話だ。
「お店とかでは話せないから、私の部屋に来て…」
圭子の部屋にだって?!それに、店とかでは話せない話って、まさか…アレ。弘毅の心臓はいきなり激しく動悸を打ち始めた。
「お前の部屋になんか行っていいのか。」
弘毅はそれを隠すようにわざとぶっきらぼうにそう答えた。
「うん、来て欲しいの。ちょっと…」
ちょっと…何なんだろう。今まで、『レディーの部屋は覗かせません』とか言って、俺の部屋には来るくせに自分の部屋に呼んだことなんてなかったのに。ということは、やっぱそういうことなのか…
「わかった、すぐ行く。」
弘毅は胸騒ぎを抑えながら急いで身支度を整えると、圭子の部屋に向かった。

「上がって…」
そう言って玄関のドアを開けた圭子の目は涙で腫れて、声は少し掠れていた。
(ちょっと…出れる顔じゃねぇってことか)
「おじゃまします。」
そんな圭子の顔を見て、弘毅は思わず殊勝な挨拶をしていた。

「座って。」
それから入ってきたものの、きょろきょろと落ち着かない様子で立ったままの弘毅に圭子が座るように促した。圭子は弘毅が床に腰を落ち着けたのを確認していきなり切り出した。
「私、今日病院に行って来た。できてたわ。3ヶ月の終わりだって言われた。」
…やっぱ、そのことだったか…

およそ3ヶ月前、弘毅はそれまで高校時代から腐れ縁の友人としてつかず離れずで、しかし男女の関係ではなかった圭子と、彼の元カノの結婚式の夜、彼が強引に押し倒して関係を持った。圭子はそれ以来メアドを変え、彼の着信を拒否して完全に彼との連絡を絶った。
彼は直接押しかけようかと考えたこともあったが、そこで、直接自分が完全否定されるかもしれないという恐怖を拭うことができず、それをできずにいたのだ。

「ねぇ、弘毅、それでなんだけど…私、産んでも良いかな。迷惑とかじゃない?」
続いて、圭子は実に恥ずかしそうに、だが嬉しそうに弘毅にそう言った。彼にはそれが驚きだった。圭子はあれ以来、一切の連絡を絶っていた。だから、妊娠という事実に当惑して改めて怒りをぶつけてくるのだと思っていたから、どうすればそれを回避できるだろうと、ここに来る道中頭の中でシュミレーションしていただけに、いささか拍子抜けといった感は否めない。
「今までシカトかましてたくせに。俺の子供なんて要らねぇんじゃねぇのか。」
-産みたい-の言葉に一瞬顔が緩みそうになるのをムリに抑えて弘毅はそう言った。
「ううん、絶対産みたい。大好きなあなたの子供だから。」
そして、次の一言も彼の予想に反していた。だから、彼は思わず聞き返してしまった。
「今、何つった?!」
「もう、何回も言わせないでよ、恥ずかしいんだから…」
圭子はいつになくしおらしく赤くなりながらそう答えた。
「俺の…一方通行じゃなかったんだな。じゃぁ何でシカトなんかしてたんだよ!」
今までとはまったく違ってしまっている今日の圭子の態度に弘毅はだんだんとイライラし始め、弘毅はつい語気を荒げてしまった。
「怖かったの…」
すると圭子は俯いてポツリとつぶやいた。
「だって、ずっと好きだった人が、自分のものにはならないと思ってた人が、『お前だけが好きだった。』って囁くなんて思ってなかったんだもん。これは夢だって思った。覚めたら、現実は違ってるんだって。…じゃなきゃ、私になんてすぐに飽きる…」
「圭子!お前なに考えてんだ!!」
夢って何だよ。俺が飽きるって…俺って、お前にはそんなお軽いイメージしかないのか?飽きるどころか、あの夜俺はやっぱりお前じゃなきゃダメだと、再確認した位なのに…弘毅は圭子に怒鳴った後、そう思って唇を噛み締めた。
「ホントは一人で産むつもりだった。」
「バカな!俺に知らせもせずに俺のガキ産んで、それでお前は満足なんかよ!それより俺にはそいつの父親になる権利もねぇのか?!」
「へっ?」
弘毅の言葉に圭子はビックリしたように顔を上げた。
「へっ?じゃねぇよ。あんなやり方したのは謝る。」
そう言って弘毅は正座すると、手をついて、
「俺の子どもなんだから俺にも育てさせろ!一人で産むなんて言うなよ、な?」
と頭を下げて頼んだ。それを見た圭子の目からみるみる内に涙があふれた。
「ホントに?産んでもいいのね…」
「当たり前だ。でなきゃ、そのままで最後までやるかよ。」
「まったく…言うに事欠いてそれ?実は狙ってたって言うんじゃないでしょうね。」
「狙ってないっちゃウソになるな。でも、もうちょっと楽しませて欲しかったけどよ。俺のことを信じてくんないお前が悪いんだぞ。」
「何よ、それ。」
「そしたら、あと何回かは判る前に…」
そう言う弘毅の背中を圭子は思いっきりぶった。
「バカ!あんたってホントにバカとしか言い様がないわ。」
「バカな俺に惚れたお前って、もっとバカなんじゃねぇ?」
弘毅はそう反論すると、圭子を自分のところへ引き寄せた。
「ちょっと、お腹気をつけてよ。」
「わかってるって。これで今日は我慢するから。」
そう言いながら弘毅は圭子に口づけた。

やっと…やっとだ。何年待ったんだ?こいつへの想いをはっきり自覚したのは18の時だったから、10年か…俺はこいつにだけは正直になれなかった。一番欲しかったのはこいつだけなのに。
そう思った弘毅の胸にいつしか熱いものがこみ上げていた。
「え?もしかして弘毅…泣いてない?」
そして、圭子にそれを気付かれた。
「泣いてなんかねぇよ、絶対!」
「泣いてる、泣いてた。絶対!」
慌てて否定する弘毅に、圭子が笑ってツッコミを入れる。
「泣いてねぇったら、泣いてねぇんだ!!」
弘毅は圭子から身体を離して背を向けた。
「ゴメンね、今まで素直になれなくて…」
圭子はそんな弘毅の背中に頭をくっつけてそう言った。
「今日のお前って、ホント変だな。」
「今までとは違うかもね。私の中にあなたとの命があるから。この子が仲良くしてって言ってるような気がする。」

昨日とは違う今日。弘毅は女の強さを見た気がした。









theme : 自作小説
genre : 小説・文学

温度差

この作品で改めて感じた男女の「温度差」
女はこうと決めたら結構頑固。手枷足枷をものともしない強さがある。洋介はこれで良かったのかと何度も思いながら結局小百合に引っ張られていきました。

そして、生まれたばかりの乃笑留を前にしての周人と乃笑留の結婚話。これはいかにも男性らしいやり取りなのではないでしょうか。赤ん坊の娘を前にして、まだ見たこともない未来の夫にやきもちを焼くパパは意外と多いと聞きます。そして、「ウチの娘はそんなに早く嫁にはいかんさ。」みたいな変な希望的観測を立てるのも…

弘毅が乃笑留の介添をやりたがったのは、洋介から引き継いだという気持ちと、新郎の父親だということとが重なっているからかも。だって、自分ちに乃笑留が来るんですもん。たぶん、清華の介添はしぶると思いますよ、彼…

theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

逢えない時間が愛を育てる

乃笑留は洋介・小百合夫婦の救世主(ちょっと表現は大げさかも)として12月生まれとし、フランス語のクリスマスから名づけました。洋介の気持ちになって、いろいろと漢字を当てはめた中で、その笑顔をいつまでもという意味になるこの字を当てる事にしました。

乃笑留を12月生まれにすることで、逆算の結果周人はその年の1月生まれに。乃笑留より1学年上になってしまわざるを得なくなりました。
ここで、作者は乃笑留を3月生まれにすることも考えましたが、乃笑留という名前も気に入っていましたし、ただでさえ中毒症の影響と早産で小さく生まれてきた乃笑留を早生まれにするのは忍びなかったので、設定を変えるのを止めました。

そして、そこから生まれたのが、学園モノみたいな27~30話のストーリーでした。今まで当たり前のようにずっと一緒にいた2人が、周人の高校入学でバラバラの学校生活を送ることによって生まれてきた互いの存在感の自覚や、別々に行動していることに対する不安みたいなものを表現したかった。乃笑留のモテる周人に対するコンプレックスも。

周人は洋介、乃笑留は圭子と、それぞれ相手方の異性の親を無意識に目指しています。だから、圭子に似た葵の出現が、乃笑留のコンプレックスになお拍車をかけることになり、それがきっかけで彼らは互いの愛を確認できると作者は考えました。

それよりもお葬式の時点で、洋介から乃笑留を引き継ぐ儀式をする周人の方が7歳としてはムリがあるかもとか思って書いてました。どんなに小さくても男は男だという開き直りで書き上げたシーンでした。

theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

女しか書けないもの

今回病気をテーマにしようと決め、構想を練っていたとき見えてきたのが1話2話のビジョンでした。出てきたものの、書けない!って思いました。

そこで、間に挟んだのが「彼方へ…」これは、ほぼ実話です。君をつけた方が性別を特定しやすいので、男の子の設定にしたこと以外(実際には女の子です)は、私の身に起こった話です。彼方が確かに私の中に居たこと、今も心の中に居ることを何とか形にして残しておきたかったのです。
ただ…これも話的にはかなりハードでしたね。

で、これを書いたことによって、女しか書けない作品を書こうという決心がついて、「満月に焦がれて」をスタートさせることができたのです。彼方のおかげで私は真実だけじゃなく、作品も産むことができました。
でも…
「女は理屈じゃないのよ」
長く話をつむいだ割には結局、それが言いたかっただけかも…(苦笑)

ちなみに、小百合の具体的な病名は私の中ではちゃんと存在していますが、個人差もあることから敢えて伏せさせていただきました。



theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

プリズム(キャラ編)

さて…大好きな?あとがきタイムの時間がやってまいりました。これが楽しみで本編を書いている部分は否定できません。

今回も長かった…言いたいことがいっぱいあって、何を前面に押し出すかを迷いつつ書いた作品でした。前面に押し出せずにそれでも言いたいことがあるので、あとがきとして、何回かお付き合いください。

今回、いきなりからの番狂わせが…何かわかりますか?弘毅の存在自体が私にとって最大の番狂わせだったんです。
書き出したとき、タイトルからもわかるように私は洋介と小百合2人の密室劇で進めようとしていました。(満月は月が満ちるということで、出産を意味してます)

桜木弘毅…こいつは私の中でどっちかというと恋愛に不器用な男洋介の対比として、遊びなれた男として生まれました。イケメンっぽい名前ということで名づけたくらいですから。しかも、最初は苗字しかだしてない…それくらいの脇キャラだったんです。

それが、本当は一途で(だから、洋介と気が合う)圭子に屈折した恋心を抱いていることを主張し、くっつけろと作者に要求…強引に圭子をモノにしちゃい、ついには準主役というか物語のナビゲーターまで強引にもぎ取っていったのでした。ホント、圭子じゃないけど最初から最後までゴーイン、マイウェイな奴でした。

ただ弘毅のその行動が結果的に周人を誕生させ、小百合の2人の血を分けた子供が欲しいという想いを加速させ実現に至らせた…ある意味必要なキャラだったと開き直り、途中からはまるで4人の青春群像劇みたくなってしまいました。ここまでの軌道修正は正直はじめてかも。

尚、弘毅の登場で一番喜んだのは、洋介かも知れません。そのおかげで洋介は当初の設定から4年寿命が延びたんです。赤ん坊時代しか知らなかったはずが、乃笑留の小学生の制服姿を見ることができたのですから。












theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

終章-いざ生きめやも-満月(フルムーン)に焦がれて34

終章-いざ生きめやも-


それから5年後のある日のこと…

「だから弘毅、それはやっぱおかしいって!」
「いや、俺はこれだけは絶対に譲れねぇ!」
桜木家のリビングで、弘毅と圭子がいつものように夫婦喧嘩をしている。中々折れない今日の弘毅に、圭子は思わずソファーに座っていた小百合に助けを求めた。
「新郎の父親が新婦の介添えでバージンロード歩くなんてあり得ないよね、サユ。」
弘毅は周人と乃笑留の結婚式で、乃笑留の介添えをやるといって聞かなかった。
「そうだ、充君に新郎の父親席に座ってもらって…」
弘毅は手をポンと叩いてそう言った。
「新婦の叔父さんが何で新郎側に座らなきゃならないの!それならまだ空席の方がマシ!」
「じゃぁ、空席でいいじゃん。」
空席で良いといった圭子に、弘毅はにやりと笑ってそう答えた。圭子はしまった!という顔をした。どうやらこれは圭子の負けのようだ。
「もう…なんとかならない?」
呆れ顔で圭子は小百合になお助けを求めたが、小百合はただ笑って聞いているだけだった。

まったく…強引なんだから…圭子はこれまでのことに思いを馳せていた。
洋介さんとサユを運命付けたあのとき飲み会、あの時あいつに、
『俺の方は5人揃えたからな、絶対そっちも5人揃えろよ。』と言われなければ、残る一人に飲めない小百合を誘うことはなかったに違いない。そして彼らは出会い結婚した。

私たちが初めて結ばれたときもあいつは強引だった。本当に大好きだったから、適当に遊ばれてしまうのが怖くて友達のスタンスを崩せなかった私には、それくらいでなきゃダメだったんだと今は思うけど…
そして周人を身ごもって…それがサユにどうしても子供を産みたいという気持ちを起こさせて乃笑留ちゃんが生まれた。

洋介さんがあんなに突然亡くなっても、乃笑留ちゃんがいるからサユは耐えられた。

友達同士というよりも家族のように生きてきた私たちの関係。これから、私たちは周人と乃笑留ちゃんを中心に本当の家族になるのね。

何か不思議。1つ1つのことが結局は全部つながっている。そんな気がする。新しく起こる様々な事柄も、時が経てばそれもつながっていくんだと、そう思える。

-ちはやぶる神の御前に立てるかな 愛しき人といざ生きめやも-
どんなことがあっても…みんなで一緒に乗り越えられたらそれで良い。

                                      -Fine


theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

母の告白-満月(フルムーン)に焦がれて33

母の告白


「乃笑留、ママがずっと薬を飲んでることは知ってるわよね。」
母の言葉に乃笑留は頷いた。母が自分に隠すように薬を飲む姿を彼女は何度も見ていた。
「ママはね、あなたを産んじゃいけなかったの。」
続く母の告白に乃笑留は目を見張った。産んじゃいけないって、それ…何?!
「あの薬はね、飲みながら妊娠しちゃいけない薬なの。ママはあなたの前の子どもがダメになったときに病気だと知らされたのよ。」
「でも、私ができちゃった…」
「いいえ。」
恐る恐る乃笑留が聞くと、小百合は被りを振った。
「パパはきっぱりと『もう子どもは要らない、二人で暮らそう。』って言ってくれたわ。でも、ママにはそれが余計辛かったの。あなたのときもそうだけど、あなたのお兄さんかお姉さんの時もそれはものすごい喜びようだったの。だからママね、離婚届まで書いてパパにわがまま言っちゃったわ。どうしても子ども産みたいし、じゃなきゃ離婚するってね。」
小百合は遠い目をして笑って続けた。
「そりゃ、パパは納得しなかったわよ。だって、前の2回の流産は病気が原因だったし、なんとか育っても今度は産む時にママもあなたも無事でいられるって確率は低いって言われていたから。パパね、あの時、『俺を一人にしないでくれ。』って泣いて頼んだわ。でも、だからママはパパにあなたを抱かせてあげたかったの。あなたが無事に生まれてきてくれてそれをとろけるような顔でパパが抱いた時、ママはもう死んでも良いって思った。でも、あなたが無事で生まれて生きてくれたのに、今度はパパが天国に行っちゃったんだもの。皮肉よね…」
そう言うと小百合ははらはらと涙を落とした。

「私も、病気になるの?」
しばらくの沈黙の後、乃笑留は震えた声で切り出した。
「ううん、まだ判らないわ。この病気は絶対に移るとかそんなんじゃないけど、形質遺伝っていうのがあって、あなたが病気になる確率は普通より何倍も高いの。ママのように妊娠や出産が引き金になることもあるし、資格を取るような段になってそんなことにでもなったら、全てを棒に振らなきゃならないのよ。場合によっては命も危ないし…」
「はいはい、ストップストップ。」
しかし、突然沈痛な小百合の告白に弘毅が割って入った。
「小百合ちゃんそこまで。そんなの誰だってあんだろ。まったく夫婦は似るってってけど、これじゃぁあん時の洋介と一緒じゃん。よくそう悪い風にばっか考えられるよな。」
「弘毅が能天気過ぎなのよ。」
すかさず圭子のツッコミが入る。
「じゃぁ、能天気で結構。」
「でも、洋介さんと一緒って…」
「俺らはとっくに小百合ちゃんが病気だってことも、それでも乃笑留を産んだってことも知ってたよ。俺は周人が圭子の腹ん中にできたときに、洋介にそれで殴られてさ。そん時、殴られっぱなしってのも気持ち悪りぃからムリに聞き出した。圭子には絶対に言うなって言われてたんだけどさ、俺って、ほら口…軽いから、乃笑留が生まれてからだけどばらしちまったよ。もっとも洋介は最後まで圭子にはばれてねぇと思ってたろうけどな。」
弘毅はわざとなんでもないことのように小百合に言った。
「でも、ホントに洋介さんが桜木さんを殴ったの?」
あの洋介が弘毅を殴ったと聞いて小百合は驚いていた。
「ああ、泣きながら殴られたよ。」
「ごめんなさい…」
小百合が頭を下げると、弘毅は頭を掻きながらこう言った。
「ああ、いいよいいよ。19年も前のことを今更謝られてもな。それにあれは俺が一番悪いんだし。…って、何の話だ?とにかく、これは周人と乃笑留の問題なんだよ。どんなことがあっても周人と乃笑留が乗り越えればいいんだ。俺たちはその手伝いで良い。小百合ちゃんが取り越し苦労することなんて何もないんだからさ。」
それから、弘毅は周人に向かって言った。
「ま、責任を取れない内は、好きだからって一緒に住もうなんて甘いってこった。責任取れるからって、いきなりってのもいただけない話だけどよ。」
それって、自分のことじゃない。自分のことを他人事みたいに言うな!圭子はそう思って笑いをこらえた。
「周人、この件はお前が自分の足でちゃんと立つまではお預けだ。甘いことなんか考えんなよ。さっきのでもわかるようにサユママかなり頑固だからな。絶対に許してくんなくなるぞ。」
「わかった。」
周人と乃笑留は同時に頷いた。
「これでどうだ?だから、小百合ちゃんもこれ以上変な取り越し苦労はすんなよ。いざとなったら俺も圭子もいるし、絶対に何とかなるからさ。」

そう、今までもそうだったように…と、弘毅は思った。

満月(フルムーン)に焦がれて32

「あなたたち、どうなの?」
一緒に暮らしたいと言った周人と乃笑留に、小百合は身体の関係を問い質した。
「ママ、ひどいよ!」
「乃笑留、待て。」
思わず母親に食ってかかろうとした乃笑留を周人は握っている手を振って制した。
「周ちゃん、待てって!」
すると乃笑留は周人に向き直って、こんどは周人にかみついた。周人は何度も頷いて、乃笑留に落ち着くように促すとこう言った。
「サユママ、正直に言うよ。いや、正直に言います。俺たちキスは何度か…ってかしょっちゅうしてます。でも、まだエッチはしてません。許してもらえたらそろそろ良いかなとは思ってたけど…」
「周人!」
今度は圭子が周人を睨んだ。まったく…やっぱ弘毅の子どもだわ。ってか私の子どもでもあるんだけどさ。今言って良いことと悪いこと判らないかな。圭子ははらはらしながらそう思った。
「そう、正直ね。安心したわ。」
しかし、小百合がそう言って笑顔になったので、その場の小百合以外の全員から安堵のため息がもれた。
「でも、あなたたち洋介さんがいたら、今日と同じことが言えた?」
続いて小百合にこう言われたので周人は素直に被りを振った。確かに、洋介パパなら激怒して最悪殴られるかもしれない。優しいサユママだからって甘えていたのかも知れないなと…
「周人くんは大学に行くつもりなんでしょ。」
「うん。」
「親のすねかじりでおままごとなんて許さないわ。けじめをつけないで二人で生活なんて始めたら、楽な方に流れていくのは目に見えてるし。」
サユママの今日の一言一言が周人には痛かった。
「乃笑留もそう、何か資格を取るために大学か専門学校に行ってほしいと思っているから。」
「でもママは高校、私立に行くお金なんかないって…私国立大に行く頭なんかないわよ。専門学校だって、短大に行くぐらいはお金かかるって聞くし。」
「あなた、周人くんがいる北高以外は眼中になかったじゃない。」
確かに周ちゃんがいたから選んだんだけど…それだけではなく、北高は就職率もなかなかいい。我が家の経済状態を考えると、進学なんて選択肢はあり得ないと思っていたからいろんな意味で北高にしたのに。それに、今までそんな進路の話は一度もしなかったじゃない。乃笑留はそう思ってむくれた。
「パパが亡くなった後、ママが仕事しながら資格を取って今の仕事に就いたのは知ってるでしょ。
乃笑留は頷いた。乃笑留が小学生の頃、ママはいつ寝ているのか心配になるほど、ママは仕事に勉強に明け暮れていたっけ。
「周人くんがパパと同じようになるなんて微塵も思ってないけど、何かあったときに役立つ資格は取っておいて欲しいの。そのためにパパの保険は残してあるのよ。それに…」
それまでしゃきしゃき話していた小百合は急に言い澱んだ。
「それに、何?」
「ママに似てたら…」
ママに似てたらそれがどうだと言うのだろう。乃笑留が首を傾げる中、弘毅と圭子は小百合の先程の過激な発言の本当の意味が何となく判り始めていた。








theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

18歳の誕生日-満月(フルムーン)に焦がれて31

18歳の誕生日


この日は周人の18歳の誕生日を祝うパーティーが桜木家で開かれた。
「周人ももう18歳か…なんかあっという間だったような気がするわ。」
圭子はため息をつきながらそう言った。
「そうよ、お互いそれだけ年を取ったってことだもんね。」
小百合が笑いながらそれに答える。

パーティーが終った後、周人は乃笑留を伴って小百合の前に緊張した面持ちで正座した。
「サユママに相談って言うかお願いがあるんだけど。」
「何?」
小百合はにこやかにそう尋ねたが、周人のただならぬ緊張ぶりに徐々に表情が曇り始めた。照れまくっている周人はそんな小百合の表情の変化に気付くはずもなく、乃笑留の手を握り言葉を続けた。
「俺…18歳になったよ。これで法律上は結婚できるようになった。だから、乃笑留が高校を出たら一緒に暮らしたいと思うんだけどダメかな。」
「周人、ちょっとあんたそれ!」
この爆弾発言には、思わず先に圭子の方がかみついてしまった。圭子は小百合の方を見た。彼女は厳しい表情で二人を見据えていた。
「断るわ。それと事と次第によっては、この場で私は乃笑留を連れて帰るわ。そしてもう二度とここには来ないから。」
小百合はそう言うと、一度大きく息をした後、こう言ったのだった。
「ねぇ、周人くん、乃笑留…正直に教えて頂戴、あなたたち身体の関係はあるの?」
「な!」
「ママ!」
普段こうしたことを話題にしない小百合からの質問にこの場の空気が一瞬にして凍りついた。
「大事なことなの。もしそうなら、私はあなたたちのこれからを許すわけにはいかないわ。」
-身体の関係があるなら別れさせる-
(逆じゃねぇのかそれ…)弘毅にはいきなりこう切り出した小百合の真意が判らずそう思った。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて30

乃笑留は自宅にも周人の家にもいなかった。
(たぶん、あそこだ…)
周人は洋介がいなくなってから乃笑留がつらくなるといつも行く場所…自宅近くの公園に向かった。
彼女はやはり、その公園のブランコに座っていた。
「やっぱりここか…」
「ここにいちゃダメなの?!」
乃笑留はそう言うと周人から目線を反らせた。
「さっきの話、聞いてたのか。」
周人の質問に乃笑留は答えなかった。
「聞くのはいいけど、話は最後まで聞いてくれないと。お前なんか誤解してないか。」
「私が何を誤解するって言うの?!」
乃笑留は周人の言葉にヒステリックな語調で返した。やっぱり誤解してるじゃないかと周人は思った。
「親たちの約束があったかどうかなんて、関係ねぇだろ。あの時、俺が何でお兄ちゃんって呼ぶのを止めさせたと思う。」
あの時って…パパのお葬式のときのこと?そう思って乃笑留はブランコにすわったまま周人を見上げた。
「俺はお前のお兄ちゃんになんてなりたくない。ましてやパパになんてもっとなりたくない。男として乃笑留を守りたい、そういうつもりで洋介パパにもずっと守ると言ったし、だから、乃笑留にお兄ちゃんって呼ぶなって言ったんだ。ガキの俺には上手く説明できなかったけどな。」
「だって、水嶋さんには…」
それなら最初からそう言えばいいのに、パパたちのことばかり言うから…聞いてるの辛くなっちゃったんだもん。乃笑留はそう思ってふくれっ面になった。それを見て周人は声を荒げた。
「だから、最後まで聞けって!あの後、水嶋には約束があろうがなかろうが俺にとっての女は生まれたときから、いや、生まれる前から乃笑留しかいないって、そう言ってきた。」
「そんなの、ウソ…私なんか、周ちゃんとは全然つりあわないもん。」
しかし、周人は乃笑留から何の脈略もないと思われる言葉が返ってきたので耳を疑った。
「は?!」
「周ちゃんはカッコよくてサッカーも上手くて…一緒に歩いてると『何でこんな娘が彼女なの?』って声が聞こえるみたいで…そんな私が周ちゃんにそんな風に言ってもらえるなんておかしいよ。」
「何考えてんだ、お前怒るぞ!」
怒るぞって、もう怒ってるじゃんと乃笑留は思った。
「だから今言ったろ!俺にはお前しかいないって!他の奴がどう見ようがどう考えようがそんなこと関係あるか?!」
周人がそう言うと、乃笑留はまた俯いて、制服のスカートのひだを指でなぞりながら言った。
「それに…何日かまえに、周ちゃん水嶋さんのこと…」
「俺が水嶋に何か言ったか?」
「抱きしめてた…見たもん!」
そう言って乃笑留はまた顔を上げた。眼には涙が溜まっていた。
「そんなことしてねぇって!お前やってもないもん何処で見たって言うんだよ!」
周人にはまったく覚えがなく、乃笑留の言葉に眩暈がしそうだった。
「帰り道。新町の交差点で…」
乃笑留にそう言われてやっと思い当たった周人はいきなりげらげらと笑い出した。
「それ、水嶋がコケかけたのを支えただけじゃん。」
「えっ?」
「大体道の真ん中でそんなことする訳ねぇだろ、ちっとは考えろよ!やっぱおまえこのごろ変だよ。」
「だって…だって…」
こんな私は周ちゃんには釣り合わない、いつもそう思っちゃうんだもん。乃笑留がそう言おうとした時、周人は彼女の想像もしなかったことを言い出した。
「そんなこと言ったら、俺だって不安なんだぞ。お前んとこに面と向かって男子が寄って来ないのは、俺が睨み利かせてるからだって知ってるか?お前が中学に入ってきたとき、同小じゃない男子にかわいい娘がいるって何人かに言われて、それがお前だって分かった時、いつそいつの誰かがお前に寄ってくるかって気が気じゃなかったんんだからな。高校に入ってからは、何回留年してやろうかって思ったか。今年1年フケたら、同じ学年だって…でも、そんなことしたら、洋介パパがいたらそんなことをする周人くんを許さないって、サユママに言われそうだろ。だから、ぐっとこらえたんだって。」
「ウソ!」
乃笑留は周人の言葉をにわかに信じることができなかった。
「ウソじゃないってば!!どう言ったら解ってくれる…」
周人は心底困ったような表情をして、乃笑留をブランコから立たせて抱きしめた。
「これでどうだ?」
そして周人は乃笑留にキスをした。唇が軽く触れる程度だったが、それでも2人にとっては、その部分はものすごく熱を持っているように感じられて、あわてて離れた。
「これくらいなら…洋介パパも許してくれるよな。」
周人は照れながらそう言った。
乃笑留は涙が出るほど嬉しかったが、たぶんパパは許してくれないよと心の中で周人につぶやいた。







theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

更新頻度が落ちた理由

最近、更新頻度が著しく落ちております。っていうか…これくらいが妥当なのかもしれない、普段がかなり速すぎてそのうちネタ切れそうとか思ってたりしますから。

更新頻度の落ちてる理由としては、いきなり学園モノに滑り込んでアップアップしているのが一番なんですが、それ以外に「FC2小説コンテスト」に「遠い旋律」を応募しようかなと思っているからなんです。今、「切り取られた青空(加奈子サイド)」を1/3くらい入れた所で一旦止めて、整理して書き直して入力中です。

多くの方に評価していただくのはもちろん嬉しいですが、それにこだわるつもりもありません。
じゃぁ何故?って聞かれそうです。お祭り好きが正解かも。

客観的に(努めてですけどね)見てみて改めて自分の書き癖みたいなものも見えてきて、直そうか個性と開き直ろうかと逡巡することもあったりします。

ま、締め切りまでになんとか入れられるように努力します。


theme : お知らせ
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて29

乃笑留が最近おかしい…周人はそう思っていた。
毎日の弁当の受け渡しで、日に2度は会っている。でも、その時の空気が違うのだ。それまではついでに何かしら言葉を交わしていたのだが、最近は
「はい。」
と渡すだけでそそくさと去っていくし、空の弁当箱を受け取っても感想を聞かなくなった。前は煩いほどに聞いていたというのに。それで、
「最近、乃笑留おかしくない?」
と母や妹にきいてみたのだが、彼女たちは首を傾げるばかり。違和感を感じているのはどうも自分だけのようだ。

しかし、周人には乃笑留の態度が変わった理由に心当たりはなかった。
一度話し合いたい…そう思ったものの、どう切り出したらいいのかわからない。大体何を話し合おうと言うのだ。

このままじゃいけないような気がする。そう思いながら、いつもと変わらない日々を彼らは続けていた。



「桜木君、19日用事なにかある?」
周人は放課後校庭の隅で葵に呼び止められた。
「クラブの練習試合。」
大体運動部なんてテスト前ででもなきゃ休みに何かならないぞ。こいつそんなことも分かんないのかなと周人は思った。あ、やこいつ美術部だっけ…なら、仕方ないと。
「そっかぁ、練習試合…残念。じゃぁ次の祝日は?」
そんなもん当然休みじゃないと言いかけて、周人は顧問の都合で休みになったことを思い出した。
「あ、その日なら珍しく先生の都合で休みみたいだけど…それがどうした?」
それがどうしたと周人は思った。
「じゃぁ、一緒にどっかいかない?」
「えっ、何で水嶋と…」
周人はウザそうにそう答えた。水嶋とどっか行くくらいなら、乃笑留とちゃんと話しがしたい。それが周人の本心だった。
「何でかぁ、そんなの理由要るの?」
「理由がないなら断るよ。他にやることあるから。」
だから、そう言って周人はその場を離れようとした。
「あなたが好きだから、これは理由にはならない?」
しかし、葵のいきなりの告白に周人は思わず振り返った。
「水嶋?!」
「私、入学したときから桜木君がずっと好きだった。それで桜木君と同中のミソノに聞いたら彼女がいるって聞いてちょっとあきらめかけたんだけど、この間桜木君言ってたでしょ。彼女とは親が決めた付き合いだって。じゃぁ、まだ私にも見込みあるかなと思って。」
「そりゃ、乃笑留とは父さんが洋介パパにそう言ったのが最初だけど…」
周人がそこまで口にしたとき、後ろの校舎で誰かが走り去った。周人はその姿をチラっと見て血の気が引くのを感じた。あの少しウエーブのかかった細い髪は…乃笑留だ!
今の話を聞かれたか。別に、聞かれたって悪い話をしていた訳じゃないけど、これって聞き様によっては俺があいつのことを親から押し付けられているようにしか思えないんじゃないかな。もしかしたらこれがこの間からのあいつの態度の変わった原因なのか?そう思った周人は急にそわそわし始めた。
「言ったのが最初だけど、そんなのどうでもいいんだ。」
「どうでもいいって?」
葵は急に落ち着かなくなた彼にそう尋ねた。
「確かに親同士は赤ん坊の乃笑留を見ながらそんな話をしたんだって繰り返し聞かされた。でも、そうじゃなくても俺は乃笑留を生まれたときから、いや生まれる前からずっと好きなんだ。水嶋、悪いけど俺にとって乃笑留以外は女じゃない。今までも、これからも。」
そう言って、周人は乃笑留を追って走り出した。一刻も早く乃笑留を見つけて誤解を解きたい…彼の頭にはそのとき、そのことしかなかった。

葵はそんな周人のリアクションにショックを受けながらも半ば呆れていた。これがミソノの言う、『あいつはムリ、止めときな』の意味なのだと思った。それにしても、『乃笑留以外は女じゃない』って一体何?チープな恋愛コミックスじゃないって言うのよ、葵はそう思った。

「ばっかじゃないの、あいつ…」
そして葵は小さな声でそうつぶやいてみた。ちょっぴり寂しくはあったが、ここまでばっさり切られると案外清々しくもあった。










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genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて28

乃笑留は家に帰りつくと、2人分の弁当箱を流しに放り込んで、ため息をついた。

周ちゃんを追って北高に入学してはみたけれど…
中学のときにでも、モテる周ちゃんといることで同性(とくに周ちゃんの同級生)からの風当たりはないことはなかった。でも、半分は小学校で一緒だったし、それほどでもなかったような気もする。

今、校内を周ちゃんと歩いていると露骨に視線が突き刺さってくることがある。
「アレ、桜木君の彼女?マジ?たいしたことな~い。」
そんな声まで聞こえてきそうだ。

特に、周ちゃんと同じクラスのあの人(水嶋さんだっけかな)は敵意さえ感じることがある。美人だし、圭子ママににた性格の彼女。最近、彼女と周ちゃんは最近体育祭の実行委員に選ばれたとかで、ずっと一緒に行動している。

ちょっと前に水嶋さんが、
「ねぇ、彼女とはどういう付き合い?」
と周ちゃんに聞いてた。周ちゃんは
「生まれたときからの付き合いだよ。父さんが洋介パパに生まれたばかりの乃笑留を俺の嫁にって言った時からのな。」
って答えていたけど、周ちゃん自身は今、私のことどう思っているんだろう。


パパのお葬式のときに言った、
『これからは僕が乃笑留を守るから、ずっと守るから…安心して。』
って言葉。周ちゃんはパパの事が大好きだったから、パパの代わりをしてくれようとしてくれてるだけなのかな。

だって今日…見ちゃったんだもん。周ちゃんが水嶋さんを抱きしめているところを…


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genre : 小説・文学

時間差-満月(フルムーン)に焦がれて27

時間差


洋介が亡くなってから9年の年月が流れた。

「ねぇサユ、乃笑留ちゃん北高で本当に良かったの?あの子ならもっと上狙えるでしょうに。周人が行ってるからなんじゃないの?」
乃笑留の県立高校合格の知らせを圭子にした小百合は、彼女からそう言われた。
「ウチは私立には行かせられないもの…そうなると先生も安全策って言うのかしら、何も言われなかったわよ。確かに、周人くんを追っかけてっていうのは否定できないんだけどね、1年間辛かったみたいだから。」
小百合はそういうとため息をついた。
「しっかし…あの2人、わが子たちながらよく飽きないと思うわ。既に長年連れ添った夫婦の貫禄?みたいなモノまであるもんね。」
「飽きるって…おケイちゃん、桜木さんに飽きたことあるの?」
圭子の言葉を聞いて小百合は笑いながらそう切り替えした。
「まさか?!飽きるとかそういうもんでもないか…確かに腹立つことは一杯あるけど、飽きるんじゃないわねそれって。…って、まだ高校生と中学生だよ、あいつら…だから、なんか調子狂っちゃうのよね。」
大人になることで、2人の関係は変わっていくのだろうか。圭子の返事を聞きながら、ふと小百合はそう思った。



-4月-

水嶋葵は校門を入ったところにたたずんでいる女生徒を見つけた。制服がまだ真新しいので、たぶん1年生なのだろう。彼女は時計を眺めてため息をついていた。その姿が小柄で子どもっぽい感じとは妙にそぐわなかった。
気になってしばらく見ていると、始業ぎりぎりになって走りこんできた同じクラスの桜木周人に彼女は近寄っていった。
「周ちゃん、遅いよ!」
「ゴメン、でも間に合ったから良いじゃん。」
口を尖らせていう彼女に、周人は手でゴメンのポーズを取りながら、笑って言った。
「ギリギリはイヤだって。はい、お弁当。」
彼女はそう言うと当然のように周人に手作りらしきお弁当を渡した。
「今日は何?」
周人はひょいと弁当箱を目の上まで上げて言った。
「卵焼きと…いちいち説明してる暇ないよ、もう教室に行かないとやっぱり遅刻になっちゃうじゃん。」
彼女は少し説明しかけたが、途中で足をじたばたさせてそう怒った。
「ああ…お前だんだん、洋介パパに似てきてねぇ?」
「そりゃ、娘だもん。似ないでどうすんの。もう、私、行くね。」
「おう。ありがと、後でな。」
そういうと2人はそれぞれの教室に向かって走って行った。あわてて葵もそれに続く。

-ああ、この子が問題の…-
と、葵は思った。

葵はアイドル系の容姿でサッカー部の周人に好意を持った。だが、彼女がそのことを周人と同じ中学から来たミソノに相談した時、ミソノは、
「葵、あいつはムリ、止めときな。」
と、即答であきらめるように言ったのだった。
「何で?」
「あいつもう売約済みだから。」
「は?売約済み?」
葵は思わず聞き返した。
「1年下に彼女がいるの。彼女っていうより奥さんって言った方が正しいって感じ。」
1つ年下ってことは中3だよね…中3で既に奥さんってあり得ないじゃん、そんなの。一体どんな娘なんだろ。葵はそう思っていた。

小柄でかわいい感じだけど、別にとんでもなく美人でもないし…どこが良いんだろと葵は思った。


theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて26

洋介のことが落ち着いてすぐ、小百合は仕事を始めた。
洋介がいなくなった今、彼女は悲しむ暇もなく乃笑留との生活を支えなければならなかった。

専業主婦である彼女が、やれる仕事の幅は狭かった。そこで、彼女は寸暇を惜しんで資格を取り、2人で細々とでも生きられる仕事に転職を果たした。
まさに、目の回るような忙しさだった。しかし、考える余裕もないほどの忙しさは、彼女の悲しみを皮肉にも確実に軽減させていった。

今度はそんな小百合を弘毅たちが支えた。乃笑留は朝自宅から学校に行き、放課後は桜木家に帰り、そして夜帰る母を待つ。
帰る道すがら、乃笑留の学校での出来事などをきくのが小百合の一番の愉しみだった。

でも…何だか今でも既に乃笑留は桜木家の嫁みたいだわ。小百合は事故の直前に洋介が言っていたことを思い出した。

『折角育てたのにかっさらわれる』今はその感覚が解かる気がした。





theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて25

夜遅く、乃笑留は洋介の棺の前で泣くでもなく身じろぎもせず、まるでお人形の様にじっと座っていた。
「乃笑留、人がたくさんいるところではお利口さんにしてないといけないよ。」
パパはいつもそう言っていた。パパの言うことを聞いたらもしかしたら
「乃笑留はホントにいい子だね。」
とパパがいつもみたいに優しく頭を撫でてくれるかもしれない。
もうそんなことはありはしないのだと幼い頭ででも何となく判ってはいるのだが、乃笑留はそれでも大好きなパパの言いつけを破る気にはならなかった。

そこに周人が来た。弘毅夫妻が家に帰ると言った時、周人は頑としてここに残ると言い張った。
それで、圭子が渋る中、弘毅は、
「お前がサユママと乃笑留を守ってやるか。」
と言って、洋介や小百合の親戚たちに断りを入れて周人を置いて帰ったのだ。

「乃笑留、大丈夫か。」
周人は乃笑留の隣に座った。乃笑留は黙ってこくりと頷いた。
それから周人は答えてくれるはずもない棺の中の洋介に向かって言った。
「これからは洋介パパの代わりに乃笑留を僕が守るから。ずっと守るから…安心して。」
周人は答えてくれないとは解かっていても、洋介の体がある内にそれだけは言っておきたい、言っておかなければならないと思っていた。

「お兄ちゃん…」
お兄ちゃんはパパに何が言いたいのだろう、乃笑留はそう思った。
「乃笑留、これからはお兄ちゃんって呼ぶな。」
すると、周人は乃笑留を見ないで洋介の方を向いたままそう言った。
「どうして?」
「どうしても。」
7歳の周人には、言葉でそれを上手く説明することはできなかった。でも、お兄ちゃんではいたくはなかった。
「じゃぁ、どう呼べばいいの?」
「周人でいいじゃん。」
周人はそう言ったが、さすがに1学年上の周人を呼び捨てにすることは乃笑留にはできなかった。
「ねぇ、周ちゃんでいい?」
「うん、それでいいよ。」

その後…2人は手を握ったままずっと洋介の棺を見つめ続けた。

乃笑留は告別式に小学校の制服を着て参列した。『お姉さんになったね』と言ってくれたパパへの最後の贐にと頑として譲らず、小百合もそれを許したのだ。

身に合わぬ大きな制服で健気に大人でさえ退屈に感じる空間にいることが参列者の涙を尚更誘った。


theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

約束-満月(フルムーン)に焦がれて24

約束


洋介は病院からそのまま近くのセレモニーホールに移された。

『1つだけ絶対に守って欲しいことがある。俺より先に死ぬなよ。1日でいいから。』
小百合の耳に洋介の真面目くさった励ましの言葉が今もしっかりと残っていた。絶対に彼に赤ちゃんを抱かせたい。それをこの目で見るんだと笑いながら泣いたあの時のことを、小百合はついさっきのことのにはっきりと思い出せた。

そう言えば、洋介さんは昔から約束事に煩かった。どんな小さな約束でさえ、彼女は破られた記憶はなかった。
でも、約束だからって、こんなに早く守ることなんてないのに!と彼女は思った。乃笑留が大人になって、成人式の晴れ姿を見て、結婚して(相手は周人くんかしら)孫が生まれて…それから後でも私、充分約束を果たせる気がするわ。
小百合は乃笑留の成人式やとか結婚式・出産など、そういう遠い先の話で何か彼と約束していなかったことを悔んだ。荒唐無稽と言われるかもしれないが、何か1つでも約束していれば、律儀な洋介はたとえ何か障害が残ったとしても、よしんば植物状態であったとしてもそこまで必ず生きていてくれたような気がした。もしかしたらこの事故さえなかったかもしれない。

そこに弘毅たちが乃笑留を連れて現われた。
「サユ…大丈夫…なわけないか…」
「おケイちゃん…」
小百合は圭子の顔を見た途端、それまで一旦は止まっていた涙がまたあふれて止まらなくなった。

圭子がたまたま用事のついでに誘ってくれなければ、洋介さんとの出会いはなかった。そして、桜木さんとおケイちゃんの一件がなければ、寂しさをもてあましながら、今も2人での生活をして…
「乃笑留…」
小百合は乃笑留を抱きしめると、周りが驚くほど大きな声で泣いた。

洋介さん、ごめんなさい。本当は私と同じ病気の人なんていなかったの。おケイちゃんのことがうらやましくて、どうしてもあきらめきれなくなっていろいろ調べて、薬を抜いて厳しい生活制限を自分に課せば何とか産めると確信しただけだったの。乃笑留が生まれた後も言えないまま…とうとう言えなかった。
ねぇ、私は間違っていたのかしら。あなたが心を遺しながら去らなきゃならないことを選んだこと。
本当は今すぐあなたのところにいって謝りたい。でも私のことを心から心配しながらそれでも産むことを許してくれたこの子がいるから…私、まだいけない。

そうだわ、あなたは私を一生幸せにすると言ってくれた。
あなたは去らなきゃならないのをどこかで知ってたのかもしれない。だから、あなたが去った後も私が笑っていられるようにこの子を遺してくれたんだ。
-いつまでも笑っていられるように-と名前を付けて…

洋介さん、本当に最後まで約束を守ってくれてありがとう。
私、明日からは元気になるから…だから、今は…今だけは泣かせてね。
小百合はその日、自分が体の中にこんなに水分を持っていたのかと思うほど泣き続けた。








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genre : 小説・文学

洋介の事故-満月(フルムーン)に焦がれて23

洋介の事故


洋介は自転車でレンタルショップに向かう途中、歩道にものが散乱している箇所があった。彼は自転車から降りてそれらを避けながら歩道を歩けば良かったのだ。しかし、洋介はそれをしなかった。彼は、一旦車道に出て、ゴミをやり過ごして歩道に戻るコースをとろうとした。そこに、折悪しく速度超過して走って来たバイクに接触、4mも飛ばされて中央分離帯に激突した。
後々状況を聞いた小百合が思わず首を傾げたくなってしまうくらいの、夜で車通りが少なく見通しが利かないとは言え、慎重な洋介にはあり得ないと思われるくらいの「魔が差した」としか思えない瞬間だった。

何故?何故なの!小百合は病院に向かうタクシーの中で震えながらそうつぶやいていた。
『ここなら車なんてなくたってそう不便じゃないだろ。』
洋介さんはいつ人を傷つけるかもわからない車が大嫌いだった。地方出身の彼は、
『折角都会に住んでるんだから、車を極力使わないで済むに越したことはない。』
今の家を選ぶ際のかなり優先順位の高い理由にそれを挙げたくらいだ。そんな洋介さんがどうして車に傷つけられなくてはならないのだろう。彼女は隣に座っている乃笑留を自分の許に引き寄せて、横からギュッと抱きしめた。そうしないと彼女の心はバラバラに砕けてしまいそうだった。

病院についてから小百合は、その悲惨な現実に打ちのめされながらも、とりあえず義父や彼女の両親、圭子のところには電話を入れた。電話を受けた誰もが、
「頭蓋骨を骨折、脳内に出血がかなりあり、緊急手術で頭を切開している。」
という状況に絶句するしかなかった。


「小百合ちゃん、洋介は?」
圭子から連絡を受けた弘毅は病院にすぐさま駆けつけた。
「まだ、手術中…」
弘毅の声を聞いて一度目を上げた小百合だったが、また目線を床に落として、彼女はつぶやくようにそう答えた。
「圭子が、とりあえず乃笑留を預かってこいって。まだ、どれだけかかるかわかんねぇんだろ。清華がいるから私にはこれくらしかできないって。洋介のお袋さんが生きていてくれりゃ良かったんだけどな。小百合ちゃんとこは、充君とこで今大変だろって。」
小百合の弟充はつい先日子供が生まれたばかりで、小百合の母は実母のいない嫁の面倒を見ていてすぐさま対応ができないだろうというのが圭子の考えだった。
「あ…ありがとう…」
「じゃぁ乃笑留、弘毅パパの家に行こうか。」
「あ…」
小百合も乃笑留を長い間病院で置いておくより、その方が良いとその申し出に感謝したのだが、いざ弘毅が乃笑留を連れて行こうとした時、彼女は言いようもない不安感に襲われて思わず声が出てしまった。
「小百合ちゃん、頑張れよ。」
弘毅はそれに対して、そう声をかけた。内心何を頑張るんだと自身にツッコミを入れながら。小百合は無言で頷いた。

乃笑留も弘毅に手を引かれながら、何度も何度も振り返りながら病院を後にした。




そして…洋介は手術後も意識が回復することもなく、3 日後36歳の若さで帰らぬ人となったのだった。






満月(フルムーン)に焦がれて22

乃笑留は6歳になった。

「ねぇ、パパ見て!」
乃笑留は出来てきたばかりの小学校の制服を着て洋介の前でくるりと回って見せた。
「それを着るとすっかりお姉さんだな。」
洋介はすっかり目じりを落としてそう言った。
「えへへ…早くお兄ちゃんとがっこ行きたいな。」
お兄ちゃんと言うのは周人のことだ。
洋介は背筋を伸ばして
「出席を取ります。木村乃笑留さん。」
と先生の真似をしてみせた。
「はい!」
乃笑留がそれに対して元気に返事をする。
「いい返事だ。いい子だよ、乃笑留は。」
洋介はそう言うと、乃笑留を抱きしめて頭をなでた。
「はいはい、そのくらいにして。乃笑留、汚してしまわないうちに早く脱いでちょうだい。入学式にヨレヨレの制服なんか着たくないでしょ。」
小百合はそんな2人の様子を見て苦笑しながら乃笑留にそう言った。
「はーい。」
乃笑留は返事して着替え始めた。

「この姿お義母さんに見せたかったわ。」
ぽつりと小百合がそう言った。
「そうだな…」
洋介が相槌を打って唇を軽く噛み締める。洋介の母は前年に癌で亡くなっていた。あの時義母がいなければ乃笑留は無事に生まれていたかどうか、自分もこうして生きていたかも判らない。それだけに孫の晴れ姿を1つでも多く見て欲しかった…小百合はそれが残念だった。

「でも、俺は何か複雑だよ。」
ハンガーにかけられた乃笑留の制服を見ながら洋介はこう言った。
「どうして?」
「乃笑留が生まれたとき、桜木にあの子を周人の嫁にくれって言われたんだよ。何か今、確実にその方向に行ってるような気がしてさ。」
「あなたたち生まれたばかりの赤ちゃん見ながらそんな話してたの?」
男の人ってどうしてこうとんでもなく先の話を、まるでリアルタイムのように会話できるのだろう。小百合はそう思うとおかしかった。
「あの時、俺断ったんだよ。『お前のDNAを色濃く受け継いだら乃笑留が苦労するから』ってな。」
「断ったの?」
「実は、赤ん坊のときからかっさらわれてたまるかって思ったからだけど。」
それって、まだ赤ちゃんの周人くんに洋介さんヤキモチ焼いてたってことじゃない?これじゃ、大きくなって周人くんが乃笑留を本当にお嫁さんになんて言ったら、この人一体どんな顔をするのかしらと小百合は思った。

「ちょっとレンタルショップに行ってくるよ。」
その後、洋介はそう言って外に出たままなかなか帰って来なかった。
どうしたのだろう…そう思いながらリビングの乃笑留の玩具をおもちゃ箱の中に入れたとき、電話が鳴った。
「はい、木村です。」
「もしもし、木村洋介さんのお宅ですか。」
耳慣れない男性の声だった。
「こちら○○中央病院なんですが。洋介さんが事故に遭われました。至急来てください。」
あまりに突然なことで、小百合はしばらく電話の意味が理解できなかった。それでも、ようやく怖ろしいことが身に起こったのだと解かったとき、小百合は世界が曲がって沈み込んでいくような感じがして、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「木村さん、木村さん…」
「はい…わかりました。すぐ、参ります。」
そう答えるのがやっとだった。

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絆-満月(フルムーン)に焦がれて21




洋介たちは乃笑留が2歳の時に引越しをして弘毅たちと同じ町に住むことになった。たまたま条件のあうものがそこにあったというだけなのだが、両家の家族ぐるみの付き合いはさらに深まった。まるで、本当の両親の他にもう一組両親ができたかのように、子供たちは親の名前にパパママをつけて、周人は洋介パパサユママ、乃笑留は弘毅パパ圭子ママと呼ぶようになっていった。

そしてそれから1年後弘毅夫妻に第二子清華(さやか)が生まれた。赤ん坊に手が取られる圭子のために、小百合たちは周人を預かることもよくあった。
「ごめんね、ホントどっちの子供だかわかんないわよね。」
圭子がそう言った時、
「いいわよ。ウチの子供みたいなものだと思ってるし。実はね、おケイちゃんから周人くんができたって聞いた時、要らなきゃ私にちょうだいって言おうとしてたのよ。」
小百合は冗談ごかして、そう笑って答えた。
「ああ、あの時…」
弘毅に対して素直になれなかった私を、サユが一緒に泣いて励ましてくれたんだったと、圭子は当時を思い出した。すると小百合は圭子に向ってこう言った。
「ありがとう、おケイちゃんが背中を押してくれなかったら、私乃笑留を産んでなかったと思うの。」
「へっ?」
圭子はその時、小百合のその言葉の意味が理解できなかった。
「何でもないわ…今の話は忘れて。清華ちゃん起きちゃったみたい。」
小百合はそう言うと起きて泣き出した清華を抱き上げてあやし始めた。

「あの時、サユ何言おうとしてたんだろ、分かんないんだよね。」
しかし、そう思いながら昼間の話を夜、弘毅に告げると弘毅の顔がにわかに曇った。
「洋介はああいってたけど、やっぱり、俺らが原因だったんだな…」
つぶやくようにそう言った弘毅の言葉に、圭子は驚いて聞き返した。
「弘毅、あんた何か知ってんの?」
「ああ、洋介には絶対にお前には言うなって口止めされてたんだ。けど、乃笑留もちゃんと生まれてきたんだし、もう時効だよな…」
そして弘毅は圭子に、洋介夫妻が危険をおして乃笑留を儲けたことを説明した。
「ウソ…だからサユあの時泣いてたんだ…弘毅が子供は要らないって言ったらちょうだいって…そう言おうとしてたって…」
話を聞いて、圭子は涙を流した。
「泣くなよ。誰も不幸にはならなかったんだから、いいじゃん。」
「そうかもしんないけど…なんかあの時のサユの気持ちを考えたら胸、痛くて…私。」
弘毅は圭子の頭を優しく叩きながら、
「それで、乃笑留が生まれてきたんだから。おまえは相談して良かったんだよ。そう、今が良きゃそれで良いんだよ。」
と言った。





恋人-満月(フルムーン)に焦がれて20

恋人


「これが『面倒だから子供は要らない』なんて言ったのと同じ人なのかしらね。」
「えっ…俺そんなこと言ったかな。は~い、乃笑留ちゃんミルクでちゅよ~。」」
洋介は乃笑留を抱いている小百合に、ミルクをそう言って渡した。
乃笑留を産んだ後、初乳だけは飲ませたものの、小百合は投薬を再開しなければならなかったため、それ以降母乳を乃笑留に与えることができなかった。まるでセンサーでも付いているのかと思うほど乃笑留が泣くたびに小百合の乳は張る。その度小百合の胸は痛んだ。
「俺は却って良かったと思ってるよ。」
それに対して洋介はそう答えた。
「どうして?」
「ミルクなら俺にでもできる。おっぱいは俺には逆立ちしたって無理だからな。その間完全に大事な恋人を独り占めされるしな。」
「恋人って…私より乃笑留の方が大事なの。『俺を1人にしないでくれ。』って言ったのは一体誰?」
「バカだな、俺はお前にも乃笑留にもどっちもヤキモチ焼いてるんだよ。俺が入る隙なんてないのが悔しくてな。」
普段はシャイな洋介なのだが、乃笑留のことが絡むと時々、小百合が恥ずかしくて赤くなるようなクサイセリフを平気で言うようになった。

小百合は本当に乃笑留を産んで良かったと思った。そして、こんなとろけるような顔で娘を見る夫の姿を自分の目で見ることができたことを感謝せずにはおれなかった。

何も特別なことなんてなくて良い。今の幸せをいつまでも…と小百合は思った。

満月(フルムーン)に焦がれて19

見舞いに訪れた弘毅は、洋介と2人で乃笑留をガラス越しに見ていた。
「おっ、やっぱり女の子は泣き方まで違う。かわいいよなぁ~、次は女がいいなぁ…あ、ゴメン。」
弘毅は軽々しく次の子供のことを口に出してしまった事を反省した。
「いちいち気にするな。ウチはこの子1人で充分だよ。俺は2度とあんな思いはゴメンだ。」
それに対して、洋介は手を振りながらそう答えた。
「にしても、小百合ちゃんホントに頑張ったよな。」
「ああ、俺には到底真似できない。一度、小百合の食べているものをつまみ食いしたことがあるんだ。ほんとに味があるようないような…よくこんなものを食べてるっていう味だった。でも、それをあいつは実に旨そうに食べてたんだ。」
「へぇ。」
「で、そんなもん旨いか?って聞いてみたんだよ。そしたら、『これが赤ちゃんを育てるのよ。そう思ったらものすごく美味しいわ。』って平然と答えたんだ。」
「男には理解できねぇなそういうのって。」
「そうだろ。」

それから、洋介は弘毅に頭を下げてこう言った。
「桜木、今度のこと、本当にありがとう。」
「何で。お礼なんて言われるようなこと俺、何にもしてねぇぜ。」
何も役に立ってないだろ…弘毅はそう思った。
「いや、お前に愚痴や不安を言うことで俺はずいぶんと救われたよ。押しつぶされずにここまでこれた。」
「ははは、なんだか照れるな、そういうのって。お礼ってんだったら、いっそのこと乃笑留を周人の嫁にくれるか?乃笑留は間違いなく美人になりそうだし…」
弘毅にそう言われた洋介は笑いながら、
「断るよ。圭子さんに似ればともかく、お前のDNAを色濃く受け継いでたら、乃笑留は間違いなく苦労するからな。」
と言った。
「おまえなぁ…昔はともかく、今は圭子一筋なんだぜ、俺。」
「それは、圭子さんの操縦が上手いって事だろうが。」
弘毅の言葉に洋介はニヤニヤ笑って返した。
「どうせ俺は尻に敷かれてるって言いたいんだろ。けどさ、お前だって結局小百合ちゃんの言いなりじゃねぇか。」
「ま、そうだな。」
「女には勝てねぇんだよ。」
女には勝てない-勝てない方が幸せだってことなんだろうと、弘毅は思った。勝てなかったからこそ、こんなことで笑い合える。だったらそれでいいじゃないかと。

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genre : 小説・文学

満月-満月(フルムーン)に焦がれて18

満月


徹底した食事管理、可能な限りの休息、胎児に影響が少ない治療が功を奏して、小百合は週数を重ねていった。薄氷を踏む思いで2人はそのときを過ごした。


小百合は30週のときの検診で、切迫早産の兆候が現れたため、その場で即入院、絶対安静を言い渡された。

それで連絡を受けた洋介は入院のための荷物を持って飛んできた。

洋介はその荷物を手際よくロッカーに入れながら言った。
「小百合、お前に1つだけ絶対に守って欲しいことがある。」
「何なの?いきなり。」
すると洋介は真顔でこう言ったのだった。
「俺より先に死ぬなよ。」
「何それ。」
まじめな顔で何を言い出すかと思ったら…小百合は吹き出してしまった。
「1日でいいから。俺より先に死ぬなよ。もし、先に死んだら俺は承知しない。」
洋介はあくまでも真剣だった。小百合は笑い続けた。
「何か昔にそんな歌なかったかしら?でも、死んだら叱られても私わからないわよ。あなたを残して死のうなんてこれっぽっちも思ってないけどね。」
小百合は大笑いしていたが、その目にはいつしか涙があふれていた。。
「約束してくれ。」
「…ええ、約束するわ。」

35週目に入った時、小百合の血圧は急激に上がり始めた。そのため即刻、帝王切開で彼女は女の子を産んだ。

2120gの小さな命は無事産声を上げ…小百合も出産後の後遺症はなかった。

クリスマスを間近に控えたその時期に生まれた待望の娘を、洋介はフランス語のクリスマスを意味する乃笑留(ノエル)と名づけた。そして、家族の笑顔がいつまでもあるようにと悩みぬいてその字を当てた。

「お前は私たちの救世主だよ。」
洋介は保育器で眠る娘にガラス越しにそっとささやいた。






theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて17

小百合は約1ヶ月間入院し、一旦自宅に戻ってきた。
戻ってからの彼女の一番の悩みは洋介の食事の用意だった。彼女は入院と同時に減塩食になっていた。だから、彼女は洋介のための食事を味見をすることができないのだ。彼女は味見だと割り切ってそれを口にできるようなのんきな性格ではない。

それで、彼女はかなり悩んだ末、洋介の母親にだけはこの事を打ち明けた。本当なら自分の母に相談すべきなのだろうが、自分の母親より洋介好みをよく知っているし、洋介もそのほうが後々気を遣うことが少ないだろうと思われたからだ。それに、自分の母に話したらもしかしたら自分以上に母は苦しむのではないだろうかとも思ったからだ。自分が過去2回の流産のときに、誰が何を言おうが自分を責めてしまわないといられなかった様に…

「よく、決心してくれたわね。」
「食べるのは毎日のことなので、黙ってはいられないって思いました。私が作れないからって、洋介さんに外食ばかりさせたら、今度は洋介さんが体を壊してしまうと思ったら、お義母さんにお願いするしかなくて…私のわがままですいません。」
「わがままじゃないわよ。任せてちょうだい。でも、洋介もほんとに幸せ者ね。」
遠慮がちに言う小百合に義母は笑顔で承諾した。
「幸せ者ですか?」
「だって、そこまでして自分の子供を産もうとしてくれる奥さんなんてそうそういないわよ。」
義母の言葉に小百合は首を傾げながら言った。
「そうでしょうか。洋介さんにはやっぱり止めとけば良かった、心臓に良くないって毎日言われてますけど。」
それを聞いて義母はふきだしながら言った。
「あの子はあなたを失うのが怖いのよ。昔っから気が弱いんだから。もう戻れないんだから、どーんと構えてないとあなたも不安よね。」
「いえ…私が言い出したことですから…」
「じゃぁ、何としてでも親子3人でくらさなきゃね。」
「はい。」
何としてでも親子3人で暮らしたい。小百合は改めてそう思った。

それで、洋介の母はしばらく彼らと同居することとなった。洋介の食事のための選択であったが、結果的に義母の協力を得ることで小百合の負担はさらに軽減されることとなったのだ。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

満月(フルムーン)に焦がれて16

家を出て少し歩いた所で、弘毅は洋介に電話を入れた。
「洋介、今いいか?」
「今、病院にいる。電話できるところまで移動するから、ちょっと待ってくれ。」


「お前、何やってんだ?」
「あ、ああ…」
開口一番そう言った弘毅に、洋介は何が言いたいのかを一瞬で理解したようだった。
「お前、あん時俺を殴ったよな。殴っといて、何でこんなに簡単にドジ踏むんだよ。」
「失敗した訳じゃない、これは小百合の希望だ。」
嫁の希望って…それ何だ!
「希望?いくら小百合ちゃんが希望したって、お前がやらなきゃこんなことにはならんだろーが!」
「俺が手をださなきゃ子供なんてできない、そうだよ!それが正論だ。だが、俺たちの気持ちはこともなげに子供を作ったお前には一生わからんさ!!」
弘毅の言葉に洋介は吐き捨てるようにそう言った。
「俺との交わりが惨めになるからって、夜中に離婚届突きつけられて、子供産むのを取るか離婚を取るか迫られてみろ!自分の今の人生は死んだも同然だとまで言われて…それでもお前は子どもは要らないと突っぱねられるか?!」
弘毅は、軽々しく電話するんじゃなかったと思った。洋介と小百合の性格を考えればアクシデントで妊娠するなどということはあり得ないだろうと判りそうなものじゃないか。
「洋介…ゴメン。俺ってホントにバカだよな。」
弘毅は今一度洋介に殴られたような気がした。
「けどさ、他人になれば、そういうことから解放されるんなら、離婚しても良かったんじゃないか?」
「お前…小百合にそんな小器用なことができると思うか?俺が素直に離婚届に判を押したとしたら、家を出てあいつはたぶんどこかで死ぬよ。」
「まさか?!でも、小百合ちゃんの性格ならありそうで怖いな。」
洋介の言葉に反射的に否定したものの、自由になった小百合が荷物を抱えてふらふらとどこかに消えてしまう姿を想像して、弘毅は思わず身震いした。
「お前も、そう思うだろ。俺は小百合を失いたくない。だから、かけるしかなかったんだ。」
弘毅の耳に悲痛な洋介の声が響く。

「なぁ、それって俺たちのことが原因なのか?」
それから、弘毅は自分が一番聞きたかったことを舌に乗せた。
「それは、気にしなくて良い。あいつと同じ病気の人が困難を乗り越えて子供を産んだと知って、自分もと思ったらしい。」
それならいいけど…と弘毅は思った。それから、洋介は咳払いを1つして、
「勝手なことばかり言うようで悪いが、圭子さんに小百合の支えになってもらえるように頼んでくれないか。」
と言った。
「んなもん、言わなくても圭子は小百合ちゃんの面倒を看るさ。俺は下手なこと、言わない方がいい。」
俺からそんなこと言ったら、絶対に不自然だと弘毅は思った。
「じゃぁな。」
「わざわざ、ありがとう。」

弘毅は電話を切ってから、この重い心のままでは帰れない。今帰れば簡単に圭子に気付かれて、圭子にいきなり外に出たことの説明を強要されてしまいそうだ。もう少しその辺を歩かなければと思った。


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計画-満月(フルムーン)に焦がれて15

計画

結局洋介が折れる形で小百合は医師に内緒で薬の服用を止めた。

薬を止めた途端急激に元の状態に戻るものではないだろうが、薬の余韻がなくなる頃には元にもどるのではないか…そうなれば何があってもこの計画は聞き入れるわけにはいかない。洋介はそれだけは譲れないと念押しした。

祈るような気持ちで定期健診に臨む。小百合は最初こそ少しデータを悪くしたものの、奇跡的に小康状態を保っていた。

そんな中、圭子が男の子を産んだ。サッカー好きの弘毅はその子を周人と名づけた。
「かわいい~!おケイちゃん、私ももうすぐ追っつくからね。」
祝いに駆けつけた小百合は、破顔で周人をあやしながらそう言った。彼らの秘密の計画を知らない弘毅はその姿に胸が痛んだ。

そして、その3ヵ月後のことだった。
「ねぇ、弘毅。サユ入院したって。切迫流産だってよ。子供はなんとか無事だったって、洋介さんから電話があってさ。」
仕事から帰ってきた弘毅に圭子がそう言った。
「あのバカ!なにやってんだ。」
それを聞いて思わず弘毅はそう口走ってしまった。
「へっ、何?」
それを聞いた圭子は意味が解からず聞き返した。
「ああ、何でもねぇよ。ちょっと、行って来るわ。」
「今帰ってきたとこなのに…どこ行くの?」
「ちょっと…すぐ帰るから。」
弘毅は圭子から離れて洋介に電話をするため、外に出かけた。

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