スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Turning Point 1

「バニシング・ポイント」この暗く対象年齢高めの小説によもやないと思っていた続編の声がちらほらあり、「毒食らわば皿まで」とポータルですごーくちびちびと書き進めてました。前作よりさらに宗教色は強くなると思われます。しかも、冴子目線なので、更新はさらに亀になりそう。





 それはいつも変わりない連休の朝だった。私たち家族は遅めの朝食兼昼食を摂っていた。電話が鳴った。
「ママ、でんわだよ」
電話をとった次男の健斗が私に電話を持ってやって来た。
「誰から?」
「美加ちゃん」
それはかつての会社の同僚、高田美加だった。未だに独身を貫いている彼女は、自分には子供はいないんだからおばさんだなんて呼ばせないと、私の子供たちにも『美加ちゃん』と呼ぶように強要するような奴だ。
「もしもし? 休みの日なのに何か用?」
私がそう言って電話に出ると、美加は電話口で大きく息を吐いてから、
「ねえ冴子、落ち着いて聞くのよ」
と言った。でも、そう言う美加自身がそうとう慌てている感じだ。
「何よ、いきなり」
「今朝、寺内さんが亡くなったの」
私は事態が全く飲み込めないで、しばらく口をぱくぱくと開けたり閉じたりした後、ようやく
「寺内さんって、あの寺内衛さん?」
と聞いた。
「そうよ、営業の寺内さん。事務所で倒れてて亡くなっているのをが発見されたらしいわ」
「ウソ!」
「ウソじゃないわ。とにかくお通夜とか告別式とかまた連絡入れるから。篤志さんにもそう伝えて。じゃぁ、そういう事だから。他にも回さないといけないから切るね」
美加はそう言って電話を切った。

「高田がなんだって?」
電話を切って蒼い顔をしている私に夫篤志がそう聞いた。
「先輩が死んだって」
寺内さんは会社以前に大学時代のサークルの先輩でもあった。社内結婚した夫の篤志に、名前を冠せず先輩と言う時にはたいてい彼のことだった。
「先輩が死んだ? 嘘だろ? 金曜日に、『休み明けに一気に形にしたいのがあるから』って張り切っていたんだぜ」
「今朝、事務所で死んでいたって。後のことは、追って連絡するからって」
「マジかよ、それ」
私は美加の言ったことを事務的に篤志に伝えた。あまりに突然のことに篤志も驚きを隠せない。
 葬儀のことは、夕方になってやっと美加から連絡があった。
「えーっと、お通夜が明日の夜7時半からで、告別式が次の日の朝11時ね。場所は……〇〇教会? 冴子、〇〇教会って知ってっか?」
私は黙って頷いた。そこは17年前、先輩が結婚式を挙げた場所だった。
「ああ、冴子が場所知ってるって。俺が定時にでれば間に合うから、途中で冴子拾ってお通夜の方に出させてもらうわ。えっ、分かった。ほい、高田が電話代わってくれって」
そして、連絡事項を言い終えた美加は篤志に私に代われと言ったらしい。篤志は私の手の上にそう言ってポンと子機を乗せた。
「冴子、大丈夫?」
「何が」
「ムリしなくて良いからね。なんなら、地図ファックスしようか? 教会の方から会社に送ってもらってるから。それで篤志さん一人で行ってもらえばいいじゃん」
長い間先輩を思い続けたことをよく知るこの友人は、別れた奥さんの方が信者である教会で告別式をすることを気にかけてくれているのだ。
「良い、大丈夫」
そうだ、だからと言って私は先輩の今の妻でも愛人でもない。菅沼篤志という男の妻だ。先輩がかつての奥さんとよりを戻そうが何をいう権利もない。
 だけど……どうしてあの人なのだろう。どうして、私ではいけないのだろう。
 何度も自問自答したその問題をまた心の中で蒸し返して唇を噛みしめた私に篤志は、
「辛いだろうけど、ちゃんとお別れはしてこないとな。あとで後悔するから」
と、私の頭に手を乗せてそう言った。

スポンサーサイト

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

tag : *

Turning Point 2

 翌日、仕事を終えて篤志が私を迎えに来た。
「ほら健斗、ゲームばっかりしてないで、ちゃんと宿題しときなさいよ」
その言葉に、健斗が面倒臭そうに
「はいはい」
と返事をする。上の息子拓也はまだクラブから帰ってきていない。突然出かけることになっても手は掛からなくなったなと思いながら、車に乗り込む。すると篤志は、
「なぁ冴子、驚くなよ」
と言った。でも、
「何が?」
と聞き返しても、
「ちょっとな。でも、行けばわかるから」
と歯切れが悪い。美加と言い、気を遣いすぎだと思う。今更死んだ相手に対して焼けぼっくいに火をつけてどうしようと言うのだろう。篤志、私はもうとっくに君しか見てないのに……
 だけど、お通夜(前夜式というらしいが)の会場に入って、私は美加や篤志の歯切れの悪い言葉の本当の意味を知った。
 まず、教会の入り口近くの長椅子に、先輩のかつての配偶者、博美さんが座っていた。やっぱり元の鞘に納まっていたのか。でも、これは充分私には想定内の範囲だった。この教会でお通夜をすると聞いた時からそうなんだろうと思っていた。
 それで、私が彼女に声をかけようかと逡巡している間に、堀木さんが男性を一人伴って入ってきた。おそらく、彼も篤志や堀木さん同様、私が辞めてから入社した会社の同僚なのだろう。堀木さんは博美さんに気づいて、お悔やみの挨拶を述べた。
 博美さんは堀木さんの挨拶に応えながら、もう一人の――綿貫さんと紹介された人――を見てから先輩の遺影を見て、再び綿貫さんに視線を戻した。その時彼女は、こっちが思わずドキリとするほど寂しそうな顔をしていた。
 その理由は、改めて先輩の遺影を見て気づいた。それは確かに先輩なのだけれど、先輩じゃない。先輩だとは認めたくないと言った方がいいのだろうか。祭壇に飾られていたのは、私が最後に会った彼より明らかに20kg……おそらくはもっとだろう、体重が増加しているであろう先輩の笑顔だったからだ。
 確かに私がまだ勤めている頃からその兆候はあった。だけど、私がいたころはまだふっくらとした中年太りくらいだったのだ。
 そして、今堀木さんと共に訪れた人も相当な巨漢だ。写真と比べるのは難しいが、体重的には先輩より多いかもしれない。彼女は綿貫さんの行く末を心配してあんな顔をしたのだろうか。あるいは先輩よりもさらに肥満した彼が生きていて、先輩が死んだことが納得できないとでも思っているのか。
 私は無性に腹立たしくなった。そんな顔をするのなら、あんな白々しいお芝居を真に受けてさっさと離婚などしなければ良かったのよ。自分がどんなに愛されていたかも知らないで、悲劇のヒロインになりきっていた彼女。自業自得だ、私はそう思った。
 博美さんはそのまま後ろにいるつもりだったみたいだが、親戚らしい女性(後で、先輩のお姉さんだと知ったが)に促されて渋々前の席に移動した。私たちは博美さんが座っていたのとは反対の長椅子に陣取った。
 牧師のメッセージで、先輩が半年ほど前から教会に通っていたこと。そのきっかけは病気であったこと。もうすぐ博美さんとよりを戻すはずだったことを聞く。みんなが涙を流す中、私にはどんどん怒りが積もっていった。
『博美を壊したくない』が先輩の離婚の理由だった。『だから、お前の気持ちには応えられない。俺は今でもあいつが好きだから。ただ、俺が引きたくても引けなかった引き金を引いてくれたことは感謝する』あのとき、先輩はそうとまで言ったのよ。
 それなのにあなたは、先輩を壊した。許せない……
 前夜式の終わりを告げるアナウンスを聞いた私は、衝動的に博美さんの前に出ていくと、
「人殺し! 先輩はあんたに殺されたのよ!!」
と叫んで彼女を平手打ちにしていた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turnimg Point 3 

「北村さん……」
「菅沼、止せっ!」
いきなり博美さんを殴った私を見て、慌てて堀木さんが私を羽交い締めにする。
「かっこ良かった先輩をあんなに太らせて、病気にしちゃうなんて。あんたは人殺しよ」
私が羽交い締めにされたままそう叫ぶと、前の方から親族らしい男性がつかつかとやって来て、博美さんをかばうように間に立って、
「それは、そのままあんたに返すわ。あんたがおらんかったら、衛君と博美ちゃんは別れんで済んだんや。そしたら、衛君は一人寂しく大食いする必要はなかった。そしたら、今みたいな結果はなかったはずや。僕は赦しを説く立場やけど、あんただけは許せそうにない」
と早口の関西弁でそうまくし立てた。
「曳津先生、それは違うわ」
先生? ああ、牧師か。悲劇のヒロインはこうやってみんなを味方に付けるのか。
「何がちゃうの!」
だけど、ムキになってそう返す曳津牧師に博美さんは私の想像しなかった言葉を吐いた。
「確かに、私も北村さんのことは許せなかったの。特に、15年ぶりに衛に会った時は、私の15年間を返してほしいと思った。でもね、許せませんって祈っても平安は与えられなかったの。そして神様に『このことを感謝しなさい』って示されたの」
は? 何それ!?
「北村さん、あなたがいなかったら私たちは離婚してなかった。それは事実だと思う。だけど、離婚は私が持っていたコンプレックスから私を解放してくれた。もし、あのまま衛と夫婦を続けていたら、私きっと壊れてたと思うから」
「博美ちゃん……」
「それにね、衛は私と離れることで神様と向き合うことができたと思うの。神様は衛がちゃんと信じた上で引き上げてくださった。昨日の洗礼式で、私ははっきり衛の永遠への道が見えたよ。北村さん、私はあなたがいたから御国に望みがつなげた。それは感謝すべきことだとは思いませんか、曳津先生」
「それは……」
正直言って彼女の言葉は私には全く理解できなかった。
「『絶えず祈りなさい、喜びなさい、すべての事に感謝しなさい』まさにみことばの実践ですね」
そこに今度は若い男性が笑顔で割って入った。
「安藤先生」
この人も牧師なのか。
「曳津先生、先生は私に寺内さんの洗礼準備会を頼むときに言ってくださったじゃないですか。『このことに深い神の配慮を感じる』と。人間的には悲惨だとしか思えないこのですが、神はそれすらも恵みと変えられる。私は今、神のそんな深い摂理に感動で震えが止まらない」
そして、この安藤という牧師は私が全く理解できない事柄に関して目をきらきらさせて感動している。安藤牧師はその笑顔を私に向けると、
「北村さんとおっしゃいまいしたっけ」
と名前を聞いたので、
「今は結婚して菅沼です」
と、訂正した。別にムキになって訂正することもないのだが、何となく旧姓で呼ばれると今でも犯人扱いされているような気がしたから。
「菅沼さん、あなたは本当は自分が不用意にいった一言で寺内さん夫妻が離婚してしまったことを後悔しているんじゃないんですか」
「あ、いえ、ええ……」
 分かっていたけど、目を背けていたそのことを指摘されて、不意に涙が私の頬を伝った。
 どんなことをしてでも手に入れたいと思った。でも、彼は別れた後も自分を見てはくれなかった。彼の目に映っていたのは、いつも一人だけ……何故だ、どうして彼女にそんなにこだわるのかとずっと思ってきた。
 だから、私はこの人に斬られたかったのだ。『衛を殺したのはあなただ』と取り乱して叫ぶ彼女を見たかった。そしたら、私自身の思いに決着を着けられる……はずだったのに。
 それを、この人は恨まれても仕方ない自分に感謝するですって? 
「じゃぁ、悔い改めましょう。悔い改める者の罪を神は許してくださいます。あちらで一緒に祈りませんか」
私は安藤牧師の誘いにこくりと頷いた。そこに私の求める答えがあるような気がしたからだ。







more...

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 4

「僕も一緒にいいですか? あ、冴子の夫で、菅沼篤志と言います」
「ええ、もちろん構わないですよ」
 私が礼拝堂の隣の部屋(後でそれが母子室という幼児を遊ばせながらメッセージを聞くことができる部屋だと知った)に行くのを見て、篤志がやってきた。
 そこで、私は生まれて初めて神に祈った。神社なども神様と言うから、初詣などを含めばそうではないのかもしれないが、平易な具体的な言葉で声に出して祈るのは初めてだ。当然、ふさわしい言葉など浮かんでくるはずもなく、安藤師の言葉をなぞって口にするだけなのだが。
 そしてそれが終わって教会を後にしようとした時、博美さんが、
「菅沼さん、また来てくださいね」
と言った。私は社交辞令と言うには似つかわしくない清々しいその表情を見て、思わず
「あなたは嫌じゃないんですか?」
と彼女に聞き返していた。
「へっ?」
「私は先輩を横取りしようと思っていた女ですよ」
「だからです。同じように衛を好きでいてくれた人なら、すごく話合うと思うから」
それに対して彼女はそう言った。

 あの人、なんかずれている。駐車場に着いて篤志にそう言おうとした時のことだった。教会の中から慌てて走ってきた女性がいた。
「菅沼さん、先ほどは主人が失礼なことを申しまして。私、博美の姉の曳津順子です」
女性はそう言って私に頭を下げた。主人ということは、あの曳津牧師というのは、彼女の兄(または義兄)になる訳か。なら、彼女の側に立って物を言うのも何となく理解できる。
「もし良かったら、また来てやってくださいね」
そして、この人もまた私を誘った。何故?
「え、ええ、まぁ」
私は、その時牧師の妻という肩書きがぱっと頭に浮かんで、そうまでして信者を増やしたいのかと、おざなりに返事をした。すると、順子さんは
「お願いしますね」
と、ほっとした笑顔を向ける。そして私の怪訝そうな顔に気づいたのか、
「ヒロ、同年代の友達がほとんどいないんです」
と、付け加えた。だからって、それをわざわざ夫を奪おうとしていた女に言うの? 私はそう思ったが、順子さんが続けて言った、
「あの子、ヒロはね、ある病気で成人はできないだろうって言われていたんです」
という言葉で思わず息を飲み込んだ。
「ヒロが18の時に治療法が確立されて、あの子奇跡的に助かったんですけど、そんな訳でヒロには同年代の友達が本当に少ないから」
「順子さん」
その時、玄関の方から曳津師が順子さんを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、じゃぁ主人が呼んでいるので行きます。じゃぁ、お願いしますね」
順子さんはそう言うと、来たときと同じくまた慌ただしく教会の中に入っていった。

「何なんだろうな、あれ。たぶん、ありぁ奥さんと彼女が兄弟だな。顔はそんなに似てないけど、ぶっ飛び具合がそっくりだ」
 車で走り出した後、篤志がぼそっとそう言った。私はそれに頷いてから、
「ねぇ、私またここに来て良い?」
と聞いた。
「何でまた?」
「何だか、あの人面白そう」
私がそう言うと、篤志は目を丸くして、
「確かにぶっ飛んでるけどさ。あの元奥さんはともかく、他の信者に何か言われないか? いきなり仲間を殴った訳だし」
と言ったが、
「ま、俺もまたあの安藤さんとは話してみたいとは思ったし、もっかい位は来るか。そこで何か言われる様ならもう行かなきゃ良いことだし」
と言い、ここから私たち夫婦の教会生活が始まったのだった。






theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 5

 翌週には用事があり行けなかった私たちは、その次の週、早速教会の礼拝に出席した。
「ようこそ。よくいらっしゃいました」
玄関先で受付の女性がそう挨拶した後、
「この教会は初めてですか?」
と聞いてきた。結婚式と前夜式には来たけれど、教会らしい教会は今日が初めてだ。
「はい」
と私が頷くと、
「では、お手数ですがこちらの用紙に礼拝が終わるまでで良いですので、ご記入願えますか?」
と、週報と書いてある礼拝の式次第、聖書・賛美歌とともに、一枚の用紙をバインダーに挟んだ状態で私に差し出した。アンケートのようだった。来会のきっかけ、信仰歴(何故こんな質問事項があるのか、このときは解らなかったが、この教会が始めてでも、転勤や旅行などで別の教会に通っているということの方が、実は多いのだということを後で聞いた)聖書を読んだことがあるか、メッセージがどうだったかと、事細かに記入するようになっている。
「冴子、頼むな」
すると、篤志は事務屋のクセに、さっさと私に放り投げってきた。
「私だってわかんないわよ」
と、むくれて私が返すと、それを聞いていた受付の女性が、
「そんなに堅苦しく考えないでとりあえず、ご連絡先だけでけっこうです。これは集会のご案内を差し上げるためのものですから」
と付け加えた。見ると、用紙の末尾にも同じことが書いてあった。
 それを持って私たちは礼拝堂の一番後ろの座席に座った。
 しばらくすると、がやがやと幾人もの子どもたちが礼拝堂に入ってきた。母子室で行われていた子ども礼拝が終わったのだ。出席しているのはほとんどが信者の子弟で、終了後親の所に一旦来るのだ。
 それから程なくして博美さんが礼拝堂に姿を現した。
「菅沼さん、来てくれたの!」
彼女はそう言って破顔する。そのままハグされそうな勢いだ。そして、
「ねぇねぇ、そんなところにいないで一緒に座りましょう」
といって、前から2番目の席を勧める。確かに長椅子は三人掛けだったけれど。
「お母さん、、新しく来てくれた人を困らせちゃだめじゃない。お父さんの会社の人なんでしょ」
「だって、全然知らない人が座るよりいいでしょ」
そこに来た長身の女の子が博美さんをたしなめる。ああ、この子が先輩の娘さんの明日美さんか。
それに対して博美さんは小さな子どものようにむすっと頬を膨らませていた。親が頼りないと、子どもがしっかりすると言うが、まるで親子が逆転しているような感じだ。
「お嬢さんと一緒に座らなくていいんですか?」
と私が聞くと、
「あの子はお義父さんたちと座るから、いいの」
と返してきたので、全く知らない人が横に来るよりは良いかと、彼女の言う席に移動する。そして、しばらくして礼拝が始まった。


theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 6 

 前奏の後、開式の挨拶の後一曲目の賛美歌。いきなり起立するように言われる。
 曲が終わると、一旦座って司会者が祈る。それが終わるとまた立って、『使徒信条』と言われる条文の朗読。これは週報の隅に載っているので、週報を夫婦で一枚しかもらっていなかった私たちに、博美さんがすっと自分の週報を差し出しながら、その部分を指で示す。どうやら彼女はそらでそれを覚えているらしい。というよりこの条文と、賛美歌を挟んで後の『主の祈り』は、暗記してしまっている人の方が多いようだ。ただ、ここ10年ほど前に賛美歌が口語表現に(現代には使われてない用語と、不快語を見直したらしい)変わったのを機に、それらも現代の言い回しに変わっていて、年輩者は逆についうっかり前の条文を口にしてしまうと、見ている人が多かった。
 主の祈りが終わると、聖書の朗読。コヘレトの言葉とか言われても私たちはさっぱり解らない。すると、博美さんはあっと言う間にその場所を開けて私たちに差し示し、私たちの借りた聖書を自分に渡すように促すと、司会者の朗読が始まるまでにその聖書も開いてしまった。
「は、早っ」
と、思わず篤志がつぶやくと、
「私、お腹の中から教会に来てるし……」
と照れながら彼女は返した。
 聖書の朗読が終わると、起立して賛美。その歌の間に、安藤師が高壇に上がる。安藤師は短く祈りを捧げてから話を始めた。すると、博美さんは何やら熱心にメモを取り始める。しかも、よく見ると外国語で……私が目を瞠っているのに気づいたのか、博美さんは頬を染めながら、
「今勉強中なの。この方が疲れていても寝ないしね」
と囁くように言った。後で聞くと、若い安藤師はそうでもないが、前夜式で話した中野師は時々神学の根幹のような話をされたらしく、そういう学術的な話は眠いと彼女は笑っていた。それに、私たちもそうだが、先輩のご両親とお姉さんと、教会に今まで来たことのない人が結構出席している。彼女曰く、とっつきやすい話を持ってきたなと思ったらしいが、慣れない私には大学の講義を聴いているようだった。
 メッセージが終わると、司会者が今度は『聖餐式』というものをやると言う。最後の晩餐を模して行われるそれは、御子の体を模したパンと、血を模したブドウ液(日本では未成年の飲酒が禁じられているため、100%のブドウジュースだそうだ)をみんなで分かち合う。信者の神とのつながりを再認識させる行事で、毎月第一週に行われているのだが、今月は連休にかかるため、この週に変更されていたのだ。
「この聖餐は、受洗しておられればどこの教会でも問いませんが、受洗していないとあずかることができません。ですが、その方々には、牧師が祝福の祈りをしてくださいますので、皆様礼拝堂の前までお越しください」
「なんだ、俺たちはなしか」
と篤志。礼拝のことをミサということがあるが、それはこの聖餐が語源で、ラテン語で『出て行け』なのだそう。確固たる信仰をもって御子の身体と血を受け継ぎ、外の世界に出て行くための行事として、大切にされているのだ。
後日、洗礼準備会でそれを聞いた篤志は、
「おっ、何だかそれってヤクザのかための杯みたい」
と言って、横にいた私を慌てさせることになるのだが。
 そのまま座っていると、みんなと一緒に飲み食い(一口ずつなので、そう言うのもどうかと思う量でもあるが)できないから拗ねていると思われるのもなんだしと、別に祈ってもらいたくもないのだが、みんなと一緒に前に出て行った。みんながパンとブド液をもらうときに、牧師が私たちの頭に手を置いて、
「あなたに神様の祝福がありますように」
と祈る。みんなに配り終わると、信者は一斉に飲み食いする。
 それが終わって席に戻ると、今度は献金だと司会者は言った。
「献金は信仰によって成されるもので、礼拝の参加費などのそういった意味合いは一切ありませんので、ご用意のない方は、遠慮せず係りが参りましてもそのままやり過ごしていただきますように」
と、司会者は続けた。お志のようなものなのだな、と私は思った。それならば、なおさら空手でシカトなんかできないのが日本人というものだ。私は慌てて財布を開けてお金を取り出した。そして、博美さんの方を見る。教会の長椅子には、背もたれの部分に、後ろの座席のための聖書などを置くシェルフのようなものが付いているのだが、その上には封筒が置かれており、そこには『衛昇天感謝』と書かれてあった。確かに前夜式のあの日、私に感謝すると彼女は言ったが、人が死ぬことに感謝するという感覚が私にはやはり解らなかった。



 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 7

 献金をして、そのお祈りが終わった後、司会者は、
「今日も新しく教会に見えられた方がおられます。えーっとお名前は……寺内さん紹介してもらえる?」
すると、博美さんは、
「私がですか?」
と一旦言ってから立ち上がり、私たちにも立つように促すと、
「故寺内の会社の方で菅沼さんご夫妻です。私も名字しか知らないので」
と言って、私たちに申し訳なさそうに頭を下げると、
「すいません、自己紹介お願いします」
と言った。と言っても、どう言えばいいの? と思っていると、篤志が
「菅沼篤志です。寺内さんとは職場の同僚です。こっちは家内の冴子です。以前は家内も勤めていたので、寺内さんのお通夜に二人で寄せてもらって、今日ここに来ました。教会のことは何も分かりませんがよろしくお願いします」
と、率先して挨拶した。当たり障りないことを言ってるだけのようだが、後から考えると続けて来ることを前提で話しているようにも思える。私は彼が話し終えるのを見計らって一緒に頭を下げた。会場が拍手に包まれる。
 私たちの挨拶が終わると司会者は諸事の報告を始めた。それによると、今日は愛餐会と言う食事会があるらしい。
初めての私たちは帰れる時間さえ判らなかったので、たまには二人で食事も良いかと、息子たちのお昼を用意してでてきていた。それを知ると博美さんは、
「是非残って行って。聖餐式の時には礼拝時間が押すから、みんなが一品ずつ持ち寄って食べるんです。そんな豪華な料理ではないけど」
と、残って食事してほしいと言った。私が、
「私たちが残ったら足りなくならないですか」
と言っても、
「みんな2~3人分持ってきてるし、余ってもまた他の人のを持って帰るだけだから」
と、まだ引き留める。どうせ帰りがけに寄ると言っても、帰りまでの道中にあるラーメン屋かドライブインだ。それよりも何日か前からCMが流れていたから、篤志お気に入りのハンバーガーショップで期間限定のプレミアムバーガーを食べる確率が高い。でもどっちかと言えば、私はハンバーガーは苦手だ。子どもたちも今より小さかった頃、キッズセットのおまけにつられて時々食べたがったが、子どもたちの横で私はコーヒーだけを飲んでいることが多かったし、教会の人たちが丹精込めたおかずというのにもそそられる物がある。
 そして、残った私たちの前に現れたのは、ホテルの朝食バイキングかと思うようなラインナップだった。確かに一品一品はごくふつうの家庭料理だ。しかし、ちゃんと分担分けされて作られたそれは、とても豪華な食事になっている。それが食材を持ち込んだ人は無料で、持ってこなかった人も300円で食べられるのだ。しかも、私たちは初めて教会に来たということで、今回は無料で良いと言われた。
 別に、誰からも変な目で見られることもなく、私たちは料理を堪能して、長い休日の半日を過ごした。

「立ったり座ったり、結構忙しかったけど、面白かったね」
「また来ような」
とんでもなく満腹になった帰りの車内で、別に食べ物につられたわけではないが、私たちはどちらからともなくそう言っていた。




 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 8

 翌週、私たちは息子たち二人も連れて教会に行った。拓也のクラブで使うシューズを道中、靴の量販店で買うためだ。どんどん大きくなる彼の靴は、本人が一緒に行って買わないと心配で、本当は前日買うはずだったのだ。しかし、拓也は友達と約束していてとっとと遊びに行ってしまった。
「足痛いんでしょ? なら早く買わないと、足の形まで悪くなっちゃうでしょ」
と、渋る拓也を有無を言わせずに連れていこうとすると、
「拓兄いくの? いいな、僕も行きたい」
と、健斗は自分から一緒に行きたがった。でも、その理由は分かっている。
「健斗、明日行ってももう飯は出ないぞ」
「えーつ、ご飯ないの? 父さんたちだけずるいな」
やっぱり。篤志は食いしん坊の健斗にわざと愛餐会の話をしたのだ。
 まぁいいか、小学生の健斗一人だけ置いて行くのは不安だし、一緒に行けば……それくらいの気持ちだった。そして、母子室にいれば同年代の子どもが他にいるだろうし、まぁ、馴染めなくても携帯ゲームでも持たせておけば何とかなるだろうと。
 ところが、(つい一月ほど前に新しいバージョンが出たばかりだったこともあって)健斗と同じゲームを持ってきている信者の子弟がいて、大盛り上がりで通信対戦やらキャラクター交換をして、短時間の間にすっかり仲良くなってしまった。そして、
「ねぇねぇ、僕来週から子ども礼拝にも出たい」
と言い出す始末だ。大人の礼拝なら10時半でいいが、子ども礼拝からになると、9時半までに来ないといけない。なんだか休みが一日なくなった気分だけれど、子どもだからその内飽きるだろうし。
 それで、私は健斗と一緒に子供向けの聖書の話を聞くことになった。
 一方、いやいや行ったはずの拓也は、青年の人にバンドをやらないかと誘われてまんざらでもない様子。ちゃっかりとその人にギターを教えてもらう約束まで取り付けていた。
 その上、拓也はあの明日美さんにほのかな想いまで抱くようになって(さすが親子というべきなのか)、率先して行きたがるようになった。
「全てが導きの中にあるのよ」
後日その話を聞いた博美さんは(さすがに拓也が娘さんに恋心を抱いてますとは言えなかったけれど)そう言った。「そう言えば冴ちゃんが始めて来た週の聖書の架所は「コヘレトの手紙」だったよね。【全ては時にかなって美しい】神様はその時にご計画を示してくださってたんだよね」
と言って、ちょっぴりその目を潤ませた。 

 
  

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 9 

 本当に導きというものはあるのかもしれない。健斗が子供礼拝に出たいと言い出した理由は、終わった後、心おきなく友達と遊びたいためだったのだろうけれど、車でしか行けないこの教会に来るためには私か篤志のどちらかが健斗を連れて来なければならない。篤志は朝早く出てくるのはイヤだというので、私が健斗を連れて行くことになった。健斗を置いてそのまま時間をつぶしても良いのだが、博美さんの
「菅沼さんも一緒にどうぞ、外に出るのも面倒じゃない?」
という言葉で、何となく一緒に子供礼拝に出るようになってしまった。ここでは、信者が子供のための伝道教材を用いてメッセージを取り次ぐ。博美さんもその一人だ。明日美ちゃんは高校生で、子供礼拝の参加メンバーではないが、博美さんは明日美ちゃんがいた頃から引き続き教師を続けているのだ。
「子供への伝道は大切にしなきゃ。神様が決められた時間は人には判らないもの」
と、博美さんはしみじみと言った。命の期限が人には見えないことを身に染みて感じている彼女だからこその発言だと思っていると、博美さんはぺろりと舌を出して、
「うふふ、でもそれは表向き。本当はね、子供がしっかりと信仰を持ってくれれば、教会から離れることはないでしょ。今のご時世、菅沼さんみたいに家族で新たに来てくれる人たちなんてなかなかないのよ。増えなきゃ減らさない努力をしなきゃ」
と言った。しかし、彼女は根っからそんな打算的に考えている訳ではなく、きっと関わった人が一人と漏れるとなく、永遠の生命を得てほしいだけみたいだ。
 それに、安藤師は取り立てて難しい学術的な教義を話している訳ではない。それでも勉強からはるかに遠ざかっていた私にはそこそこハードルが高かった。子供礼拝の聖書の言葉は、私の心の中にどんどんと染み込んでいった。
 それで私は、自分でも聖書を読もうとしたが、大人の礼拝でもいっぱいいっぱいなのに、一人で聖書を読んでもぜんぜん解らない。
「ねぇ、子供礼拝の時に持っている手引書? あれって、どこで買えるんですか?」
「へっ、何で?」
「一人で聖書を読んでみたいと思うんですけど、どこから読んだらいいか分からないし、読んでも意味分からなくて」
私のその発言を聞いた博美さんは
「聖書読みたいの? うれしい!!」
と言って飛び跳ねんばかりに喜んだ。そして、
「教案を使わなくても、聖書を読むためのデボーションガイドっていうのがあるの。持ってるから見せるよ」
と言いながら、礼拝用の鞄から一冊のA5の冊子を取り出した。左のページには、日付とその日の聖書の架所が書かれてあり、そのところに合わせた短い信仰の話が載っていて、右のページに、その聖書の架所を読んでの自分の所感を書くようになっている。しかし、これだけでは自分だけで読むのとたいして変わらないと思ったら、いきなり読まないように、別紙でその聖書の架所の解説(注釈というらしいが)がついていた。それでも、使い込めるようになるにはそうとう時間がかかりそうだ。それまで忍耐は持たないだろう。そう思っていると、
「ねぇ、一緒に聖書研究しない?」
と博美さんが言った。
「いえ、その……」
「一人でするより二人でした方が絶対に解るよ、ねっ」
「え、ええ……」
「ホントに? うわっ、楽しみ!!」
博美さんの勢いに呆気にとられて思わず頷いてしまった私。それを見て彼女は、喜々として今にも踊り出しそうだ。昔の遺恨とかがないのかとかいうレベルじゃない。どうしてそこまで私と関わりたいのだろう、そう思って首を傾げるほど彼女は私と友達になりたがっていた。  

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 10

 デボーション、それは日本語では黙想と訳されているだろうか。個人や家庭などの小規模単位で行われるプチ礼拝とでも言えば解りやすいかもしれない。
 私も博美さんも仕事を持っているので、自由になるのはやはり日曜日。結局、拓也が音楽集会に参加する間に(明日美さんもキーボードでバンドに参加しているので)親たちは今時のゴスペルフォークを賛美代わりにして、デボーションガイドを元に進める。
 まず、最初にこの交わりに感謝の祈りを捧げて、それからどちらかが聖書を音読する。音読する方がそれぞれが黙読するのより、理解力が高まるのだと博美さんは言う。
 聖書を一緒に勉強するようになって、私は博美さんの人となりとか生きざまのようなものを、よりまざまざと感じることとなった。
 
 最初の感謝の祈りにしても、私はそう言うセオリーなのだという気持ちしかなかったのだが、彼女には『今日、こうして教会に来れたこと』自体が奇跡で感謝なことなのだと言う。
「だって、私は本当は20歳で死んでいたはずなのよ。後は神様が与えてくださったおまけの人生。でも、おまけの人生の方が長いなんてなんか変だけどね」
 そして、私の最大の謎だった、先輩との離婚。
 彼女は、自分が死ななくていいと医者から言われても、そのことを長い間受け止めきれなかったようだ。私なら、『ラッキー!』で終わりだけど、元々死と対峙して生きてきた彼女にはある意味究極の目標を失った状態だったのかもしれない。
 そんな彼女が見つけた新たな目標が先輩との結婚。でも、ここで治ったはずの病気が壁として立ちふさがる。結婚生活はしてもいいけど、子供は産んじゃいけないだなんて……
 もちろん、避妊すらしちゃいけないみたいな教派もあるみたいだけど、この教団はそんなことを規制してはいない。
 でも、私たちより一世代二世代前の年輩の信者さんは総じて子沢山だ。牧師はその筆頭で、年輩じゃないが、私に博美さんを頼むと言った彼女の実のお姉さんの順子さんも4人の子持ちだ。
 それでも私たちの世代になると、子供の数は二人か三人の人も多い。それでも、一人っ子ではない。
 博美さんの病気も、治った、奇跡だということが先行し、但しの部分は伝わらない。明日美さんが生まれていることを考ると、もしかしたら彼女は先輩にさえその事実を妊娠するまで隠していたんじゃないだろうか。先輩がもし知っていれば、先輩のことだ、子供を持たないという選択肢を選ぶに決まってる。
 知らないのだから当然だが、年寄り連中は彼女に子供のことを聞いてくる。まるでそれが既婚信者の務めとでも言うように諭される。そして、やっとのことで明日美さんを産んだ後も、『一人っ子じゃかわいそう』と言われる。開き直ることのできない博美さんの性格ではそれは拷問にも等しかったに違いない。
 やがて、博美さんは20歳の時と同じようにたびたび過呼吸を起こすようになっていた。
 そんなときに間が悪く現れたのが、私だったのだ。
 
 


  

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Turning Point 11

「ごめんなさい、私がいなかったら……」
そう言った私に、
「ううん、私は冴ちゃんに本当に感謝しているのよ。それに責められるべきは私の方だもの」
やっぱり私に感謝するという博美さん。
「何故?」
私は博美さんが罪悪感を感じていることに驚いた。私には彼女は一番の被害者だと思うのだが。
「冴ちゃんは、本気で私たちを別れさせるつもりはなかったんでしょ?」
そして、続いて博美さんが言った言葉に、私は頷いた。

 私はあの時、先輩と不倫していることをにおわせるような電話を確かにしたのだけれど、実際、そんな事くらいで先輩と博美さんがあんなに簡単に別れるとは正直思ってはいなかった。
 私は、博美さんが、先輩を問いつめてケンカにでもなれば良いんだという気持ちだった。それくらいで壊れるとは思わなかったからできたこと、それで壊れるのならそれくらいの夫婦、壊した方が先輩のためになると。

「あの時ね、衛はあなたのことは否定しなかったの」
「先輩、否定しなかったんですか?」
私は、先輩が私のウソに乗ったと聞いてまた驚いた。
「うん、あの時衛は『魔が差した』って、土下座したの」
「なんで……」
先輩は博美さんの世間的に言えば潔癖症ともとられるような考え方くらい解ってたはずでしょ?
「私もね、ホントは許そうと思えば許せた。だって、衛はそのときはまだ、会員ではなかったんだし。
でも、私はあの時、頑なに衛を拒んだの。
当時の私は、あなたの方が衛に相応しいと思っていたから。でもね、それってよくよく考えたら自分の弱さで衛のことをあなたに丸投げしただけなのよね」
「相応しいだなんて」
罠を仕掛けるような女が先輩に相応しいわけがない。
「ううん、私は正直ホッとしたの。私は彼の妻であることにからきしの自信もなかったから。
ああ、私はやっぱり妻としては役不足なんだなって思った。だから、衛には冴ちゃんと幸せになってほしいと思ったの。
それって、自分はなにも努力しないで、投げ出しただけだよね。
それに、衛がいなくなっても、私には明日美がいるって」
そう言って、博美さんは深くため息をつくと、
「でも、結局は衛をひとりぼっちにしただけだった。
だから、衛を過食に追い込んだのは冴ちゃんじゃない、私だよ」
伏せ目がちにしみじみそう言った。
「だって、博美さんは知らなかったんでしょ。じゃぁ、仕方ないですよ」
私が、頭を振りながらそう返すと、
「ただ、許すとそれだけ言えばよかっただけなのに。やっぱり『罪の報酬は死』私は大罪人だよ。死ぬべきは私だったのにね」
それに対して、博美さんはまっすぐ前を向いてそう言った。そんなことを言ってしまえば私なんか未遂とはいえ、姦淫の罪。聖書の時代なら、石で打たれて死ななければならない大罪人だ。 
 やはり、罰せられるべきは私。私は自分の浅慮さがほとほとイヤになった。

  

Turning Point 12

「教会でなんかあったのか?」
情けない気持ちで家に戻ると、篤志は目覚とくそう聞いた。
「ううん、教会じゃない。私つくづく博美さんに悪いことしたなぁと思って」
私がそう言うと、
「何か責められることでも言われたかって……博美さんはそんな人じゃないわな」
篤志は顔を一旦歪めてから首を傾げながらそう言う。
「うん、博美さんは全部自分が悪いって言うんだけどね。どう考えても、悪いのは私だっと思うと情けなくてね」
私はそう言うとため息を吐いた。

「確かに、お前のしたことは正しいとは言い難い。だけど、終わったことはしょうがないだろ。
まぁ、落ち込んでるお前につけこんでさっさとモノにした俺も結構姑息だと思うけど」
「篤志……」
確かに、篤志は私が先輩に振られたと知って猛アタックをしかけてきた。だけどそれはよくあることだし、篤志としては結局半ば強引に同棲に持ち込んだことを言っているのだろうが、追い出せなかった時点で、私は彼に依存し始めていたのだと思うし、もっと言えば彼に惚れて始めていたのだと思う。
 
 私はそんな『罪人の頭』とも言うべき自分たちだけが結果ハッピーエンドというのが心苦しいのだ。 
「博美さんとデボーションするのが辛いんだったら、俺とするか?」
すると、篤志はいきなりそんなことを言い出した。
「篤志と?」
「お前いつの間にか聖書開けるのが速くなってるしさ、最近、礼拝でもメモ取ってるだろ。なんかお前に一歩先行かれてるみたいでさ、悔しいんだよ」
篤志はそう言って笑う。
「あ、あれ? 聖書を開けるのが速くなったのは子供礼拝のおかげなの。必殺技があるのよ。
マタイ、マコ、ルカ、ヨハネ伝。使徒、ロマ、コリント、ガラテヤ書……」
そう言って、私は往年の鉄道唱歌の歌詞に乗せて歌う、「聖書早引きの歌」を歌い始めた。この歌は新約はもちろんのこと、旧約聖書のものもある。
『覚えると確かに楽なんだけどね、ゼファニアとか、ペトロの手紙とか(どちらも旧新約の最後の方に位置している)なんかは全部歌いきらないとでてこないでしょう。そういうときは非効率だと思うわ。
それにこれ、口語訳だから時々タイトル違うしね』
とその時、博美さんはそう笑いながら教えてくれた。

「篤志とやるのは止めとくわ」
そして、歌い終わった後、私は彼にそういった。
「何で?」
「別に、大した理由はないけど」
 まだまだ未熟な私ではそれこそ『盲人の手引き』になってしまいそうだし、そうでなくても博美さんとのデボーションはこれからも続けていきたい。
 何より、篤志では祈りに衒(てら)いが出る。神様に祈っているのだから、人を見ちゃいけないんだろうけど、夫婦だからお互い解っている反面、夫婦だからこそ気恥ずかしいものもあるのだ。これだから、身内の伝道は難しいと言われるのだと思う。
「俺は、祈祷会にでも出てみるかな」
すると篤志はそう言った。彼も彼なりに信仰と向かい合おうとしているみたいだ。

Turning Point 13

 その翌週の安藤先生のメッセージは、ローマの信徒への手紙からだった。
 ローマの信徒への手紙というのは、パウロの書簡集と呼ばれているものの一つ。パウロは半隷属されているユダヤ人の中にあって、ローマの市民権を持っているエリート。当時のユダヤのセレブリティーだ。
 当然高学歴なので、その考えは深いのだが表現方法は難解……私には無理と逃げ腰な部分だったのだが、この日のメッセージはぐいぐいと私の中に染み込んできた。
 
 神様を知って従いたいと思っているのに、やっぱり日々の生活に流されていく自分。何よりその根底には、自分が言ったことで先輩と博美さんを不幸にしたという事実。
 実はパウロ自身が新しい教えに従い始めたユダヤ教徒を迫害する最先鋒として、各地を巡っていたときに、復活した御子と出会い、劇的な人生の転換を経て大伝道者となっていったと知ったのはつい最近のことだ。

「あなたは自分は罪を犯した。もう、許されてはならないと思ってはいませんか」
安藤先生はその朝も、持ち前の高めの優しい声で説きはじめる。
「しかし、パウロが言うように、神の眼から見れば私たちは誰もが罪人です。
よく罪を負債にたとえることがありますが、
たとえばAさんが1兆円の借金をしていて、Bさんは3兆円、Cさんは10兆円の借金をしていたとします。
人間的には額の大小を問いがちですが、神様にとって額の大小はまったく問題ではありません。
問題は、人間は皆等しく神に大きな負債を抱えていて、人間の力ではだれもその負債を返すことができないのだということです。
しかし、人にできないことも神にはできます。
神は御子をこの世に下してくださいました。そして、その御子を信じる者の罪を許してくださるのです。
いいえ、それを言うならば、私たちはもう許されています。神様からの一方的な恵みで私たちは既にそれを受け取っているのですから。
私たちはそれを受け止め、ただ一言、『御子のゆえにそれを信じます』と言えばそれで良いのです」

 本当に、信じますと言うだけで良いのだろうか。何だか怖くて『信じます』の一言が心の中でさえ言いたいのに言えない。
 
 その時、私は、パウロはかつて迫害する側の人間であったことを思い出した。
信じる者は敵であった者でも受け入れる御子。それは一方的な神様からの愛。
『そう、君はそのままで良いんだよ。そのままの君を愛している』
どこからともなく聞こえてきたそんな声に押されて『信じます』と決意したとたん、私は涙があふれて止まらなくなった。

Turning Point 14

 私はただ、『信じます』と言っただけだ。しかも、礼拝中だったから、声に出して言った訳じゃない。
 だけど、その一言で私の世界は劇的に変わった。
 
 私は自分で思う以上に『あの一言』を悔やんでいたのだと思う。先輩の離婚劇の真相を知り、博美さんの置かれていた状況を知ってからは特に。その重石が一気に取り除かれて、赦されたという喜びが全身をかけ巡って、許されるならその場で踊りだしたかもしれない。
「冴子?」
号泣に近い私を隣の篤志は心配そうに見つめる。その篤志に口パクで『後でね』告げると、私はまた前を向く。程なくして、安藤先生のメッセージが終わった。
 そして私は、礼拝が終わるのもそこそこに自分の決心を安藤先生に伝えた。安藤先生はもう大喜びで、すぐに博美さんと篤志を招き寄せた。
 
 博美さんは私よりも大泣きでその報告を聞き、篤志は、
「決心のみことばがローマ書だなんて、おまえかっこ良すぎだろ」
と言い、
「どんどん先に行くなよな」
と言ったが、その顔は笑顔だった。

 不思議なもので、御子を受け入れたとたん、それまで難しいとばかり思っていた聖書の言葉は、それからどの架書も自分に向けて書かれているように感じるし、日々のデボーションが全く苦にならなくなっていた。
 それどころか、衒(てら)いがあるからと篤志とのデボーションを自分で断ったのに、以後の私は毎朝、その日の聖句と所感を彼に報告するのが日課になった。
 負けず嫌いの篤志は、そんな私の変わりように焦ったのかもしれない。それが、ノー残業デーの水曜日にあることも手伝って、祈祷会に熱心に参加するようになり、私から遅れること一月、彼もまた御子を主として受け入れた。

 そして、クリスマス礼拝のこの日、私たちは夫婦揃って主の家族として新しい歩みを始めた。

 私たちの洗礼式を見て、博美さんはまた号泣していた。
 先輩の前夜式の時、私に感謝すると言った博美さん。あのとき、私はその意味が分からなかったけれど、思えばあのときから、いや、私が先輩と博美さんをやっかんであんな発言をしたときから、この救いは始まっていたのだろうと思う。

 本当に……神様の導きは不思議だ。


【家を建てる者の退けた石が隅の親石となる。
これは主の御業。
私たちの目には驚くべきこと。
今日こそ主の御業の日
今日を喜び祝い、喜び踊ろう】

   

Turning Point 15

 求道者(信者ではなく教会に来ている人々を教会ではそう言う)が神様を信じて洗礼を受けたいと申し出た時、教会は直ちに洗礼を施したりはしない。洗礼準備会(教団によって、若干名称が違うところもあるようだが)というものをして、本当にその人に確かな信仰があるのかを確かめてからしか、洗礼式は行わない。

 先輩が亡くなってから急遽洗礼式を行えたのも、数週間後のペンテコステに受洗が決まっており、粗方の準備会の日程を終了していたからだと聞いた。
 何故そこまでガードを堅くしているのだろうと思わないこともないが、その昔はバレれば死ぬという時代もあったのだから、信仰表明にはそれなりの覚悟をもてということなのだろうか。
 
 私たちはその洗礼準備会でこの教団の基本的な教理を学び、決心までの経緯をあかしとして認めた。
 私はもちろん、先輩への想いから始まった神様の不思議な導きを綴ったのだが、
「どうせ、週報に織り込むんだから先に読んでも良いぞ」
と言われて篤志に見せられた彼のそれを見て、私は少なからず驚いた。そこには彼もまた先輩に対してずっと罪の意識を感じていたことが綴られていたからだ。
 
 私より二年入社の遅い篤志は、最初から私が好きだったようだ。しかし、当時の私は先輩しか眼中になかったし、そうでなくても年下の篤志は私にとって対象外だった。
 篤志は、先輩が妻帯者なのにも関わらず、何かと私を頼りにする(本当は大学時代から知っていた分、頼みやすかっただけなんだろうけれど)ことを疎ましく思っていたようだ。
 先輩と博美さんが別れた時、当然それは私を得るためだと思って、憎しみすら抱いたという。
 だけど、先輩は私の手を取ることはなかったし、それで篤志は私を得た訳だけれど、結婚して15年あまり、篤志は私が先輩に対してまだ想いを残しているのだと分かっていた。 
 そうして行った前夜式で私のとった行動で、私の先輩に残している想いが恋情ではなく、後悔であることを知った篤志は、正直ホッとしたという。

 さらに 、私を許し教会に誘う博美さんに興味を持った。というより、どちらかと言えば、こんな風に言ってはいるがそれは絶対にパフォーマンスだろうと。いつかしっぽを出すのを楽しみにしているという、いささか意地の悪い感情から教会に通いだしたのだった。
 
 だけど、博美さんにそんな裏表などあろうはずもなく、毎週通う内、篤志は教会生活の中で次第に自分の中に潜む罪と向き合うようになっていき、悔い改めに導かれた。
 私のように、明確に罪の自覚がある者の方が、実は救われ易いのだそうだ。そうかもしれない、人間的な物差しでは、自分の罪を認識することは難しい。神の物差しで見て初めて人は、自分が罪の存在だと気づくことができるのだ。

『義人はいない、一人もいない』
御子によって赦されて初めて人は神の前にたてる。だから、私も赦されて主の前にたちたい。篤志のあかしはそんな言葉で締められていた。

「でも、ちょっと長すぎるんじゃない?」
しかし、パソコンで綿々と書かれたそれは、原稿用紙で一体何枚になるんだろうと思われる量だ。
「ああ。最終的にはもう少し端折ろうと思ってる。けどさ、安藤先生と冴子にはきっちし一から全部見せときたくてな。
でないと、一緒に祈れないだろ」
「何で?」
この赤裸々なあかしと、祈りに何の関係があるのだろう。
「カッコつけちまうからだよ」
そうか、祈りは神との対話だが、一人で祈るときはともかく、複数で祈るときはえてして人の方を向いてしまいがちだ。
 私はこれから祈りあっていこうという篤志の気持ちに胸が熱くなった。

 ちなみに後日このあかしを持っていったら、安藤先生は
『そのままでいいですよ』
と言われた。なんでも、安藤先生の母教会(自分が信仰を持った教会のこと)の青年で、ルーズリーフ28枚にわたって綿々と書いた当時大学生の兄弟がいたとのこと。もちろん、母教会の先生はそれを小冊子にして週報に添付したという。
「俺のは本とまではいかないけどな」
上には上がいるもんだと、篤志は苦笑していた。
 

Turning Point 17

 成人の日、私たちは『新年聖会』に参加するため、大阪にある教会に行った。
 この聖会も、昔は2日か3日のどちらか聖日(日曜日のこと信者はこう呼ぶ)に当たらなかった方にしていたのだが、ハッピーマンデー法が施行され、一月の第二月曜日が確実に休みになった昨今、この日に固定された。
 とは言え、大阪から離れているウチの教会からの参加者は少ないし、翌日から新学期が始まるため、子供たちも留守番だ。だが、行ってみると、小学生は予想通りいなかったが、中高生は結構いて、夏の教団キャンプで知り合ったメンバーから、
「今日は菅沼くん来てへんの?」
と残念がられてしまった。その話をすると、安藤先生が、
「ゴールデンウイークに青年大会があるんです。私も参加しますから、良かったら拓也くんを乗せていきますよ」
と言うので、
「そんな、ご迷惑じゃないですか?」
私は恐縮してそう返したが、
「いいえ、明日美ちゃんや御国くんも一緒に行きますから」
安藤先生は笑顔でそう返した。明日美ちゃんが行くと知ったら、拓也は他に用事ができたってそれを蹴ってでも行きたがるだろう。
「じゃぁ、お願いします」
篤志もそう思ってか、ニヤニヤしながら先生にお願いした。

 そして、聖会が終わってそろそろ帰ろうとしていたとき、私たちに慌てて近づいてくる人がいた。博美さんの姉、曳津順子さんだ。
「菅沼さん、いらしてたんですね。
受洗おめでとうございます」
順子さんはにこにこしながらそう言って頭を下げた。
 洗礼式当日、初めておめでとうといわれたときには面食らったが、信者にとって受洗は、第二の誕生日とも言える日。『生まれ変わっておめでとう』ということなのだろう。
「ありがとうございます」
「あの時は、主人が失礼なことを申しましてすいませんでした」
続いて順子さんは、ちょっと恐縮したようにそう言った。
「いいえ、普通はあれが正しいと思いますから。
それに、曳津先生のあの一言がなければ、あの場所で博美さんの許し言葉も聞けなかった訳ですし、すべては御心なんだって今は思ってます」
そう、自分たちを離婚に追い込んだ女に、『感謝します』と言いきれるのはどこからきてるのだろう……それが私たちの救いの初穂だった。
「主人がね、ヒロたちが離婚したとき、『人の思いに勝る神の御思いを感じる』って言ってたんです。あの時はその意味が分かりませんでしたけど、振り返ってみて、本当にそうだなぁと思って」
「そうですよね、俺たちみたいなのを救うのに、神様なんでこんなに頑張るかなって」
順子さんの言葉に、篤志がそんな相づちを打つ。
「それが神様の愛なんですよね。
ヒロもね、菅沼さんたちの受洗の報告の電話でね、『私って本当にいろんなところを通らせてもらって、ホントに神様に愛されてるよね』ってしみじみ言ってました」
病気も離婚も再会も死別も全てを神様に愛されていることと言い切る博美さん。私はそこまでの信仰は持ってないけれど、神様は本当に思いもしない方法でご自分の民を興される。ただ、愛の故に。
 
 そして今、その愛の中におかれていることを本当に幸せだと思った。

Turning Point 18

 それから10年あまり、『御子を信じなさい、そうすればあなたもあなたの家族も救われます』のみことばの通り、先ず拓也が救われ、さらに献身(牧師になること)に導かれた。
 健斗は小学校のうちは喜んで付いてきたが、中学校に入るとそれを嫌がり、一旦は教会を離れたのだが、高校の近くにある教会にやっぱり友達絡みで導かれて、高校3年の春救われた。
 行かなくなったときには心配だったが、親のいない教会で健斗自身が神様と向かい合わなければならなかったのだろうと今は考える。

 そして、拓也は神学校を卒業し、なんと明日美ちゃんと結婚した。
 ウチは牧会のために妻帯をすすめる教団で、拓也が明日美ちゃんを好きなのは知っていたけれど、よもや4歳年上の明日美ちゃんがそれを受けてくれるとは思わなかった。
 聞けば明日美ちゃんのほうもずっと前から拓也を好きだったそう。
 私と博美さんが結婚式当日、感極まって姑同士で抱き合って泣いたら、篤志に笑われてしまったけれど。いいじゃない、あの時もし先輩が私を選んでいたら、こんなすてきな出来事は起こらなかったのだから。

 そして、任地に二人は赴き、一年後、明日美ちゃんは女の子を産んだ。名前は全愛(まさえ)。主の愛に包まれて、神と人とを愛するようにと拓也が名付けたのだが、
「どーでもいいけど、信者の子供の名前って難読が多いよな」
と、名前を聞いた篤志がぽつりとそう言った。
「そうかな、最近はそうじゃなくても変わった名前の子多いよ」
それに対して拓也はそう反論する。 
 確かに今の子供の名付けはフリーダムだけど、会員の師弟の名前はずいぶん前からそうだと思う。
 御国くんの名前を初めて聞いたとき、私はなんでこの子だけ名字なのかなって思ったから。彼のフルネームが榎本御国だと知ったのは、彼が拓也とゴスペルバンドを始める半年も後だった。

「ねぇねぇ、私あっちですごい人に会ったよ」
ある日の夜、博美さんが興奮気味で電話をしてきた。あっちというのは拓也たちの任地のこと。彼らの任地は北関東で、まだ仕事をしている私たちにはおいそれとは行けないのだが、博美さんは昨日、結婚記念日に二人の時間をプレゼントするため、久しぶりに出かけていたのだ。
「衛の会社の綿貫さん。冴ちゃんは覚えてる?」
残念ながら、私はその名前に聞き覚えはなかった。
「知らない。私が辞めた後に入った人かな」
と返す。先輩の死後、その人も辞めて北関東に行ったのだろうか。
 その時、丁度篤志がお風呂出てきたので、
「博美さんがあっちで綿貫さんに会ったんだって」
と言うと、
「へぇ、そう言えば奥さんと子供を実家に連れてくって休暇取ってたな」
と篤志が言った。そして篤志は私に、
「電話代わって」
と言い、私から電話を受け取ると、
「博美さん、びっくりしたでしょ」
と、言った。確かに岐阜にいるはずの人が北関東にいるのはびっくりだけど、私から電話を取り上げてまで言うことではないだろう。そう思っていると篤志は、
「本当に寺内さんってすごい人でしたよね」
と言った。

 そして、電話を切った後、篤志にその綿貫さんの話を聞いた。
 彼は私が辞めたことで入ってきたらしい、知らないはずだと思ったら、10年前、先輩の前夜式で会っているという。堀木さんと一緒にいた超肥満の男性がその人だと言うのだ。そうか、そんな特徴のある人だったら、10年経ってもわかるよなと思っていると、篤志の話には続きがあった。
 それは、その綿貫さんは先輩が亡くなったことを機に、ダイエットを始め、なんと人一人分の体重50kgを減らしたというのだ。そして、その課程をブログに載せたことで、同じくやせようとしていた奥さんと知り合い結婚したという、ドラマも真っ青なエピソード。
 
 神様のなせる技はまるで巨大なジグソーパズルみたいだと私は思った。
 一つ一つのピースの形で全体像は計れない。だけど、それぞれにはちゃんと収まる先があって、全てがつなぎ合わされた時、大きな恵みが完成される。あまりにも大きすぎて私たちは完成されるまでその恵みの大きさ深さに気づけないけれど、気づいたそのとき、私たちは喜びに満たされる。

 私と篤志は、博美さんと綿貫さんとの邂逅を思い、どちらからともなく頭を垂れた。

         - The End -
 

明けましておめでとうございます。

2014年がはじまりました。

とはいえ、チェッカーのたすくは昨日まで仕事、そして明日から仕事という、全然お正月感のない年末年始です。

いやぁ、年末気付いたんですけど、「Turning Point」途中で放置したままでした。とりあえず、最後まで転載しておきましたので、よかったらご覧下さい。

今年はダイブロの方を引き上げて、ブログはこちらオンリーになります。今までの記事を引っ越ししたいのですが、コンパチでできるシステムがパソ鶏頭の私にはいまいちわからなくて、移動できないまま。さすがに1000を超える記事を手入れできる気力もございません。

何とか頑張ってみますが。どうしようもないときはダイジェストにでもして、引っ越してきます。

ま、ここは変わらないですけれど。

プロフィール

こうやまたすく

Author:こうやまたすく
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

FC2カウンター

カテゴリ

Web page translation

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。