スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

深い森 1

 私にとって痛みを伴う作品が映画化され、公開されている。
 仕事終わりにメールを見たら高校時代の友人、曜子からメールが着ていた。
ーねぇ、翼はみた? あの映画。ケンイチ君かっこよかったよぉー
曜子からのそんなのんきなメールに、私は、
ー見てない。見るつもりもない。ー
とすげなく返信した。あの子は年甲斐もなくケンイチ君のファンだから、彼がどんな仕草をしようがかっこよく感じてしまうのだろうけれど。私は……
ー何で?ー
ー言いたくないー
ーどうしてよ、あんたらしくないー
間髪入れずにそう返ってきたメールに、私は大きなため息をついてから、
ー姫ちゃんを思い出すからって言えば解ってくれる?ー
と返信した。曜子から
ーゴメン……ー
と一言だけのメールが届いたのは、私がそのメールを送信して10分も後のことだった。

 








more...

スポンサーサイト

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

tag : *

深い森 2

 私の名前は小山 翼(こやま たすく)。
 姫ちゃん曜子と同じように高校で知り合った。ただ、同じクラスになったことは一度もなかった。
 一年の時隣のクラスで、体育の時は一緒だった。
 私たちは所謂体育見学常連組。私は喘息持ちで、姫ちゃんはなにやら漢字がいっぱいの難しい名前の病気だった。
 みんながわいわいと走り回る中、日陰であるいは教室の中でぽつりと待っていなければならなかった。その分仲良くなるのは早かった。
 だけど、二年の時には隣のクラスでもなかったし、姫ちゃんは大発作を起こし、二学期を丸々棒に振って留年した。
 私の方は、二年で同じクラスになった曜子が副部長をしていて、部費の獲得のために『幽霊でいいから!』とムリムリ入れられた水泳部で、なぜか結局泳がされてしまうことになり、皮肉なことにそれで体力が少しついてあまり休むこともなくなって、無事なんとか高校を卒業できたけど。
 姫ちゃんはその次の年はなんとか二年生を終えたけど、三年生の時また長期入院になり、結局学校は卒業せずにやめなければならなかった。
 元々同じクラスになったことがなかったし、私たちは姫ちゃんが留年しようが、自分が卒業しようがつきあいは続いた。同中ではなかったけれど、お互いの家は割と近く、私は自分の書いた拙い詩や小説なんかを彼女の元に持ち込んで無理矢理読ませていた。
 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

深い森 3

 姫ちゃんの退学を期に、姫ちゃんちは県外に引っ越しをした。姫ちゃんの病気の権威の先生がいる病院に転院するためだった。
 姫ちゃんはそこで、かー君という一つ年上のにたような病気の男の人と出会った。共に病気を支えあうほほえましい付き合いだった。
 適切な指導だけじゃなく、気持ちの充実もたぶんあったと思う。姫ちゃんの身体はどんどんと元気になっていった。それまでは私が彼女に(自作のこととか)話して聞かせることが多かったけど、完全に逆転して彼女ののろけ話を聞くことの方が圧倒的に多くなった。
 やがて、私にも彼氏ができ(というより、中学時代からつるんでいた友人の一人にコクられたんだけど)二人の間はしばらく疎遠になった。

深い森 4

 あまりかからなくなった電話がまたかかり始めたのは、それから一年くらいたった頃だったろうか。
 姫ちゃんは涙声で、
「かー君との結婚を反対されている」
と私に告げた。
 かー君の病状が思わしくなく、正直な話今度発作を起こしたら命の保証はないと言われているらしい。
 かー君と姫ちゃんは、彼の最後のひとときをちゃんと夫婦として共に過ごしたいと思ったのだ。夫として、妻としてならずっと一緒にいられる。いかにも彼ららしいささやかな望みだった。
 でも、夫婦という響きに、かー君がその命の灯を尚も削って命の営みをするんでないか、親たちはそう思っていたみたいだ。
 確かに、死期の迫った若い男性は自らの子孫を残そうという本能が働くのか、したくなるのだと後日誰かに聞いたけれど。姫ちゃんを本当に愛していたかー君が、姫ちゃんの命を削るそんな行為をするとは私には思えなかった。
 その上、かー君のお家はかなりお金持ちだった。そんなこと姫ちゃんも姫ちゃんの両親も望んではいないけど、かー君の両親が亡くなれば、かー君がいなくても遺産が転がり込んでくる。かー君の従兄弟なんかは、面と向かって、『財産目当ての性悪女』
と言ったそうだ。
「ねぇ、たぁちゃん、一緒に居たいって思うのは、いけないことなの?」
 私は、そんな姫ちゃんの嘆きを毎日ほぼ一ヶ月聞き続けた。私にはそれしかしてあげられることがなかったからだ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

深い森 5

 そして、かー君が死んだ。姫ちゃんは親戚でも来賓でもない後ろの席で、ひっそりとかー君を送った。でも、かー君が出棺した後、入院友達が、
「全部終わったね」
って言ったとき姫ちゃんは、
「まだ早いから、かー君の病院に寄ろうかな」
って言ったので、その娘は慌てて姫ちゃんを彼女の家まで送り届けたそうだ。時々あるそうだ。悲しすぎて記憶がとんでしまうこと……
 いや、解っていてもそう言いたかったのかもしれない。家に戻った姫ちゃんはちゃんとかー君の死を受け止めていて、私に『サビシイ』コールをしてきてくれていたから。
 
 そして、それが一週間後ぷっつりとなくなった。その前日、
『以前から約束していた映画に行ってくるよ。行きたくないけど』
と言っていた。映画を見て、すこし吹っ切れたんだろうか。それとも、人混みにやられて最近でなかった発作がまた出たのかも。
 その当時、私は立ち上げたばかりの新しい企画に参加していて、毎日帰るのは日付が変わる寸前で、だから休日は泥のように眠っていて……姫ちゃんはそれを見越して日付が変わったくらいに電話してきていたけれど、さすがに私からそんな時間に電話することもできなかった。
 ううん、本当は怖かったのだ。彼女の家族から姫ちゃんは入院したのではなく、もうすでにかー君のところに旅立ったと言われてしまうのじゃないかと。
 25日後、企画が一段落して私はやっと姫ちゃんちに電話を入れた。
 

深い森 6

「ああ、翼ちゃんごめんね。こっちから連絡しようとは思ってたんだけどね……」
電話に出た姫ちゃんのお母さんはそこでため息を一つついてから、
「あのね、美姫はもういないの」 
と掠れた声でそう言った。
 すぐにお線香をあげたいといった私に、
「ごめんね、今はまだ落ち着いていないから、それにもうすぐ年末だし。年末は翼ちゃんも忙しいでしょ? 年明けは寒いし。春……そうだ、春になったら来てちょうだい」
とお母さんはやんわりと断った。

 そして春、私は姫ちゃんちを訪ねた。
「すぐに呼んであげられなくてごめんね。あのころは美姫と同じ歳のあなたと話すことがもう辛かったの」
姫ちゃんのお母さんはそう言って、ぽつりぽつりと話し始めた。
 姫ちゃんは私に最後の電話をくれた次の日、映画館から帰宅途中に駅のホームから転落し、電車に轢かれた。
「一報を聞いたとき、家族の誰もが和臣君を追ったのだと思ったわ」
家族の人だけじゃない。私も、やっぱりそう思ったもの。
「あの娘の机の上にこの本が並べて置いてあったの。だから余計に」
おばさんの指さした先には赤と青の鮮やかな表紙の本―あの映画の原作本―が置かれていた。
「だけどね、映画を一緒に見に行った友達は、普通電車に乗り換えるために駅で降りたあの娘が、笑顔で『またね!』と急行に乗っている自分に手を振ってくれたんだと泣きながら言ってくれて。駅員さんも『きっと体調が急に悪くなったんですよ。絶対にこれは事故です』と言ってくださってね」
 自殺と事故……それがどちらであっても、母親にとっては娘を失ったことに何ら変わりはないのだろうけれど。賠償とかいう話ではそれは天と地ほどの差があるらしい。
「ねぇ翼ちゃん、良かったらこの本形見分けにもらってやってくれないかしら。この本が手元にあるのは辛いんだけど、捨てることもできないでいるから」
おばさんはその後、そう言って私に原作本をくれた。
 私は帰りの電車の中からその本を貪るように読んだ。私にはその本の中に、かー君の姫ちゃんを呼ぶ声を聞いたような気がした。
 震えが止まらなかった。言葉は凶器だと。私は今までなんと恐ろしいものをそれと気づかず喜々として紡いできたのだろうか。自分で書いたものも思い返して、尚更そう思った。
 私は以来筆を折り、その半年後につきあっていた彼が遠方に転勤になるのを機に彼と結婚し、実家から300kmも離れた今の地に来た。
 そしてそれから2年、私たち夫婦はこの地に小さな居を構えた。
 私はそのささやかな庭に、あの本を丁寧に灰にして埋め、そこに花梨の木を植えた。姫ちゃんは私が咳をするのをすごく心配していて、いつも花梨入りののど飴を懐に忍ばせていてくれたから。




 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

深い森-最終回

 それからおおよそ15年、私はPTAの広報誌編集のため再び筆をとった。行事の報告など、当たり障りない文章しか書いてはいなかったけれど。
 それなのに、その中の一人の安岡さんは私に、
「小山さん書きなれてるみたいだから。昔、何か書いてたんじゃない?」
と聞いた。私は嘘をつくのもイヤなので、黙ってうなづいた。
「やっぱりね、実はあたしもそうなんだ。いやさ、この前お兄ちゃんの持って帰ってきた作文の宿題なんけど、テーマがケッサクでね、ネタになりそうなんだ。どう、小山さんも書いてみない?」
 気乗りしないまま、彼女が言う作文のテーマを聞く。本当にこれで作文を書かせるの? と思うくらいの突飛なテーマで、私の頭の中にすぐさま主人公が登場し、どんどんと物語を展開させていく。
「ね、なかなかそそるでしょ」
私の眼がくるくると動いているのを見て、彼女は満足そうにそう言った。
 そして、私は結局その物語を15年ぶりに紡いだ。そして、気づいたことは、私は書くことがやっぱり好きだと言うことだった。人を傷つけてしまわないかと、身震いするほど怖いのに、私はそれでも……物を語ることが好きなのだと。
 安岡さんの後押しもあり、私は自作をWebで発表し始めた。

 幸いにも私の作品は、公開第一作で『私はこの作品に出会うためにここに登録したのかも』とのコメントを、第二作では『あなたの作品には救いがある』とのコメントをいただいた。
 確かに、『面白くない』『何が書いてあるのかわからない』などの否定的なコメントもたくさんいただく。だけどそれは私の技量が足りないためだ。それは次への糧にすればいい。
 私は姫ちゃんのお墓に参った。そこは姫ちゃんの引っ越した家のすぐそばの高台にあった。雲の切れ間から光が射し込んで照らされているのは、彼女のかつて住んでいた町-つまりは私の実家のある町だ。そうか、私はずっとあなたに見守られていたんだね。
 ねぇ、姫ちゃん、どうかこれからも私を見ていてね。私が言葉で人を傷つけることがないかどうか。

 あなたに向かって、私は書き続けていくから。

               -了-
 


 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

書き屋は作品で物を語る?

すいません、書いていた物を中断してまでこんな暗いモノを書き上げてしまいました。

先日……というか過去何度か起こっているんですが、ポータル内での感想欄や評価欄でのいざこざ。

私はそれに対してほとんどコメントを書いておりません。その代わりと言っちゃなんですが、言葉は怖いもんなんだよ。意として吐かなくても人によっては凶器にもなり得る。だから、お互い責任持とうね。そんなおばさんの老婆心の物語でありました。

今回、ビミョーに実話っぽくしているのはご愛敬です。あくまでフィクションでございます。ただ、翼(たすく)は備と最後まで迷った漢字。意味的には備に違いないのですが、いかんせんたすくとは普通読みませんから。翼は中国の28星士、朱雀の7星士の一人翼宿からきていて、実際に翼ちゃんが娘の学校の先輩で(しかし男性)存在してます。

なお、件のネタにされた映画の原作にちゃちゃを入れるつもりは毛頭ございません。たまたま、タイムリーだったんで、つい……むしろ素晴らしい作品だからこそ、いろんな条件が重なって姫ちゃんを誘う力を持ったのだと、作者そういうつもりで書いております。

では、次回からあのお気楽な異世界に帰りましょう。……でも、行ってる鮎川・宮本の凸凹コンビは別として、私が戻れるんでしょうか。いまいち不安だったりします。

プロフィール

こうやまたすく

Author:こうやまたすく
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

FC2カウンター

カテゴリ

Web page translation

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。