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あたしのお母さん-Love Grace

あたしのお母さん


「うふふ、メグちゃ~ん。おかあさん、今度賞に応募することにしたから。大賞とったらあんた、何が欲しい?」

朝起きぬけにこんな寝ぼけた事を言ってるのは、あたしの母親、光子さん。この人は大体夢の中で生息している。

でなきゃ、40も半ば過ぎてゲーマーだったり、オタクで娘のあたしよりあたしの友達と腐女子トークを炸裂させるなんてあり得ないでしょ。

そんな危なっかしい母のフォローをすること20ん年、あたしはすっかりしっかり者で面倒見の良い性格になってしまった。

お母さんは確かにここしばらくネットで小説を書いている。だけど、今の世の中ネットで小説書いてる奴なんて掃いて捨てるほどいる訳で、そんな一介のおばさんの文章を誰が取り上げるんだって思ってた。

いや、お母さんの努力を否定してるんじゃない。それこそ彼女は夜も寝ないで昼寝して?! その作品を書き上げた。それは認めてる。

だから、原稿を出した後半年以上も経って、
「〇〇社編集部の高貝と申します。光子さんいらっしゃいますか?」
って電話があった時、お母さんがまたネットで小説買ったんだと思ったくらいだ。だけど、
「野江光子さんが今回弊社に応募頂きました小説賞の大賞に選ばれましたので、今後の事をご相談するためにお電話致しました」
って、続けて電話の相手が言ったんで、あたしはプチパニックに陥った。

は? 大賞?? お母さんが、大賞?! はぁーっ???? 
「お母さーん!」
2階で電話をとったあたしは、階段を落ちそうになりながら降りて、台所で旨そうにトマトを食っていた当のご本人、野江光子さんに受話器を渡した。





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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

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Love Grace 2

お母さんは大賞をとったその賞金で、もう一台パソコンを買って、それもネットにつないだ。
でも、あいかわらず、お母さんはエディターの使い方も、原稿のメール送信の仕方も知らない。

結局、何とか覚えたCD焼きつけで原稿をコピーして郵送するんだったら本当はネットにつながってなくてもいいはずなのだが、彼女の本心は実は別のところにあったのだ。
彼女はちゃっかりとゲーム機のインターネット配線をついでにお願いしていた。要するにお家でカラオケがしたかったらしい。
「賞金なんて一回こっきりなんだから。なかったと思えばさ」

だけど、一番なかったことにできなかったのは当のお母さん本人。あれから、編集部の担当の人が来て、とっとと次の作品を書かされていた。結局、今まで勤めている仕事をまだ辞めていないお母さんは、彼女が思っていたほどカラオケなんてできない位、家では毎日パソコンに向かって原稿を書いていた。

そしてなんと、その作品があの「青木賞」にノミネートされたというのだ。「青木賞」と言えば「喜多川賞」と並ぶ権威ある文学賞だ。

発表の当日、我が家は編集部の人が前日から詰めているわ、外には報道陣がいるわと、ピリピリとした空気が流れていた。

だけど、そんな中、お母さんだけは妙に冷静でお茶(偶然見つけたんだとはしゃいでいたマンゴーフレーバーの紅茶)なんか入れている。やがて、
「お茶入りましたよぉ」
と、私たちはもちろん、紙コップに入れて外にいる報道陣にまで振る舞ったときには、この人ってやっぱり凄い人なのかもしれないって、一瞬だけ思った。

それからたった2時間後、お母さんはその作品が「青木賞」に選ばれたと連絡があってから逆に震えだし、
「絶対に選ばれないと思ったから、わざわざ無駄足踏ませたから悪いなって思って、お茶差し上げたのに……ホントに私なんかがもらっていいんですか?!」
と受賞の感想を聞かれた記者に逆に質問で返した。

そっか……あの余裕は、絶対に選ばれないという逆の自信だった訳ね。あたしはその時、そのことに妙に納得しちゃったのだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

あたしの知らないお母さん-Love Grace3

あたしの知らないお母さん


「青木賞」を受賞したことで、お母さんはそれまで勤めていたパートの仕事を辞めた。

それは書くのが忙しくなってと言うのではなかった。元々ネットで張っていた時からお母さんは毎日更新していたくらい、仕事とは両立していたのだ。だけど、それ以外にテレビのコメンテーターを引き受けることになって、さすがに両立できなくなってしまったのだ。

きっかけは「青木賞」受賞時のインタビュー。その受賞作とは似ても似つかぬ天然トークがワイドショーのプロデューサーの眼に止まったのだ。

『わはは、芸NO人デビューだよん』
これがコメンテーターとしてテレビ出演が決まった時のお母さんのブログタイトル。なんで芸NO人なのかと言うと、『だって、私芸なんて持ってませんからね』だからだそうだ

なら、なんでテレビに出るよ……それも文化人の枠で。

テレビに出ているお母さんは年甲斐もなくパステルのスーツ着込んでるし、そもそも名前も本名の「野江光子」じゃなくて、筆名の「春香彼方」なんていうどっかに飛んでっちゃいそうな名前で画面の中で微笑んでたりする。なんだかあたしのお母さんとは別人みたい。

テレビの仕事をするようになってから、圧倒的に「春香先生」への電話が多くなった。まるで家まで乗っ取られちゃった気分だ。

そんなある日、あたしはお母さんがパソコンに向かって話しかけているのを見た。機械音痴のお母さんはスカイプをしているのではなく、純粋にパソコンに話しかけている。今はやりの?(一体どこで流行ってるというのだ)擬人化ですか、お母さん。

……と、思ったらパソコンの横には写真が置いてあった。写真に話しかけるのも相当アブナイ事には違いないのだが、なおすごいのはその写真に対面するように鏡が置いてあり、彼女は鏡の中の写真に話しかけていたのだ。しかも……その写真の主は……あたしだ!!

な、何なのよ! 本人、ここにいるじゃないのさ!! どーいうこと? コレ……

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Love Grace4

お母さんはあたしのいることになんか気付かないで、その鏡に向かって話し続けた。どうやら今書いている小説の展開について話しているらしい。そっか、悩んだ時には他人に話を聞いてもらうと落ち着くこと多いもんね。それなら直接あたしに言ってくれればお付き合いするのに……だけどあたしは、続くおかあさんの台詞に完全にフリーズしてしまっていた。
「ねぇ、マナちゃんはどう動きたい?」
お母さんは鏡の中のあたしにそう話しかけた。

マナちゃん……あたしじゃなくてお母さんはマナちゃんに話しかけているんだ! あたしは『マナちゃん』という一言で、お母さんがあたしの写真をわざわざ鏡に映して話しかけている理由が解かった。

『マナちゃん』それはあたしの双子の姉の愛実(まなみ)。とは言ってもちゃんと生まれてきた訳ではなく、医学的には『バニシングツイン』というらしく、まだ妊娠3カ月の頃、一人流れて行ってしまったのだという。バニシングツインは圧倒的に一卵性双生児が多いというので、普段から名づけの大好きなお母さんは、生まれて来られなかった姉にまでちゃんと名前をつけていた。

あたしが愛実のことを知っているのは、お母さんがブログ時代にそのことを短編小説で発表していたから。お母さんは発表時に、
「どうしてもこれだけは書きたいの。メグちゃんのことが出てくるから、了解だけ欲しい」
と言ったので、他のは読まないけどそれだけは読んだのだ。あたしはその時、
「本名の野江恵実で出てるわけじゃないから別に構わない」
と答えたんだけど、その話の一文に
『私は鏡の中の愛実(もちろん、小説中は彼女にもご丁寧に違う名前を付けていたけど)に呼びかける』
とあった。お母さんは鏡に映るあたしの姿に、一卵性双生児だろうから生きていればそっくりに育っているであろう愛実の姿を重ねているのだ。

あたしは、複雑だった。そりゃ、他人だと著作権の問題とかあるし、結局は自問自答しているだけなんだろうけど、何だかあたしにはそれが愛実があたしからお母さんを取り上げようとしてるような気がしてしまったからだ。

そして、あたしはその少し後、お母さんが「青木賞」受賞作家と言う事であの有名な対談番組に出演した時に、
「愛実は今、私の小説の中で役者をしてるんです。結構お茶目さんなんですよ」
と真顔で言った言った時、その台詞に胸がきりきり痛んだ。

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genre : 小説・文学

お母さんと隆一-Love Grace5

 お母さんと隆一


 お母さんは早いペースで次々と作品を発表していった。テレビのコメンテーターは週一しかないし、パートを辞めた今、執筆にかけられる時間は格段に多くなっているのは事実なんだけど、その空いた時間のほとんどをお母さんはパソコンの前で過ごしているのだ。相変わらず、愛実と会話しながら。

お母さんの中では愛実はちゃんと生きている、私とそっくりな顔で。それがあたしを不機嫌にさせていた。
「メグミ、そんな顔するなよ。俺といて楽しくない?」
隆一があたしの頭をぽんぽん叩きながら言った。
「何で?」
「最近メグミいつでも心ここにあらずじゃん。もしかして俺との結婚止めるってんじゃないだろうな。」
 ついこの間、あたしは隆一にプロポーズされてOKした。でも、あたしはパソコンとばかり会話しているお母さんにそれを言う事が出来ない。
「ああ、それ隆一のせいじゃないよ。お母さんがね……」
「お母さん、反対してるのか」
お母さん、言うと隆一は凄く不安そうになった。
 隆一は老舗和菓子屋「竹林堂」の4代目。今の時代、中卒はなんだろうってとりあえず高校だけは行かせてもらえたけど、その後は先代や先々代について修行の毎日。
 でも、そんな敷かれているレールを走ることにほんの少し反発しているのだろうか。隆一は〇〇検定とかいうのをいくつも受けている。あたしとも漢検で知り合った。
 隆一はたぶん、お母さんが昔ながらの職人の世界に嫁がせることを渋っているとでも思っているのだ。
「ううん……まだ言ってないけど、あの人は反対なんかしないよ」
 そう、あたしが学生の頃からR指定なんかどこ吹く風でBLだってなんのそのだったお母さんは、煽りこそしても反対は絶対にしないと思う。ただでさえ、
「おとうさんが激怒して隆ちゃん(いつの間にか娘の彼氏をそんな風に呼ぶ人だし)殺しかねないから、デキ婚状態だけはカンベンしてね」
と、コンちゃん持たせようとする奴だから。まったく……あたしにそれを隆一に渡せって言う?!
「言えないんだ。すんなりと『おめでとう』って言ってもらえるだろうけど、それが……」
あの家からあたしがいなくなったって、愛実がいるからおかあさんはちっとも悲しくないだろう、それが悔しい。
「何だよ、それ。俺よか親の方が良いって訳? それかなりショックな発言だぞ。ま、メグミ一人っ子だしな。出てったら親を放って行くみたいな気分になるのはあるんだろうけどさ」
「違う、そんなんじゃない!」
気付きたくなかった自分の一番イヤなとこ。愛実という双子の姉がいると言われた時からずっと持っていた――それでもあたしがお母さんの一番でいたいっていう気持ち――今のお母さんの態度は、それをすごく感じさせちゃうのだ。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Love Grace 6

 あたしは隆一に愛実の事を説明した。
「へぇ、そんなことがあるんだな」
「ちゃんと生まれてくるまで、多胎児って大変らしいよ。だから最近の不妊治療では戻す卵子の数を極力減らす様にしてるんだって」
「ま、それだけ精度が上がったからそれでも大丈夫だってことなんだろうな。にしても相変わらず、どーでも良いネタだけは知ってるよな、メグミ」
 実はこれもお母さんの受け売り。お母さんは普段からこういう妙な情報を喜々として垂れ流している。
「死んだ奴に勝てないって気持ちは解からなくはないけど、生きてるもんが絶対に負けないってことだってあると思うぞ。うだうだ考えてないで言ってみ? 
それにさ、早く言ってくんないと、こっちにも都合があんだよ。それとなく『結婚したい奴がいる』ってったらさ、お袋舞い上がっちゃって、うるさいんだよ。一刻も早く連れて来いって言ってるし、来たら最後、具体的な式の日取りとか話す気満々みたいだからな。そうなるとおまえんちには完全事後報告になっちゃうぞ。それでいいのか?」
「うん……良くないかも」
お母さんはそれでも大丈夫だと思うけど、さすがにお父さんはお味噌にされたってずっと拗ねそうだ。

 隆一に背中を押される形で、あたしはその日お母さんに隆一と結婚したいと言った。お母さんは、
「おお、やっと重い腰を上げた訳ね、お二人さん。さてと、あとはお父さんだけど……ま、これは一発隆ちゃんにかましてもらうのが一番良いかな」
と予想通り即答に近い形で賛成してくれた。
「ねぇ、良いの?」
「良いのって何が?」
「隆一、家業継ぐからあたしもそんなに帰ってあげられないよ」
 そう、隆一のお母さんがこの結婚に対して色めき立つのも、昔ながらの職人の家に嫁いでくるというからだ。
「何言ってんの、外国に嫁に行かれるよりずっと帰って来れるでしょ? それにね、おかあさんはメグちゃんが生まれた時から覚悟してたわよ。ウチは婿養子を取れるような家でもないじゃない」
「うん……」
「それと、お父さんもお母さんもまだまだ老後の面倒を看てもらうような年じゃないんだけど? お母さんはもう一花も二花も咲かせようと思ってんだけどな。年寄り扱いしないで頂戴」
それに対してお母さんはそう言ってまたパソコンに向かった。

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愛実-Love Grace7 

愛実 

お母さんに結婚の話をしたその週末、あたしは隆一を呼んでお父さんに結婚の承諾を取り付けてもらうことになった。
「ねぇ隆一、お父さんには絶対『恵実さんをください』って言っちゃダメだからね。他は判んないけど、とりあえずそれだけはNGワード」
その日、迎えに行った隆一に私はそう言った。
「どうして? なんかそれって、結婚の承諾の定番じゃん」
「『犬猫じゃないんだから、そう言う奴には絶対にやらん』って言ってたことあるんだよね」
「花嫁の父の心理ってやつかね。じゃぁ、どう言ゃいいのさ」
あたしがそう言うと、隆一が吹き出しながら返した。
「うーん……お嬢さんと結婚させてくださいかなぁ」
「了解、俺土日にはなかなか出て来れないから、ゴネられても何度も足向けできないしな」
そう言って我が家の前立った隆一の唇は緊張で小刻みに震えていた。

 あたしたちが緊張した割にはお父さんは物分かりがよく、特にゴネることもなくお父さんはあたしたちの結婚を承諾した。ま、あのぶっとびお母さんの旦那さんなんだから。

 それから隆一の方にもご挨拶に行き、あたしたちは正式に婚約した。驚くことに隆一のお母さんは『春香彼方先生』のファンで、『あの春香先生と親戚付き合いできるなんて!』って、喜んでいた。

 あたしが結婚を決めてから、お母さんの連載の本数がさらに増えた。これで厄介払いが出来たから、これからは愛実と楽しくやっていけると思っているのかな、あたしはそんなことを思ってさびしくなった。

 そんなある日、あたしは夜洗面所の鏡を覗いて息が止まりそうになるほど驚いた。

……そこには確かにあたしが映っていたんだけど……その表情は連日退職のために残業していたあたしの疲れたものではなく、どことなく幼さも漂う、しかも怒った顔をしていたからだった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Love Grace8 

「愛実……?」
『ねぇ恵実、ママに小説を書くのを止めさせて』
鏡の中のあたし、『愛実』はついに口を開くとこう言った。
「な、何言ってんのよ、書かせてんのはあんたの方でしょ?」
鏡に話しかけられているという、とんでもない状況だってことを忘れて私が睨み返す。
『違うわよ。あたしにそんな力なんてないわ』
「ウソ、お母さんいっつも愛実に話しかけてるじゃない」
『あれはママの独り言だよ。あたしはそれを聞いてるだけ』
「ウソ!」
『ウソじゃないよ。あたしが話せるのは同じ血を持つ恵実だけだもん』
――同じ血を持つ恵実だけ――その言葉にぞくりとして鳥肌が立つ。
『何なら、あたしと交代してみる?』
そして、愛実はニヤリと笑って、とんでもない提案を持ちかけてきた。
『今まで20ん年間もママの娘でいるんでしょ? ちょっと位あたしに貸してくれたって良いじゃん』
ちょっとってどれ位よ。聞いたら最後、あたしの身体を乗っ取っちゃうんじゃないの、愛実!

あたしが露骨に嫌な顔をしたから、それが解かったのかもしれない。すると愛実は、
『ねぇ、3日で良いの、代わって。あたしがその間に書くのを止めるように言うからさ』
って、鏡の中で生きてる私を拝んだ。
『ねぇ、3日で良いの。じゃないとこのままじゃママが……』
「お母さんがどうだっていうのよ!」
『あ、何でもない……』
愛実はさんざん意味深なことを言ったくせに、肝心なことは口ごもった。でも、何となく口に出さなくても解かる。お母さんこのままじゃホントに身体壊してしまいそうだ。

「3日で良いのね、でもホントにそんなことできるの」
そしてあたしが承諾の意思を示すと、愛実はものすごくうれしそうな顔をした。
『ありがとう、代わってくれるんだ! 大丈夫よ、あたしと恵実は元は一つだもん』
バニシングツインの大半は一卵性双生児だと聞く。元は一人のあたし……だからって、このまま入れ替わるつもりはないわよ。
「3日だけよ」
あたしがそう念を押すと、
『解かってるわよ。あたしだってそうそう長いことそっちにいられる自信はないわ』
愛実はそう言って目をつぶり意識を集中させ始め、あたしの意識が遠のいていった。








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genre : 小説・文学

鏡の中のあたしと愛実―Love Grace9

鏡の中のあたしと愛実

気がつくとあたしは本当に鏡の中にいて、お母さんはパソコン横に置いてある写真立てのあたしの顔を映してパソコンを叩いていた。お母さんは、
「そうねぇ、ここの展開どうする、マナちゃん。ここんところはやっぱパパが叩くぐらいじゃないとダメだわよねぇ……それから主人公をぎゅっと抱きしめて……」
そう言いながらおかあさんは、パソコン音痴とは思えないほど高速でキーボードを操っていく。

何でもコンプリート派のお母さんは、
「キーボードはやっぱブラインドタッチでしょ」
なんてわからないことをほざきながら、あたしが小学生の時、タイピングソフトまで買って練習したのだ。検定試験を受けたことはないけど、たぶんワープロ検定の2級は確実にとれるはずだ。その証拠に、鏡の中のあたしに話しかけながら、いきなりパソコンの画面にどんどんとストーリーを紡いでいく。それにしてもお母さん、愛実と会話してるのかと思ったら、完全に独り言だ。

あたしもそれに対してツッコミを入れられるはずもなく、写真のあたしに併せてバカ笑いしてるしかないんだけど。にしてもさ、何でこんな馬鹿笑いしてる写真使ってるのかな。もっとかわいく笑ってるのもあるはずなんだけど?……って自分が言うかっ。

そんなことを考えていると、お母さんが急にキーボードを打つのを止めた。
「ゴメンね、マナちゃん。今日はメグちゃんが熱出しちゃって寝込んでるのよ。ちょっと様子見てくるわ」
と言って、二階のあたしの部屋へと上がって行った。

Love Grace 10

 ああ、お母さんと愛実がどんなことしゃべってるのか聞きたいな、そう思っていると、お母さんが二階に上がる間に、愛実は机の上に置いてあった鏡の角度を変えて自分の顔が写るようにした。ヒュンって擬音がつきそうな勢いで、あたしは一気に二階に上がった。
『へへへ、ありがと愛実。さすがわかってんね』
「しっ、お母さんが来るから黙ってて」
あたしの言葉に、愛実は慌てて口の前に人差し指を立てる。だけど、お母さんはあたしの声なんか聞こえないんじゃないの? あんたがスルーすれば何も問題ないじゃん。
 やがて、お母さんがあたしの部屋のドアを開けた。
「あら、メグちゃん起きてたの。ごめんノックもしないで」
「うん、さっきね。ノックは別にいいよ」
愛実の声はちょっとかすれていた。ホントは微妙にあたしよりは高いみたいだから、その方が変だと思われなくて良いかもしれない。それからお母さんは愛実のおでこに手を当てると、
「うーん、まだ熱下がらないわね。夏は風邪引いちゃうと長引くもんね。あ、それから隆ちゃんが少し遅くなるけど来るって言ってたわ」
「隆一が? マ……お母さん断らなかったの?」
隆一が来ると聞いて焦ったのかもしれない、あの子一瞬、あたしが言わないママと言いかけて止めた。でも、それにはお母さん気付いてない様だった。はぁ、何とかセーフだ。
 それにしても、これから隆一が来るの? 普段から話しかけてくるお母さんはともかく、隆一といる時にあたし鏡なんか見てないから、ぼろが出ないといいけどなぁ。

 そのあと、2~3言愛実と言葉を交わした後お母さんは、階下におりてまたパソコンで仕事を始めた。パソコンの前であのバカ笑いの写真を鏡にかざされた途端、あたしはお母さんの前にまたヒュンと戻る。自分の意思じゃない所で移動させられるのも便利っちゃ便利なんだろうけど、結構辛いな。ホントはあたし、もうちょっと愛実と話したかった。

 しばらくまたお母さんの仕事につきあって、次に気がつくとあたしは自分の部屋にいた。あたしは鏡に映されていない時には強制的に眠らされているようだ。普段の寝不足が……これで解消できる訳でもないだろうし、何よりこんな生活を強いられている愛実がちょっとかわいそうに思った。

Love Grace11

 あたしのいる鏡のすぐ横には小さなキティちゃんの丼が置いてあった。頂き物で、別にあたしの趣味じゃないんだけど、我が家の他の丼は大き過ぎるので重宝している。ま、大きくてもちょっとだけ入れれば良い話なんだけど、なんかついつい入れ過ぎちゃう気がするんだよね。
 その丼の中にはお粥が少しだけ残っていた。そのすぐ横にはシャケのふりかけの袋もおいてあったから、おそらくそれが愛実の夕食だったんだろう。
 鏡の中から覗き込むような姿勢だった私に気付いて鏡を覗き込んだ愛実にあたしは、
『愛実、辛い?』
と聞いた。愛実は、
「ううん、全然」
と答えた。痩せ我慢なんかしなくていいのに、どう見たってあんた、相当調子悪そうだよ。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。隆一が来たのだ。隆一はしばらくお母さんと会話した後、階段を昇ってあたしの部屋のドアをノックして入ってきた。
「メグミ、ちっとは元気になったか」
隆一はそう言って頷いている愛実の頭を撫でた。そして、おでこを軽くぺちっと叩くと、
「ウソつけ、まだ熱下がってないじゃん」
と言って笑った。
「でも、今朝よりは気分良いよ」
それに対して愛実は、ガチガチに緊張しながらそう返した。ちょっと、そんなんじゃばれちゃうって! あたしはハラハラしたけど、それを今のあたしは注意することができない。うー、ストレス溜まるったら!
「お前やっぱし、かなりきついんだろ。じゃなきゃ、こんなにおとなしい訳ないもんな」
案の定、隆一にそう言われた。ま、入れ替わってるなんて想像もできないだろうから、隆一は風邪のせいだと思ってるみたいだ。
「そんなことないよ」
「夏風邪なんだろ?」
「たぶんね」
愛実はそう言うと隆一から顔を逸らせた。
「じゃぁ、こうすりゃ治るな」
でも、隆一はそう言って顔を背けた愛実のそれをまた自分の方に向けさせて、立て膝でベッドにいる愛実の肩を抱くとキスをした。しかも軽くじゃなく……愛実の眼は完全に見開いて、宙を泳いでいる。あたしたち鏡の前でキスなんてしたことないし、当然コレ、愛実にはファーストキスなんだろうな。あたしはそんなパニクってる愛実が面白くて、ヤキモチを焼く気にはならなかった。
「何すんのよ、隆一!!」
「何って、キス」
唇が離れた後、そう言って隆一をぶっ叩こうとしてくにくに暴れていた愛実に隆一はニッと笑ってそう答えた。普段からあの重たいあんこを練って鍛えてる? んだもん。そうそう抜け出せる訳ないじゃん。
「移るよ、風邪」
「昔から言うじゃん、風邪は移せば治るって」
「ダメだよ、お店休めないし……風邪はもらった人の方が酷くなるんでしょ。これ以上酷くなったら……」
「俺の事心配してくれてんの? 大丈夫だよ、普段から親父たちにこき使われてるから、体力だけには自信あるし、移ったとこで毎日思いっきり修行させられてっから、たまには休息もらってもいいんじゃね?」
「隆一……」
「でもやっぱお前相当辛いんじゃん。辛くなきゃ、あんな言い方しないだろ」
「あ……」
辛さを言い当てられて愛実は、熱で赤い顔をさらに赤くして俯いた。
「だから、そんなしおらしいの変だってば。早く元気になって噛みついてくれないと調子狂うぞ」
隆一はそう言ってそんな愛実の頭をまた優しく撫でて、
「じゃぁ、俺帰るわ。ぐっすり寝て早く元気になれよ」
と言うと手を振ってあたしの部屋を出て行った。

 隆一が階段を降りて玄関先でお母さんに挨拶をしているのを聞きながら愛実はポツンと独り言のように、
「恵実、ゴメンね」
と言った。
『何? キスの事? あたしヤキモチなんか焼いてないよ。一応隆一はあたしにしてくれてるわけだし』
だからあたしは、愛実にそう返した。
「隆一さんに風邪移っちゃったらどうしよう」
心配してたのそこかよっ!
 『心配ないって』
「移したらゴメンね」
「いいよいいよ。これから結婚したらずっと一緒なんだから。何度だって移し合いするだろうしさ。それより愛実」
「何?」
『もしかして、隆一に惚れた?』
ニヤニヤ笑いながら言う私の言葉に、愛実はふくれっ面で睨んだ。

タイムリミット-Love Grace12

タイムリミット

「ねぇ、愛実、いつお母さんに言ってくれんのよ。それとも鏡のないとこで、もう言ってくれた?」
あたしと愛実が入れ替わって3日目、だんだんあたしはこのまま愛実と入れ替わられてしまうのか不安になってきていた。
「ごめん……いざとなると言いだせなくって。ちゃんと今日中に言うからね。でないと……」
でないと何なんだろう。私にはその意味は解からなかったけど、愛実はすごく申し訳なさそうにあたしを見た。

「あら、37度1分、もう少しね。じゃぁ、お母さん仕事してくるわ」
夕方、愛実の様子を見に来たお母さんがホッとした様子でそう言った。
「メグちゃんが熱を出したの久しぶりだから、辛かったでしょ」
そしてお母さんが続けてそう言うと、愛実は頭を振った。
「ううん、全然。寝てるだけで良いからそんなことないよ」
「そう? いつもならこの世の終わりみたいに唸ってるクセに」
確かに、あたしぶーたれてたけど、そこまでじゃないわよ。そう思って愛実を見ると、いつもと様子が違っていることに気づかれて顔をプルプルさせて引きつっている。ダメだよ、そんな顔したらばれちゃうから。

 それから、仕事をするために階下に降りようとあたしの部屋のドアを開けたお母さんに、愛実はいきなり、
「お母さん、もう書くのは止めて」
と言った。
「どうして?」
「お母さん書き過ぎだよ。このままじゃお母さんの方が病気になっちゃうよ」
「ならないわよ」
お母さんは涙目で必死に言う愛実に笑ってそう答えた。そしてため息を一つ落とすと、
「それでわざわざ入れ替わってくれたんだ、マナちゃん」
と言ったのだ。えっ、えええーっつ!!
「……いつから気付いてたのおかあ……ママ」
愛実は観念したように、お母さんをママと呼んだ。
「あんたが間違ってママと呼んだ時からかな」
そうなんだ。やっぱ、あれでばれてたのか。お母さん全然気付いた風じゃなかったのにな。
「それでお母さん、試しに夕ご飯をお粥にしたのよ。実はね、メグちゃんは子供のころから、どんなに熱があってもご飯しか食べないのよ」
「知らなかった」
愛実は俯いてぼそっとそう言った。ま、あたしが小さい頃、 『お粥なんて食べない!』
って頑張ってた所に鏡なんてなかったもんね。あたしも、それでお母さんがあたしかどうかを試してるなんて思ってもいなかったしな。第一、入れ替われるって思う所がお母さん、やっぱ普通じゃない。お母さんはベッド際に戻って来て、愛実の頭に手を置きながら、こう言った。
「でも、確信したのは今さっきよ。マナちゃんが『書くのを止めろ』って言ったからよ。間違ってもメグちゃんにはその一言は言えないわ」
「どうして……」
「あの子には、お母さんにあんたを消せなんて言えない、そういう事よ」
お母さんのその言葉に愛実は鏡の中のあたしを見たから、あたしは咄嗟に目線を逸らせた。

Love Grace 13

「そんなんであたしは消えないよ。」
明らかにあたしに向かって言ったであろう言葉は、涙声だった。
「だって、あたしは恵実と“一つ”だから……」
「そう、でも折角“お外”に出てきても、ずっと熱出して寝込んでたのは辛かったね」
「ううん、嬉しかったよ、それも」
続いて言ったお母さんに、愛実はそう返した。
熱を出して寝込んだのがなんで嬉しいの? あ、お母さんに優しくしてもらえるか……そう思ったあたしは、愛実の次の言葉に思わず息を呑んだ。
「だって、痛いのや辛いのは生きてる証拠でしょ? だから、この三日間、あたし嬉しくてしょうがなかった」
愛実は真顔でそう返したのだ。そんな愛実をお母さんは次の瞬間、ギュッと抱き締めてていた。
「マナちゃん、じゃぁ、この感触も忘れないでいて……」
「ママ、ありがと……忘れないよ。でも、あたし、いくね……もうそろそろタイムリミットだから……ホントにありがと……」
お母さんの胸に抱かれている愛実の声はだんだんと細くなっていく。
「マナちゃん? マナちゃん! 愛実!!」
何度かお母さんが愛実を揺すって呼びかけたのは聞こえたけど、愛実は意識を手離したのだろう。あたしの眼の前も真っ白になった。

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genre : 小説・文学

Love Grace-Love Grace14

Love Grace

 次に目覚めたとき、あたしのベッドの脇には隆一がいて、あたしの手をしっかり握ったまま眠っていた。体中がギシギシと痛い。
 それにしても寒い。あまりの寒さに身体が小刻みに震えて、歯が鳴ってしまう。冷やし過ぎて風邪がひどくなっちゃったんだ。早くクーラー止めなきゃ。隆一までホントに移しちゃう。

「あれ」
クーラーを止めるために起き上がろうとしたあたしは、自分の腕からチューブが伸びているのに気づいた。点滴されてるのか……そう思って見ると、そこはあたしの部屋じゃなくって、四方を全部カーテンに仕切られていた。病院にいるんだ、あたし。

「あ、メグミ。俺、いつの間にか寝てたのか」
その時、起き上がろうとしたあたしに気付いて隆一も目を覚ました。
「寒いか? まだ熱いな、お前の身体。そういや薬が本格的に効いてくるまで後2〜3日は熱が出るかもって医者に言われたか」
隆一はそう言って震えてるあたしの首筋を心配そうに撫でた。
「ゴメン、心配かけたね」
「そうだよ、こんなのもうホントに御免だぞ。昨日から生きた心地がしなかった。元気がなさすぎるところで、ただの風邪じゃないって気付くべきだった」
謝ったあたしに、いつものデコピンではなく、そっと人差し指をおでこに当ててそう言った隆一は涙目だった。

 その時、お母さんが病室に入ってきた。
「お母さん、あたし戻ってきたよ」
あたしがそう言うと、お母さんは唇を噛みしめながら何度も頷いた。そして、あの時の事を話し始めた。

 あの時、お母さんの腕の中で意識を飛ばした愛実(つまりあたし)の身体が、一気に熱を帯びたのだという。測ると、体温計が示した数字はなんと40度8分! しばらくするとあたしはガタガタと震えだし、うわ言で「寒い……痛い……」と意識のないまま繰り返し始めたので、お母さんは慌ててあたしを救急車で病院に運んだ。

 風邪だと思っていたあたしの病名は急性腎盂腎炎だった。しかも、かなり症状は酷くなっていたらしく、
「なんでこんなになるまで我慢してるんですか。命にかかわりますよ」
と、翌日回診に来た先生に叱られたほどだ。

 あの時、愛実が口ごもった『でないと……』の続きは、でないとあたし自身の身体が持たないだったのだろう。
 なら、どうしてそんな病気の時に入れ替わったりしたのだろう。もっと元気な時ならいろんな経験もできただろうに。鏡を持ってあたしにナビゲートさせれば、たぶんどこにだって行けただろう。
 もしかしたら……こういう弱ったときにしか替われないのかもしれないし、人一倍痛みに弱いあたしの痛みを替わって受けてくれたのかも知れないと思ったら、なんか切なかった。
『痛いのも嬉しかったよ。だってそれって生きてる証拠じゃん』
そう言った愛実。痛みが生きてる実感だなんて、それ悲し過ぎるよ、あんた……
「メグミ! どうした? また苦しいのか?!」
「ううん、違うよ……心配しなくていいから……」
あたしは、隆一が心配するからと思いながらも、涙を止めることができなかった。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

Love Grace15

 それから3日間、夜になると39度を超える熱が続き、4日目にやっと熱が37度台にさがったので、点滴から解放された。
「明日熱が出なければ、退院してもいいよ」
と言われたけど、大量の抗生物質を投与してるから抵抗力がないので、2週間は他の感染症をもらわないように外出しないようにとも言われた。
 それで結婚退職のための引き継ぎもあらかた終わっていた事もあって、あたしはそのまま仕事を辞めることになった。
 それで二週間後、私物をもらって挨拶をするだけ……お母さんのほうも夏休みということでコメンテーターの仕事も、連載も休んで、まるで降って湧いたようにお母さんとの水入らずの時間ができたのだった。

 久しぶりに見た書いてないお母さん。でもそれは何だかおかあさんじゃないみたいで、あたたしはつい、
「お母さん、あたしに気にしないでどんどん書いていいからね」
って言っていた。そしたら、お母さん、
「メグちゃん、ゴメンネ」
ってあたしに謝った。
「ゴメンって何がさ」
「マナちゃんのこと。お母さんね、メグちゃんが大きくなってお母さんの手を離れていくのがさびしかったの。それでね、マナちゃんならずっと小さなままでいてくれると思ったから、メグちゃんの写真を鏡に映して話しかけてた……それがメグちゃんの気持ちの負担になって、本当にマナちゃんを作り出すだなんて思わなかったし」
愛実を作り出す? お母さんは自分がしたことで、私が愛実という別の人格を作り出したと思ったらしい。ま、心理学的にはむしろその方があり得る話で、お母さんが、あの時
『それで出てきちゃった訳ね』
と言ったのも、それなら納得がいく。
「お母さん、愛実はホントにいるよ、ほら」
あたしは玄関の下駄箱についている全身を映せる鏡に自分の姿を映した。でも、その姿は愛実ではなくただの鏡に映ったあたしだった。
愛実はもう消えてしまったんだろうか。最後にお母さんに抱かれてしあわせなまま……

鏡の中でくしゃっと涙でゆがんだあたしの顔は、ゆがんだままで、笑ってはくれなかった。


theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

そして……-Love Grace16

そして……

 あたしと隆一は結婚し、1年半後息子隆誠(りゅうせい)を産んだ。
『恵実ってさぁ、ホント痛みに弱いよね。一晩中騒ぎ続けるんだもん。何なら歌でも歌えばよかったのに。恵実合唱部だったでしょ』
初めての育児に疲れきったあたしにそう言ったのは、鏡の中の“あの子”……
 結婚してしばらくすると、愛実は何食わぬ顔をしてまた私の前に現れるようになった。
しばらくぶりに現れた時、腰を抜かすほど驚いたあたしに、
『あたしと恵実は元々一つだって言ったでしょ? そんなに驚くことないじゃない。それに、座敷童が家に憑くと家は栄えんのよ。竹林堂はこれで安泰っと。手始めは跡取りね。あと8ヶ月たったら、男の子生まれっから』
と、まだ妊娠の兆候も感じてなかったあたしに隆誠の妊娠を知らせた。確かに、愛実が戻ってきてくれたことは嬉しくなかった訳じゃないけど、どっちが生まれるのか最初から言わないでほしかったと思う。おかげで、お腹を眺めてどっちかなっていう楽しみ、なかったじゃん。

 そして、鏡に話しかける嫁なんてばれたら即刻離婚ものだと思いつつも、愛実との会話はあたしの日常になってしまっている。
「バカ言わないでよ。そんな余裕があるわけないでしょ!? そんなこと言うんだったら、愛実が代わってくれれば良かったじゃん。痛みが生きてる証拠だって言ったくせに」
『ヤダヨ、痛いもんは痛いもん。それより恵実こそ、そのオイシイとこ採りの性格を何とかしたらどうなのよ』

 ただ、愛実の性格がどんどんと悪くなっていってると思うのは……気のせいなんだろうか。
「ああ、入れ替わって今度はホントに乗っ取られても困るしね」
あたしがそう言うと、
『解ればよろしい』
と返ってきた。お前、ホントにその気かいっ!!

 その時、眠っていた隆誠が起きてぐずった。
『恵実リューちゃん泣いてるよ』
「分ってるって」
『ねぇ、抱かせて抱かせて!』
あたしは隆誠を抱いたまま、その部屋にある大きな姿見の前に立った。それは愛実との入れ替わりの後、急遽買って嫁入り道具の中に入れてもらったもの。”鏡の中のあたし”は、溶けそうな笑顔で息子を抱きしめている。

「愛実もさぁ、どっかに生まれ変わるとかそういうのないの?」
そういったあたしに、
『恵実、あたしを追い出したいの?』
と問い返す愛実。
「別にそういうわけじゃないけど……」
『じゃぁ、恵実が幸せでいて。そしたら、同じように鏡の中にあたしの幸せがあるから』
「愛実……」
『バカ、泣くんじゃないわよ。同情なんかしないでね。あたしにはあたしの、あんたにはあんたの幸せがあっていいはずよ』
「あんたの幸せ?」
『そう、あたしがずっと笑ってられるように、ずっと幸せでいて』
「うん……ずっと幸せでいるね」
『だから、泣くなって!』
鏡の中に照れながら泣き笑いしている「愛実」がいた。

あたし、うんと幸せになるから。あんたがずっとずっと幸せでいられるように……

                                  -The End-

祈り……送る季節に

一卵性双生児-元々一つだった命が二つに分かれるというのはどんな感覚なのだろうか。相手の危機がわかったり、同時に熱を出したりと、一卵性双生児ならではのエピソードもよく聞かれます。

そんな一卵性双生児の話が書きたかったんです。なのに……どこで間違ったんでしょうか。
ま、恵実と愛実も一卵性双生児ですけどね。

もうすぐ、盂蘭盆会です。夏はホラーの季節でもあります。特番で先祖のたたりとかやったりしてますけど、私あれには常々疑問を感じているのです。

そりゃ、現世に恨みを感じたままで亡くなった方もおられるでしょうけど、それまで家族の盾となって働き生きてきた方々が、祀り方が悪いからって文句つけたり、恨んだりするでしょうか。生きてる方をやっかむのでしょうか。

切ないほどに、遺してきた家族の幸せを祈っている……私はそう考えるのです。

だからと言って、「こんなことにあの子はいないわ!」と1歳1ヶ月で亡くなった息子さんの仏壇を鉈でたたき割ったKさんは行き過ぎだと思いますが、Kさんは現在87歳。その後二人の息子さんに恵まれて、多くの孫に囲まれて幸せです。

だから、あの愛実の最後の一言になりました。





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genre : 小説・文学

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